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死刑執行に関する会長声明

カテゴリー:声明
 2018年(平成30年)7月6日,東京拘置所で3名,大阪拘置所で2名,広島拘置所で1名,福岡拘置所で1名,合計7名の死刑が執行された。この7名は,オウム真理教による一連の事件で殺人等の罪に問われ,死刑が確定していた13名のうちの7名である。
 
 1995年(平成7年)3月20日に発生した地下鉄サリン事件では29人の死者と6500人以上の負傷者が出ており,今なお多数の人々が後遺症等に苦しんでいる。これらのご遺族や被害者の方々の苦しみを決して忘れることなく,被害者救済のための努力をあらゆる方面で続けていかなければならない。
 
 しかし,死刑制度そのものの是非については,別の問題として慎重に考えるべきである。また,今回行われた7名という多数の死刑執行が今後の死刑執行を容易にする契機となってはならない。
 

 我が国では,死刑事件について,すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また,2014年(平成26年)3月27日には,静岡地方裁判所によって,死刑判決を受けた袴田巖氏の再審開始が決定され,同時に「拘置をこれ以上継続することは,耐え難いほど正義に反する」として,死刑および拘置の執行停止も決定された。この再審決定は,2018年(平成30年)6月11日,東京高等裁判所によって取り消されたが,拘置の執行停止は維持されたままであり,えん罪が疑われる状況は残されたままである。袴田巖氏は最高裁判所に特別抗告しており,現在でもなお死刑えん罪が存在する可能性は否定できない。

 そもそも,死刑は人間の尊厳を侵害する非人道的行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなどの様々な問題 を内包している。

 そのため,EU(欧州連合)加盟国を中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止し,死刑存置国とされているアメリカ合衆国においても2017年(平成29年)6月の時点で19州が死刑廃止を宣言するなど,死刑廃止は国際的な潮流となっている。

 国連総会は過去6度に亘り「死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める。」決議案を採択し,国連人権理事会で実施された過去3回のUPR(普遍的定期的審査)においては,日本に対し,死刑廃止に向けた行動の勧告を出している。これに対し,日本政府は,国民世論を理由に死刑の存知と執行を正当化しているが,2014年(平成26年)の内閣府世論調査からは,仮釈放を認めにくい代替刑の創設により死刑廃止を容認する国民的世論が形成されうる可能性が窺われる。

 このような中,日本弁護士連合会は,再審無罪となった事件や袴田事件再審決定に代表される誤判・えん罪の現実的危険性を踏まえ,また,いかなる者であろうとも人として変わり得ることを前提に社会内に包摂すべきことを主な理由として,2016年(平成28年)10月7日の第59回人権擁護大会において「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択した。この宣言は,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきこと,また,代替刑として,刑の言渡し時に「仮釈放の可能性がない終身刑制度」,あるいは,現行の無期刑が仮釈放の開始時期を10年としている要件を加重して仮釈放の開始期間を20年,25年等に延ばす「重無期刑制度」の導入の検討等を政府に求めたものである。
 

 当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。

2018年(平成30年)7月11日
福岡県弁護士会 会長  上 田 英 友

最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明

カテゴリー:声明

福岡地方最低賃金審議会は,本年8月頃,福岡労働局長に対し,本年度の地域別最低賃金額の改定に関する答申を行う見込みである。
昨年,同審議会は,福岡県最低賃金の改正決定について,前年度比24円増額の789円とする答申を行った。しかし,時給789円という水準は,未だあまりに低すぎるものと言わざるを得ない。すなわち,時給789円で,1日8時間,月22日間働いた場合の収入は,月収13万8864円,年収約167万円に止まる。この金額では,労働者がその賃金だけで自らの生活を維持していくことは容易ではなく,ましてや家族内において家計の主たる担い手となるのは困難である。労働者の生活を安定させ,労働力の質的向上を図るためにも,最低賃金の大幅な引き上げが不可欠である。
また,福岡県が,2016年(平成28年)3月に公表した「福岡県子どもの貧困対策推進計画」において,子どもの貧困の原因として,「現在の貧困の根底には、家庭(親)の収入が少ないことがあります。」との指摘をしているとおり,子どもの貧困対策の視点からも,労働者全体の賃金の底上げにもつながる最低賃金の引き上げは喫緊の重要課題である。
ここ数年,最低賃金の大幅な引き上げは,格差と貧困の解消の視点から諸外国において実現されてきており,時給1000円以上の国ないし地域も広がってきている。例えば、フランスの最低賃金は9.76ユーロ(約1259円)、イギリスの最低賃金は7.5ポンド(25歳以上。約1110円)、ドイツの最低賃金は8.84ユーロ(約1140円)であり、アメリカでも、15ドル(約1635円)への引上げを決めたニューヨーク州やカリフォルニア州をはじめ最低賃金を大幅に引き上げる動きが各地に広がっている(円換算は2018年5月上旬の為替レートで計算。)。この動きは,我が国においても参照されるべきである。
 ただし,最低賃金の引き上げに際して,地域の中小企業の経営に特別の不利益を与えないよう配慮することは必要である。最低賃金の大幅な引き上げを実施するに際しては,中小企業を対象とした補助金制度や減税措置等も併せ検討されるべきである。
 なお,最低賃金の審議に関し,福岡地方最低賃金審議会は,審議会の議事の傍聴を認め,傍聴者にも資料を配布するとともに,議事要旨の公表を行っており,この点は評価できる。ただし,議事のさらなる透明性と公正の確保の観点から,議事要旨にとどまらずより詳細な議事録の作成及び公表を求めたい。
 以上,当会は,福岡地方最低賃金審議会に対し,今年度の答申に当たっては,中央最低賃金審議会の答申に捉われることなく,労働者の健康で文化的な生活を確保するとともに,これにより地域経済の健全な発展を促すためにも,最低賃金を大幅に引き上げる答申を行うよう求める。
2018年(平成30年)6月8日
福岡県弁護士会会長  上田 英友

生活保護基準のさらなる引下げを行わないよう求める会長声明

カテゴリー:声明

政府は,2017年12月22日,生活保護基準を引き下げ,年間160億円を削減することを含む次年度予算案を閣議決定した。今回の基準改定では,毎日の生活費に相当する生活扶助基準が最大5%,母子加算が約20%削減される予定となっている。基準改定によって基準額が上がる世帯も存在するものの,全体では約70%の世帯が基準引き下げの対象となり,特に都市部の子どものいる世帯や高齢世帯において大幅な引き下げになることが見込まれている。
生活保護基準については,すでに2013年から3年間かけて生活扶助基準の引下げ(平均6.5%,最大10%)が実施されており,2015年からは住宅扶助基準や冬季加算の削減も行われてきたところである。これらに続くさらなる生活保護基準の引下げは,我が国全体の貧困化を促すことになりかねないと危惧される。
今回の引下げは,生活保護基準を第1・十分位層(所得階層を10に分けた最も下位10%の階層)の消費水準に合わせるという考え方の基づくものである。しかし,そもそも我が国における生活保護の捕捉率(生活保護基準未満の世帯のうち実際に生活保護を利用している世帯が占める割合)は,厚生労働省が公表した資料(2010年4月9日付厚生労働省「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」)によっても15%から32%程度と推測されているところであり,第1・十分位層の中には生活保護の利用が可能であるもののこれを利用することなく,生活保護基準未満の所得のみでの苦しい生活を余儀なくされている人たちが多数含まれている。この層の消費水準を比較対象とすれば,必然的に生活保護基準を最も貧困な水準に至るまで引下げ続けることにならざるを得ず,合理性がないことは明らかである。
生活保護基準は,憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であるのみならず,住民税の非課税基準,国民健康保険料の減免基準,介護保険の保険料・利用料や障害者総合支援法による利用料の減免基準,就学援助の給付対象基準,最低賃金等の多様な施策にも直接,間接の影響を及ぼすものである。すなわち,生活保護基準の引下げは,生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすとともに,生活保護を利用していない市民生活全般にも多大な影響を及ぼすのである。
今回の生活保護基準のさらなる引下げは,すでに度重なる引下げを実施されている生活保護利用者をさらに追い詰めるだけでなく,市民生活全般の地盤沈下をもたらすものであり,容認できないものである。
よって,当会は,政府に対し,生活保護基準のさらなる引下げを行わないよう強く求めるものである。
                    2018年(平成30年)3月9日
                           福岡県弁護士会  
                             会長 作間 功

死刑執行に抗議する会長声明

カテゴリー:声明

 2017年(平成29年)12月19日,東京拘置所において2名の死刑が執行された。2名ともに弁護人による再審請求が裁判所に係属している中であり,うち一人は犯行時19歳と未成年であった。この度の死刑執行は,政府において弁護人を付した再審請求中であっても,また,犯行時未成年であっても,死刑を執行するとの強い意志を示したものと言える。
 しかし,再審は,刑事裁判手続の誤謬を是正し,無実の者を誤判冤罪から救済するための最後の砦というべき制度であるところ,いったん死刑が執行されれば,失われた生命を取り戻すすべはない。再審請求に理由があるか否かは司法府(裁判所)が判断すべきことであり行政府(法務大臣)が判断できるものではないことからすれば,再審請求中に死刑を執行することは,行政府の判断によって生命を奪い去ることとなる結果を発生させるものであって,問題が大きい。
また,犯行時未成年であった者に対して死刑を執行することは極めて慎重であるべきである。未成年者は,生育環境の影響を受けやすく,完成された人格とは言いがたい。その一方で,大きな可塑性を有し,将来の更生が期待できる存在である。そのような犯行時未成年者であった者に対し,死刑を執行することは,刑罰のあり方として公正・適正と言えるのかという点から疑問である。
さらに,国連は,死刑は人の生命を剥奪する非人道的行為であるとの観点から,1966年に人権自由権規約(B規約)において,「生命に対する権利」を保障し,次いで1989年には,「死刑の廃止が人間の尊厳の向上と人権の漸進的発展に寄与する」とする第二選択議定書(死刑廃止条約)を採択している。国連は,国連総会決議及び国連人権自由権規約委員会の勧告を通じて,日本を含むすべての死刑存置国に対し,死刑廃止に向けての行動と死刑の執行停止を求め続けている。この国連の要請を受け,EUを中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止し,死刑存置国とされているアメリカ合衆国においても2017年6月の時点で19州が死刑廃止を,4州が死刑モラトリアム(執行停止)を宣言するなど,多くの国連加盟国(アメリカは州)は国連の理念に協調しようとしている。
ところが,政府は,国際社会からの死刑廃止に向けた勧告に対し,「死刑制度については,国民の多数が極めて悪質,凶悪な犯罪について死刑はやむを得ないと考えており,特別に議論する場所を設けることは現在のところ考えていない。」との政府見解を表明し,国連からの勧告に背を向け,日本における死刑の存置と執行を正当化している(UPR第2回日本政府審査・勧告に対する日本政府の対応)。
政府は,かかる態度をとる理由は国民世論にあると説明する。しかし,2014年(平成26年)の内閣府世論調査結果を子細にみると,死刑もやむを得ない(80.3%)と回答した者の中の40.5%は状況が変われば将来は死刑を廃止して良いとする考えに賛成であり,「死刑存置」の意見に賛成する者と「死刑廃止または廃止の可能性を認める」の意見に賛成する者は,おおよそ10:9の割合で拮抗しているのであって,国民世論の圧倒的多数が積極的に死刑に賛成している訳ではない。
誤判,冤罪によって理不尽に生命・自由が奪われるということへの危惧は,机上のものではない。そのことは,4件の死刑再審無罪判決(免田・財田川・松山・島田各事件),再審開始決定が出された袴田事件,そして,死刑求刑事件ではないものの,比較的近年の事件である東住吉事件,東電OL事件,氷見事件などから明らかである。冤罪による無辜の処罰は,過去の例外的事例として葬り去ることはできない。我々は,死刑制度が無実の者の生命を奪う危険性のある制度であることを十分に踏まえ,その上で,死刑を存置させるのか廃止させるのかを議論を尽くす必要がある。
政府は,国連の死刑廃止に向けた要請を真摯に受け止め,積極的・能動的に,日本国民に対し,自由と平等と平和を維持するために採択した人権自由権規約(B規約)の中核にある人間の尊厳・生存権を奪うことのできない権利とする価値観・理念の普遍化に努めるべきである。
 日本弁護士連合会は,2016年(平成28年)10月7日の第59回人権擁護大会において「死刑廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑廃止を含む刑罰制度改革を目指すべきことを政府に求めた。
当会は,日本弁護士連合会の前記宣言の趣旨を踏まえ,2016年11月11日当会会長声明を発出して,死刑執行に抗議を行っている。当会は,改めて,本件死刑執行について,ここに強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,死刑廃止に向けた議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請する。
2018年(平成30年)3月 1日
                 福岡県弁護士会会長  作 間  功

犯罪報道において、犯罪被害者や遺族の名誉、プライバシー、平穏な生活を送る権利を尊重することを求める会長声明

カテゴリー:声明

 2017年(平成29年)10月,神奈川県座間市のアパートから9名の方の遺体が発見されるという事件が発生した。その後,被害者の方の身元が判明すると,被害者の遺族が被害者の実名や顔写真を公表しないよう報道機関に対して要請していたにもかかわらず,被害者の実名と顔写真が新聞,雑誌,テレビ等に掲載されるという事態が生じた。しかも,被害者の生活状況,家族構成,被害者に自殺願望があった可能性や凄惨な被害状況までもが仔細に報道され続けた。
 およそ犯罪被害者や遺族は,犯罪そのものによって容易に回復し難い深刻な被害を受けている。それに加えて,公表されることを望まない情報が報道されると,犯罪被害者や遺族は,さらなる精神的苦痛を受け,二重の苦しみを蒙ることになる。犯罪報道は,そのあり方如何によっては,犯罪被害者や遺族の名誉,プライバシーと平穏な生活を送る権利を著しく侵害するもので,さきの座間市の事件における事態は,看過できないものであった。
 確かに,報道の自由は,国民の知る権利に奉仕するための憲法上重要な権利であり,そのための取材の自由も尊重されるべきことは言うまでもない。犯罪報道も,一般に公共の利害に関することと考えられており,被害の影響を広く訴えることによって社会を変革するという大きな意義を有するものであること,また,犯罪被害者の実名報道についても捜査の事後的な検証を可能にするという意義もあることは承知している。
 しかし,そのような報道の意義は,果たして匿名報道によっても達成できないのか,名誉・プライバシーという,現代社会において最大限に守られるべき重要な人権との関係において,事案ごとに慎重な吟味・検討が必要と考える。犯罪被害者や遺族は,犯罪被害に遭わなければ普通の市民生活を送っていたはずであり,実名報道をすべき公共の利害に関するものと言えるかは,慎重に検討されなければならない。まして実名報道の上に被害者のプライバシーを白日のもとに曝す詳細な報道については一層慎重な検討が必要である。しかも,現代のインターネット社会では,いったん情報が報道されれば,その情報は半永久的に残存することとなり,一度侵害された犯罪被害者とその遺族の権利の回復は,もはや不可能である。
 そこで,当会は,報道機関に対し,犯罪被害者に関する情報を報道するにあたっては,犯罪被害者や遺族の名誉,プライバシー,平穏な生活を送る権利を尊重し,厳密な検討を加え,慎重な判断に基づく適切な報道を行うことを求める。
                 
                 2018年(平成30年)2月26日
                       福岡県弁護士会 会長 作間 功

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