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カテゴリー: 声明

派遣労働を永続化し,貧困と格差を拡大する労働者派遣法改正に反対する声明

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2014年(平成26年)3月11日,政府は労働者派遣法改正案の閣議決定を行った。政府は今国会で法案を通過させ,2015年(平成27年)4月からの施行を目指しているとされている。
政府の改正案は,2014年(平成26年)1月29日にとりまとめられた厚生労働省労働政策審議会の「労働者派遣制度の改正について(以下,単に「建議」という。)」に基づいて,①政令指定26業務(専門性を理由に派遣期間の制限を受けない業務)の区分を廃止し,②派遣元で無期雇用されている派遣労働者は派遣期間の制限を撤廃し,③派遣元で有期雇用されている派遣労働者は派遣労働者個人単位で上限期間(3年)を設定するが,④派遣先で労働組合等から意見を聴取すれば派遣労働者を入れ替えることで派遣労働を永続的に利用できる,というものである。すなわち,上記建議は,労働者派遣法の根本原則である常用代替防止(派遣労働者をもって直接雇用労働者に代替させてはならない)の理念を放棄し,あらゆる業務・業種において使用者が永続的に派遣労働者を利用できるようにするものである。
そもそも,わが国の戦後労働法制の原則は,職業安定法が労働者供給事業の禁止を明定し,労働基準法が中間搾取を禁止していることからも明らかなとおり,使用者は労働者を直接雇用すべしとすることにある。これは,間接雇用が労働者の立場を不安定なものとさせ,中間搾取が低賃金等の無権利状態を蔓延させた痛苦の経験に基づいている。そのため,1985年(昭和60年)に制定された労働者派遣法は,これまで政令指定26業務以外の業務については,派遣可能な上限期間を設け,上限期間に達した場合はそれ以降の派遣労働の利用を禁止する等して,常用代替防止の理念を堅持し,その後,不十分ながらも派遣労働者保護の規定も追加されてきた。
しかしながら,上記建議は,全ての業務・業種において,常用代替防止の理念を放棄し,派遣労働者に対し何らの保護規定も設けないまま,大量の不安定で低賃金の労働者を市場に出現させることとなる点で到底容認できないものである。
1999年(平成11年)に労働者派遣法が自由化されて以降,貧困と格差が拡大してきた経緯に鑑みれば,本改正が今後のわが国の労働市場に押し及ぼす災禍は明らかであるというほかない。
当会は,常用代替防止の理念を放棄し,派遣労働を永続化し,格差と貧困を拡大する上記建議に基づく労働者派遣法の改正に強く反対するものである。

以上
2014年(平成26年)年3月27日
福岡県弁護士会会長 橋 本 千 尋

死刑執行に関する会長声明

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1 本日、東京拘置所及び大阪拘置所において、それぞれ1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
  2013年(平成25年)9月12日の1名の死刑執行後、わずか3ヶ月での死刑執行であり、本年においては2月21日、4月26日、9月12日に次ぎ4回、8人の死刑執行となる。
2 いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件という4つの死刑確定事件における再審無罪、いわゆる足利事件、布川事件における無期懲役刑確定事件の再審無罪判決が示すとおり、死刑判決を含む重大事件において誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
のみならず、日本弁護士連合会の2011年(平成23年)10月7日のシンポジウムの宣言でも述べたとおり、死刑はかけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え、更生と社会復帰の観点から見たとき、罪を犯したと認定された人が更生し社会復帰する可能性を完全に奪うという根本的問題を内包している。さらに、我が国では、死刑に直面している者に対し、被疑者・被告人段階あるいは再審請求の段階に至るまで十分な弁護権、防御権が保障されておらず、執行の段階でも死刑確定者の人権保障の面で多くの問題を抱えている。そして、死刑は人の生命を確実に奪い生命に対する権利を侵害するもので、いかなる執行方法であっても、その残虐性は否定できない。であるからこそ、死刑の廃止は国際的な揺るぎない潮流となっているのである。
3 今回死刑執行された死刑確定者のうち大阪拘置所において執行された死刑確定者は一審から上告審まで殺意を争っていたもので、2012年(平成24年)6月の死刑確定からわずか1年半での死刑執行である。また東京拘置所において執行された死刑確定者も幼少期の虐待が事件の背景事情として存在することから死刑という量刑に争いがあり、再審請求を繰り返していたものである。先に述べた宣言で指摘した問題点が如実に表れている事案であって、正に死刑の是非が問われるべきものである。
4 日本弁護士連合会は、2013年(平成25年)2月12日、谷垣法務大臣に対し、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を直ちに講じることを求める要望書」を提出して、死刑制度に関する当面の検討課題について国民的議論を行うための有識者会議を設置し、死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し、死刑制度に関する世界の情勢について調査のうえ、調査結果と議論に基づき、今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと、そのような議論が尽くされるまでの間、死刑の執行を停止することを求めた。2013年(平成25年)2月21日の死刑執行はこの直後に行われたものであった。
今回も、日本弁護士連合会が、死刑制度に関する政府の世論調査の結果について、政府の評価は死刑支持者の割合を過大に表示しており、死刑制度の関する国民の意識について誤解を与える物であるとする「死刑制度に関する政府の世論調査に対する意見書」を2013年(平成25年)12月4日に安倍晋三内閣総理大臣に同月11日に谷垣禎一法務大事に提出した直後に死刑の執行が行われている。
日弁連及び当会は、死刑執行に強く抗議するとともに、一切の死刑執行を停止するよう求めていたのであり、この要請を再度無視した今回の執行は到底容認できない。
5 当会としては改めて政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに、今後、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ、それに基づいた施策が実施されるまで、一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
                    2013年(平成25年)12月12日
                    福岡県弁護士会会長 橋 本 千 尋

特定秘密保護法成立に抗議し同法の廃止を求める会長声明

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2013年(平成25年)12月6日、特定秘密保護法が衆議院、参議院ともに強行採決という形で成立した。
 同法に関し、当会は、従前から(本年10月11日付、同12月3日付の会長声明)、特定秘密の対象範囲が広範かつ不明確であること、指定権者による恣意的運用のおそれがあること、国政調査権やマスコミの取材活動を制限し萎縮させるものであること、広く一般国民まで処罰される可能性があること等々のこの法律が内包する多くの問題点から、国民の知る権利を侵害し、国民主権原理に反するものであるとして、その成立に反対してきた。
同法の成立過程は、政府が唐突に法案提出を表明したことに始まり、募集期間僅か2週間のパブリックコメント、形ばかりの公聴会、国民に不透明な与野党間での修正協議、臨時国会の限られた会期での不十分な国会審議と不整合な政府答弁など、およそ適正な手続きや十分な説明と意見交換という民主主義的プロセスを踏まないものであった。これにより、今後の我が国の国民主権や民主主義などの憲法秩序の維持に関し重大なる危機感を持たざるを得ない。
 当会としては、同法が存続する限り、その廃止を求め、その実現に向けての活動を継続していくとともに、その過程においても国民生活全般の萎縮をもたらさないよう同法の濫用を厳しく監視し、同法による人権侵害が甚だしい場面である同法違反の刑事事件について基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命にかけて全力で取り組むことを声明するものである。
  2013年(平成25年)12月12日
                        福岡県弁護士会
                          会長  橋 本 千 尋

特定秘密保護法案に関する会長声明

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2013年(平成25年)11月26日、衆議院で特定秘密保護法案の採決が強行され、現在参議院で審議中である。
同法案は、特定秘密の対象範囲が広範かつ不明確であること、指定権者による恣意的運用を防止する制度がないことなどから、国民の知る権利を侵害し、国民主権原理に反しており、廃案にされるべきことは、当会においても、本年10月11日付の会長声明にて意見表明を行ってきたところである。
しかし、衆議院での4党による修正を経てもその危険性は何ら減じられておらず、かえって、国会審議を通じて、以下のような問題点がさらに明らかとなった。
1 立法事実の不存在
森まさこ担当大臣によると、過去15年間における公務員による主要な情報漏えい事件は5件で、本法案の特定秘密に該当するものは中国潜水艦の動向にかかる事件1件のみである(2013年(平成25年)11月14日衆議院国家安全保障に関する特別委員会答弁)。
しかも、この事件は不起訴処分となっており、重罰を科す法案の根拠とはなり得ない。
2 取材の自由の侵害のおそれ
公務員から記者へ秘密の提供がなされ、記者の行為は違法ではなく公務員の行為のみが違法と評価されるケースで、提供を受けた記者が捜索を受けることがあり得るかという問題点について、森担当大臣は、「ない。」と答弁したが、谷垣禎一法務大臣は、「一概に言えない。博多駅事件の最高裁判例の趣旨を尊重する。」と答弁し(前掲衆議院特別委員会答弁)、被疑者としての立場に立たない場合においても記者が捜索を受ける可能性を認めており、取材の自由が侵害されるおそれがある。
3 刑事裁判との関係
秘密保護法違反の刑事裁判において、裁判所が証拠開示を命じなかった場合、被告人、弁護人には秘密とされた情報の内容すら知らされず(2013年(平成25年)11月11日衆議院特別委員会答弁)、被告人は自己の行為の何が罪に問われているかも分からないまま有罪とされるおそれがある。
そもそも、国民主権の下では、国の保有する情報は主権者である国民に公開されるべきことが大原則である。それにもかかわらず、本特定秘密保護法案は、情報を秘密にし、国民の目から隠すことのみを重視するあまり、国民主権を形骸化しかねない内容となっている。多数の国民が危惧感を抱き、かかる法案に反対しているのも当然である。
当会は、特定秘密保護法案について、良識の府である参議院において十分な審議を尽くし、当会の示す懸念が払拭されないのであれば、今国会における採決を強行せず、廃案にするよう強く求めるものである。
2013年(平成25年)12月3日
福岡県弁護士会
会長  橋 本 千 尋

衆議院選挙無効訴訟に関する最高裁判決についての会長声明

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2013年(平成25年)11月20日、最高裁判所は、昨年12月16日に施行された衆議院議員総選挙についての選挙無効訴訟において、「本件選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあった」としながら、「憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえ」ないとして、「本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない」とする判決を言い渡した。
この最高裁判決の原審は、全国14の高等裁判所と支部に提訴されていた16件の訴訟である。16件のうち14件の高裁判決が違憲とし、うち2件は選挙無効をも言い渡した。本年3月18日の福岡高裁判決は、議員定数のいわゆる「0増5減」について、「十分なものといえないことは明らかである」としていた。
これに先立ち、最高裁判所は、2011年(平成23年)3月23日、2009年(平成21年)の衆議院総選挙について、「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた」、「投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要がある」と判決していた。
  この2011年(平成23年)の判決から2012年(平成24年)の衆議院総選挙までには1年9か月が経過しており、国会が是正措置を講ずるための時間は十分にあった。ところが、国会は、議員定数を「0増5減」し、その適用は次回の総選挙からとすることを定めたにとどまった。人口比例部分とは別に各都道府県に議員定数1を配分する1人別枠方式については、根拠規定こそ廃止されたものの、同方式を前提とする定数配分は抜本的に見直されることもなく、 2012年(平成24年)の総選挙時はもとより、現在もまだ維持されている。
そのため、2012年(平成24年)総選挙は2009年(平成21年)の総選挙と同様の選挙区割りで施行され、投票価値の最大格差が拡大し、「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態」がより深刻化していた。
このような国会の怠慢ともいうべき事実経過を踏まえれば、最高裁判所は今回の判決において、2011年(平成23年)3月23日の判決よりも踏み込んだ違憲判断を示すべきであったにもかかわらず、立法裁量を過度に尊重した不十分な判断にとどまった。
そもそも、議員1人あたりの選挙人の人数が均等であるべきという投票価値の平等は、法の下の平等(憲法14条1項)、選挙人資格の平等(憲法44条)を定める憲法の要請である。このような投票価値の平等が侵害されたときには、「国権の最高機関」(憲法41条)である国会は国民の意思を的確に反映することができず、議会制民主主義ひいては国民主権がゆがめられてしまう。
  これを正すことは、唯一、違憲立法審査権(憲法81条)を有する裁判所にしかなし得ない。今回の最高裁判決は、このような裁判所の職責を果たしたものとは認められない。
  今回の最高裁判決によって、投票価値の平等を実現すべき国会の取組の停滞が許されるはずもない。
当会は、裁判所に対して積極的に憲法保障の機関としての職責を果たすことを求めるとともに、国会に対し速やかに衆議院議員総選挙における投票価値の平等を実現するための抜本的措置をとることを改めて強く求める。

2013年(平成25年)11月26日
福岡県弁護士会
    
会長  橋 本 千 尋

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