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飯塚事件第2次再審請求審の再審請求棄却決定についての会長声明

カテゴリー:声明

1 いわゆる「飯塚事件」の第2次再審請求事件において、福岡地方裁判所(鈴嶋晋一裁判長)は、2024年(令和6年)6月5日、再審請求を棄却する旨の決定(以下「本決定」という。)をした。
2 「飯塚事件」は、1992年(平成4年)2月20日に福岡県飯塚市において通学途中の女児2名(いずれも当時7歳。以下「被害女児」という。)が失踪し、翌日甘木市内(当時)の山中で被害女児がそれぞれ遺体となって発見された事件である。福岡県警は、その約2年7ヶ月後に、久間三千年氏(以下「久間氏」という。)を死体遺棄の被疑事実で逮捕した。久間氏は一貫して無実を主張していたが、福岡地検は死体遺棄罪、略取誘拐罪及び殺人罪で久間氏を起訴した。福岡地裁は、1999年(平成11年)9月29日に久間氏に対して死刑を言い渡した(以下「確定判決」という。)。控訴及び上告がそれぞれ棄却され、2006年(平成18年)10月8日、第1審の死刑判決が確定した。
確定判決は、久間氏が犯人であることを直接に証明する証拠がないことを認めつつ、情況証拠の積み重ねによって久間氏が犯人であることについて合理的疑いを超えて認定できるとして、久間氏を死刑に処した。有罪認定における重要な証拠として、①被害女児の遺体から採取された血液の中に、犯人に由来すると認められる血液が混在し、その血液から検出されたDNA型が久間氏のそれと一致したとする警察庁科学警察研究所の鑑定結果(MCT118型鑑定)のほか、②事件当日に拐取現場とみられる通学路上で被害女児を目撃したとする供述調書や、③遺留品発見現場とされる地点付近で事件当日に久間氏の所有車両と特徴が一致するとみられる車両を見たとする目撃証言などが挙げられた。
久間氏はその後も無実を訴え、再審請求を準備していた。しかし、死刑判決の確定から2年後の2008年(平成20年)10月28日、久間氏に対する死刑が執行された。そのため、久間氏の遺志を引き継いだ久間氏の遺族によって再審請求が行われていた。
3 ところが、①に関して、第1次再審請求において、DNA型鑑定結果については写真の改ざん等の重大な欠陥があったことが明らかとなり、その信用性に疑問が呈されたものであったが、他の証拠を総合すれば、結論として確定判決の有罪認定が揺らぐことはないとされたのである。
そこで、今般の第2次再審請求においては、主として2名の供述証拠が新証拠として提出され、これらについて新たに証人尋問が行われた。②との関係では、事件当日に被害女児を目撃した旨供述していた目撃者(②の供述者)は、被害女児を見たのは事件当日ではないこと、当時の供述は警察官による強引な誘導によってなされたものであることなどの証言をした。③の証明力を減殺するものとして、事件当日に不審車両を目撃した別の目撃者は、事件現場近くのバイパスで、小学校低学年の女児2名が後部座席に乗車している犯行車両と思われる不審車両を目撃して翌朝警察に通報したが、その際に目撃した車は久間氏の所有車両の特徴と異なる白のライトバンであったこと、犯人と思しき人物の外見が久間氏の外見とは全く違っていることなどの証言をした。
4 本決定は、これらの証言の信用性を認めず、それぞれ確定判決が有罪認定に用いた各証拠の信用性を減殺することはなく、確定判決の認定は揺るがないとして、いずれの新証拠について明白性を否定し、再審請求を棄却した。本決定は、新証拠がそれ自体で確定判決の有罪認定を揺らがせる程度に高度な信用性を備えていることを要求するものと理解せざるを得ない。まさに明白性の有無や程度の判断において、新証拠がそれ自体で確定判決の有罪認定を決定的に揺らがせるものでなければならないとする孤立評価説そのものであって支持できない。本決定がこのように各証言の信用性を否定したその結論には重大な疑問があり、新証拠としての明白性を否定した点は、「疑わしいときは被告人の利益に」の鉄則が再審開始の要件である新証拠の明白性の有無を検討する際にも適用される旨を示したいわゆる白鳥・財田川決定に違反する判断であり、到底是認できない。
5 なお、第2次再審請求の審理においては、裁判所が、請求人の求めに応じて、検察庁に警察からの送致文書リストを開示するよう文書で勧告したところ、検察官は裁判所にそのような勧告を行う権限がないとしてこれを拒絶した。このような検察官の対応は、真実を探求し、正義を実現するという検察官の使命に背くものであり、全く許されないことである。
こうした背景には、現行の刑事訴訟法には再審請求審における証拠開示の明文規定がなく再審請求の審理に関して裁判体による格差が生じていることで裁判所の勧告に検察官への拘束力が生じないということが挙げられる。まさに当会が2022年(令和4年)8月24日付け会長声明で宣明しているとおり、えん罪被害救済に向けた再審法改正の早急な実現が不可欠であることを示している。加えて、当会は2020年(令和2年)9月18日に、政府及び国会に対して、死刑制度を廃止すること、死刑の代替刑として終身刑を導入すること、死刑制度廃止のための関連法案が成立・施行されるまで、死刑執行を停止することを求める「死刑制度の廃止を求める決議」を行っているところ、その理由中にも述べているとおり、本件は、えん罪の疑いのある事件であるにもかかわらず、再審準備中に死刑が執行されており、死刑制度の非人道性を改めて浮き彫りにしている。
当会は、本件の再審請求につき注視するとともに、これまで以上に、死刑廃止及び再審請求事件における証拠開示の制度化を含む再審法改正等、えん罪を防止・救済するための制度改革の実現を目指して全力を尽くす決意である。

2024年(令和6年)7月10日

福岡県弁護士会 会長  德永 響

最低賃金額の大幅な引上げ及び地域間格差の解消を求める会長声明

カテゴリー:声明

福岡県においては、昨年度、福岡県最低賃金を前年度比41円増額の時間額941円とする改正が行われた。しかし、時給941円は、1か月の平均所定労働時間の上限173.8時間で計算しても月額16万3500円程度と、未だ、いわゆるワーキングプアと呼ばれる水準にとどまっている。
原材料価格の高騰や近年の極端な円安の進行、食料品・日用品や光熱費など生活関連品の価格が昨年に引き続き上昇傾向にあることをふまえると、労働者の生活を守り、経済を活性化させるためには、全ての労働者の実質賃金の上昇を実現する必要があり、そのためには最低賃金額を大きく引き上げて賃金全体の底上げを図ることが不可欠である。
同時に、最低賃金法第9条以下の地域別最低賃金制度を抜本的に見直し、地域間格差の解消に向けて全国一律最低賃金制度の導入についても検討されるべきである。
中央最低賃金審議会は、昨年度、地域別のランク制度を4段階から3段階に改定し地域間格差の解消を図ったが、その効果は限定的である。2023年度(令和5年度)の最低賃金は、最も高い東京都で時給1113円であるのに対し、福岡県では時給941円、12県では時給890円台にとどまり、時給格差はなおも縮まる傾向を示していない。
地域の最低賃金の高低と人口の増減には強い相関関係があり、最低賃金の格差は、最低賃金が低い地域の人口減ひいては経済停滞の要因ともなっている。地域間格差の解消は、地域経済にとってもプラスの影響をもたらしうるものである。また、地域別の労働者の生計費の差についていえば、最近の調査によれば、都市部と地方の間でほとんど差がないという分析がなされている。この点からも、地方の最低賃金を都市部の水準にまで引き上げることが検討されるべきである。
一方で、地域経済を支える中小企業への支援策も不可欠である。最低賃金の引き上げと同時に、中小企業が最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行うことができるよう十分な支援策を講じることが必要である。例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することや、賃上げを実施したすべての中小企業が対象となる利用しやすい助成金制度の創設、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするような公正取引規制の徹底などの支援策が考えられる。
ここ数年、全国の地方公共団体において、最低賃金の引き上げと中小企業支援の拡充を求める意見書を採択する動きが相次いでおり、福岡県内でも福岡県及び60市町村のうち22市町村において同様の意見書が採択されている(全国一律を求める意見書の採択は17市町村)。
当会は、各地域との連携も図りつつ、引き続き、国に対し、中小企業への十分な支援策を求めるとともに、本年度、中央最低賃金審議会が、厚生労働大臣に対し、地域間格差を縮小しながら全国すべての地域において最低賃金の引上げを答申すべきこと、福岡地方最低賃金審議会が、福岡労働局長に対し最低賃金の大幅な引上げを答申すべきことを強く求める。

2024年(令和6年)6月19日

福岡県弁護士会         

会 長  德 永   響  

商業登記規則等の一部を改正する省令における代表取締役等住所非表示措置について、弁護士が代表取締役等の住所情報にアクセスできる制度の創設を求める意見書

カテゴリー:意見

第1 意見の趣旨
  当会は、国に対し、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)における代表取締役等の住所非表示措置について、弁護士が職務上必要な場合には、迅速に代表取締役等の住所情報にアクセスすること(オンラインにより住所情報を取得することを含む。)を可能とするための措置の創設を求める。
第2 意見の理由
 1 省令の改正内容
2024年(令和6年)4月16日、「商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)」(以下「本省令」という。)が公布された。
この省令は、一定の要件を満たした場合には、申出により、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」という。)の住所の一部について、登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないこととする措置(以下「住所非表示措置」という。)を定めたものである。
住所非表示措置がとられると、代表取締役等の住所は最小行政区画までしか記載されないこととなる。
本省令は、2024年(令和6年)10月1日の施行が予定されている。
 2 本省令施行後の対応
本省令施行後は、代表取締役等の住所非開示措置が講じられた場合で、代表取締役等の住所を把握する必要があるときには、管轄法務局に対し、代表取締役等の住所が記載された書面を閲覧することについて法律上の利害関係を有することを疎明した上で、管轄法務局の登記官の面前で閲覧をするか、または、不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第32号)で導入されたウェブ会議システムを利用した非対面で閲覧する方法をとらなければならないことになる。
  前者の方法では、利害関係を疎明する資料の作成に手間を要し、管轄法務局の窓口まで出向かなければならないことになる。また、後者の方法でも、請求者が、窓口または郵送で、所定の方式により登記申請書の閲覧請求を行った後、登記官が、これを相当と認め、かつ、正当な理由があると判断した場合に、請求人に連絡して日程調整を行い、実際の閲覧手続に進むというものであって、実際の閲覧に至るまでには相当の時間を要するものと見込まれる。
 3 手当の必要性
本省令は、代表取締役等のプライバシーを保護するという趣旨によるものであるが、その趣旨には賛同する。
しかし、商業登記における代表取締役等の住所の公開は、①会社に事務所や営業所がない場合の普通裁判籍を決する基準となるものであり、本店所在地への送達が不能となった場合での送達場所ともなるものである。また、②会社を悪用した詐欺商法を含む消費者被害等の救済にあたっては、代表取締役等の住所地は大きな手がかりとなるものであるが、本省令では②の点について特段の手当てはない。
昨今、国際ロマンス詐欺やSNS型投資詐欺等の詐欺商法が多数発生し、社会問題化しているが、被害金の振込先等で会社名義の預金口座等が多数悪用されている。上記②の点について手当がないままであれば、今後も会社名義が悪用された詐欺商法が一層増加することが懸念される。
このような被害者の被害回復を図るためには、裁判手続における送達場所となったり、法的責任(会社法第429条1項等)を負ったりする代表取締役等の住所を迅速に特定することが必要であって、特に被害回復のために保全の手続が必要であったり、消滅時効の問題があったりする場合等は、即時に住所を把握しなければならない。代表取締役等の住所を迅速に特定できるか否かは、弁護士が相談を受けた際の初期段階における方針策定や依頼の可否・要否の判断に非常に重要である。代表取締役等の住所を特定する方法として附属書類等の閲覧しか手段が確保されないのであれば、現行制度では被害回復が可能なケースであっても、これが難しくなる場合が発生する事態を許容することとなり、十分とはいえない。
4 結語
そこで、弁護士がその職務として行う場合には、迅速に代表取締役等の住所情報にアクセスできる仕組みを設けることで、プライバシー保護との調整を図るべきである。
商業登記よりもプライバシー情報の量が多い戸籍や住民票について、弁護士による職務上請求が認められていることに鑑みても(戸籍法第10条の2及び住民基本台帳法第12条の3参照)、代表取締役等の住所についての弁護士による職務上請求制度の創設がなされることに問題はない。
また、デジタル化推進の中においては、戸籍や住民票の職務上請求と同様の要件を満たす場合には、オンラインによる請求でも代表取締役等の住所の情報を迅速に弁護士が入手できる仕組みも必要である。
以上のとおりであるから、当会は、国に対し、本省令における代表取締役等の住所非表示措置について、弁護士が職務上必要な場合には、迅速に代表取締役等の住所情報にアクセスすること(オンラインにより住所情報を取得することを含む。)を可能とするための措置の創設を求める。

2024年(令和6年)6月19日
福岡県弁護士会 会長 德永響

当会元会員に対する有罪判決についての会長談話

カテゴリー:会長談話

当会の会員であった堀孝之(ほり たかゆき)元弁護士(2024年4月30日に弁護士登録を取り消した。)は、成年後見人として管理していた預り金570万円余りを業務上横領したとして、2024年5月28日、福岡地方裁判所において、懲役2年、執行猶予3年の有罪判決を受けました。
未だ確定していないとはいえ、被害全額の弁償をしてもなお、起訴されて判決で認定された事実は大変に重く、判決内容も当会が業務停止処分を下した事実とほぼ同じであって、弁護士に対する信頼を著しく損なうものであり、極めて遺憾です。
当会は、新たな不祥事の発生防止に向けてすでに対策を講じているものの、これにとどまらず、本談話の発出によって弁護士の意識向上を促し、弁護士職務の適正の確保並びに弁護士及び弁護士会に対する市民の皆さまからの信頼回復に努める所存です。

2024年5月28日
福岡県弁護士会
会長 德永 響

暴力団被害者の支援の拡充を求める決議

カテゴリー:決議

決議の趣旨
 当会は、以下のとおり、暴力団等による組織的な犯罪行為の被害者(以下「暴力団被害者」という。)に対する支援の拡充を求める。
1 福岡県に対し、暴力団被害者に対する居住支援、雇用支援その他の日常生活支援を拡充すること。
2 国に対し、暴力団等に対する求償訴訟の積極的な活用や、立替払制度・回収制度、適格団体訴訟制度の拡張といった暴力団被害者の被害回復に関する抜本的な救済制度を創設するなどの暴力団被害者に対する被害回復支援を拡充すること。

2024(令和6)年5月24日

福岡県弁護士会
決議の理由
第1 福岡県における暴力団被害の実情と課題
 福岡県には、全国最多の5つの指定暴力団の本拠が存在し、長年にわたり、暴力団の存在や活動が市民の安全で平穏な生活の大きな脅威となっており、実際に一般の市民が暴力団同士の対立抗争に巻き込まれ、あるいは暴力団の標的となり殺傷等の被害を受ける事件も多数発生している。そのため、当会の民事介入暴力対策委員会に所属する会員有志らは、このような暴力団被害者の代理人として、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴対法」という。)第31条の2に基づく指定暴力団の代表者等の損害賠償責任を追及する訴訟(以下「組長責任訴訟」という。)を提起するなど、これまで暴力団被害者の被害回復に取り組んできたところである。
 そして、福岡県においても、福岡県暴力団排除条例第9条に基づき、組長責任訴訟を提起し、又は提起しようとする者に対し、訴訟費用に充てる資金の貸付けを行うなどの必要な援助を行ってきたところであり、かつ、2023年度には、暴力団等(なお、本決議において、「暴力団等」とは暴対法第2条第2号に規定する暴力団のほか、いわゆる準暴力団(暴力団のような明確な組織構造は有しないが、犯罪組織との密接な関係がうかがわれるもの)を含む概念として用いている。)が関与する特殊詐欺等の組織犯罪に関し、弁護士の調査費用を調査委託費として公費で負担する全国初の取り組みを開始するなど先進的に暴力団被害者の被害回復に取り組んできたところである。
 しかしながら、暴力団被害は、暴力団等の凶悪かつ強大な組織によって引き起こされるものであるから、仮に実行犯が検挙されたとしても、被害申告や捜査協力に対する報復や証人威迫、口封じといった組織を通じての再被害(被害者が加害者より再び危害を加えられること)に対する不安が直ちに払拭されるものではないという特性がある。
 そのため、暴力団被害者の中には、当該暴力団等の影響力の少ない遠隔地への転居を余儀なくされ、あるいはそれまでの就業先を失わざるを得ないなどの大きな経済的負担を被ることもある。
 また、同様の理由により暴力団被害者がその被害回復を求めて自ら組長責任訴訟等の法的手続をとることは容易ではなく、さらに仮に民事訴訟で勝訴判決を得ても、その回収は困難を極める実情がある。
このように、暴力団被害者の被害は重大であるにも関わらず、被害回復は困難を極めるから、暴力団被害者に対する十分な支援が必要である。
第2 暴力団被害者に対する日常生活支援拡充の必要性
1 居住に関する支援
 暴力団被害者が犯罪被害者(犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為により害を被った者及びその家族又は遺族。以下「犯罪被害者等」という。)である場合、暴力団被害者についても福岡県における一時避難場所の確保に係る公費支出制度の利用や各自治体が行う公営住宅への入居に関する優遇措置などは利用可能であるが、暴力団被害者は当該暴力団等が存在する限り再被害の不安を払拭できないから、一時避難場所の提供では支援として不十分であるし、公営住宅では暴力団等からの保護対策の観点上安全な環境とは言い難く、暴力団被害者に対する居住支援としては不十分である。また、福岡県は、2023年4月1日、殺人や傷害等の故意の犯罪行為により死亡した犯罪被害者の遺族、又は重傷病を負った犯罪被害者が、当該犯罪行為が行われた時に福岡県内に住所を有する場合、見舞金を支給する制度を創設しており、このような見舞金は犯罪被害者等の転居費用にも充てられることが想定されるが、遺族見舞金は30万円、重傷病見舞金は10万円にとどまっており、犯罪被害者等が暴力団被害者で、当該暴力団等の影響力の少ない遠隔地への転居を余儀なくされる場合には、到底十分な金額とはならない。
 そこで、例えば、上記見舞金支給制度を拡充し、暴力団被害者を含む犯罪被害者等が遠隔地に転居することが相当な場合には、実際にかかった転居費用を追加して補助する等の暴力団被害を含む犯罪被害の実情に沿った居住支援制度の拡充が必要である。
2 雇用に関する支援
 暴力団被害者は、心身に重大な被害を受け就業困難に陥り、あるいは暴力団等による再被害をおそれて遠隔地に転居するなどすることで、転職や廃業を余儀なくされる場合がある。しかし、このような暴力団被害者の雇用の維持及び確保に関する支援としては、就職支援センターにおける就職支援などの一般的な福祉制度を利用するほかなく、暴力団被害者の被害の実情を鑑みれば、暴力団被害者に対する雇用支援としては不十分である。そこで、暴力団被害者を含む犯罪被害者等やこれらの者を雇用する企業に対する給付金・補助金の支援制度や、遠隔地での就業を希望するこれらの者に就業先を紹介する等の支援をするための広域連携協定の締結といった暴力団被害を含む犯罪被害の実情に沿った雇用支援制度の創設が必要である。
3 その他の支援
 暴力団被害者は、心身に重大な被害を受けることが多く、治療やカウンセリングのための医療費の負担が生じるほか、再被害の不安や保護対策を受けることとの関係上、日常生活にまで不自由が生じることが多い。また、暴力団被害は被害者本人のみならず、その家族や関係者に対しても及ぶことがあり、支援は被害者本人のみならず家族や関係者に対しても必要となる。
 しかし、医療、家事、育児、介護あるいは教育等の日常生活面において、暴力団被害者特有の支援制度はとくに存在せず、支援者側の安全の確保等の観点から民間支援団体による支援につなげることすら難しい現状がある。
 そのため、このような暴力団被害を含む犯罪被害の実情に沿った医療、家事、育児、介護あるいは教育等の日常生活面における支援のさらなる拡充を実現するべきである。また、それにあたって、暴力団被害者の支援の担い手となる民間支援団体等に対する警察による保護対策の強化や担い手の確保等にも取り組むべきである。
第3 暴力団被害者の被害回復支援の拡充の必要性
1 暴力団被害者が自ら損害賠償請求訴訟を提起することの困難さ
 福岡県における訴訟費用に充てる費用の貸付制度等をもってしても、暴力団被害者の再被害に対する不安に鑑みると、暴力団被害者が自ら組長責任訴訟等を提起することは困難を極める。そのため暴力団被害者の被害回復支援の拡充が必要である。
2 国の求償訴訟の積極的活用の提言
 犯罪被害者等に対する国の被害補償制度としては、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(以下「犯給法」という。)に基づく犯罪被害給付制度が存在し、暴力団被害者についても同制度による支援を受けることが可能である。そして、犯罪被害給付制度では、国は、その支給した犯罪被害者等給付金(以下「犯給金」という。)の限度において、当該犯給金の支給を受けた者が有する損害賠償請求権を取得することになる(犯給法第8条2項)。しかし、これまで国が実際にこの求償権を加害者側に行使した例は僅かにとどまっているようである。その理由については、求償権を行使しても加害者が無資力などで回収困難な場合が多いことや犯罪被害者等の救済を優先するためと考えられている。
 しかしながら、暴力団被害については、資力のない実行犯等のみならず、民法第715条に基づく使用者責任を追及する訴訟や組長責任訴訟を暴力団の代表者等に対して提起することが可能な場合があり、そのような場合には回収可能性が認められることも多い。とすれば、暴力団被害の場合に国が求償権を行使しない理由はないといえる。むしろ国が求償権を積極的に行使しないのであれば、かえって暴力団側に不当な利益を与えることになりかねず、暴力団の不当な活動を助長するおそれすらある。
 また、犯罪被害給付制度により暴力団被害者の全ての被害が補償されるものではないため、暴力団被害者の被害回復には犯罪被害給付制度の拡充もあわせて必要となるが、少なくとも国が積極的にこのような求償訴訟を提起すれば、暴力団被害者が単独で組長責任訴訟等を提起する場合と比較して、民事訴訟提起に伴う暴力団被害者の不安が緩和される効果が生じることが期待できる。
3 立替払制度・回収制度の創設等の提言
 日弁連の2023年3月16日「犯罪被害者等補償法制定を求める意見書」は、国が犯罪被害者等に対する経済的支援を拡充するため、①加害者に対する損害賠償請求により債務名義を取得した犯罪被害者等への国による損害賠償金の立替払制度、②加害者に対する債務名義を取得することができない犯罪被害者等への補償制度、の2つを柱とし、現行の犯給法による経済的支援を包摂した新たな犯罪被害者等補償法を制定するべきとする。
 同意見書は、意見の理由として、犯罪被害者等が受ける経済的被害の実情や犯罪被害給付金制度が不十分であることを指摘するが、このような指摘は、まさに暴力団被害者にも強く妥当するといえる。
 そして、これまでは、暴力団被害者については、組長責任訴訟等を提起することで損害賠償を受けることが可能であったが、暴対法や各地の暴力団排除条例等に基づく暴力団対策の強化により、将来、暴力団等の活動の匿名化・非公然化が進む危険性も指摘されており、その場合、暴力団の代表者等に対する勝訴判決を得ても、任意の弁済を受けることは期待し難く、また財産の隠匿等により強制執行も困難になるなど、現実の回収に至らない例が増加することが危惧される。
 そのような場合、組長責任訴訟等により暴力団の代表者等に対する債務名義を取得した暴力団被害者への国による損害賠償金の立替払制度や、債務名義を取得した後の債権回収を暴力団被害者が国の機関に委託する回収制度の創設は、いずれも有益であり、暴力団被害者の支援に資するものとなる。
 日弁連の上記意見書では、参考として、スウェーデンにおける強制執行庁による債務名義に基づく損害賠償金の回収制度が挙げられているが、国としては、このような制度を参考として早期に国による損害賠償金の立替払制度や回収制度を検討するべきである。
4 適格団体訴訟制度の拡張の提言
 暴対法第32条の4第1項は、適格都道府県センターに対し、当該都道府県の区域内に在る指定暴力団等の事務所の使用により付近住民等の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されることを防止するための事業を行う場合において、当該付近住民等で、当該事務所の使用によりその生活の平穏又は業務の遂行の平穏が違法に害されていることを理由として当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めの請求をしようとするものから委託を受けたときは、当該委託をした者のために自己の名をもって、当該請求に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有すると定めている(いわゆる適格団体訴訟制度)。暴力団被害者は暴力団からの報復をおそれ、暴力団に対する法的手続を躊躇する傾向にあるため、このような適格団体訴訟制度は暴力団被害者の保護に資するといえるが、現行法では、指定暴力団等の事務所使用差止請求にしか活用できない。そこで、消費者裁判手続特例法における被害回復関係業務に係る規律を参考に新たな立法的枠組みを創設するなどして、組長責任訴訟やそれを債務名義とする強制執行手続においても適格都道府県センターに訴訟担当適格や執行担当適格を認めることで、暴力団被害者の被害回復を容易にすることも考えられるところである。
第4 結語
 以上のとおりであるから、当会は、暴力団被害者を支援するため、第一に、福岡県に対し、暴力団被害者に対する居住支援、雇用支援その他の日常生活支援を拡充すること、第二に、国に対し、暴力団等に対する求償訴訟の積極的な活用や、立替払制度・回収制度、適格団体訴訟制度の拡張といった暴力団被害者の被害回復に関する抜本的な救済制度を創設するなどの暴力団被害者に対する被害回復支援を拡充することを求める。

以上

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