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法律事務所への捜索等に抗議する会長声明

カテゴリー:声明

 東京地方検察庁の検察官ら(以下「検察官ら」という。)は,2020年(令和2年)年1月29日,カルロス・ゴーン氏に対する出入国管理法違反,その他の者に対する同法違反(幇助)及び犯人隠避被疑事件について,同氏の別件被告事件の元弁護人ら(以下「元弁護人ら」という。)が所属する法律事務所(以下「本件事務所」という。)に対し,立ち入り,捜索(以下「本件捜索」という。)を行った。もっとも,結局,検察官らは,元弁護人らから押収拒絶権を行使された物について,差押えをせず,検察官らが押収したものは,弁護士らが任意に呈示していた面会簿のみだった。
 この点,検察官らは,本件捜索に先立つ同月8日,元弁護人らにおいて押収拒絶権(刑事訴訟法105条)を行使することが可能な対象物(同氏に貸与していたパソコン)のみを明示した別の捜索差押許可状により,本件事務所に立ち入ろうとしたところ,元弁護人らに押収拒絶権を行使されたため,事務所内への捜索(立ち入り)自体を断念していた。
 本件捜索は,その後,検察官らが裁判官から新たな捜索差押許可状(以下「本件令状」という。)の発付を受けたうえで行われた。本件令状は,法律事務所に通常保管されていると思われる,事件との関連性に疑問がある物をも含めて,網羅的・包括的に対象物としていた。
 このように,本件捜索は,一度は元弁護人らに押収拒絶権を行使されたため,検察官らが事務所内への捜索を断念した後に,改めて事件との関連性に疑問がある物を含む,網羅的・包括的な物を対象とする本件令状により強行されたものである。かかる事実に照らせば,検察官らが行った本件令状の請求及び執行は,本件事務所内の捜索のみを目的としていたと解さざるを得ず,元弁護人らに対する威迫行為であり,その職務を侵害する重大な違法行為であるというべきである。
 よって,当会は,検察官らのこれらの行為に強く抗議する。
 さらに,裁判官は,適正手続きの要請のもと,強度の人権侵害である強制処分を行う令状を発付する権限が与えられている。ところが,一度,検察官らが対象物を明示した捜索差押令状を請求し,これを執行した際に,元弁護人らが押収拒絶権を行使したため,捜索自体を断念した経緯があるにもかかわらず,本件令状のような網羅的・包括的な令状の請求に対し,裁判官が本件令状を漫然と発付したことは,令状発付時に適切な審査を期待されている裁判官の職責を放棄し,適正さを著しく欠いた令状主義の精神を没却する違法な行為であると言わざるを得ない。よって,当会は,裁判官のかかる令状発付行為に対し,併せて強く抗議する。
 刑事司法を担う検察官及び裁判官が上記のような各違法な行為に及んだことは,刑事司法の公正さ及び適正手続きに対する国民の信頼を著しく損なうものであり,厳しく批判されるべきである。

2020年(令和2年)8月28日
福岡県弁護士会
会長 多川 一成

外国人学校の幼児教育・保育施設を幼保無償化の対象とすること等を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 子ども・子育て支援法の一部を改正する法律が2019年10月1日より施行され、同日より幼児教育・保育の無償化(以下「幼保無償化制度」という。)が開始された。
 しかし政府は、朝鮮学校や、ブラジル人学校、インターナショナルスクールをはじめとする、各種学校の認可を受けた外国人学校の幼児教育・保育施設(以下「外国人学校幼保施設」という。)に関しては、幼保無償化制度の対象外とした。
 政府はその理由を「各種学校については、幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく、多種多様な教育を行っており、また、児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しないため」と説明している(2018年12月28日関係閣僚合意)。また、「法律により幼児教育の質が制度的に担保されているとは言えないこと」も挙げている(幼児教育・保育の無償化に関する自治体向けFAQ【2020年3月5日版】)。
 しかし、外国人学校幼保施設は、学校教育法第134条に基づき各種学校としての認可を受け、各都道府県知事の監督に服しながら、幼稚園に相当する幼児教育を行っており、学校教育法により、教育の質を制度的に担保されている。
 しかも、現行の幼保無償化制度の対象には、幼稚園の預かり保育や、ベビーシッター等を含む認可外保育施設等、まさに多種多様な形態の施設及び事業が含まれていることからすれば、外国人学校幼保施設だけを、「多種多様な教育」を理由として同制度の対象外とすることには、なんの合理的理由も見出せない。
 また、実態として、認可外保育施設に相当する保育を提供している外国人幼保施設も当然存在している。しかし現状、外国人学校幼保施設が認可外保育施設として幼保無償化制度の対象となるためには、各種学校の認可を返上し、同認可によって受けている利益を放棄せざるを得ない。外国人学校幼保施設のみが、このような法的不利益を制度適用の実質的要件とされることに合理的な理由はない。
 「全ての子どもが健やかに成長するように支援する」という子ども・子育て支援法第2条2項の基本理念に照らせば、外国人学校幼保施設が制度の対象外とされることに合理的理由はなく、憲法第14条、国際人権規約の社会権規約第2条2項、自由権規約第2条1項、子どもの権利条約第2条1項及び人種差別撤廃条約第2条1項(a)、(c)、第5条(e)(ⅴ)等が禁止する差別的取り扱いに該当する。
 政府は、子ども・子育て支援法を速やかに改正し、あるいはその運用を改め、外国人学校幼保施設をただちに幼保無償化制度の対象とすべきである。
2 現在、現行の幼保無償化制度の対象となっていないいわゆる幼児教育類似施設について、こうした施設についても支援を行うべきではないかという問題意識の下、政府と自治体による支援の在り方を検討するべく、「地域における小学校就学前の子供を対象とした多様な集団活動等への支援の在り方に関する調査事業」が実施されている。
 しかしながら、当該調査事業においても、調査対象として外国人学校幼保施設を含めるか否かは、自治体の判断にゆだねられ、また、調査対象の要件として、自治体が支援を行っていることが原則とされた。
 そのため、支援を受けられていない数多くの外国人学校幼保施設が調査対象になることができなかった。特に朝鮮学校の幼保施設については、文部科学省が2016年3月29日、各自治体に対し、補助金の「適正かつ透明性ある執行」を求める通達を発し、これに呼応して多くの自治体が朝鮮学校に対する補助金を停止ないし廃止した経緯もある。
 多くの外国人学校幼保施設が当該調査事業の対象外とされた結果、調査事業後の政府と自治体による支援からも置き去りにされてしまう恐れを強く懸念する。そうすることもまた、上記の幼保無償化制度からの除外と同じく、憲法や各種国際人権条約に反することはいうまでもない。
 外国人学校幼保施設は、外国にルーツを持つ子どもに対して、幼児教育や保育を提供するとともに、他施設との交流など地域の多文化共生実現にとって不可欠な役割を果たしている。上記の子ども子育て支援法の理念にも照らせば、政府や自治体による積極的な支援がなされるべきことは当然である。
 政府及び各自治体においては、外国人学校幼保施設に対し、今後積極的な財政的支援をしていくことを求める。

2020年(令和2年)7月2日

福岡県弁護士会 会長 多 川 一 成

緊急声明~修習資金の貸与を受けた元司法修習生に対する貸与金返還の一律猶予を求める~

カテゴリー:声明

1 新型コロナウイルス感染症の全国的な流行、さらに本年4月の緊急事態宣言の発令といった未曾有の事態により、市民生活には甚大な影響が生じている。営業自粛や顧客減少による資金繰りの悪化、賃金カットや解雇、契約のキャンセル、借金返済不能、家庭内でのDV等、深刻な問題が噴出しており、司法に対する法的なニーズは高まっている。しかし、その一方で、この間、全国の裁判所では特に緊急性を要する一部の事件を除いて裁判期日が取り消されたほか、弁護士会の法律相談はじめ法テラス、行政機関等主催の法律相談もほぼ全て中止される等、紛争解決機能に重大な停滞が生じた。
 こうした事態の中で、当会では、新型コロナウイルス問題対応として市民・労働者や事業者に対する各種無料電話相談を行ってきているほか、緊急事態宣言期間中は面談相談から無料の電話相談に切り替えて市民からの相談に対応するなど、司法アクセスを止めないための対応に努めてきた。各弁護士も、市民からの相談・依頼に対応するためにそれぞれに工夫を凝らしてきた。こうした活動に、弁護士になって数年の若手の多くが、積極的な役割を果たしている。
2 このような状況の中で、若手弁護士のうち、司法修習生に対する修習資金(以下「貸与金」という。)の貸与を受けた弁護士については、本年度分の貸与金の返金期限が7月25日に迫っている(平成29年最高裁判所規則第4号による改正前の司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則第7条、修習資金貸与要綱第16条第1項)。
 しかしながら、新型コロナウイルスによる社会生活、経済活動への影響は未曾有の世界的規模のものであり、収入減少等の影響は弁護士にも深刻に及んでいる。特に、弁護士業務を開始して数年ほどしか経過していない若手弁護士への影響は大きく、本年度の貸与金の返済資金を準備することが難しくなるという事態に直面している者もいる。
 因みに、貸与金の返還については、平成29年法律第23号による改正前の裁判所法第67条の2第3項において、一定の場合には最高裁判所が返還期限を猶予することができる旨が定められており、新型コロナウイルス感染防止対策に伴う収入減は「災害、傷病その他やむを得ない理由により返還することが困難となった場合」にあたると解される。また、貸与金の返還期限の猶予を求める場合の申請期限は、原則として当年の5月31日までとされており、提出期限経過後の申請も可能とはいえ、返還期限後に猶予申請が承認された場合には返還期限の翌日から猶予申請が承認される日までの間について延滞金(年14.5%)が発生する(最高裁判所HP)。緊急事態宣言の発令が4月7日であったことや、これによる社会生活、経済活動への影響がその後日を追って現実化、拡大・深刻化してきている状況に鑑みれば、申請のための期限は極めて短く、期限内の対応は困難というべきである。そもそも今回の新型コロナウイルス問題がもたらしつつある社会経済的な極めて深刻なダメージを考えれば、かかる個別的な申請にかからしめる返還猶予の対応では全く不十分と言わざるを得ない。
3 司法は、三権の一翼として、法の支配を実現し国民の権利を護るべき役目があり、その司法の担い手としての公共的使命を負う法曹を、高度な技術と倫理感を備えるべく養成することは、本来的に国の責務である。従って、司法修習生が修習専念義務(兼職禁止)の下でも経済的な不安なく修習に専念できるような修習制度、すなわち給費または給付金の支給により、国から修習中の生活の保障を受けたうえでの修習こそあるべき姿である。そのような見地から戦後60余年にわたり維持されてきた給費制が、2011年(平成23年)に廃止され、2017年(平成29年)に修習給付金制度として部分復活されるまでの間の司法修習生(司法修習第新65期から第70期)、合計約1万1000人(全法曹の約4分の1に相当し、いわゆる「谷間世代」と呼ばれる)は、給費も修習給付金も支給されず無給を強いられ、その多くが貸与金に頼らざるを得なかったものであり、その余の世代に比して、特に不公平・不平等な状況下におかれ、貸与金返済問題や経済的窮状が若手法曹としての使命感に基づくチャレンジへの足かせにもなっている。社会の期待に応え、司法の使命、法曹としての使命を遺憾なく発揮できる態勢を維持するためには、谷間世代の不公平・不平等の是正こそが肝要であることはいうまでもない。
当会は、谷間世代が被っている不公平・不平等の是正を求め、2018年1月に会長声明を発出するとともに、是正施策の一環として、日本弁護士連合会が実施中の谷間世代弁護士に対する一律の給付金(20万円)制度に加えて、当会独自策として、5年間の分割で総額上限30万円の給付金を支給する制度を本年度から実施している。しかしながら、法曹の養成は国の責務であることに鑑み、今後とも、国に対して、一律給付などによる谷間世代の不公平・不平等の抜本的是正策の実現を求めていくものである
4 新型コロナウイルスによる国民生活への影響は、当面の間、相当程度深刻に持続することが予想されるところ、社会的弱者に対する法的サービスを担う弁護士の活動がますます重要になると考えられる。また、直接接触を避け、オンラインでの対応が必要となるなど、弁護士の活動も新たな形で行っていく必要が出てくることも疑いない。このような状況では、進取の精神に富んだ若手弁護士こそがその中心的担い手となるはずである。しかしながら、新型コロナウイルス感染防止対策に伴う収入減の中での貸与金の返済という負担は、若手弁護士の志に基づくチャレンジへの更なる足かせとなりかねないものである。法曹養成の責務を負う国としては、さしあたり、本年度の貸与金の返還の一律猶予(また、これに応じて各年度の返還期限を順次1年ずつ繰り下げること)を緊急不可欠な施策として実施すべきである。
5 よって、当会は、最高裁判所に対し、貸与金の返還義務者に対する本年度の返還を一律猶予(前同)するよう求める。

2020年(令和2年)6月12日
福岡県弁護士会
会長 多川一成

刑事収容施設における一般面会の制限に関する会長声明

カテゴリー:声明

 令和2年4月7日,日本政府により,新型コロナウイルス感染症を対象とする新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき,福岡県を含む7都府県を対象とする緊急事態宣言が発令された。
 これに先立つ同月6日,法務省は,矯正施設の長等に対して「新型インフルエンザ等緊急事態宣言が発出された場合における矯正施設の運営について(通知)」を発出し,緊急事態宣言の対象区域に所在する刑事施設において,弁護人等及び領事以外の者については面会を原則として実施しないこととした。
 政府は,その後同月16日に,緊急事態宣言の対象区域を全国に拡大するとともに,従前からの対象区域に6道府県を加えた13都道府県を特定警戒都道府県と位置づけた。
 これを受けて法務省は,同月17日,矯正施設の長等に対して,新たに「新型インフルエンザ等の緊急事態宣言下における矯正施設等の運営について(通知)」を発出し,同月6日付の通知の効力を停止したうえで,特定警戒都道府県に所在する刑事施設では,引き続き弁護人等及び領事以外の者については面会を原則として実施しないこととした。
 これらの通知を受けて,福岡拘置所を初めとする対象となる刑事施設では,同月8日以降,一般面会の受付業務自体を行っていなかった。その後,同年5月14日の緊急事態宣言の対象区域変更により同宣言が解除された福岡拘置所等の一般面会は再開されたものの,解除されなかった都道府県の刑事施設における上記通達に基づく運用は依然として継続されるものと思われる。また,再び感染状況が悪化して緊急事態宣言の対象区域が拡がれば,福岡拘置所等でも上記運用が再開される可能性が高い。
 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)は,被収容者の権利義務の範囲並びにこれを制限することのできる根拠及び限界を定めることを眼目の一つとして,監獄法を改めて制定された法律であり,未決拘禁者の面会権を保障したうえで,規律秩序を維持するための措置等について詳細な規定を設けている。そして,刑事収容施設法では,感染症の拡大防止を目的として未決拘禁者の面会権を制限することを許容する規定を設けていないのであり,一般面会を原則として実施しないとの上記通達及びこれに基づく運用は刑事収容施設法に違反している。
 これに対して法務省は,国有財産法に基づく庁舎管理権としての運用であり,違法ではないとするようである。
 しかし,そもそも国有財産法は,「他の法律に特別の定めのある場合を除」いて国有財産の管理等に関して定めた法律であって(同法1条),刑事収容施設法に面会制限に関する特別の定めがある以上,これに反する形で庁舎管理権を行使することは法律上許されない。
 実質的に考えても,未決拘禁者の面会権は,未決拘禁者が外部との交通を維持するうえで必要不可欠なものであり,憲法上の表現の自由とも関わる重要な権利であること(林眞琴ほか『逐条解説刑事収容施設法(第3版)』〔有斐閣,2017年〕540頁)や,既にみた刑事収容施設法の立法趣旨に鑑みると,未決拘禁者の面会権を制限する措置については刑事収容施設法に根拠規定が必要であり,国有財産法のような一般的,抽象的な法令の規定がこれに代わり得るものとは考え難い。
 したがって,国有財産法の規定は,上記通達及びこれに基づく運用の法律上の根拠とならないから,上記通達及びこれに基づく運用は,現行法の下では違法と言わざるを得ない。感染症の拡大防止を目的として未決拘禁者の面会権を制限しようとするのであれば,立法措置が必要である。
 国は,刑事収容施設における感染症の拡大を防止して被収容者の生命,身体を保護する責務を有するだけでなく,未決拘禁者の面会権の重要性に鑑み,これを保障する責務をも有する。したがって,立法に当たっては,一般面会を制限する措置を発動するための要件や執り得る措置の内容について専門科学的な見地から吟味されるべきことはもちろん,直接の面会を制限せざるを得ない場合に備え,電話やインターネットを利用した面会等の代替措置を整備することが検討されなければならない(なお,一般面会は,未決拘禁者以外の被収容者にとっても重要なものであるから,拘禁の本質に反しない限り,できる限り尊重されるべきであり,併せて検討されるべきである。)。
 そこで,当会は,国に対し,新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するとともに刑事収容施設における被収容者の面会権を保障するための措置として,早急に次のことを行うよう求める。
1 刑事収容施設における一般面会を制限する措置を発動するための要件や執り得る措置の内容について専門科学的な見地から吟味して立法すること
2 刑事収容施設における電話やインターネットを利用した面会等の代替措置を含む法制度及び体制を整備すること

2020年(令和2年)5月14日
福岡県弁護士会
会長 多川一成

検察庁法の改正の一部に反対する会長声明

カテゴリー:声明

 2020年(令和2年)3月13日、内閣は、国家公務員法等の一部を改正する法律案を国会に提出した。同法案第4条は検察庁法の一部を次のとおり改正するものである。
①検察官の定年を現行の63歳から65歳へ段階的に引き上げる。
②内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案して」、「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として」内閣等が定める事由があると認める場合には65歳の定年後も最長3年間、勤務を延長させることができる(以下、「定年後勤務延長制」という。)。
③63歳以降は、原則として高検検事長、地検検事正等の一定の高位の官職にとどまれなくなる(以下、「役職定年制」という。)。
④役職定年制の特例措置として、前記②と同様の要件がある場合には、63歳以降もこれらの官職を継続できる。
そもそも検察官は刑事手続において起訴権限を独占し(刑事訴訟法247条)、捜査においても警察官等に対し指示・指揮をなし得る(同法193条)等、強大な権限を有することにより、行政官でありつつ実質的に刑事司法の一翼を担っている。検察官がこうした権限を独立して公平公正に行使することが極めて重要であることは、1947年(昭和22年)の検察庁法制定時、1949年(昭和24年)の国公法制定時、1981年(昭和56年)の国公法改正時等の政府答弁や条文改正等を通じて、確認されてきたところでもある。
殊に、検察官が政治的独立性を保つことができなければ、特定の政治勢力の意向に影響された権限行使がなされる結果、適正な捜査がなされなかったり、起訴不起訴の判断が左右されたりすることにより、行政権による司法権の侵害と、憲法の基本原理たる三権分立の侵害を来す危険もある。
上記定年後勤務延長制及び役職定年制の特例措置の規定は、当該規定自体が抽象的であること、及びその要件の定立及び充足性の判断を、内閣からの一定の独立性を有する人事院ですらなく内閣等に委ねていることから、内閣等の裁量的判断を基礎とするため、恣意的に運用されるおそれがある。それ自体が検察官に求められる強い政治的独立性に反し許されない。
仮に、定年後勤務延長制が導入されることになれば、検事総長から副検事に至るまでの全検察官について、65歳の定年後も勤務を継続するために、時の政治権力者やそれに連なる者の意向を慮る恐れが生じ得る。その場合に具体的対象となる事犯は、例えば、政治家の収賄事犯から、交通事犯まで様々なものがあり得る。
また、役職定年制の特例措置規定についても、検事長、検事正等の役職者が63歳以降にその役職を継続するためにはやはり同様の懸念があるが、殊にこういった検察組織の上位にある者が時の政治権力者等の意向を慮るときには、直接の権限行使にとどまらず、配下の検察官への指揮監督にあたっても政治的影響が及ぶことになるから、政治的独立性を損ねた不公正な捜査や訴追がより組織的になされる恐れがあると言わざるを得ない。
よって、当会は、国公法等改正案中の検察庁法の改正案のうち、定年後勤務延長制及び役職定年制の特例措置の導入に、断固として反対する。

2020年(令和2年)4月24日
福岡県弁護士会 会長 多 川 一 成

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