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犯罪被害者給付金不支給裁定取消し判決について控訴断念を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 福岡地方裁判所は,平成22年7月8日,小倉監禁事件の犯罪被害者遺族である被害女性が犯罪被害者給付金不支給の裁定の取り消しを求めた裁判において,同裁定の違法性を認め,これを取り消す判決を言い渡した。
2 小倉監禁事件は,平成14年に被害女性が監禁状態を脱して,その被害などを申告することによって発覚した事件であり,現在も刑事事件は最高裁判所に継続中である。
  平成17年,福岡地方裁判所小倉支部において刑事事件の一審判決がだされ,その後,被害女性は代理人を通じて犯罪被害者給付金の申請を行ったが,福岡県公安委員会,国家公安委員会はいずれも被害女性の父親の死から7年が経過していることを理由として給付金は不支給であると判断していた。
3 福岡地方裁判所の今回の判決は,被害女性において,処分行政庁に対する裁定の申請を事実上可能な状況のもとに,その期待しうる程度に犯罪行為による死亡の発生を知ったのは,被告人らに対する刑事事件の第1審判決書が作成された平成17年10月5日の時点と認められるとした。よって,被害女性はこの時点から2年以内である平成18年2月21日ころに給付金の申請をしているので,申請権は時効により消滅したということはできないとした。
  また,死亡から7年という除斥期間についても,判決は,除斥期間の経過前の時点において,当該権利の行使が客観的に不可能であるといえるか,又はこれと同視すべき申請権を行使しなかったことが真にやむを得ないといえる特別な事情がある場合には,当該特別な事情がやむまでの間,及び民法の時効の停止に関する規定に照らし,同事情がやんだ後から6ヶ月の間は除斥期間の経過による効果は生じないものと解するのが相当とした。本件においては,被害女性は,平成17年10月5日の刑事事件の判決書が作成されたときから6ヶ月以内に申請をしていることから,申請権は除斥期間により消滅したということはできないと判断されたのである。
4 当会は,平成12年3月に犯罪被害者支援センターを設置して犯罪被害者のための電話相談,面接相談に応じると共に,同年11月には犯罪被害者支援基金を創設して,刑事贖罪寄付を受け入れ,そこから犯罪被害者支援に関する支援活動を行う団体に対する援助や犯罪被害者の被害回復に関する訴訟等への費用の援助を行っており,本件の被害女性の平成18年2月以降の申請及び本件提訴に関しても,同基金より援助金を交付して支援を行ってきた。当会は,本件の被害女性の救済に向けた支援を通じて,犯罪被害者に対する途切れのない支援の必要性や,制度の重要性が周知されることを目的として支援してきたものであるところ,本件において,福岡地方裁判所が犯罪被害者の救済を重視した適切な判断をしたことは,犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ,その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出すという犯罪被害者等基本法の精神にのっとるものであり,高く評価するものである。
5 そこで,当会は,福岡県公安委員会に対し,控訴することなく本判決を確定させることを要請するとともに,判決確定の後,被害者への給付金の支給に向けた手続を進め,犯罪被害者の救済が速やかに実現されることを強く求める。
              2010年(平成22年)7月14日
                     福岡県弁護士会
                      会長 市 丸 信 敏
                             

老齢加算廃止違法判決に対する会長声明

カテゴリー:声明

2010(平成22)年6月18日
福岡県弁護士会
会長 市丸 信敏
1 福岡高等裁判所第1民事部は、2010年6月14日、北九州市内在住の74歳~92歳の生活保護受給者39名が、老齢加算の段階的廃止に伴う保護変更決定の取り消しを求めた裁判において、同決定の違法性を認め、これを取り消す判決を言い渡した。
  老齢加算の段階的廃止をめぐっては、全国8カ所の裁判所(4地裁、3高裁、1最高裁)において約100名の原告により裁判が闘われているが、本判決は初めての原告側勝訴判決である。
2 老齢加算は、高齢者に特有の生活需要を満たすために、原則70歳以上の生活保護受給者に対して、1960年の老齢加算制度創設以来、40年以上にわたり支給されてきたものである。
  しかし、国は、2004年に、その段階的廃止を決定し、2006年にはこれを全廃した。
3 福岡高等裁判所の今回の判決は、生活保護の受給が単なる国の恩恵ではなく法的権利であるとした最高裁昭和42年5月24日大法廷判決を確認し、生活保護の受給が法的権利である以上、保護基準が単に改定されたというだけでは生活保護法56条にいう「正当な理由」があるものと解することはできず、その保護基準の改定(不利益変更)そのものに「正当な理由」があることが必要であるとした。
  その上でまず、老齢加算について廃止の方向で見直すべきであるとの中間取りまとめを行った「生活保護に関する在り方専門委員会」(以下「専門委員会」という。)での議論をはじめ、廃止に至る判断・決定の経過を詳細に検討している。そして、専門委員会が中間取りまとめのただし書きで求めた「高齢者世帯の最低生活水準が維持されるよう引き続き検討する必要がある」との部分や、同じく専門委員会が指摘した「被保護世帯の生活水準が急に低下することのないよう、激変緩和の措置を講じるべきである」との部分を、老齢加算の廃止という方向性と並んで重要な事項であると指摘している。
  その重要な事項について、①中間取りまとめが発表されたわずか4日後に、国は老齢加算の段階的廃止を実質的に決定したこと、②老齢加算の段階的廃止が決定された過程において、中間取りまとめのただし書きが求めた「高齢者世帯の最低生活水準が維持されるよう引き続き検討する必要がある」という点については国により何ら検討されていなかったこと、③同じく激変緩和措置についても、被保護者が老齢加算の廃止によって被る不利益等を具体的に検討した上で決定されたという形跡はないとの事実を認定した。
  これらの事実を前提として、本判決は、老齢加算の段階的廃止は考慮すべき事項を十分考慮しておらず、又は考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠き、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものであるということができるとし、保護受給権とも称すべき原告らの法的権利を正当な理由なく侵害したこととなり、生活保護法56条に違反し違法であるとの判断を下したものである。
4 当会は、生存権の擁護を急務と考え、生活保護の受給要件を充たすにもかかわらず受給できていない市民に対し生活保護申請手続の援助を行うなど、生存権擁護と支援のための取り組みを強めてきた。
  そして、2009年5月14日、今日の世界同時不況という事態の下で現在我国において雇用不安、貧困・生活窮乏などが一層深刻化していることにより、生存権、人間らしく働き生きる権利、ひいては個人の尊厳など本来日本国憲法によって保障されている重大な権利が危機的な状況にあることに鑑み、すべての人が個人の尊厳をもって人間らしく働き生活していけるようにするために、生存権の擁護と支援に必要な諸活動を行うことを目的として、当会に「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を設置した。さらに、同年5月25日に開催した定期総会においては「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」を採択し、高齢者はもとより非正規雇用労働者・母子・障害者家庭等の貧困の拡大と生活の窮乏化が進行している一方で、これを補うべき社会保障分野のセーフティネットも崩壊状況にあり、極めて深刻な社会不安が広がっていることへの危惧を表明し、国及び地方自治体に対し、社会保障費の抑制方針を改め、また,ホームレスの人も含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図り,セーフティネットを強化することを強く求めてきた。
  今日の貧困の広がりの中、国は社会保障を強化することこそあれ、安易な切り下げを行うことはあってはならない。
  この点で、当会は、福岡高等裁判所が安易な切り下げを認めない判断をしたことを高く評価するものである。
5 そこで、当会は、北九州市に対しては、上告することなく本判決を確定させることを要請する。また、厚生労働大臣においては、原告ら対象世帯の高齢化が一層進んでいることを深刻に受け止め、老齢加算を元に復するための措置を速やかにとることを要請する。
                              以  上 

横浜弁護士会所属会員殺害事件に関する会長声明

カテゴリー:声明

本年6月2日午後2時40分頃、横浜市において横浜弁護士会に所属する前野義広弁護士が、事務所を訪ねてきた男に襲われ、サバイバルナイフのような刃物で胸や腹を刺され、搬送された病院で死亡するという痛ましい犯罪が発生した。
 事件後に犯人が逃走したために、現在も犯人の特定はなされておらず、事件の背景や犯行の動機などは、今後の適正かつ厳格な捜査を待つ以外ないが、法律事務所において、昼の執務時間帯に、業務遂行中の弁護士を襲撃したことから、今回の犯行は、弁護士業務に関連したものである可能性が高いと考えられる。
 このような行為は、民主主義社会において決して許してはならない蛮行である。また、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、市民の権利の護り手である弁護士の業務に対する重大な挑戦であり、このような業務妨害や暴力行為は、いかなる理由があっても許されるものではない。
 当福岡県弁護士会は、横浜弁護士会、そして日本弁護士連合会や全国の弁護士会とともに、今後とも、いかなる暴力行為に対してもひるむことなく毅然として対処し、弁護士の使命を全うしていく所存である。
     2010年6月9日
                  福岡県弁護士会
                   会長 市 丸 信 敏

国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議

カテゴリー:決議

国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議
2007年の少年法改正により,一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪)については,家庭裁判所が弁護士である付添人の関与が必要であると認めるときという条件があるものの,国選付添人が選任されることになった。
こうして,国選付添人制度が発足したことは,大きな前進とはいえるものの,その他の事件により観護措置決定を受けている多くの少年は,付添人が選任されないまま少年院送致などの重大な審判を受けるという事態が続いている。
とりわけ,被疑者国選対象事件が拡大され,いわゆる必要的弁護事件については,すべて被疑者の段階で国選弁護人を選任することができるようになった。そのため,少年についても,被疑者段階では国選弁護人が選任されていたにもかかわらず,家庭裁判所に送致されると同時に当該少年には弁護士が選任されなくなるという事態を生じさせている。これは,法の不備といわざるを得ない。
少年事件に弁護士付添人を選任することは,冤罪を防ぐという観点から不可欠であるだけでなく,適正な手続きの下で,適正な保護処分に付するという観点からも,そして,何よりも少年の更生を図るという少年法の理念を実現するうえでも不可欠である。
これまで,日弁連は,弁護士自らが費用を出し合い,法律援助という方法で多くの少年が弁護士付添人を選任できるように努力してきた。しかしながら,冤罪を防止し,適正な手続きの中で適正な保護処分に付すること,そして,少年の更生を期すことは,すべて国の責務である。
そこで,福岡県弁護士会は,少年が家庭裁判所に送致され,観護措置決定を受けて身体拘束されている事案については,すべて国選付添人が選任される制度,すなわち全面的国選付添人制度を早急に実現することを求めるものである。
以上のとおり決議する。
2010(平成22)年5月25日           
福岡県弁護士会定期総会
提 案 理 由
1 福岡県弁護士会は,2001年2月,全国に先駆け「全件付添人制度」を発足させた。この制度は,観護措置を受けた少年については,その少年が弁護士付添人の選任を希望する限り,すべて弁護士会の責任において,弁護士付添人を選任するという制度である。
  少年事件においても,検察官送致(少年法20条)や少年院送致,児童自立支援施設等への送致など長期間に渡る身体拘束を伴う重大な処分がなされる可能性がある。特に,観護措置決定を受けた少年については,その期間中身体拘束を受けるだけでなく,上記の重大な処分を受ける可能性が高くなる。
しかしながら,それまで多くの少年が,弁護士の関与のないまま,少年院送致等の重大な処分を受けていた。
そのため,福岡県弁護士会は,少年を冤罪から守り,適正手続きと適正な処分を保障し,少年の更生の援助をするため,上記全件付添人制度を発足させたのである。
2 我々弁護士は,家庭裁判所の理解と協力を得て,多くの観護措置を受けた少年の付添人に選任されてきた。
そして,少年の人権を守り,少年の更生を期すための付添人活動を実践してきた。その活動の中で,多くの少年が自立・更生する姿を見ることができた。そうした付添人活動によって,少なくとも観護措置決定を受け,身体拘束されている少年については,重大事件だけではなく,窃盗事件や傷害事件,さらには少年法特有のぐ犯事件などすべての事件について弁護士付添人が不可欠であることを実感している。
3 確かに,少年法は,「少年の健全な育成を期す」という保護処分を課すものである。しかし,「保護処分」といっても,相当期間少年院に収容するなどして,少年の自由を大きく制限する処分も含まれており,その処分は適正な手続きの下での,適正なものでなければならない。
また,家庭裁判所には調査官がいて,調査官が少年の資質,生育歴,家庭環境などを調査し,適正な処分を図るシステムがある。しかしながら,弁護士付添人は,少年の立場に立って,真相を解明するとともに,時には被害者と直接接触し,被害回復のための措置を講じたり,その被害実態を少年や保護者に説明して少年やその保護者に反省を促し,さらに,社会環境の調整を試みるなどして少年の早期更生を図る活動を実践している。こうした活動は,弁護士付添人にしかできないものであり,かつ,少年の更生にも極めて有益である。
4 そして,こうした地道な活動が一つの契機となって,2007年には,ようやく国選付添人制度が発足した。
 しかしながら,この国選付添人制度は,その対象が① 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪,② 死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪,という重大事件に限定されており,しかも,「家庭裁判所が弁護士である付添人の関与が必要であると認めるとき」という条件が付されている。
弁護士付添人が少年事件において不可欠であることは,先に述べたとおりである。つまり,少年の人権を守り,少年の早期更生を図る必要は,重大事件に限られるものではないし,少年法特有のぐ犯事件においても,とりわけ観護措置が必要なほどぐ犯性が進んでいる少年については弁護士付添人の存在が不可欠である。
5 また,2009年5月21日から,いわゆる必要的弁護事件については,被疑者段階から国選弁護人を選任できる制度に改められた。そのため,少年も,窃盗,傷害などの必要的弁護事件について,被疑者段階においては,国選弁護人を選任することができるようになった。
成人であれば,起訴されると同時に,被告人国選弁護人が選任されることになる。しかし,少年の場合は,上記のとおり国選付添人制度の対象が極めて重大な事件に限定されているため,多くの少年については,家庭裁判所に送致されると同時に弁護士の関与がなくなるという結果になる。
  日弁連は,こうした状況を回避するため,被疑者段階で国選弁護人が選任されていたケースについては,少年が家庭裁判所に送致されてからも,法律援助を利用して,できる限り弁護士が付添人に選任されるように努力している。
もっとも,この法律援助は,我々弁護士の拠出した資金によって運用されている。したがって,国選付添人制度が拡大されない限り,我々弁護士の拠出は永遠に継続されることになる。しかし,上記のとおり,観護措置決定を受けた少年には,弁護士付添人は不可欠であり,弁護士付添人を選任することは国の責務である。
6 被疑者国選弁護制度を拡大した趣旨からしても,国選付添人制度の拡大は必然である。
被疑者国選弁護制度も,当初はその対象が短期1年以上の重大な事件に限定されていた。
しかし,冤罪を防止するために被疑者国選弁護人が不可欠であることは,こうした重大事件に限られるものではなく,窃盗事件や傷害事件など他の多くのいわゆる必要的弁護事件においても同じである。弁護士の対応能力などの問題から,当初は重大事件に限定されていたが,最終的には必要的弁護事件すべてを被疑者国選弁護制度の対象に拡大した。同様に,少年事件についても,国選付添人制度の対象を拡大しなければならないことは当然である。
そもそも,被疑者段階での弁護活動は,起訴されるべきでない被疑者を起訴させないための活動は当然のこととして,起訴されたのちを想定して活動する。すなわち,無実の被疑者が将来有罪判決を受けることがないように,被疑者に虚偽の自白をさせないように,また,被疑者に有利な証拠を収集する活動を行なう。被疑者が当該犯罪を実行している場合であっても,必要以上に重い刑が言渡されることがないように,適正な判決がなされるように活動する。特に,少年事件の場合は,家庭裁判所に送致されてから原則4週間以内に審判が行なわれるため,被疑者段階から,少年や保護者と信頼関係を築き,反省を深めたり,被害弁償をしたり,環境調整に取り組む。
つまり,被疑者弁護は,それ自体が目的ではなく,将来の裁判(審判)を見据えて,最終的に当該被疑者の権利が侵されることがないように活動をするのであって,起訴(家庭裁判所送致)後の活動と不可分一体のものである。ましてや,少年事件の場合には,家庭裁判所送致後時間的猶予がないため,被疑者段階から,少年の更生を目指した活動を実践しているのである。
そうであるにもかかわらず,被疑者段階にのみ国選弁護人が選任され,家庭裁判所に送致されると同時に弁護士の関与がなくなるという現在の法制度はあまりにも不合理で,早急に是正されなければならない。
7 以上のとおり,非行を犯していない少年を冤罪から守り,非行を犯した少年であっても,適正な処分が課せられるべきであり,かつ,その更生のために可能な限りの援助がなされるべきである。そのためには,国選付添人選任の対象を,少なくとも観護措置決定を受けたすべての少年とすべきである。
福岡県弁護士会は,この間,全国に先駆けて全件付添人制度を立ち上げ、この制度を全国に広げるために先頭に立って努力してきたが、国選付添人制度の対象が拡大されたのちは,マンパワーを一層充実させて,その対象となるすべての少年の権利を守り,その更生を期すために最大限の努力を惜しまないことをここに誓うものである。
よって,政府,国会,最高裁判所及び法務省に対し,すみやかに全面的国選付添人制度の実現のための法改正を行なうことを求めるものである。
以上

司法修習生の修習資金給費制の維持を求める緊急決議

カテゴリー:決議

 わが国の司法制度を担う法曹である裁判官、検察官及び弁護士になるには、司法試験に合格した後、司法修習を終えることが必要である。司法修習は、法律実務に関する汎用的な知識や技法のみならず、市民の権利に直接関係する法曹として求められる高い職業意識と倫理観の修得をも目的とするもので、裁判官、検察官、弁護士のいずれの道に進む者に対しても同じカリキュラムで行われ(統一修習制度)、国際的に見ても特徴があり、高い評価を受けている。
 そこで、司法修習生には、全力で修習に専念すべき義務(修習専念義務)が課されている。そして、この修習専念義務を担保するため、司法修習生には、1947(昭和22)年に司法修習制度が創設されて以来、一貫して、国庫から給与が支給されてきた(給費制)。この給費制があればこそ、司法修習生は経済的な不安を持たずに司法修習に専念することができ、また、貧富の差を問わず、国民のあらゆる階層から有為で多様な人材が法曹界に輩出されてきたのである。
 ところが、2010(平成22)年11月1日から、この給費制が廃止され、必要な者に生活資金を国が貸与する制度(貸与制)が実施されることとなった。給費制の見直しは、司法制度改革審議会の意見書等を受け、2004(同16)年11月に裁判所法が「改正」されて定められたものである。
 しかるに、裁判所法「改正」後、新たな法曹養成制度の出発点である法科大学院への志願者は年を追うごとに減少し、法学を学んでいない者(未修者)や社会人など他分野からの有為な人材の集まりにもかげりが見られる。この背景には、法科大学院(2ないし3年間)の費用が多額に上り、生活費の負担も大きく、また急激な法曹人口増により弁護士の就職が困難になるなどの経済的問題があることが指摘されている。
 このような現状のもとで給費制を廃止した場合、法科大学院時代の負債に加えて司法修習中にも更に負債を抱えることを余儀なくされ、経済的事情から法曹への道を断念する者が一層増大する事態が強く危惧されるとともに、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれ、司法改革審議会意見書が目指した、貧富の差なく多様な人材を法曹に求めんとした新しい法曹養成制度の基本理念にも背理する結果となる。
 司法修習制度は、司法修習生が裁判官、検察官、弁護士のいずれになるかを問わず、わが国の司法制度を支える重要な社会的インフラ(基盤)であり、これを支える費用を負担することは国の当然の責務である。給費制を廃止することは、司法制度を支える法曹養成の責任を国が放棄することを意味し、これによって害を被るのは、優れた資質を備えた多様な人材からなる法曹、市民の目線にたった弁護士による援助の機会を奪われる市民である。
 よって、当福岡県弁護士会は、直ちに司法修習生に対する給費制を継続する法改正を行うよう、政府・国会・最高裁に強く求めるとともに、その実現のために全力を尽くす決意である。
 以上のとおり決議する。
                2010(平成22)年5月25日
                福岡県弁護士会定期総会
          提案理由        
1.貸与制の導入に関する裁判所法「改正」に至る経緯
(1)司法制度改革審議会意見書
   司法制度改革審議会は、2001(平成13)年6月12日、意見書において、給費制についての在り方を検討すべきであるとして「修習生に対する給与の支給(給費制)については、将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘もあり、新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考慮しつつ、その在り方を検討すべきである。」と述べた。
(2)裁判所法「改正」
   国会は、2004(平成16)年11月、給費制を廃止し修習資金の貸与制を実施することとして裁判所法を「改正」した(裁判所法67条の2 修習資金の貸与等)。ただし、実施時期は当初の法案では2006(同18)年11月1日からの実施予定であったが、貸与制について周知徹底するためとして実施が4年間延期され、附則で2010(同22)年11月1日が施行期日とされた。
(3)附帯決議
   その際、衆参両議院共通の附帯決議がなされ、1項で、改革趣旨・目的が、「法曹の使命の重要性や公共性にかんがみ、高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成する」ものであること、3項で「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」が明記された。
2.裁判所法「改正」後の実情
(1)多様な入学者・志願者全体の減少傾向等
   新たな法曹養成制度の出発点である法科大学院について、司法制度改革審議会が望ましいとした法学部出身者以外の未修者や社会人入学者は、実情は、例えば2006(平成18)年度と2009(同21)年度を比較すると、法学未修者が3605名から2823名へと782名減少し、社会人が1925名から1298名へと627名減少しており、他分野からの有為な人材の集まりにかげりが見られる。
   そればかりか、法科大学院への志願者全体につき、初年度の2004年(同16)度では7万2800名、2005(同17)年でも4万1756名であったものが、2010(同22)年度では2万4014名(暫定値)と大幅に減少している。
(2)法曹志望者の減少の背景
   この背景には「法曹を目指すに当たり、投下する負担に比して危険が大きすぎる。」という心理が一般化し始めているとの指摘がある。
   すなわち、法科大学院の学費として、国立大学の場合、入学金が約28万円、年間授業料は約80万円となっており、私立大学の多くは、入学金が20万円から30万円程度、年間授業料は100万円から150万円程度になっている。このほかに教科書などの教材費がかかるほか、生活費も必要である。それに、社会人入学者は家族の生活を支えなければならない。現実には未修者が法科大学院で学ぶということは「1000万円もかかる大事業」となっている。
   日本弁護士連合会が2009(平成21)年11月19日、20日に実施した司法研修前研修(事前研修)の際、受講者である新第63期司法修習生候補者を対象に実施したアンケートによれば、回答者1528名中807名(52.81%)が法科大学院で奨学金を利用したと回答し、そのうち具体的な金額を回答した783名の利用者が貸与を受けた額は、最高で合計1200万円、平均で合計318万8000円にも上っていた。
   他方で、司法試験合格後の司法修習生時代においては、修習専念義務により兼職が禁止され、アルバイトを行うこともできない。
   更に、司法修習生には就職難が待っている。すなわち、急激な法曹人口増により弁護士事務所への就職が困難になっている上、公務員・社内弁護士など他分野への進出も現状では増員に見合うものにはなっていない。裁判官、検察官の増加もわずかである。
   その上に、現在の給費制が廃止されれば、兼職を許されない司法修習生は、相当の貯蓄がない限りは貸与制を利用せざるを得なくなる。仮に貸与制を利用した場合、基本額で月額23万円の貸与額は1年間の修習終了時点では合計276万円に上ることになり、上記アンケート結果を前提にすれば、新規弁護士の50%を超える者が、弁護士登録した時点で平均して600万円近くの借金を負っていることになる。給費制の廃止と貸与制の導入により、司法修習生を取り巻く経済環境は更に悪化するのである。
   近時、弁護士の就職難から、司法修習終了後直ちに独立する弁護士(いわゆるタク弁、ソクドク)や他の法律事務所の一角を借りて業務を行う弁護士(いわゆるノキ弁)が増加していることも指摘されており、これらの弁護士にとって、弁護士開業後の収入は極めて不安定で厳しいものがある。法科大学院や司法修習生時代の借金を返済することは容易ではないのである。
   このような現状では、多くの有為な人材が「法曹は、人生をかけて目指すべきものだろうか。」という疑問を持つのは当然の成り行きである。あるいはまた、高い志と能力を有しながら、経済的な理由だけで、法曹となることを断念せざるを得なくなる者が多数出てくることも容易に想像される。このままでは、法曹を目指す有為の人材が減少していくことに拍車がかかることは必至である。
3.司法修習生に対する給費制の廃止に伴う弊害
(1)有為な人材の確保
   わが国における従来の法曹の人材確保は、法曹資格の取得については貧富の差を問わず広く開かれた門戸であり、従来の法曹養成制度は、決して「金持ちにしか法曹になれない制度」ではなく、多様な人材が裁判官、検察官、弁護士として輩出されてきた。この点は非常に高く評価すべきであり、また、将来もそのようでなくてはならない。司法制度改革審議会も「資力のない人、資力が十分でない者」が法曹となる機会を求めている。
   貧富の差なく国民の各層から広く法曹が誕生することにより、真に市民のための開かれた司法が現実化し、市民の権利実現が果たされることになるのである。
   給費制が廃止されれば、21世紀の司法を支えるにふさわしい資質・能力を備えた人材が、経済的事情から法曹への道を断念する事態も想定され、その弊害は極めて大きい。
(2)司法修習生の修習専念義務
   最高裁判所は、従来から修習の実効性を挙げるために、司法修習生に対し兼業の原則禁止をはじめとする厳しい修習専念義務を課してきた。2004(平成16)年の裁判所法「改正」でも、その理念・方針には何ら変わりはない。司法修習期間が段階的に短縮され、近々1年に統一される状況において、司法修習生の質の低下を防ぐためにも、この義務は重要かつ不可欠である。
   この修習専念義務を担保するために、1947(昭和22)年に司法修習制度が創設されて以来、一貫して、司法修習生には国庫から給与が支給されてきたのであり、給費制があればこそ、司法修習生は経済的な不安を持たずに司法修習に専念することができたのである。
   この給費制を廃止しておきながら、他方で修習専念義務を課したままアルバイト等を禁止するというのでは、司法修習生に経済的に過大な負担を強いることになり、制度として無理がある。
(3)社会的責任(公共性)等公共心の醸成 ―弁護士の社会への貢献・還元―
   給費制は、現行司法修習制度の下で、法曹、とりわけ弁護士の公共性を制度的に担保する役割を歴史的に果たしてきた。
   すなわち、逮捕勾留された人に無料で接見に赴く当番弁護士制度、少年鑑別所に収容された少年に無料で面会に赴く当番付添人制度、市民相談の要となる法律相談センター事業の拡充、弁護士へのアクセスが難しい過疎地における公設事務所の開設など、弁護士・弁護士会による各種の公益活動は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の公共性・公益性を具体的な形として結実したものである。また、弁護士の人権擁護のための諸活動(例えば、人権救済、子どもの虐待防止活動、消費者保護運動、犯罪被害者支援活動、民事介入暴力対策、法教育等々)をボランティアで支えてきたのは、個々の弁護士の強い使命感にほかならない。
   しかし、経済的に困窮する弁護士が増えれば、公共心、使命感を持って、このような公益活動を担う余裕が失われ、ビジネスを優先せざるを得なくなることが危惧される。給費制の廃止、貸与制の導入が、多くの弁護士の資質や仕事の在り方に深刻な影響を与え、恵まれない人々、虐げられた人々のために社会正義を実現するという市民が期待する弁護士像から遠ざかってしまうおそれもある。
4.「国民の社会生活上の医師」としての法曹・弁護士
  司法制度改革審議会は、法曹の質を求め、法曹教育の在り方及び弁護士の役割について「国民の社会生活上の医師」であることを求め、弁護士に社会的責任(公益性)の自覚を求めている。司法制度改革審議会は、いわば弁護士を医師とパラレルに考えて制度設計をなすことを求めているとも言える。
  そこで、医師の養成制度と対比してみると、2004(平成16)年度から国家試験に合格した医師には2年間研修を義務づけられているところ、研修中はアルバイトなしで専念して研修することができる制度が設けられた。その後、医師の養成のためには、2008(同20)年度まで教育指導経費・導入円滑化加算費として毎年約160億円から171億円の予算措置がなされている。この医師は公務員だけではなく、もちろん民間医師も含まれている。2009(同21)年度からは臨床研修に国家予算が導入されており定着化している。
  このように、医師は民間人であっても市民の生命と健康を守る社会的インフラであるから、研修医の給与には国費が投入されている。「国民の社会生活上の医師」である弁護士をはじめ、市民の権利の実現ないし擁護者である裁判官、検察官を含む法曹養成のためにかけがえのない司法修習制度を医師の研修と並行して考えれば、現在の給費制を維持すべきは明らかである。
5.給費制を維持した場合の国家予算
  司法修習生の手当予算は、2007(平成19)年度において2376名の100億3000万円、2008(同20)年度において2408名の104億9900万円、2009(同21)年度において2327名の108億9400万円である。
  司法試験合格者は、当初2010(同22)年度には年間3000人となることが目指されたものの、現実には過去3年間は2100名から2200名程度で推移しており、その背景には、日本弁護士連合会の2008(同20)年7月の法曹人口問題に関する緊急提言のとおり、司法改革全体の統一的かつ調和のとれた実現をするためには、数値目標にとらわれず、法曹の質に十分配慮すべき状況にあることが指摘される。
  また、今後、旧司法試験制度が終息し、修習期間が全面的に1年間となることも併せ考えれば、司法修習生の手当予算は現状の100億円程度から大幅に増加することはないと考えられる。
  このように、今後の法曹人口問題も流動的であり、裁判所法改正時に予想された2010(同22)年度における年間3000名合格者による支出の増大予想は、その前提事実に大きな変動が認められる。
6.結論
  司法修習制度は、司法修習生が裁判官、検察官、弁護士のいずれになるかを問わず、わが国の司法制度を支える重要な社会的インフラ(基盤)であり、これを支える費用を負担することは国の当然の責務である。給費制を廃止することは、司法制度を支える法曹養成の責任を国が放棄することを意味する。また、弁護士は民間人ではあるが、そうであるからこそ、強い法曹倫理を背景に、国や地方公共団体と市民が対立する場合にも、市民の権利を擁護することができるのである。給費制を廃止することは「法の支配」を社会の隅々まで行き渡らせるという司法制度改革の目的にも背馳し、これによって害を被るのは、優れた資質を備えた多様な人材からなる法曹、市民の目線にたった弁護士による援助の機会を奪われる市民である。
  当福岡県弁護士会は、法曹養成を担う責任ある立場から、次世代の法曹を育成するため、2009(平成21)年5月25日に、「司法修習生に対し給与を支給する制度(給費制)に代えて2010(同22)年11月1日から実施される修習資金を国が貸与する制度(貸与制)の実施時期を相当期間延期し、給費制の復活を含めどのような援助措置が適切か制度全体の再検討に着手すべきである。」ことを政府・国会・最高裁に求める決議をなした。
  しかし、大変遺憾ながら、政府・国会・最高裁は、給費制廃止を何ら見直そうとはせず、他方で、法科大学院受験者の減少傾向は強まるばかりであり、状況は改善されることなくむしろ悪化している。
  また、法務省及び文部科学省は、法曹養成制度に関する制度ワーキングチームを設置し、2010(同22)年3月1日に第1回会議が開催されたが、貸与制を見直す方向での議論は見受けられない。
  以上の状況を踏まえ、日本弁護士連合会は、2010(同22)年4月15日に司法修習費用給費制維持緊急対策本部を設置し、各弁護士会と連携しつつ給費制維持のための運動を展開することを表明した。これを受けて、当福岡県弁護士会も、2010(同22)年5月14日に緊急対策本部を設置して、この問題に会を挙げて全力で取り組む方針を確認した。
  当福岡県弁護士会は、直ちに司法修習生に対する給費制廃止を撤回し、給費制を継続する法改正を行うよう、改めて政府・国会・最高裁に強く求めるとともに、その実現のために全力を尽くす決意である。
 以上

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