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「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の施行に伴う政令(案)、内閣府令(案)、ガイドライン(案)等に関する意見募集」に対する意見

カテゴリー:意見

消費者庁消費者制度課 御中

福岡県弁護士会 会長  斉 藤 芳 朗

福岡県弁護士会は、標記に関して、消費者委員会での協議を経て、以下のような意見をまとめました。

よって、福岡県弁護士会として、本意見書を提出いたします。

【はじめに】

1 現在、貴庁におかれては、平成25年12月の「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(平成25年法律第96号)の公布に伴い、同法の施行に向けた準備を進めておられるところ、集団的消費者被害回復に係る訴訟制度においては、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力に格差があることで消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があることを前提に、特定適格消費者団体が被害回復裁判手続を追行せしめ、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することが目的とされている(消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(以下「消費者裁判特例法」という。)1条参照)。

すなわち、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景として、日々、消費者被害は生じているのであり、消費者被害を可及的速やかに回復されるために、本訴訟制度においては、消費者の財産的被害が円滑に回復されることが求められているというべきである。

2 そしてそのためには、本訴訟制度に関する手続きの担い手である特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動が担保される仕組みになっており、かつ、本訴訟制度自体も、違法収益の返還のために効率的なものとなっていなければならない。制度設計にあっては、本訴訟制度が上記の目的のために定められたものであることを常に念頭に置き、釈根灌枝になることのないよう、慎重に考える必要がある。

(1) 現在の適格消費者団体の多くは、わずかな財政基盤の中で、有志の無償の協力の下にその活動を維持していると聞いているところ、特定適格消費者団体においても、その状況に変わるところはないと思料する。

特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動を担保する仕組みを構築するという視点が疎かになれば、それは、特定適格消費者団体の活動を阻害し、眼前の消費者被害を放置して、悪徳業者の違法収益を助長するという結果をもたらすのであり、そのような制度は改められなければならない。

(2) また、本訴訟制度は、本来であれば個別の民事訴訟に馴染みにくい少額案件について、同様の被害を受けた消費者が多数参加することを促すことで、その回復を図る制度である。

そのためには、本訴訟制度が、消費者から見て参加しやすい制度であることはもちろん、特定適格消費者団体から見ても取り組みやすいものとなっていなければならない。

この点についての視点が疎かになれば、上記(1)と同じく、それは、特定適格消費者団体の活動を阻害し、眼前の消費者被害を放置して、悪徳業者の違法収益を助長するという結果をもたらすのであり、そのような制度は改められなければならない。

3 以上の視点から見るに、「特定適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)には、以下の問題点があり、速やかに見直されるべきである。

【本ガイドライン 2(2)イ「情報提供義務の実施の方法」について】

[意見]

被害回復裁判手続に関する業務に付随する対象消費者に対する情報の提供に係る業務を適正に遂行するための体制の整備について、消費者裁判特例法82条の規定に基づく情報の提供に当たり、考慮すべき事柄から、「被害を受けたと考えられる消費者の範囲」、「被害金額の多寡」、「今後の被害拡大のおそれ」、「当該事業者の対応状況」、「公表されることにより事業者に与える影響」は、削除されるべきである。

[理由]

特定適格消費者団体は、被害回復裁判手続に関する業務に付随して対象消費者に対する情報の提供に係る業務を担うものとされており(消費者裁判特例法65条)、また、対象消費者の財産的被害の回復に資するため、対象消費者に対し、共通義務確認の訴えを提起したこと、共通義務確認訴訟の確定判決の内容その他必要な情報を提供するよう努めなければならないとされている(消費者裁判特例法82条)。

ここで、消費者裁判特例法の目的規定(同法1条)からも、情報の質及び量の格差をできる限り解消することが求められているというべきであり、情報提供に当たっては、できる限り広く、消費者において、消費者被害が生じている事実に触れる機会が得られることが肝要であるというべきである。

したがって、消費者被害が生じていることは、原則として消費者に知らしめられるべきである。しかるに、「被害を受けたと考えられる消費者の範囲」、「被害金額の多寡」、「今後の被害拡大のおそれ」、「当該事業者の対応状況」、「公表されることにより事業者に与える影響」等を考慮して、情報提供について抑制的であらしめることは、上記目的に悖るものであり、許容されない。少なくとも、特定適格消費者団体の組織作りにあたって敢えて考慮すべき事柄であるとは考えられないものである。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 2(2)エ「金銭その他の財産の管理の方法」について】

[意見]

1 被害回復裁判手続に関する業務を適正に遂行するための体制の整備について、対象消費者宛ての金銭を受領した場合の対象消費者への通知については、対象消費者と特定適格消費者団体との合意に任されるべきことであり、同(エ)の定めについては削除されるべきである。

2 被害回復裁判手続に関する業務を適正に遂行するための体制の整備について、同(カ)金銭管理責任者の設置については、第二文の定めは削除されるべきである。

[理由]

1 【はじめに】の項でも触れたとおり、本訴訟制度を適切に運営するためには、特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動が担保される仕組みになっていなければならない。

そして、対象消費者宛ての金銭については、少額の金銭が回収される場合や、複数回に分けて回収される場合がありうるのであり、これは、事件ごとに種々ありうる。

少額の金銭が回収される場合や、複数回に分けて回収されるような場合にまで、すべて対象消費者への遅滞ない通知を予め義務付けてしまえば、通知のために過分の費用を費消する結果となってしまいかねず、特定適格消費者団体の活動の継続性を損なうことにもなりかねないと危惧する。

したがって、対象消費者宛ての金銭を受領した場合の対象消費者への通知については、個別に、事件の規模等を考慮しながら、対象消費者と特定適格消費者団体との間における合意に任せるのが合理的であり、本ガイドライン等により、拘束すべき事柄ではないというべきである。

2 また、金銭管理責任者についても同様の問題がある。

すなわち、本ガイドラインにおいては、「公認会計士、税理士、破産管財人等の実務に精通した弁護士、企業会計に従事した経歴がある者など金銭管理を適切にすることができる者が任命される必要がある」と規定されているが、金銭管理を適切にすることができる者は、必ずしも、「公認会計士、税理士、破産管財人等の実務に精通した弁護士」に限られるものではない。

本ガイドラインが、「企業会計に従事した経歴がある者など」をその後に併記しているのもその趣旨であると考えられる。

しかし、上記の有資格者を例示として挙げることにより、「企業会計に従事した経歴がある者など」についても、上記の有資格者と同等の知識経験を有する者を任命する必要があると理解される可能性がある。

そうすると、特定適格団体において、これらの者を任命するために過分の費用を費消する結果となってしまいかねず、特定適格消費者団体の活動の継続性を損なうことにもなりかねないと危惧する。

3 よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 2(6)イ「簡易確定手続きに関する報酬及び費用の基準の考え方」について】

[意見]

同(イ)の少なくとも回収額の50%超を消費者の取戻分とする必要があるとの部分については、削除されるべきである。

[理由]

本ガイドラインにおいては、「特定適格消費者団体が少額事件に対して積極的に取り組む必要がある」(本ガイドライン 2(6)ア)とされている。本ガイドラインにおいては、これは特定適格団体が「業務を効率化させる」(同)ことで実現できると考えられているようであるが、本来的には、特定適格消費者団体が、少額事件に対しても積極的に、安心して取り組めるような制度設計がなされることが前提となっていなければならない。

しかしながら、本ガイドラインにおいては、本意見で述べてきた点を見ても明らかなとおり、むしろ特定適格消費者団体においては、その体制を維持し、本訴訟制度を担うために過分の費用を支出しなければならない制度となっており、その活動を継続的に行い、また、本訴訟制度の追行に要する費用を削減する余地は限りなく狭められてしまっている。

そのうえ、本ガイドラインの上記の定めは、回収額の50%超を消費者の取戻分とする必要があるとしている。しかも、債権届出より後の手続きに要する費用については、実費であっても、消費者に負担を求めることはできないと読める。そうすると、たとえば、本ガイドラインによれば、30人の被害者が見込まれる事件について一人当たり5000円の回収を目指すような場合において、首尾よく回収されれば各消費者に2500円以上を交付することになる。

この場合、各消費者に2500円以上を返金するためには、共通義務確認訴訟を追行する中での費用(弁護士費用を含む。)を7万5000円以下に抑えられなければ、特定適格消費者団体の資産を取り崩すことになる。少額事件に積極的に取り組む特定適格消費者団体ほど、業務を効率化できない中で、乏しい財政基盤をさらに危うくしていくことになりかねず、延いては本訴訟制度が機能不全に陥ってしまうことが強く危惧されるのである。

これまで、多数の消費者被害が救済されてきた背景には、多数の弁護士等が無償で尽力をしてきたという経過がある。しかしこれは、消費者被害の救済に努める弁護士においては、一方で多数の日常業務をこなしているからこそ、特定の事件に限って無償(あるいは限りなく無償に近い僅少な対価)で行うことができたに過ぎない。特定適格消費者団体は、専ら消費者被害の救済を目的とする団体であり、継続性が求められるのであって、そもそも弁護士が個別に消費者被害に関わるのとは大きく様相を異にするのであるから、特定適格消費者団体の無償活動をもって制度を運用しようとするのは、前提を誤っていると言わざるを得ない。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 4(5)「授権契約の拒絶及び解除」について】

[意見]

授権をする者あるいは授権をした者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合、及び、授権をする者あるいは授権をした者の判断能力が十分でない場合も、消費者裁判特例法33条1項、2項の「やむを得ない理由」に含めるべきである。

[理由]

1 消費者裁判特例法33条1項、2項においては、「やむを得ない理由」がある場合に限って、簡易確定手続授権契約の締結を拒絶でき、又は解除できるとしているところ、授権をする者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合においても、特定適格消費者団体としては、手続きの追行に支障を来すのであるから、上記の授権契約の締結を拒絶できる「やむを得ない理由」に含まれるとするべきである。

また、授権をした者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合においても、特定適格消費者団体において、手続きの追行に支障を来すのであるから、上記の授権契約を解除できる「やむを得ない理由」に含まれるとするべきである。

2 加えて、授権をする者、あるいは授権をした者の判断能力が危ぶまれる場合には、特定適格消費者団体において、手続きの追行に支障を来すことが考えられるのであるから、上記1と同様に考えるべきである。

3 よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 5(4)「報酬及び費用等についての監督」について】

[意見]

事件の選定状況については監督対象から除外されるべきである。仮に,事件の選定状況について監督をするのであれば,事後的な監督ではなく,事前に特定消費者団体からの問い合わせに対して,貴庁が,事件の選定が適切か否かを回答することとされるべきである。

[理由]

そもそも、本訴訟制度において、特定適格消費者団体は、まず、被害者からの相談等を契機に、消費者被害が生じていることを把握し、次に、その事件について必要な資料を収集し、当該事業者の用いる約款等にどのような法的問題があるのかを検討し、そして、その事業者が、違法収益の任意の返還等に応じなかった場合に、訴訟を提起して解決を図るというのが一般的な手続きの進行になると考えられる。しかも、特定適格消費者団体が消費者から報酬を得ることができるのは、共通義務確認訴訟で勝訴した(あるいは勝訴的な解決を得た)場合のみである。

このような一連の手続きを前提として、特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をする余地は、限りなく少ないというべきである。

すなわち、仮に特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をしようと試みたとしても、事件の把握から訴訟の提起に至るまで、そもそも勝訴に至るだけの資料を集められるかも不確定であり、また、事業者が任意に被害回復措置を講じる可能性もある。この場合には、特定適格消費者団体が報酬を得る機会はない。事件の把握から共通義務確認訴訟の終結までに、事業者が支払い能力を失う可能性もある。この場合にも特定適格消費者団体が報酬を得る術はない。

このように、仮に特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をしようと試みたとしても、それが奏功する保証はないのである。

他方で、事件の選定状況について消費者庁から監督されるとした場合、特定適格消費者団体において、過度に萎縮的な効果をもたらし、結果として、被害回復をためらうことになってしまうおそれがある。

たとえば、偶さか、当該特定適格消費者団体において、良好な解決を得た事件が続いた場合に、新たに把握した事件についても回収の見込みがありそうだと判断したときに、当該事業者に対して被害の回復を求めることが、「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」を行っているとの誹りを受けることになると危惧して、その消費者被害を見過ごすことは、本訴訟制度の目的との関係で背理以外の何物でもない。

【はじめに】の項においても指摘したとおり、本訴訟制度は、特定適格消費者団体が、積極的に、かつ、安心して取り組めるような制度になっていなければならないところ、事件の選定状況について消費者庁が監督をすることは、特定適格消費者団体において、過度に萎縮的な効果をもたらすものであるから、見直されなければならない。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【最後に】

繰り返し述べてきたとおり、特定適格消費者団体が、積極的に、かつ、安心して取り組めるような制度が策定されることが求められるところ、特定適格消費者団体が被害回復業務に専念できるよう、その団体を維持し、その活動を充実したものにすることについては、財政支援をすることが必要不可欠である。

したがって、これまで述べてきたことに加えて、特定適格消費者団体の必要性を踏まえ、具体的な財政支援が行われることを求める。

死刑執行に関する会長声明

カテゴリー:声明

1 本日、名古屋拘置所において、1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
 2014年(平成26年)8月以来の執行ではあるものの、今後も新たな執行がなされることへの懸念は大きい。
2 我が国では、死刑事件について、すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件)、えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また、2014年(平成26年)3月27日には、死刑判決を受けた袴田巖氏の再審開始が決定され、同時に「拘置をこれ以上継続することは、耐え難いほど正義に反する」として、死刑および拘置の執行停止も決定されて、現在でもなお死刑えん罪が存在することが改めて明らかとされた。
 死刑は、かけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え、罪を犯した人が更生し社会復帰する可能性を完全に奪うという問題点を含んでいる。のみならず、死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと取り返しがつかない。かかる刑罰は、いかなる執行方法によったとしても、残虐性を否定することはできない。
 それゆえ、死刑の廃止は国際的にも大きな潮流となっている。
3 日本弁護士連合会は、2014年(平成26年)11月11日、上川陽子法務大臣に対しても、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して、有識者会議の設置や死刑に関連する情報の公開などを具体的に求め、全国民的議論が尽くされるまでの間、全ての死刑の執行を停止することに加え、死刑えん罪事件を未然に防ぐため、全面的証拠開示制度の整備や再鑑定を受ける権利の確立などを要請したばかりである。
4 当会は、政府に対し強く抗議の意志を表明するとともに、今後、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ、それに基づいた施策が実施されるまで、一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
                    2015年(平成27年)6月25日
                   福岡県弁護士会会長  斉 藤 芳 朗

少年法適用対象年齢引下げに反対する会長声明

カテゴリー:声明

 2015年(平成27年)6月17日,公職選挙法の改正案が可決・成立し,選挙権年齢が18歳以上に引き下げられることになった。同法は,附則11条に,「少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする。」と規定しており,現在は20歳未満とされている少年法の適用対象年齢について検討すべきことが示された。また,自由民主党は,公職選挙法の改正に先立って「成年年齢に関する特命委員会」を設置し,少年法の適用対象年齢の引下げについて検討を始めている。
 しかし,選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた事実が,少年法の適用対象年齢の引下げに論理必然的に帰結するものでないことは言うまでもない。選挙権年齢は,戦後に現行の公職選挙法が制定・施行されるまでは25歳以上の男子とされていたが,当時の少年法の適用対象年齢は18歳未満であった。過去を見ても,選挙権年齢と少年法適用対象年齢は一致していなかったのであり,両者を一致させる必然性はない。法律の適用対象年齢は,各法律の立法趣旨に照らして個別具体的に検討すべきであり,少年法についてもまたしかりである。
 前述のとおり,旧少年法(大正14年制定)は適用対象年齢を18歳未満としていたが,現行少年法(昭和23年制定)はこれを20歳未満に引き上げた。18歳,19歳の少年は未成熟であり,再犯防止策としては刑罰を科すよりも保護処分に付する方が適切であるとの立法趣旨に基づく。これにより,少年審判手続では,成人における刑事裁判手続と異なり,非行があると考えられる少年は全て家庭裁判所に送致され,家庭裁判所調査官による社会調査,少年鑑別所における資質鑑別,付添人等による更生のための援助等を経て審判を受け,保護観察や少年院送致等の保護処分を受けることになった。手続を通じて少年の成育歴や家庭環境等の調査が行われ,更生に有益な社会資源を活用する等の環境調整も並行して行われる。審判では,少年の資質や環境に応じ,非行事実は軽微であっても,少年院に送致される場合もある。このように,少年法は,少年への教育的な働きかけや環境の調整を行い,少年の立ち直りを図るという目的と機能を果たしている。
 少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げると,罪を犯したと疑われる18歳,19歳の少年は,成人と同じ刑事裁判手続で扱われることになる。そうすると,これまで全件が家庭裁判所に送致され,少年審判手続の中で調査,環境調整等がなされていた18歳,19歳の少年について,このような手厚い処遇がなされないことになる。2013年(平成25年)に検察庁が新しく通常受理した少年被疑者数は10万8312人であり,そのうち年長少年(18歳,19歳の少年)は44.9%を占める(検察統計年報)。18歳への引下げは,これほど多数の少年の更生の機会を奪い,再犯の可能性を高める結果を引き起こしかねない。
 少年非行の実情を見ても,殺人,殺人未遂,強盗,強盗致死傷,強姦,集団強姦,放火など,「凶悪事件」と呼ばれる事件の数はいずれも長期的に減少を続けている。少年事件全体を見ても,少年1000人当たりの事件数は減少傾向にあり,これらは現行少年法が非行防止に効果を上げていることの表れともいえる。過去の少年法改正の効果を検証することなく,少年法の適用対象年齢を引き下げることも許されるべきでない。
 当会は,2001年(平成13年),全国に先駆けて全件付添人制度を立ち上げ,数多くの少年たちとかかわってきた。18歳,19歳の少年に対しても少年法に基づく手厚い処遇が必要であることは,少年たちと向き合い続けてきた当会会員が肌で感じてきたことでもある。選挙権年齢の引下げと短絡的に連動させて,少年の更生の機会と成長発達の権利を奪うことは,断固として認められない。
 以上のとおりであるから,当会は,少年法の適用対象年齢の引下げに強く反対する。
                    2015年(平成27年)6月25日
                         福岡県弁護士会 
                         会 長  斉 藤 芳 朗
 

憲法記念日にあたっての会長談話

カテゴリー:会長談話

 本日、日本国憲法が施行されてから68周年となる憲法記念日を迎えました。
 我が国の憲法は、先の大戦において、アジア諸国をはじめとする他国と国内に甚大な人権侵害を引き起こしたことへの痛切な反省のうえに立ち、基本的人権の保障、恒久平和主義、国民主権を基本原理としています。そして、国家権力の濫用による人権侵害を防ぐために国家権力を制約する、立憲主義を根本理念としています。
 ところが、近時、このような憲法の基本原理と根本理念が危機に瀕しています。
 昨年7月、内閣は、歴代内閣が堅持してきた憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を強行しました。これは恒久平和主義に反するとともに立憲主義に反する暴挙です。それにもかかわらず、国会では、この解釈変更を踏まえた安全保障関連の法改正が審議されようとしています。
 また、昨年12月には特定秘密保護法が施行されました。同法により、国政に関する重要な情報が国民の目から隠される虞があります。これは国民の知る権利を侵害するとともに、国政に関する国民の判断を誤らせ、国民主権を歪める虞があります。特に、集団的自衛権行使に関する情報が特定秘密に指定されれば、国民が知らないままに戦争に突入するという事態ともなりかねません。
 しかも、衆参両議院の選挙において一票の価値の不平等が是正されないままに、このような政治的意思決定がなされています。国民の意思が適切に反映されない構成の国会と、その国会に指名された総理大臣が組閣した内閣が行った政治的意思決定が、国民意思を反映しているとは言えません。
 このように日本国憲法の基本原理と根本理念が危機に瀕している今であるからこそ、私たちは、改めて基本的人権の保障、恒久平和主義、国民主権という憲法の基本原理、及び立憲主義という憲法の根本理念の意義と価値を確認することが大切だと考えます。そのために、福岡県弁護士会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を職業的使命とする法律家団体として、国民とともに全力を尽くします。
2015年(平成27年)5月3日
                      福岡県弁護士会
                        会長 斉藤 芳朗

「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」に対する会長声明

カテゴリー:声明

1 政府は、2015年(平成27年)3月13日、第189回国会に「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」を上程した。
この改正案には、取調べの録音・録画制度の創設、弁護人による援助の充実化、証拠開示制度の拡充など、これまで日弁連や当会が求めてきた制度が一部盛り込まれるなど評価すべき部分も少なくない一方、通信傍受法の一部改正など看過できない問題のある改正内容も含んでいる。
2 まず、弁護人による援助の充実については、被疑者国選弁護制度の対象事件の範囲について、法定刑による区別をせずに勾留状が発せられている全ての被疑者に対象が拡大された上、弁護人選任権に関する被疑者・被告人への教示も拡充されるというものである。痴漢事件(迷惑防止条例違反)等、これまで被疑者国選弁護制度の対象外とされていた事件においても、冤罪事件が多数生じてきていたのであり、事件名により弁護人の必要性に変わりがあるわけではなく、かかる形で改正がなされることは評価されるべきである。
 また、証拠開示制度の拡充については、公判前整理手続に付された事件において証拠の一覧表の交付義務が検察官に課され、類型証拠開示の対象も拡大されることになる。一覧表に記載しなくてもいい例外条項が広く解されるおそれがあるなど、不十分な点もあるが、検察官手持ち証拠に関する情報がほとんど得られなかったこれまでの状況から考えれば大きな一歩となる改正内容であり、かかる形で改正がなされることについては概ね評価できる。
3 さらに、取調べの録音・録画制度の創設については、これまでも日弁連や当会が強く求めてきたところであり、録音・録画が単なる捜査機関の裁量ではなく義務となったこと、録音・録画をしなくてもいい例外についても相当程度狭められたことなどについては十分評価できるところではあるが、対象事件が裁判員裁判事件と検察独自捜査事件という極めて狭い範囲に限定されてしまっている。
  無論、設備等の問題から、段階的に対象範囲を拡大していくという考えは理解できないわけではないが、取調べの録音・録画制度の創設に関する施行時期は法案成立後3年以内とされており、十分に時間的余裕があることからすれば、今後の国会審議の中で、さらに対象事件を拡大する方向で法案が修正されてしかるべきであるし、附帯決議等において今後の対象範囲の拡大について具体的に定めることなどが必要となるはずである。
4 一方で、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の創設及び刑事免責制度の創設は、いわゆる「司法取引」を制度として初めて日本に導入する法改正内容となる。
  「司法取引」に関する制度については、これまでも導入が検討されてきたこともあったが、そもそも日本の正義の理念や風土に馴染まないのではないかという考えに加え、自己の罪を免れ、あるいは軽くするために虚偽の供述がなされ冤罪事件を生み出しかねないという大きな懸念がある。
  したがって、かかる制度を導入するとすれば、国民全体での議論に加え、冤罪を防止するための制度や措置についても十二分に検討される必要があるのであり、1回の国会会期での審議では不十分である。
  その意味では、他の刑事訴訟法等の改正と一緒に審議していくのには馴染まず、司法取引に関する法改正部分については、他の改正部分と切り離し、十分な国民全体での議論や国会での審議がなされていくべきである。
5 最後に通信傍受法の一部改正については,従来,組織的殺人など特殊な犯罪類型に限られていた対象事件を,傷害,詐欺,恐喝,窃盗などの通常の犯罪にまで大幅に拡大するとともに,これまでの手続を緩和する新たな傍受方法の導入が盛り込まれている。
  通信傍受法制定前の検証許可状により実施された電話傍受の適法性について,最高裁判所平成11年12月16日第三小法廷決定は,「重大な犯罪に係る被疑事件」であることを要件としていた。また,通信傍受法の制定にあたって,憲法上明記された重要な基本的人権である通信の秘密などが不当に侵害される可能性を踏まえて,対象範囲を絞り,傍受の実施方法の要件が定められていたものである。
  ところが、上記の改正案は,このような最高裁判例等の考え方を半ば無視し、「振り込め詐欺」や「組織窃盗」等の類型に限定することなく、一般の傷害や詐欺、窃盗などにまで範囲を拡大し、しかも手続に関しては、これまで必要とされてきた通信事業者等の立会・封印等の措置も不要とするものである。
特に詐欺については、いわば「人を騙す」罪であり、経済活動を含む社会活動を行うものであれば誰でも、騙されたと感じた相手方による被害届や告訴によって容易に被疑者となりうる犯罪類型なのであり、誰しも捜査機関から通信傍受をされるおそれが現実化する法改正内容となっているのである。
  憲法の保障する通信の秘密や適正手続の保障の趣旨を徹底する観点からすれば,通信傍受法の一部改正案には極めて重大な問題があることは明らかであり,国会における審議においては、これを他の法改正部分と分離し、すみやかに廃案されるべきである。
6 以上のとおりであり、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」には、すみやかに法改正がなされるべき部分、その対象範囲等を拡大する方向で修正や審議がなされるべき部分、今国会だけで結論を出すべきではない部分、すみやかに廃案されるべき部分がそれぞれあるのであり、国会においては政府からの法案内容に囚われ過ぎることなく、慎重に取り扱い、審議されるよう求める。
                              
                     2015年(平成27年)4月22日
                        福 岡 県 弁 護 士 会 
                          会 長  斉 藤 芳 朗

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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