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法律事務所への捜索等に抗議する会長声明

カテゴリー:声明

 東京地方検察庁の検察官ら(以下「検察官ら」という。)は,2020年(令和2年)年1月29日,カルロス・ゴーン氏に対する出入国管理法違反,その他の者に対する同法違反(幇助)及び犯人隠避被疑事件について,同氏の別件被告事件の元弁護人ら(以下「元弁護人ら」という。)が所属する法律事務所(以下「本件事務所」という。)に対し,立ち入り,捜索(以下「本件捜索」という。)を行った。もっとも,結局,検察官らは,元弁護人らから押収拒絶権を行使された物について,差押えをせず,検察官らが押収したものは,弁護士らが任意に呈示していた面会簿のみだった。
 この点,検察官らは,本件捜索に先立つ同月8日,元弁護人らにおいて押収拒絶権(刑事訴訟法105条)を行使することが可能な対象物(同氏に貸与していたパソコン)のみを明示した別の捜索差押許可状により,本件事務所に立ち入ろうとしたところ,元弁護人らに押収拒絶権を行使されたため,事務所内への捜索(立ち入り)自体を断念していた。
 本件捜索は,その後,検察官らが裁判官から新たな捜索差押許可状(以下「本件令状」という。)の発付を受けたうえで行われた。本件令状は,法律事務所に通常保管されていると思われる,事件との関連性に疑問がある物をも含めて,網羅的・包括的に対象物としていた。
 このように,本件捜索は,一度は元弁護人らに押収拒絶権を行使されたため,検察官らが事務所内への捜索を断念した後に,改めて事件との関連性に疑問がある物を含む,網羅的・包括的な物を対象とする本件令状により強行されたものである。かかる事実に照らせば,検察官らが行った本件令状の請求及び執行は,本件事務所内の捜索のみを目的としていたと解さざるを得ず,元弁護人らに対する威迫行為であり,その職務を侵害する重大な違法行為であるというべきである。
 よって,当会は,検察官らのこれらの行為に強く抗議する。
 さらに,裁判官は,適正手続きの要請のもと,強度の人権侵害である強制処分を行う令状を発付する権限が与えられている。ところが,一度,検察官らが対象物を明示した捜索差押令状を請求し,これを執行した際に,元弁護人らが押収拒絶権を行使したため,捜索自体を断念した経緯があるにもかかわらず,本件令状のような網羅的・包括的な令状の請求に対し,裁判官が本件令状を漫然と発付したことは,令状発付時に適切な審査を期待されている裁判官の職責を放棄し,適正さを著しく欠いた令状主義の精神を没却する違法な行為であると言わざるを得ない。よって,当会は,裁判官のかかる令状発付行為に対し,併せて強く抗議する。
 刑事司法を担う検察官及び裁判官が上記のような各違法な行為に及んだことは,刑事司法の公正さ及び適正手続きに対する国民の信頼を著しく損なうものであり,厳しく批判されるべきである。

2020年(令和2年)8月28日
福岡県弁護士会
会長 多川 一成

外国人学校の幼児教育・保育施設を幼保無償化の対象とすること等を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 子ども・子育て支援法の一部を改正する法律が2019年10月1日より施行され、同日より幼児教育・保育の無償化(以下「幼保無償化制度」という。)が開始された。
 しかし政府は、朝鮮学校や、ブラジル人学校、インターナショナルスクールをはじめとする、各種学校の認可を受けた外国人学校の幼児教育・保育施設(以下「外国人学校幼保施設」という。)に関しては、幼保無償化制度の対象外とした。
 政府はその理由を「各種学校については、幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく、多種多様な教育を行っており、また、児童福祉法上、認可外保育施設にも該当しないため」と説明している(2018年12月28日関係閣僚合意)。また、「法律により幼児教育の質が制度的に担保されているとは言えないこと」も挙げている(幼児教育・保育の無償化に関する自治体向けFAQ【2020年3月5日版】)。
 しかし、外国人学校幼保施設は、学校教育法第134条に基づき各種学校としての認可を受け、各都道府県知事の監督に服しながら、幼稚園に相当する幼児教育を行っており、学校教育法により、教育の質を制度的に担保されている。
 しかも、現行の幼保無償化制度の対象には、幼稚園の預かり保育や、ベビーシッター等を含む認可外保育施設等、まさに多種多様な形態の施設及び事業が含まれていることからすれば、外国人学校幼保施設だけを、「多種多様な教育」を理由として同制度の対象外とすることには、なんの合理的理由も見出せない。
 また、実態として、認可外保育施設に相当する保育を提供している外国人幼保施設も当然存在している。しかし現状、外国人学校幼保施設が認可外保育施設として幼保無償化制度の対象となるためには、各種学校の認可を返上し、同認可によって受けている利益を放棄せざるを得ない。外国人学校幼保施設のみが、このような法的不利益を制度適用の実質的要件とされることに合理的な理由はない。
 「全ての子どもが健やかに成長するように支援する」という子ども・子育て支援法第2条2項の基本理念に照らせば、外国人学校幼保施設が制度の対象外とされることに合理的理由はなく、憲法第14条、国際人権規約の社会権規約第2条2項、自由権規約第2条1項、子どもの権利条約第2条1項及び人種差別撤廃条約第2条1項(a)、(c)、第5条(e)(ⅴ)等が禁止する差別的取り扱いに該当する。
 政府は、子ども・子育て支援法を速やかに改正し、あるいはその運用を改め、外国人学校幼保施設をただちに幼保無償化制度の対象とすべきである。
2 現在、現行の幼保無償化制度の対象となっていないいわゆる幼児教育類似施設について、こうした施設についても支援を行うべきではないかという問題意識の下、政府と自治体による支援の在り方を検討するべく、「地域における小学校就学前の子供を対象とした多様な集団活動等への支援の在り方に関する調査事業」が実施されている。
 しかしながら、当該調査事業においても、調査対象として外国人学校幼保施設を含めるか否かは、自治体の判断にゆだねられ、また、調査対象の要件として、自治体が支援を行っていることが原則とされた。
 そのため、支援を受けられていない数多くの外国人学校幼保施設が調査対象になることができなかった。特に朝鮮学校の幼保施設については、文部科学省が2016年3月29日、各自治体に対し、補助金の「適正かつ透明性ある執行」を求める通達を発し、これに呼応して多くの自治体が朝鮮学校に対する補助金を停止ないし廃止した経緯もある。
 多くの外国人学校幼保施設が当該調査事業の対象外とされた結果、調査事業後の政府と自治体による支援からも置き去りにされてしまう恐れを強く懸念する。そうすることもまた、上記の幼保無償化制度からの除外と同じく、憲法や各種国際人権条約に反することはいうまでもない。
 外国人学校幼保施設は、外国にルーツを持つ子どもに対して、幼児教育や保育を提供するとともに、他施設との交流など地域の多文化共生実現にとって不可欠な役割を果たしている。上記の子ども子育て支援法の理念にも照らせば、政府や自治体による積極的な支援がなされるべきことは当然である。
 政府及び各自治体においては、外国人学校幼保施設に対し、今後積極的な財政的支援をしていくことを求める。

2020年(令和2年)7月2日

福岡県弁護士会 会長 多 川 一 成

緊急声明~修習資金の貸与を受けた元司法修習生に対する貸与金返還の一律猶予を求める~

カテゴリー:声明

1 新型コロナウイルス感染症の全国的な流行、さらに本年4月の緊急事態宣言の発令といった未曾有の事態により、市民生活には甚大な影響が生じている。営業自粛や顧客減少による資金繰りの悪化、賃金カットや解雇、契約のキャンセル、借金返済不能、家庭内でのDV等、深刻な問題が噴出しており、司法に対する法的なニーズは高まっている。しかし、その一方で、この間、全国の裁判所では特に緊急性を要する一部の事件を除いて裁判期日が取り消されたほか、弁護士会の法律相談はじめ法テラス、行政機関等主催の法律相談もほぼ全て中止される等、紛争解決機能に重大な停滞が生じた。
 こうした事態の中で、当会では、新型コロナウイルス問題対応として市民・労働者や事業者に対する各種無料電話相談を行ってきているほか、緊急事態宣言期間中は面談相談から無料の電話相談に切り替えて市民からの相談に対応するなど、司法アクセスを止めないための対応に努めてきた。各弁護士も、市民からの相談・依頼に対応するためにそれぞれに工夫を凝らしてきた。こうした活動に、弁護士になって数年の若手の多くが、積極的な役割を果たしている。
2 このような状況の中で、若手弁護士のうち、司法修習生に対する修習資金(以下「貸与金」という。)の貸与を受けた弁護士については、本年度分の貸与金の返金期限が7月25日に迫っている(平成29年最高裁判所規則第4号による改正前の司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則第7条、修習資金貸与要綱第16条第1項)。
 しかしながら、新型コロナウイルスによる社会生活、経済活動への影響は未曾有の世界的規模のものであり、収入減少等の影響は弁護士にも深刻に及んでいる。特に、弁護士業務を開始して数年ほどしか経過していない若手弁護士への影響は大きく、本年度の貸与金の返済資金を準備することが難しくなるという事態に直面している者もいる。
 因みに、貸与金の返還については、平成29年法律第23号による改正前の裁判所法第67条の2第3項において、一定の場合には最高裁判所が返還期限を猶予することができる旨が定められており、新型コロナウイルス感染防止対策に伴う収入減は「災害、傷病その他やむを得ない理由により返還することが困難となった場合」にあたると解される。また、貸与金の返還期限の猶予を求める場合の申請期限は、原則として当年の5月31日までとされており、提出期限経過後の申請も可能とはいえ、返還期限後に猶予申請が承認された場合には返還期限の翌日から猶予申請が承認される日までの間について延滞金(年14.5%)が発生する(最高裁判所HP)。緊急事態宣言の発令が4月7日であったことや、これによる社会生活、経済活動への影響がその後日を追って現実化、拡大・深刻化してきている状況に鑑みれば、申請のための期限は極めて短く、期限内の対応は困難というべきである。そもそも今回の新型コロナウイルス問題がもたらしつつある社会経済的な極めて深刻なダメージを考えれば、かかる個別的な申請にかからしめる返還猶予の対応では全く不十分と言わざるを得ない。
3 司法は、三権の一翼として、法の支配を実現し国民の権利を護るべき役目があり、その司法の担い手としての公共的使命を負う法曹を、高度な技術と倫理感を備えるべく養成することは、本来的に国の責務である。従って、司法修習生が修習専念義務(兼職禁止)の下でも経済的な不安なく修習に専念できるような修習制度、すなわち給費または給付金の支給により、国から修習中の生活の保障を受けたうえでの修習こそあるべき姿である。そのような見地から戦後60余年にわたり維持されてきた給費制が、2011年(平成23年)に廃止され、2017年(平成29年)に修習給付金制度として部分復活されるまでの間の司法修習生(司法修習第新65期から第70期)、合計約1万1000人(全法曹の約4分の1に相当し、いわゆる「谷間世代」と呼ばれる)は、給費も修習給付金も支給されず無給を強いられ、その多くが貸与金に頼らざるを得なかったものであり、その余の世代に比して、特に不公平・不平等な状況下におかれ、貸与金返済問題や経済的窮状が若手法曹としての使命感に基づくチャレンジへの足かせにもなっている。社会の期待に応え、司法の使命、法曹としての使命を遺憾なく発揮できる態勢を維持するためには、谷間世代の不公平・不平等の是正こそが肝要であることはいうまでもない。
当会は、谷間世代が被っている不公平・不平等の是正を求め、2018年1月に会長声明を発出するとともに、是正施策の一環として、日本弁護士連合会が実施中の谷間世代弁護士に対する一律の給付金(20万円)制度に加えて、当会独自策として、5年間の分割で総額上限30万円の給付金を支給する制度を本年度から実施している。しかしながら、法曹の養成は国の責務であることに鑑み、今後とも、国に対して、一律給付などによる谷間世代の不公平・不平等の抜本的是正策の実現を求めていくものである
4 新型コロナウイルスによる国民生活への影響は、当面の間、相当程度深刻に持続することが予想されるところ、社会的弱者に対する法的サービスを担う弁護士の活動がますます重要になると考えられる。また、直接接触を避け、オンラインでの対応が必要となるなど、弁護士の活動も新たな形で行っていく必要が出てくることも疑いない。このような状況では、進取の精神に富んだ若手弁護士こそがその中心的担い手となるはずである。しかしながら、新型コロナウイルス感染防止対策に伴う収入減の中での貸与金の返済という負担は、若手弁護士の志に基づくチャレンジへの更なる足かせとなりかねないものである。法曹養成の責務を負う国としては、さしあたり、本年度の貸与金の返還の一律猶予(また、これに応じて各年度の返還期限を順次1年ずつ繰り下げること)を緊急不可欠な施策として実施すべきである。
5 よって、当会は、最高裁判所に対し、貸与金の返還義務者に対する本年度の返還を一律猶予(前同)するよう求める。

2020年(令和2年)6月12日
福岡県弁護士会
会長 多川一成

検察庁法改正等による検察官の独立性の侵害等に反対する意見書

カテゴリー:意見

2020年(令和2年)5月14日

福岡県弁護士会
会長 多川 一成

【意見の趣旨】

1 2020年(令和2年)年3月13日に内閣から国会に提出された国家公務員法等改正案中の検察庁法を改正する提案のうち、全ての検察官について、内閣又は法務大臣の判断により、定年後も最長3年間、勤務を延長し得るとする内容、及び、新たに延長する65歳の定年を待たず、63歳以降、次長検事、検事長、検事正、上席検察官という一定の高位の官職にとどまれないとする原則に対する特例措置として、内閣又は法務大臣の判断によりそれらの官職にとどまることを可能とする内容は、立法事実を欠くうえ、検察官の政治的独立性を侵害するものであり、さらには司法権の独立及び三権分立を侵害する危険をも有するものであるので、当会はこれらの改正に反対する。

2 2020年(令和2年)2月7日に定年を迎えた黒川弘務元検察官について、定年後に東京高等検察庁検事長としての勤務を6か月延長する旨の同年1月31日の閣議による決定は、検察庁法に反し違法かつ無効であり、同年2月18日の閣議において決定された答弁書における、同人を検事総長に任命することも可能であるとの答弁は極めて不適切であるので、当会は内閣に対し、これらをいずれも撤回するとともに、検察庁法に基づいて東京高等検察庁検事長を任命することを求める。

【意見の理由】

第1 はじめに

当会は、2020年(令和2年)3月27日(以下、2020年を指すときは単に月日のみ表示する。)、「検察官の定年後に勤務を延長する旨の閣議決定の撤回を求める会長声明」(以下、「3.27会長声明」という。)を、また4月24日、「検察庁法の改正の一部に反対する会長声明」(以下、「4.24会長声明」という。)を発したところである。

上記閣議決定と検察庁法の改正とは各個独立の事象ではなく、定年後に勤務を延長する閣議決定を一度なしたうえ、法改正によってそのような措置を恒常的に可能としようとするものである。その経緯及び内容からは、法改正の意図が先行の勤務延長決定の違法性を取り繕う点にあることが窺われる。その点において両者は密接に関連していると思われるので、本意見書で改めて両者について論ずることとする。

第2 検察庁法改正案について
1 改正案の概要

内閣は、3月13日、国家公務員法等の一部を改正する法律案を国会に提出した(以下、国家公務員法を「国公法」と略称する。)。

この法律案第4条は検察庁法の一部を改正する内容であり、同法案第4条は検察庁法の一部を次のとおり改正するものである。

①検察官の定年を現行の63歳から65歳へ段階的に引き上げる。

②内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案して」、「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として」内閣等が定める事由があると認める場合には65歳の定年後も最長3年間、勤務を延長させることができる(以下、「定年後勤務延長制」という。)。

③63歳以降は、原則として次長検事、高検検事長、地検検事正、区検上席検察官という、一定の高位の官職にとどまれなくなる(以下、「役職定年制」という。)。

④役職定年制の特例措置として、前記②と同様の要件がある場合には、63歳以降も定年まで(さらに②によって最長66歳まで)これらの官職を継続できる。

しかしながら、内閣又は法務大臣の判断による全検察官についての定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)の導入は、以下に見るとおり、政治的思惑の下に恣意的に運用されるおそれが強い不当なものであると言わねばならない。

2 検察庁法の立法趣旨~独立性の確保が必要不可欠であること~

(1) 検察庁法の沿革
検察庁法は、1947年(昭和22年)5月3日、日本国憲法施行にあわせて、国会法、内閣法、裁判所法等とともに、新憲法の下で骨格をなす重要な国家機関を規律する法律の一つとして施行された。大日本帝国憲法下において旧裁判所構成法に規定されていた検事や検事局に関する事項を新法制定によって独立させるとともに、新憲法における司法権独立の強化に応じた内容としたのである(検察庁法を制定した1947年(昭和22年)帝国議会の貴族院検察庁法特別委員会における、同年3月28日の木村篤太郎司法大臣による同法の提案理由説明(国立国会図書館ホームページの帝国議会会議録検索システム。以下、帝国議会の議事の引用に関して同じ。))。

(2) 検察官の強大な権限と地位
検察官は、刑事訴訟において公訴提起の権限を独占し(刑事訴訟法247条)、捜査においても、警察官等に対し指示・指揮をなし得る(同法193条)等、強大な権限を有することによって、行政官でありつつ実質的に刑事司法の一翼を担う。

このような強大な権限を有すること、及びその刑事司法作用に占める司法官に準ずる地位において、検察官は一般職の国家公務員ではあるが、他の一般職国家公務員とは決定的に異なっている。

また、検察官がこのような強大な権限を行使する際には、他の公的権力や社会的勢力からの独立性が確保されていなければ、公平公正な職務遂行をなし得ない。特に、憲法上の政治部門(立法権、行政権)からの独立性が確保されず、特定の政治勢力の意向に影響された権限行使がなされる結果、適正な捜査がなされなかったり、起訴不起訴の判断が左右されたりすれば、司法権の独立と、憲法の基本原理たる三権分立の侵害を来す危険もある。

そこで、検察官が権限を行使するに際しては、独立性、とりわけ政治的独立性の確保が必要不可欠である。

3 検察庁法や国公法の立法及び改正の経緯

(1) 大日本帝国憲法下において、検事の定年は裁判所構成法80条の2が、検事総長65歳、その他の検事63歳という、現在と同じ定年年齢を定めていたが、併せて「但シ司法大臣ハ三年以内ノ期間ヲ定メ仍在職セシムルコトヲ得」との定めがおかれ、司法大臣の判断により検察官の定年後勤務延長が可能とされていた。

しかし、日本国憲法施行にあわせて施行された検察庁法では、22条が、検察官の定年を、検事総長65歳、その他の検察官63歳と定める一方で、検察官の定年後勤務延長を認める規定は置かれなかった。裁判所構成法に置かれていた定年後勤務延長規定が検察庁法に置かれなかったということは、立法者の意思として、検察庁法にあえてこれを引き継がせなかったということを意味する。*1

(2) 1947年(昭和22年)、検察庁法に6か月後れて国公法が制定された。その際、「一般職の国家公務員の職務と責任の特殊性に基づいて国公法の特例を要する場合には別に法律等によって規定できる」とする国公法附則13条が規定され、また、検察庁法22条を含む検察庁法の一部の条文は、「国公法附則13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、国公法の特例を定めたものである」とする検察庁法32条の2が検察庁法改正により追加された。これらにより、検察庁法22条は国公法の特例であることが、国公法と検察庁法の双方の条文上において、明確にされた。

検察庁法32条の2にいう検察官の職務と責任の特殊性について、同条を追加する改正がなされた際の参議院法務委員会における政府答弁(1949年(昭和24年)5月11日、参議院法務委員会における政府委員・高橋一郎法務庁検務局長の答弁。国立国会図書館ホームページの国会会議録検索システム。以下、国会議事の引用について同じ。下線部は引用者による。)では、「第32條の2は、檢察官は、刑事訴訟法により、唯一の公訴提起機関として規定せられております。従って、檢察官の職務執行の公正なりや否やは、直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであります。このような職責の特殊性に鑑み、従来檢察官については、一般行政官と異り、裁判官に準ずる身分の保障及び待遇を與えられていたのでありますが、國家公務員法施行後と雖も、この檢察官の特殊性は何ら変ることなく、従ってその任免については、尚一般の國家公務員とは、おのずからその取扱を異にすべきものであります。よって、本條は、國家公務員法附則第十三條の規定に基き、檢察廳法中、檢察官の任免に関する規定を國家公務員法の特例を定めたものとしたのであります。」と説明されている(この政府答弁を、以下、「49年検務局長答弁」という。)。

この点は、検察庁法の解釈に際し実務上最もよく参照されている『新版検察庁法逐条解説』180頁でも、同様に解説されている。*2

(3) 国公法には当初、定年制が定められておらず、当初から定年制を定めていた検察庁法と異なっていたが、1981年(昭和56年)の国公法改正により、定年制度が導入された。この改正案の国会審議における政府答弁(以下、「81年答弁」という。)では、改正国公法の定年後勤務延長規定を含む定年制は検察官に適用されないことが明言された。*3

(4) このような立法、及び法改正の経緯を通じ、検察庁法22条による検察官の定年規定は、検察官の職務と責任の特殊性による国公法の特例とされてきた。この職務と責任の特殊性とは、49年検務局長答弁に示されているとおり、検察官が公訴提起の権限を独占し、職務執行の公正か否かが直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであることを指す。そのため、上記第2の2で論じたとおり、検察庁法の重要な立法趣旨としての、検察官の職権行使の独立性の確保が不可欠なのである。それゆえ、やはり49年検務局長答弁に示されているとおり、検察官には一般行政官と異なり、特別職である裁判官に準ずる身分保障と待遇が与えられ、国家公務員法の施行に関わらず、他の一般職国家公務員とは異なる取扱いがなされてきたのである。

4 定年後勤務延長制と役職定年制の特例措置とを導入する立法事実を欠くこと

立法目的及びその達成手段の合理性を裏付ける社会的・経済的・文化的な事実を立法事実という。新規の立法にせよ、法改正にせよ、国会の立法にあっては当該立法をなすに足るだけの立法事実が必要である。

検察庁法改正案中の定年後勤務延長規定及び役職定年制の特例措置としての63歳以降の役職継続規定の要件は、内閣又は法務大臣の判断により、定年退官すべき検察官の「職務の遂行上の特別の事情を勘案して、」当該検察官の「退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由」(又は「法務大臣が定める準則」)がある、というものである。

しかし、これらの要件はいずれも、検察官の職務遂行原理としての検察官一体の原則に反するものである。

検察官一体の原則とは、検察官は、検事総長を頂点とした指揮命令系統に服する統一的な組織に属する全ての検察官が一体となって職務を遂行し、職責を果たすという原則である。

この原則によって、特定の検察官によってしか担い得ない職務は観念できないとされる。従って、検察官にあっては、改正国公法81条の7第1号(現行国公法81条の3)や検察庁法改正案9条3項、同5項ただし書き、22条2項、同3項、同5項等が規定するような「職員の職務の遂行上の特別の事情」により、「当該職員の退職により公務の運営に著しい支障が生ずる」ような事態はそもそも観念されない。現に、従前、検察官の職務はこの原則に沿って遂行されてきている。一見すれば定年退官や転勤によって支障が生じかねない場合にあっても、引継ぎを十分に行うとか、そもそも定年時期や転勤時期を控えた検察官にはそれらの時期をまたぐような職務を担当させないとかの組織的工夫によって、支障が生じるのを回避してきたものと思われる。

今般の国公法改正案について、当初、この改正案に関する内閣法制局の審査を終え、法案を確定させた時点では、検察庁法を改正する部分に、定年後勤務延長制の導入(②)と役職定年制の特例措置規定(④)は含まれていなかった(2020年(令和2年)4月16日衆議院本会議における森法相の答弁等)。これは、検察庁や法務省が、法改正の必要はないと考えていたことを意味する。

このように、内閣又は法務大臣の判断による全検察官についての定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)の要件は、検察官一体の原則に反する事態を想定するものであって、そもそも、検察官の職務遂行原理にそぐわない。そのような制度を導入すべき立法事実はないということに帰する。

5 改正案による検察官の政治的独立の侵害の深刻な影響

(1) 全検察官についての定年後勤務延長制の導入(②)による影響
検察庁法改正により導入が図られている全検察官についての定年後勤務延長制の導入(②)は、勤務延長の要件がそもそも検察官の職務遂行原理に反し、かつ抽象的であるうえ、その定立及び充足性の判断を、内閣からの一定の独立性を有する人事院ですらなく内閣又は法務大臣に委ねていることから、制度に内在する欠陥として、その実際の運用が恣意的になされるおそれがある。例えば、内閣や法務大臣、その政治的存立母体としての政権与党やこれに連なる政治勢力の意向に沿う検察官のみについて定年後も勤務延長を認め、それ以外の検察官については認めないとする運用も可能だからである。そして、規定の適用が最長3年に及ぶという効果の大きさから、人事管理上の効果も大きなものがあると思われる。この点において、全検察官についての定年後勤務延長制には、制度上の重大な欠陥があると言わざるを得ない。

憲法の基本原理たる国民主権を実現する方途として、わが国は政党政治制によっており、内閣の成立や法務大臣の選任には政治的影響が及ぶことが予定されている。そうであるからこそ検察官の政治的独立性を確保する必要性があることは本意見書第2の2の(2)で論じたとおりであるが、定年後勤務延長の制度について想定され得る上記のような運用においては、そこに政治的影響が介在し、検察官の政治的独立性が侵害されるおそれがある。

検察官の強大な権限は、総理大臣をはじめとする政権与党の要職にある政治家をすら対象として行使され得るものであり、また、その必要があるのに行使されなければそれもまた司法権の公平な作用を担保し得ないという意味で重要なものである。

特に、なされるべき捜査・起訴がなされなければ、司法権を担う裁判所はこれを是正すべき方途を持たない。不当な不起訴を是正するための制度として検察審査会があるが、そもそも捜査段階において適正な捜査がなされていなければ、検察審査会においても必要な証拠収集ができず、検察審査会の審査に支障を来すこととなる。

定年後勤務延長制の制度的欠陥により、時の政治権力者やこれに連なる者の犯罪行為についてなすべき捜査・起訴がなされず、逆に、その政敵とされる者に対して捜査・起訴の権限が過大に行使される等、検察官の強大な権限が政治的に利用されるおそれがあるが、そうしたおそれが現実の事態となれば、刑事司法作用の公平が害されることとなる。それは行政権による重大な司法権の侵害である。そしてまた、国民主権の基礎が揺るがされることともなる。

あるいはまた、全国の検察官の取扱う事犯は多岐にわたる。社会的耳目を集めるような巨大犯罪から、多くの国民が知ることもないような軽微事犯にまで広範囲に及ぶ。後者についても、検察官の職務が公正に遂行され、刑事司法作用の公平が確保されなければならないことはもちろんである。しかし、定年後勤務延長の制度が恣意的に運用され、検察官の職務遂行に政治的影響が及べば、政治的影響の有無、強弱によって起訴不起訴の判断が左右されるといった公平を欠く取扱いが広範に行われないとも限らない。政治家を対象とする巨大贈収賄事件等と異なり、社会的に目立つことはないが、こうした取扱いが全国に及ぶ危険すらあることを考えると、検察官の強大な権限行使がその根幹部分において政治的独立性を害され、公平を失していくことともなりかねない。こうした点において、全検察官についての定年後勤務延長制は、重大な欠陥を内包する制度であると言わざるを得ない。

かつまた、検察官の権限行使の公平について国民が疑念を抱くこととなれば、実際には公平に権限が行使されている場合も含めて、検察官の職務遂行に対する国民の信頼を保つことも困難である。ことは検察のあり方そのものに関わる。

(2) 役職定年制の特例措置(④)による影響
また、法改正により、役職定年制の特例措置としての63歳以降の役職継続規定(④)が導入されれば、やはり、その実際の運用は恣意的になされるおそれが大きい。次長検事、検事長、検事正、上席検察官は、63歳で役職を解かれるか、役職を継続できるかの判断権を内閣又は法務大臣に握られ、これを継続するためには内閣等の意向を窺うこととならざるを得ない。そこには、時の政治権力者やそれに連なる者の影響が及ぶ危険が存在すると言わねばならない。

検事長、検事正、上席検察官は当該検察庁の他の検察官及び管轄区域内の検察庁の検察官を指揮監督する。また次長検事はすべての検察官を指揮監督する検事総長を補佐し、検事総長に事故のあるときや検事総長が欠けたときは検事総長の職務を行う者としてすべての検察官を指揮監督する。

従って、検事長、検事正、次長検事の職務遂行に政治的影響が及べば、それを通じ、当該検察官の指揮監督下にある検察官の職務遂行にも政治的影響が及ぶことがあり得る。この場合、政治的影響を受けた捜査、起訴不起訴の判断がより組織的になされることとなる危険がある。こうした点において、役職定年制の特例措置は、重大な欠陥を内包する制度であると言わざるを得ない。

6 結論

以上のとおり、国公法等改正案中、検察庁法を改正する内容のうち、全検察官について内閣等の判断による定年後勤務延長制を導入するとする部分(②)、及び、役職定年制の特例措置として内閣等の判断により一部の検察官についてのみ役職定年を解除し、役職を継続し得るとする部分(④)は、立法事実を欠くうえ、検察官の政治的独立性を害し、行政権による司法権の侵害、憲法の基本原理たる三権分立の侵害を来す危険を有するものであるので、当会は、これらの改正内容について、断固として反対する。

第3 黒川弘務元検察官の定年後の勤務を延長した閣議決定及び同元検察官の検事総長就任を可能とした閣議決定について
1 2つの閣議決定等をめぐる事実経過

1月31日、内閣は、2月7日限りで検察庁法22条が定める定年退官する予定だった黒川弘務東京高等検察庁検事長(当時。以下、「黒川氏」という。)について、一般職の国家公務員の定年後もその勤務を延長させ得ると定める国公法81条の3を適用し(以下、黒川氏についての定年後勤務延長を「本件勤務延長」という。)、6か月間の定年後勤務延長をする旨を閣議決定した(以下、「1.31閣議決定」という。)。

これに対し、81年答弁で示された、検察官の定年には検察庁法22条が適用され、国公法の定年制の規定は適用されない、との政府解釈に反し違法である、等の批判が向けられた。

この国会審議の過程では、森雅子法務大臣(以下、「森法相」という。)が81年答弁の存在を知らなかったことも明らかになった。

他方、81年答弁で示された政府解釈について、人事院給与局長は「現在まで同じ解釈を引き継いでいる。」と答弁した(2月12日の衆議院予算委員会)。

このような事態を受けて、安倍晋三内閣総理大臣(以下、「安倍首相」という。)は、上記人事院給与局長の答弁の翌日である2月13日の衆議院本会議において、上記のような従来の政府解釈の存在を認めたうえで、これを変更し、検察官にも同法同条が適用され、定年延長が可能であると解釈することとした旨の、それまでには行っていなかった説明を行った。

これに対応して、上記人事院給与局長は、同月20日の衆議院予算委員会において、「81年答弁で示された政府解釈を引き継いでいる。」旨の上記答弁を撤回したが、この撤回は、「つい、言い間違えた。」という、わが国の政府委員たる幹部職国家公務員としてはおよそ考え難い答弁によってなされた。

さらに、安倍首相の上記衆議院本会議答弁後には、1.31閣議決定以前になされたという、本件解釈変更をめぐる法務省と人事院の間の協議等についても説明がなされた。ところが、それは、協議結果を記載したとされる文書に日付が記載されていなかったり、必要な文書決裁を経ておらず、決済が口頭でなされたと説明されたりするなど、わが国の官公署における事務処理としてはおよそ信じ難い手法をも含む説明であった。

こうした不可解な経過によって本件勤務延長がなされたことに対して国民各層からの批判が噴出し、また、その目的が黒川氏を次期検事総長に任命することにあるのではないかという強い疑念が向けられた。

そのような中、内閣は、2月18日、黒川氏の検事総長就任も可能であるとする答弁事項を含む答弁書を閣議決定した(以下、この答弁書の一部である当該答弁事項を「2.18答弁」という。)。

本意見書第2で論じた検察庁法の改正案は、こうした経過の中、3月13日に国会提出されたものであり、当初の国公法改正案の検察庁法改正部分には定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)が含まれていなかったのに後から付加されたこととも併せ考えると、本件定年後勤務延長と関連して先に確定していた国公法改正案に加えられたものと考えられる。そのことは、今般の検察庁法改正案が、本件定年後勤務延長の違法性を取り繕う目的で提案されたものであることを窺わせる。

2 検察官に定年後勤務延長規定は適用できないこと

しかし、3.27会長声明で論じたとおり、検察庁法、国公法の条文の文理解釈、及び、検察庁法の立法趣旨(本意見書第1の2でさらに詳述したもの。)に基づく解釈によれば、検察官に定年後勤務延長規定は適用できない。

1.31閣議決定は、解釈の限界を超えて違法であるばかりか、権力者による恣意的専断的な統治を許さないために、予め定めたルール(法律)による統治をなすべきとする、法律による行政(法治主義)にすら反するものであって、違法かつ無効である。

従って、現在、適法な任命手続きを経た東京高検検事長は存在しない。故に、内閣が適法な東京高検検事長を任命する必要がある。

3 2.18答弁の不適切性

2.18答弁は、黒川氏の検事総長就任を可能としている。この点は、本件勤務延長が黒川氏を検事総長に任命する目的でなされたのではないかという国民の疑念を強め、検察に対する国民の信頼をさらに低下させるものというほかなく、極めて不適切である。

また、国公法81条の3の規定を黒川氏に適用したとする内閣の論理によるとしても、同条が認める定年後勤務延長は、「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情」によるものであり(同条、下線は引用者による。)、特殊性なり特別の事情なりの判断対象はあくまで東京高検検事長の職務である。検事総長の職務ではない。黒川氏は、特例的に延長された東京高検検事長の勤務を終えれば、検察官としての定年を過ぎている以上、その定年規定に沿って速やかに退官すべき地位にある。検事総長は、すべての検察庁の職員を指揮監督する検察トップとしての性格上、現職の検察官から任命するという実務慣行による限り、その候補に黒川氏を含めるとするのは、違法な定年延長を利用するものであって、断じて許されない。

4 結論

よって、当会は、内閣に対し、違法かつ無効な1.31閣議決定、及び、極めて不適切な2.18答弁を撤回し、改めて適法な決定により、東京高等検察庁検事長を任命することを求める。

以上

*1 1947(昭和22)年3月28日の帝国議会貴族院検察庁法特別委員会における質疑では、検察庁法22条の定年規定が例外を設けない一律規定とされている点について、橋本實斐委員による、例外措置を設けないのかという質問に対して、木村篤太郎司法大臣が例外を設けず一律の定年として提案した旨を答弁している。

*2 「この条は、庁法制定当初は存在しなかったが、国家公務員法の施行に伴い、昭和二四年法律第一三八号による改正で追加されたものであり、検察官の級別、任命資格、欠格事由、定年、適格審査、剰員及び身分保障の規定は、検察官の職責の特殊性に基づき、国家公務員法の施行によって影響を受けず、同法の特例として効力を存続するものとすることを明らかにしたのである」(良書普及会、1986年(昭和61年)、出版当時、検事総長の任にあった伊藤栄樹著、初版は1963年(昭和38年)の同人著『逐条解説検察庁法』。)

*3 「検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。」(1981年(昭和56年)4月28日、衆議院内閣委員会における、検察官や大学教官に国公法の定年制の適用があるかという質問に対する、政府委員・斧誠之助人事院事務総局任用局長の答弁)。

刑事収容施設における一般面会の制限に関する会長声明

カテゴリー:声明

 令和2年4月7日,日本政府により,新型コロナウイルス感染症を対象とする新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき,福岡県を含む7都府県を対象とする緊急事態宣言が発令された。
 これに先立つ同月6日,法務省は,矯正施設の長等に対して「新型インフルエンザ等緊急事態宣言が発出された場合における矯正施設の運営について(通知)」を発出し,緊急事態宣言の対象区域に所在する刑事施設において,弁護人等及び領事以外の者については面会を原則として実施しないこととした。
 政府は,その後同月16日に,緊急事態宣言の対象区域を全国に拡大するとともに,従前からの対象区域に6道府県を加えた13都道府県を特定警戒都道府県と位置づけた。
 これを受けて法務省は,同月17日,矯正施設の長等に対して,新たに「新型インフルエンザ等の緊急事態宣言下における矯正施設等の運営について(通知)」を発出し,同月6日付の通知の効力を停止したうえで,特定警戒都道府県に所在する刑事施設では,引き続き弁護人等及び領事以外の者については面会を原則として実施しないこととした。
 これらの通知を受けて,福岡拘置所を初めとする対象となる刑事施設では,同月8日以降,一般面会の受付業務自体を行っていなかった。その後,同年5月14日の緊急事態宣言の対象区域変更により同宣言が解除された福岡拘置所等の一般面会は再開されたものの,解除されなかった都道府県の刑事施設における上記通達に基づく運用は依然として継続されるものと思われる。また,再び感染状況が悪化して緊急事態宣言の対象区域が拡がれば,福岡拘置所等でも上記運用が再開される可能性が高い。
 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)は,被収容者の権利義務の範囲並びにこれを制限することのできる根拠及び限界を定めることを眼目の一つとして,監獄法を改めて制定された法律であり,未決拘禁者の面会権を保障したうえで,規律秩序を維持するための措置等について詳細な規定を設けている。そして,刑事収容施設法では,感染症の拡大防止を目的として未決拘禁者の面会権を制限することを許容する規定を設けていないのであり,一般面会を原則として実施しないとの上記通達及びこれに基づく運用は刑事収容施設法に違反している。
 これに対して法務省は,国有財産法に基づく庁舎管理権としての運用であり,違法ではないとするようである。
 しかし,そもそも国有財産法は,「他の法律に特別の定めのある場合を除」いて国有財産の管理等に関して定めた法律であって(同法1条),刑事収容施設法に面会制限に関する特別の定めがある以上,これに反する形で庁舎管理権を行使することは法律上許されない。
 実質的に考えても,未決拘禁者の面会権は,未決拘禁者が外部との交通を維持するうえで必要不可欠なものであり,憲法上の表現の自由とも関わる重要な権利であること(林眞琴ほか『逐条解説刑事収容施設法(第3版)』〔有斐閣,2017年〕540頁)や,既にみた刑事収容施設法の立法趣旨に鑑みると,未決拘禁者の面会権を制限する措置については刑事収容施設法に根拠規定が必要であり,国有財産法のような一般的,抽象的な法令の規定がこれに代わり得るものとは考え難い。
 したがって,国有財産法の規定は,上記通達及びこれに基づく運用の法律上の根拠とならないから,上記通達及びこれに基づく運用は,現行法の下では違法と言わざるを得ない。感染症の拡大防止を目的として未決拘禁者の面会権を制限しようとするのであれば,立法措置が必要である。
 国は,刑事収容施設における感染症の拡大を防止して被収容者の生命,身体を保護する責務を有するだけでなく,未決拘禁者の面会権の重要性に鑑み,これを保障する責務をも有する。したがって,立法に当たっては,一般面会を制限する措置を発動するための要件や執り得る措置の内容について専門科学的な見地から吟味されるべきことはもちろん,直接の面会を制限せざるを得ない場合に備え,電話やインターネットを利用した面会等の代替措置を整備することが検討されなければならない(なお,一般面会は,未決拘禁者以外の被収容者にとっても重要なものであるから,拘禁の本質に反しない限り,できる限り尊重されるべきであり,併せて検討されるべきである。)。
 そこで,当会は,国に対し,新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するとともに刑事収容施設における被収容者の面会権を保障するための措置として,早急に次のことを行うよう求める。
1 刑事収容施設における一般面会を制限する措置を発動するための要件や執り得る措置の内容について専門科学的な見地から吟味して立法すること
2 刑事収容施設における電話やインターネットを利用した面会等の代替措置を含む法制度及び体制を整備すること

2020年(令和2年)5月14日
福岡県弁護士会
会長 多川一成

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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