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検察官の定年後に勤務を延長する旨の閣議決定の撤回を求める会長声明

カテゴリー:声明

 2020年(令和2年)1月31日、内閣は、2月7日限りで検察庁法22条が定める定年(63歳)を迎え、退官する予定だった黒川弘務東京高等検察庁検事長(以下、「黒川氏」という。)について、国家公務員の定年後もその勤務を延長させ得ると定める国家公務員法(以下、「国公法」という。)81条の3を適用して、勤務を6か月延長すると閣議決定した(以下、「1.31閣議決定」といい、同条の適用による定年後の勤務延長を「定年後勤務延長」という)。
 これは従来の政府解釈(検察官には国公法の定年制の規定は適用されないという1981年(昭和56年)の国会答弁)に反するが、2020年(令和2年)2月13日以降、内閣は、国公法81条の3が検察官にも適用され、定年後勤務延長が可能であると解釈することとしたという説明を始めた。
 しかし、一般職の国家公務員の定年退職について定める国公法81条の2第1項は、「法律に別段の定めのある場合を除き」と規定している。検察官も一般職の国家公務員ではあるが、その定年については検察庁法22条が定めている。従って、検察官の場合、検察庁法22条が国公法81条の2第1項の「別段の定め」にあたるので、国公法81条の2第1項ではなく、検察庁法22条が適用されるのである。
そして、一般職の国家公務員の定年延長を認める国公法81条の3は「前条第1項の規定により退職すべきこととなる場合において」との限定を付している。
つまり、同条によって認められる定年後勤務延長は、「国公法81条の2第1項の規定により退職すべきこととなる場合」に限定されているから、同条項によることなく検察庁法22条によって定年退官する検察官については、国公法81条の3の適用による定年後勤務延長はないと解釈すべきことになる。
条文の文言を素直に解釈する限り、国公法81条の3を検察官に適用してその定年後勤務延長をすることはできない。別途、検察庁法に検察官の定年後勤務延長を可能とする規定がない以上、検察官の定年後勤務延長は不可能であると解釈するのが道理である。
 検察官の定年制が、定年後勤務延長規定の適用がない等、他の一般職と異なるものとされた立法趣旨は、検察官の職務と責任に特殊性があることによる。この点は、国公法が制定された際の同法附則13条、及び、同法制定に併せて検察庁法改正により追加された同法32条の2により、検察庁法22条は検察官の職務と責任の特殊性に基づく国公法の特例であることが、条文上、明確にされ、それら条文が現在も不変であることからも明白である。
 検察官の職務と責任の特殊性とは、刑事訴訟において公訴提起の権限を独占し(刑事訴訟法247条)、捜査においても、警察官等に対し指示・指揮をなし得る(同法193条)等、強大な権限を有することによって、行政官でありつつ実質的に刑事司法の一翼を担うことを指す。
 そのような権限を検察官が行使するに際しては、不偏不党を旨とすべきである。つまり、特定の党派にくみすることなく、公平・中立の立場を保つべきである。これが損なわれ、検察官の権限が政治的に利用されれば、行政権が司法権の公平な作用を害し、三権分立を損なうともに、司法に対する国民の信頼を確保し得なくなる。従って、検察官の人事権は検察庁法の規定上は内閣又は法務大臣にあるが、その行使に際しては政治的影響を介入させぬよう、極めて慎重な配慮がなされなければならない。
よって、検察庁法の立法趣旨からも、同法が検察官の定年後勤務延長を認める規定を置いていないのは、政治的思惑が介入しかねない定年後勤務延長を許さない趣旨であると解すべきである。
 以上のとおり、検察庁法上、検察官の定年後勤務延長は認められない。検察官に国公法81条の3を適用し、定年後勤務延長を可能とすることは、解釈の限界を超え、違法である。しかも、法律による行政(法治主義)に反し、検察官の不偏不党を害しかねないものであって、その影響は深刻である。
 よって、当会は、違法な法解釈に基づく1.31閣議決定に断固として抗議しその撤回を求めるものである。

2020年(令和2年)3月27日
福岡県弁護士会
会長 山口雅司

福岡市が街頭監視カメラを設置しないよう求める声明

カテゴリー:声明

福岡市は、2020年(令和2年)度一般会計予算案に2522万円を計上し、天神・大名地区と博多駅筑紫口地区の街頭を監視カメラ約20台で監視しようとしている。
上記監視カメラの設置目的は、風俗営業法や福岡県迷惑行為防止条例、福岡市「人に優しく安全で快適なまち福岡を作る条例」では処罰対象となっていない飲食店等への客引き行為を抑止するためとされている。
 しかしながら、録画される対象のほとんどは罪もない多数の市民であり、肖像権(憲法13条)侵害が著しいため、当然に許されるものではない。法律で認められた警察の捜査活動でさえ具体的な犯罪の嫌疑を条件として許され、その場合でも、基本的人権を制約する場合には法令の根拠を必要とし(強制処分法定主義)、令状がなければ原則として行えないというのが憲法や刑事訴訟法の考え方である。
 警察自身による監視カメラの設置でさえ、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷監視カメラ判決(東京高判昭63.4.1)などによれば、①犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、②証拠保全の必要性・緊急性、③手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められないとされている。また、西成監視カメラ判決(大阪地判平6.4.27)では、「特段の事情がない限り、犯罪予防目的での録画は許されないというべきである。」として、犯罪予防目的での監視カメラの設置を明示的に禁止している。
 そもそも福岡市には、警察のような捜査権限はなく、犯罪捜査目的の活動は許されない。福岡市は犯罪に該当しない行為を監視対象としているが、「モラル・マナー」の保護という犯罪捜査より軽度の利益を優先して、罪もない市民を無差別に撮影し、市民の肖像権や行動の自由を制限することは決して許されるものではない。
福岡市は、データを外部に提供し、人工知能(AI)を活用した映像解析技術による客引き対策の実証実験も行おうとしている。しかし、AIを手段とする監視が著しい人権侵害を招きかねないことは、当会が2014年(平成26年)5月27日に「法律によらず顔認証装置を使用しないよう求める声明」で指摘したところである。「モラル・マナー」違反の行為に対して、自治体がAIを使用した監視実験を行うことは著しいプライバシー権侵害である。
 基本的人権を制限する場合、法律・条例の制定過程を通じた慎重な議論が不可欠であり、そのような過程を経ることなく、予算措置だけで監視カメラを設置し、AIによる監視実験を開始することは、安心という価値に著しく偏った、罪のない膨大な市民に対する人権侵害である。
 当会は2007年(平成19年)以降、反対の意見を述べているにもかかわらず、なんら法律が制定されないまま街頭監視カメラが増設されていることに対し強く遺憾の意を表するとともに、少なくとも適切な法律・条例が制定されるまでの間は、監視カメラの設置・運用を中止するよう強く求める。

2020年(令和2年)3月 6日
福岡県弁護士会会長 山 口 雅 司

死刑執行に抗議する会長声明

カテゴリー:声明

本日,福岡拘置所において1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
我が国での死刑執行は,今世紀に入ってからも,2011年を除いて毎年行われており,2001年以降これまで合計91人もの死刑確定者が,国家刑罰権の発動としての死刑執行により生命を奪われていることになる。
当会は,最近では,今年8月2日の死刑執行に対し,抗議する声明を発表し,すべての死刑の執行を停止することを強く要請した。それにもかかわらず,今回の死刑が執行されたことは,まことに遺憾であり,当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。
たしかに,突然に不条理な犯罪の被害にあい,大切な人を奪われた状況において,被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも,わが国においては,犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり,十分な支援を行うことは社会全体の責務である。
しかし,そもそも,死刑は,生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
人権意識の国際的高まりとともに,世界で死刑を廃止または停止する国はこの数十年の間に飛躍的に増加し,法律上及び事実上の死刑廃止国は,2018年12月31日現在世界の7割を超えた。同年8月2日にはローマ・カトリック教会が,今後死刑制度に全面的に反対する方針を明らかにし,同年12月17日には,国連総会本会議において,史上最多の支持(121か国)を得て死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める決議案が可決された。また,死刑制度を残し,現実に死刑を執行している国は,過去10年で18~25か国にすぎず(2018年度は20か国),死刑廃止は世界的な潮流という状況にある。
当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。

2019年(令和元年)12月26日
福岡県弁護士会会長  山 口 雅 司

中村哲医師を追悼する会長声明

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長年にわたり,アフガニスタンやパキスタンで人道支援活動に従事された中村哲医師が今月4日,現地で護衛者らとともに銃撃を受け,逝去されました。
中村医師は,戦争で荒廃したアフガニスタンやパキスタンにおいて,多くの現地住民,難民の医療救援活動に従事されたばかりか,病気の根本的解決を図るには農業振興が不可欠であるとの考えのもと,農業用水確保のために,土木工学を独学され,日本の伝統工法を取り入れて,井戸の掘削事業や,大規模なかんがい・水利事業に,自ら現地で重機を操り従事されました。まさに,日本の技術を現地で活かすことで,多くの命を救われたのです。
中村医師は,2008年及び2015年に,当会主催の憲法市民集会で講演をして下さいました。その際,こうした活動の紹介とともに,日本が憲法9条を持ち,問題解決に武力を使わないという信頼があったからこそ,日本人である自分が,紛争地である現地で,命の危険にさらされることなく活動できたのだと語って下さいました。
70歳を超えてなお,現地活動の継続・発展,そして継承に意欲を燃やされていたというご本人の無念さを思うとき,当会にとっても痛恨の極みであり,謹んで哀悼の意を表します。
また,突然の銃撃・殺害という卑劣な暴挙に対して,断固として抗議するものです。
中村医師が体現し続けられたのは,人々が欠乏に苦しむことなく生活できる社会を実現するという理念の具体化でした。まさに,欠乏からの自由が平和的生存権を実現するという,日本国憲法前文と9条の価値・理念を自らの行動で体現されたのです。それはまた,日本がもつ技術・知識を提供することで他国からの信頼を得るという,真の意味での国際貢献の実践活動でもありました。さらに,そうした活動の地道な継続によって,武力に頼ることなく,自国の防衛とともに国際社会の平和を実現するという,恒久平和主義の理念を具体化する実践活動であったというべきです。
当会は,活動場所や方法は違っても,中村医師の功績・理念を心にとどめ,それを生かし,実現するための活動に,今後とも全力を挙げて取り組んでいく所存です。

2019年(令和元年)12月18日
福岡県弁護士会
会長 山 口 雅 司

クレジット過剰与信規制の緩和に反対する会長声明

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現在,経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会において,割賦販売法の過剰与信規制について,以下の規制緩和が検討されている(経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会,令和元年5月29日付け「中間整理~テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方~」)。
① クレジットカード会社独自の技術やデータを活用した与信審査を行っている場合には,これを従来の支払可能見込額調査(割賦販売法第30条の2第1項)に代えることができ,さらにその場合には,指定信用情報機関への照会(指定信用情報機関の信用情報の使用)(同法第30条の2第3項)を⼀律の義務としては課さないこととする。
② 少額・低リスクのサービス(極度額10万円以下のものが想定されている)で指定信用情報機関の信用情報を使用せずとも与信できる場合には,指定信用情報機関への基礎特定信用情報の登録義務(同法35条の3の56)を課さないこととする。
 しかしそもそも,2008年の割賦販売法改正において,クレジット会社に指定信用情報機関への信用情報の照会義務,基礎特定信用情報の登録義務及び支払可能見込額調査義務が課されたのは,従前,過剰与信の防止をクレジット会社の努力義務(同法38条)に留めていたため,クレジットの過剰与信を含む多重債務被害が広がったことから,クレジット業界全体に対して,過剰与信を法的に規制するということが背景にあった。
 しかるに,上記①は,与信判断を各クレジットカード会社の独自の審査基準に委ねようとするものであり,クレジット業界全体として統⼀的な基準により過剰与信を防止しようとした前記2008年改正の趣旨を没却することになりかねない。仮に,独自の基準による与信審査をすることを認めるのであれば,その与信審査基準が現行の支払可能見込額調査に代替し得るだけの客観的かつ合理的なものであることが担保されなければならないが,この点への手当は明確ではない。
 また,指定信用情報機関の信用情報の使用義務を免除することになると,既に他社からの与信等で多重債務状態に陥っている者にもクレジットカードの利用が認められうることになり,過剰与信防止の観点から問題が大きいと言わざるを得ない。
 次に,上記②について,少額・低リスクのサービス(極度額10万円以下のものが想定されている)に関して指定信用情報機関への基礎特定信用情報の登録義務を課さないということになると,クレジット業界全体のクレジット債務額を集約して相互に利用することによって過剰与信を防止するという指定信用情報機関の役割が大きく損なわれる。言うまでもなく,一つ一つは少額であっても,多数のクレジットカード会社を利用すれば,返済不能状態に陥ることはありうるのであって,少額だからといって基礎特定信用情報の登録義務を課さないとすることには,過剰与信防止の観点から問題がある。また,多種多様なキャッシュレス決済手段が普及していくことが予想される中,少額の決済手段は,これまでクレジットカードを利用してこなかった層にとっても,比較的抵抗感なく利用できるものと受け取られる可能性が高い。特に,民法の成年年齢の引下げに伴い,クレジットカードを初めて手にするような若年者層にとっては,少額のものは心理的に利用しやすいものとして捉えられる可能性が高く,適正な与信審査がなされなければ,再び多数の多重債務者を生み出すことになりかねない。
 よって,①クレジットカード会社独自の技術やデータを活用した与信審査を行う場合に,これを従来の支払可能見込額調査(割賦販売法第30条の2第1項)に代えることを認めて,指定信用情報機関への照会(指定信用情報機関の信用情報の使用)を義務としないことには反対であり,仮にクレジットカード会社独自の審査を認めるのであれば,少なくとも,事前の措置として,当該与信審査方法の合理性を審査する手続を設けることと,事後的措置として,貸倒率又は延滞率等の客観的検証手続を設けることの両方の措置を講ずるべきである。また,②少額・低リスクのサービス(極度額10万円以下のものが想定されている)で指定信用情報機関の信用情報を使用せずとも与信できる場合であっても,指定信用情報機関への基礎特定信用情報の登録義務は維持すべきである。

2019年(令和元年)11月14日
福岡県弁護士会
会長 山 口 雅 司

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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