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布川事件再審判決についての会長声明

カテゴリー:声明

 
 本日、水戸地方裁判所土浦支部は、1967年に茨城県で発生した強盗殺人事件、いわゆる布川事件について2人の被告人両名に対して無罪判決を言い渡した。
 本件は、別件逮捕から始まった被疑者段階での自白が証拠とされ、公判では2人とも否認に転じ争ったものの、1970年に同支部での第1審で無期懲役とされ、1973年の東京高等裁判所での控訴棄却、1978年の最高裁判所での上告棄却により1審判決が確定し、その後、2度にわたる再審請求の末、2005年にようやく同支部で再審開始が決定され、2009年に最高裁判所もこれを支持し、再審が行われていた事件である。
 本日の判決において、水戸地方裁判所土浦支部は、本件について被告人両名と本件強盗殺人とを結びつける客観的証拠が存在しないことを確認し、事件当日に現場近くで被告人らを見かけたという目撃証言の信用性を否定した。そして、犯人性を証明しうる唯一の証拠である被告人両名の捜査段階の自白についても、内容が不自然であるうえ「捜査官らの誘導等により作成されたものである可能性を否定することはできない」として、その信用性および任意性に疑いがあると述べて、被告人両名に対して無罪を言い渡した。
 また、本件では、取調べの一部が録音されており、その録音テープが再審請求を通じて検察側から証拠開示され、再審公判の過程で同テープを鑑定したところ十カ所以上もの編集痕が存在することが判明した。
 このことは取調べの一部分だけが録画・録音されることの危険性を明確に示している。捜査機関が自由に録画・録音する範囲を決めることを許せば、捜査機関が都合のいい部分だけを録画・録音し、裁判官や裁判員に真実とは異なる印象を与えてしまう証拠が作出されるおそれがあると言うべきである。
 現在、法務省等で取調べの録画・録音制度を導入する場合の、対象事件や録画・録音の範囲などについて検討がなされているが、本件のように不幸な冤罪被害者を生み出さないためにも、取調べの一部だけを録画・録音すること、さらには録画・録音する対象事件を捜査機関の判断に任せることだけは、絶対に避けなければならない。
 よって、当会は、本件無罪判決を受けて改めて、国に対して、取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備することを求めるとともに、その制度設計にあたって、録画対象事件については全ての取調べの全過程を録画するようにすること、また対象事件について捜査機関の自由な判断ではなく法律によって明確に対象事件を定めるように求めるものである。
                 2011年(平成23年)5月24日
                福岡県弁護士会 会長 吉村敏幸

会長日記

カテゴリー:会長日記

平成22年度福岡県弁護士 会 長市 丸 信 敏(35期)
自宅から県弁会館へ徒歩で向かう際、六本松の九大教養部跡地の脇を通り抜けます。そこに数あった建物は今や全部解体撤去され、目下、跡地整備作業が進められています。いよいよ当会の新会館に向けた夢が膨らみます。…そんな気持ちで任期末の3月を迎えたところ、思いもかけない激震に相次いで見舞われることとなりました。◆弁護士・弁護士会の真価が問われている3月11日に発生した東日本大震災や巨大津波による被害の惨状には、ただただ呆然と立ちつくすしかない思いでした。被災地の皆さまに心からのお見舞いを申し上げますとともに、犠牲になられた多数の方のご冥福をお祈り申し上げます。われわれは、弁護士として、基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命を国民から負託され、日頃、その本分を全うすべく力を合わせて懸命に努めて参りました。今、未曾有の大災害、空前の被害(人権侵害)を前にして、弁護士・弁護士会としての真価が問われています。西日本の雄会としての当会は、率先して、なすべきこと、できることに心を砕き、被災者の救済、被災地の復興、日本の再起に向けて、一丸となって支援のための努力を払って参りましょう。なお、日弁連や全国弁護士会、一部ブロック会では、阪神淡路大震災以降の経験を教訓にして、災害対策や復興支援のための委員会組織を設け、連絡会議などを重ね、災害相談マニュアル等も作成・改善を重ねる等、災害時の対応や災害被害からの復興に向けて、被災地弁護士会を日弁連・他の弁護士会(支援弁護士会)が連携して支援する体制ができております。当会でも、災害対策委員会を中心にしかるべき体制で適時・適切な対応をもって臨むことになります。会員の皆さまのご支援方をよろしくお願いします。なお、3月15日に、当会会員の皆さまからの震災復興支援の義援金の受け付け口座を開設してご案内致しましたところ、最初の2日間で47口、266万円もの善意をお寄せ頂いたことには、執行部一同、感嘆と感激の思いで包まれました。なるべく早期に、被災地弁護士会を介しての被災地支援に役立たせて頂きます。ご協力に感謝申し上げます。◆信頼の回復にむけて3月3日夕刻、執行部に衝撃が走りました。当会会員(北九州部会、30期)が福岡地検に業務上横領罪容疑(平成18~21年頃の事件)で逮捕されたとの報が飛び込んできました。執行部は、当夜直ちに、拘置所にて当該会員との面会をして、逮捕容疑に間違いないことの確認が得られましたので、引き続き、緊急の執行部会議を開き、当会として綱紀委員会に対する調査請求をすることを決定しました。翌4日午前には、その手続を了したうえ、記者会見に臨み、国民の皆さまに向かっての謝罪を致すとともに、綱紀委員会に調査請求をしたことを公表しました。調査請求やその公表は、当会の規定に基づく処置です。当年度は、とりわけ修習生の給費制の問題に会員の皆さまと一緒になって懸命に取り組んで参りました。その運動を通じて、私たちは、法曹そして弁護士は一体誰のものであるのかを強く自問しつづけ、そして、弁護士はこれまでも司法を担う公共財であったし、これからも公共財であり続ける、との決意を新たにしたばかりでした。そのようなさ中のベテラン会員によるよもやの事件は、まことに無念の一語に尽きます。全国のほとんど全てに近い会員は、誠実に職務を遂行し、自己犠牲を厭わずにボランティアでの公益活動にも邁進しています。にも関わらず、ごく一部の例外的な不祥事であってもそれが起こってしまえば、弁護士全体に対する信頼が揺らいでしまうことになります。その信頼を取り戻すためには、再び、会員ひとりひとりが、地道にコツコツと弁護士の本分を全うする日々を積み重ねて参るほかありません。同時に、同じ過ちを決して繰り返さないための会を挙げての取り組みも欠かせません。今回の事件は、弁護士倫理(弁護士職務規程)以前の論外の問題ながら、事件の概要がつまびらかになったところで、今回の事件を検証して、会としてあるいは周囲の仲間として、このような事態を招かないで済むにはどうすればよかったのかをキチンと振り返ってみて、今後の有り様を皆で考えてみるべきはないかと感じております。◆法曹養成制度の改善に向けての正念場今次の司法制度改革の中で、もっとも困難な状況に陥っているのが、法科大学院を中核として制度設計された新しい法曹養成制度と理解します。司法を支える人材をいかに確保し養成して行くかは、極めて重要な国家的課題です。給費制の問題も、適切な法曹人口・弁護士人口の在り方も、養成制度と深く関係します。法科大学院、司法試験などを含む法曹養成制度の改善に向けて、政府のもとにその改善施策の検討・策定に向けたフォーラム(検討会議)が近々発足する予定です。極めて重要な会議になりますので、日弁連は、これに向けて緊急提言や昨夏以降激しく会内論議を重ねてきた法曹人口問題に関する提言をなす予定です。これらについては、当会でも鋭意検討や議論を致して参りましたが、非常にタイトなスケジュールの中で広く十分な会内論議を尽くすことができなかったことを申し訳なく思っております。ただ、内外に向けての運動の本番は、いずれもこれからです。吉村執行部には大変な重要課題が数多控えておりますが、会員の皆さまのご支援のほどをよろしくお願い致します。◆嬉しいお知らせ昨年5月号から続けさせて頂いた私からの会長日記も今回が最後です。最後にうれしいご報告で締めさせて頂きます。1) 福岡市こども総合相談センターの任期付公務員に当会会員報道でご承知の方も多いと思いますが、久保健二会員(福岡部会、62期)が、福岡市こども総合相談センター(児童相談所)のこども緊急支援課長に任期付公務員(任期2年)として採用され、この4月から常勤します。当会の子どもの権利委員会は児童虐待防止活動にもかねて熱心に取り組んできており、福岡市とも連携を強めてきたところ、昨秋、福岡市から推薦依頼が当会になされ、久保会員に白羽の矢が立った次第です。もちろん、全国初のケースであり、弁護士の活動領域の拡大、そしてなにより、弁護士会が取り組んできた子どもの権利の擁護活動が一歩前に踏み出した新たな形として、まことに画期的なことで、全国への波及効果も期待されます。会を挙げて支援すべきです。久保会員におかれては、常に緊急かつ緊張の現場対応が求められるハードな仕事だと察しますが、どうか身体に気をつけて頑張って頂きたいと願います。2) 法教育懸賞論文優秀賞の受賞法教育は、弁護士会が取り組むだけではなく、国(法務省・文科省)もまた日弁連との連携において強力に推進してい
ます。法務省では昨年、法教育懸賞論文を募集したところ(テーマは「学校現場において法教育を普及させるための方策について」)、当会の春田久美子会員(福岡部会、48期)がこれに応募され、この度見事に優秀賞を受賞されました。もちろん春田会員は当会の法教育委員としても熱心に活動されています。近々、法務省のホームページに論文全文が掲載されるとのことですので、是非ご覧ください。そして、当会でこのほど発足した法教育センターにご理解とご支援をお願い申し上げます。3) 委員会活動活性化若手会員が急増するとともに、委員会活動に参画して頂いている会員もまた増えている状況を伺い見て、また各委員会から上がってくる毎月の議事録も拝見致しながら、当会の委員会活動が全体的にかなり活性化しているとの手応えを感じながらこの1年を過ごして参りました。実際、本年度第2回目の委員長会議(2月25日)の報告資料によれば、委員会の本年度の出席者数が前年比で増えた委員会が過半を超え(28委員会)、その余も多くは横ばい傾向であり、執行部一同とても嬉しく思いました。会員数が増えることで、従来は手を回し切れていなかった活動分野にも取り組むことができるようになりつつあります。数は力なりです。地域司法も充実して参ります。(退任のご挨拶は、あらためて次号になるそうですが、1年間、会長日記をお読み頂き、また、会務をお支え頂きまして、会員の皆さま、まことに有り難うございました。)

民法(債権関係)の改正に関し,法制審議会民法(債権関係)部会がとりまとめた「中間的な論点整理」についてパブリックコメントの募集実施の延期を求める会長声明

カテゴリー:声明

 平成21年10月の法務大臣の諮問を受けて,法制審議会民法(債権関係)部会では,同年11月から平成23年4月12日まで26回にわたる審議を続け,部会第26回会議で,「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理案」(以下,「論点整理案」という。)を取りまとめている。
 この論点整理案は,債権の本質にかかわる履行請求権から,債権の効力に関する債務不履行,詐害行為取消権,弁済消滅,多数債権関係,契約の解除,契約と約款や不当条項規制,売買も含む瑕疵担保,賃貸借,請負,雇用,事情変更の原則,不安の抗弁,継続的契約,消費者概念と民法典との問題等を網羅するものである。そして,この民法が,国民生活や企業の経済活動に直結する極めて重要な基本法である以上,論点整理案に対しては,広く国民各層の意見を求め慎重に検討されるべきものであることは明らかである。
 平成23年3月11日に東北及び関東地方に大地震及び津波が襲い,更に深刻な原子力発電所の事故が起きた。既に1ヶ月以上経過しているが,死者は1万4000人を超え,行方不明者は1万3000人以上,避難中とされる人は13万人以上という甚大な被害が生じている。また原子力発電所の事故は,危機的状況が現在も続いている。このように東日本大震災の社会に与える影響は深刻であって,事態の終息は全く目途が立たない状態にある。
 このため,既に仙台弁護士会からパブリックコメントの延期等を求める会長声明が出され,その後も大阪弁護士会や兵庫県弁護士会から同様の会長声明が出されている。
 まず,広く国民各層の意見を求めるというパブリックコメントの趣旨からして,被災地が,論点整理案に十分な検討が出来ない時期にパブリックコメント手続をとることが不適切であることは当然である。しかも,当然ながら,この論点整理案作成までの審議期間中,今回の東日本大震災により惹起される多様な法律問題は全く想定されていなかった。
特に,今回の論点整理案で検討を求められている論点との関係では,例えば計画停電との関係では約款の効力が問題になり,取引関係については,震災により履行できない場合に契約の効力と危険負担,事情変更の原則の適用や契約の解除が問題となっている。また,住居を巡る賃貸借契約や請負契約の瑕疵担保責任,使用者の震災に伴う雇用契約の効力といった多数の法律上の論点が,東日本大震災を契機としてまさに現在進行中で議論されている。これらの論点を含む論点整理案に対するパブリックコメントは,これら現在進行形の危機的状況を正確に把握してからなされることが,社会の基盤をなす民法をより実効的に改正するために不可欠である。
よって,当会は,国に対し,論点整理案に対するパブリックコメントの募集実施期間を,今回の震災に伴う社会的混乱がある程度終息し,かつ,事態を冷静に把握できる時期まで相当程度延期することを求めるとともに,今後の民法(債権関係)部会の審議も震災の影響を十分に配慮して進行されることを求める。
  
                     平成23年4月26日
                      福岡県弁護士会
                        会長 吉村敏幸
 

会長日記

カテゴリー:会長日記

平成22年度福岡県弁護士会会長日記会長 市丸信敏(35期)
◆人権白書「人権擁護活動2010」今年度の執行部は何をしたの、と問われると、「給費制で明け暮れました」と、つい口をついてしまいそうです。ですが、給費制の運動のおかげで多くの人の暖かいご支援に接することができて、これまで経験したことがないほどに大きな、そして多くの感激・感動を頂戴しました。本当にありがたく思っています。ただ一方で、街頭行動や各方面への要請活動等を通じて、弁護士そして弁護士会・日弁連の人権活動や公益活動が世間の人にこんなにも知られていないのかと呆然とし、日ごろ会員の皆さんがどれほどの自己犠牲の上にこれら活動に地道に奮励して頂いているかをよく知る一人として、誠に悔しい思いをしたことも少なくありませんでした(このことは、昨年10月号の会長日記に詳しく記させて頂きました)。しかし、これは考えてみれば、端から見ると、単にわれわれの的確な広報の努力がまだまだ足りていなかったというだけのことなのかも知れません。大事なことは何度でも繰り返し伝える努力をしなければダメだ、分かってくれているはずとの思いこみではダメだ、ということも、給費制運動で学んだことの一つです。そこで、今回、ひとつの試みとして、当会の昨年1年間(1~12月)の人権活動の白書を作って、県内の自治体や関係諸団体、マスコミ関係者や議員さんら等々に広く報告(広報)してみてはどうかと企画しました。もしこれを毎年続けて、この冊子を手にしてパラパラ(あるいはチラッ)とでも見てくれる人が少しずつでも増えてくれれば、当会のサポーターがさらにじわりじわりと増えてくれるのではないかとの構想です。常議員会の賛同を得て実行に移し、早速、多くの委員会から快く原稿を寄せて頂き、この度、「福岡県弁護士会の人権擁護活動2010」として刊行できる運びとなりました。本文40ページ程度の簡素な小冊子です。会員の皆さまにも1冊お届けさせて頂きます。ご自分が関係する委員会以外の活動を広くご存じ頂く機会も普段はなかなかないかとも思われますので、是非ご高覧を頂ければ幸いです。趣旨を踏まえて短期間で原稿を寄せて頂いた各委員会や、一手に編集作業を引き受けて頂いた小林副会長に、この場を借りて厚く感謝を申し上げます。◆法教育センター本年4月から、「法教育センター」を当会で発足させることになりました。子ども達などに正義、公平などの法の基本的な価値観に基づき問題の解決を考えてもらう授業などに取り組んで貰うことを推し進めるのが、弁護士会の法教育活動です。子ども達に生きる力を備えて貰うための新しい教育、そして、司法改革が実現を目指す法化社会の担い手としての主権者を育てる教育をサポートするものとして、近年にわかに重要性を帯びてきています。当会では、法教育センターを立ち上げることによって、会員の皆さまにひろく協力を募って、学校への出前講師(ゲストティーチャー=教員とのコラボレーションで授業に参加する)などを少しずつでも担って頂ければと願っております。生き生きと向きあってくれる子ども達と触れ合えて、楽しく、やり甲斐のある活動です。負担が重くならないように、テキスト類の作成作業も進んでおり、研修(オリエンテーション)などと合わせて、どなたにも参画して頂けるようになります。ご案内の節は、是非ともエントリーして下さるよう、よろしくお願い致します。◆ひまわりほっとダイヤル(中小企業支援コールセンター)中小企業にも法の光を!法の支配が中小企業を含めて社会の隅々まで行き届くことは、司法改革が目指す法化社会の実現のために重要なことです。その理念に基づいて、当会では昨年5月の定期総会で「中小企業への積極的な法的支援を行う宣言」をご採択頂いております。昨年4月から活動を開始した、当会の中小企業法律支援センターの取り組みの柱の一つとして、「日弁連ひまわりほっとダイヤル」というコールセンター業務(電話番号0570-001-240)があります。中小企業経営者がこのダイヤルに電話すると、最寄りの弁護士会(相談センター)に電話がつながり、会が相談担当弁護士を割り当て、その弁護士から折り返し連絡を入れて速やかに面談相談に応じる、という日弁連が構築した全国システムです。この事業開始に伴って、キャンペーンとして、全国で、当初は半年間、これを延長して更に半年間、コールセンター利用者に無料相談を実施してきました。当会は、委員会の努力の甲斐あって、全国でも常に上位の好成績を収めてきています。コールセンターの周知・定着のためには、なおしばらくの間のキャンペーン継続が相当であるとの日弁連の要請がなされました。当会では、商工会議所はじめ各種中小企業団体や行政(経産局や県など)・政府系金融機関などとの間の連携関係構築に委員会が地道に取り組んできており、このコールセンター無料キャンペーンはその有力なツールであることも報告されました。それらの結果、無料キャンペーンを更に1年間(24年3月末まで)続けることが常議員会で承認されました。研修等の一定の要件はありますが、希望する会員はだれでもコールセンターの相談員に登録できます。どうか、ご理解・ご協力をお願いします。◆共済制度の廃止について3月9日の臨時総会では、共済制度(共済規程)の廃止・残余財産の一般会計組み入れという重要議題がかかります。保険業法の改正によって、会員数1000名を越えた弁護士会では、保険業法の適用を受けることとなって共済制度の継続が困難となります。そこで、会員1000名を目前にする当会での対応が必要となり、他会での先例を調査し、機構・財務改革委員会からの答申を受ける等して、やむなく、共済制度は廃止をさせて頂くことに致した次第です。なお、この廃止後は、一般会計から社会的儀礼の範囲内での慶弔見舞金をお支払いさせて頂く新たな制度を設ける予定です。◆バトンゾーンをめがけてこの時期、次期執行部メンバーも各種会議に努めて出席を始められる等の光景を目にして、いよいよわが執行部のゴールも間近に迫ってきたなあという実感が湧いてきます。他団体の会長さんなどからは、1年で任期終了という話しをすると羨ましがられたりしますが、全国を見回しても、弁護士会の役員はほぼ例外なく1年任期です。但し、日弁連の会長と事務総長は2年任期であり、また当会でも、昭和60・61年度に田邉俊明会員が最後の2年間の会長をお務めになられましたが、それまではずっと2年任期(事実上の)でした。ところが、世間的には団体役員の1年任期はかなり異例と映るようです。実際に1年近く経ってみてようやく分かってきた事柄も少なくなく、対外的にも、やっと諸関
係者との顔つなぎやパイプができかけたかなという感触があることも否定できません。正直、弁護士会としての執行力の強化という点からは、複数年任期制がベターなのではないかとの感想も覚えます。ただ、現実問題として、本業の傍ら会務に打ち込むには、1年間でも、気力・体力・財力の限界を痛感するに十分な期間と言え、やはり1年交代制が穏当なところなんだろうと感じる次第です(もっとも、今後、上記の3つの力を満たす方にご出馬頂ければ、話しは別でもよいのではないかと思います。)。当会では、従前から新旧執行部の引継ぎが重視され、重点課題を含めしっかりと受け継がれていきます。1年交代で会長が替わるからといって、急に路線が変わる、ということはまずありません。そんなこんなを感じつつ、2月20日に予定されている現次期執行部の引継ぎ会(第1回)に間に合わせるべく、会務引継書の作成作業が急ピッチで進められました。1年前に前年度の池永執行部から引き渡された引継書をベースに、執行部各員が手分けして、1年を振り返りながら作成し、日曜返上の打ち合わせ会などを経て校正を重ねました。最後に井上総務事務局長がつなぎ合わせて完成させてみますと、前年度の引継書から更に100ページほども増えて、総ページ数はついに300ページにも達してしまいました。任期末を間近に、たまっていた諸課題が目白押しに寄せてきて、定例(2週に3回)の執行部会議はついつい長引き、毎月2回の常議員会も議題山積となり、ついに前回(2/7)の常議員会は4時間半(終了は午後7時半近く)ものロングランでした。ダッシュで駆け出す構えの次期執行部が待つバトンゾーンまで何とか無事にたどり着き、しっかりとバトンを手渡すべく、息切れ気味の全身をムチ打ちながら、全員でラストスパートです。

検察の在り方検討会議の提言に対する会長声明

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 昨日、検察の在り方検討会議の提言が発表された。
 当会が必要性を強く訴えてきた取調べの全過程の録音・録画についてどのような提言がなされるか注目していたが、その内容については、深く失望せざるを得ない。
 
 検察の在り方検討会議については、平成22年11月に始まった当初は、検察の問題について深く鋭い見識をもった委員も多く選任されたことなどから、同会議による議論が、厚労省元局長無罪事件によって露呈した現在の検察が抱える問題点を正面から受け止め、取調べの全過程の録音・録画を含む抜本的な解決策を提示することに繋がることが期待されていた。
 実際、公開された議事録を見る限り、多くの委員が現在の検察が抱える問題点について厳しく指摘するとともに、取調べの全過程の録音・録画の必要性を指摘している。 中には取調べの全過程の録音・録画に否定的な意見を述べた委員もいたが、その多くは検察や警察出身者、あるいは一部研究者であり、「国民の声」と評価するのに疑問を持たざるを得ない意見であった。
 さらに、同会議のために行われた現職検事に対する意識調査では、「取調べについて、供述人の実際の供述とは異なる特定の方向での供述調書の作成を指示されたことがある」という質問に対して、「大変良くあてはまる」という回答が6.5%、「まあまあ当てはまる」という回答が19.6%、「どちらともいえない」という回答が16.1%も存在したという結果が明らかとなった。
 そもそも、これは最高検が実施した意識調査であり、そのような身内の意識調査においてさえ上述したような数値が出ているということは、驚愕に値することである。
 このように実際の供述と異なる供述調書の作成を部下に指示する上司は、これまでに自らが取調べをする際にも、実際の供述と異なる供述調書を何通も作成し続けてきた可能性が高い。また、部下の検事に指示することまではせずとも、自分が取調べをする際には、実際の供述と異なる供述調書を作成したことがあったという検事は、上記回答よりもさらに多く存在するのではないかと疑われる。
さらにいえば、検察庁の中で少なくない上司が部下に対して指示しているということは、実際の供述と異なる供述調書を作成するということについて、これを容認する空気が存在していることを示している。
以上のように、この意識調査は、厚労省元局長無罪事件が、単なる個別の検事の問題、あるいは大阪地検特捜部の問題なのではなく、検察全体に存在する病理的な問題であることを明らかにしたものであった。
 
 ところが、上述したような同会議内での意見や、意識調査の結果であったにも関わらず、昨日発表された提言では、取調べの可視化の基本的考え方について「被疑者の取調べの録音・録画は、検察の運用及び法制度の整備を通じて、今後、より一層、その範囲を拡大するべきである」とするだけで、取調べの全過程の録音・録画に踏み込まない内容となっている(知的障害のある被疑者に限って例示として触れられているにとどまる)。
 議事録で見る限りは、捜査機関出身者や一部研究者を除けば、取調べの全過程の録音・録画に踏み切るべきだとする意見が大勢を占めていたにも関わらず、提言においては、あたかも「国民の声」が賛成と反対に二分したかのような記載がされている。
 また、上述した意識調査において明らかとなった重要な問題については、提言の中では一切触れられていない。
さらに、提言は、特捜部における取調べの録音・録画について「1年後を目途として検証を実施」するとか、「制度として取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するため、…十分な検討の場を設け」るなど、結論を先送りして時間稼ぎをしていると言わざるを得ない。
 当会は、平成23年3月10日に、「今、改めて取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を求める決議」をし、国に対して、すみやかに取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備するよう求めた。
 すでに検証や議論の時期は過ぎており、すぐに立法に向けた具体的な作業に移る段階にある。
 法務大臣にあっては、本件提言の内容をそのまま受け容れるのではなく、同会議において捜査機関出身者や一部研究者以外の委員らが述べた意見にこそ耳を傾け、同会議での意識調査の結果から明らかとなった検察の病理的問題を真摯に受け止め、すみやかに取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備するよう努力されたい。
 また、現場の捜査機関は、現在試行している取調べの一部のみの録音・録画を改め、対象とする事件においては取調べの全過程を録音・録画する運用を直ちに開始するよう求める。
                     2011年(平成23年)4月1日
                    福岡県弁護士会 会長 吉村敏幸

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