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東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の時効期間を延長する特別措置法の制定を求める会長声明

カテゴリー:声明


1.原子力発電所事故とその被害者及び被害の状況
 2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「本件事故」という。)から2年6ヶ月が経過した。
 本件事故は、その原因究明はもとより汚染水の流出など事故そのものの収束にも見通しが立っていない状況である。被害者についても、その人数やそれぞれの被害についてその全容は明らかでなく、その深刻化や長期化の虞れが濃厚な事態となっている。
2.損害賠償請求権と消滅時効
 このような状況にあるにもかかわらず、本件事故に関する損害賠償請求権は、民法第724条前段の定める「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間」の消滅時効の主張により、その実効性を喪失する虞れが大である。
 信義則の観点から消滅時効の主張は許されないとの法的見解も見受けられるが、現状では現行民法の適用を排除できる明確な根拠は見出しがたく、仮に、信義則上、時効の利益を享受する援用権の行使が制限されるとしても、訴訟の場での争点となるものであり、立証責任も被害者に負担させられる可能性が高く、法的紛争解決の手法上は、信義則を中心とした法理論は実際の被害者救済の実効性に乏しい。
3.特例法の内容と被害者救済の実効性の欠如
 この点に関し、本年6月、「東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断に関する法律」(以下「特例法」という。)が成立した。
 この特例法の趣旨は、紛争解決センターへの和解仲介手続が打切りとなった場合に手続打切りの通知を受けた日から1ヵ月以内に裁判所に訴訟を提起すれば、和解仲介申立時に訴えを提起したものとみなすことで時効中断を認めるものに過ぎない。
 そして、文部科学省によると、和解仲介手続申立は、本年8月16日現在、約7400件(成立件数約4900件)だけで、想定される被害者の数に比してごく一部にとどまっている。しかも、時効中断は、和解仲介申立をした損害項目に限られているため、申立てていなかった損害項目には時効中断の効力は及ばない。また、手続きの打切りの通知を受けた日から1ヵ月以内に訴えを提起しなければならないという点も、被害者に対して被害回復に困難を強いることになる。
 したがって、特例法は被害者救済の観点からは極めて不十分なものと言わざるを得ない。
4.日本弁護士連合会の意見書
 以上の点を踏まえ、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は、本年7月18日、「東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の時効期間を延長する特別措置法の制定を求める意見書」を公表した。
 本件事故による損害賠償請求権への現行民法の消滅時効の適用は不当として、特別措置法の制定を求めるものであり、具体的には「権利行使が可能となったときから10年間」の時効期間とすることを基本とし、5年以内の時効期間の更なる延長を含めた見直しをおこなうことや、事故から一定期間が経過した後に顕在化する損害についてはその損害が明らかになった時を時効期間の起算点とするという点を付加するものである。
5.当会の意見
 当会としても、本件事故に関する損害賠償請求権が3年間の消滅時効に服するとされることは、被害者の救済を放擲するものであって正義に反し絶対に容認できない。
 被害者の現状を考えると、日弁連の意見書のように時効期間を率先して定める意見を述べることにも躊躇を覚えるが、単に時効制度の適用を排除することのみを求めたり、内容を示さずに救済立法の制定を求める主張をすることは、法律家団体としての責任を全うしているとは思われない。
 日弁連の意見書もこのような苦渋の選択として具体的な法制度を示しているものと考えられるので、当会としては、現時点では、日弁連の意見書に添った特別立法を求めることに賛同し、その旨、声明するものである。
  
          2013年(平成25年)9月19日
                福岡県弁護士会 会長 橋 本 千 尋

新たな検討体制の発足に際して給費制の復活を求める会長声明

カテゴリー:声明


1 本日、政府は内閣府に法曹養成制度の関係閣僚で構成する「法曹養成制度改革推進会議」を設置し、その下に置いた「法曹養成制度改革顧問会議」および「法曹養成制度改革推進室」ともども、先に公表した「法曹養成制度改革の推進について」(2013年(平成25年)7月16日付、法曹養成制度関係閣僚会議決定。以下「本決定」という。)による改革方針、改革課題についての検討を始めることとした。
2 これら課題のうち、本決定が、司法修習生に対する経済的支援策の在り方について、第67期の司法修習生(本年11月修習開始)から旅費法に準じて実務修習地への移転料の支給をすべきこと、集合修習期間中に司法研修所内の寮への入寮を保障すべきことを最高裁判所に求めたことは、法改正を必要としない範囲でさしあたり可能な一定の経済的配慮を示したものとして、その限りでは評価できる。しかし、これらの経済的支援は、あくまで現行法下での運用改善による応急措置的な、極めて限定的な方策に過ぎず、根本的には法改正による給費制の復活が不可欠である。
3 その理由として、現在の司法修習における貸与制は、実質的には司法修習生を何らの生活保障もないままに、1年間の実務修習に拘束するものとなっている。この多額の経済的負担は、法科大学院制度下での多大な時間的・経済的負担や、法曹人口の急激な増加による就職難がもたらす問題等と併せて、法曹志願者の激減をもたらす大きな要因となっている。そして、法曹志願者の激減は、プロセスとしての法曹養成を企図した新しい法曹養成制度の危機的状況を招いている。そのため、給費制の復活を含め、司法修習生に対する十分な経済的支援策を講じることは、質・量ともに豊かな法曹を養成するための絶対条件である。この点、本決定は兼業許可基準の緩和も述べるが、これは経済的支援策とは無関係であり、これを経済的支援策として位置づけるのは本末転倒である。また、この考え方は、フルタイムで修習に従事する司法修習生に対して安息の時間に労働を強いるものとなりかねず、極めて不合理である。さらに、司法修習の充実を目指すこの度の法曹養成制度改革の方向性にも逆行するものである。
4 そもそも、司法修習制度は、わが国の三権分立を支える司法を担い、基本的人権の擁護を使命とする法曹を育成するために不可欠、枢要なものであり、法曹の養成は国の責務であることを忘れてはならない。
法曹養成制度検討会議(以下「検討会議」という。)は、本決定のもととなった検討会議の取りまとめ(以下「取りまとめ」という。)に先立ち、本年4月から5月にかけて「中間的取りまとめ」に対するパブリック・コメントを募集した。その結果、全3119通の意見のうち、法曹養成課程における経済的支援に関する意見が2421通にものぼり、そのほとんどが給費制を復活させるべきという内容であった。これにより、この問題が法曹志願者を含む国民にとって重要な関心事であり、給費制が広く支持されていることが改めて明らかとなった。
 そこで、検討会議では、この点に加え、かねて委員からも給費制を支持する意見や貸与制がもたらしている問題状況を懸念する意見が少なくなかったこと等を踏まえ、取りまとめでの経済的支援策はとりあえずの最低限のものにとどまり、法改正を伴う更なる経済的支援策は今後の検討体制において引き続き検討されるべきとの共通認識に到達していたものである。
5 よって、当会は、政府の新たな「法曹養成制度改革推進会議」では、以上の点を十分に踏まえ、司法修習の充実方策の一環として、給費制の復活を含む司法修習生に対する更なる経済的支援策を充実させるべく、所要の措置を早急に講ずるよう強く要望する。
                 2013年(平成25年) 9月 17日
                 福岡県弁護士会 会長 橋 本 千 尋

死刑執行に関する会長声明

カテゴリー:声明

死刑執行に関する会長声明
1 本日,東京拘置所において,1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,2010年(平成22年)3月には足利事件について,2011年(平成23年)5月には布川事件について,いずれも無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審無罪判決が言い渡されている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件において誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 日本弁護士連合会は,本年(平成25年)2月12日,谷垣法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を直ちに講じることを求める要望書」を提出して,死刑制度に関する当面の検討課題について国民的議論を行うための有識者会議を設置し,死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し,死刑制度に関する世界の情勢について調査のうえ,調査結果と議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,死刑の執行を停止することを改めて求めたところであった。
  さらに、当会は、本年4月26日にも、死刑確定者に対する死刑執行について抗議し、死刑執行の停止を要請する会長声明を提出したのであり、この要請を無視した今回の執行は容認できない。
5 当会としては改めて政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
                     2013年(平成25年)9月12日
                     福岡県弁護士会会長 橋 本 千 尋

福岡拘置所小倉拘置支所現地建て替え等を求める要望書

カテゴリー:要望書

平成25年7月18日
内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
法務大臣 谷垣 禎一 殿
法務省矯正局長 西田  博 殿
法務省福岡矯正管区長 馬場 恒嘉 殿
福岡県弁護士会
会 長 橋 本 千 尋
福岡県弁護士会北九州部会
部会長 荒 牧 啓 一
福岡拘置所小倉拘置支所現地建て替え等を求める要望書
第1 要望の趣旨
1 福岡拘置所小倉拘置支所(以下,「小倉拘置支所」という。)を現地にて建て替えすべく,そのための事業費を来年度予算として計上すること
2 新小倉拘置支所を建築するにあたっては,無罪の推定を受ける未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物にすること
3 新小倉拘置支所の設計にあたっては,当会と協議の場を設置すること
を強く要望する。
第2 要望の理由
1 要望の趣旨1について
(1)平成21年6月,法務省は小倉刑務所跡地に小倉拘置支所を移転させる計画を断念し,それにより北九州矯正センター構想(以下,「本構想」という。)を撤回した。当会は,長年に亘り,小倉拘置支所の現地建て替えを強く要望してきたところ,ようやく,平成24年度予算で調査費が計上され,同年度補正予算で設計費が計上される等の一定の進展が見られたが,建て替えに必要な事業費は未だ予算化されていない。
かかる状況を踏まえて,当会としては,以下に述べるとおり,小倉拘置支所を早急に建替える必要が存することに照らし,建て替えに必要な事業費を来年度予算として計上することを強く要望するものである。
(2)小倉拘置支所は昭和35年に築造された建物で,既に築後50年以上経過しており,建物の老朽化が著しく,建物の各所で塀の倒壊や外壁の落下の危険が生じ,被収容者や,被収容者に面会に来る市民及び小倉拘置支所職員の生命・身体に危険な状態となっている。
(3)また,小倉拘置支所は,昭和25年公布の旧耐震基準に基づいて建築された建築物であり,現在の耐震基準を満たしていない上,建物の駆体部分の老朽化も著しいため,地震等の自然災害により甚大な被害が生じる危険性が高いことから,早急に建物を建て替える必要がある。
(4)さらに,被収容者の生活環境も劣悪な状況におかれている。具体的には,給水設備については,蛇口からは赤水が出る,トイレの水の流れが弱いために排泄物がなかなか流れない等,設備使用上の不具合が生じている。また,収容部屋についても,雨漏りが発生する部屋が多数存在する上,室内でダニが発生する,布団から虫が出る,カビが発生する等,衛生面における問題も極めて深刻である。
平成25年5月24日に当会北九州部会の会員が小倉拘置支所を見学した際に内部の状況を確認したが,被収容者の劣悪な生活状況については一向に改善が見られなかった。
このように,小倉拘置支所の建物の著しい老朽化の影響により,被収容者の生活環境は著しく劣悪な状況に置かれている。
(5)以上より,当会としては,小倉拘置支所を早急に建て替える必要性が高いことから,小倉拘置支所を早急に現地で建て替えることを要望し,そのための事業費を来年度予算として計上することを強く要望する次第である。

2 要望の趣旨2について
(1)未決拘禁者は,無罪推定の原則の適用を受け,刑事手続のために身体拘束される他は,一般市民と同様の立場にあることから,未決拘禁者には,拘置所内の生活においても,できる限り一般市民と同様の生活が保障されなければならない。
(2)しかし,上記のとおり,小倉拘置支所における未決拘禁者は,著しく劣悪な生活環境におかれていることから,小倉拘置支所の現状では,無罪推定を受ける未決拘禁者の基本的人権に十分な配慮がされているとは言えない。
(3)そこで,小倉拘置支所の現地建替を行う際には,無罪の推定を受ける未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物を建築することを強く要望する。
3 要望の趣旨3について
(1)拘置所側は,未決拘禁者の基本的人権を制約する立場にある以上,拘置所側の意見だけに基づいて新小倉拘置支所の設計を行っても,未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物を建築することは困難である。
(2)これに対し,当会は,平成22年度の夏と冬にかけて,小倉拘置支所の未決拘禁者に対するアンケート調査を行い,未決拘禁者が著しく劣悪な生活環境下に置かれていることを明らかにしてきた。
また,当会は,平成23年に,未決拘禁者の基本的人権への配慮という点で高い評価を受けている大韓民国のソウル拘置所を視察した実績もある。
(3)そのため,小倉拘置支所の建替に際しては,未決拘禁者の人権の問題に恒常的に取り組んできた当会の関与を認める必要性は高い。
平成24年7月に当会は小倉拘置支所に対して,建て替えについての当会との協議会の設置を要望したが,未だ実現に至っていない。
そこで,当会は,未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物を建築するために,小倉拘置支所の建て替えに際しては,当会と協議の場を早急に設置することを再度要望する次第である。
以上

質屋営業法(昭和25年法律第158号)改正意見書

カテゴリー:意見

2013年(平成25年)7月17日
福岡県弁護士会会長 橋本千尋
第1 意見の趣旨
質屋営業法(昭和25年法律第158号)を以下のように改正することを求める。
1 質屋営業法1条に質契約の定義として、「質置主は、質物の流質処分を甘受する限り、質屋に対して借受金の弁済義務を負わず、流質処分後は借受債務が消滅する金銭貸付契約」という規定を付加する。
2 質屋営業法18条(質物の返還)につき、質置主が元利金を支払う場合に質物の返還を即時に受けうること及び質置主の流質選択の機会を与えるため、以下の規定を設ける。
①弁済について、金融機関等の自動引落その他自動決済システムを利用することを禁止すること、弁済は、必ず、質契約が成立した営業所において行う旨の規定を設けること。
②質屋は質置主が元利金を弁済しようとする場合、質置主に対し、予め、流質処分を選択できること、流質処分を選択した場合、借受金の弁済義務を負わない旨告知しなければならないとの規定を設けること。
3 質屋営業法19条(流質物の取得及び処分)に、以下の条項ないし規定を加える
①「質屋が、流質期限を経過した時において、その質物の所有権を取得した後、質屋は質置主に弁済の履行を請求してはならない。」
②質置主が流質を選択した場合、流質期限経過前でも質屋はその質物の所有権を取得すること、この場合、質屋は質置主に対し弁済の履行を請求してはならない旨の規定を設けること。
4 質屋営業法30条(罰則)につき、改正後19条の違反(流質後請求)の場合、貸金業法47条の3と同様に「二年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」の罰則を付する。
5 貸金業法20条の2(公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限)の規定とその罰則(同法48条)と同様の規定を設ける。
6 質屋に認められた特例高金利(年109.5%)を引き下げる方向で検討する。
第2 意見の理由
1 偽装質屋問題について
⑴ 偽装質屋とは
偽装質屋とは、質屋営業の許可は受け、質物を預かり形式的には質屋の形態を装いつつ、無価値あるいはほぼ無価値な物品を質物として預かり、金融機関等の自動決済システムによる引落等を利用する方法により,実質的には公的給付の受給権を担保に金員を貸し付ける業者のことをいう。
⑵ 偽装質屋の営業手法の広がりと被害の拡大防止の必要性
偽装質屋は、2006年(平成18年)12月に公布された改正貸金業法(平成22年6月完全施行)により出資法の上限金利が引き下げられた時期の前後に福岡県を拠点として上記形態の営業を開始したといわれている。
福岡県警は偽装質屋の違法な実態に鑑み2012年(平成24年)10月、貸金業法(無登録営業)及び出資法(高金利)違反の嫌疑で福岡市内に本店を有する2社に対し捜索を行った。その後、2013年(平成25年)5月上旬、同社代表者らは逮捕され、同月下旬、起訴された。
これとは別に、 2012年(平成24年)11月には、大分県警が貸金業法と出資法違反の疑いで、北九州の質屋の経営者等を逮捕した。さらに、2013年(平成25年)2月には、鹿児島県警が、貸金業法と出資法違反の疑いで鹿児島の質屋の営業者等を逮捕した。
また、九州以外では、群馬県警が同年5月に貸金業法と出資法違反の疑いで高崎の質屋の経営者を逮捕した。
加えて、国民生活センターの発表によると、偽装質屋に関する相談件数が、2010年(平成22年)が44件であったのに対し、2011年(平成23年)は85件と倍増し、2012年(平成24年)は194件と更に倍増する等、問題が深刻化していることが窺われる。
このように、偽装質屋問題は全国的な広がりをみせておりかつ被害件数も増加の一途を辿っていることから、偽装質屋の被害がこれ以上拡大しないように早急に法改正を行うことが必要である。
⑶ 偽装質屋の営業の問題点
偽装質屋は、以下の点において、その実態は、高利の貸金業である。
①質屋の形態を取り繕うため融資金額と全く釣り合わない物品を質物として預け入れさせている。
②質屋の形態を利用することにより出資法の上限金利規制を潜脱し、高利を得ている。
③質置主の流質の機会を奪うため、弁済に関し、金融機関等の自動引落システムを利用して、弁済を受けている。
④質置主が流質処分を選択した場合であっても、その残額の支払いを強制している。
⑤偽装質屋の被害者は、年金、生活保護受給者等公的給付の受給者であり、上記③の手法と相まって、公的給付を事実上担保にとることで回収を確実にしている。
よって、この偽装質屋の問題を解決するためには、以上の偽装質屋の営業実態が、通常の質屋の営業とは異なる点に対応した法改正を行うべきである。なお、あわせて、通常の質屋営業でも認められている特例高金利(年109.5%)は、出資法上の唯一の特例高金利であることから、この特例金利を引き下げる方向で検討するべきである。
2 具体的な改正の立法提言について
⑴ 質屋営業法1条の質契約の定義
質屋営業法1条1項の規定する「質屋営業」の定義は、「物品(有価証券を含む。第二十二条を除き、以下同じ。)を質に取り、流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは、当該質物をもつてその弁済に充てる約款を附して、金銭を貸し付ける営業をいう」というものである。
しかし、端的に質契約の定義規定はない。そして質屋契約は、質置主は、質物の流質処分を甘受する限り、質屋に対して借受金の弁済義務を負わず、流質処分後は借受債務が消滅するものであり、質屋と貸金業者とは営業内容が、とりわけ清算のあり方に関して相当に異なるものである(名古屋高裁平成23年8月25日判決LLI/DB判例秘書登載参照)とされる。従って、単に質屋営業を定義するだけではなく、質屋営業でなされる質契約についても定義規定をおくことで、質屋営業法にいう質屋営業を行うものか、質屋営業を偽装するものかの判断基準を明確にするべきである。
⑵ 流質を事実上阻害する行為の禁止
偽装質屋は,借主である質置主が流質を選択することを阻止しなければ,質物の交換価値では,自らの債権の満足を得ることができない。そのため,弁済日に金融機関の口座,主に年金等公的給付が支払われる口座から自動引き落としにより利息及び元金の弁済を受けている。
しかし,本来,質屋営業法の予定する質契約においては,借入元金以上の価値がある質物を担保に質契約を締結することが予定されており,元利金を弁済する場合には,質置主は質物を即時に受け戻すことができなければならない(質屋営業法18条1項)。
とすれば,金融機関の口座からの自動引落による弁済を選択することは,質物の受け戻しが想定されておらず,質屋営業法の予定する弁済方法ではないし,融資金額に見合わない質物を担保にとることも,質屋営業法の予定する質契約とはいえない。
よって,元金の支払については,自動引落としによる弁済は勿論,振込による支払はこれを禁止すべきである。
また,銀行の自動引落で利息の支払を強制されることも,質屋営業法が特例金利を認めていることからして,流質の機会を質置主に与えるため,これを禁止すべきである。
そもそも,質物の交換価値を前提として質契約を締結している以上,元利金の弁済に際し,質置主に対して質物の返還か流質かを自由に選択できるようにすべきである。この交換価値を無視した契約は,大阪高裁昭和27年6月23日判決(高裁刑事判例集5巻3号432頁)では「質屋営業法第一条によれば質屋営業とは物品(有価証券を含む)を質に取り流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは当該質物をもつてその弁済に充てる約款を附して金銭を貸付ける営業をいうのであるから無担保又は無担保に等しい扱いを以て金銭を貸付ける行為は質屋営業の範囲を超える」として,刑事上も被告人を有罪としている。
以上,質置主の流質を阻害する行為(金融機関の口座からの引落等)は全て禁止することが必要であり,質屋の店舗において弁済することを義務付けるとともに元利金の弁済を受ける前に,質置主に流質の機会を付与するためその旨告知する義務を質屋に課すべきである。
⑶ 取立行為の規制
既に述べたとおり、質置主は、質屋契約において、流質を選択することにより、借受債務を消滅させることができるのである以上、質屋は、質置主が流質を選択した場合、貸金債権は消滅し、取立行為を行うことはできないことは自明である。
したがって、質屋は、質置主が流質を選択した後は、質屋が質置主に対して取立行為を行うことを禁止し、これに罰則を付することは当然である。
⑷ 年金等公的給付の担保を禁止
質屋営業法にいう質契約は、有体物である質物を対象として締結されるものであり、権利質は認められない。よって、年金等公的給付の受給権(債権)を質として質契約を締結することは質屋営業法上許されない行為である。
したがって、年金等公的給付を事実上担保にとる行為も当然に禁止される。
ところが、貸金業法20条の2(公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限)は、質屋営業法には明示的には適用がない。そこで、質屋営業法に罰則含めて、これを明示的に禁止する規定をおくべきである。
⑸ 特例高金利の制限
上述のように質屋営業法では、出資法の特例として年109.5%の高金利をとることが認められている。この特例金利は、出資法上の唯一の特例高金利であるところ、このような金利が認められた趣旨は、質物の鑑定や保管に費用がかかるからと説明されている。
しかし、この特例高金利を維持することが合理性を有するか、検証されるべきである。
第3 結 論
よって、意見の趣旨のとおり、質屋営業法を改正すべきである。
以  上

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