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生活保護法の適用場面における弁護士による代理活動に対する制限的運用の中止を求める意見書

カテゴリー:意見


生活保護法の適用場面における
弁護士による代理活動に対する制限的運用の中止を求める意見書
2012(平成24)年7月9日
福岡県弁護士会
意見の趣旨
生活保護法の適用場面に関して厚生労働省が推奨する運用は、審査請求などごく限られた場合を除き弁護士の代理活動を認めないというものであるが、生活保護は人命に直結する重要な権利であること、現場の運用において現に生じている多くの問題に対し弁護士の援助が必要であること、厚生労働省の推奨する運用には何ら合理的な根拠がないことからすれば、生活保護法の適用場面において弁護士による代理活動を排除する理由はまったくない。
したがって、当弁護士会は、厚生労働省及び地方自治体に対し、生活保護法の適用場面における、弁護士による代理活動を制限する現在の運用を直ちに中止するよう求めるものである。
意見の理由
1 はじめに
厚生労働省は、『生活保護手帳 別冊問答集』問9-2〔代理人による保護の申請〕において「代理人による保護申請はなじまないと解される」という見解を示している。そして、実際の運用においては、申請の場面に限らず、審査請求及び訴訟の場面を除いた生活保護法のあらゆる適用場面において弁護士による代理活動が認められないことが多い。
しかしながら、以下に述べるとおり、生活保護法の適用場面における弁護士による代理活動を制限する運用は、合理的な根拠もなしに、市民の正当な権利行使を阻害する結果をもたらすものであって、到底容認できないものである。
2 生活保護受給権の重要性
生活保護法の適用場面で問題となっているのは市民の生きる権利そのものである。生活保護は、市民の命を守る最後のセーフティネットとして、さまざまな場面で活用されなければならない。
生活保護受給権が市民の命に直結する重要な権利であることにかんがみれば、市民による権利行使が不当に阻害・制約されることがあってはならないことはいうまでもない。
3 弁護士による代理活動が必要であること
(1)現在の生活保護制度の運用実態は、保護を尽くすという姿にはほど遠いものである。むしろ、運用、市民の保護受給権が不当に侵害されているというべき状況が多々発生している。
(2)申請の場面(違法な水際作戦)への対応が必要であること
ア これまで、生活困窮者本人が福祉事務所へ生活保護の申請に行った場合、窓口の担当者が、申請に来た者に対し、「親族の扶養を受けなさい」、「家賃が高すぎるから生活保護は受けられない」、「自動車を保有しているから生活保護は受けられない」などと告げて、申請を受け付けないまま相談扱いにして追い返すという例が後を絶たなかった。福祉事務所が相談扱いとして申請を受け付けなかった事案には、本来であれば、直ちに保護を開始すべき事案も少なくなかった。
このような違法な、いわゆる「水際作戦」は、現在でも少なからず見受けられるものであり、当弁護士会にも、違法な水際作戦にあった生活困窮者から、多くの援助要請が寄せられている。
イ 当弁護士会では、代理人として生活保護申請に同行・同席する取り組みを強化しているところであり、この取り組みは現実に、違法な申請拒否を撤回させるという大きな成果を挙げている。
例えば、過去に年金担保融資を受けたことのある保護受給者が、特別な事情のため保護を辞退した上で再度の年金担保融資を受けた場合において、本人による生活保護の再開申請が拒否された後に、弁護士が福祉事務所に対し本人の現在の窮状を訴えて保護の必要性を詳細に説明するという支援を実施した結果、保護が再開されることになったという事例がある。また、自動車を保有又は利用しているということで申請を受け付けてもらえなかった相談者について、弁護士が福祉事務所に同行し、自動車の保有のみでは申請拒否の理由にならないことを福祉事務所に説明した上で改めて保護を申請したことで保護が開始された事例がある。
ウ また、すでに保護を受給している被保護者が保護の種類や金額の変更を求める変更申請の場面においても、弁護士の支援が必要である。
例えば、当会の会員による支援の結果、本来支給されるべきであったにもかかわらず福祉事務所が拒否していた障害者世帯に対する家族介護料の支給が認められるようになった事例や、転居の必要性が認められるにもかかわらず福祉事務所が支給を拒否していた転居費用などの支給が認められるようになった事例が報告されている。
(3)申請以外の場面についても違法ないし不適切な言動への対応が必要であること
法律の専門家である弁護士による代理人としての活動が求められるのは、生活保護の申請の場面に限るものではない。当弁護士会所属の弁護士が担当した以下の事例は、いずれも、弁護士の関与がなければ、福祉事務所の一方的な主張に基づく保護の停廃止に対し、市民が泣き寝入りを強いられる可能性があった事案である。
ア 事例1-弁明手続への同席
生活保護受給中の障がいのある高齢夫婦が、処分価値のない自動車の廃棄処分を命じられたことに対し不服を申し立てた事案において、北九州市内の福祉事務所は、同夫婦から相談・依頼を受けた弁護士の存在を完全に無視し、かつ、代理人に話をしてほしいという同夫婦本人の意思をも無視した上で、同夫婦に対し直接「弁護士が保護を受けているのではない。あくまでも福祉事務所とあなたの問題である」、「保護開始前には福祉事務所の指導に従うと言いながら、保護が始まったら車は処分しないと言い、弁護士と話をしてくれなど筋違いも甚だしい」などと難詰して、自動車の処分指示を継続した。その後、処分指示にしたがわないことを理由とする保護停止処分に向けての弁明手続が開かれた際に、同夫婦および代理人弁護士が弁明手続への代理人弁護士の同席を求めたことに対し、福祉事務所は「生活保護には代理人は予定されていない」、「生活保護法は代理人を排除している」、「本人には補佐の必要性など認められない」などと強弁して弁護士の同席を拒否したまま保護停止処分を強行した。当該処分は、その後の処分取消訴訟において、裁判所によって取り消された。
イ 事例2-弁明手続への同席
既に、指導指示違反を理由に保護停止となっている世帯に対し、同じ違反を理由とする保護廃止処分に向けての弁明手続が開かれた事案において、北九州市内の福祉事務所は、生活保護法第62条5項を根拠に弁護士による代理を認めないとして代理人弁護士の同席を拒否した。
その後、福祉事務所、本人及び弁護士による話し合いの結果、弁護士の同席は認められることになったものの、福祉事務所と当事者の間における信頼関係は皆無の状態になっていた。この事案においては、以下のとおり、弁護士が介入して法的問題点を整理し、行政をして冷静かつ適正な弁明手続を実施させたという点でも成果があった。
福祉事務所は、別居中の本人の子が同一世帯員に当たるのではないかと疑い、本人に対する指示として、子が居住している住宅の賃貸人など当事者からすると極めて関係の薄い第三者に対する福祉事務所による事情聴取を許容するよう、本人に対し求めた。しかし、別居中の子は親の生活保護受給とは無関係であるため、本人は当該調査に反発した。そこで、同席した弁護士が、関係が極めて薄く、かつ当事者や生活保護受給要件とは無関係の子が難色を示している第三者への事情聴取をしなくても、それに代わる書面資料の提示で福祉事務所の疑問を解消することは可能であると指摘した。その後、事情聴取に代わる資料が提出されたことにより、指導指示に従ったことが確認され、保護停止が解除された。弁護士が同席することにより、福祉事務所の誤った、あるいは必要のない手続が回避された上、結果的にも保護停止を解除することができた(第1の成果)。
仮に、弁護士が弁明手続に同席しない状態で、福祉事務所の不当な要求に対し当事者がこれを拒否する意思表示をしたならば、福祉事務所はそもそも弁明手続の実体に入らなかったであろう。そしてその結果、当事者は指導指示に従った資料提出もできず、保護が廃止されることになりかねなかった。しかし、弁護士が弁明手続に同席したことで、保護廃止処分をも回避することができたのである(第2の成果)。
ウ 事例3-ケース記録の開示
重篤な病気で入院中の当事者本人に代わって、代理人弁護士が代理人名で、福岡市に対し生活保護のケース記録の開示請求をした事案において、福岡市は、代理人弁護士名での開示請求書を受け付けたにも関わらず、開示の段階において、開示は弁護士宛に実施してほしいと申し出ていた請求者本人の意思を無視し、「弁護士には開示できない。病院で本人に開示する」と主張して、病院での開示手続きを実施しようとした。もっとも、当事者本人が短時間の面会しか耐えられないほど一見して悪い容体であったため、実際には、途中から弁護士のみが開示の説明を受け、かつ、文書を受領した。
(4) 上記の例からもわかるとおり、弁護士による代理援助が必要な場面は、いわゆる「水際作戦」と呼ばれる生活保護申請時の不当な追い返しの場面に限られない。申請者に関する状況説明、保護開始決定に至るまでの交渉、保護受給中の指導・指示への対処、生活保護法第63条による費用返還請求への対応、同法第77条・第78条による費用徴収への対応、保護の停廃止への対処など、生活保護法の適用に関して弁護士による代理援助が必要な場面は枚挙にいとまがない。とりわけ不利益処分に関して実施される弁明の機会における弁護士による援助は、不利益処分の名宛人となるべき保護受給者の生存権保障の観点からも、非常に重要である。
生活保護法の適用場面においては、行政機関が違法不当な運用を行った場合、保護を申請しようとする者ないし保護受給中の者の生命が直接的に脅かされる状態に陥る危険性がある。かかる危険を除去するためにも、専門的知識に基づく主張の効果を本人に帰属させるべく、法律の専門家たる弁護士による代理活動が求められているといえよう。
人の命に直結する市民の生存権を守る活動をすること、それと同時に、違法不当な行政行為を防止することは、まさに弁護士法第1条に定められた弁護士の使命である。弁護士は、その使命を実現するための代理権限を弁護士法はじめさまざまな法律に基づいて付与されている。生活保護法の適用場面に関する法律事務も、弁護士の使命をまっとうするための代理行為にほかならないのであって、かかる弁護士の代理権限が合理的な根拠なく制限されてよいはずがない。
4 厚生労働省が推奨する「生活保護法の適用場面における弁護士による代理活動を認めない」という運用に合理的な根拠はないこと
しかるに、厚生労働省は、生活保護法の適用場面において、審査請求などごく限られた場合を除き、弁護士による代理活動を認めないという運用を推奨している。しかし、その取扱いは以下のとおり合理的な根拠がなく、生活保護法の適用場面において代理活動を制限する理由はない。
(1)「保護申請が代理になじまない」という厚生労働省の見解に合理的根拠がないことついて
ア 厚生労働省は、2009年版以降、『生活保護手帳 別冊問答集』において、「生活保護の申請が本人の意思に基づくものであることを原則とし、生活保護の申請をするかしないかの判断については代理人が判断すべきものではないとして、代理人による保護申請はなじまないものと解することができる」との見解を示している(同書・問9-2)。
しかしながら、代理人によって保護の申請が行われるのは、本人が自らの意思に基づいて保護を申請するという決定を下し、代理人に申請についての委任をしている場合である。ゆえに、保護申請についての判断をしているのは本人にほかならない。そうである以上、本人が自ら選任した代理人による申請を否定する理由はまったくない。ましてや、上記の事例から明らかなとおり、生活保護法のあらゆる適用場面において、本人の権利実現のため法律専門家による支援が必要不可欠である。ゆえに、本人が自らの意思で選任した代理人による支援を否定する理由はまったくない。生存権保障の重要性に鑑みれば、保護受給者自身に対してなされなければ意味がないといえる生活指導などごく少数の場面を除き、原則として、生活保護法の適用場面において代理活動が広く認められなければならない。
イ 生活保護法第7条が保護申請権者の範囲を扶養義務者や同居の親族などに拡張しているのは、本人の意思のみでは保護申請を十分に行えない場合に、他の人の支援によって本人の申請行為を現実化させようという趣旨である。同条の趣旨は、本人の申請権の拡張にあるのであるから、同条は、本人の意思に基づく代理人による申請も排除していないことは明らかである。
ウ また、厚生労働省がいうところの「なじまない」という言葉の意味するところは、まったくもって不明確であり、厚生労働省の上記見解は、その法的な意味や根拠がいっさい不明である。
そもそも、生活保護法の適用場面では、これまで述べてきたとおり、代理人が本人の意思に基づき、本人のために行動すべき場面が数多く存在している。それにもかかわらず、厚生労働省が、きわめて不明確な内容の「なじまない」という概念を用いて、本人の意思に基づく本人の権利実現行為を阻害するとすれば、憲法及び法律に従うべき行政機関の行為としては極めて問題であるといわざるを得ない。
エ 審査請求や訴訟における代理活動を除く生活保護法のほぼすべての適用場面について代理活動には「なじまない」とする運用は、代理制度にあえて限定的な解釈を行った結果、市民の権利行使を不合理に阻害することとなっており、社会正義の実現の観点からは到底許されるものではなく、即刻改められなければならない。
(2)生活保護法第62条5項が代理人の選任を否定したものではないこと
ア 生活保護制度の運用の場面では、福祉事務所職員が、生活保護申請援助には代理が認められないと主張する際、その根拠について、「生活保護法第62条3項が『保護の実施機関は、被保護者が前2項の義務に違反したときには、保護の変更、停止又は廃止をすることができる』とし、同条第5項が『第3項の規定による処分については、行政手続法第3章(第12条及び第14条を除く)の規定は適用しない』とし、他方で、行政手続法第3章第16条には『前条第1項の通知を受けた者は、代理人を選任することができる』と規定されている。生活保護法が、行政手続法の『代理人を選任することができる』という条項を適用しないとしている以上、保護の変更、停止又は廃止の処分については、代理人を選任できないと解釈すべきである」と説明することがある。
イ しかし、上記の説明は、生活保護法及び行政手続法の法律構造、及びそれを踏まえた実情からすれば、以下のとおり誤ったものである。
そもそも、生活保護法は一般的に代理人を排除する規定を置いていない。
また、生活保護法が行政手続法第3章を適用除外としたのは、すでに生活保護法第62条4項において弁明の機会の付与が規定されており、行政手続法第3章に対応する一定の権利保護規定が既に存在しているからである。
そして、生活保護法第62条4項の趣旨は、保護の変更や停止、廃止といった処分が、被保護者の生活の糧を奪う結果に直結する可能性のある極めて重要な処分であることから、被保護者からその生活状況等について十分な聞き取りを行ったうえで、実情に即した適切な判断がなされることを確保し、被保護者の生きる権利を保障する点にある。この趣旨にかんがみれば、生活保護法は、処分を行ううえで、被保護者について十分な情報収集及び意見聴取を行うことを予定しているといえる。
これを現在の実情についてみれば、給付を受ける者として相対的に弱い立場にある被保護者は、行政職員に対し自己の置かれた状況について十分な説明をできないことが多々ある。ところが、これまで述べてきたように、行政機関は、被保護者や申請者からの十分な意見聴取を行っているとはいえないのが実情である。そして、その結果、生活状況等について自分一人で十分な説明ができない方々にとっては、生活保護法の予定する生きる権利の保障など絵に描いた餅でしかない状態が多くの場面で生じているのである。
したがって、このような状況下において生活保護法第62条4項の趣旨を全うし、被保護者の生きる権利が保障されるためには、代理人による活動が必要不可欠であることはいうまでもない。
よって、生活保護法62条5項の適用除外規定を代理人の排除の法的根拠と捉える説明はまったくの誤りである。
(3) 現行法上生活保護制度において弁護士の支援を受ける権利が保障されていると解釈すべきこと
重要な点であるため繰り返し述べるが、生活保護法の分野においては、行政機関が違法不当な運用を行った場合、保護を申請しようとする者ないし保護受給中の者の生命が脅かされる状況に陥る危険性がある。そして、上記3に掲げた例からも明らかなとおり、国民が適正に保護を受ける権利は生活保護制度のあらゆる場面で危険にさらされている。そのような危険を除去するため、専門知識に基づく主張の効果を本人に帰属させるべく、法律の専門家たる弁護士による代理活動が求められているといえよう。
この点、憲法第31条が、不利益処分において適正手続を受ける権利を保障している。そして、生活保護制度の運用においては、上記で述べたとおり、行政機関から便益を享受する国民と行政職員との間に知識や力の差があることから、国民が本来受けられるべき便益を適切に享受できず、生存が脅かされる危険性がある。すなわち、国民の生存権が保障されるためには、生活保護法のあらゆる適用場面において、専門家の適切な援助を受ける権利が保障されなければならないといえる。そして、専門家の適切な援助を受ける権利を保障されることが、同分野における適正手続の保障であるといえる(憲法第31、25条)。
人の命に直結する市民の生存権を守る活動をすること、それと同時に、違法不当な行政行為を防止することは、まさに弁護士法第1条に定められた弁護士の使命である。生活保護法の適用場面に関する法律事務も、弁護士の使命を全うするための代理行為にほかならないのであって、かかる弁護士の代理権限が合理的な根拠なく制限されてよいはずがない。
また、生活保護法の適用場面における行為が法律事務に該当する場面には、「審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を職務とする」と規定する弁護士法第3条が妥当する。同条にいう「法律事務」とは、法律に規定する事項に関連する事務全般を意味するものであって、生活保護法に関係するほとんどの事務がこれに該当することは明らかである。
5 生存権を守るための実践からの必要性
これまで、様々な弁護士が、生活困窮者の生命を守るため、生活保護申請、福祉事務所との交渉、不服審査請求、行政訴訟などを行ってきた。しかし、個々の弁護士の取り組みのみでは、潜在的に数多く存在する生活困窮者の生存を保障できないおそれがある。
そこで、日本弁護士連合会および当会は、潜在的に存在する多数の生活困窮者の生存を保障するため、法テラス委託援助事業の実施、生存権緊急対策本部の設置、当会における生活保護当番弁護士制度(生活保護支援システム)の発足など、様々な活動を行っている。特に当会が創設した生活保護支援システムについては、2009年3月の制度発足から2012年1月31日までの間に合計587件の相談が寄せられ、各事件に応じた成果を上げている。最近では、福祉事務所窓口の対応にも変化が見られるところであり、このことは生存権分野における市民の権利実現にとって、弁護士による支援がいかに重要な意味を持つかを端的に表している。
生活困窮者の生命を守るための法的支援が十分に果たされるようにするため、生活保護法の適用場面における弁護士による代理活動に対する制限的運用は直ちに中止されなければならない。
6 まとめ
以上のように、生活保護法の適用場面における弁護士による代理活動は、市民の生命に直結する重要な権利の実現・擁護にとって必要不可欠のものといえる。その一方、同場面において弁護士による代理活動を拒む正当な理由は何ら存在しない。それにもかかわらず、厚生労働省が弁護士による代理活動を認めない運用を続けることは、弁護士による基本的人権の擁護活動を不当に阻害するものであると同時に、市民の正当な権利行使を不当に制限するものである。
したがって、当弁護士会は、厚生労働省及び生活保護の実施に直接の責任を負っている地方自治体に対し、弁護士の代理活動の趣旨を尊重し、生活保護法の適用場面のすべてにおいて、直ちに、かつ、公式に弁護士による代理活動への制限的運用を中止することを強く求めるものである。
以 上

会長日記

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平成24年度福岡県弁護士会 会 長 古 賀 和 孝(38期)
 
 弁護士会活動のアピールを兼ねる役員就任の挨拶回りが終わりに近づく頃から、各部会集会が始まり、役員はこれに出席することになります。本年度は4月18日の筑豊部会(27名)に始まり、20日の筑後部会(81名)、25日の福岡部会(722名)、そしてトリが北九州部会(157名)となりました(なお人数は平成24年5月10日時点のものです)。福岡部会を除く各部会集会は、高い参加率でしかも近時の新規登録者の増加を反映して、大変な盛り上がりです。筑豊部会は27名の会員の内、20数名の参加を得て開催されましたが、さながら若手の決起集会の様子で、法律相談センターの自立化、評議員会の復活など大いに議論されました。筑後部会でも多くの若手会員が参加し、先輩弁護士からこれまでの部会の活動経過が説明されるなどどこか新旧バトンタッチを意識したやり取りがあり、部会の統一性維持のための腐心されている様子が理解できました。北九州部会では、法律相談センターの活動、部会評議員会の持ち方などについて会員間で熱心な討議と共に、北九州部会独立の運動経緯、今後の方針が先達会員から詳細に説明されました。いずれの部会においても、集会後に懇親会が企画され、弁護士会職員を含め部会集会参加者以外の会員も加わり、大変な賑わいです。各部会のことは各部会で議論の上決定し、実践するという、部会制度の長所が良く理解できました。福岡部会はと言うと、正直なところ部会集会参加者も少なく、出席率は低調で一抹の寂しさを感じざるを得ません。1000名に到達しようとしている県弁会員の内、福岡市周辺偏在が如実に現れ、若手と先達との絆の希薄化を痛感したものです。部会制度の長所、利点を生かす部会運営について考えさせられる部会訪問でした。
 今年のゴールデンウィークの初日である4月28日は「秘密保全法に反対するシンポジウム」が、新緑まぶしく、大勢の行楽客でにぎわう福岡市のど真ん中にある天神ビル11階会議室で開催されました。こんな陽気の中で、何故に、連休初日に開催されるのか、と訝しく思われる会員もおられましょう。しかし、シンポジウムの詳細はこの月報にて報告がありますので、そちらに譲りますが、やはり開催しなければならない理由があるのです。一昨年9月の尖閣諸島沖での中国船と海上保安庁の巡視船衝突を契機として、突然、与野党相乗りで提案が予定された同法案は、規制の対象となる秘密の意義、指定方法、対象者、罰則いずれを見ても問題があります。幸い、法案提出は見送られたようですが安心はできません。パネリストとして出席いただいた外務省秘密漏洩事件の当事者である西山太吉氏の発言は強烈です。曰わく、秘密、秘密と言うが都合の良い秘密は当局が意識して漏洩することもある、しかし、秘密の根幹、本質は違法な隠蔽を要する秘密にあるのであって、法案の最終目標はこれに尽きると。そういえば尖閣事件報道の際、思い出すのは政府がそもそも情報収集を含め無策状態で、右往左往する姿を国内外に露見させたところにあります。自らの失策を露見させることを防止することが秘密保全法制定の発端とも言えます。旧ソ連のジョークで、政府中枢が馬鹿であると呼ばわるのは国家の存亡を危うくする極めて重要な国家機密の漏洩に当たる、よって厳しく処罰される、というものがあったように記憶しています。全く笑えない話です。
 5月1日、2日に開催される日弁理事会に出席するため、4月30日から上京しました。物見遊山で完成したばかりの東京スカイツリーをほんの近くから見物してきました。高いわ高いわ天をも突き通さんばかりで偉容を誇っています。是非とも上って関東一円を望んでみたいと思います。さて、日弁理事会では先に実施された2回目の会長選挙の結果を受けて、宇都宮前会長、山岸会長予定者の挨拶がありました。もともと旧知の仲ということで選挙戦を振り返っての話しは殆ど出ませんでした。選挙管理委員会による確定前であったため、今回の理事会までは宇都宮前会長が議長を務め、山岸会長予定者はオブザーバーとして傍聴されておりました。中途半端なキャスティングで、議論は東京スカイツリーには到底及ばない、見通しの良くないものに感じました。詳細は秋月副会長のご報告を。

会長日記

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平成24年度福岡県弁護士会 会 長 古 賀 和 孝(38期)
例年行っている県弁役員交代に伴う挨拶回りを、今年は3月26日から4月半ばまでの予定で始めました。件数にして約160カ所、裁判所、検察庁の他、県内地方公共団体、国の出先機関、マスコミ、商工団体、財界、労働団体、NPOなど市民の生活に関わる団体、在福領事館を回ります。会長の私と、訪問計画に沿って数名の副会長、事務局長が挨拶回りグッズを持参して行きます。これだけの訪問先となると、訪問地域を考慮しながら挨拶回り先との日時の調整を同時並行的に行わなければなりませんので、担当の安原総務事務局長は複雑なパズルを解くに等しく、大変なご苦労をお掛けしております。しかしながら、訪問先との短い時間ではありますが、有意義な意見交換ができたときには爽やかな達成感もあり、ご苦労の賜としてなお一層感謝する次第です。
訪問先では、役員全員の交代を案内するのですが、弁護士会が1年の役員交代であることにつき2年乃至3年としても良いのではないかとのご意見を頂戴することがあります。1年の任期では協働した事業の実施状況や今後の展望を語るのに継続性が薄くなるとの懸念を述べられているものと思われます。このご意見に対しては、尤もなことではあるけれども、事務所を構える役員の本業に与える影響があることを笑顔をもってご説明し、続けて、1年という短い期間を認識して役員が全力で対応を取る決意であること、弁護士会活動は多数の委員会の継続的な活動に支えられているので、決して、継続性は損なわれないことをご説明しております。弁護士会への期待の大きさと言っても良いと思います。
挨拶回りに当たっては、弁護士会役員紹介書、弁護士会で行っている各種法律相談センターパンフレットの他、法教育案内、中小企業向け初回無料相談を記載したひまわりホットダイヤルのパンフレット、「福岡県弁護士会人権擁護活動2011」を持参します。相手先に合わせて、適宜使い分けています。今回の説明で、特に訪問先の強い関心が窺えるのは、「人権活動2011」です。弁護士は敷居が高い、弁護士、弁護士会はどのような具体的な活動をしているのか分からないとの意見を多く耳にしますが、弁護士会の人権擁護活動の説明をすると身を乗り出して聞いてくれるのです。私が冊子の1ページ目を開き、生存権を守る活動、子どもの権利を守る活動、両性の平等に関する活動、高齢者・障害者の権利を守る活動等々を行っており、これらの活動がほとんど福岡県弁護士会会員が負担する月額6万円超の会費に支えられていること、熱意ある会員が日常業務と併行してこれらを担当する委員会に所属して活動を行っており、公益活動は弁護士、弁護士会の使命であると説きます。子どもの権利に関わってきた橋山副会長や法教育に関わってきた甲木事務局長が同行してくれているときには、それぞれ二の矢、三の矢を速攻のごとく詳細に説明してくれます。
弁護士は敷居が高いとの認識を解消する方法の1つは、正に、この公益活動の充実・広報ではないかと一層想いを強くしているところです。感心しておられる訪問先に、つい弁護士は奥ゆかしく公益活動を行っているところをひけらかすことが苦手ですと言葉を添えますと、財源の確保・媒体の選択に苦慮するところは共通するのか、広報の難しさに会話は進みます。ひとえに委員会活動を行っていただいている会員の方々の弛まぬ活動に頭が下がる思いで一杯です。
本稿を作成している段階では予定している訪問先の6割ほどを回っています。ところで、去る4月12、13日の両日、第1回日弁連理事会が開催されましたが、理事会2日目の朝は九弁連管内の理事(会長兼務)が参集し、意見交換を行うことが慣例となっております。その席で、弁護士業務の周知、拡大に関し意見を求められ、前記したところをご説明しました。多数に上り、多方面に渡る訪問先、長期に及ぶ訪問期間つき、他会の理事から関心とともにそこまでやるかと言った驚嘆の声が上がりました。同席されていた当会選出市丸信敏日弁連副会長より、福岡県弁護士会会長は、トップセールスを行う重要な役割・責務がありますとの極めつけの補足がありました。この声に押されて、今一度、心を引き締めて、今後も予定されているところを精力的に訪問し、意見交換を行って参ります。また、就任挨拶終了後も、弁護士会活動に関わり、連携することにより市民の権利擁護の前進に繋がる関係団体については意見交換を重ねて行きたいと考えております。

福岡県弁護士会所属会員に対する殺人未遂事件に関する会長声明

カテゴリー:声明

 2012年5月22日午前10時ころ,当会に所属する緒方研一弁護士が,同弁護士事務所の入居するビル内階段上において,ナイフを所携していた男に襲われ,頭部等打撲,両手指切創等の傷害を負うという犯罪が発生した。
 犯人は,同弁護士が受任していた事件の相手方であり,同事件は既に示談により解決済みであった。犯人がいかなる動機で行ったか不明であるが,法治国家において,暴力をもって紛争の解決を図ることはいかなる理由があっても断じて許されるものではない。
 また,本件は弁護士業務に関連した犯行であり,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし,市民の権利の護り手である弁護士の業務に対する重大な侵害行為である。
 当会は,今後とも,いかなる暴力行為に対しても決してひるむことなく毅然として対処し,国民の正当な権利を擁護するため全力をもって弁護士の使命を全うしていく決意であることをここに表明する。

2012(平成24)年5月28日

   
                           福岡県弁護士会
  

会 長  古  賀  和  孝

福岡県弁護士会 環境宣言

カテゴリー:宣言


福岡県弁護士会 環境宣言
第1 基本理念
人類は,限りある資源を大量に使用し,大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システムによって,自然環境を破壊してきました。しかし,かかる反省に基づき,資源を使い果たすのではなく、現代の世代が将来の世代の利益や要求を充足する能力を損なわない範囲内で環境を利用し要求を満たしていく社会(持続可能な社会)へと方向転換をしつつあります。
現在,かけがえのない地球環境を保全し,持続可能な社会を形成しようとする市民の意識は強まり,今まさに,温室効果ガス排出量削減など環境保全活動が世界的な流れとして定着しつつあります。そのような世界的な変革がなされつつある最中に,2011年3月11日,福島第一原子力発電所事故が発生し,環境影響の低い持続可能社会を構築する重要性がより一層明らかになりました。
福岡県弁護士会では,公害問題・環境問題は人権問題であるとの視点から,これまで悲惨な公害の根絶や自然環境の保全・再生に向けて,国や自治体に対して様々な提言を行うとともに,シンポジウムの開催などを通じて市民の皆様にも環境保全の重要性を訴えて参りました。
当会は,地球環境の保全が人類共通の最重要課題の一つであることを認識し,今後も,環境負荷の低減,環境保全のため,外部に対するこれらの活動を継続するとともに,当会会員の執務や,当会の会務,会館の運営等においても,環境保全の活動に取り組むべく,ここに以下の宣言をします。
第2 環境宣言
1 弁護士会の活動や弁護士業務による環境影響を常に認識し,地球環境への負荷を可能な限り低減するために,以下の施策に取り組む努力をします。
(1) 省エネ活動の推進
(2) 省資源活動の推進
(3) 当会の会員及び職員各人の環境保全意識の向上
2 環境問題に関する提言・啓発活動に取り組みます。
2012(平成24)年5月23日
福 岡 県 弁 護 士 会
会長  古 賀 和 孝

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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