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すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言

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すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言
1 県下において深刻化する貧困と社会不安の増大
現在,我国においては,解雇が急増して雇用不安が深刻化するとともに,非正規雇用労働者・母子・高齢者・障害者家庭等の貧困の拡大と生活の窮乏化が進行している。一方,これを補うべき社会保障分野のセーフティネットも崩壊状況にあり,極めて深刻な社会不安が広がっている。
この福岡県内においても事態はたいへんに深刻である。
生活保護行政については,行政による違法な窓口規制によって生活保護を利用できるはずの人が申請に行っても追い返されている実態があり,北九州市においては生活保護から排除された市民が餓死・孤独死するという事件も発生している。
派遣労働者,パートタイマー,アルバイトなどの非正規雇用労働者の多くは,まじめに働いても低賃金のため生活費をまかなうことができず,サラ金などから借金して多重債務者となり,或いは失職して住居を喪失する人も少なくない。福岡県内のホームレスの数も全国で最も増加している。
また,当会が本年3月9日に実施した「生活保護・派遣切り110番」においても,不当な生活保護行政と派遣切りによって多くの県民が苦しんでいる実態が明らかとなった。
2 憲法が保障するすべての人が人間らしく尊厳をもって生きる権利は危機的状況にある
憲法は,個人の尊厳原理に立脚し,幸福追求権について最大の尊重を求め(13条),法の下の平等を定め(14条),勤労の権利(27条)や教育を受ける権利(26条)を保障している。これらの規定によれば,憲法は,すべての人に,公正かつ良好な労働条件のもとで,人間らしく働き,生きる権利を保障している。
さらに憲法25条は,「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定め,「国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなれければならない」と定めている。
しかし,前述した貧困と生活窮乏の実態は,これら憲法が保障しているすべての人が人間らしく尊厳をもって生きる権利が危機的な状況にあることを示しており,これらの解決を図ることは,我国の社会において緊急の課題というべきである。
3 当会における緊急対策本部等の設置と取り組み
前述の情勢は,「基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする」弁護士と弁護士会が,すべての人の人間としての尊厳をもって生きる権利を擁護し支援する活動を緊急に展開することを求めている。
当会は,今般,日本国憲法の原理と弁護士法上の使命に鑑み,弁護士・弁護士会として行うべき緊急の取り組みを具体化するため,この問題に関連する各委員会の協議をへて,「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を立ち上げた。また,司法制度委員会の中に労働法制部会を設置して労働者派遣法の抜本改正等あるべき労働法制の調査研究を進め必要な提言を行うこととした。
緊急対策本部においては,生活保護受給を求める申請代理人の活動や違法な派遣切りや雇い止めの是正を求める労働局に対する申告代理人の活動,その他,生存権,労働権を擁護し支援するための各種法律相談活動を担当する支援当番弁護士等による法的緊急支援サービスに取組み,社会的セーフティ・ネットを再構築するために,当会としてできうる限りの活動を推進することをここに宣言する。
4 国・地方自治体及び市民に対する呼びかけ
すべての人の尊厳と生存権を確保するために,国と地方自治体が果たすべき役割と責任は大きいものがある。そこで当会は国・地方自治体に対し,以下の諸方策を実施するよう強く求めるとともに,併せて,広く市民に対して,日本国憲法の理念にたって,真に人の尊厳を基調とする社会に転換するためにともに手を取り合って努力することを呼びかけるものである。
(1) 国は,非正規雇用の増大に歯止めをかけワーキングプアを解消するために,労働法制と労働政策を抜本的に見直すこと。特に労働者派遣法制の抜本的改正を行うべきである。
(2) 国と都道府県は,全ての勤労者が人間らしく文化的な生活を営むことのできるように最低賃金を引き上げること。併せて失業者政策を抜本的に強化すること。
(3) 国及び地方自治体は,社会保障費の抑制方針を改め,また,ホームレスの人も含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように,社会保障制度の抜本的改善を図り,セーフティネットを強化すること。
(4) 国及び地方自治体は,中小企業対策を緊急に行い,中小企業における経営と雇用の維持に対する支援を強化すること。
(5) 国は,障害者自立支援法について,応益負担制度を廃止するとともに,障害程度区分制度を障害者の自己決定権に最大限配慮し障害者のニーズに応じて必要なサービスを受給できるような内容に改めることを柱として抜本的な改正を行うこと。
   
                      2009年(平成21年)5月25日 
                      福岡県弁護士会定期総会
              宣言の理由
第1 拡大し深刻化する貧困とセーフティネットの崩壊
1 貧困と格差の存在
従前から,我国には深刻な格差と貧困の問題が存在してきた。たとえば,貯蓄なしの世帯は,1990年代後半から急増し,2人以上世帯では約2割,単身世帯では約3割に達していた(金融広報中央委員会2007年家計の金融行動に関する世論調査)。国民健康保険の保険料滞納世帯も増加し,保険証を使えない「無保険者」も2007年(平成19年)には34万世帯となっている。また,生活保護利用世帯は112万世帯,生活保護利用者は156万人と(厚生労働省福祉行政報告例2008年4月分),10年間で46万世帯,61万人が増加している。貧困が拡大する中で,わが国の自殺者数は,1998年(平成10年)から10年連続で3万人を超え,2007年(平成19年)の約3万3000人のうち7300人が経済苦を理由としていることが明らかになっている(警察庁2008年6月発表)。
この福岡県内においても事態はたいへんに深刻である。生活保護行政については,行政による違法な窓口規制によって生活保護を利用できるはずの人が申請に行っても追い返されている実態がある。北九州市においては生活保護から排除された市民が餓死・孤独死するという事件も発生している。派遣労働者,パートタイマー,アルバイトなどの非正規雇用労働者は,まじめに働いても低賃金のため生活費をまかなうことができず,サラ金などから借金して多重債務者となっている人も多く存在している。2007年(平成19年)の厚生労働省の調査によると,福岡県内のホームレスの数は1117名にも及んでおり,全国で最も増加している。
また,当会が本年3月9日に実施した「生活保護・派遣切り110番」では,1日で68件の相談が寄せられ,不当な生活保護行政と派遣切りによって多くの県民が苦しんでいる実態が明らかとなった。
2 大量のワーキングプアを生み出した労働法制の規制緩和
 我国においては,もともと多くの女性労働者がパート労働者として不安定かつ低賃金労働に従事してきており,特に,母子家庭のワーキングプア問題は従来から深刻な問題であった。このような従来からのワーキングプア層に加え,1990年代後半以降「ネットカフェ難民」の出現などに象徴されるように新たにワーキングプアに落ち込む人々が急増した背景には相次いだ労働法制の規制緩和がある。
1999年(平成11年)「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(以下「労働者派遣法」という。)が改正されて派遣対象業務が原則自由化され,さらに2003年(平成15年)改正により製造業務にまで拡大された。労働基準法についても従前1年とされていた有期雇用の契約期間の上限が1998年(平成10年)改正に続く2003年(平成15年)改正により原則上限が3年,特例上限が5年に緩和され,「有期雇用契約」による不安定雇用も増加した。
こうした法改正の結果,非正規労働者は,1890万人に及び全雇用労働者数に占める割合は,1992年(平成4年)の21.6%から今や35.5%と過去最高に達した。(総務省2007年就業構造基本調査)。非正規労働者の平均現金給与月額は20万9800円と正規労働者の6割で,特別給与を考慮すると5割の水準にとどまる(厚生労働省2007年賃金構造基本統計調査)。年収200万円以下で働く民間企業の労働者が,2006年(平成18年)には1000万人を超え1023万人にまで増加した(国税庁2006年分民間給与実態統計調査)。勤労世帯(就業中のほか,求職中の世帯を含む。)中,生活保護基準以下の生活を営んでいる貧困世帯の数及び割合は,1997年(平成9年)の458万世帯(12.8%)から2007年(平成19年)には675万世帯(19%)に増加している(総務省就業構造基本調査に基づく後藤道夫都留文科大学教授による分析)。
3,社会不安を顕在化させたセーフティネットの崩壊
 このような中,昨年のアメリカの金融危機に端を発した急激かつ深刻な世界同時不況の波が襲っている。これにより派遣労働者或いはパート・アルバイト等の非正規雇用労働者に対する派遣打ち切り,雇止,解雇等が急増して,雇用不安が一気に強まり,非正規雇用労働者,母子家庭,高齢者障害者等,いわゆる社会的弱者を中心に我国における貧困の問題が一挙に顕在化して,その深刻さの度合いを著しく強めている。
1990年代を通じて実施されてきた規制緩和を軸とした構造改革政策は,一方において日本型雇用の解体や非正規雇用を増大させることによって社会保障への需要を大きく増加させながら,他方において,社会保障そのものを大リストラの対象とし,雇用保険の給付削減,児童扶養手当の縮減等の給付削減や負担増,医療費の国庫負担の削減などによる社会保障費の系統的な抑制を進めてきた。その結果,「介護崩壊」「医療崩壊」等という言葉が飛び交うほどにわが国の社会生活上のセーフティネットは崩壊の危機に直面しており,社会保障の機能不全は極めて深刻な事態にある。
そうした中で失業等による勤労収入の低下が生活の崩壊に直結し,生存権が侵害されるという構造が作られているのである。
第2 憲法が保障する人間らしく働き生きる権利はいま危機的な状況にある
 憲法13条は,個人の尊厳原理に立脚し,幸福追求権について最大の尊重を求めている。また,憲法25条は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障し,この生存権の保障を基本理念として,憲法27条の勤労の権利及び28条の労働基本権は,勤労者に対して人間に値する生存を保障すべきものとする見地に立ち,勤労の権利及び勤労条件を保障し,経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と平等とを確保するための手段として労働基本権を保障している。また,憲法14条は法の下の平等を定めているのであって,結局,憲法は,すべての人に,公正かつ良好な労働条件を享受しつつ人間らしく働き,かつ生活する権利を保障しているというべきである。
しかしながら,前述のとおり,雇用における規制緩和の過度の進展と社会保障制度の大幅な後退という事態が進み,更に,世界同時不況という状況の中で非正規雇用労働者を中心に雇用不安が極めて深刻な状況となっており,これに伴って正にその日の生活も,あるいは明日の命自体が脅かされるという現実が生じている。本来憲法が保障しているすべての人が人間らしく働き生きる権利は極めて危機的な状況に置かれており,ひいては人間の尊厳が脅かされる事態となっていると言わざるを得ない。この状況の解決を図ることは,我国の社会において緊急の課題である。
第3 生存権の擁護と支援のための緊急対策の促進とセーフティネット再構築のよびかけ
1、当会の取り組み
当会は,従前より生活保護問題対策委員会を設置して,生活保護問題を中心に取り組みを進めてきた。本年3月には,生活保護申請等に関して相談活動窓口を設け,当番弁護士の社会保障版との報道もなされた。しかし,前述のような状況に鑑みるとき,単に生活保護の局面のみにとどまらない,労働法制や社会保障制度などをも視野に入れた幅広い総合的な取り組みが是非とも不可欠であるとの認識に立って,この間,当会は,憲法委員会,生活保護問題対策委員会,消費者委員会,高齢者・障害者委員会,精神保健委員会,個別労働紛争問題PT,人権擁護委員会,多重債務者救済本部,両性の平等に関する委員会,子どもの権利委員会及び行政問題委員会など,これらの問題に関連する各委員会において協議を進めてきた。
そして今般,弁護士会及び弁護士として行うべき緊急の取り組みを具体化して今回の深刻な不況と国民生活の窮乏化に多面的かつ総合的に対処するために,当会会長を本部長とする「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を立ち上げることとした。また司法制度委員会の中に労働法制部会を設置し,現在のワーキングプアを生み出してきた主要な法制度である労働者派遣法の抜本的改正を始め,あるべき労働法制を調査研究し必要な提言を行うこととした。
これらによって,今後,生活保護受給権などの権利行使の支援(申請代理人活動)や労働局に対して違法行為の是正を求める申告等の支援(申告代理人活動)など生存権や労働権を擁護し支援する活動に当たる支援当番弁護士による法的緊急支援サービスなどに取組み,また,これらの取組を通じて,社会的セーフティネットの再構築のため,そして貧困と格差の社会を人の尊厳と生存権がまもられる社会へと変えていくために,当会としてできうる限りの活動を推進することを決意した。
2,国・地方自治体及び市民に対する呼びかけ
 もとより,当会及び当会に所属する弁護士のみの力でこの重大な問題を解決するのに十分でないことは明らかである。
そこで当会は,当会としてできうる限りの活動を推進することは言うまでもないが,併せて,憲法上の重大な責務を有している国・地方自治体に対して雇用や社会保障制度などに関して本来行政に課された諸方策を直ちに実施することを強く求めたい。とりわけ,以下に挙げる緊急の課題については,速やかに必要な措置が講じられるべきである。
1)国は,正規雇用が原則であり,有期雇用を含む非正規雇用は合理的理由がある例外的場合に限定されるべきであるとの観点に立って,労働法制と労働政策を抜本的に見直すべきである。また,不安定雇用をもたらす主要な原因となっている労働者派遣法制の抜本的改正を行うべきである。
2)2007年(平成19年)最低賃金法改正により考慮事項として「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう,生活保護にかかる施策との整合性に配慮するものとする」(同法9条3項)とされた。それにもかかわらず,我国の最低賃金は,主要先進国中でも最低のレベルにあり,大幅な引上げがなければ現行水準のままでは労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができない。よって,国は,すべての人が人間らしい生活を営むことのできる水準に,最低賃金を大幅に引き上げるよう施策を講ずるべきである。また,国と都道府県は,失業者政策を抜本的に強化するべきである。
3)社会保障費の抑制を止め,社会保障制度の抜本的な改善を図るべきである。すなわち,ワーキングプアが増大する中で,本来,社会保障施策に注力すべきところ,現行の政策はそれに全く逆行し,憲法の保障する健康で文化的な生活の保障を脅かすものであるから,社会保障費の抑制を止めるべきである。また,ホームレスの人を含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように,社会保険制度の見直しや生活保護制度を利用しやすくすることなどを含め,抜本的なセーフティネットの強化を図るべきである。
4)今日の厳しい経済状況の中においては,単に労働者のみならず中小企業も当然に極めて厳しい経営環境に置かれていることはいうまでもない。したがって,国及び地方自治体は,中小企業への対策を緊急に行い,中小企業における経営とそこで働く労働者の雇用の維持に対して支援を強化することが強く求められる。
5)更には,障害者に対する社会保障政策も抜本的に改められるべきである。もとより,障害者が国家に対して福祉サービスを請求する権利は憲法によって保障された人権として位置づけられるべきものである。しかし,現行の障害者自立支援法は,障害者の福祉サービス需給に関する権利を侵害ないし不当に制限する危険性を有している。ついては,国は,障害者自立支援法について,応益負担制度を廃止するとともに,障害程度区分制度を障害者の自己決定権に最大限配慮し障害者のニーズに応じて必要なサービスを受給できるような内容に改めることを柱として抜本的な改正を行うべきである。
 そしてまた,当会は,このように行政に対して強く要請するとともに,広く市民に対して,真に人間の尊厳を基調とする社会に転換するために共同の努力を進めることを呼びかけるものである。
3、結語
以上の内容を福岡県弁護士会の総意として確認するために,本定期総会において「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」を採択し,ここに宣言するものである。
                              以上

声明(裁判員制度実施・被疑者国選拡大について)

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                会 長 声 明
1 はじめに
  本日、裁判員裁判制度が施行されるとともに、被疑者国選弁護人制度の対象事件枠が大幅に拡大されました。このような刑事司法制度改革の節目にあたって、当会は次のとおり決意を表明します。
2 裁判員裁判の実施にあたって
  主権者である国民が参加する裁判員裁判の審理は、従前、「調書裁判」と批判されてきた事態を脱却して、直接主義・口頭主義・当事者主義に基づく公判中心の裁判を実現する、刑事司法制度改革の契機となるものです。
裁判員裁判が実施されるまでの間に、公判前整理手続における検察官手持証拠開示が拡大されるなどの変化も生じていますが、取調全過程の録画による可視化が実現していないことや集中審理に対応しうるように保釈を原則とする制度的確立がなされていないことなど多くの重大な課題が残っていますので、引き続き被告人の権利擁護のため最大限の努力をしていく必要があります。
  当会は、日本弁護士連合会と連携して、裁判員裁判に対応できる弁護技術を研究し、会員に対する研修にも取り組んできましたが、今後も裁判員裁判における弁護人としての経験交流を行うなど会員の研修を強化し、被告人の権利擁護のためにより一層努力する所存です。
また、裁判員裁判の運用状況について一般市民と当会会員によるモニター制度を実施するなどして情報収集をすすめながら、実際に進められている裁判員裁判の検証を行うとともに、裁判員制度の改革及び運用改善に向けた提言を行う所存です。
3 被疑者国選弁護拡大について
  被疑者国選弁護の抜本的拡大は、刑事手続における被疑者の権利を充分に保障する基本的条件を整えるものであり、捜査の改革を推進する役割をも有するものです。
この制度は、当会が1990年12月に全国に先駆けて当番弁護士制度をスタートさせ、その後、全国の弁護士会が法律扶助協会(現・日本司法支援センター)と連携して弁護士費用がなくても弁護士に依頼できる被疑者弁護援助制度を実施し推進してきた到達点を示すものです。
  当会は、当番弁護士制度をスタートさせて以来どのような地域においても全ての被疑者が弁護人選任の機会を得られるよう、弁護士が少ない筑豊地区へ福岡や北九州地区から弁護士を派遣したり、国選弁護人登録者の拡大などに取り組んできましたが、この制度が被疑者の権利を保障するとともに充実した刑事裁判を実現する前提となることから、当会会員がより一層充実した弁護活動を行えるよう環境整備に力を尽くす所存です。
               2009年5月21日
                    福岡県弁護士会
                       会  長  池   永    満

福岡県弁護士会会長日記

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福岡県弁護士会会長日記
平成20年度 会長 田 邉 宜 克(31期)
【はじめに】  本年度1年間、何とか大過なく執行部としての責務を果たすことができました。  退任のご挨拶は次号で申し述べますが、若手会員からベテラン会員まで、広くしっかりと当会の活動を支えていただいていることを改めて実感した1年でした。皆さん本当に有難うございました。 【法曹人口と隣接士業】  今年初めの司法書士議員連盟総会では、司法書士業務の法律相談権の確立を目指すことが確認されたとのことです。司法書士は140万円を超える法律相談はできませんが、市民の紛争予防の為には法律相談が重要であり、裁判を前提とした金額制限をなくすべきだという主張です。司法書士は全国の市町村にいる市民に身近な存在であるが、弁護士は、全国の市町村にいるわけではない、市民の司法アクセスを確保する観点から、弁護士に法律業務を独占させることは問題だとの司法書士会の意見に賛同する有力な国会議員も少なくないと聞いています。  この関係で、法曹人口、特に弁護士人口の増加に反対する意見の中には、弁護士は従来通りの弁護士業務をやっていれば良く、現実の司法ニーズとの隙間は、既に十数万人いる隣接士業の取扱い業務・権限の拡大によって埋めて行けば良いとする考えがあることに注意を払う必要があります。この論に乗るならば、その流れは、やがて弁護士の法律業務独占の廃止に行き着く危険性をも秘めています。  弁護士人口、法曹人口を考える場合に、司法書士等の隣接士業をどう考えるかは悩ましいところですが、法曹とは、公益性、専門性を兼ね備えたプロフェッションであると意義づけて隣接士業数は法曹にカウントしないとの立場に立ち、この法曹が十分な数存在して、司法ニーズを満たすことが司法改革の目的であると考えれば、プロフェッションたる弁護士こそが法律業務を担当することに理があります。司法改革が目指すのは、この意味での法曹の増加であり、隣接士業の権限拡大は法曹が十分な数に達するまでの過渡的な措置と解し、将来的にはその見直しを求めることにも繋がります。  法曹人口5万人は到達点か通過点か、どこまで行くべきか、議論が分かれるところですが、少なくとも隣接士業の権限拡大の主張、強力に展開される運動に説得力をもって対処するには、「法曹の質を維持しつつ、市民が必要とする法曹の数を確保する」ことを目指す司法改革の旗を堅持し、弁護士過疎偏在の解消に一層積極的に対応し、弁護士が社会の社会の隅々まで司法サービスを及ぼしているという「立法事実」を実際に積み上げる必要があることだけは間違いがないと思います。 【セクシャルハラスメントの防止に関する規則施行】  4月1日以降、当会会員から当会の活動または会員の職務に関連してセクシュアルハラスメントを受けた者(事務所職員・修習生・依頼者等)は、当会のセクハラ相談員に相談または苦情の申立ができることになります。この相談を受けて必要な場合には、調査委員会を設置し、事情聴取などの調査を行ったうえで、会長から当該会員に対して、助言・指導・勧告などの適切な措置をすることができるとされています。  この規定に基づき具体的な防止に関する指針も定められています。詳細は、この指針をお読みいただく必要がありますが、例えば、セクハラになり得る言動で職場外で起きやすい例として「カラオケでデュエットを強要すること」が上げられています。あのとき、銀恋(古い!)を一緒に歌ってもらったけど、内心は嫌なのに仕方ないと思われていたら、セクハラ相談の対象になったかもと思うとドキッとしてしまいます。 男女共同参画社会の実現が求められ、弁護士会もその取り組みを強め、私達も依頼者のセクハラの相談に乗り、顧問会社で講演したりしていますが、いざ、自分達の言動となるとその認識の甘さ、自覚不足に忸怩たる思いを抱く方も少なくないと思います。この規則施行は、会員の皆さんが、普段の生活レベルからこの問題を見直してみる良い機会です。まずは隗から始めよです。

福岡県弁護士会会長日記

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会 長  田 邉 宜 克(31期)
【被疑者国選弁護5月21日問題について】
本年度、国選弁護対応態勢確立推進本部を設置し、被疑者被告人国選弁護人の契約者の拡大に取り組みました。未契約会員に切々たる登録依頼の手紙をお送りし、本部委員に担当を割り付けて、「しつこい!」と言われてもめげずに繰り返し面談・電話で国選契約をお願いし、国選弁護の意義や重要性を再認識していただくため、登録会員の生の声を載せた「国選弁護拡大ニュース」を発行して行きました(読めば、ぐっと来るような「声」ばかりです。HPにアップしていますので、未読の方は是非お読み下さい)。その結果、相当数の会員に国選契約を締結していただくことができましたし、新規登録者への勧誘もあって、2月6日現在で福岡部会の被疑者国選弁護人契約者数も350人に達しました。
会員間の負担の平等化の為には、なお一層、契約者の増加を目指して活動を続けて行く必要があると感じています。
さて、本題の「5月21日問題」とは、ご存じの会員も多いとは思いますが、被疑者国選弁護人選任の告知は、5月21日以降に勾留された対象犯罪の被疑者だけではなく、この日以前から勾留されている対象犯罪の全被疑者、即ち、5月21日時点で勾留満期まで後1日2日しかない被疑者(5月初めに勾留のついた者)から、5月21日に勾留された者まで全てにしなければいけないと規定されていることを指します。
仮に、5月21日一日で一挙に「告知」がなされ、対象の被勾留者が被疑者国選弁護人の選任を求めたときには、速やかに被疑者国選弁護人を推薦することは困難と言わざるを得ないため、どのような対応をとるべきかが問題となっているのです。この混乱を回避するための方策は、4月末頃からの当番弁護士出動に当たり、被疑者国選弁護対象事件については、会員各位が、5月21日問題を意識して、被疑者にもこのことを丁寧に説明し、弁護士会の刑事被疑者援助制度を利用して、被疑者弁護人を積極的に受任していただくことに尽きます。途中で国選に切り替わることがあっても手続の問題で「人捜し」は不要になります。幸い当会の被疑者援助事件受任率は他会に比べ高いので、会員各位が意識を一段と高めることで、十分に対応が可能だと考えています。是非ともご協力下さい。
【国選付添人契約の拡大について】
これまでも、任意の国選付添人制度があり、被疑者援助事件として弁護人となった会員が、付添人援助の登録はしていても国選付添の契約をしていないと、家裁から国選付添人の選任を求められても当然には推薦できませんでした。同一の弁護士が、弁護人から引き続き付添人となることが、望ましいことに異論はないので、国選未登録の会員には、その都度、国選付添人への登録をお願いしたうえで国選付添人として推薦することが少なくなく、やむを得ない場合に、別の登録会員に国選付添人をお願いする対応でしたが、速やかな対応のために、事務局には、大変ご苦労をかけることにもなっていました。 
昨年12月から犯罪被害者の審判傍聴制度が導入され、これが認められると必要的に国選付添人を選任すべきとなりましたので、この問題が一層顕在化することになります。被疑者援助を経て、家裁送致後、付添人援助となり、さらに同事件が被害者傍聴事件と決定されると途中から国選付添事件となるので、継続性の要請はより大きくなるのです。
当会では、国選付添人制度に対応する名簿搭載者の数は未だ十分とは言えず、法テラスが管理運営する付添人援助事業における付添人援助名簿と前記国選付添人名簿の登載者が一致していませんが(法テラス名簿には登載していても国選名簿には登載していない)、上記の問題を解決するには、これを一致させることが求められています。多くの会員の皆さんが付添人の国選名簿に登録していただければ、会員間の負担も平等になり、国選名簿登録者だけに「重い事件」が回ることもなくなるのですから、従前の負担感と大差はないはずです。国選付添人契約に是非ともご協力下さい。

福岡県弁護士会会長日記

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会 長 田 邉 宜 克(31期)
【会員数会820名へ】
新61期の新入会員54名を迎え、当会の会員数は、820名を超えました。
当会では、会員数が増える中で、委員会の諸活動、月報やオール・エフベン、HP等での会内広報、若手会員の刑事弁護や付添人研究会の実践等で、今何が問題で、誰がどんな活動をしているのか、どれほど頑張っているのか、の情報を会員に提供し、認識を共通にすることで、公平・平等に会員に公益活動を担っていただくことに繋げたいと考えて対応策を講じてきました。
今後、会員数が更に増えて行けば、会員間に「公益活動は、自分がやらなくても誰かがやってくれる」という意識が広がっていくことも十分考えられるところですが(東京や大阪の弁護士会では、既に会員の公益活動の義務を規定化しています)、ここ福岡では、会員の皆さんが、弁護士としての矜持を胸に、刑事被疑者弁護を始めとする公益活動を実践する中で、一丸となって取り組むという伝統は、今も息づいているはずです。
今年は、被疑者国選弁護の拡大、そして裁判員制度の実施を迎え、これを担いきれるか否かで、弁護士・弁護士会の鼎の軽重を問われることになります。
正に、弁護士会として踏ん張りどころですが、特に、この5年間で会員数の30%を占めるに至った新入会員の皆さんには、自分達こそが弁護士会を支えているという心意気をもって、刑事被疑者弁護を始めとする公益活動の実践に、積極的に取り組んでいただくようお願いいたします。
【民法(債権法)改正の動きについて】
現在、「民法(債権法)改正検討委員会」において、民法の債権編の抜本改正についての検討が進められています。先般来の日弁連のFAXニュースでも広報されましたが、この検討委員会では、本年1月から3月まで毎週全体会を開催し、3月末に議論を取り纏め、4月下旬にシンポジウムを開催し、4月下旬以降、速やかに法制審での審議が始まる可能性もあるとのことです(試案を発表し、各界の意見を聞くとしても、法制審を開始するまで1年を置くというのは現実的ではない、との関係委員の発言があります)。
この検討委員会は、学者主導の私的なものとの位置づけですが、法務省が実質的に関与し民法改正作業を視野にサポートして来たことは否定し難いところであり、重大な民法改正作業に、実務家たる弁護士がしっかりと反映させる、その為に弁護士会の意見を積極的に発信することが重要であり、次年度の重要な課題になっていくものと思います。
これまでの判例理論を民法の条文に取り入れるほか、私たちがこれまで学び理解してきた規定が大きく変わる可能性がありますので、是非とも、この動きを注視していただくようお願いしたいと思っています。
【ロースクールの定数削減】
中教審は、法科大学院教育の質の向上のための改善方策の中間まとめを発表しました。日弁連は、法科大学院の定数削減を打ち出した姿勢を評価するものの、単に、定数削減を求めるだけで具体的な数値を出さなければ、文科省の強い指導力が及ぶ地方の公立の小規模校の削減に止まり、全国の法科大学院全体の改革が実現できないままに終わることを危惧し、全国定員数を4000人程度に削減すべしとの意見書を採択しました。また、教員態勢や合格率にのみに準拠して、この改革を押し進めるならば、地方の小規模校のみが統廃合・定員縮小を求められることにもなり、地域に根ざす法曹を要請し、日本の隅々に法の支配を行き渡らせるとの司法改革の理想に逆行することになるので、地域的な適正配置に留意し、「大規模校の定員を100人程度削減すること」も合わせて求めることにしました。特に、7校の法科大学院を抱える九州沖縄地区では、この問題は深刻であり、重大な危機に瀕しているといっても過言ではありません。地域の弁護士会には、今こそ法科大学院を支えていくことが求められており、会員の皆さんにも強い関心を持っていただきたいと思います。

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