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2007年6月 の投稿

会長就任のご挨拶

カテゴリー:会長日記

                          会長 福 島 康 夫(30期)
1.  2007(平成19)年度の会長として当会の運営をになうことになりました。よろしくお願い致します。
3月26日から新執行部の挨拶回りをしています。その中で,私自身あらためて裁判員制度を成功させるためには取調べの可視化を実現しなければならないという実感を持ちました。
今のままの刑事裁判だと,裁判員の前で延々と取り調べ状況について警察官,検察官,被告人を尋問することになります。安価でビデオ装置を導入できるのに,無意味ともいえる審理を続けて長期間裁判員を拘束することは裁判員となって参加される市民の皆さんに対して失礼ではないかとさえ思うようになりました。検察庁はようやく自己の判断で都合のいい部分だけを録画することを試験的に実施し始めました。しかし,都合の良い部分だけの録画では冤罪はなくなりません。鹿児島の志布志事件や北方事件が良い例です。裁判員制度が実施される前に取調べの可視化を実現させましょう。
2.  また昨年10月に法テラスが業務を開始し,半年が経過しました。一方では弁護の自主独立を保ちながら,他方で緊密な連携関係をどのように構築していくのか,具体的運用面も含めて早急に明確にする必要があります。法テラスが業務をしていても中心となって活動するのは私達弁護士であり,誰が助けてくれるわけでもありません。
全国に先駆けて当番弁護士制度を創設した当会としては被疑者国選弁護制度を何としてでも成功させなければなりません。皆さんの更なるご協力をお願い致します。
3.  今年から法曹の大量増員問題が始まります。今年は修習修了者が2500人にも達します。このような中で最もタイムリーなシンポが福岡で開催されることになっています。
 来る6月22日(金)に「市民のための弁護士をめざしてーいま弁護士・弁護士会に求められるものー」というテーマでシーホークホテルで開催されます。
 過去,日弁連のシンポには大きな歴史的な転換点となったシンポがありました。前回の1992(平成4)年の福岡での司法シンポは司法改革の大きな転換点となる歴史的なシンポになりました。今回の福岡での司法シンポも歴史的な転換点になるものと確信しています。今回のシンポが法曹の大量増員問題を見据えた問題提起です。
 今回のシンポは弁護士の大量増員問題の基本的な認識を共通にするという意義を有しています。皆さんの司法シンポへの積極的な参加をお願い致します。
4.  ところで,2006(平成18年)度,当会では多重債務者の救済は人権救済だという観点から法律相談センターにおける多重債務者の法律相談を無料化することを決定しました。そして,4月1日から福岡,飯塚で先行して無料化を実施することになりました(北九州,筑後は準備が出来次第追って実施するということになっています)。
 多重 債務が原因での自殺者が年間8000人と言われており,今後ますます社会問 題化する様相を呈しています。私は2007年(平成19年)度は会をあげてこの多重債務者問題の解決にあたらなければならないと思います。なお,法律相談センターの財務状況については執行部として十分に注視していくことにしており,今後,逐次ご報告をしたいと思っています。
5 今年は選挙が目白押しの状況です。政治情勢がどうなっていくのか私達弁護士会の活動にも大きく影響があるかもしれません。この他にもたくさんの問題がありますが,会員の皆さんとの間でなるべく多くの情報の共有化を図ることが最も重要だと思っています。
全力を尽くしますので,よろしくお願い致します。

被害者の参加制度関連法案衆議院可決にあたっての声明

カテゴリー:声明

2007年(平成19年)6月6日
                 
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
 衆議院は、2007年(平成19年)6月1日、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」という)を可決し、参議院に送付した。
 この法案は、裁判員裁判対象事件や業務上過失致死傷等の事件について、裁判所に参加を申し出た被害者やその遺族に対し、公判への出席、情状に関する事項についての証人に対する尋問、被告人質問、証拠調べ終了後の求刑を含む弁論としての意見陳述を認めるものであるが、当会は、この法案の定める犯罪被害者等の刑事手続参加制度(以下「被害者参加制度」という)には、次のような問題があり、その創設に反対するものである。
(1)法廷を報復の場にしてしまい近代刑事司法の基本構造を根底からくつがえすことになる。
  わが国では、検察官が訴訟遂行を独占する仕組みをとっている。これは、犯罪被害者やその遺族(以下「被害者等」という)による私的報復を禁止し国家が加害者を処罰することによって、被害者等と加害者との報復の連鎖を防いで社会秩序の安定を図ろうとするものである。それによって、被害者等は加害者の再報復から守られることにもなる。
  したがって、現行法上、被害者等の意見や処罰感情等は、公益的立場である検察官を通じて理性的に訴訟手続に反映させることが予定されている。
  ところが、今回衆議院で可決された法案は、刑事訴訟手続の場に私的復讐を持ち込み、報復の連鎖を招く危険性が高い。
  このことは、無罪推定原則に基づき裁判官の予断と偏見を可能な限り排除しようとする近代刑事司法の原則にも反することになる。
(2)被告人の防御権の行使を困難にし真実の発見に支障をきたす。
  近代刑事司法は、被告人に十分な防御の機会を保障することによって、真実を発見し適正な量刑を行なおうとするものである。
  ところが、被害者等が被告人と法廷で対峙し被告人が被害者側からの感情も交えた厳しい追及にさらされることになれば、被告人は萎縮してしまい自らの正当な反論もできなくなる可能性がある。
  さらに、被害者等が不意打ち的な訴訟遂行を行うことも予想され、被告人側は、これら全てに対して防御することを余儀なくされ、防御すべき対象、争点の拡大がもたらされる可能性もある。
  このような事態は、被告人の防御活動を著しく困難にし真実の発見と適正な量刑にも支障をきたすことになる。
(3)少年の刑事事件ではさらに深刻な萎縮効果を及ぼし適正手続きに反する事態を生じる。
  上記のような事態は、被告人が、心身ともに成長過程にあって精神的・心理的に未発達な少年の場合には、さらに深刻である。
(4)裁判員制度に悪影響を及ぼすおそれもある。
  以上のような事態は、2009年(平成21年)から実施が予定されている裁判員裁判にも重大な悪影響を及ぼす可能性がある。
  すなわち、被害者等を訴訟に参加させ感情的な訴訟活動を法廷に持ち込めば、市民たる裁判員は目の前の被害者等の感情的な訴訟活動に混乱し、過度に影響を受けて冷静かつ理性的な事実認定が困難になり、かつ、量刑においても過度に重罰化に傾くことは容易に予想される。
 以上のように、被害者参加制度は、刑事裁判に対し、その本質に照らし看過し得ない悪影響を及ぼすものである。そのため、犯罪被害者等の中にも「被告人から落ち度を指摘されたり、その場限りの謝罪を受けたりして被害者が傷つく」「声を上げられない被害者が見落とされる」「法廷が復讐の場になれば憎悪の気持ち、苦しみも増すだけ」などという意見が出されている。
 このように刑事裁判の根幹に関わる重要な制度改革をわずか2週間程度の審議で決定するのはあまりに拙速過ぎ、慎重さを欠いている。
 なお、この法案には3年後に見直すとの条項が盛り込まれはしたが、法案に含まれる根本的な問題は単なる見直しでは解消できるものではない。
 当会は、犯罪被害者等の支援が重要であることを十分に認識し、これまでもそのような活動に取り組んできたし今後も取り組む所存である。しかし、以上のような問題をもった被害者参加制度の創設についてはこれを認めることはできない。
 当会は、本年3月8日に被害者参加制度の創設に反対する会長声明を発したところであるが、今回、衆議院において慎重さを欠いた法案の可決がなされたことは誠に遺憾であり強く抗議する。参議院におかれては、法案の問題性を十分に認識したうえで慎重に審議されるよう求めるものである。

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