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遠隔操作による脅迫メール事件等の取調べについての会長声明

カテゴリー:声明

 
 ウェブサイト上やメールで犯罪の予告をしたとして、福岡市在住の男性1人を含む男性4人(うち少年1人)が威力業務妨害や脅迫等の被疑事実で逮捕された。内1人は起訴され、1人は少年審判を受けていた一連の事件について、真犯人を名乗る者からパソコンを遠隔操作するなどして実行した旨の犯行声明メールが送られたことを受け、捜査機関は、当該男性4人の逮捕は誤認に基づくものであったことを認め、不起訴処分や起訴取り消し等の処分を講ずるとともに、男性らに対して誤認逮捕について謝罪した。
 これらの事件で看過されてはならないのは、福岡市在住の男性及び少年1人についての虚偽の自白を内容に含む供述調書が作成されていることである。無実の人間が虚偽の自白あるいは自白調書への署名捺印を強いられ、さらには、供述調書にありもしない「犯行動機」まで書かれているとのことである。同時期に複数の無実の市民が虚偽自白を強いられた事実により、改めて、捜査機関が自白採取に重きを置く捜査方法を採用していることが明らかとなった。本件において取調べを含む捜査手続に様々な問題があったと考えざるを得ず、現時点で以下の2点につき指摘を行うものである。
 まず1点目は、いわゆる人質司法の問題である。
 本件では男性4人とも逮捕・勾留されている。そして、審判で保護処分がなされていた少年1人を除き、ウイルス感染していたことが判明するまで勾留が続き、福岡市在住の男性に至っては、他の2人の男性が釈放された日である2012年9月21日に再逮捕され、その後再勾留もされた。
 ウェブサイト上やメールでの犯罪の予告であれば、その証拠はサーバーやパソコン自体に残っているのであるから、本来であればパソコンを押収するなどすれば証拠隠滅を避けることができるし、威力業務妨害罪や脅迫罪の法定刑を考えれば逃亡のおそれが高いわけでもない。
 その意味では、本件はそもそも勾留の要件を満たしていたかどうか自体にも疑問のある事案であるが、自白をしなければ自分自身あるいは同居人が逮捕・勾留されてしまう、あるいは勾留期間が長くなってしまうというような状況は、虚偽自白を生み出してしまう要因となり得るのであり、そのことを踏まえ検察官による慎重な勾留請求と、裁判官による慎重な勾留決定の判断が求められる。
 しかるに、安易に勾留を認めたが故に、身柄拘束を受け虚偽自白に至った経緯があり、ここに虚偽自白を防止するため人質司法を早急に改める必要がある。
 
 2点目は取調べの全過程の録画・録音の必要性である。
 本件では、具体的に取調べにどのような問題があったか必ずしも明らかとはなっていないが、取調べの全過程を録画・録音すれば、虚偽自白に至るまでの取調べでのやりとりが明らかとなるのであり、そのことにより、違法な取調べを防止できるのみならず、虚偽自白を防ぐための取調べ手法に関する検証も可能となる。
 また、取調べの全過程を録画・録音すれば、虚偽自白を始めた後の具体的な供述内容や供述経過が明らかとなるところ、実際にはやっていないことを自白しようとする場合、どうしてもその供述には客観的事実や状況に矛盾する内容が含まれるはずであり、供述内容や供述経過を仔細に検討することにより、真実の自白であるのか虚偽自白であるのかを検察官や裁判官が判断することも可能となる。
 その意味でも、当会がこれまで繰り返し求めてきている取調べの可視化(取調べの全過程の録画・録音)は極めて重要なのであり、在宅事件も含め、一度でも被疑者が否認した事件や弁護人が録画・録音を求めた事件については、取調べの全過程を録画・録音がなされるべきである。
 
 以上、人質司法の問題も取調べの可視化の問題も、当会において繰り返し指摘してきた問題ではある。しかしながら、本件の発覚により、現在に至ってもなお、歴然として虚偽自白やえん罪が起こり続けていることが明確となったことを機に、改めて①逮捕・勾留について刑事訴訟法が定める要件に基づいた慎重な運用、ならびに②否認事件及び弁護人が録画・録音を求めた全ての事件について、直ちに取調べの全過程を録画・録音するよう求めるものである。
                     2012(平成24)年11月9日
                          福岡県弁護士会    
                          会長  古 賀 和 孝

生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明

カテゴリー:声明

政府は、本年8月17日、「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定した。そこでは、社会保障分野についても生活保護の見直しをはじめとして最大限の効率化を図るとの方針が強調されている。また、厚生労働省が公表した平成25年度予算概算要求の主要事項では、生活保護基準の検証・見直しを予算編成過程で検討するとされている。そして、本年10月5日、厚生労働省は、社会保障審議会生活保護基準部会において、第1・十分位(全世帯を所得階級に10等分したうち下から1番目の所得が一番低い層の世帯)の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較するという検証方針を提案した。
これらの事実から、本年末にかけての来年度予算編成過程において、厚生労働大臣が、生活保護基準の引き下げを行おうとすることは必至の情勢にある。
しかし、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、我が国における生存権保障の水準を決する極めて重要な基準である。生活保護基準が下がれば、最低賃金の引き上げ目標額が下がり、労働者の労働条件に大きな影響が及ぶ。また、生活保護基準は、地方税の非課税基準、介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準、就学援助の給付対象基準など、福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。生活保護基準の引下げは、現に生活保護を利用している人の生活レベルを低下させるだけでなく、市民生活全体に大きな影響を与えるのである。
このような生活保護基準の重要性に鑑みれば、その在り方は、上記の生活保護基準部会などにおける学術的観点からの慎重な検討を踏まえて、広く市民の意見を求めた上、生活保護利用当事者の声を十分に聴取して決されるべきである。財政の支出削減目的の「初めに引下げありき」で政治的に決せられることは、決して許されることではない。
そもそも、厚生労働省の提案する、低所得世帯の消費支出と生活保護基準の比較検証の手法には大きな問題点がある。すなわち、平成22年4月9日付けで厚生労働省が発表した推計によれば、生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2~3割程度と推測され、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている「漏給層(制度の利用資格のある者のうち現に利用していない者)」が大量に存在する。当会の生活保護支援システムにおいても、生活保護の窓口を訪れたにもかかわらず申請が受け付けられなかったとの市民からの相談が多数寄せられている。このような現状においては、低所得世帯の支出が生活保護基準以下となるのは当然である。これを根拠に生活保護基準を引き下げることを許せば、生存権保障水準を際限なく引き下げていくことになり、合理性がないことが明らかである。
当会の会員は、多重債務問題の解決や生活保護支援をはじめとする業務の中で、日々、低所得世帯の市民の生活困窮の実態に接しているところであるが、生存権保障水準を引き下げれば、市民生活にさらに深刻な影響が及ぶことは明らかである。
よって、当会は、来年度予算編成過程において生活保護基準を引き下げることに強く反対する。
2012年(平成24年)11月 9日
                           
                              福岡県弁護士会    
                              会長 古 賀 和 孝

司法修習生の修習資金の給費制復活を求める会長声明

カテゴリー:声明

 本年11月27日から,66期の司法修習が開始され,この福岡県においても,82名の司法修習生が配属される予定となっている。
 司法修習生は,「高い識見と円満な常識を養い,法律に関する理論と実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備える」ことを使命としており(司法修習生に関する規則4条),1年間の修習期間中は,その全力を修習のために用いてこれに専念すべき義務(修習専念義務)を負っている(裁判所法67条2項)。当会も,司法の担い手となる法曹の養成に全力を尽くす所存であり,66期の司法修習生に対しても充実した修習内容を提供すべく,万全の態勢でのぞむ覚悟である。
 ところで,司法修習生は,修習専念義務を尽くすために,基本的にアルバイトその他の経済的利益を得る活動を禁じられている(司法修習生に関する規則2条)。64期までの司法修習生に対しては,生活費等の必要な資金(修習資金)が国費から支給されていた(いわゆる「給費制」)。しかしながら,裁判所法等の改正により,65期の司法修習生から,修習資金を必要とする者は,最高裁判所から貸与を受けることになっている(いわゆる「貸与制」。裁判所法67条の2)。また,各司法修習生は,「生きた事件」を素材に研修を受けるべく,司法研修所長が指定した全国各地の実務修習地に配属されることになるが,その際の引越し費用,赴任旅費,通勤交通費,その他一切の費用を,自己負担しなければならない。
 当会は,65期司法修習生との座談会を実施するなどして,その実情をヒヤリングしたが,多くの司法修習生が,数百万円単位の負債を抱えることに対する不安を抱えていた。また,司法試験に合格しながらも,経済的負担のために,司法修習生となることを断念した者もいるということであった。
 ここ数年,法曹志願者が激減しているが,その背景には,法曹となるために要する経済的負担の重さがあると指摘されている。法科大学院の修了までに多額の費用を要するのみならず,司法試験合格後の修習資金も給費制から貸与制に移行したために,その経済的負担の大きさに拍車がかかっている。このような事情に相まって,弁護士の就職難という事情もあるために,法曹に対する魅力が大きく減殺されているのである。
 かかる事態は,「多様な人材を法曹界に」という司法改革の理念に逆行するものである。また,司法の担い手となる法曹の養成については,本来国が責任を持つべきであるにもかかわらず,司法修習生を全国各地に配属して1年間の専念義務を課しながら,その費用を全く支給しないという制度自体,国の責任放棄であり,不合理なものと言わざるを得ない。
 本年7月27日に可決した「裁判所法及び法科大学院の教育と司法試験等との連携に関する法律の一部を改正する法律」では,修習資金の貸与制について,「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から,法曹の養成における司法修習生の修習の位置づけを踏まえつつ,検討が行われるべき」と明記された(同法第1条)。この改正に際しての国会質疑では,将来の給費制復活も排除されていない旨の答弁がなされている。
 当会は,政府及び国会に対し,今後改めてなされる法曹養成制度の再検討において,修習資金の給費制が復活されるよう強く求めるものであり,また,司法修習生に対する公平な経済的配慮の観点から,過去にさかのぼった適切な対応を実施するよう求めるものである。

以上
2012年(平成24年)11月7日
福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝

当会会員の逮捕についての会長談話

カテゴリー:会長談話


 
 本日、当会の島内正人会員(北九州部会)が詐欺の容疑で逮捕されましたことは誠に遺憾です。
 当会は、同会員について成年後見監督人の立場を利用して成年後見人が管理する成年被後見人の財産を詐取したことを理由として、平成24年10月25日、会立件で懲戒手続に付し、同日これを公表しました。
 当会では、近時会員の不祥事が続発したことから、不祥事の再発を防止する対策を検討しておりますが、その最中、同会員の逮捕に至ったことは、当会のみならず弁護士、弁護士会全体に対する国民皆様の信頼を大きく毀損する事態であると、重く受け止めております。
 当会は、国民の皆様からの信頼を回復するため、会員一人一人に対して更なる倫理意識の徹底と自覚を求めるとともに、弁護士の職務を忘れ不正を行った弁護士に対しては、除名を含む厳しい態度で臨む決意です。
                       

2012(平成24)年10月31日                          
福岡県弁護士会                                 
会長 古賀 和孝

要請書~福岡家裁小倉支部に非常勤裁判官制度の実施を~

カテゴリー:要請書


日本弁護士連合会
会長 山岸憲司 殿
  
要 請 書 
~福岡家裁小倉支部に非常勤裁判官制度の実施を~
               
第1 要請の趣旨
 当会は、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)に対し、日弁連においては、非常勤裁判制度の実施庁の拡大及び非常勤裁判官の待遇の改善に向けてより一層その実現に取り組むと共に、福岡家庭裁判所小倉支部において非常勤裁判官制度が実施されるよう最高裁判所に申し入れることを要請する。
第2 要望の理由
 1 弁護士が弁護士としての身分をもったまま、民事調停及び家事調停に関し、裁判官と同等の権限をもって調停手続きを主宰する、いわゆる非常勤裁判官制度は、2004年1月に開始された。
   同制度は、①常勤裁判官への任官促進と、②調停の充実活性化を目的とするもので、発足当初は、東京、大阪、横浜、名古屋、京都、福岡、及び札幌(東京及び大阪は、地裁、簡裁及び家裁。東京及び大阪以外は簡裁)で導入されたが、その後漸次実施庁は拡大され、2006年10月には小倉簡裁及び福岡家裁でも実施されるようになった。2012年4月現在、実施庁は、全国で2地裁、16簡裁、及び12家裁、以上合計30の裁判所に及び、108名の弁護士が非常勤裁判官としてその職務に従事している。
   同制度は、調停成立率の向上、当事者の納得度の向上など、調停制度の充実と活性化に大きく寄与していると高く評価され、非常勤裁判官経験者へのアンケート等では、「非常勤裁判官の経験は何物にも代え難い貴重な経験である」、「調停が成立したときには弁護士と違った充実感がある」など、極めて有意義な制度であるとの意見が多数あると報告されている。
 2 しかしながら、非常勤裁判官制度の実施庁は、前記のように一部のみに限定されており、このことは、非常勤裁判官の待遇が十分でない点とともに制度の重要な問題点として指摘されている。
   こうした中、2011年8月には和歌山県弁護士会が、同年9月には奈良県弁護士会が、それぞれ「県下において未実施の非常勤裁判官制度が実施されるように取り組まれたい」との要請文書を日弁連に提出し、これを受け、日弁連は全国の単位会に対し、同年12月9日付けで、管轄内の裁判所が非常勤裁判官の実施庁となることの検討を要請した。その結果、福島県弁護士会が2012年2月1日実施庁として手を挙げた。
 3 当会内において非常勤裁判官制度は、福岡簡裁、福岡家裁(本庁)の外、小倉簡裁においては実施されているものの、福岡家裁小倉支部においては実施されていない。
   福岡家裁小倉支部の事件数は、司法制度統計によれば、2010年度において1300件であり、全国的にみても本庁と遜色ないほどに多く、一方、当会北九州部会の弁護士数は、2012年7月1日現在で156人であり、非常勤裁判官を安定的に供給するに足りる員数であると言える。
   そこで、本年6月当会北九州部会において、同部会所属の弁護士に対し、福岡家裁小倉支部にて非常勤裁判官制度を実施することについてアンケートを実施したところ、これを肯定する意見が殆どであり、かつ同制度が実施された場合、非常勤裁判官に応募する意向のある弁護士が少なからずいることが確認された。
4 ここにおいて、当会は、常勤裁判官への任官の促進、及び調停の充実活性化は、全国で実現されるべきものであるから、実施庁が出来るだけ拡大されることが望ましいとの点を改めて認識し、福岡家裁小倉支部において非常勤裁判官制度が実施されることを希望する。
あわせて、制度発足当初から、非常勤裁判官の待遇が十分でないとの指摘があることから、その改善に向けて、日弁連がより一層努力することを要望する。
よって、第1記載のとおり要請する次第である。 
以上
                           福岡県弁護士会
                           会 長  古 賀 和 孝
                                   

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