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労働者派遣法の抜本改正を求める意見書

カテゴリー:意見

労働者派遣法の抜本改正を求める意見書
                              2009年9月9日
                             福岡県弁護士会
                              会長 池永 満
 厚生労働省の本年8月28日付「非正規労働者の雇止め等の状況について」によれば,昨年10月から本年9月までの間に,全国で23万2448名の非正規労働者に対して雇止め等が実施され,または実施される予定であり,うち,派遣労働者は14万0086名(60.3%)に上っている。しかも,派遣労働者の場合,うち約44%の6万1435名が契約期間満了による雇止め等ではなく,派遣契約の中途解除に基づく解雇である。さらに,派遣労働者の場合,判明しただけでも1983名が雇止め等と同時に住居を喪失している。ちなみに,わが福岡県の場合,上記期間中に雇止め等された労働者は4082名,うち派遣労働者は,2460名(60.3%)である。以上のとおり,昨年から今年にかけて,派遣労働者が大量に失職しており,しかも,その一部は職を失うと同時に住居まで失うという状況にある。
 上記の事態の直接的要因は,昨秋からの世界同時不況によって,多くの派遣労働者等が雇用調整のために,契約を中途解約されるなどしたことであるが,より根本的な原因は,労働者派遣法が実効的な労働者保護規定を欠いていることである。そのため,派遣労働者を安価な雇用の調整弁として位置づけることが可能とされ,常用雇用の代替が促進されている。加えて,期間制限の潜脱や,二重派遣など,違法派遣が横行している。さらに,正社員と同様の仕事に従事しながら,派遣労働者に対しては差別的低賃金が押しつけられるなどの事態は,年収200万円以下のワーキングプアを大量に生み出す原因ともなっている。かかる事態はすでに,日本国憲法が保障する生存権を侵害していると言うべきであり,到底看過できない。
 そこで,当会は,労働者保護の見地から労働者派遣法を改正すべきことについて意見を述べる。
第1 意見の趣旨
 国会は,労働者保護の観点に立って,労働者派遣法を抜本改正すべきである。とりわけ,以下に掲げる点については,緊急に改正すべきである。
① 法律の目的に派遣労働者保護を明記すること。
② 派遣対象業種を専門的なものに限定すべきこと(なお,専門性の判断について,現行26業種を全面的に見直し,さらに限定すべきである。)。
③ 派遣利用要件として,臨時的・一時的事由を加えるべきこと。
④ 登録型派遣は禁止すべきこと。
⑤ 日雇い形態の派遣は全面禁止すべきこと。
⑥ 賃金・福利厚生に関して,派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇を義務づけること。
⑦ 派遣可能期間経過後や,違法派遣,偽装請負について,直接雇用のみなし規定を設けるべきこと。その際の労働条件は,派遣先労働者と同等の内容とすること。
⑧ マージン率の上限規制を設けること。労働者に対するマージン率の開示を義務づけること。
⑨ 労働者保護規定は原則として強行的効力をもつものとし,とくに派遣先に対する罰則規定を強化すべきこと。
第2 意見の理由
1 当会や民間ボランティア等の取り組み
この間,昨年末からの“年越し派遣村”をはじめ,全国各地で民間ボランティア,有志弁護士らにより同様の活動が取り組まれ,炊き出し,生活相談,一斉生活保護申請等々が取り組まれてきた。
当会も,本年3月から生活保護申請同行の当番弁護士制度を開始し,本年9月2日現在,129件の要請を受けた。また,本年3月9日には,日本弁護士連合会の全国一斉「派遣切り・雇い止めホットライン」相談活動の一環として,電話相談を実施し,67件の相談を受けた。
また,ここ福岡県では,当会会員弁護士を含む県内の民間ボランティアによって,本年3月1日には福岡市内で,本年6月28日には北九州市内で,“1日派遣村”の活動が取り組まれた。
こうした活動の結果,本文に述べたような悲惨な現状及びその背景事情が明らかになってきた。
2 厚生労働省の対策等
こうした状況を受けて,厚生労働省は,本年2月6日,離職者住居支援給付金制度を創設し,いわゆる“派遣切り”にあった派遣労働者の住居支援の制度を打ち出した。しかしながら,同制度は,解雇や雇止めを行った雇用主が,当該派遣労働者に引き続き住居を提供するなどした場合に,その事業主を支援する制度であり,住居を失った派遣労働者を直接支援する制度ではない。その結果,同制度がスタートしてから本年4月までの間で,同制度の計画対象に挙げられた派遣労働者の数が全国で1万3212人であるにも関わらず,実際に計画認定された派遣労働者数はわずか755人に留まっている。福岡県の場合,計画対象労働者数は累計で227名,うち計画が認定された労働者数はわずか13名に過ぎない。このような実績から明らかなとおり,同制度は,住居を失った派遣労働者に対する救済措置として,ほとんど機能していないと言わざるを得ない。
また,同省は,本年1月28日,緊急違法派遣一掃プランの実施を打ち出したが,それは違法派遣の温床とされている日雇い派遣に限定されており,また,各都道府県の労働局の担当者等組織人員体制に何らの手当もなされていないと見られることからすれば,その救済範囲および実効性に多くを期待することはできない状況にあると言わざるを得ない。
3 改正へ向けた基本的な考え方
そもそも,労働者は使用者に対して交渉力が劣り,労働契約を労使の自由な交渉に委ねると,労働条件が際限なく切り下げられ,労働者の生存すら脅かされかねない。このような意味において,国際労働機関の目的に関する宣言(ILOフィラデルフィア宣言,1944年)が「労働は商品ではない」と宣言したとおり,労働を他の商品と同様に扱うことは許されない。だからこそ,労働者を保護する労働法制が必要とされる。このような労働者保護の必要に鑑みれば,労働契約は雇用主と労働者との直接契約,すなわち直接雇用が原則とされねばならない。
1947年に施行された職業安定法は労働者供給事業を罰則をもって禁止している(同法44条,64条)。
同法が労働者供給事業を罰則をもってまで禁止したのは,戦前の日本において,労働者供給事業が横行しており,過酷なまでの中間搾取が行われ,労働者が無権利状態にあったことから,労働法制の民主化,すなわち近代的労使関係の確立こそが戦後日本の民主化のテーマの一つとされたからである。富山の女工哀史や“ああ野麦峠”などからも知られるとおり,戦前は労働ボスが貧困層を束ね,各雇用主に労働力として供給し,酷い中間搾取を行いながら,一方,供給先である雇用主は,廉価な労働力の供給元および雇用調整の手段として,労働者供給事業を利用していたのである。
こうした封建的労使関係にメスを入れ,近代的労使関係はあくまでも直接雇用が原則であること,すなわち,労働力の提供を受ける者は直接労働者を雇用すべしとすることで,賃金その他の労働条件を明確にするとともに,責任の所在等を曖昧にさせないという原則が罰則をもって導入されたのである。
労働者派遣法は以上のような原則に対し,あくまで特殊例外的立法として導入されたものであった。ところが,1986年に労働者派遣法制がわが国に導入され,さらに数次にわたり規制緩和・適用拡大がなされた結果,大量のワーキングプアを生み出し,しかも職と同時に住居を失うという悲惨な事態を招くに至り,そのことがひいては社会不安さえ招来している事態ともなっている。
かかる経緯に鑑みるならば,あくまでも根本原則である労働者供給事業の禁止に沿う方向で労働者派遣法は改正されなければならない。
4 具体的な改正項目
以上を踏まえれば,労働者派遣法を労働者保護の観点に立って抜本改正することが必要である。とりわけ,以下の点については緊急に改正する必要がある。
① 法律の目的に派遣労働者保護を明記すること。
上記のとおり,この点を欠くことが現行法の最大の欠陥である。
② 派遣対象業種を専門的なものに限定すべきこと(なお,専門性の判断について,現行26業種を全面的に見直し,さらなる限定を加えるべきである。)。
本来,労働者派遣法は,臨時的・一時的な業務の必要のため,専門的知識・技能を有する労働者を確保するという要請から,労働者供給事業の例外として導入されたのであるから,派遣対象業務は,このような本来の趣旨及び要請に沿って限定されるべきである。
また,現行の対象業種中,例えば5号(OA機器操作)などは,単にOA機器を操作するだけで何らの専門性もない業務に,期間制限を潜脱する目的で,名目だけ利用されている例もある。こうした実態からすれば,専門業種の見直しにあたっては,さらなる限定を加えるべきである。
③ 派遣利用要件として臨時的・一時的事由を加えること。
直接雇用が原則であること,労働者派遣はあくまでも,専門業種についての臨時的・一時的雇用形態であるべきことからすれば,臨時的・一時的事由を要件とすることが法本来の趣旨に添うものである。
④ 登録型派遣は禁止すべきこと。
登録型派遣は,派遣先と派遣元との間の派遣契約が存続している間だけ,当該派遣元と派遣労働者の間の雇用契約を認めるものであるが,派遣先の自由な派遣契約の解除によって派遣労働者の解雇が事実上合法化されてしまう。その結果,派遣労働者には労働基準法上の保護が及び難くなってしまっている。
こうした細切れ雇用とも言うべき登録型派遣は,派遣労働者の雇用を極めて不安定にすることから,禁止すべきである。
⑤ 日雇い形態の派遣は全面禁止すべきこと。
派遣労働者の身分を究極にまで不安定にし,労働条件を劣悪化するおそれのある日雇い派遣は明文をもって全面禁止すべきである。
⑥ 賃金・福利厚生に関して,派遣労働者と派遣先労働者の均等待遇を義務づけること。
派遣労働者の賃金は派遣先従業員のそれと比較して,格段に低いのが一般的であり,酷いところでは,同じ作業に従事しながら,派遣労働者の賃金は派遣先従業員の賃金の2分の1という場合もある。
この点,ドイツ,フランス,イタリア,韓国の派遣法は,いずれも派遣先従業員との同一待遇保障あるいは差別待遇の禁止を明記している。我が国労働者派遣法にも均等待遇を明記することが求められる。
⑦ 派遣可能期間経過後や,違法派遣,偽装請負について,直接雇用のみなし規定を設けるべきこと。その際の労働条件は,派遣先労働者と同等の内容とすること。
この点について,現行法の直接雇用規定は,派遣先企業の努力義務や,制限期間経過後の直接雇用申込義務にとどまり,現実には,直接雇用されるケースは極めて稀である。
この点,派遣法をもつヨーロッパの国々では,一定期間経過後には直接雇用のみなし規定を設けている国も多く,わが国も派遣可能期間経過後は直接雇用のみなし規定を設けることが必要である。違法派遣,偽装請負についても,直接雇用のみなし規定を設けることにより是正を図るべきである。
⑧ マージン率の上限規制を設けること。労働者に対するマージン率の開示を義務づけること。
労働者派遣法は,中間搾取を禁じる労働基準法6条の例外規定であり,原則としての中間搾取禁止が重視されるべきである。
派遣労働者が低賃金に苦しむ状況を改善するため,派遣元のマージン率を労働者に開示させるとともに,マージン率に上限規制を設けるべきである。
⑨ 労働者保護規定は原則として強行的効力をもつものとし,とくに派遣先に対する罰則規定を強化すべきこと。
現行労働者派遣法のうち,労働者保護に関する規定については,それを担保すべき罰則がほとんどなく,そのため,現実には多くの派遣労働者が無権利状態におかれている。これら派遣労働者にも労働基準法・労働者派遣法等の保護規定が実効的に及ぶように,保護規定に強行的効力を持たせ,法違反に対しては罰則をもって臨むなど,その実効性を格段に強めることが必要である。
とくに,現行労働者派遣法では派遣元に対する規制が中心で,派遣先に対する規制が乏しい。しかし,現実の商取引上の力関係では派遣先が格段に上位にあることからすれば,実効性確保の観点からは,派遣先に対し,法違反について罰則をもって規制することが必要である。
5 生存権の擁護と支援のために
当会は,本年5月25日の総会で「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」をなし,今般,生存権の支援と擁護のための緊急対策本部を設置した。
当会は,格差と貧困の大きな原因ともなっている労働者派遣法の抜本改正を行うことなしには,「すべての人が尊厳をもって生きる権利」は実現されないと考え,本意見書を発する。
以上

改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明

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改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明
 
経済・生活苦での自殺者が年間7000人に達し,自己破産者も18万人を超え,多重債務者が200万人を超えるなどの深刻な多重債務問題を解決するため,2006(平成19)年12月に改正貸金業法が成立し,出資法の上限金利の引下げ,収入の3分の1を超える過剰貸付契約の禁止(総量規制)などを含む同法が2010年(平成22)年6月19日までの政令で定める日に完全施行される予定である。
改正貸金業法成立後,政府は多重債務者対策本部を設置し,同本部は①多重債務相談窓口の拡充,②セーフティネット貸付の充実,③ヤミ金融の撲滅,④金融経済教育を柱とする多重債務問題改善プログラムを策定した。そして,官民が連携して多重債務対策に取り組んできた結果,多重債務者が大幅に減少し,2008(平成20)年の自己破産者数も13万人を下回るなど,着実にその成果を上げつつある。
 他方,一部には,消費者金融の成約率が低下しており,借りたい人が借りられなくなっている,特に昨今の経済危機や一部商工ローン業者の倒産などにより,資金調達が制限された中小企業者の倒産が増加しているなどを殊更強調して,改正貸金業法の完全施行の延期や貸金業者に対する規制の緩和を求める論調がある。
 しかしながら,1990年代における山一証券,北海道拓殖銀行の破綻などに象徴されるいわゆるバブル崩壊後の経済危機の際は,貸金業者に対する不十分な規制の下に商工ローンや消費者金融が大幅に貸付を伸ばし,その結果,1998年には自殺者が3万人を超え,自己破産者も10万人を突破するなど多重債務問題が深刻化した。
改正貸金業法の完全施行の先延ばし,金利規制などの貸金業者に対する規制の緩和は,再び自殺者や自己破産者,多重債務者の急増を招きかねず許されるべきではない。今,多重債務者のために必要とされる施策は,相談体制の拡充,セーフティネット貸付の充実及びヤミ金融の撲滅などである。
そこで,今般設置される消費者庁の所管乃至共管となる地方消費者行政の充実及び多重債務問題が喫緊の課題であることも踏まえ,2006(平成18)年9月1日の当会の「例外なき金利規制を政府に強く求める会長声明」を実効化させるため、当会は国に対し,以下の施策を求める。
1 2010(平成22)年6月19日までに施行予定の改正貸金業法を早期(遅くとも本年12月まで)に完全施行すること。
2 自治体での多重債務相談体制の整備のため相談員の人件費を含む予算を十分確保するなど相談窓口の充実を支援すること。
3 個人及び中小事業者向けのセーフティネット貸付をさらに充実させること。
4 ヤミ金融を徹底的に摘発すること。
                       2009年9月9日
                       福岡県弁護士会
                       会長 池 永  満

消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明

カテゴリー:声明

消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明
1 これまでの産業育成に重点を置いた行政から消費者・生活者の権利擁護のための行政に大きく転換をはかるべく,消費者庁関連3法が今国会で成立し消費者庁と消費者委員会がまもなく発足する運びとなっている。当会は,既に本年6月4日に消費者庁関連法成立に関し会長声明を発したところであるが,消費者庁長官及び消費者委員会委員(及び委員長)の人事は,今後の消費者行政のあり方に極めて重大な影響を及ぼすものであり,この度あらためて声明を行う次第である。
2 消費者庁は消費者問題に関する全省庁の司令塔としての役割を担う組織であり,その長官は,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物でなければならない。また、消費者委員会は消費者庁から独立し消費者の権利擁護のために極めて強力な権限を与えられた組織である。その委員は「消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に関して優れた見識を有する者のうちから」任命する(消費者庁及び消費者委員会設置法10条1項)とされている。したがって,各委員は,消費者委員会設置の趣旨を十分理解し,消費者の権利擁護のために,その強力な権限を行使することが期待できる人物でなければならない。その上,委員長は,委員の互選により選任すべきものである(同法12条1項)。
3 そこで,消費者庁長官及び消費者委員会委員について適正な人事がなされるよう,政府に対し,以下の各事項を要求する。
(1) 消費者庁長官選任にあたっては,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物を選任すること
(2) 消費者委員会の発足にあたっては,現在の準備参与を直ちに委員に任命するべきでなく,どのような基準で同法10条にいう「見識」を有していると判断したのか,その任命基準を明確にし,その任命理由について十分な説明責任を果たすこと
(3) 消費者委員会委員の任命については,実際の消費者問題に精通し経験豊かな人物を選任すべきこと
(4) 消費者庁長官及び消費者委員会委員選任にあたっては,既に衆議院が解散され,新組織発足時には新内閣も発足しているという状況を踏まえ,慎重な人事を行なうこと
                  2009(平成21)年8月6日
                   福岡県弁護士会 会長 池   永  満

会長日記

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福岡県弁護士会会長日記
その2 疾風怒濤(?)の1ヶ月4月10日〜5月9日
平成21年度 会 長
池 永  満(29期)
はじめに
4月の前半は朝から夕刻まで就任挨拶回りに出かけ、夕刻からは60に及ぶ県弁委員会の第1回委員会に出席して挨拶や重点課題に関する説明やお願いをする日々が続きました。後半の半月も夕刻以降の時間は第1回委員会出席を続けましたが、その余は5月の定期総会提出予定議案の事前承認を求める5月常議員会にむけて議案の頭出しを行う必要があった4月22日常議員会、21日から28日にかけて開催された各部会集会、30日の午前・午後に開催した第1回委員長会議や夜小倉で開催した北九州部会執行部との協議会等への出席や準備が続きました。
歴代執行部経験者が語る「一番忙しい仕込みの時期」を過ごしたことになりますが、ピンチヒッター的な気分が残っていた私にとって、この1ヶ月は会長として過ごす向う1年間の心構えや立ち位置を確立せざるを得ない日々ともなりました。
とりわけ飯塚、北九州、筑後と続いた各部会集会では夜の部も含め多くの会員から心温まる歓待を受けました。また今年度執行部の初めての試みだと思いますが会全体の重点課題のうちテーマを絞って意見交換を行う場として年度当初に設定された委員長会議や北九州部会執行部との協議会でも、従前の実践をふまえて極めて具体的で建設的な意見をいただきました。
個人的にもどうせ貴重な時間を費やすのであれば、せっかくの機会でもあり、多くの会員の協力をいただきながら、当面の課題に対応するに止まらず、弁護士会の懸案事項の一つか二つくらいは解決の目途をつけておきたい〜そんな思いも強まったのです。
画期を刻む刑事弁護体制の強化を
この日記が掲載される頃には既に裁判員裁判対象事件の起訴も始まっています。対象事件数は福岡で年間120件前後、北九州で年間4〜50件くらいと推計されていますから、既にそれぞれ数件程度が公判前整理手続に入っているかも知れません。弁護士会としては審理が始まる8月頃までには新たに発足した「裁判員本部」を中心として検証の体制を整える予定です。検証作業により得られるデータは、運用改善や3年後の制度見直しに役立てるだけでなく、全ての会員にとって初めての経験となる裁判員裁判の弁護人活動を改善するためにも役立てる必要があります。そのために当該弁護人から得られるデータのみならず、傍聴席の視点からもデータを得るために、モニター・システムを創設する準備を進めていますので、ご協力をお願いします。
同時に被疑者国選弁護人制度の抜本的拡大も始まっています。先日の法曹合同歓迎会での挨拶で、対象事件数が福岡県全体では4,000件を超える見通しであり相当の力仕事だと話したところ、裁判官や弁護士から数字が大きすぎるのではないかと問われました。私の言い方はむしろ控えめであり2006年と2007年のデータをもとにした日弁連推計では、福岡本庁2,047、小倉・行橋小計1,289、筑後小計532、筑豊小計507、県合計4,375件とされています。選任率も被疑者援助の時より相当高まることが予測されます。これを福岡1名、北九州2名の法テラス・スタッフ弁護士の助勢があるとしても基本的には4月1日現在県弁合計で516名の被疑者国選登録弁護士が対応することになります。限られた期間において集中的な活動が要請される被疑者段階の弁護人活動の質が、その後の事件の行方を左右することを考えれば、複数弁護人がついて集中審理を行う裁判員裁判が全開状態になる今秋以降においても、365日、逮捕勾留直後から被疑者の国選弁護人選任権の保障に万遺漏なく対応できる体制を確立するために、あらゆる方策を尽くすことが弁護士会の責務であり、当番弁護士制度を発足させて今日の被疑者国選制度確立を主導した当会の矜持でもあると思います。
「貧困は国家の大病」
未曾有の社会・経済情勢の中で、生存権を擁護し支援する緊急対策を実行することが、当会はもとより日弁連全体の課題となっています。
河上肇は『貧乏物語』において、「貧困は国家の大病」と喝破していますが、衝撃的なのは20世紀当初における英米独仏における貧富の格差に関するデータです。人口の65%を占める最貧民層が保有する冨の分量は全体の2%前後にすぎず、人口の2%にすぎない最富者が保有する冨は国全体の6〜70%に及んでいたのです。なんと言う格差でしょうか。
そうした中で英国では学校児童に対する食事供給条例を制定し(1906年)、貧乏な老人の保護のために養老年金条例が制定される(1908年)など、大きな政策転換も始まっていますが、養老年金の財源として富者に重い増税案を提案した時の大蔵大臣ロイドジョージ氏は4時間半におよぶ議会演説をこう結んだと紹介されています。「諸君、これは一つの戦争予算である。貧乏というものに対して許しておくべからざる戦いを起こすに必要な資金を調達せんがための予算である。私はわれわれが生きているうちに、社会が一大進歩を遂げて、貧乏と不幸、及び、これを伴うて生ずるところの人間の堕落ということが、かって森に住んでいた狼のごとく、全くかの国の人民から追い去られてしまうというがごとき、喜ばしき時節を迎うるに至らんことを、望みかつ信ぜざらんとするもあたわざるものである。」
貧困は国家の病気であり、貧困との闘いを「国家の戦争」としてとらえる思想は最近の日本ではほとんどかき消されてきたように思います。ところで現実はどうなのでしょうか。OECD(2004年レポート)が、21世紀に入ったOECD諸国における「貧困率」を発表しています。ここでは国民の可処分所得の中位数の50%以下の所得しか稼いでいない人を貧困者としてその人口比率を出していますが、先進国中貧困率の第1位はアメリカ(17.1%)で、第2位が日本(15.3%)とされています。OECD諸国の貧困率の平均は10.3%ですが、貧富の格差のない経済大国と言われてきた日本がいつの間にか「貧困大国」になっていたというのも驚きです。(以上のデータは橘木・浦川『日本の貧困研究』東京大学出版会)
私たちは日本国憲法の保障する基本的人権の思想にたって、現在の社会構造を抜本的に立て直すための取り組みを始める必要があると思います。もとより弁護士・弁護士会にやれることには限りがありますし、社会福祉的な対応に関する第一義的な責任を有しているのは行政であることはいうまでもありません。また弁護士が業務的に対応できる範囲は一層限られています。
しかしリーガルサービスに対するアクセス障害を取り除きながら、行政に対する給付請求権の行使を支援することを始めとして、様々な支援活動を組織し、セーフティネットの再構築を促進するコーディネーターの役割を果たすことはできると思います。この点では司法制度改革の柱の一つであった民事法律扶助の抜本的拡充をになう組織として誕生した日本司法支援センター(法テラス)やスタッフ弁護士の活動と、弁護士会における緊急対策本部等の活動との連携を抜本的に強化することも必要になっていると思います。今年度執行部は以上のような問題意識にもとづき、法テラス福岡事務所との協議を始めています。
陣地を整えて2ヶ月目に歩を進めます。
この1ヶ月、会務に関する書類に目を通し決済する作業にもだいぶ慣れてきましたが、率直に言ってその量の多さには辟易します。日弁連理事会等のために数日会館に出ないと私の机上は書類の山になります。ですから福岡にいる日は毎日弁護士会館に足を運びます。そのため弁護士会から離れている私の法律事務所との車での往復が煩わしくなりましたので、裁判所裏手にあるマンションの一室を確保しました。この原稿も赤坂オフィスで夜を徹して(?)書いてます。明後日(5月11日)には司法記者クラブの皆さんとの定例懇親会(月1回)も開きます。
ところで5月の連休に、昨年末以来できなかった登山を妻とともに決行しました。好天気に恵まれ清々しい気持ちになりました。これから向かう5月21日裁判員裁判と被疑者国選拡大の開始、25日定期総会という山行でもアクシデントに見舞われないで登頂し、皆さんと一緒に清々しく新たなスタートを切れれば良いがと願っています。     (5月9日記)

法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明

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法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明
 警察庁は、7億円の補正予算を用いて、全国15地域で、街頭監視カメラを設置するモデル事業を実施する。福岡県警は、その1事業として、2009年度中に、子どもの登下校中の防犯のためとして、福岡市中央区大名校区に25台の監視カメラを自ら設置し、地元民間団体に管理を委託するという。
 しかしながら、犯罪防止は、貧困や差別など犯罪の根本原因を取り除くための福祉施策の充実も含め、総合的な防止策を多角的に検討すべきである。
 そして、警察等による市民監視や不透明な個人情報の収集・利用は、個人のプライバシー権を侵害するばかりか、民主主義社会を支える言論・表現の自由を萎縮させる危険がある。
犯罪検挙のための警察の捜査手段は、具体的な嫌疑を前提とし、基本的人権を制約する場合には法令の根拠を必要とし、令状がなければ原則として行えないというのが憲法以下の法令の考え方である。犯罪防止のための監視が一定の場合に許されるとしても、具体的にその場所で起こり得る犯罪の軽重や蓋然性を度外視し、抽象的な「安全」や、単なる主観にすぎない「安心感」のために人権を制約することまで許されているのではない。
 警察自身による監視カメラの設置の場合は、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷監視ビデオ判決(東京高判昭63.4.1)、西成監視ビデオ判決(大阪地判平6.4.27)など、令状主義を重視する判決があり、これらの判決によれば、①犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、②証拠保全の必要性・緊急性、③手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められない。
 ところが、全国的にも、福岡県下においても、犯罪は減少しており、大名校区で、特に通学路において犯罪が頻発しているとの事実は認められない。従って、その設置は、違法であるといわなければならない。
 そもそも、監視カメラの設置に関する基準をはじめ、捜査機関に市民の行動が提供されないよう、適正な手続きを定めてプライバシー権を保障する法律や条例の制定が必要不可欠である。
 当会は2007年7月21日、2008年4月1日にも同様の意見を述べているが、なんら法律や条例が制定されないまま警察主導による街頭監視カメラが増設されていることに対し強く遺憾の意を表するとともに、当該事業を撤回するよう強く求めるものである。
                    2009年(平成21年)7月31日
                  福岡県弁護士会会長 池 永   満

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