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法の日週間に寄せて 〜裁判員が司法を変える〜

カテゴリー:意見

福岡県弁護士会 会長 川副正敏
裁判員制度 10月1日を「法の日」と定めたのは、1928(昭和3)年のこの日、日本で陪審員による裁判が始まったことに由来する。
 陪審員制度は、それから15年後、戦時体制下で停止されたが、60年余りを経た今、裁判員制度という形で国民の司法参加が実現し、4年後の2009(平成21)年5月までに実施される。
 選挙人名簿を基に作成した候補者名簿からくじで選ばれた6人の裁判員が殺人などの重大事件の裁判の審理に参加し、3人の職業裁判官と同等の立場で有罪・無罪と量刑を決める裁判員制度。一生のうちで裁判員になる確率は約67人に1人と言われている。
国民の司法参加制度は、欧米諸国だけでなく、韓国でも検討が進められるなど、今や世界的潮流である。
 公正な裁判を通じて、犯罪者には適切な刑を科す一方、「疑わしきは被告人の利益に」の原則の下、無実の人を誤った裁判で処罰するようなことは決してあってはならない。これは近代共同体の基本的な正義である。そして、成熟した民主主義社会では、その実現は法律のプロ任せにするのではなく、良識ある判断力をそなえた市民の責務であり、崇高な権利でもある。
 それが裁判員制度の根底にある理念だ。
 市民が裁判に参加することで司法も変わるし、変わらなければならない。迅速で充実した分かりやすい裁判の実現は当然である。
 特に重要なことは、警察官や検察官が起訴前の取り調べで作成した供述調書、ことに取調室という密室での自白が重視されてきたこれまでのような刑事裁判は、裁判員制度の下ではもはや維持できなくなる。裁判員裁判は、公判廷で直接見聞きする証言と客観的証拠に基づく裁判を押し進めることになるだろう。
 そのためにも、取調室の中でのやり取りを客観的な記録に残すこと、すなわち取調過程の録音・録画の導入が強く求められる。
 市民である裁判員がプロの法曹と協働して正義を実現する、それを表すのが二つの輪から成る裁判員制度のシンボルマークだ。\n(10月6日読売新聞朝刊より)

憲法改正国民投票法案に反対する会長声明

カテゴリー:声明

2005(平成17)年10月4日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
1 2005年9月22日、衆議院に憲法調査特別委員会を設置することが決議された。その設置趣旨は、憲法改正手続きについての国民投票法案を審議することにあるとされている。
与党自由民主党と公明党は、すでに2001年11月に発表された憲法調査推進議員連盟の日本国憲法改正国民投票法案に若干の修正を加えた法案骨子に合意しており、これをもとにした法案が提案されると考えられる。\n  憲法は国家体制の基本秩序を定める最高法規であると共に、国家権力から国民の権利・自由を保障することをその本質としている。同時に、憲法改正手続きは国民の主権行使の最も重要な場面である。従って、改正手続きにおいては十分な議論を保証しさらに国民の意思が適正に反映されなければならないことは言うまでもない。\n2 しかるに、法案骨子には以下の問題がある。
(1)第1に、憲法の複数の条項について改正案が発議される場合、各発議毎に投票方法を定めることとされており、各条項毎に投票する制度が保証されていない。仮に異なる条項について一括して賛否を投票する場合、一部賛成や一部反対の有権者は投票が困難となり、有権者の意思を正確に反映させることができない。従って、投票においては、改正点について個別に賛否の表明ができる方法にするよう、法で定めるべきである。\n(2)第2に、法案骨子は国民投票運動について、公務員・教育者の運動制限、外国人の運動の全面禁止、予想投票公表\禁止、メディアに対する報道制限など広範な禁止規定を定めこれを罰則によって担保している。
本来憲法改正にあたっては、できる限り有権者に情報が提供され活発な議論がなされるべきであり、そのためには表現の自由が最大限尊重されなければならない。従って、その規制には十\分な必要性と合理性が求められるべきであるが、上記規制は公選法の制限規定を無批判に取り入れたに等しい。当選人と職務の関係で利害関係が生じかねない選挙と憲法改正の是非を問う国民投票では全く異なる性格のものであることを考えると、公選法の規制が国民投票にも妥当するとはとうていいえないのである。
国民投票運動においては、公務員の政治活動の制限の適用除外等こそ検討され規制緩和をはかるべきであるにもかかわらず、定住者を含めた外国人の運動をすべて禁止するなど、公選法より厳しい規制も含まれており、重大な問題である。
(3)第3に投票の効果については、有効投票総数の二分の一を超える賛成があれば当該憲法改正について国民の承認があったものとするとされている。
しかし、無効票となったものは、少なくとも賛成票とは見なされなかったものであるし、憲法改正について何らかの意思を表示したものであるから、投票しなかったものと同様には考えられない。また、無効票が多い場合は少数の賛成で憲法改正が承認されたと見なされる可能\性もある。
国民投票は国の最高法規たる憲法を改正するか否かを問うものであるから、少なくとも有効投票総数ではなく、投票総数の過半数が賛成を投じたと判断されなければ国民の承認があったと見なされるべきではない。
また、投票率に関する規程がなく低い投票率で憲法改正が実現する可能性があることも問題である。\n(4)第4に、法案骨子では、発議から投票までの期間を30日から90日としているが、これは余りにも短く憲法改正を国民が議論する期間としては不十分と言わざるを得ない。憲法改正の発議について国会で議論される期間があるとしても、最終的な改正案は国会の議決によって確定するのであり、国民はこれについて十\分な議論を行う必要がある。議連案ではこの期間は60日から90日とされており、それでも短すぎるとの意見が出されていたところ、法案骨子ではさらに30日に短縮されており、十分な議論がないまま投票を余儀なくされる可能\性がある。
(5)第5に、国民投票無効訴訟について、投票結果の告示から30日以内に東京高等裁判所にのみ提起できるとすることも問題である。
憲法改正という重要な事項についての提訴期間としては短すぎるし、管轄を東京高裁に限るという点も、広く国民が司法審査を受ける権利を阻害するもので、慎重な検討を要する。
3 以上のとおり、与党の国民投票法案骨子には重大な問題を多く含んでいる。
そもそも憲法改正そのものについても、その最高法規制から憲法の基本原則について改正の対象になりうるかの議論すらあるところ、今回の法案骨子ではその点には全く触れない上、手続き上の規定に含まれる問題点は、国民投票により国民の真摯に国民の意思を問う姿勢で提案されているのか疑念を持たざるを得ないような内容である。
このような重大な欠陥を有する法案骨子をもとにした憲法改正国民投票法案の国会上程には強く反対するものである。
以上

取調べの録音・録画実現とその試験的な導入を求める声明

カテゴリー:声明

2005(平成17)年10月4日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
当会は、さる9月17日、福岡市において、一般市民の参加を得て「密室での取調べをあばく ― 取調べの録音・録画実現に向けて ―\」と題するシンポジウムを開催しました。そこでの内容は、国税還付金詐取事件で無罪判決を勝ち取った前杷木町長による警察や検察庁での自白強要のための取調べの実体験報告、取調べの可視化を試験的に開始している韓国の視察報告、取調べの可視化をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。
これらを通して、密室における取調べは、自白獲得のための長時間にわたる過酷な追及とそこでの暴行・脅迫・人格誹謗などといったさまざまな人権侵害の温床となり、虚偽の自白を生む危険性が極めて大きく、現にそのような実例が後を絶たないこと、諸外国では取調べの可視化が大きな流れとなって進められていることが改めて浮き彫りになりました。\n そして、これを踏まえて、シンポジウムの最後に、集会参加者一同で下記のとおりの提言を全員一致で採択しました。
よって、当会は、関係各機関が一刻も早く、取調べの全過程の録音・録画実施に向けて行動をとられるよう要望し、当面、その試験的な導入を求めるとともに、当会としてもその実現を図るため最大限の努力を尽くす所存です。
以上のとおり声明いたします。

〔提   言〕
弁護士会は、えん罪や不当な取調べによる人権侵害を防止するため、被疑者の取調べ過程の可視化(録音・録画)を強く求めてきました。
そして、今回のシンポジウムで?かかる弊害に対して取調べには人権侵害やえん罪を生み出すなどの様々な弊害があること、?かかる弊害に対して取調べの可視化が有効な対処法であること、?隣国韓国をはじめ諸外国では、被疑者取調べの可視化が広く実施されていること、が確認されました。
また、2009年5月までに導入される裁判員制度のもとでは、これまでの刑事裁判のように被告人の自白の任意性・信用性をめぐって証人尋問がくり返され長期化することは裁判員の負担を加重するばかりか、裁判員の判断を困難にし、裁判そのものの存続を危ぶまれるような事態が憂慮されます。
そのような事態を避けるためにも、取調べの全過程の可視化によって自白の任意性・信用性を判断できるようにしておかなければなりませんが、いますぐに取調べの可視化を試験的に導入しておかなければ4年足らずで始まる制度開始には間に合いません。
現在までに法務省や警察・検察の現場からは取調べの録音・録画が捜査過程に悪影響を及ぼすと、さまざまな理由を述べていますが、そのような反対論が果たして合理的といえるのかは想像の域をでていません。
すでに取調べの可視化について抽象的な功罪を論ずる段階は終わり、試験的に取調べの可視化を導入したうえで、弊害の有無を検証し、よりよい制度設計を目指すべき段階に至っています。
そこで、私たちは、
取調べのすべての過程を録音・録画する制度の実現に向けて、すみやかに試験的な録音録画を導入し、順次運用を開始することを提言いたします。

以上

会 務 報 告

カテゴリー:副会長日記

副会長 藤 尾 順 司
一 六月二八日、裁判官評価アンケートの集計の結果を福岡高等裁判所、福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所に提出しました。今回、四回目となる裁判官評価アンケートは、担当者の懸命な努力の結果、会員数の三分の一に当たる二三三通(前回は一七〇通)を集めることができました。
二 この時期に裁判官評価アンケートを裁判所に提出したのには理由があります。二〇〇四年から裁判官の人事評価制度が実施されています。これは、(1)評価権者及び評価基準を明確化・透明化し、(2)評価のための判断材料を充実・明確化し、(3)評価内容の本人開示と本人に不服がある場合の適切な手続を設ける、というものです。評価権者(所長など)は各裁判官の評価書を作成しますが、これに裁判官の意見も反映させるため個々の裁判官との面談システムが設けられました。六月から面談が始まるため、それに合わせて弁護士会が情報を提供しようということなのです。
三 なぜ、こんなに弁護士会が裁判官評価アンケートに力を入れて取り組むのだろうかと思われるかもしれません。従来、裁判官の人事評価は裁判所内部だけで行われてきましたが、今回の改革により、人事評価において外部情報に配慮しなければならないという制度を設けました。裁判官に関する外部情報を最も多く持っているのは弁護士です。その意味で弁護士は、外部情報を提供すべき社会的な責務を負っていると言えます。
  さらに、裁判官評価アンケートは個々の裁判官にとっても意味があります。裁判官は、自分の裁判が他の裁判官と比較してどういう評価を受けるのか知る機会はなかったのですが、裁判官評価アンケートは、自分の裁判に改善すべき点がなかったか検証する材料を提供することになるからです。実際、ある裁判官が昨年のアンケート結果を開示請求してみたところ、思っていたよりも点数が低かったためショックを受けられたそうです。しかし、その裁判官の今回の評価は以前と比べて点数が上がっていたそうです。昨年の結果から何か得る点があったのかもしれません。こうした意義も重要ですので、今回、裁判官に開示請求をしていただくため、裁判官宛に開示請求のご案内をすることにしました。
四 まだ始まったばかりの制度ですので、限界もあります。裁判所は、公式には、外部情報とは顕名のあるもので、具体的事実を摘示したものでなければならないとして、裁判官評価アンケートは外部情報に含まれないという立場に立っているからです。
  しかし、社会では、地位や職業にかかわらず、外部の評価を受ける時代になりつつあります。大学の教授も学生から評価される時代になっています。ハワイ州では、一九九三年から裁判官評価制度が実施されているそうです。むしろ、外部評価を積極的に取り入れて活かしていくことが求められているのではないでしょうか。前述の司法シンポで、福岡の裁判官評価アンケートは先進的な取組みとして高い評価を受けました。さらに信頼を増していくためには、裁判官評価アンケートの精度を高めていく必要があります。そのためには何よりも多くのアンケートを集める必要があります。アンケートに回答するのは大変、負担だと思いますが、この制度を充実させるために、これまで以上にアンケートにご協力をお願いします。

「ゲートキーパー問題を考える・その2」

カテゴリー:会長日記

会 長 川 副 正 敏
一 日弁連理事会の審議結果
 ゲートキーパー問題に関する日弁連執行部の新行動指針について、六月一六日と一七日に開催された日弁連理事会で審議・採決が行われました。結果は、賛成六九、反対七、保留五、棄権〇の圧倒的多数で可決されました。
 採択された新行動指針の要点は次のとおりです(詳細は月報六月一日号参照)。
「依頼者の疑わしい取引の報告義務制度の立法化に反対しつつも、その動向を踏まえ、会規制定を行うことも視野に入れて、次の行動指針について会内合意の形成に努めるとともに、関係機関との協議を進める。
(1) 「疑わしい取引」の範囲は、客観的に疑わしいと認められる類型に限定する。
(2) 守秘義務の範囲は、この制度によって新たに制約されることがなく、訴訟手続を前提としない法的アドバイスの提供についても守秘義務の範囲内であることを明確にする。
(3) 報告先は日弁連とし、いかなる形でも関係省庁の影響を受けないものとする。」
二 私の意見
 当会選出の日弁連理事である私と近藤副会長はいずれも反対を表明しました。\n 私が理事会の席上で発言した意見の要旨は以下のとおりです。
「会員に対する刑事罰を背景とした官公庁への権力的報告義務制度の立法化が不可避の状況にある中で、日弁連執行部がこれを防ぐために、『疑わしい取引』 や守秘義務の範囲に関する第一次的判断権を日弁連とする必要があると判断し、よりましな選択として、日弁連を報告先とする自律的制度を提起されたこと自体は理解できる。
 しかし、マスコミを含めた一般国民はもとより、多くの会員の間でも、この制度が守秘義務とこれに支えられた依頼者との信頼関係を基盤とする弁護士業務のあり方に根本的な変容をもたらしかねない重大な問題であるとの切迫した認識には至っていないといわざるをえない。
 日弁連執行部は、本行動指針に基づいて、いわば条件闘争を行った末に、結果的に三つの条件を獲得できなかったときは再度全面的な反対運動に取り組むと言われる。しかし、このような会内外の状況下では、その段階になって改めて運動を展開するエネルギーを生み出すのは極めて困難なことではないだろうか。
 遅ればせながらとはいえ、事態が切迫した状況に直面している今こそ、中長期的なたたかいをも見据えた抜本的反対運動の構築に向けた大方の会員の共通認識を醸成することがそれに劣らず重要だと考える。\n 現時点では、そのための全会的な取組みがなされたとは言えないと思う。そのような段階で条件闘争の方針を打ち出すことには賛成できない。」
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 この案件について、県弁執行部は極めて重大な問題であるとの認識に立ち、日弁連からの情報提供とあわせて、Fニュースや月報で問題点のご報告と意見聴取をしてきました。また、定期総会・常議員会に諮り、関連委員会での検討もお願いしました。しかし、残念ながら当会内での議論を十分に深めるには至りませんでした。\n このような中で、執行部内で議論を重ねつつ、私自身、ぎりぎりまで判断しあぐねましたが、最終的には、右のような理由で、現段階ではこの行動指針には反対せざるをえないとの決断をした次第です。
 結果的にはごく少数派でしたが、賛成を表明した理事の多くも、各単位会内では賛否の意見が拮抗しており、迷った末の判断だと述べていました。\n その意味で、今回の日弁連理事会決定は、その票差から受ける印象とは異なり、ぎりぎりの苦渋の選択であったといえます。
三 今後の展開など
 日弁連執行部は、採択された新行動指針に基づき、これから法務省等との厳しい協議に臨むことになります。
 そして、その結果如何によっては、今年度中にも、日弁連を宛先とする「疑わしい取引」の報告義務を定める会規制定如何が理事会・総会に付議されることになる可能性があります。その段階では、新行動指針の三条件が実質的にどこまで獲得できたか、あるいはその見込みがあるかといった点を含めた判断が迫られます。\n このように、新行動指針に基づく日弁連のこれからのたたかいは、基本的には「疑わしい取引」の報告義務制度に反対の姿勢を堅持しつつも、立法化不可避の状況下では、当面、報告義務制度の中に頭書の三条件を確保して、可能な限り毒素を取り除くことにより、弁護士業務における守秘義務と弁護士会自治を守るとともに、中長期的には制度自体の廃止を追求していくということになります。\n いずれにしても、議論を重ねたうえで組織的決定がなされた以上、全単位会・全会員が一丸となって、この方針に基づく報告義務制度の最終的な廃絶に向けた日弁連の取組みを支えていかなければなりません。
 会員各位の一層のご理解とご協力をお願いします。

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