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大阪地裁判決を受けて、改めてすべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 2022(令和4)年6月20日、同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う裁判において、大阪地方裁判所は、本件諸規定は憲法13条、14条、24条のいずれにも抵触せず、合憲である旨の判決(以下「大阪地裁判決」という。)を言い渡した。
2 当会は、2019(令和元)年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国家に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。
  大阪地裁判決は、同性カップルにとっても婚姻は憲法上保障された権利であることを示した、上記当会の決議の趣旨に反するものであり、賛同できない。特に、憲法14条についても違憲性を認めなかった点は、同種訴訟において、札幌地裁が2021(令和3)年3月17日に言い渡した、本件諸規定は憲法14条1項に反し違憲である旨の判決とも相反し、婚姻の自由・平等という基本的人権の保障について、後退を余儀なくさせるものであって、不当なものと言わざるを得ない。
3 もっとも、違憲性を認めなかったとの結論は不当であるというべきものの、大阪地裁判決は、同性間の婚姻について決して否定的な判断を示したものではないことには留意が必要である。むしろ、その内容においては、大阪地裁判決は、以下のとおり、同性間の婚姻を認める法制度の整備に親和的かつ重要な判断を示しているところである。
  まず、憲法24条1項は、異性間の婚姻について定めたものとしつつも、「同項が同性間の婚姻を積極的に禁止する意味を含むものであると解すべきとまではいえない。かえって、婚姻の本質は、永続的な精神的及び肉体的結合を目的として公的承認を得て共同生活を営むことにあり、誰と婚姻をするかの選択は正に個人の自己実現そのものであることからすると、…(中略)…同性愛者にも異性愛者と同様の婚姻又はこれに準ずる制度を認めることは、憲法の普遍的価値である個人の尊厳や多様な人々の共生の理念に沿うものでこそあれ、これに抵触するものでない」とした。これは、憲法24条の「両性」との文言を盾に、憲法は同性婚を禁止しており、同性婚を定めるためには憲法改正が必要であるとする、一部に流布している誤った言説を明確に否定するものである。
  また、憲法14条1項の審査について、本件諸規定のもとでは、異性愛者であっても同性愛者であっても、異性とは婚姻でき、他方同性とは婚姻できないのだから、本件諸規定は性的指向に基づく別異取扱いはしていない、という言説に対し、「婚姻の本質は、自分の望む相手と永続的に人的結合関係を結び共同生活を営むことにある以上、同性愛者にとっては、異性との婚姻制度を形式的には利用することができたとしても、それはもはや婚姻の本質を伴ったものではないのであるから、実質的には婚姻をすることができないのと同じであり、本件諸規定はなお、同性愛者か異性愛者かによって、婚姻の可否について区別取扱いをしているというべきであって、これを単なる事実上の結果ということはできない。」としてこれを否定した。
  さらには、「婚姻をした当事者が享受し得る利益には、相続や財産分与等の経済的利益等のみならず、当該人的結合関係が公的承認を受け、公証されることにより、社会の中でカップルとして公に認知されて共同生活を営むことができることについての利益(以下「公認に係る利益」という。)なども含まれる。特に、公認に係る利益は、婚姻した当事者が将来にわたり安心して安定した共同生活を営むことに繋がるものであり、我が国において法律婚を尊重する意識が浸透していることや、近年、婚姻に関する価値観が多様化していること等をも踏まえれば、自己肯定感や幸福感の源泉といった人格的尊厳に関わる重要な人格的利益ということができる。このような人格的利益の有する価値は、異性愛者であるか同性愛者であるかによって異なるものではない。そうすると、同性愛者に対して同性間で婚姻をするについての自由が憲法上保障されているとまではいえないものの、当該人的結合関係についての公認に係る利益は、その人格的尊厳に関わる重要な利益として尊重されるべきもの」であるとし、同性カップルにおいても公認に係る利益という、人格的尊厳に関わる重要な利益が存することを明らかにした。
  このように、大阪地裁判決は、憲法24条1項、14条に関する誤った言説を明確に否定し、また、同性カップルにおいても公認に係る利益という重要な利益が存することを明確に示したものである。だとすれば、大阪地裁は、上記札幌地裁判決と同様に、安易に立法裁量を持ち出すことなく、本件諸規定を違憲と断じ、現に存する不合理な差別を除去し、差別に苦しむ人々を救済すべき責務を負っていたと言うべきところである。この点については、控訴審や、東京、名古屋、福岡の各地裁に係属している同種訴訟の判決において是正されるものと考えるが、少なくとも、大阪地裁判決は、同性間の婚姻を認める法制度の整備について積極的な評価を示し、重要な示唆を提供するものである。
4 当会が、前記「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」を採択してから、既に3年以上が経過した。その間、札幌地裁における違憲判決が出され、パートナーシップ制度を導入する自治体がいっそう増えるなど、社会の理解は進んだと言えるが、他方、政府・国会においては、未だ、公式には同性間の婚姻制度の整備に向けた議論の着手すらなされていない状態が続いている。その結果として、同性カップルに対する差別は、放置されたままとなっている。
  本件諸規定を違憲と判断した先の札幌地裁判決、また、合憲とはしたものの、同性カップルにも公認の利益という人格的尊厳に関わる重要な利益が存在し、これを実現する必要があるとした大阪地裁判決に照らせば、同性間の婚姻を認める法制度を整備することに、もはや一刻の猶予もないというべきである。当会は、政府及び国会に対し、本判決の内容を真摯に受け止め、同性間の婚姻制度を直ちに整備することを、改めて求める。

2022年(令和4年)8月10日
福岡県弁護士会       
会 長  野 田 部 哲 也

死刑執行に抗議する会長声明

カテゴリー:声明

 本日、国内において1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。今回の執行により、今世紀において合計95人もの死刑確定者が、国家刑罰権の発動としての死刑執行により生命を奪われていることになる。
 たしかに、突然に不条理な犯罪の被害に遭い、大切な人を奪われた状況において、被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも、日本においては、犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり、十分な支援を行うことは社会全体の責務である。
 しかし、そもそも、死刑は、生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること、誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
 人権意識の国際的高まりとともに、世界で死刑を廃止または停止する国はこの数十年の間に飛躍的に増加し、法律上及び事実上の死刑廃止国は、2020年12月31日時点で、国連加盟国193か国のうち144か国にのぼる。2020年12月には、国連総会本会議において、史上最多の支持(123か国)を得て死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める決議案が可決され、2021年7月1日には、米国連邦政府において、司法長官が連邦レベルでの死刑執行の一時停止を司法省職員に指示する通知を公表した。このように死刑廃止は世界的な潮流という状況にある。
 
 当会においても、1996年以降、死刑執行に対し、都度これに抗議する会長声明を発出してきたほか、2020年9月18日に「死刑制度の廃止を求める決議」を採択し、2021年8月25日には「米国における連邦レベルでの死刑の執行停止を受け、日本における死刑制度の廃止に向けて、死刑執行の停止を求める会長声明」を発出している。
 そこで、当会は、国に対し、今回の死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに、日本が、基本的人権の尊重、特に生命権の不可侵性の価値観を共有できる社会を目指そうとしている国際社会と協調し、国連加盟国の責務を果たせるよう、あらためて死刑の執行を停止することを強く要請するものである。

2022年(令和4年)7月26日
福岡県弁護士会会長   野 田 部 哲 也

力強い司法を実現するため、司法を支える、いわゆる谷間世代への一律給付実現を求める会長声明

カテゴリー:声明

1 司法は、三権の一翼として、法の支配を実現し国民の権利を守るための枢要な社会インフラであり、法曹はこの司法の担い手として公共的使命を負っている。そこで国は、高度な技術と倫理感が備わった法曹を国の責任で養成するために、現行の司法修習制度を、1947年(昭和22年)、日本国憲法施行と同時に発足させ運営している。この制度の中で、司法修習生は、修習専念義務(兼職の禁止)、守秘義務等の職務上の義務を負いながら、裁判官・検察官・弁護士になる法律家の卵として、将来の進路如何にかかわらず、全ての分野の法曹実務を現場で実習し、法曹三者全ての倫理と技術を習得してきた。
 このように、司法修習制度が修習専念義務等を課したうえで国の責任で法曹を養成する制度である以上、修習に専念できるに足る生活保障を行うのは当然である。そのために戦後60余年にわたり維持されてきた司法修習生への給費制が2011年(平成23年)に廃止されたことにつき、日弁連や当会をはじめとする全国の弁護士会はその復活運動に取り組み、その結果、これを見直して、2017年(平成29年)に裁判所法改正により新たに修習給付金制度が創設された。当会は、これに理解、尽力を頂いた国会議員、政党、最高裁判所、法務省、そして何より多くの国民、諸団体の皆様等々全ての方に、改めて深く感謝を申し上げる次第である。
2 もっとも、修習給付金は、司法修習に専念するには不十分な金額に留まる等、従前の給費制には及ばない内容となっている。そのうえ、給費制が廃止されていた2011年(平成23年)度から2016(平成28年)度までの6カ年間に、無給制(希望者には貸与金あり)のもとで、従前どおりの修習専念義務、守秘義務を負って同じ内容の修習を遂行した新65期から70期の司法修習生(いわゆる「谷間世代」)が何らの生活保障を受けられないまま修習を強いられたという不条理のままに取り残され、かつ、旧65期以前及び71期以降の修習修了者に比して著しく不公平・不平等な立場におかれるという事態が発生している。この谷間世代の法曹は約1万1000人に達し、全法曹(約4万8000人)の約4分の1を占めるもので、その規模や枢要性に鑑み、もはや司法制度(これを支えるソフトインフラである法曹全体)に内在する制度的不備ともいうべきである。
 国の責任で司法修習という制度を設置・運営している以上、このような不条理かつ不公平・不平等な事態を放置することは容認できない。2019年(令和元年)5月30日に名古屋高等裁判所が言い渡した給費制廃止違憲訴訟判決においても「例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないか」と言及されている。立法政策の誤りは立法政策をもってこそ是正されるべきである。
3 当会では、2017年(平成29年)8月、谷間世代の声を聴く会を開き、また同年11月には「修習給付金の創設に感謝し、谷間世代1万人の置き去りについて考える福岡集会」を開催するなど、谷間世代の会員の切実な声に耳を傾けた。2018年(平成30年)1月には、「給費を受けられなかった6年間の司法修習生(「谷間世代」) が被っている不公平・不平等の是正措置を求める会長声明」を発するとともに、是正施策の一環として、日本弁護士連合会が創設した谷間世代弁護士に対する一律の給付金(20万円)制度に加えて、当会独自策として、5年間で総額上限30万円の給付金を支給する制度を実施している。また、昨今のコロナ禍による経済的困窮に対応するため、2020年(令和2年)6月には、「緊急声明 ~修習資金の貸与を受けた元司法修習生に対する貸与金返還の一律猶予を求める~」会長声明を発出するなどの活動を行ってきた。
 2019年(令和元年)と2021年(同3年)に、当会を含む各地の弁護士会で行われた谷間世代に対するアンケートでは、当会会員からも、貸与金返済のための生活への影響や不安から志した弁護士としての活動が十全には果たし得ていないとの声をはじめ、無給制(貸与制)そのものへの不条理感をぬぐい切れていないとの声や、給費制が不十分ながらも給付金制度として事実上復活したことへの不公平感を訴える声など多数みられた。
4 経済的・精神的な足かせを余儀なくされている谷間世代ではあるが、もはや法曹の中核的存在として司法を支えている。近年、各地で繰り返される大規模自然災害やコロナ禍等により困難を抱えた人々のために献身的に活動している者も多い。また、日弁連が創設した「若手チャレンジ基金」制度では先進的ないし公益的取り組みとして多数の谷間世代の会員が表彰されるなど、基本的人権の擁護と社会正義の実現にかける意欲は全く他の世代と同様である。日弁連の上記2019年アンケートによれば、その多くが、経済的困難が解消されれば、法曹を志した当初の志に即して活動範囲を広げたいと考えていることが明らかになっている。全法曹の約4分の1を占める谷間世代には、これからの司法の中心的な担い手として、より一層、社会の不公正や権利侵害に立ち向って法の支配を実現し、国民のための力強い司法を体現することが強く期待されている。谷間世代が抱える経済的・精神的足かせを国による一律給付の実現により是正することは、谷間世代の法曹の活躍の幅や量を広げることにつながり、司法機能の強化に役立ち、これが国民的利益に結び付くものであることは明らかである。
 当会は、これらの点について、地元選出国会議員をはじめさらに広く理解を得るべく、本年8月20日に「谷間世代への一律給付実現全国リレー集会in福岡」を開催する予定である。
5 以上の次第であるので、当会は、政府・法務省、最高裁判所、国会に対して、谷間世代が不条理に経済的負担を強いられたままであり、かつ、これが旧65期以前及び71期以降の司法修習修了者に比して不公平・不平等な事態となって続いている問題の解決のために、谷間世代への一律給付を実現するよう強く求めるものである。

2022年(令和4年)7月13日
福岡県弁護士会  
会 長  野 田 部 哲 也

中小企業への支援策の拡充と最低賃金額引上げを求める会長声明

カテゴリー:声明

 福岡地方最低賃金審議会は、今後(例年どおりであれば8月頃)、福岡労働局長に対し、2022年度福岡県最低賃金の改正の答申を行う見込みである。昨年度、同審議会は前年度比28円増額の時間額870円とする答申を行い、当該答申どおりの改正が行われた。
 しかし、時給870円は、未だ、年収200万円以下のいわゆるワーキングプアと呼ばれる水準にとどまっており、この水準では、労働者の生活を安定させつつ労働力の質的向上を図ることは実際上困難である。また、原油価格の高騰やロシアのウクライナ侵攻等の影響により、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇している。労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額を大きく引き上げることが必要である。
 最低賃金額について、フランスでは、2021年1月に10.25ユーロ(約1473円※本日時点の為替レートによる。以下同じ)に引き上げられ、さらに同年10月から10.48ユーロ(約1507円)に引き上げられた。ドイツでは、2021年7月に9.60ユーロ(約1380円)、2022年1月に9.82ユーロ(約1411円)と引き上げられ、同年7月には10.45ユーロ(約1503円)へと引き上げられる。さらに同年10月から12ユーロ(約1725円)に引き上げることについて国会で審議中である。イギリスでは、2021年4月から23歳以上の労働者の最低賃金が8.91ポンド(約1493円)に引き上げられ、さらに2022年4月から9.5ポンド(約1592円)に引き上げられた。韓国では、2021年1月に8720ウォン(約922円)に引き上げられ、2022年1月から9160ウォン(約968円)に引き上げられた。
 このように多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の大幅引上げが実現しており、我が国においても、コロナ禍であることが、最低賃金の大幅引上げを不可能ならしめるものとはいえない。
 また、最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正していないことは重大な問題である。2021年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1041円であるのに対し、最も低い高知県と沖縄県は時給820円(福岡は870円)であり、221円(福岡県とは171円)の開きがある。最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり、最低賃金の低い地方の経済が停滞し、地域間の格差が縮まるどころか、むしろ拡大している。都市部への労働力の集中を緩和し、地方に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部での一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。
 地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の最低生計費は、研究者らによる最近の調査により、都市部か地方かによって、ほとんど差がないことが明らかとなっている。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、最低賃金の地域間格差を維持することは適切ではなく、地方の最低賃金を都市部の水準まで引き上げることが求められる。
 最低賃金の大幅な引上げの実現のためには、十分な中小企業への支援が必要である。現在、国は「業務改善助成金」制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施しており、従前、その利用件数は低調であったが、令和3年度中央最低賃金審議会の「業務改善助成金について、特例的な要件緩和・拡充を早急に行うことを政府に対し強く要望する」との答申を受け、2021年8月以降、その利用要件の緩和や支援対象の拡充が行われた。政府が、答申に応じ、業務改善助成金の拡充等を行ったことは高く評価すべきであるが、今後も、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるよう、中小企業へのさらなる支援策を講じることが求められる。この点、昨年度の福岡地方最低賃金審議会の答申においても、国及び地方自治体所管の各種支援策の拡充・強化、特に「コロナ禍において直接間接を問わず影響を受けている中小・小規模事業者に対しては、特例措置として賃金引上げ幅に見合った新たな直接的給付金等支援策の創設を早急に検討すること」を求める極めて適切な付帯決議がなされており、国はこの付帯決議の趣旨を尊重し、早急な対応を行う必要がある。最低賃金の引上げには地域経済を活性化させる効果もある。当会は、引き続き国に対し中小企業への充分な支援策を求めるとともに、労働者の健康で文化的な生活を確保し、地域経済の健全な発展を促すため、福岡地方最低賃金審議会が、本年度、最低賃金の大幅な引上げを答申すべきことを求めるものである。

2022年(令和4年)6月22日
福岡県弁護士会       
会 長  野 田 部 哲 也

特定商取引に関する法律等の書面の電子化に関する主務省令において適正な措置を講じることを求める意見書

カテゴリー:意見

第1 意見の趣旨
 特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)及び特定商品等の預託等取引契約に関する法律(以下「預託法」という。)の書面交付義務の電子化に係る政省令を定めるに当たっては、不意打ち的な勧誘や利益誘引型の勧誘等により消費者被害が多発している現状を踏まえ、電子化によって消費者保護機能が低下することがないように、下記の内容の措置を講じるべきである。


1 消費者からの承諾の取得について
⑴ 事業者に対して、消費者から契約書面等の交付義務を電子化することの承諾を得るのに先立って、次の事項についての説明義務を課すこと
① 消費者は原則として書面の交付を受けることができること
② 書面交付に代えて提供される電子データ(書面に記載すべき事項を電磁的に記録したもの)には、契約内容やクーリング・オフ制度などの重要な内容が記録されていること
③ 電子データを受領した旨の消費者から事業者への確認メールの送信日(または事業者が消費者の受領を確認した日)がクーリング・オフの起算日となること
⑵ 事業者に対して、同じく消費者から承諾を得るのに先だって、次の事項についての確認義務を課すこと
① 消費者が自身のスマートフォン・パソコン等の電子機器を操作して、電子メールの受信、送信、電子メールの添付ファイルの閲覧及び同添付ファイルの電子データの保存ができること
② 消費者が自身のスマートフォン・パソコン等の電子機器を操作して、事業者のWebサイトにアクセスしてID・パスワードによりログインし、同サイトの電子データを閲覧し保存できること
⑶ 事業者が消費者の承諾を取得する方法について、次の点を定めること
① 訪問販売、電話勧誘販売及び訪問購入、連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引及び預託等取引、特定継続的役務提供のうち後記②の類型を除く契約類型においては、必要事項を記載した承諾書面への消費者の署名及び承諾書面の控えを消費者へ交付すること
 ここにいう必要事項の記載は、対象契約を特定する事項(契約申込日・商品名・代金額・事業者名)、提供する電子データが契約書面に代わる重要なものであること、電子データを受領した旨の消費者から事業者への確認メールの送信日(または事業者が消費者の受領を確認した日)がクーリング・オフの起算日であることを記載すること
② 特定継続的役務提供のうち、オンラインで契約を締結し、オンラインで役務提供を行う類型(オンライン完結型取引)については、電子メールによって承諾を得ることも許容されるが、その承諾は、事業者が①の承諾書面の記載事項と同様の記載をした電子メールを消費者に送信し、消費者がその内容を確認した旨の電子メールを事業者に返信するという方法によること
⑷ 事業者が消費者の承諾を取得するに際しては、次の行為を禁止すること
① 電子データの提供の意義・効果等についての虚偽・誇大な説明及び表示
② 困惑させる行為による承諾の要請
③ 書面交付に比して対価その他の取引条件で有利に扱う告知
④ 書面交付に比して契約締結手続が迅速化する旨の告知
⑤ 家族その他の第三者への同時提供を希望しないようにする高齢者への働き掛け
⑸ 事業者に対し、高齢者である消費者の承諾を得る際には、家族その他の第三者への電子データの同時提供を希望するかどうかの意思確認を義務付けること
⑹ 消費者の真意に基づく承諾を得たことの立証責任は事業者が負うこと及び事業者が上記⑴から⑸の義務または禁止のいずれかに違反した場合には書面交付義務を履行したものとは認められず、クーリング・オフの起算日が到来しないことを明記すること
2 事業者が契約条項を電子データで消費者に提供する方法等について
⑴ 電子データの提供方法を以下のものとすること
① 電子メールにPDFファイルを添付する場合には、事業者が契約条項全体の一覧性を確保し改ざん防止措置を講じたPDFファイル形式の電子データを添付した電子メールを消費者に送信し、閲覧及び保存を促し、消費者が電子メールを受信して添付ファイルを閲覧し、かつ保存した上で、その旨の確認メールを事業者に返信するものとすること
② 事業者のWebサイトの電子データにアクセスさせる場合には、事業者がWebサイトに契約条項全体の一覧性を確保し改ざん防止措置を講じたPDFファイル形式の電子データを掲載し、アクセスのためのURLを電子メールで消費者に通知し、閲覧及び保存を促すとともに、消費者がこれを閲覧しかつ保存した上で、その旨の確認メールを事業者に返信するものとすること
⑵ 電子メール本文において以下の内容を告知すること
  事業者は、電子データまたはURLを送信する電子メール本文に、①契約を特定する事項(契約申込日・商品名・代金額・事業者名)、②添付した電子データが契約書面に代わる重要なものであること、③電子データを受領した旨の消費者から事業者への確認メールの送信日(又は事業者が消費者の受領を確認した日)がクーリング・オフの起算日であることを明記すること
⑶ 電子データの提供とクーリング・オフの起算日を以下のとおりとすること
① 事業者が電子データを提供した場合のクーリング・オフの起算日は、事業者の送信した電子メールが消費者のメールサーバに到達した日ではなく、消費者が受信した電子メールに添付された電子データを閲覧・保存した上で、事業者に対し確認メールを返信した日とすること
② 事業者がWebサイト上で電子データを提供した場合のクーリング・オフの起算日は、消費者が電子データを閲覧・保存した上でその旨の確認メールを事業者に送信した日とすること
③ 仮に政省令によって起算日自体について上記①、②のように規定することができない場合は、消費者が電子データを閲覧・保存したことを事業者において確認する手順を加え、事業者がその手順を履行しないときは、電子データの到達日をもってクーリング・オフの起算日であることを主張できないものとすること
⑷ 高齢者の家族等への提供方法を以下のとおりとすること
  事業者は、高齢者である消費者が電子化を承諾するに際し、家族その他の第三者への電子データの提供を希望することを表明した場合には、当該家族等に対しても同時に電子データを提供するものとすること
⑸ 概要書面を電子データによって提供する場合の契約概要の説明について以下のとおりとすること
  事業者は、概要書面の交付に代えて電子データを提供する場合、消費者が当該電子データを閲覧している状態であることを確認の上、契約の概要を説明するものとすること
⑹ 契約書面等を電子データによって提供した場合の再提供義務について以下のとおりとすること
 事業者に対し、契約書面等の交付に代えて電子データを提供した場合、消費者が電子データの再提供を請求したときは再提供する義務を課すこと
⑺ 契約条項の保存措置義務について以下のとおりとすること
  書面交付義務の電子化を実施する事業者に対し、契約締結時の契約内容の電子データについて、改ざんが生じないよう対策を講じて保存する措置をとる義務を課すこと
第2 意見の理由
1 はじめに
⑴ 2021年(令和3年)6月16日に公布された「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「本改正法」という。)においては、特定商取引法及び預託法が規定する販売業者等の契約書面等交付義務(以下「書面交付義務」という。)について、消費者の承諾を得ることを要件に、契約書面等を電子化することと、電磁的方法によって提供することを可能としており、この「電磁的方法による提供」の具体的規律については主務省令に委任している。
  これを受けて消費者庁は、「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会」(以下「本検討会」という。)を設け、上記の消費者の承諾の取り方や、電磁的方法による提供のあり方等についての検討を継続している。
  しかし、そもそも、消費者側においては、訪問販売等において契約書面等をあえて電子化する必要性は乏しく、デジタル社会の進展とともに消費者と事業者の間の情報の質及び量並びに交渉力の格差は縮まるどころかむしろ拡大していることに鑑みれば、契約内容の確認および把握という点で、事業者から交付される契約書面等は依然として極めて重要な意義を有している。そのため、本改正法については、消費者保護の観点から、日本弁護士連合会、全国各地の弁護士会及び消費者団体が反対意見と懸念を表明している。当会も、同年3月24日、「特定商取引に関する法律等の書面の電子化に反対する意見書」を公表した。
  加えて、同年6月4日、参議院地域創生及び消費者問題に関する特別委員会は、本改正法の附帯決議として「書面交付の電子化に関する消費者の承諾の要件を政省令等により定めるに当たっては、消費者が承諾の意義・効果を理解した上で真意に基づく明示的な意思表明を行う場合に限定されることを確保するため、事業者が消費者から承諾を取る際に、電磁的方法で提供されるものが契約内容を記した重要なものであることや契約書面等を受け取った時点がクーリング・オフの起算点となることを書面等により明示的に示すなど、書面交付義務が持つ消費者保護機能が確保されるよう慎重な要件設定を行うこと。また、高齢者などが事業者に言われるままに本意でない承諾をしてしまうことがないよう、家族や第三者の関与なども検討すること」を要請している(以下「参議院附帯決議」という。)。
⑵ そもそも、特定商取引法等が必ずしも処分証書ではない文書について事業者に対して書面交付義務とクーリング・オフ制度を定めた趣旨は、不意打ち的な勧誘、利益誘導型の勧誘によって冷静に考えれば締結しなかった契約を締結させられてしまったような場合や、契約内容が複雑・不明瞭で、その契約を締結した場合にどのような法律関係が形成されるのかが客観的に判断しづらい契約内容となっていることから生じるトラブルから、消費者を保護することにある。
  例えば、①訪問販売、電話勧誘販売や訪問購入であれば、勧誘の不意打ち性、攻撃性という問題性を、②連鎖販売、業務提供誘引販売取引や預託取引であれば、複雑・不明瞭な契約内容を充分に理解しないまま多額の利益等に幻惑されて契約してしまうという問題性を、③特定継続的役務提供であれば、役務の内容、質、効果の客観的判断が困難なまま長期的な契約を締結せざるを得ないという問題性をそれぞれ内在している。それゆえ、消費者を不当な契約から解放するためにクーリング・オフ制度が設けられ、その前提として、消費者に契約内容やクーリング・オフ制度を正確に把握させるために、事業者に対して書面交付義務が設けられている。
  消費者トラブルは、消費者が一度決済をしてしまえば、法的救済を行うことが極めて困難になるという性質が特に強く表れる類型の紛争である。そのため、早期に、簡易な方法で契約関係から離脱する手段(クーリング・オフ制度)を講じておくことは、市民の権利を保障し、安心して経済活動に関わることを促すことに繋がる重要な施策である。今回の、事業者に対して電磁的方法による書面交付義務の履行を認めるという法改正は、電磁的機器を利用しなければその内容を把握できない電磁的方法を認めるという意味で、極めて大きな消費者保護制度の変更を認めるというものである。従ってクーリング・オフ制度の前提をなす重要かつ不可欠な規律として電磁的方法による書面交付義務を定めるものである以上、極めて厳格な制度設計が求められる。
2 消費者の真意に基づく明示的な承諾確保の必要性(意見の趣旨1項関係)
⑴ 同⑴関係
 書面交付義務の電子化について、消費者の真意に基づく承諾があると言えるためには、同⑴記載の事項について十分に説明し、理解を得ることが不可欠の前提条件である。参議院附帯決議においても、「消費者が承諾の意義・効果を理解した上で真意に基づく明示的な意思表明を行う場合に限定されること」を要請している。
⑵ 同⑵関係
  また、消費者が書面交付義務の電子化について真意に基づく承諾をするためには、単に形式的な説明と承諾があることでは足りず、消費者に電子データの提供に対応できるだけの電子機器の操作能力が必要である。したがって、事業者は、消費者が同⑵記載の操作をすることができることを質問により確認し、電子データの提供手順において検証するという手順を踏むことが求められる。
⑶ 同⑶関係
  特定商取引法等の取引類型は、事業者の主導的な勧誘行為により消費者の冷静な意思形成を歪めやすい特徴があることから、書面交付義務の電子化についても、口頭による説明と承諾のやり取りでは真意に基づく明示的な承諾を確保することはできない。国会質疑においても、政府参考人から、口頭や電話だけでの承諾は認めないことに加えて、オンラインで完結する取引の場合は電子メールで、その他の分野は書面による承諾を得てその控えを消費者に交付する方法とすることが考えられること、ただし、オンライン完結型取引であっても、悪質業者の被害が顕著に見られる分野については書面による承諾とし、被害発生のおそれが低いオンライン取引に限って電子メールによる承諾の取得を認めることも一案として検討したい、とする答弁がある。加えて、消費者自らが承諾書面に署名することによって、電子化の承諾の意義と効果に注意を向け、これを承諾することの意味を自覚する契機ともなる。契約内容とクーリング・オフ制度を告知する機能をより確実に確保する観点から、オンラインによる役務提供の取引等の類型を含めて、書面による承諾と承諾書面の控えの交付を要するものとすべきである。
  上記の趣旨から、承諾書面には、少なくとも、対象契約を特定する事項(契約申込日・商品名・代金額・事業者名)、提供する電子データが契約書面に代わる重要なものであること、電子データを受領した旨の消費者から事業者への確認メールの送信日(または事業者が消費者の受領を確認した日)がクーリング・オフの起算日であることが記載されていなければならない。このような書面へ消費者自らが署名し、その写しが消費者に交付されることを要するものとすべきである。
  オンライン完結型取引についても、消費者の真意による承諾が明確になるよう、消費者自らが事業者のメールに返信することを要するものとすべきである。
⑷ 同⑷関係
  特定商取引法等が規定する取引類型が不当勧誘行為による不本意な契約締結の被害が発生しやすい分野であることを踏まえるならば、書面交付義務の電子化の承諾を取得する場面においても、電子データの提供の意義・効果等について虚偽・誇大な説明や表示をするなどの消費者を誤認させる行為や、消費者を困惑させて承諾を要請する行為は禁止する必要がある。
  また、書面交付を直ちに又は遅滞なく行うことは事業者の義務であるから、電子データの提供を選択する方が対価その他の取引条件で有利に扱われるとか、手続が迅速に進むといった告知は、不当な誘導として許されない。家族その他の第三者への同時提供を希望しないようにする高齢者への働き掛けも許されないものとされるべきである。
⑸ 同⑸関係
  消費者が高齢者である場合、判断能力・拒絶能力の低下や事後的な対処能力の低下により訪問販売等の被害に遭うリスクが増大する。そのため、国や地方公共団体においては、高齢者見守りネットワークを構築して家族その他の第三者による消費者被害の防止・早期発見に結び付ける取組が推進されている。
ところが、書面交付義務が電子化されて、高齢者がスマートフォンなどの電子機器内に契約データを保管していても、家族等がそれを発見して被害救済に結び付けることは極めて困難である(一般的には契約書や請求書といった紙媒体での資料がきっかけとなって被害の発見に繋がることが多いと思われる。)。
  そこで、事業者が一定年齢以上の高齢者である消費者に対して書面の電子化の承諾を求める場合は、家族その他の第三者に電子データの同時提供を希望することができる旨を当該消費者に説明した上で、これを希望するか否かの意思確認をする手順とし、これを希望する高齢者については、後述するように承諾に付随する条件に従って家族等への同時提供を実行することが求められるものとすべきである。
この点は、参議院附帯決議においても、「高齢者などが事業者に言われるままに本意でない承諾をしてしまうことがないよう、家族や第三者の関与なども検討すること」とされているところである。なお、このような手順を踏むものとしても、契約の締結自体について第三者の関与・承諾を要件とするものではなく、高齢者が希望する場合に電子データを同時提供するだけであるから、高齢者の自己決定権を制約することにもならない。
⑹ 同⑹関係
  書面交付義務の電子化は、事業者が「申込みをした者の承諾を得て」電子データで提供することができる(特定商取引法4条2項等)という規定である。そのため、申込者の承諾を得たことの立証責任は、条文構造から見ても事業者が負うべきである。そして、その承諾については承諾の意義・効果を理解した上での真意に基づく明示的な承諾の意思表示であることを要するべきであるから、承諾の意思表示の存在の立証責任を事業者が負うことを明記することが求められるとともに、事業者が、上記第1・1⑴から⑸の義務を果たさず、あるいは禁止行為に違反するときは、承諾に基づく電子データの提供には該当せず、書面交付義務が履行されていないこととなり、クーリング・オフの起算日が到来しないこととすべきである。
3 事業者が契約条項を電子データで消費者提供する方法等について(意見の趣旨2項関係)
⑴ 同⑴関係
① 書面に代えて電子データの提供を行う場合には、事業者が契約条項全体の一覧性を確保し改ざん防止措置を講じたPDFファイル形式の電子データを添付した電子メールを消費者に送信して、閲覧及び保存を促し、消費者が電子メールを受信して添付ファイルを閲覧し、かつ保存した上で、その旨の確認メールを事業者に返信することとすべきである。
② 事業者のWebサイト上で電子データの提供を行う場合は、事業者がアクセス用URLを電子メールで提供するだけでなく、消費者に速やかに電子データを閲覧・保存するよう促し、消費者がアクセスして契約条項の電子データを閲覧・保存した上で、その旨の確認メールを事業者に送信する(または閲覧・保存したことを事業者が確認する。)という手順にすべきである。
⑵ 同⑵関係
 前記いずれかの方法で契約条項の電子データを提供した場合、書面で提供される場合と比べて、消費者には添付ファイルを開いて確認するという作為が必要になるため、その行動がとられないリスクがある。そのうえ、添付ファイルを開いて閲覧したとしても、手のひらサイズの小さなスマートフォンの画面に詳細な契約条項が表示されることとなると、主な契約内容やクーリング・オフ制度に関する記載が看過されてしまう危険性がある(書面の場合にはフォント数に関する規制が存在するが、端末で見る場合には現実の文字サイズはその端末のサイズに依存することになる。)。
そこで、送信する電子メール本文に同⑵記載の内容を明確に表示すべきことを政省令に明記すべきである。なお、消費者がクーリング・オフの通知を電磁的記録により行う場合の送信先電子メールアドレスは、添付ファイルの電子データ内だけでなく、電子メール本文にも表示すべきである。これらの措置は、書面交付義務をデジタル化することによる事業者の利便性だけでなく、デジタル化に伴う消費者の利便性も確保するものであり、本改正法の趣旨に合致するものだと言える。
⑶ 同⑶関係
① 事業者が電子メールに契約条項の電子データを添付して送信した場合、その電子メールは消費者が契約しているプロバイダのメールサーバにまず記録され、消費者が自己の電子機器のメールソフトを操作して電子メールを電子機器上で受信し、添付ファイルを開くことで現実に電子データを閲覧できる状態となる。この点、特定商取引法等の書面交付に代わる電子データの到達時期は、消費者保護のためのクーリング・オフ制度を消費者に告知し、クーリング・オフ行使の起算日を画する基準として考えられるべきものであるから、契約成立時期の判断基準と一致させる必要はなく、消費者が契約条項及びクーリング・オフの存在を現実的に確認できたと評価できる時点であって、かつ事業者にとっても共通の明確な時点を基準とする必要がある。
 こうした観点から見ると、事業者の送信した電子データが消費者のメールサーバに到達した日ではなく、消費者が、受信した電子データを閲覧・保存した上で、事業者に対する確認メールを返信した日をもって、クーリング・オフの起算日と扱うべきである。
② また、事業者のWebサイトに消費者がアクセスして電子データを取得する場合も、消費者が電子データをダウンロードし閲覧・保存した旨の確認メールを事業者に送信した日、または消費者がダウンロードし閲覧・保存したことを事業者が確認した日をもって起算日とすべきである。
③ なお、本改正法に消費者の「電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時」に消費者に到達したものとみなす旨が規定されたことから(4条3項等)、政省令によって到達日自体を変更することができないとすれば、電子データの具体的な提供方法が政省令に委任されていることを踏まえて、消費者が電子データを閲覧・保存したことを事業者において確認することを手順として定め、その手順を怠ったときは、事業者は電子データの到達日をもってクーリング・オフの起算日として主張できない旨を規定すべきである。そして、消費者が一定期間内(例えば1営業日以内)に電子データを閲覧・保存した旨の確認メールを送信しない場合は、事業者は遅滞なく書面の交付を行うべきである。
⑷ 同⑷関係
  消費者が高齢者である場合、書面交付義務の電子化による見守り機能喪失の不利益を防止するため、前述したとおり当該高齢者が承諾に付随する条件として家族その他の第三者への電子データの同時提供を希望した場合には、事業者は、当該家族等に対し電子データを同時提供する手順を踏むものとすべきである(なお、家族その他の第三者のメールアドレスを事前の同意なく事業者に提供することが当該家族等の個人情報の第三者提供の問題となり得るが、高齢者本人は個人情報保護法上の事業者に当たらないうえ、契約条項の電子データの同時提供が希望される家族等は高齢者との間に信頼関係が存在すると考えられることから、高齢者の被害防止の趣旨が優先されるものと考えられる。)。
  このことは、高齢者である消費者に対し、書面交付義務の電子化について家族等への同時提供という条件付きの承諾の機会を与え、その条件付き承諾に従って提供するものと捉えることが適切である。
  家族等への電子データの提供方法は、高齢者に対する提供方法と同じ方法で同時に提供するものとすべきである。高齢者である消費者が家族その他の第三者への提供を希望するが、そのメールアドレスを事業者に直ちに提供することができないときは、当該高齢者の希望は、自分だけで書面交付義務の電子化に対処することへの不安に基づくものであると考えられる以上、原則に戻って事業者は書面交付を行うべきである。この点は国会審議においても、「契約の相手方が高齢者の方々の場合には、家族などの契約者以外の第三者にも承諾に関与させる、家族などにもメールを送らせることなどによって安易に承諾を得られないようにすることで消費者被害の発生を抑止できるのではないかと考えております」との政府参考人答弁がなされている。
⑸ 同⑸関係
  連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引及び預託等取引は、利益誘引の強調により不利益な契約条件を見落としがちであること、特定継続的役務提供は内容不明確な役務を長期多数回提供する契約内容が分かりにくいことから、契約の勧誘段階で概要書面を交付する義務が定められている(特定商取引法37条1項、42条1項、55条1項、預託法3条1項)。本来は、勧誘場面で概要書面を形式的に交付するだけでなく、交付した概要書面を提示した状態で複雑な契約内容を説明する手順を踏むべきところである。
  そこで、概要書面の交付に代えて電子データにより提供する場合には、事業者は、電子データの提供について所定の手続により消費者の承諾を得て電子データを提供した後、直ちに、消費者が当該電子データを開いて閲覧している状態であることを確認の上、契約の概要を説明する手順に進むものとすることを政省令に明記すべきである。
⑹ 同⑹関係
  書面交付義務の電子化により、事業者は契約管理の効率化等の点で利便性を得る一方で、消費者には、電子データの文字が小さくて読み取りが困難である、適切に保存できておらず削除されてしまった、必要なときに必要なデータに迅速にアクセスすることが困難である等の不利益を被ることが少なくないと考えられる。
  そこで、事業者に対し、契約書面等の交付に代えて電子データにより提供した場合、消費者から電子データの再提供を請求されたときは、再提供に応じる義務を課すべきである。なお、この点は、契約内容の確認等も目的とするものであるから、電子データの再提供はクーリング・オフ期間とは連動しないものとすべきである。事業者にとっては、書面の再交付に比べ費用面でも手続面でもそれほどの負担とはならないと考えられる。
⑺ 同⑺関係
  事業者が書面交付義務の電子化を実施する場合、契約締結時の契約条項の電子データと、後日事業者が契約条件を変更した場合の契約内容との対応関係が不明確になるおそれがある。
  そこで、書面交付義務の電子化を実施する事業者に対し、契約者ごとに契約締結時の電子データについて、改ざんが生じないような対策を講じて保存する措置をとる義務を課すべきである。
4 小括
 前述のとおり、契約書面等は、クーリング・オフ制度の不可欠な前提をなす重要な書類である。
  しかし、契約書面等が書面で交付されている現在においてさえ、契約書面等がそのように重要な書類であることは必ずしも深く認識されていない。消費生活相談や法律相談の現場において、契約書面等に、消費者の重要な権利を制限する条項が記載されているにもかかわらず、そのことが事業者から説明されておらず、消費者がその条項の存在を認識していないということが判明するケースは枚挙に暇がない。中には、そのような状況が悪質事業者によって悪用されていると思しき事態もしばしば見受けられてきた。
  このような状況下で、契約書面等が電子化された場合には、より一層、その傾向が強まるおそれがある。近時の例としても、詐欺的な定期購入商法においては、消費者が最初に閲覧するウェブサイト上で「初回無料」や「お試し」、「いつでも解約可能」といった表示が強調されていることで、契約条項内に記載されている定期購入である旨や解約に関して子細な条件がある旨の記載が認識されておらず、解約を巡ってトラブルになる例が多数確認されている。デジタル社会が形成されていくとしても、消費者が安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与するものでなければならないのであって、消費者保護機能を否定するものであってはならない。
  そこで、電子化の承諾の場面においても、契約書面等の重要性が看過され、消費者の真意に基づかない電子化への承諾がされないよう、消費者の権利を保障する施策が講じられることが不可欠である。
第3 結語
 以上のとおり、消費者保護、ひいては市民の経済活動の安心を担保する観点から、特定商取引法等の書面の電子化に関する主務省令において適正な措置を講じることを求める。
2022年(令和4年)6月1日
                       福岡県弁護士会
                          会長 野田部 哲也

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