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カテゴリー: 会長日記

会長日記

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平成23年度 福岡県弁護士会 会長 吉 村 敏 幸(27期)
1.日比谷公園点描・心字池のカワセミ
今日も日弁会館まで日比谷公園の中を歩いています。
空は快晴、大勢の通勤者たちと足早に歩いていると、ふと、心字池にカワセミがいるという記事が数日前に写真付きで掲載されていたことを思い出し、しばらく目を凝らしますが、探しきれません。望遠レンズを構えた写真家も一人いました。
木立ちの中を歩くと、テニスコートでは早朝からすべての面が埋まっていて、練習やら試合やらをしています。一見してかなりの高齢者のダブルス試合を見ていると、ワンバウンドではなくてツーバウンドで返球していてゲームを続行しています。「なるほど。これはいい」。
樹々の下はカラスや鳥の糞がたくさん落ちているので、少し避けて歩きます。修習生のころの春に、噴水の横のベンチで眠ってしまったことを憶い出し、あれから40年にもなるかと思って、一気に老けてしまいました。
2.義捐金と絆の感動
昨年の漢字はきずな「絆」。(誰がこんなことを始めたのかしらん、と思います)
遅々として進まない復旧復興支援策を見るにつけ、絆が色あせて見えます。
我が福岡県弁護士会は昨年12月に、東弁の学資金募金に共催の形で当時の震災義捐金の残額422万円余を全額送金していました。口座はゼロになっていました。その後、新1年生は卒業まで学資募金が続かないために募金の継続をお願いしたところ、なんと今年に入り、1月中旬までに85万円余の義捐金が大勢の会員から入金されていました。
これはまさに、絆の感動です。これで高校1年生の学資期間の延長が可能となります。福岡の会員は凄いです。また、私たちのチラシや月報の記事にきちんと目を通していただいていることに感謝いたします。
3.新執行部の立候補
平成24年度の新執行部の方々の立候補が出揃ったようです。
今の会務は相当にハードであって、質・量ともに私が副会長をしていた平成7年とは、今昔の感があります。
日弁連は国の各行政分野の事案ごとに対応委員会が課題を検討する体制づくりをしていると聞いたことがあります。したがって、日弁連の本部と各種委員会は大変に大きな組織となっています。そこから各地の単位会や関連委員会あて意見照会がなされます。ですから、いわゆる人権族、業務族、消費者族等の○○族という専門家がいなければ充分対応できないことが多いのです(ただし逆に専門家は専門家であり過ぎるための弱点を抱える場合もあります)。
したがって、県弁会長、副会長、事務局長はこれら○○族がバランスよく構成されていれば申し分ありません。とはいっても、執行部は全くのボランティアであり、負担が重いので、なかなかなり手がいませんから、ぜいたくも言えません。不得手な分野や知識不足の部分は色々と勉強し、教えをいただきながら協力し合って乗り越えていかざるを得ません。しかし、同時に執行部が慣れ合いで重要なテーマについてあまり議論を尽くさないままに常議員会に議題を上程すると、疑問や意見が百出し、恥を露呈することになります。ですから、執行部会議の中で厳しい意見のやり取りは本来大いに歓迎されるところです。私たちは当初そのように臨んだのですが、毎回の執行部会議は議題が大変多くて充分ディスカッションの時間が取れなかったことが残念でした。次年度の会長、副会長、事務局長ら名前が挙がっている方々はいずれも熱心に会務をこなしてきておられた方たちばかりで、しかも論客揃いです。困難な議題が山積している中で、多くの会員の意見を取りまとめ、当会丸の誤りなき舵取りがなされることが期待されます。昨年、私の不徳の致すところで、副会長や事務局長のなり手がないために、いろいろと苦労したことを思い出しました。執行部の先生方には大変感謝しています。
4.君が代、日の丸訴訟事件の停職・減給処分について−自由な風を−
最高裁判所(第1小法廷・金築誠志裁判長)は平成24年1月16日、国歌の起立斉唱命令に従わず、東京都教育委員会から懲戒処分を受けた公立校の教員らが都に処分取消と損害賠償を求めた事件の上告審判決で、戒告処分は妥当とする一方、過去数回の不起立のみで停職・減給とするのは処分による不利益の大きさを考慮すると重すぎて違法との判断を初めて示し、停職1か月(61歳女性)、減給1か月・10分の1(61歳女性)の処分を取り消しました。
これについて弁護士出身の宮川光治裁判官は「不起立は不作為に過ぎず戒告でも重すぎる」との意見を述べ、行政官出身の桜井龍子裁判官は「都による加重処分の機械的適用は問題」との補足意見を述べたとの報道です。
昨年相次いだ君が代、日の丸訴訟事件においては、起立斉唱命令が「特定の思想を強要するものではない」として最判は合憲判断を示しており、その流れの中で大阪府議会は分限免職規定を含む条例案を準備しているとの報道があるだけに、私としては今後の流れに重大な関心を寄せていました。東京都では管理職が教員の口元に耳を寄せて、君が代斉唱の際にどの程度の声量を出しているのか、あるいは「口パク」だけではないか、などのけん責までしているとの報道を見るにつけ、思想統制の「いつか来た道」に危惧を抱いていました。ですから、やっとスタート台に立つことができたという思いと同時に、今後の司法に幾ばくかの期待を抱くことができて、嬉しく思いました。
5.当面の課題
1)インターネット上の情報流出について−再チェックを要請します。
  東弁の北千住パブリック法律事務所が作った弁護団情報がインターネットを通じて第三者に流出していた件について、日弁連から各会員あて再チェックおよび流出しないよう対策を講じていただきたい旨の要請がなされました。各会員および事務局の方々は点検をお願いします。
2)新年早々、福岡県選出の全国会議員あて、弁政連を通じて、①給費制実現の運動、②少年身柄事件全件国選付添人実現に向けての取り組みとして、平成24年2月4日福岡シンポ、平成24年3月10日北九州シンポへの参加および支援の要請、③東日本大震災等被災者に対する法的支援活動のため、法テラスの資力要件撤廃を求める特別措置法制定の取組みの要請、をお願いしました。そのほか、旧スパイ防止法と実質的に同視されるものとして秘密保全法も国会へ上程される恐れがあり、反対の運動に取り組む必要が出てきます。
  これらについても、皆様のご支援とご理解をお願いします。

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平成23年度福岡県弁護士会 会 長 吉 村 敏 幸(27期)
1.新年あけましておめでとうございます。
昨年の私たち執行部活動の中心課題は、何といっても、給費制実現の運動と、発足直前に発生した3.11東日本大震災と原発事故の復興支援対策です。この二つが一番大きく心にのしかかっていました。震災問題は、被災者復興支援対策本部において何度も法律問題の研修を繰り返し、相談と応援の体制づくりを行ない、また義捐金を募集しました。金額は早い期間で1,000万円を超えました。このうち東北三県(岩手、宮城、福島)の各単位会に各200万円ずつ送金し、残422万円余を震災で父親や母親を亡くした高校生140名の学資として一人当たり毎月15,000円を送ることにしました。これは、東京弁護士会が当初40名程度を考えて高校生の選定にあたったものの140名もの応募があったため、全員を救済することとし、改めて会員に追加の募金をお願いしていたものです。当会は東弁の企画に共催の形で支援することになりました。これにより、高校1年生、2年生の学資金の支給期間が当初予定されていた平成24年8月から大幅に延長可能となったとのことでした。子ども達のお礼の言葉を次に記します。
☆(ご本人からの手紙)
私は今回の特別義援金支給決定をうけ本当に感謝しています。これから高校生活を始めるにあたり一生懸命に勉強、部活に打ち込み、高校生活を有意義なものにしていきたいと思っています。今回の義援金支給の決定ありがとうございました。
☆(ご本人からの手紙)
この度は義援金を支給していただくことになり、誠にありがとうございます。今はとても大変な時ですが、日々勉強に励んでいきたいと思います。本当にありがとうございます。
☆(ご本人からの手紙)
特別義援金の支給、ありがとうございます。今回の震災で家族4人が津波に流され亡くなりました。父、姉、祖父、祖母です。家族が一度にいなくなり、悲しい、寂しい毎日ですが、母と妹と3人で仲よく暮らしています。将来、看護師を目指して勉強中です。家計の不安もあり、少しでも母の助けになればとアルバイトを始めました。今回、義援金を給付いただけることになり、うれしく思っています。本当にありがとうございました。
☆(ご本人からの手紙)
この度は義援金を支給いただきまして、ありがとうございました。私は母親と二人暮らしで生活していました。この震災で母親が亡くなり、一人になってしまいました。でも今は、祖父母の家で叔母と一緒に暮らしています。叔母は会社から解雇になってしまい、生活面で困っていました。このような支援をして頂きまして、すごく助かり感謝しています。本当にありがとうございました。
☆(ご本人の叔母様からの手紙)
このたびは色々とご配慮いただき、大変ありがとうございました。○○(本人・姪)になり代わりまして、お礼申し上げます。震災後は体調を崩すこともありましたが、現在は毎日、部活動の吹奏楽にいっしょけんめい取り組んでおります。家庭環境も変わり心理的にも困難な状況の中でも、前向きに努力する姿に、私どもも微力ながら協力していこうと考えております。
東弁でも引き続き募金を継続して、できるだけ期間の延長をはかろうとしています。福岡県弁としてもこれを機会に改めて募金のお願いをし、親を亡くした東北の子ども達を支援していきたいと考えています。皆様の募金をよろしくお願いします。
被災者を中心とする法律相談については、会内の相談センターでの体制づくりをしてきましたが、平成23年4月以降、12月18日の集中相談研修までに22件となっています。他方、被災地への応援については現地からの要請はありませんが、東京三会が中心となって行なっている原発問題支援機構が福島県等における訪問相談チームを編成して被災地に出向いています。しかしながら到底弁護士の人手が足りないことから、西日本地区からの応援を求めているとのことでした。現在、対策本部に検討をお願いしているところです。
2.残り3か月の課題
私たちに残された課題はたくさんありますが、とりあえず次の諸事項を掲げます。人権、司法制度、会内問題、業務問題です。
①給費制実現へ向けた運動の拡大
②法曹人口問題についての当会の方針の策定
③少年身柄事件全件国選化へ向けた運動の展開
④被疑者国選拡大(全件化)の運動
⑤原発賠償問題へのバックアップ出張体制の実現
⑥自死問題についてのネットワークの構築
⑦共済制度の具体化
⑧リーガルサービス基金の期間延長
⑨県弁会計システムの変更
⑩消費者事件のアクセスルート構築
⑪国際取引PTの今年度のまとめ
⑫福岡・釜山フォーラムの日韓海峡圏における取引障害事例の研究着手
⑬福岡市医師会とのパートナーシップ活動の具体化
⑭法律相談センターの充実のために(チケット制等の一層の拡大へ向けて)
もちろん、上記以外にもたくさんの課題があることは承知していますが、各委員会の皆様とともに網羅的に取り組みたいと思っています。
3.矛盾のなかの合意
日弁連の法曹人口政策会議は先鋭な意見の対立する場です。私たち各単位会の会長は当然委員になっており、各単位会の意見を反映できるような建付けになっています。現状は約2000人の司法試験合格者のところ、裁判官、検事の任官者採用者数は全く伸びておらず、当初の司法制度改革審議会意見書は前提事項(司法基盤の整備、法的需要など)が達成されないまま、弁護士数のみが増加する最悪の事態となっています。そのような中で、司法試験受験者の質の低下、弁護士登録しても就職できない新人の激増、法科大学院を目指す若者の激減などから、新人弁護士の逼迫感も高まっています。ここで、日弁連の法曹人口政策会議では、司法試験合格者の数を1500人や1000人へと減少させるべきとする意見が表明され、また、これまでに各単位会や日弁連の決議・声明が相次いで出されました。私は、現状の2000人合格者を段階的に1500人減員とする案を「已む無し」論として、個人的に意見表明しました。しかし、合格者1000人説の人たちの強い反発もあり、今後の行方は予断を許しません。私としては、現状2000人合格者を1000人あるいは1500人のいずれかとして打ち出すのは、数の面において両立し得ない質的相違であると考えます。しかし、減少する方向は一致しているのですから、このような矛盾的見解においてこれを許容する論理を承認したうえで、まずは1500人説を採用して、ここからの運動を創造することが大事だと思いました。しかし、1000人説の方々の舌鋒は鋭く、困難を極める状況です。それでも、3月末までにはきちんと日弁連の意見集約、すなわち矛盾のなかの合意をはかることができるように努力したいと思います。
4.大いなる夢と希望を抱いて
今年一年、辰歳がスタートしました。
弁護士の将来には魅力を感じないとする声もあります。しかし、弁護士とは本来、職人的なものであると思います。労を惜しまず、現場に出て活動すると、必ず何かが見つかります。そして、自分を必要とする人たちの力になることができますし、引いてはその活動の延長で制度や法律を変えることができます。弁護士の公益性・公共性です。
これらの信念を固く信じ、大いなる夢と希望を抱いて、この一年も努力していきたいと思います。

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平成23年度福岡県弁護士会 会 長 吉 村 敏 幸(27期)
1.1か月毎に会長日記の原稿の催促が来ます。
会長日記だから多少の私事は許されるものと思って冒頭記述しますが、さりとて、当然ながら中心は会務報告となります。
ということで、改めて私事です。
東京からの帰りの読み物は、思想・評論的なものよりも、軽い物語が多くなります。
当会のホームページには「弁護士会の読書」コーナーが開設され「霧山昴」氏の多彩な読書感想文がほとんど毎日のように更新されています。驚くべき速読です。
私は遅読派です。どんな本が好きかと思い返してみると、ファンタジー系でした。最近ではやはりハリー・ポッターシリーズ。上橋奈緒子の「守り人」シリーズ、「獣の奏者」。早逝した景山民夫が20年ほど前に出した「遠い海から来たcoo」も好きな小説でした。ですから、映画も「スターウォーズ」シリーズが最高でした。ファンタジーは子どものころの夢がふくらんで来るような気がします。
2.1)弁護士・弁護士会の夢と希望−新会館に託して
新会館用地取得の臨時総会で、新しい弁護士会館は会員に対してどのような夢を与えてくれますか、との質問が提起されました。夢と希望は抱き続けなければ将来への期待はあり得ません。私は会員だけではなく色々な人々が集う求心力としての広場(フォーラム)、交流空間が新会館に具わると期待しています。
今日のように文化が成熟し、価値観が多様化すると、多くの人が多様な意見をもち、個人主義的傾向が強くなります。しかし、同時に人間として現実社会において寄り添い、集合を求める面も多く期待されます。それを実現する場所が必要です。臨時総会の意見の中には、極論すると、会館のような建物はいらない、インターネット上の会議で充分こなせる、との趣旨の発言もありました。確かに、インターネットによって創造された社会が既に仮想社会という表現を超越するものであることはジャスミン革命の成功によって証明されましたが、ジャスミン革命の成功の可否は、最後は人々が現実に集合し得たか否かにかかっていたと思われます。やはり、現実の社会において何かしらを実現するためには、多様な人々を糾合し、力を溜める場所が大事だと思います。
2)弁護士会の執行部に入り、当会や日弁連の活動を知ると、その活動の多彩さと一般市民から寄せられる期待の大きさと拡がりを知ります。新会館は一般市民のたくさんのNPO活動の情報を集約し、かつ、これを充実拡大させる中心基地としての機能を持たせることも可能とすることが考えられます。私たちが人権に関する交流の空間を創造することも可能となります。福岡県弁護士会にはそれを成し遂げるだけの魅力ある人材が揃っています。
3)私たち弁護士と弁護士会は過去、無人の荒野に残されていた多くの障害を人権・公害環境課題として取り組み、克服してき、またこれらを自らの業務分野として取り組んできました。かつては弁護士の独自の業務分野と認めるには希薄であった数々の依頼事件が、今や弁護士業務として定着しつつあります。多くの消費者事件、中小企業の事業承継、個人の債務整理事件、高齢者等の後見介護事件、家族を巡る様々な事件なども、増加と減少を繰り返しながらも、固有の弁護士業務との認識が定着しつつあります。これからは、海外取引をめぐるコンサル業務、知財、行政にかかる事件、都市問題、個別労働事件、税務・法人設立等も、新規開拓やこれからの需要が見込まれる分野と期待されます。なお、法的需要に関しては、弁護士会という信用力を背景としてアクセスルート(依頼者が弁護士へ辿り着く道筋)を策定し、広報していくことによって産みだされる事柄も多いと考えられますので、これから具体的に協議のうえ、その方策を探っていきたいと思います。前記例示の中には、既にPTとして活動している企画もあり、当会会員の頑張りに期待しています。
4)この月報が出るころには、新会館用地取得の問題については一応の結論が出ていることを期待しています。六本松の旧九大教養部跡地は南側エリアが裁判所、弁護士会、検察(法務)の法曹三者の司法(法曹)ゾーンとして予定されているところです。この弁護士会のエリアは、今購入しなければ、今後の購入や買い増し等は不可能な場所と言われています。私は、六本松は今後劇的に変わるエリアだと思っています。これまでのURとの話し合いで購入可能と考えられる1,000坪を購入し、将来100年先においても、弁護士と一般市民の期待に応えられる広場(フォーラム)としての会館が可能な用地として、今取得すべきと考えています。弁護士会は国民から「基本的人権の擁護と社会正義の実現」の負託を受けて自治権を有しています。この負託に応える機能を新会館に託します。
3.弁護士不祥事
今年度執行部がスタートする直前は、北九州部会の会員が逮捕される事件が発生し、そのために多大の信用が失墜しました。私たち執行部はこれら弁護士の不祥事を未然に防ぐことを最大の課題として取り組んできました。
しかし、とうとう福岡部会のA会員について、会長自ら綱紀委員会に対する懲戒請求(調査開始の申立)せざるを得なくなりました。A会員については、早い時期から色々と接触を図り、市民窓口に対する苦情問題の把握と解決策を探ってきていただけに、大変残念な結果に終わり、慙愧に堪えません。
多くの会員の皆様方は預かり金の分別管理は厳しく励行していただいていることと思いますが、依頼者に対するこまめな報告についても励行をお願いし、依頼者の不安が生じないような努力についても、日々怠ることのないようにお願いします。
4.1年の終わりに
今年も早12月に入り、1年の締めくくりの月がやって来ました。私たち執行部は、あと3か月強の任期となりました。
これからは、今までにやり残した課題を整理して、各委員の皆様とともに実現を目指していきたいと思います。

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平成23年度 会 長
吉 村 敏 幸(27期)
1.ポカ、当会弁護士作家
宮本輝という作家がいます。私とほぼ同時代人であるために、登場する人物の個性や家庭、時代状況が懐かしく憶い出され、好きな作家のひとりです。
泥の河(太宰賞)、蛍川(芥川賞)、優駿(吉川英治賞)と、連続受賞しました。
その後、流転の海という連作物が文庫として出版され、これも文庫化されるのを待って、出版のたびに購入しますが、概ね3年間隔であるため、続刊が出るころには前作を詳しくは憶えておらず、困ります。今回、続刊が出版されたとの新聞広告を見て、高松人権擁護大会への車中の読み物として楽しみに購入しました。博多駅構内の書店には文庫の帯に「新刊」と記してありました。数頁読み進み、前作(第5巻目)のような疑いを抱き、後で確認したところ、続刊は6巻目とのこと、ポカでした。
これだから連続物はやめようと思っていたのに、と悔しい思いを抱きましたが、主人公一家の波乱万丈、清冽な生き方が面白くて、結局また買う破目になります。
小説といえば、当会会員「法坂一広」氏(ペンネーム)作の「懲戒弁護士」が宝島社の「このミステリーがすごい」の今年第1位を受賞しました。「このミス」シリーズというのは、たくさんの読者層を持っているもので、その中の1位は大変に価値あるものです。たとえば、チーム・バチスタの海堂尊も「このミス1位」からです。筑後部会の「剣持鷹士」氏(ペンネーム)も第1回創元推理短編賞を獲得されています。「あきらめのよい相談者」です。
2.タイムチャージ制
今年10月1日から刑事訴訟法廷における「公判時間等連絡メモ」が導入されました。
これは、法テラス対象の国選事件について、裁判の開始時刻、終了時刻を記述し、法テラスに報告するものです。裁判所は、弁護士とは別途、法テラスあて各時刻を報告します。
既に法テラスからお知らせ文書が届いていましたので、ご存知かと思いますが、刑事裁判の費用がタイムチャージ制になったものと理解して、できるだけ正確に記述していただきたいと思います。従来、国選事件は、金銭に関係なく、安い費用でも被告人の権利擁護に尽力すべきと考えられたものでしたが、安い費用はそのままなのに、余計な確認作業だけは増えてメンドウだ、などの愚痴が聞こえてきそうです。
3.弁護士業務とTPP、EPA
TPPとは、Trans-Pacific Partnership(環太平洋戦略的経済連携協定)です。
加盟国間の経済制度(サービス、人の移動、基準認定など)における整合性を図り、貿易関税については例外品目を認めない形の関税撤廃を目指しています。例外がないとすると、この中に弁護士業務等のサービスも入ってくることになりそうです。
10月18日の日弁理事会の冒頭、宇都宮会長報告があり、オーストラリアの関係者からEPAの申し出があり、意見を聞かれたとのことでした。EPA(経済連携協定)とは、物流のみならず、人の移動、知財の保護、投資、競争政策など、様々な協力や幅広い分野での連携と、両国または地域間での親密な関係強化を目指す条約です。具体的な申し入れの内容は、例えばオーストラリア弁護士が日本国内のホテルに90日間滞在して、同所を事業所として弁護士業務を行なうことの認可や、テンポラリーライセンスの取得を認めることなどです。
宇都宮会長の回答は当然「No」(ノー)でした。TPPを受け入れると、あらゆる障壁を撤廃することになるといわれますが、司法制度は国家の基本をなすものですので、弁護士業務がサービス業とはいえ、種々の制度が障壁として撤廃されるなどの事態に至ることは、到底了解できるものではありません。
4.刑務所の老人施設化
人権大会が高松市で開催され、第1分科会「死刑廃止について国民的議論を」の中で、刑罰をどのような視点で捉えるかが議論されました。この点は、応報なのか、更生・教育なのかが、古くから常に議論されています。
この中の浜井浩一龍谷大学教授の話をご紹介します。同氏は法務省出身、矯正施設、保護観察所勤務、法務総合研究所研究官、国連犯罪司法研究所研究員などを歴任。同氏によると「犯罪は従来、若年・壮年世代層が最も多いが、我国は少子高齢化に伴い高齢者層の犯罪者が増加している。本来は社会福祉の面からケアされれば犯罪にしないでもよい事柄が犯罪として立件され、刑務所でメンドウを見なければならなくなってくる。刑務所は福祉施設のようにノーとは言えないところであって、老人施設となっている。刑事政策は社会政策であり、社会福祉と係る事柄である」とのお話です。
これから寒い季節を迎えると、軽微犯罪を起こして刑務所を目指すお年寄りが増えてくるでしょう。地域生活定着支援センターが各地に設置されていますので、高齢者の生活支援を求めていく必要があると思います。
また、エリスキルスセン教授は、ノルウェー刑務所の解放処遇政策の成功をお話しされ、憎しみよりも融和を目指そうということを強調されていました。
5.福岡−釜山フォーラム
9月2日〜3日と2日に亘って、第6回福岡−釜山フォーラムが開催されました。
福岡県弁護士会と釜山地方弁護士会が今回から新たにメンバーとして加わり、福岡で開催されたものです。これは、日韓海峡圏の将来像を模索する、として成長戦略を語るものです。今回は、東日本大震災・原発事故が日韓に与えた影響を中心に意見交換がなされました。詳しくは、松井副会長の報告に譲ります。
6.給費制の闘いと全件国選付添の要請
給費制の闘いが昨年と同じような展開を辿っています。国会議員には、与野党ともに理解と支援をいただいていますが、お役所の抵抗が強いようです。
しかし、10月18日〜19日と2日間に亘り私たち(市丸信敏、_橋直人、吉村)は、熊本の高島会長、野口九弁連理事長らと粘り強く議員要請活動を続けています。
10月18日は当会の大谷、尾_大会員らとともに議員会館へ、少年身柄事件の全件国選付添人化の要請も行ないました。この問題についても、衆参議員から今後かなりの支援を得られるものとの感触を得ました。

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平成23年度福岡県弁護士会会長日記会 長吉 村 敏 幸(27期)
今月も月報原稿締切に遅れ、日弁理事会の後、東京のホテルで会長日記を書いています。いつの間にか、会長就任後、半年が経とうとしています。
1.原発問題日弁連では震災・原発関係の議論、決議が多く、また現実の東京行動は給費制運動に時間を多く割いています。当会の原発問題としては、弁護士・弁護士会のエネルギー問題として問題提起がなされています。弁護士・弁護士会は、人権、公害、環境等につき、かねてより先駆的活動や少数者の人権擁護活動に取り組み、時代を切り開いてきました。在野にあり、旺盛な批判的精神を発揮してきました。他方、内なる弁護士個々人の人権、環境意識についてはやや弱かった点も認めざるを得ません。皆様は、身近な環境問題について、どのように考えてこられましたか。今、新会館建設にあたって、公害・環境委員会から「脱原発を目指し、環境に配慮した新会館を作っていただきたい」との意見書があげられています。既に日弁連は脱原発へ向けた決議を出していますが、当会としても日弁連と同様に脱原発に向けた環境エネルギー政策への転換を求める以上、自らの環境意識を変えるべきであるということです。そのためには、六本松への移転、新会館建設にあたっては、再生可能エネルギー(自然エネルギー)の利用を可能な限り促進すべきであるとの立場です。九弁連大会決議案として、当初は太陽光発電の設置を求めるとの具体的内容が盛り込まれていましたが、高層の裁判所ビルが南側、法務検察ビルが東側に位置する状態で、低層の当会弁護士会館としては、太陽光発電は効率および費用負担からも現実的ではない、との批判もあり、現時点では具体的内容には入らず、今後、可能な範囲内で環境エネルギーに配慮していくとの努力目標となったものです。内なる環境意識といっても、現実に生活様式を変更することは容易ではありません。私の若いころの理想とする環境・生き方は、脱エネそのものでした。「野原ノ松ノ林ノ蔭ノ小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ」(宮沢賢二「雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ」)、「煙たなびく苫屋こそ我がなつかしき住家なれ」(「われは海の子」文部省唱歌)です。しかし、このような苫屋は田舎の一人暮らしであれば可能であっても、お年寄り、子どもを含めた家族の生活は到底成り立たないのが現実です。都会暮らしの人間にとっては、精々電気をこまめに消すとか、紙を節約するとかの実践しかないのかなと思います。当会の公害・環境委員はKES(環境エネルギー)システムを事務所として取り入れているとの報告もありました。初期費用はかかるとしても、省エネルギー効果が果たせるのであれば、一考に値すると思われます。因みに私は、今年の夏もエアコンなしで就寝しました。エアコンなしの夏の夜は3年目になりました。人間の力では制御不可能な現実を実態として目の前で確認できた今回の福島第一原発事故のこの恐怖感を大事にしていきたいです。
2.新会館の規模、機能、概要について-大阪会館の教訓新会館建設問題については、現在の会費以上の負担は新たに求めないという強い決意で臨むつもりです。大阪弁護士会、広島弁護士会と当会の三会交流会が広島の会館で行なわれました。広島は既に会館を所有していますが、手狭になったために近所の角地を購入して新会館を建設予定とのことでした。大阪弁護士会は平成18年に新会館を建設しました。この時も、賛成派と反対派に分かれて激論が交わされたそうです。反対派は、新会館の規模が大きすぎることを理由としていたということでした。当会の月報6月号23頁、7月号27頁に会員アンケートの結果の記載があり「大阪弁護士会館では現状空き室が多い」との記述があります。この点について福岡から大阪の会長にお尋ねしたところ、中本会長は驚いて「新会館を作るときは、当然反対はあったけれど、今は全員喜んでくれており、さらにこの会館でさえも既に手狭になっているため(研修が年に300回ないし400回)、もう少し大きな会館を作っておくべきだったと言われているくらいです。部屋が余っているとか批判が多いなどの話は全くありませんよ」ということを強く話されました。大阪は平成18年7月に新会館建設、新会館は地下2階、地上14階建て、建築面積2,276.90・、延床面積17,005.29・、建設費約55億5,000万円ということでした。太陽光発電も設置しているとのことです。
3.給費制8月31日に政府の法曹養成フォーラムは給費制を廃して、貸与制移行を打ち出しました。しかしそれ以前の8月23日、民主党の法曹養成に関するPTは、給費制のみを先行して結論付ける点には反対であって、法曹養成に関する全体議論が終了するまでは、給費制を暫定的に存続させる方針を打ち出していました。その後、野田新内閣が発足し、財務、法務、文科の新大臣も新たに決まって、今後の行方も予断を許しません。しかし、当会は引き続き日弁連と一体となって、給費制を勝ち取るまで闘い続ける覚悟でいます。今後は、国会での戦いになります。また法曹養成問題としては、いよいよロースクール問題へと議論が及びつつあります。今後、弁護士会はつらい決断をしなければならないでしょうが、ロースクール生は既にこれまでに、もっとつらい立場におかれ続けてきたということも言えるような気がします。
4.人権プレシンポ・死刑シンポ人権大会プレシンポとして、 9月 5日 死刑シンポ 9月 10日 患者の権利シンポ 9月 17日 生存権シンポが開かれました。いずれのシンポも100名前後の一般市民や会員の参加があり、熱心な討論がなされました。私は九弁連や日弁理事会と重なったため、残念ながら死刑シンポしか出席できませんでした。死刑については、日弁連は平成14年11月に死刑執行停止の理事会決議をしていますが、今回は「死刑廃止について国民的議論を」をテーマに高松市で開催されます。死刑制度は弁護士としても思想、信条にかかわる事柄であって、容易に結論が出せる課題ではありません。諸外国でも死刑廃止決議や死刑執行を事実上停止した時代的背景としては、ほとんどすべての国で死刑賛成派が60%~80%の国民世論でした。それを時の政治家がリーダーシップによって、死刑廃止なり死刑執行停止を断行したということです。国民世論は自然的感情や素朴な正義感から死刑賛成派が多数を形成します。それにも拘わらず国会議員として死刑制度に異を唱えることは、選挙にとってはマイナスにしか働きません。諸外国はそれにも拘らず、なぜ死刑廃止・執行停止を断行できたのか。それにはまず、議論を巻き起こし、次に政治家のリーダーシップにより断行するという諸外国の例にならうことが必要だといわれています。千葉景子元法務大臣は、死刑を執行して議論を巻き起こすという誤ったリーダーシップをとりました。今後の平岡秀夫法務大臣(弁護士/山口県弁護士会所属)は死刑制度について「執行するかしないかだけでなく、制度を国民と一緒に考えたい。国民的な問題提起をどう受け止めるかも考えたい」と述べています。今後の新大臣の言動が注目されます。

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