法律相談センター検索 弁護士検索

福岡拘置所小倉拘置支所現地建て替え等を求める要望書

カテゴリー:要望書

平成25年7月18日
内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
法務大臣 谷垣 禎一 殿
法務省矯正局長 西田  博 殿
法務省福岡矯正管区長 馬場 恒嘉 殿
福岡県弁護士会
会 長 橋 本 千 尋
福岡県弁護士会北九州部会
部会長 荒 牧 啓 一
福岡拘置所小倉拘置支所現地建て替え等を求める要望書
第1 要望の趣旨
1 福岡拘置所小倉拘置支所(以下,「小倉拘置支所」という。)を現地にて建て替えすべく,そのための事業費を来年度予算として計上すること
2 新小倉拘置支所を建築するにあたっては,無罪の推定を受ける未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物にすること
3 新小倉拘置支所の設計にあたっては,当会と協議の場を設置すること
を強く要望する。
第2 要望の理由
1 要望の趣旨1について
(1)平成21年6月,法務省は小倉刑務所跡地に小倉拘置支所を移転させる計画を断念し,それにより北九州矯正センター構想(以下,「本構想」という。)を撤回した。当会は,長年に亘り,小倉拘置支所の現地建て替えを強く要望してきたところ,ようやく,平成24年度予算で調査費が計上され,同年度補正予算で設計費が計上される等の一定の進展が見られたが,建て替えに必要な事業費は未だ予算化されていない。
かかる状況を踏まえて,当会としては,以下に述べるとおり,小倉拘置支所を早急に建替える必要が存することに照らし,建て替えに必要な事業費を来年度予算として計上することを強く要望するものである。
(2)小倉拘置支所は昭和35年に築造された建物で,既に築後50年以上経過しており,建物の老朽化が著しく,建物の各所で塀の倒壊や外壁の落下の危険が生じ,被収容者や,被収容者に面会に来る市民及び小倉拘置支所職員の生命・身体に危険な状態となっている。
(3)また,小倉拘置支所は,昭和25年公布の旧耐震基準に基づいて建築された建築物であり,現在の耐震基準を満たしていない上,建物の駆体部分の老朽化も著しいため,地震等の自然災害により甚大な被害が生じる危険性が高いことから,早急に建物を建て替える必要がある。
(4)さらに,被収容者の生活環境も劣悪な状況におかれている。具体的には,給水設備については,蛇口からは赤水が出る,トイレの水の流れが弱いために排泄物がなかなか流れない等,設備使用上の不具合が生じている。また,収容部屋についても,雨漏りが発生する部屋が多数存在する上,室内でダニが発生する,布団から虫が出る,カビが発生する等,衛生面における問題も極めて深刻である。
平成25年5月24日に当会北九州部会の会員が小倉拘置支所を見学した際に内部の状況を確認したが,被収容者の劣悪な生活状況については一向に改善が見られなかった。
このように,小倉拘置支所の建物の著しい老朽化の影響により,被収容者の生活環境は著しく劣悪な状況に置かれている。
(5)以上より,当会としては,小倉拘置支所を早急に建て替える必要性が高いことから,小倉拘置支所を早急に現地で建て替えることを要望し,そのための事業費を来年度予算として計上することを強く要望する次第である。

2 要望の趣旨2について
(1)未決拘禁者は,無罪推定の原則の適用を受け,刑事手続のために身体拘束される他は,一般市民と同様の立場にあることから,未決拘禁者には,拘置所内の生活においても,できる限り一般市民と同様の生活が保障されなければならない。
(2)しかし,上記のとおり,小倉拘置支所における未決拘禁者は,著しく劣悪な生活環境におかれていることから,小倉拘置支所の現状では,無罪推定を受ける未決拘禁者の基本的人権に十分な配慮がされているとは言えない。
(3)そこで,小倉拘置支所の現地建替を行う際には,無罪の推定を受ける未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物を建築することを強く要望する。
3 要望の趣旨3について
(1)拘置所側は,未決拘禁者の基本的人権を制約する立場にある以上,拘置所側の意見だけに基づいて新小倉拘置支所の設計を行っても,未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物を建築することは困難である。
(2)これに対し,当会は,平成22年度の夏と冬にかけて,小倉拘置支所の未決拘禁者に対するアンケート調査を行い,未決拘禁者が著しく劣悪な生活環境下に置かれていることを明らかにしてきた。
また,当会は,平成23年に,未決拘禁者の基本的人権への配慮という点で高い評価を受けている大韓民国のソウル拘置所を視察した実績もある。
(3)そのため,小倉拘置支所の建替に際しては,未決拘禁者の人権の問題に恒常的に取り組んできた当会の関与を認める必要性は高い。
平成24年7月に当会は小倉拘置支所に対して,建て替えについての当会との協議会の設置を要望したが,未だ実現に至っていない。
そこで,当会は,未決拘禁者の基本的人権に最大限配慮した建物を建築するために,小倉拘置支所の建て替えに際しては,当会と協議の場を早急に設置することを再度要望する次第である。
以上

質屋営業法(昭和25年法律第158号)改正意見書

カテゴリー:意見

2013年(平成25年)7月17日
福岡県弁護士会会長 橋本千尋
第1 意見の趣旨
質屋営業法(昭和25年法律第158号)を以下のように改正することを求める。
1 質屋営業法1条に質契約の定義として、「質置主は、質物の流質処分を甘受する限り、質屋に対して借受金の弁済義務を負わず、流質処分後は借受債務が消滅する金銭貸付契約」という規定を付加する。
2 質屋営業法18条(質物の返還)につき、質置主が元利金を支払う場合に質物の返還を即時に受けうること及び質置主の流質選択の機会を与えるため、以下の規定を設ける。
①弁済について、金融機関等の自動引落その他自動決済システムを利用することを禁止すること、弁済は、必ず、質契約が成立した営業所において行う旨の規定を設けること。
②質屋は質置主が元利金を弁済しようとする場合、質置主に対し、予め、流質処分を選択できること、流質処分を選択した場合、借受金の弁済義務を負わない旨告知しなければならないとの規定を設けること。
3 質屋営業法19条(流質物の取得及び処分)に、以下の条項ないし規定を加える
①「質屋が、流質期限を経過した時において、その質物の所有権を取得した後、質屋は質置主に弁済の履行を請求してはならない。」
②質置主が流質を選択した場合、流質期限経過前でも質屋はその質物の所有権を取得すること、この場合、質屋は質置主に対し弁済の履行を請求してはならない旨の規定を設けること。
4 質屋営業法30条(罰則)につき、改正後19条の違反(流質後請求)の場合、貸金業法47条の3と同様に「二年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」の罰則を付する。
5 貸金業法20条の2(公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限)の規定とその罰則(同法48条)と同様の規定を設ける。
6 質屋に認められた特例高金利(年109.5%)を引き下げる方向で検討する。
第2 意見の理由
1 偽装質屋問題について
⑴ 偽装質屋とは
偽装質屋とは、質屋営業の許可は受け、質物を預かり形式的には質屋の形態を装いつつ、無価値あるいはほぼ無価値な物品を質物として預かり、金融機関等の自動決済システムによる引落等を利用する方法により,実質的には公的給付の受給権を担保に金員を貸し付ける業者のことをいう。
⑵ 偽装質屋の営業手法の広がりと被害の拡大防止の必要性
偽装質屋は、2006年(平成18年)12月に公布された改正貸金業法(平成22年6月完全施行)により出資法の上限金利が引き下げられた時期の前後に福岡県を拠点として上記形態の営業を開始したといわれている。
福岡県警は偽装質屋の違法な実態に鑑み2012年(平成24年)10月、貸金業法(無登録営業)及び出資法(高金利)違反の嫌疑で福岡市内に本店を有する2社に対し捜索を行った。その後、2013年(平成25年)5月上旬、同社代表者らは逮捕され、同月下旬、起訴された。
これとは別に、 2012年(平成24年)11月には、大分県警が貸金業法と出資法違反の疑いで、北九州の質屋の経営者等を逮捕した。さらに、2013年(平成25年)2月には、鹿児島県警が、貸金業法と出資法違反の疑いで鹿児島の質屋の営業者等を逮捕した。
また、九州以外では、群馬県警が同年5月に貸金業法と出資法違反の疑いで高崎の質屋の経営者を逮捕した。
加えて、国民生活センターの発表によると、偽装質屋に関する相談件数が、2010年(平成22年)が44件であったのに対し、2011年(平成23年)は85件と倍増し、2012年(平成24年)は194件と更に倍増する等、問題が深刻化していることが窺われる。
このように、偽装質屋問題は全国的な広がりをみせておりかつ被害件数も増加の一途を辿っていることから、偽装質屋の被害がこれ以上拡大しないように早急に法改正を行うことが必要である。
⑶ 偽装質屋の営業の問題点
偽装質屋は、以下の点において、その実態は、高利の貸金業である。
①質屋の形態を取り繕うため融資金額と全く釣り合わない物品を質物として預け入れさせている。
②質屋の形態を利用することにより出資法の上限金利規制を潜脱し、高利を得ている。
③質置主の流質の機会を奪うため、弁済に関し、金融機関等の自動引落システムを利用して、弁済を受けている。
④質置主が流質処分を選択した場合であっても、その残額の支払いを強制している。
⑤偽装質屋の被害者は、年金、生活保護受給者等公的給付の受給者であり、上記③の手法と相まって、公的給付を事実上担保にとることで回収を確実にしている。
よって、この偽装質屋の問題を解決するためには、以上の偽装質屋の営業実態が、通常の質屋の営業とは異なる点に対応した法改正を行うべきである。なお、あわせて、通常の質屋営業でも認められている特例高金利(年109.5%)は、出資法上の唯一の特例高金利であることから、この特例金利を引き下げる方向で検討するべきである。
2 具体的な改正の立法提言について
⑴ 質屋営業法1条の質契約の定義
質屋営業法1条1項の規定する「質屋営業」の定義は、「物品(有価証券を含む。第二十二条を除き、以下同じ。)を質に取り、流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは、当該質物をもつてその弁済に充てる約款を附して、金銭を貸し付ける営業をいう」というものである。
しかし、端的に質契約の定義規定はない。そして質屋契約は、質置主は、質物の流質処分を甘受する限り、質屋に対して借受金の弁済義務を負わず、流質処分後は借受債務が消滅するものであり、質屋と貸金業者とは営業内容が、とりわけ清算のあり方に関して相当に異なるものである(名古屋高裁平成23年8月25日判決LLI/DB判例秘書登載参照)とされる。従って、単に質屋営業を定義するだけではなく、質屋営業でなされる質契約についても定義規定をおくことで、質屋営業法にいう質屋営業を行うものか、質屋営業を偽装するものかの判断基準を明確にするべきである。
⑵ 流質を事実上阻害する行為の禁止
偽装質屋は,借主である質置主が流質を選択することを阻止しなければ,質物の交換価値では,自らの債権の満足を得ることができない。そのため,弁済日に金融機関の口座,主に年金等公的給付が支払われる口座から自動引き落としにより利息及び元金の弁済を受けている。
しかし,本来,質屋営業法の予定する質契約においては,借入元金以上の価値がある質物を担保に質契約を締結することが予定されており,元利金を弁済する場合には,質置主は質物を即時に受け戻すことができなければならない(質屋営業法18条1項)。
とすれば,金融機関の口座からの自動引落による弁済を選択することは,質物の受け戻しが想定されておらず,質屋営業法の予定する弁済方法ではないし,融資金額に見合わない質物を担保にとることも,質屋営業法の予定する質契約とはいえない。
よって,元金の支払については,自動引落としによる弁済は勿論,振込による支払はこれを禁止すべきである。
また,銀行の自動引落で利息の支払を強制されることも,質屋営業法が特例金利を認めていることからして,流質の機会を質置主に与えるため,これを禁止すべきである。
そもそも,質物の交換価値を前提として質契約を締結している以上,元利金の弁済に際し,質置主に対して質物の返還か流質かを自由に選択できるようにすべきである。この交換価値を無視した契約は,大阪高裁昭和27年6月23日判決(高裁刑事判例集5巻3号432頁)では「質屋営業法第一条によれば質屋営業とは物品(有価証券を含む)を質に取り流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは当該質物をもつてその弁済に充てる約款を附して金銭を貸付ける営業をいうのであるから無担保又は無担保に等しい扱いを以て金銭を貸付ける行為は質屋営業の範囲を超える」として,刑事上も被告人を有罪としている。
以上,質置主の流質を阻害する行為(金融機関の口座からの引落等)は全て禁止することが必要であり,質屋の店舗において弁済することを義務付けるとともに元利金の弁済を受ける前に,質置主に流質の機会を付与するためその旨告知する義務を質屋に課すべきである。
⑶ 取立行為の規制
既に述べたとおり、質置主は、質屋契約において、流質を選択することにより、借受債務を消滅させることができるのである以上、質屋は、質置主が流質を選択した場合、貸金債権は消滅し、取立行為を行うことはできないことは自明である。
したがって、質屋は、質置主が流質を選択した後は、質屋が質置主に対して取立行為を行うことを禁止し、これに罰則を付することは当然である。
⑷ 年金等公的給付の担保を禁止
質屋営業法にいう質契約は、有体物である質物を対象として締結されるものであり、権利質は認められない。よって、年金等公的給付の受給権(債権)を質として質契約を締結することは質屋営業法上許されない行為である。
したがって、年金等公的給付を事実上担保にとる行為も当然に禁止される。
ところが、貸金業法20条の2(公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限)は、質屋営業法には明示的には適用がない。そこで、質屋営業法に罰則含めて、これを明示的に禁止する規定をおくべきである。
⑸ 特例高金利の制限
上述のように質屋営業法では、出資法の特例として年109.5%の高金利をとることが認められている。この特例金利は、出資法上の唯一の特例高金利であるところ、このような金利が認められた趣旨は、質物の鑑定や保管に費用がかかるからと説明されている。
しかし、この特例高金利を維持することが合理性を有するか、検証されるべきである。
第3 結 論
よって、意見の趣旨のとおり、質屋営業法を改正すべきである。
以  上

憲法改正発議要件の緩和に反対する会長声明

カテゴリー:声明


1 日本国憲法第96条は、「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」と定める。
  ところが、さきの衆議院総選挙で政権を得た自由民主党は、憲法改正の発議要件を衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成から過半数の賛成に緩和し、これによって憲法改正を容易にしようとしている。日本国憲法改正の発議要件が厳格にすぎることから、主権者たる国民が憲法の改正を行うことを困難にしているというのである。
2 日本国憲法は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果と第2次世界大戦の未曾有の犠牲という厳粛な歴史的経過を踏まえて制定された。基本的人権の尊重、国民主権および恒久平和主義を規定して、国家権力に縛りをかけることにより、その権力の横暴や濫用から国民の基本的人権を擁護する極めて重要な役割を果たしている(立憲主義)。
ところが、その時々の政治的多数派の意向により容易に憲法改正がなされると、国の基本的な在り方が著しく不安定となり、立憲主義が大きく後退して、基本的人権の保障が形骸化しかねない。憲法改正に際しては、国会においてはもちろんのこと、国民相互間においても、充実した慎重な議論を尽くすことが求められる。
そこで、日本国憲法は、憲法改正についての国会の発議要件について、法律の制定や改正とは異なり、時々の政治情勢によって容易に変動し得る総議員の過半数では足りないものとし、充実した慎重な議論を尽くして形成される国民の安定的な多数意見を反映すべく、総議員の3分の2以上としたものである。
3 そして、このような日本国憲法の規定は、諸外国の憲法改正規定と比較してみても、特段厳格なものとはいえない。
例えば、欧米諸国の代表的な例をあげると、米国では連邦議会の3分の2以上の決議と4分の3以上の州議会の承認、ドイツでは連邦議会の3分の2以上の決議と連邦参議院の3分の2以上の決議が憲法改正に必要とされている。アジア諸国をみても、韓国は我が国と同様の要件、フィリピンでは議会の4分の3以上の議決の上で国民投票が必要となっている。
このように、現代の世界の趨勢を見ても、日本国憲法第96条の改正を正当化する合理的理由はない。
4 以上のことから、当会は、我が国の最高法規であり、国民の基本的人権を保障する日本国憲法の改正発議要件の緩和には強く反対する。
2013年(平成25年)6月25日
福岡県弁護士会会長 橋 本 千 尋

生活保護法改正法案の廃案を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 2013年(平成25年)5月17日、政府は、生活保護法改正法案(以下「改正法案」という。)を閣議決定した。改正法案は、書面による申請と資料の添付を義務づける(改正法案24条1項、2項)、親族による扶養を事実上の要件とする(改正法案24条8項、28条2項、29条)などの点で、以下に述べるように保護申請を萎縮させ、申請権を侵害し、ひいては憲法上保障された生存権を侵害する可能性が極めて大きい。
2 現行の生活保護法(以下「現行法」という。)は、7条で申請保護の原則をとっている。これは恤救規則以来、旧生活保護法に至るまでとられてきた職権保護の建前を転換し、国民に保護請求権があることを明らかにしたもので、申請が保護請求権を行使するための法律的手段にまで高められるに至ったものである。そして、現行法は、保護の申請において書面の提出を義務づけず、保護の要否の判定に必要な書類の提出も申請時には義務づけていない。申請は非要式行為と解され、裁判例も口頭による申請を有効と認めている。これは、保護の開始を第一次的には困窮した人の意思に基づく申請行為に委ねつつ、その申請行為を簡素なものとすることによって、生存権をできる限り漏れなくかつ速やかに保障する趣旨に出たものである。しかし、実際には、福祉事務所の窓口で申請意思を表示しても、申請書を交付しなかったり、要否判定に必要な書類を申請書と共に提出するよう求めるなどの違法な運用が行われてきた(いわゆる「水際作戦」)。当会の生活保護支援システムにおいても、福祉事務所の窓口を訪れたにもかかわらず申請が違法に受け付けられなかったとの市民からの相談が多数寄せられている。
 ところが、改正法案では、24条1項で申請書の提出を義務づけるとともに、同条2項で保護の要否の判定に必要な書類の添付を義務づけるなど、申請を要式行為に転換し、手続を煩雑なものとしている。これでは、添付書類の不備等を理由として申請行為自体があったと認めない取扱いが合法化されることとなり、いわゆる「水際作戦」を助長することになりかねない。そしてその結果、申請ができないことにより保護を受けるべき人が保護を受けられない、あるいは申請できたとしてもその時期が遅れ困窮した状態に長くとどめ置かれたりするなど、生存権を侵害するような事態が発生するおそれが極めて大きい。
 このような懸念への批判を考慮してか、改正法案ではただし書きにより、申請書作成および書類の添付につき、「特別の事情があるとき」を除外事由とすることが盛り込まれた(改正法案24条1項、2項修正案)。しかしながら、条文上、申請行為を原則として要式行為とすることは変わっておらず、また「特別の事情」の解釈は第一次的には行政機関の裁量に委ねられるのであるから「水際作戦」が横行する危険性、ひいては申請者の生存権を侵害する可能性は十分にある。
3 また、現行法では、扶養義務者の扶養は保護の要件とはせず、単に優先関係にあるものとして(現行法4条2項)、現に仕送り等がなされた場合には収入認定し、その分保護費を減額することとしている。しかし、実際の運用では、あたかも親族の扶養が保護の要件であるかのごとき説明が窓口でなされ保護申請を違法に受け付けないという運用が横行し、是正のための通知が厚生労働省から出されるといった経緯もあった(保護の実施要領・課長通知問第9の2)。2006年(平成18年)、北九州市で孤独死していた56歳の独居男性が、生前二度にわたって申請意思を明確に表示していたにもかかわらず、福祉事務所から、子どもに援助してもらうようにと言われて申請を違法に拒まれていた出来事は記憶に新しい。
  ところが、改正法案では、扶養が要件ではなく優先関係にすぎないとの条項はそのままに、28条2項において、保護の実施機関が、要保護者の扶養義務者その他の同居の親族等に対して報告を求めることができること、及び、29条1項2号において、保護の実施機関が要保護者又は被保護者であった者の扶養義務者について金融機関や雇主等に対し書類の閲覧や資料の提供・報告を求めることができることを規定した上、24項8号において、保護開始決定をしようとするときは、あらかじめ扶養義務者に対し書面をもって厚生労働省令で定める事項を通知することを義務づけている。このような扶養義務者への通知の義務付けや各種照会を行えば、扶養義務者への通知による親族間のあつれきを怖れる困窮者に対し、保護申請を萎縮させる効果を今以上に与えることは明らかであり、申請権ひいては憲法上保障された生存権の侵害につながる可能性が極めて大きい。
4 このように、改正法案が成立した場合には、保護申請者の申請権の侵害が生じる可能性が極めて大きく、その結果、要保護者の生存権が侵害され、市民生活に深刻な影響をもたらすことは明らかである。
 当会は、憲法上保障された生存権が現実に市民に保障される社会となることをめざし、平成21年度から生存権の擁護と支援のための緊急対策本部を設け、多数の会員が登録する「生活保護支援システム」によって生活保護申請同行など生活保護法の適法な運用を求める活動を行ってきた。当会の立場からは、保護申請権ひいては生存権を侵害するおそれの大きい改正法案は到底容認することができない。
  よって、当会は、改正法案について即時の廃案を求めるものである。
                         2013年(平成25年)6月7日
                                 福岡県弁護士会   
                                会 長 橋本 千尋

会長日記

カテゴリー:会長日記

会長事始め
平成25年度福岡県弁護士会  会 長  橋 本 千 尋(36期)
■就任のご挨拶のための訪問
福岡県弁護士会の会長以下の役員は、関係各所に訪問して就任のご挨拶をしています。任期は1年なので、毎年、このような活動を繰り返していることになります。
訪問先の数は、各年度の会長の方針やその時点における弁護士会の抱えている課題によって異なりますが、最低でも100カ所以上のところを訪れます。
訪問させていただく先は、裁判所・検察庁などの法曹関係機関はもとよりですが、国の行政機関、自治体とその関係機関、商工会議所などの日頃から連携している各種民間団体、報道機関、政党、領事館など様々です。
■訪問するにあたっての方針
弁護士会としては、単なる儀礼的な挨拶ということではなくて、一定の獲得目標のようなものを持って臨みます。
法曹関係機関については、これから1年間の任期中の様々な折衝や協働に備えての事前のご挨拶という面が大きいと考えていますが、当然ながら今年は当会の不祥事を踏まえたお詫びや対策の説明もさせていただき、それに対する厳しいご指摘等もいただきました。
それ以外の訪問先の場合は多種多様ですが、そのうちの幾つかについて報告させていただき、それによって当会の活動の一端のご紹介とさせていただきます。
■「行政連携のお品書き」
自治体につきましては、福岡県はもとより、福岡市、北九州市をはじめとした県内の主要な市のほとんどを訪問させていただきました。そして、日程調整のつかなかったわずかな例外を除いては、首長ご本人との面談の時間をとっていただきました。
その際に所謂トップセールスという形で、行政機関と弁護士会の活動の連携の強化について協議させていただきました。「行政連携のお品書き」というリーフレットを説明に使いましたが、これは弁護士会が行っている法教育、中小企業支援、DV問題、高齢者・障がい者問題、児童虐待などなど、既に行政機関と連携して活動している分野について、連携実績のある自治体名を挙げながら分野別に分類し、且つ、網羅したものです。自治体の方々からは、どのようなことを弁護士会に依頼できるのかとか実績や連絡先などの情報もまとめられていて大変わかりやすいと好評でした。
実は、このようなスタイルのリーフレットを発案したのは大阪弁護士会であり、当会でこれを作成したのは前年度の古賀和孝会長です。大阪弁護士会の先見の明と古賀前会長のご配慮に敬意を表する次第です。
■任期付き公務員
今年の自治体に対するトップセールスはもう一つありまして、任期付き公務員についての説明もさせていただきました。任期付き公務員というのは、現役の弁護士が弁護士資格を持ったまま、一定の期間、自治体の公務員になるという制度です。既に、福岡市と古賀市で福岡県弁護士会の会員が自治体職員として働いています。仕事の内容は自治体によって様々で、福岡市の場合は児童虐待などに対応する「こども緊急支援課」に所属し弁護士としての知識や経験を生かして救済活動にあたっています。
今年の2月に任期付き公務員の普及について、日本弁護士連合会主催のシンポジウムが福岡市で開催されましたが、福岡県内はもとより九州各県から25にも及ぶ自治体が参加され、この問題に対する関心の高さがうかがわれました。
そこで、就任挨拶の際にあらためて制度の説明やシンポジウムで語られた実際の任期付き公務員である弁護士の活動ぶりなどをお伝えした次第です。
■法曹養成問題
適切な司法サービスを国民に提供するために、法曹になるための教育のあり方はどのようなものが適切かとか、法曹全体の人数を念頭にして資格を得るための司法試験合格者はどのくらいの人数が適切かといった事柄を扱うのが法曹養成問題です。
政府の法曹養成制度検討会議がこの問題を協議しており、その提言のとりまとめに向けての作業が進められています。
マスコミでも報道されていますが、2002年に閣議決定された政府の法曹養成問題に関する計画は、現在までの実施過程でいろいろと問題が発生しました。例えば、司法修習を終了して法曹資格を得た段階でそれまでの学費や生活費のため多額の借金を負う人が多いこと。裁判官、検察官が増えず弁護士だけが急増したために弁護士の就職難が生じていること。こうした現状から、法曹教育を担う法科大学院の志望者、ひいては大学の法学部の志望者が減っていること、などです。
少しでも現状を知っていただくために、問題点や実情などのご説明をしたのですが、多くの訪問先の方々が関心を持っておられました。弁護士会の役員が尋ねてきたからということもあるのでしょうが、報道機関や政党の方々はもとより、自治体の方々、民間団体の方々でもこの話題を先方から切り出されることがかなりありました。
これから制度設計の本格的見直しが始められると思われますので、この紙面でもまた取り上げたいと思っています。
■「会長」になっていく場
このようにして県内の東西南北の100箇所以上を訪問し、各機関や団体のトップの方々と面談し、幾つかのテーマで弁護士会の活動をご説明したり、意見交換させていただきましたが、これが会長となっての最初の大仕事でした。
かなり体力もいりますし、神経も使いますが、得るところは絶大です。県内各所を自分の足で回り福岡県全体の広さや各地の地域性を肌で感じることができます。各界のトップの方々とお話しすることにより、違った角度からの様々な考え方を拝聴し鋭い視点を感受して大いに啓発されます。
就任時の挨拶のための訪問がいつの時代から始まった作法なのかはわかりませんが、会長としての通過儀礼、一介の弁護士が「会長」になっていく場なのだと痛感した次第です。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.