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投票価値の格差是正を求める会長声明

カテゴリー:声明

 本日、最高裁判所大法廷は、2009年8月30日に施行された衆議院議員総選挙につき、「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた」とする判決を言い渡した。これは、2009年衆議院総選挙において、小選挙区選出議員1人あたりの選挙人の人数較差が、最大2.30倍に達していたため、選挙権の平等を侵害し違憲であるとして、選挙の無効を求めて、福岡県を含め全国で提起された訴訟9件について、最高裁が判断を示したものである。
 そもそも、議員1人あたりの選挙人の人数が均等であるべきという投票価値の平等は、法の下の平等(憲法14条1項)、選挙人資格の平等(憲法44条)を定める憲法の要請である。また、投票価値の平等を確保することは、「国権の最高機関」(憲法41条)である国会に国民の意思を的確に反映するための重要な条件であって、議会制民主主義、ひいては国民主権を支える要の一つである。
 本日の大法廷判決は、投票価値の平等について、「定数配分及び選挙区割りを決定するについて、議員1人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすること」を憲法が求めているとした上で、衆議院小選挙区の区割りにあたり、人口比例部分とは別に各都道府県に議員定数1を配当する1人別枠方式について、「遅くとも本件選挙時においては、」「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた」と述べている。
 大法廷判決の結論にも示されたとおり、投票価値の平等の重要性にかんがみれば、投票価値の格差が2倍を超えることは憲法の要請に反するというべきである。
 当会は、国会に対し、速やかに、衆議院議員総選挙における投票価値の格差を是正するための措置をとることを求める。
                     2011年(平成23年)3月23日
                       福岡県弁護士会
                         会長  市 丸 信 敏

当会会員の逮捕に関する会長談話

カテゴリー:会長談話


                会長談話
 このたび、当会の渡邊和也会員(北九州市)が業務上横領罪の容疑で、3月3日、福岡地方検察庁に逮捕されました。
 基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、市民の権利の護り手として最も公正を旨とすべき弁護士が、このような事件を起こしたことは、全く申し開きの余地のないことです。監督者の立場にある福岡県弁護士会を代表して、県民・国民の皆さまに対して、深くお詫びを申し上げます。
 本件の行為は、弁護士の業務に対する社会的信用を失墜させる重大な非違行為であり、当会では、同会員について当会綱紀委員会に調査請求をすること(懲戒請求)を決定し、3月4日、その手続きを了しました。
 当会は、本件を契機に、より一層会員の職業倫理の向上に努め、弁護士および弁護士会に対する県民・国民の皆さまからの信頼の確保に努力致す所存です。
                         2011年(平成23年)3月10日
                             福岡県弁護士会
                             会長 市 丸 信 敏

今、改めて取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を求める決議

カテゴリー:決議

当会は、平成15年5月27日に取調べの全過程の録画・録音による取調べの可視化を求める決議をし、その後も取調べの可視化に関しては会長声明や宣言を繰り返すとともに、取調べの録画制度に関する海外視察やシンポジウムの開催、署名活動など可視化実現に向けた取り組みを続けてきた。
そして、平成21年に取調べの可視化をマニフェストに掲げた民主党が与党となり、さらには平成22年には足利事件と元厚労省雇用均等・児童家庭局長事件という2つの大きなえん罪事件の判決によって取調べの可視化が不可欠であることが明白となった。
しかし、現在に至るも、取調べの全過程の録画制度は実現せず、検察や警察も取調べの一部を録画するに留まっている。しかも、現在行われている取調べの一部録画のほとんどは、実質的な取調べが終わった後に、取調べに問題がなかったかどうかや供述内容の確認などをする「レビュー方式」や、それに供述調書の読み聞かせや署名押印部分を加えたものに過ぎない。
これでは、読み聞かせや署名押印部分の状況が客観的に分かるだけであり、実質的な取調べの際の状況そのものの客観的な証拠にはならない。いわゆる「レビュー」は、取調べに問題がなかったかどうかを確認する被告人質問を前倒しして実施し、それを録画しているというだけで、そもそも取調べそのもの一部録画ですらないのである。
今般、最高検は特捜部が被疑者を逮捕した事件においても取調べの可視化を試行すると発表したが、これも検察官の裁量で取調べの一部を録画するに留まるものであり、問題は全く解決していない。
あくまで、取調べの全過程が録画されなければ、違法な取調べを防止することも、取調べの状況を客観的に証拠化することもできないのであり、取調べの一部だけが録画されることは、かえって裁判官や裁判員の判断を誤せる結果となりかねない。
そこで、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を具体的に実現していくために、当会は
1 国に対し、すみやかに全ての被疑者の取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備すること、仮に段階的実施をとらざるを得ない場合には、対象事件を絞ることはあっても、対象事件については全ての取調べの全過程を録画するようにし、取調べの一部だけを録画することを許容するような制度には絶対にしないこと
2 検事総長及び警察庁長官に対し、上記1の法制化がなされるまでの間、裁判員裁判対象事件及び特捜部が被疑者を逮捕する事件に関しては、取調べの一部録画・録音にとどまることなく、即時に取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を実施するとともに、取調べの可視化の対象事件を被疑者・弁護人が取調べの可視化を求めた事件にも拡大すること
3 各裁判官に対し、供述調書の任意性に争いがある場合は、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)によって取調べの状況が客観的に立証されない限り、供述調書に任意性がないという判断をすること
を求めるとともに、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の1日も早い実現のため、当会として全力を挙げて取り組んでいくことを決議する。
2011(平成23)年3月9日
福岡県弁護士会
決議理由
1 日本の刑事裁判は「自白調書」に過度に偏重し、取調べを行う警察官や検察官は自白獲得に躍起となって、取調室という「密室」の中で強引な取調べが行われてきた。そして、捜査官の考えるストーリーを押し付け、捜査官の作文した「自白調書」に署名押印を無理強いし、そのために暴行や脅迫などを用いるなどの違法な取調べによる人権侵害が起こり、さらに虚偽の自白調書が作成され、えん罪という最大の人権侵害が生じてきた。これらは昔の話ではなく、足利事件や氷見事件などの再審無罪判決に見られるように、現在も生じている問題である。
これらの再審無罪事件では、検察官に押し付けられた虚偽の「自白調書」について、裁判官がその任意性や信用性の判断を誤ったことが、無実の人々に多大なる人権侵害をもたらした原因の1つである。そして、その背景には、密室の取調べの状況を後から客観的に検証することが不可能な一方、「無実の人が虚偽の自白をするはずがない」「虚偽の自白調書に署名したりするはずがない」という安易な考えから、多くの裁判官が、公判での被告人の訴えよりも、警察や検察が作成した調書を重視するという傾向を持っているという問題があると考えられる。
2 我々弁護士も、密室の取調室で真実何が起こっているのかを知る立場にはない。
しかし、当会が全国に先駆けて始めた当番弁護士制度により、被疑者段階に多くの弁護士が関わっていく中で、供述調書の作成と同じ時期に被疑者と接見を繰り返していく中で、上述したような問題のある取調べが頻繁に行われ、虚偽の供述を強いられたり、あるいは被疑者が供述してもいない内容の供述調書が作成されたりしていることを、少なくない弁護士が実感を持って確信するに至っている。
そして、ここ数年大々的に取り組みを始めた被疑者ノートに被疑者が書き込む内容からも、その実感を強めてきている。
違法な取調べによる虚偽の自白調書の問題は、ごくわずかな例外的な問題ではなく、頻繁に生じている問題であり、現在の捜査機関の取調べや供述調書についての考え方そのものに根ざした問題なのである。
3 一方で、裁判官の中にも、これまでにも自白調書の任意性や信用性を慎重に判断する裁判官もおり、志布志事件では自白調書の信用性を否定して12名の被告人全員に無罪判決を出し、さらには厚労省局長事件では関係者の自白調書について証拠能力がないとして証拠から排除した上で、無罪判決を出し、いずれも検察は控訴を断念し、1審判決が確定した。
そして、そのような裁判官の供述調書に関する厳しい姿勢が、検察官による証拠隠滅という検察の信頼を揺るがす問題を炙り出す大きな要因となったといえる。
4 しかし、裁判官にとっても、現在のような密室での取調べが続く状態であれば、取調べの際に何があったのかを正確に把握・判断することは難しく、特に裁判員裁判において裁判員にその判断を強いるのは酷である。
かかる問題を解決する唯一の手段は、取調べの可視化であり、取調べの全過程を録画するか、あるいは取調べに弁護人の立会いを認めることで、違法な取調べを防ぐとともに、取調べで何があったのかを裁判官や裁判員が正確に把握・判断することができ、正しい結論を導くとともに、えん罪という最大の人権侵害を避けることができるのである。
そのため、当会では、平成15年5月27日に取調べの可視化を求める決議を行ったのを始め、会長声明や宣言を繰り返すとともに、取調べの録画制度に関する海外視察やシンポジウムの開催、署名活動など可視化実現に向けた取り組みを続けてきた。
5 これに対して警察や検察は、裁判員対象事件については取調べの一部を録画し、その録画物をもって取調べの任意性を立証しようとしている。
しかし、そもそも検察官が現在行っている一部録画は、そのほとんどが実質的な取調べが終わった後に、取調べに問題がなかったかどうかや供述内容の確認などをする「レビュー方式」や、それに供述調書の読み聞かせや署名押印部分を加えたものに過ぎない。これでは、読み聞かせや署名押印部分の状況が客観的に分かるだけであり、実質的な取調べの際の状況そのものの客観的な証拠にはならない。いわゆる「レビュー」は、取調べに問題がなかったかどうかを確認する被告人質問を前倒しして実施し、それを録画しているというだけで、そもそも取調べそのもの一部録画ですらないのである。
このような録画では、結局、取調べの状況についての客観的な証拠にすらならず、違法な取調べを防ぐこともできなければ、裁判官や裁判員が正しい結論を導くためには役に立たず、かえって取調べの実体を隠す結果となりかねず、判断を誤らせる結果になりかねない。
最も重要なのは、実質的な取調べそのものを録画することであり、当該事件についての全ての取調べについて、最初から最後まで全過程が録画されることである。これによって初めて、違法な取調べを防ぐことができるし、取調べの客観的な状況を正確に把握・判断することが可能になるのである。
6 このことは、取調べの一部が録音された事件でも、たびたびえん罪事件が起こってきたことや、足利事件においても検察官取調べの一部が録音されていたことからも明らかであり、昨年、足利事件と元厚労省雇用均等・児童家庭局長事件という大きな2つの判決により、取調べの可視化が不可欠であることは明白となったはずである。
しかし、現在に至るも、取調べの可視化は実現しておらず、最高検は録画対象事件として特捜部が被疑者を逮捕した事件についても広げる方針は発表したものの、結局取調べの一部録画に留まるようであり、法務省内のワーキンググループの検討状況の発表などからは、取調べの可視化についての実現困難性や弊害などが指摘され、取調べの可視化実現に向けた明確な道筋が見えない状況が続いている。
そこで、当会として取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の1日も早い実現に向けて全力を挙げて取り組むことを決議するとともに、下記の内容を国・捜査機関・裁判官に求めることを決議する。
7 まず国に対しては、取調べの可視化実現のための早急な法整備を求める。
これに対して、法務省内のワーキンググループからは、検察官送致事件の事件数などを理由に、実現不可能などという反論が出ているところ、たしかに一斉に全ての事件について取調べの全過程の録画を義務付けることが困難を伴うことは理解できるが、そのために取調べの可視化に向けて一歩も踏み出すことができないという障害とすべきではない。
かかる観点からは、段階的な取調べの録画制度の導入は容認できるとしても、上述したように取調べの一部だけが録画されても意味はなく、逆に弊害を生み出しかねないことから、対象事件を絞ることはあっても、取調べの一部だけを録画することを許容するような制度には絶対にしないことを求める。
8 次に、捜査機関を統率する検事総長及び警察庁長官に対し、取調べの可視化が法制化がなされるまでの間も、裁判員裁判対象事件に関しては、現在の取調べの一部録画・録音ではなく、取調べの全過程の録画を実施することを求めるとともに、その対象事件を、取調べの可視化の必要性が高い事件であって、録画による弊害が少ないはずである被疑者・弁護人が取調べの可視化を求めた事件に拡大することを求める。
9 最後に、各裁判官に対して、任意性の立証のハードルを高くすることを求める。
検察や警察が取調べの一部録画で任意性の立証を済ませてしまおうと考えているのは、そのような立証であっても裁判官は任意性を認めてくれると考えているからに他ならない。
逆に言えば、供述調書の任意性が争われた際の、これまでの多くの裁判官の姿勢こそが、取調べの可視化の実現の障害となっているとさえ言えるのである。
韓国において、取調べの録画制度が導入されたのは、2004年に大法院(日本での最高裁)判決において、供述調書の証拠能力について大胆な判例変更がなされたからである。
そして、ここ数年、立て続けに起こったえん罪事件の判決や大阪特捜部による証拠隠滅事件などは、供述調書の任意性を判断に影響を与えてしかるべきである。
そこで、各裁判官に対して、供述調書の任意性が争われた場合には、任意性を認めるのに慎重な姿勢をとり、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)によって取調べの状況が客観的に立証されない限り、供述調書に任意性がないという判断をすることを求める。
以 上

司法修習給費制に関する「裁判所法の一部を改正する法律」成立にあたっての会長声明

カテゴリー:声明

 本年11月26日、司法修習生に対する給費制に代わり修習資金を国が貸与する制度を平成23年10月31日まで停止し、その間、暫定的に司法修習生に対して給与を支給するとする裁判所法の一部を改正する法律が国会で可決され、即日公布・施行された。これにより、本年11月27日から司法修習が開始された新第64期司法修習生に対しても、従前と同様の修習費用が支給されることとなった。
 今回の法改正においては、給費制の完全な復活は実現されなかったものの、昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ、それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう、給費制が継続される一年間の間に、法曹養成制度に対する財政支援の在り方について政府及び最高裁判所の責務として見直しを行うことがその趣旨とされ、また、附帯決議においては、政府及び最高裁判所は法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え、その結果に基づいて順次必要な措置を講ずることも求められている。
 平成16年に給費制の廃止が決定されて以降、司法試験の合格者数は増加されているにも関わらず、法科大学院の志願者数は著しい減少傾向にあり、司法制度改革審議会の意見書において「国民の社会生活上の医師」としての法曹を養成するため、「多様な人材を確保する」という司法改革の趣旨に逆行する現状となっていた。そして、その一因として、法曹養成過程における加重な経済的負担が指摘されていたところ、給費制の廃止はこれに追い打ちをかけることなどを強く案じて、日本弁護士連合会や当会が、給費制維持を求める運動を続けてきた。今回の法改正に至った経過においては、こうした運動に一定の理解が得られたものと評価している。
 まずは、この法改正のための活動に御協力いただき全国で67万筆の署名(当会で8万7000筆)をお寄せ頂くなどした沢山の市民や市民団体、消費者団体、労働団体、これらの団体による「司法修習生の給与の支給継続を求める市民連絡会」、「ビギナーズネット」、困難な国会状況のなかで改正法の成立に並々ならぬ御尽力をいただいた各政党・国会議員の方々に厚く感謝申し上げる次第である。
 また、最高裁判所、法務省等の関係各機関においては、今回の法改正や附帯決議において求められた「法曹養成制度に対する財政支援のあり方についての見直し」や「必要な措置」について、日本弁護士連合会をはじめ広く意見を徴しつつ、鋭意、協議や検討をいただくよう求めたい。
なお、今回の法改正に至る運動の過程では、「すべての法曹が公共的な職務を遂行しているといえるのか」「経済的に困難な者に対する支援はもっともだが、経済的に裕福な者に対してまで給費する必要性があるのか」といった問いかけも受けた。
 しかし、法曹は司法を支える公共財であり、弁護士はそれぞれ「基本的人権の擁護と社会正義の実現」という使命を担っており(弁護士法1条)、弁護士会としても、これらの公共的使命を自覚し、広範な人権擁護活動や、法律扶助制度の拡充、過疎偏在対策などに取り組んできた。給費制は、このような公共財としての質の高い、志を持った法曹を養成するうえで極めて重要な機能を果たしてきたものであり、かかる法曹を養成することは民主国家の責務である。もちろん、給費制は、修習専念義務(兼職の禁止)を担保するとの意味もある。
 当会は、今後とも、会を挙げて、弁護士としての使命を果たすべく、なお一層の努力を傾注していく覚悟であることはもちろんであるが、今回の法改正を受けて、引き続き、上記の通りの重要な意義を持つ給費制の維持を求めてさらに広く理解を得る努力を払うとともに、法曹志望者に対する経済的支援の在り方の検討を続け、市民のための司法を実現するという司法改革の理念をふまえて、法曹養成制度全体の見直しについて積極的に取り組んでいき、国に対しては、検討機関の早急な立ち上げを求め、今後もこれらの問題に対する真摯な提言を重ねていく所存である。
2010年(平成22年)12月8日
福岡県弁護士会
 会長  市 丸 信 敏

個人通報制度の導入及び国内人権機関の設置を求める総会決議

カテゴリー:決議

当会は,政府及び国会に対し,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などにおける個人通報制度をわが国に速やかに導入すること及び政府から独立した国内人権機関を速やかに設置することを求めるとともに,当会もその実現に向けた運動を展開することを表明する。
以上決議する。

2010(平成22)年12月8日   福岡県弁護士会

(決議理由)
第1 個人通報制度について
 1 個人通報制度とは,人権条約に保障された人権が侵害され,国内での救済手段(裁判)を尽くしてもなお救済されない場合,被害者個人などがその人権条約上の委員会に通報しその委員会の意(Views)を得て,締約国政府や国会がこれを受けて国内での立法,行政措置などを実施することにより,個人の権利の救済を図ろうとする制度である。 
国際人権(自由権)規約などの各人権条約では,締約国における国際人権基準実施のため,条約機関による締約国政府報告書審査制度とともに個人通報制度を採用している。
   国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約は,本体の条約に附帯する選択議定書に個人通報制度を定め,人種差別撤廃条約及び拷問等禁止条約は,本体条約の中に個人通報制度を備えている。したがって,個人通報制度を導入するためには,選択議定書の批准あるいは本体条約の当該条項の受諾宣言をすることによって実現することができる。
   しかし,わが国は,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約,拷問等禁止条約,人種差別撤廃条約などの人権条約を批准しているが,これらが有する個人通報制度をこれまで導入して来なかった。
 2 2010年9月現在,自由権規約を批准している国は164か国, うち選択議定書を批准している国は111か国にのぼり,自由権規約を批准した国のうち67%を超える国が選択議定書を批准している。
   OECD加盟30か国のうち,選択議定書を批准していない国は, 日本,アメリカ,英国及びスイスであるが,アメリカに関しては,米州憲章に基づき設置された米州人権委員会に対して,米州人権宣言違反についての救済の請願(すなわち個人通報制度)を利用することができる。また,英国をはじめとするヨーロッパの国々には欧州人権裁判所があり,同裁判所に対する申立てが可能となっている。すなわち,OECD加盟国の中で,いずれの個人通報制度も利用できない国は日本だけとなっている。
このような事態を踏まえ,2008年の国際人権(自由権)規約委員会による第5回日本政府報告書審査に基づく総括所見をはじめとして,各条約機関から,わが国は個人通報制度の導入について度重なる勧告を受けてきたが,未だに実現にはいたっていない。
 わが国は,人権理事会において初代人権理事国となり,さらに岩沢
雄司東京大学教授が国際人権(自由権)規約委員会委員長を務めているなど,人権の分野でも大きな役割が期待され,またそれを果たそうとしている。これら状況に鑑みても,わが国の管轄内にいる個人が国際的な人権保障制度である個人通報制度を利用できないことは,その国際的地位からしてもまことにふさわしくないと言わざるを得ない。
 3 個人通報制度が導入された場合,第一に,国内の裁判で救済されなかったケースについて,個別の救済が可能となる。わが国の裁判所は,人権条約の適用について消極的であるため,個別事件に関する救済の意義は大きくなる。救済は,条約上の委員会の意見を経たのち,行政的な措置あるいは新たな立法などでなされることが予想されるため,当該ケースのみならずその後の同種事例においても国内での救済が前進することとなる。
   第二に,裁判所は国内での裁判の後に条約機関での意見があり得ることを前提として判決を下すこととなるため,条約機関の見解を念頭において裁判せざるを得ないこととなる。このことは,国内の裁判において,結果的にわが国の人権水準を国際標準に近づけることとなる。
 4 日弁連は,かねてから個人通報制度導入を強く求め,2007年5月,自由権規約個人通報制度等実現委員会を立ち上げ,その実現に努力してきた。
  2010年5月の定期総会においては,取調べの可視化,国内人権機関の設置等とともに個人通報制度の実現をするための決議を採択した。
民主党は,2009年の衆議院総選挙において個人通報制度の導入をマニフェストに掲げ,政権与党となった。その後,法務大臣は幾度となくその実現に意欲を示す発言を繰り返しているが,現時点においても実現に至っていない。公明党,社民党,共産党もその実現を目指しているが,与野党が現時点で実現のための具体的な道筋について合意し,推し進めるまでには至っていない。
 そこで,当会は,政府及び国会に対し個人通報制度を速やかに導入するよう強く求めるとともに,その実現に向けた運動を展開することを表明するものである。
第2 国内人権機関について
 1 国連決議及び人権諸条約機関により,国際人権条約及び憲法などで保障される人権が侵害され,その回復が求められる場合に,司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができるよう国内人権機関を設置することが求められており,世界では多数の国が既にこれを設けている。
 2 国内人権機関は,1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に沿ったものである必要がある。具体的には,法律に基づいて設置され,権限行使の独立性のみならず,委員及び職員の人事及び財政等においても独立性を保障する仕組みを有し,調査権限及び政策提言機能を持つものでなくてはならない。
 人権諸条約機関からも,特に日本に対して,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており,国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が強まっているところである。
 3 現在,わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,同制度が,パリ原則の求める国内人権機関の要件を充たさないことは明白となっている。
 このような状況の下,日弁連は,2008年11月18日,パリ原
則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。
 さらに,2010年6月22日には,法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告」において,パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を公表するなど,国内人権機関設立への機は熟している。
 4 そこで,当会は,政府及び国会に対し国内人権機関の速やかな設置
を求めると共に,その実現に向けた運動を展開することを表明するものである。
                       
以上

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