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生活保護基準の引き下げについて慎重な検討を求める声明

カテゴリー:声明

厚生労働省は、本年10月19日、学識経験者によって構成される「生活扶助基準に関する検討会(第1回)」(以下「検討会」という。)を開催した。同省のホームページにおいて検討会の設置及び開催が発表されたのは同月16日であり、それからわずか3日後の突然の開催であった。
 「検討会」は「平成20年度予算編成を視野に入れて結論が得られるよう検討する。」という。そして、北海道新聞(本年10月18日朝刊)の報道によれば、「検討会」は年内に報告書をまとめ、生活保護の給付の基本となる最低生活費の基準額の引き下げを提言する見通しであり、地域ごとに支給額に差をつけていた「級地」制度の見直し方針と相まって、都市部では大幅な生活保護基準の引き下げが懸念されるという。
 しかし、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、国民の生存権保障に直結する重大な基準である。
 日本弁護士連合会が昨年7月に実施した「日弁連全国一斉生活保護110番」においては、生活に困窮した市民の切実な訴えが多数寄せられたが、生活保護基準が引き下げられるということは、現に生活に困窮している市民のうち、生活保護を利用して困窮から脱することができなくなる人が増加することを意味する。
 しかも、生活保護基準は、介護保険の保険料・利用料・障害者自立支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、また、自治体によっては国民健康保険料の減免基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策にも連動している。
 このように、生活保護基準が引き下げられれば、生活保護利用者の生活レベルが低下するだけでなく、日本で生活する低所得者全般に直接の影響が出てくる。特に年収200万円以下の労働者(いわゆるワーキングプア層)にとっては、上記諸施策への連動が及ぼす影響は重大であり、増大するワーキングプア層の生活を更に苦況に追い込むことになりかねない。
 したがって、生活保護基準に関する議論は、十分に時間をかけて慎重になされるべきである。また、こうした議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護利用者の声を十分に聴取してなされるべきである。
 にもかかわらず、上記の新聞報道のとおり、厚生労働省の「検討会」が、わずか2ヶ月足らずの検討期間しか設けず、あらかじめ「引き下げ」の提言をするとの結論を決めた上で検討を行うものであるとすれば、既に述べた生活保護基準の重要性に鑑み、到底容認することができない。
 当会は、昨年、日本弁護士連合会において採択された「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を受けて、生活保護をめぐる相談・援助体制を構築及び生活保護制度全般にわたる調査・検討を行う委員会を発足させ、貧困問題の解決に向けて取り組んでいるところである。
 厚生労働省及び「検討会」に対し、結論先にありきの拙速な検討を厳に慎み、公開の場で生活保護利用者の声を十分に聴取し、徹底した慎重審議を行うことを強く求める。
                2007(平成19)年10月29日
                  福岡県弁護士会           
                  会 長   福  島  康  夫

「少年警察活動規則の一部を改正する規則案」に対する会長声明

カテゴリー:声明

警察庁は,2007年9月,改正少年法の施行に伴う「少年警察活動規則の一部を改正する規則案」(以下「規則案」という。)を公表した。
 しかしながら,規則案のうち,?「ぐ犯調査」に関する規定(規則案第三章第三節)は全面的に削除すべきであり,?「触法調査」に関する規定(規則案第三章第二節)中に,警察官が少年に対する調査を行う際に,弁護士付添人を選任できること,質問に答えない権利があることを告知する規定を定めるべきである。
1 「ぐ犯少年」とは,親元に帰らない,暴力団とつきあいがある等の事情から判断して,将来,罪を犯すおそれのある少年のことであるが(少年法3条1項3号,少年警察活動規則2条4号),規則案では,「ぐ犯少年」であると疑うに足りる相当の理由のある少年について,警察官が調査できることを明確に規定している(規則案27条,30条)。
  しかし,先の通常国会に上程された少年法改正案の中に同趣旨の規定が存在していたが,国会審議の際,「警察官による調査権限の及ぶ範囲が不明確で,調査対象の範囲が過度に拡大するおそれがあるという懸念」から,全党一致で改正案から削除された経緯がある。今回の改正は,あえて法律で規制をしないことを決めた事項について,法律より効力の弱い国家公安委員会規則でこれを規制しようというものであり,国会の権能を無視したものであることは明らかであり,国会が国権の最高機関であり唯一の立法機関であることを定めた憲法41条にも抵触するおそれがある。実質的にも,警察庁作成の「少年非行等の概要」によれば,2006年度に,深夜徘徊,喫煙などの不良行為で警察が補導した少年の数は140万人を超えている。これらの少年と「ぐ犯少年」との境界線は極めて曖昧であることから,仮に,「ぐ犯調査」が許容されることになると,警察官が捜査の名を借りて,様々な情報を収集することが可能となり,まさに警察主導の監視社会化につながりかねない。
  以上の点から考えて,「ぐ犯少年」に対する警察官の調査権を定めるべきではない。
2 「触法少年」とは,罪を犯したが刑罰を科されることのない14歳未満の少年のことであるが(刑法41条,少年法3条1項2号,少年警察活動規則2条3号),警察官が「触法少年」に対する調査を行う際に,少年には,弁護士である付添人を選任することができる権利(少年法6条の3)及び強制にわたる質問を受けない権利(同法6条の4,2項)が保障されている。これらの規定は,元来,少年は大人以上に警察官に迎合した供述を行ったり,暗示や誘導を受け易い傾向があり,その結果,警察の取り調べにおいて,虚偽の自白が行われ冤罪を生み出す危険性が大きいとの事実を踏まえて定められたものである。しかし,このような権利が定められても,実際に調査を担当する警察官が,少年に対して権利の告知をしなければ,権利が保障されたとはいえない。
  ところが,規則案では,調査にあたり,警察官が少年に対し,「弁護士付添人を選任することができる」旨,及び「その意思に反して質問に答えなくても良い」旨を告知することをまったく規定していない。したがって,上記少年法の趣旨を貫徹するためにも,これらの点を規則案に明確に規定すべきである。
                 2007年10月12日
                 福岡県弁護士会 会長 福 島 康 夫

福岡県弁護士会会長日記

カテゴリー:会長日記

                        会 長  福 島 康 夫(30期)
自主事業に関する意見書提出(7月5日)
法律扶助協会が解散して、被疑者弁護援助制度、少年付添人援助制度、精神保健当番弁護士制度等法律扶助協会福岡県支部等各地で行ってきた9つの自主事業が10月から法テラスに委託されることになった。将来的には国の制度とするための方策である。これで国選少年付添人制度の実現に向けての第1段階が確保できたし、そのための財政基盤も安定的といえるところまできた。
当会では会員に対する報酬は従来どおり被疑者弁護援助制度の事件で1件7万円、少年付添人事件で1件10万円が支給されることになる。ただし、今後は財政的に安定し報酬減額の危険性はなくなったし、件数制限という事態もなくなった。
死刑、無期、短期2年以上の法定刑が対象であるが、国選付添人制度も11月から始まることになる。対象事件は福岡県内で年間40乃至50件程度と少ないが、今後国選付添人制度の対象事件が拡大する可能性を持っている。11月1日に浜松で開催される人権大会のシンポジウムの第2分科会では国選付添人制度がテーマとして意見交換がされることになっている。多数の参加を期待したい。
ところで、日弁連は3月になり、自主事業の方法について地方の意見を全く聞かないまま、いわば一方的に運用や書式を決めて実施するよう要請してきた。そのためにこれまでの当会の知恵とノウハウが全く生かされず、ギクシャクした4ヵ月であった。使い勝手の悪い運用は変えなければならない。当会はこれまでの当会が工夫をしてきた運用等を今後も継続するため、6月28日に日弁連に意見書を提出した。意見がとおらなければ当会の自主事業が発展できるかどうか疑問となる。その後、7月5日に私と斉藤副会長の2人で日弁連に赴き、日弁連の山田庸男担当副会長他3名の日弁連の自主事業に関する責任者と協議をした。短時間で日弁連執行部を説得しなければならない。私は真剣勝負という気持ちで臨んだ。当会としてはこれまで十数年以上にわたって工夫を重ねて育ててきた各自主事業のやり方を尊重するように要請をし、上から一方的に押しつけられた状態では会員には不満感が強いこと等を訴えた。当会が全国3600件の付添人事件の内の800件を付添人として受任し、全国8000件の内の1000件の被疑者弁護人援助制度事件を受任しているという実績も説明した。当日用意していた日弁連の最初の回答は殆ど全部がノーということであったが、福岡の意図や実情がわかったので再度検討するということであった。結局、協議の時間は1時間40分以上に及んだ。
更に、その後7月11日には補充の要望書を提出し、7月13日の日弁連理事会でも私が意見の趣旨を説明した。そして、8月25日の日弁連理事会で日弁連と法テラスの本部で検討した結果の説明がなされ、最終的には被疑者に負担させることがあるという条項をなくした書式を使用できる等基本的にはこれまでの福岡の方式を継続することができるようになった。
日弁連では事前の周到な準備なしに提案や発言をしても受け入れられないと思う。日弁連の内部で検討されている早い段階から、事前に県弁の意見を書面で提出し、更に口頭で説得するということをすれば、意見が採り入れられる可能性が十分にあることを実感した。今後は何よりも用意周到な準備が必要であると思った次第である。
  
2弁、札幌との3庁交流会(7月7日)
当会は国内、海外あわせて毎年4つの交流会に参加している。
2弁、札幌との3会交流会、大阪、広島との3会交流会、横浜、名古屋との三会交流会釜山地方弁護士会との交流会である。出席者はいずれも執行部、議題を決めて率直な意見交換をすることにしており、これまで開催したどの交流会も活発な意見を交換できた。
2弁、札幌との交流会は7月7日、札幌弁護士会館で開催された。一昨年までは2弁との交流だけであったが、昨年からは札幌を交えての3会交流となった。場所は札幌弁護士会会館。裁判所のすぐ近くに建つ自前の7階建ての立派な会館である(羨ましい!)。
今回の議題は多重債務問題、都市型公設事務所、拠点事務所等についてザックバランな意見交換をした。多重債務問題では当会のTVCMを見てもらった。釜山地方弁護士会との交流でもTVCMを活用したが、今年はありとあらゆる機会にこの多重債務TVCMを活用することにしている。
九弁連合宿(8月3日)
恒例の九弁連合宿を8月3日に当会の会館で実施した。参加者は九弁連の理事と主任約50名。
テーマは法曹人口問題と取り調べの可視化の2つに絞った。
法曹人口問題は今年の宮崎の九弁連大会のシンポジウムが弁護士過疎、偏在問題という関係から選んだテーマであり、講師は当会の永尾広久会員と前田豊会員。そして、宮崎の後藤好成会員から現在までのシンポジウムでの検討状況の報告がなされた。今回の法曹人口問題のテーマは九弁連大会のシンポジウムに反映される予定である。
取り調べの可視化の講師は鹿児島志布志事件の弁護人の野平康博九弁連理事と佐賀北方事件の一審の弁護人の浜田愃九弁連理事。九州の2つの代表的な冤罪事件の弁護人が九弁連の理事であるという点で全く偶然であり幸いであった。両事件とも裁判の審理期間は2年半から3年半に達しており、この大半が取り調べ状況の内容の審理であった。両弁護士は期せずしていずれの事件でも取り調べ状況を録画していたら起訴はされなかったはずであると話されていたのが印象的であり、生の事件を題材にして現実の裁判の問題点が明確になった。裁判員裁判で、市民の裁判員を巻き込んで今後も延々と長期間の審理をするのであろうか。裁判員裁判の実施は残すところ1年8ヵ月に迫っている。
本年度はシンポジウムが花盛り
当会の委員会活動は活発である。そのため5月からは対外的なシンポジウムの開催が目白押しの状態である。今後の予定を加えるとざっと次のとおりとなる。本年度はこれに6月22日に第22回司法シンポジウムが大々的に開催されており、シンポジウム花盛りの年である。シンポジウムの準備段階から関係していただいた会員各位の献身的な活動に感謝したい。
5〜6月 憲法市民連続講座
6月9日 
クレジットシンポジウム「悪質商法とクレジットがもたらす深刻な消費者被害〜消費者が保護される安全なクレジット社会」
7月21日 
人権擁護大会プレシンポジウム「監視カメラとまちづくり」
7月27日 
民暴拡大協議会プレシンポジウム「企業内対象暴力〜21世紀の企業防衛のあり方」
8月25日 
憲法シンポジウム「今なぜ、何が問題か?〜憲法改正問題を考える」
9月1日 
取調べの可視化シンポジウム「密室からの叫び!〜取調べの全過程の録画実現を目指して〜」
9月15日 
人権擁護大会プレシンポジウム「すべての非行少年に弁護士付添人を!非行少年の実態を踏まえて〜国選付添人の全面的な実現を目指して〜」
9〜10月 憲法市民連続講座
11月16日 民暴拡大協議会
これまで全部のシンポジウムに出席したが、いずれもレベルが高く短時間で要点を掴んだ内容であり、勉強になった。これまでは余り関係のなかった分野でシンポジウムに出席することは刺激的であり新鮮である。
会員の皆さんにも時間の許すかぎり出席することをお勧めしたい。必ずや有意義な時間を持つことができること間違いない。
シンポジウムの内容等については弁護士会ニュースや月報、ホームページ、Fニュース等でチェックして頂きたい。

死刑執行に関する会長声明

カテゴリー:声明

2007年(平成19年)8月23日
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
1 本日、東京拘置所及び名古屋拘置所において3名の死刑が執行された。
  今回の死刑執行は、昨年12月の4名、本年4月27日の3名に続くものである。
2 我が国では、過去において、4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪が確定している。また、本年4月にも、佐賀県内で3名の女性が殺害されたとされる事件(いわゆる北方事件)で死刑求刑された被告人に対する無罪判決が確定した。このような実例は、死刑事件についても誤判や誤った訴追があることを明確に示している。
  また、死刑と無期刑の選択についても、裁判所の判断が分かれる事例が相次いで出されており明確な基準が存在しない。
  我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した状態におかれ、特に過酷な面会・通信の制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなって来た。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが、未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど、死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難い。
  このような状況のもとで、今回死刑が執行されたことには重大な問題があると言わざるを得ない。
3 国際的にも、1989年(平成元年)に国連総会で採択された死刑廃止条約が1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。すなわち、すでに死刑制度を全面的に廃止した欧州地域をはじめとし死刑廃止国が130か国であるのに対し、死刑存置国は67か国(本年7月31日現在)である。そのような潮流の中で、国連規約人権委員会は、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
  国内的にも、1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見では、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。
4 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、日本弁護士連合会も、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。
  当会も、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組み、死刑が執行されるたびに、会長声明において、死刑執行は極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望も重ねてきた。
5 さらに、2007年(平成19年)5月18日に示された、国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち、死刑確定者の拘禁状態はもとより、その法的保障措置の不十分さについて、弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で、死刑の執行を速やかに停止すること、死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと、恩赦を含む手続的改革を行うべきこと、すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと、死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと、すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。我が国の死刑確定者が、同条約上の保護を与えられていないことが明確に指摘され、それゆえ、勧告の筆頭に死刑執行の速やかな停止が掲げられているのであって、その意義は極めて重い。
6 以上述べたように国内的にも国際的にも、日本の死刑制度に対する非難が高まった状況下において断行された今回の死刑執行は、我が国が批准した条約を尊重しないことを国際社会に宣言するに等しい。
7 当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。

割賦販売法改正についての会長声明

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産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会が本年6月19日に中間整理案を発表した。
この整理案では,従来からの加盟店管理を求める行政指導や業界の自主的取組にもかかわらず,悪質販売業者による高齢者等を狙った強引又は詐欺的な勧誘による被害が多発し,それにクレジット会社が安易に与信をして救済が十分なされないケースが相変わらず発生しているという現状が指摘され,このようなクレジットトラブルの背景にはクレジットシステムの構造的危険性があり,クレジットシステム提供者として一定の責務があるという認識を示している点は十分評価できる。
この整理案で議論されている論点のうち,このようなクレジット被害救済や防止に不可欠な不適正与信の防止,過剰与信防止の2つの論点では複数の意見が併記された形になっており,今後の議論次第ではどのような結論になるのか予断を許さない状況になっている。
当会は,本年6月9日に九州弁護士会連合会との共催でクレジットシンポジウムを開催し,アピールを採択したところであるが,改めてクレジットトラブルを真に救済し防止できるような制度改正が是非とも必要であると考え,この中間整理案の2つの論点について以下のような意見を述べる。
1,不適正与信の防止について
中間整理案で,不適正与信を行ったクレジット事業者に対して経済的不利益をもたらすような何らかの民事ルールが必要であると指摘している点はその通りである。しかしながら,その方策として信義則を拠り所にした過失「損害賠償責任」説と,日弁連が提唱する無過失「共同責任」説が両方紹介されている点については,前者は妥当でなく,あくまで後者こそが妥当であると考える。
  まず,同整理案がクレジットシステムの構造的危険性を指摘し,システム提供者の責務を議論しているところからすると,それで利益を得ているクレジット事業者には被害防止の責任を負わせるべきことが当然導かれるものと考える。
  そして,悪質商法と結びついたクレジット被害の予防・救済の見地からは,現行の抗弁対抗規定(割賦販売法30条の4)だけでは,クレジット事業者が加盟店への与信を適正に行う動機付けとしては不十分であり,既払金の返還という法的効果を定めるべきである。
  その際,消費者側がクレジット会社と加盟店との間の内部事情を知ることは極めて困難であることから,既払金返還に伴ってクレジット会社の故意・過失の証明 を要求すると現実の救済には繋がらないことは明らかであり,過失損害賠償責任説は妥当とは思われない。
  よって,実効的な被害の予防・救済のため,クレジット会社の無過失の共同責任を定めることが不可欠である。
2,過剰与信の禁止について
中間整理案が次々販売等による過剰与信を防止する責務があると指摘している点,信用情報調査による支払能力の調査及びその結果による信用情報機関への登録を義務づけるべきとの指摘はその通りである。
 しかし,現在多発している次々販売等の過剰与信被害を予防するためには,ク レジット会社の明確な過剰与信基準を法律で定めた上で,これに違反したクレジ ット会社に対しては厳しいペナルティを課す必要があると考える。過剰与信基準については,顧客の債務額が一定の基準を超える場合はそれ以上クレジットの利用ができないよう厳しい審査を求めるとともに,販売信用の特性に見合った基準を設けることでバランスをとるべきである。
  また,個々の販売行為が詐欺や特商法違反などに当たらなくとも,高齢者等を狙った著しい過剰与信被害が発生している現状からして,このようなケースを救済するためには,クレジット会社の請求権制限等の民事的効果を明文で定めるべきものと考える。
  当会は,このような割賦販売法の改正が実現されて初めてクレジット被害が根絶され,消費者が真に保護される安全なクレジット社会を構築できるものと考える。その結果として,消費者とクレジット業界双方に利益がもたらされることになり,健全なクレジット社会の発展が実現できると確信する。
3,結論
  以上をふまえ,当会は,割賦販売法の改正においては,下記の制度を設けることを要望する。

 ? 不適正与信による被害の予防・救済のため,クレジット会社の無過失の共同責任を定めること。
 ? 過剰与信による被害を防止するため,クレジット会社の明確な過剰与信基準を定め,かつ,これに違反した場合には,請求権制限等の民事的効果を定めること。
  
                2007年(平成19年)8月8日
                      福岡県弁護士会
                       会 長  福 島  康 夫

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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