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民法(債権関係)の改正に関し,法制審議会民法(債権関係)部会がとりまとめた「中間的な論点整理」についてパブリックコメントの募集実施の延期を求める会長声明

カテゴリー:声明

 平成21年10月の法務大臣の諮問を受けて,法制審議会民法(債権関係)部会では,同年11月から平成23年4月12日まで26回にわたる審議を続け,部会第26回会議で,「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理案」(以下,「論点整理案」という。)を取りまとめている。
 この論点整理案は,債権の本質にかかわる履行請求権から,債権の効力に関する債務不履行,詐害行為取消権,弁済消滅,多数債権関係,契約の解除,契約と約款や不当条項規制,売買も含む瑕疵担保,賃貸借,請負,雇用,事情変更の原則,不安の抗弁,継続的契約,消費者概念と民法典との問題等を網羅するものである。そして,この民法が,国民生活や企業の経済活動に直結する極めて重要な基本法である以上,論点整理案に対しては,広く国民各層の意見を求め慎重に検討されるべきものであることは明らかである。
 平成23年3月11日に東北及び関東地方に大地震及び津波が襲い,更に深刻な原子力発電所の事故が起きた。既に1ヶ月以上経過しているが,死者は1万4000人を超え,行方不明者は1万3000人以上,避難中とされる人は13万人以上という甚大な被害が生じている。また原子力発電所の事故は,危機的状況が現在も続いている。このように東日本大震災の社会に与える影響は深刻であって,事態の終息は全く目途が立たない状態にある。
 このため,既に仙台弁護士会からパブリックコメントの延期等を求める会長声明が出され,その後も大阪弁護士会や兵庫県弁護士会から同様の会長声明が出されている。
 まず,広く国民各層の意見を求めるというパブリックコメントの趣旨からして,被災地が,論点整理案に十分な検討が出来ない時期にパブリックコメント手続をとることが不適切であることは当然である。しかも,当然ながら,この論点整理案作成までの審議期間中,今回の東日本大震災により惹起される多様な法律問題は全く想定されていなかった。
特に,今回の論点整理案で検討を求められている論点との関係では,例えば計画停電との関係では約款の効力が問題になり,取引関係については,震災により履行できない場合に契約の効力と危険負担,事情変更の原則の適用や契約の解除が問題となっている。また,住居を巡る賃貸借契約や請負契約の瑕疵担保責任,使用者の震災に伴う雇用契約の効力といった多数の法律上の論点が,東日本大震災を契機としてまさに現在進行中で議論されている。これらの論点を含む論点整理案に対するパブリックコメントは,これら現在進行形の危機的状況を正確に把握してからなされることが,社会の基盤をなす民法をより実効的に改正するために不可欠である。
よって,当会は,国に対し,論点整理案に対するパブリックコメントの募集実施期間を,今回の震災に伴う社会的混乱がある程度終息し,かつ,事態を冷静に把握できる時期まで相当程度延期することを求めるとともに,今後の民法(債権関係)部会の審議も震災の影響を十分に配慮して進行されることを求める。
  
                     平成23年4月26日
                      福岡県弁護士会
                        会長 吉村敏幸
 

会長日記

カテゴリー:会長日記

平成22年度福岡県弁護士会会長日記会長 市丸信敏(35期)
◆人権白書「人権擁護活動2010」今年度の執行部は何をしたの、と問われると、「給費制で明け暮れました」と、つい口をついてしまいそうです。ですが、給費制の運動のおかげで多くの人の暖かいご支援に接することができて、これまで経験したことがないほどに大きな、そして多くの感激・感動を頂戴しました。本当にありがたく思っています。ただ一方で、街頭行動や各方面への要請活動等を通じて、弁護士そして弁護士会・日弁連の人権活動や公益活動が世間の人にこんなにも知られていないのかと呆然とし、日ごろ会員の皆さんがどれほどの自己犠牲の上にこれら活動に地道に奮励して頂いているかをよく知る一人として、誠に悔しい思いをしたことも少なくありませんでした(このことは、昨年10月号の会長日記に詳しく記させて頂きました)。しかし、これは考えてみれば、端から見ると、単にわれわれの的確な広報の努力がまだまだ足りていなかったというだけのことなのかも知れません。大事なことは何度でも繰り返し伝える努力をしなければダメだ、分かってくれているはずとの思いこみではダメだ、ということも、給費制運動で学んだことの一つです。そこで、今回、ひとつの試みとして、当会の昨年1年間(1~12月)の人権活動の白書を作って、県内の自治体や関係諸団体、マスコミ関係者や議員さんら等々に広く報告(広報)してみてはどうかと企画しました。もしこれを毎年続けて、この冊子を手にしてパラパラ(あるいはチラッ)とでも見てくれる人が少しずつでも増えてくれれば、当会のサポーターがさらにじわりじわりと増えてくれるのではないかとの構想です。常議員会の賛同を得て実行に移し、早速、多くの委員会から快く原稿を寄せて頂き、この度、「福岡県弁護士会の人権擁護活動2010」として刊行できる運びとなりました。本文40ページ程度の簡素な小冊子です。会員の皆さまにも1冊お届けさせて頂きます。ご自分が関係する委員会以外の活動を広くご存じ頂く機会も普段はなかなかないかとも思われますので、是非ご高覧を頂ければ幸いです。趣旨を踏まえて短期間で原稿を寄せて頂いた各委員会や、一手に編集作業を引き受けて頂いた小林副会長に、この場を借りて厚く感謝を申し上げます。◆法教育センター本年4月から、「法教育センター」を当会で発足させることになりました。子ども達などに正義、公平などの法の基本的な価値観に基づき問題の解決を考えてもらう授業などに取り組んで貰うことを推し進めるのが、弁護士会の法教育活動です。子ども達に生きる力を備えて貰うための新しい教育、そして、司法改革が実現を目指す法化社会の担い手としての主権者を育てる教育をサポートするものとして、近年にわかに重要性を帯びてきています。当会では、法教育センターを立ち上げることによって、会員の皆さまにひろく協力を募って、学校への出前講師(ゲストティーチャー=教員とのコラボレーションで授業に参加する)などを少しずつでも担って頂ければと願っております。生き生きと向きあってくれる子ども達と触れ合えて、楽しく、やり甲斐のある活動です。負担が重くならないように、テキスト類の作成作業も進んでおり、研修(オリエンテーション)などと合わせて、どなたにも参画して頂けるようになります。ご案内の節は、是非ともエントリーして下さるよう、よろしくお願い致します。◆ひまわりほっとダイヤル(中小企業支援コールセンター)中小企業にも法の光を!法の支配が中小企業を含めて社会の隅々まで行き届くことは、司法改革が目指す法化社会の実現のために重要なことです。その理念に基づいて、当会では昨年5月の定期総会で「中小企業への積極的な法的支援を行う宣言」をご採択頂いております。昨年4月から活動を開始した、当会の中小企業法律支援センターの取り組みの柱の一つとして、「日弁連ひまわりほっとダイヤル」というコールセンター業務(電話番号0570-001-240)があります。中小企業経営者がこのダイヤルに電話すると、最寄りの弁護士会(相談センター)に電話がつながり、会が相談担当弁護士を割り当て、その弁護士から折り返し連絡を入れて速やかに面談相談に応じる、という日弁連が構築した全国システムです。この事業開始に伴って、キャンペーンとして、全国で、当初は半年間、これを延長して更に半年間、コールセンター利用者に無料相談を実施してきました。当会は、委員会の努力の甲斐あって、全国でも常に上位の好成績を収めてきています。コールセンターの周知・定着のためには、なおしばらくの間のキャンペーン継続が相当であるとの日弁連の要請がなされました。当会では、商工会議所はじめ各種中小企業団体や行政(経産局や県など)・政府系金融機関などとの間の連携関係構築に委員会が地道に取り組んできており、このコールセンター無料キャンペーンはその有力なツールであることも報告されました。それらの結果、無料キャンペーンを更に1年間(24年3月末まで)続けることが常議員会で承認されました。研修等の一定の要件はありますが、希望する会員はだれでもコールセンターの相談員に登録できます。どうか、ご理解・ご協力をお願いします。◆共済制度の廃止について3月9日の臨時総会では、共済制度(共済規程)の廃止・残余財産の一般会計組み入れという重要議題がかかります。保険業法の改正によって、会員数1000名を越えた弁護士会では、保険業法の適用を受けることとなって共済制度の継続が困難となります。そこで、会員1000名を目前にする当会での対応が必要となり、他会での先例を調査し、機構・財務改革委員会からの答申を受ける等して、やむなく、共済制度は廃止をさせて頂くことに致した次第です。なお、この廃止後は、一般会計から社会的儀礼の範囲内での慶弔見舞金をお支払いさせて頂く新たな制度を設ける予定です。◆バトンゾーンをめがけてこの時期、次期執行部メンバーも各種会議に努めて出席を始められる等の光景を目にして、いよいよわが執行部のゴールも間近に迫ってきたなあという実感が湧いてきます。他団体の会長さんなどからは、1年で任期終了という話しをすると羨ましがられたりしますが、全国を見回しても、弁護士会の役員はほぼ例外なく1年任期です。但し、日弁連の会長と事務総長は2年任期であり、また当会でも、昭和60・61年度に田邉俊明会員が最後の2年間の会長をお務めになられましたが、それまではずっと2年任期(事実上の)でした。ところが、世間的には団体役員の1年任期はかなり異例と映るようです。実際に1年近く経ってみてようやく分かってきた事柄も少なくなく、対外的にも、やっと諸関
係者との顔つなぎやパイプができかけたかなという感触があることも否定できません。正直、弁護士会としての執行力の強化という点からは、複数年任期制がベターなのではないかとの感想も覚えます。ただ、現実問題として、本業の傍ら会務に打ち込むには、1年間でも、気力・体力・財力の限界を痛感するに十分な期間と言え、やはり1年交代制が穏当なところなんだろうと感じる次第です(もっとも、今後、上記の3つの力を満たす方にご出馬頂ければ、話しは別でもよいのではないかと思います。)。当会では、従前から新旧執行部の引継ぎが重視され、重点課題を含めしっかりと受け継がれていきます。1年交代で会長が替わるからといって、急に路線が変わる、ということはまずありません。そんなこんなを感じつつ、2月20日に予定されている現次期執行部の引継ぎ会(第1回)に間に合わせるべく、会務引継書の作成作業が急ピッチで進められました。1年前に前年度の池永執行部から引き渡された引継書をベースに、執行部各員が手分けして、1年を振り返りながら作成し、日曜返上の打ち合わせ会などを経て校正を重ねました。最後に井上総務事務局長がつなぎ合わせて完成させてみますと、前年度の引継書から更に100ページほども増えて、総ページ数はついに300ページにも達してしまいました。任期末を間近に、たまっていた諸課題が目白押しに寄せてきて、定例(2週に3回)の執行部会議はついつい長引き、毎月2回の常議員会も議題山積となり、ついに前回(2/7)の常議員会は4時間半(終了は午後7時半近く)ものロングランでした。ダッシュで駆け出す構えの次期執行部が待つバトンゾーンまで何とか無事にたどり着き、しっかりとバトンを手渡すべく、息切れ気味の全身をムチ打ちながら、全員でラストスパートです。

検察の在り方検討会議の提言に対する会長声明

カテゴリー:声明

 昨日、検察の在り方検討会議の提言が発表された。
 当会が必要性を強く訴えてきた取調べの全過程の録音・録画についてどのような提言がなされるか注目していたが、その内容については、深く失望せざるを得ない。
 
 検察の在り方検討会議については、平成22年11月に始まった当初は、検察の問題について深く鋭い見識をもった委員も多く選任されたことなどから、同会議による議論が、厚労省元局長無罪事件によって露呈した現在の検察が抱える問題点を正面から受け止め、取調べの全過程の録音・録画を含む抜本的な解決策を提示することに繋がることが期待されていた。
 実際、公開された議事録を見る限り、多くの委員が現在の検察が抱える問題点について厳しく指摘するとともに、取調べの全過程の録音・録画の必要性を指摘している。 中には取調べの全過程の録音・録画に否定的な意見を述べた委員もいたが、その多くは検察や警察出身者、あるいは一部研究者であり、「国民の声」と評価するのに疑問を持たざるを得ない意見であった。
 さらに、同会議のために行われた現職検事に対する意識調査では、「取調べについて、供述人の実際の供述とは異なる特定の方向での供述調書の作成を指示されたことがある」という質問に対して、「大変良くあてはまる」という回答が6.5%、「まあまあ当てはまる」という回答が19.6%、「どちらともいえない」という回答が16.1%も存在したという結果が明らかとなった。
 そもそも、これは最高検が実施した意識調査であり、そのような身内の意識調査においてさえ上述したような数値が出ているということは、驚愕に値することである。
 このように実際の供述と異なる供述調書の作成を部下に指示する上司は、これまでに自らが取調べをする際にも、実際の供述と異なる供述調書を何通も作成し続けてきた可能性が高い。また、部下の検事に指示することまではせずとも、自分が取調べをする際には、実際の供述と異なる供述調書を作成したことがあったという検事は、上記回答よりもさらに多く存在するのではないかと疑われる。
さらにいえば、検察庁の中で少なくない上司が部下に対して指示しているということは、実際の供述と異なる供述調書を作成するということについて、これを容認する空気が存在していることを示している。
以上のように、この意識調査は、厚労省元局長無罪事件が、単なる個別の検事の問題、あるいは大阪地検特捜部の問題なのではなく、検察全体に存在する病理的な問題であることを明らかにしたものであった。
 
 ところが、上述したような同会議内での意見や、意識調査の結果であったにも関わらず、昨日発表された提言では、取調べの可視化の基本的考え方について「被疑者の取調べの録音・録画は、検察の運用及び法制度の整備を通じて、今後、より一層、その範囲を拡大するべきである」とするだけで、取調べの全過程の録音・録画に踏み込まない内容となっている(知的障害のある被疑者に限って例示として触れられているにとどまる)。
 議事録で見る限りは、捜査機関出身者や一部研究者を除けば、取調べの全過程の録音・録画に踏み切るべきだとする意見が大勢を占めていたにも関わらず、提言においては、あたかも「国民の声」が賛成と反対に二分したかのような記載がされている。
 また、上述した意識調査において明らかとなった重要な問題については、提言の中では一切触れられていない。
さらに、提言は、特捜部における取調べの録音・録画について「1年後を目途として検証を実施」するとか、「制度として取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するため、…十分な検討の場を設け」るなど、結論を先送りして時間稼ぎをしていると言わざるを得ない。
 当会は、平成23年3月10日に、「今、改めて取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を求める決議」をし、国に対して、すみやかに取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備するよう求めた。
 すでに検証や議論の時期は過ぎており、すぐに立法に向けた具体的な作業に移る段階にある。
 法務大臣にあっては、本件提言の内容をそのまま受け容れるのではなく、同会議において捜査機関出身者や一部研究者以外の委員らが述べた意見にこそ耳を傾け、同会議での意識調査の結果から明らかとなった検察の病理的問題を真摯に受け止め、すみやかに取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備するよう努力されたい。
 また、現場の捜査機関は、現在試行している取調べの一部のみの録音・録画を改め、対象とする事件においては取調べの全過程を録音・録画する運用を直ちに開始するよう求める。
                     2011年(平成23年)4月1日
                    福岡県弁護士会 会長 吉村敏幸

投票価値の格差是正を求める会長声明

カテゴリー:声明

 本日、最高裁判所大法廷は、2009年8月30日に施行された衆議院議員総選挙につき、「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた」とする判決を言い渡した。これは、2009年衆議院総選挙において、小選挙区選出議員1人あたりの選挙人の人数較差が、最大2.30倍に達していたため、選挙権の平等を侵害し違憲であるとして、選挙の無効を求めて、福岡県を含め全国で提起された訴訟9件について、最高裁が判断を示したものである。
 そもそも、議員1人あたりの選挙人の人数が均等であるべきという投票価値の平等は、法の下の平等(憲法14条1項)、選挙人資格の平等(憲法44条)を定める憲法の要請である。また、投票価値の平等を確保することは、「国権の最高機関」(憲法41条)である国会に国民の意思を的確に反映するための重要な条件であって、議会制民主主義、ひいては国民主権を支える要の一つである。
 本日の大法廷判決は、投票価値の平等について、「定数配分及び選挙区割りを決定するについて、議員1人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすること」を憲法が求めているとした上で、衆議院小選挙区の区割りにあたり、人口比例部分とは別に各都道府県に議員定数1を配当する1人別枠方式について、「遅くとも本件選挙時においては、」「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた」と述べている。
 大法廷判決の結論にも示されたとおり、投票価値の平等の重要性にかんがみれば、投票価値の格差が2倍を超えることは憲法の要請に反するというべきである。
 当会は、国会に対し、速やかに、衆議院議員総選挙における投票価値の格差を是正するための措置をとることを求める。
                     2011年(平成23年)3月23日
                       福岡県弁護士会
                         会長  市 丸 信 敏

今、改めて取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を求める決議

カテゴリー:決議

当会は、平成15年5月27日に取調べの全過程の録画・録音による取調べの可視化を求める決議をし、その後も取調べの可視化に関しては会長声明や宣言を繰り返すとともに、取調べの録画制度に関する海外視察やシンポジウムの開催、署名活動など可視化実現に向けた取り組みを続けてきた。
そして、平成21年に取調べの可視化をマニフェストに掲げた民主党が与党となり、さらには平成22年には足利事件と元厚労省雇用均等・児童家庭局長事件という2つの大きなえん罪事件の判決によって取調べの可視化が不可欠であることが明白となった。
しかし、現在に至るも、取調べの全過程の録画制度は実現せず、検察や警察も取調べの一部を録画するに留まっている。しかも、現在行われている取調べの一部録画のほとんどは、実質的な取調べが終わった後に、取調べに問題がなかったかどうかや供述内容の確認などをする「レビュー方式」や、それに供述調書の読み聞かせや署名押印部分を加えたものに過ぎない。
これでは、読み聞かせや署名押印部分の状況が客観的に分かるだけであり、実質的な取調べの際の状況そのものの客観的な証拠にはならない。いわゆる「レビュー」は、取調べに問題がなかったかどうかを確認する被告人質問を前倒しして実施し、それを録画しているというだけで、そもそも取調べそのもの一部録画ですらないのである。
今般、最高検は特捜部が被疑者を逮捕した事件においても取調べの可視化を試行すると発表したが、これも検察官の裁量で取調べの一部を録画するに留まるものであり、問題は全く解決していない。
あくまで、取調べの全過程が録画されなければ、違法な取調べを防止することも、取調べの状況を客観的に証拠化することもできないのであり、取調べの一部だけが録画されることは、かえって裁判官や裁判員の判断を誤せる結果となりかねない。
そこで、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を具体的に実現していくために、当会は
1 国に対し、すみやかに全ての被疑者の取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備すること、仮に段階的実施をとらざるを得ない場合には、対象事件を絞ることはあっても、対象事件については全ての取調べの全過程を録画するようにし、取調べの一部だけを録画することを許容するような制度には絶対にしないこと
2 検事総長及び警察庁長官に対し、上記1の法制化がなされるまでの間、裁判員裁判対象事件及び特捜部が被疑者を逮捕する事件に関しては、取調べの一部録画・録音にとどまることなく、即時に取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を実施するとともに、取調べの可視化の対象事件を被疑者・弁護人が取調べの可視化を求めた事件にも拡大すること
3 各裁判官に対し、供述調書の任意性に争いがある場合は、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)によって取調べの状況が客観的に立証されない限り、供述調書に任意性がないという判断をすること
を求めるとともに、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の1日も早い実現のため、当会として全力を挙げて取り組んでいくことを決議する。
2011(平成23)年3月9日
福岡県弁護士会
決議理由
1 日本の刑事裁判は「自白調書」に過度に偏重し、取調べを行う警察官や検察官は自白獲得に躍起となって、取調室という「密室」の中で強引な取調べが行われてきた。そして、捜査官の考えるストーリーを押し付け、捜査官の作文した「自白調書」に署名押印を無理強いし、そのために暴行や脅迫などを用いるなどの違法な取調べによる人権侵害が起こり、さらに虚偽の自白調書が作成され、えん罪という最大の人権侵害が生じてきた。これらは昔の話ではなく、足利事件や氷見事件などの再審無罪判決に見られるように、現在も生じている問題である。
これらの再審無罪事件では、検察官に押し付けられた虚偽の「自白調書」について、裁判官がその任意性や信用性の判断を誤ったことが、無実の人々に多大なる人権侵害をもたらした原因の1つである。そして、その背景には、密室の取調べの状況を後から客観的に検証することが不可能な一方、「無実の人が虚偽の自白をするはずがない」「虚偽の自白調書に署名したりするはずがない」という安易な考えから、多くの裁判官が、公判での被告人の訴えよりも、警察や検察が作成した調書を重視するという傾向を持っているという問題があると考えられる。
2 我々弁護士も、密室の取調室で真実何が起こっているのかを知る立場にはない。
しかし、当会が全国に先駆けて始めた当番弁護士制度により、被疑者段階に多くの弁護士が関わっていく中で、供述調書の作成と同じ時期に被疑者と接見を繰り返していく中で、上述したような問題のある取調べが頻繁に行われ、虚偽の供述を強いられたり、あるいは被疑者が供述してもいない内容の供述調書が作成されたりしていることを、少なくない弁護士が実感を持って確信するに至っている。
そして、ここ数年大々的に取り組みを始めた被疑者ノートに被疑者が書き込む内容からも、その実感を強めてきている。
違法な取調べによる虚偽の自白調書の問題は、ごくわずかな例外的な問題ではなく、頻繁に生じている問題であり、現在の捜査機関の取調べや供述調書についての考え方そのものに根ざした問題なのである。
3 一方で、裁判官の中にも、これまでにも自白調書の任意性や信用性を慎重に判断する裁判官もおり、志布志事件では自白調書の信用性を否定して12名の被告人全員に無罪判決を出し、さらには厚労省局長事件では関係者の自白調書について証拠能力がないとして証拠から排除した上で、無罪判決を出し、いずれも検察は控訴を断念し、1審判決が確定した。
そして、そのような裁判官の供述調書に関する厳しい姿勢が、検察官による証拠隠滅という検察の信頼を揺るがす問題を炙り出す大きな要因となったといえる。
4 しかし、裁判官にとっても、現在のような密室での取調べが続く状態であれば、取調べの際に何があったのかを正確に把握・判断することは難しく、特に裁判員裁判において裁判員にその判断を強いるのは酷である。
かかる問題を解決する唯一の手段は、取調べの可視化であり、取調べの全過程を録画するか、あるいは取調べに弁護人の立会いを認めることで、違法な取調べを防ぐとともに、取調べで何があったのかを裁判官や裁判員が正確に把握・判断することができ、正しい結論を導くとともに、えん罪という最大の人権侵害を避けることができるのである。
そのため、当会では、平成15年5月27日に取調べの可視化を求める決議を行ったのを始め、会長声明や宣言を繰り返すとともに、取調べの録画制度に関する海外視察やシンポジウムの開催、署名活動など可視化実現に向けた取り組みを続けてきた。
5 これに対して警察や検察は、裁判員対象事件については取調べの一部を録画し、その録画物をもって取調べの任意性を立証しようとしている。
しかし、そもそも検察官が現在行っている一部録画は、そのほとんどが実質的な取調べが終わった後に、取調べに問題がなかったかどうかや供述内容の確認などをする「レビュー方式」や、それに供述調書の読み聞かせや署名押印部分を加えたものに過ぎない。これでは、読み聞かせや署名押印部分の状況が客観的に分かるだけであり、実質的な取調べの際の状況そのものの客観的な証拠にはならない。いわゆる「レビュー」は、取調べに問題がなかったかどうかを確認する被告人質問を前倒しして実施し、それを録画しているというだけで、そもそも取調べそのもの一部録画ですらないのである。
このような録画では、結局、取調べの状況についての客観的な証拠にすらならず、違法な取調べを防ぐこともできなければ、裁判官や裁判員が正しい結論を導くためには役に立たず、かえって取調べの実体を隠す結果となりかねず、判断を誤らせる結果になりかねない。
最も重要なのは、実質的な取調べそのものを録画することであり、当該事件についての全ての取調べについて、最初から最後まで全過程が録画されることである。これによって初めて、違法な取調べを防ぐことができるし、取調べの客観的な状況を正確に把握・判断することが可能になるのである。
6 このことは、取調べの一部が録音された事件でも、たびたびえん罪事件が起こってきたことや、足利事件においても検察官取調べの一部が録音されていたことからも明らかであり、昨年、足利事件と元厚労省雇用均等・児童家庭局長事件という大きな2つの判決により、取調べの可視化が不可欠であることは明白となったはずである。
しかし、現在に至るも、取調べの可視化は実現しておらず、最高検は録画対象事件として特捜部が被疑者を逮捕した事件についても広げる方針は発表したものの、結局取調べの一部録画に留まるようであり、法務省内のワーキンググループの検討状況の発表などからは、取調べの可視化についての実現困難性や弊害などが指摘され、取調べの可視化実現に向けた明確な道筋が見えない状況が続いている。
そこで、当会として取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の1日も早い実現に向けて全力を挙げて取り組むことを決議するとともに、下記の内容を国・捜査機関・裁判官に求めることを決議する。
7 まず国に対しては、取調べの可視化実現のための早急な法整備を求める。
これに対して、法務省内のワーキンググループからは、検察官送致事件の事件数などを理由に、実現不可能などという反論が出ているところ、たしかに一斉に全ての事件について取調べの全過程の録画を義務付けることが困難を伴うことは理解できるが、そのために取調べの可視化に向けて一歩も踏み出すことができないという障害とすべきではない。
かかる観点からは、段階的な取調べの録画制度の導入は容認できるとしても、上述したように取調べの一部だけが録画されても意味はなく、逆に弊害を生み出しかねないことから、対象事件を絞ることはあっても、取調べの一部だけを録画することを許容するような制度には絶対にしないことを求める。
8 次に、捜査機関を統率する検事総長及び警察庁長官に対し、取調べの可視化が法制化がなされるまでの間も、裁判員裁判対象事件に関しては、現在の取調べの一部録画・録音ではなく、取調べの全過程の録画を実施することを求めるとともに、その対象事件を、取調べの可視化の必要性が高い事件であって、録画による弊害が少ないはずである被疑者・弁護人が取調べの可視化を求めた事件に拡大することを求める。
9 最後に、各裁判官に対して、任意性の立証のハードルを高くすることを求める。
検察や警察が取調べの一部録画で任意性の立証を済ませてしまおうと考えているのは、そのような立証であっても裁判官は任意性を認めてくれると考えているからに他ならない。
逆に言えば、供述調書の任意性が争われた際の、これまでの多くの裁判官の姿勢こそが、取調べの可視化の実現の障害となっているとさえ言えるのである。
韓国において、取調べの録画制度が導入されたのは、2004年に大法院(日本での最高裁)判決において、供述調書の証拠能力について大胆な判例変更がなされたからである。
そして、ここ数年、立て続けに起こったえん罪事件の判決や大阪特捜部による証拠隠滅事件などは、供述調書の任意性を判断に影響を与えてしかるべきである。
そこで、各裁判官に対して、供述調書の任意性が争われた場合には、任意性を認めるのに慎重な姿勢をとり、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)によって取調べの状況が客観的に立証されない限り、供述調書に任意性がないという判断をすることを求める。
以 上

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