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カテゴリー: 意見

事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)の一部改正(案)に対する意見書

カテゴリー:意見

金融庁監督局総務課金融会社室 御中
2005年9月1日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
金融庁が本年8月12日付けで公表し、意見募集を行っている「貸金業関係の事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正について、当会は次のとおり意見を述べる。\n
(1)貸金業者の取引履歴開示義務の明確化
事務ガイドライン3-2-2において、貸金業の規制等に関する法律第13条第2項で禁止されている「偽りその他不正又は著しく不当な手段」に該当するおそれが大きい行為の事例を列挙しているところであるが、これに、顧客等の弁済計画の策定、債務整理その他の正当な理由に基づく取引履歴の開示請求に対してこれを拒否すること、を加える。

〔意見の趣旨〕
「貸金業者に取引履歴の開示義務があり、正当な理由に基づく開示請求を拒否した場合には行政処分の対象となり得ることを明確化する」との改正の趣旨には賛成する。
〔理由〕
本年7月19日、最高裁判所は、貸金業者が「貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として、信義則上、保存している業務帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う」、との判断を示した(最高裁判所第三小法廷平成17年7月19日判決)。
このたび速やかにガイドラインを改正して貸金業者の取引履歴開示義務を明確化することは、まことに時宜に適った措置である。
ただし、上記の最高裁判決は、債務者が債務内容を正確に把握出来ない場合には、「弁済計画を立てることが困難になったり、過払金があるのにその返還を請求できないばかりか、更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど、大きな不利益を被る」ことなどに鑑みて、取引履歴開示義務が存在するとの結論を導いている。
そうである以上、一部改正(案)のうち、事務ガイドライン3−2−2にいう取引履歴開示請求の「正当な理由」として「弁済計画の策定、債務整理」だけを例示し、「過払金の返還請求」について殊更に言及を避けているのは、不適切である。「過払金の返還請求」は,上記最高裁判所判決からも、取引履歴開示請求の正当理由のうちに含まれることは明かであり,これを明記すべきである。
(2)取引履歴開示請求の際の本人確認手続きの明確化
取引履歴の開示を求められた際の本人確認の方法として十分かつ適切であると考えられるものとして以下を例示する。\n1、顧客等自身が開示請求をする場合であって、金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律(以下「本人確認法」という。)に規定する方法による場合
2、顧客等の代理人が開示請求をする場合であって、以下イ〜ハの書類の全てを提示する場合
(イ)顧客等の本人確認のための書類(本人確認法施行規則に規定する本人確認書類(写しを含む。)であれば十分かつ適切である。)\n(ロ)顧客等の署名・捺印により代理人との間の委任関係を示す書類(債務整理についての委任関係が示されていること等により取引履歴開示請求についての委任関係が推認し得るものを含む。捺印は、イの書類が本人確認法施行規則に規定する本人確認書類(写しを含まない。)であれば、必ずしも印鑑登録された印鑑又は契約書に捺印された印鑑によらなくてもよい。)
(ハ)代理人の身分を証明する書類(弁護士、司法書士等が代理人である場合は、ロの書面において事務所の住所、電話番号等の連絡先が示されていればよい

〔意見の趣旨〕
「取引履歴の開示が求められた際の本人確認の手続」に関し、金融機関等による顧客等の本人確認及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律(以下「本人確認法」という。)が規定する確認方法を要求することには反対する。
上記最高裁判所判決の趣旨に従い,取引履歴の開示を求めることは顧客等の権利であって、本人確認の手続に伴う負担が顧客等(超過利息を元本充当すれば過払いになっている状態の者も含む)による開示請求権の行使を妨げることのないよう、貸金業者に対して注意を喚起すべきである。
〔理由〕
1 顧客等自身が開示請求をする場合
(1)本人確認法は、テロ及び組織犯罪等の悪質な犯罪行為に対する資金提供のために金融機関等の預金口座が不正利用されることを防止する(同法1条)目的で、厳格な本人確認の手続を定めた。
しかし、取引履歴開示請求や過払金返還請求が「テロ及び組織犯罪等の悪質な犯罪行為に対する資金提供のために」悪用されているという社会的事実は、およそ存在していない。
従って、規制の目的・対象がまったく異なる「本人確認法」の定める確認方法を,顧客自身からの開示請求につき必要とする理由は全く存在しない。
(2)他方、貸金業者が本人確認を十分に行わず取引履歴を第三者に開示し,これにより顧客や第三者等以外の権利が侵害されているというような弊害が生じているとの事実はない(現在の顧客情報が大量に盗まれているというトラブルとは別問題である)。従って、現在必要なのは、取引履歴開示に応じる際の本人確認手続の「厳格化」ではない。\n 現在起きているトラブルは、ごく一部の貸金業者が、「個人情報保護法に基づく本人確認手続」を藉口し、自らが一方的に定めた確認手続に応じなければ取引履歴開示ができないとして開示を事実上拒否しようと画策するという問題である。
(3)個人情報保護法は、個人情報取扱事業者が本人からの保有個人データの開示の求めに応ずる手続を定めることができる(同法25条1項、29条1項・3項・4項)とするが、「他の法令の規定により開示することとされている場合」(同法25条3項)を除外している。しかるに前掲最高裁判決は、取引履歴開示義務の法的根拠が信義則(民法1条2項)にあることを明らかにした。従って、個人情報保護法25条3項により、貸金業者が定めた本人確認の手続によって顧客等を一方的に拘束することはできず、この手続に応じないことをもって取引履歴開示請求を拒む正当理由とすることはできないこと明かである。
(4)なお個人情報保護法は、同法に基づき個人情報取扱事業者が開示等の求めに応じる手続を定め得る場合についても、「本人に過重な負担を課するものとならないよう配慮しなければならない」(同法29条4項)と定めている。個人情報保護法の存在が、自己に関する情報にアクセスする個人の権利を阻害する結果を招いてしまうのでは、本末転倒だからである。
(5)従って、現在必要なのは、取引履歴の開示請求権は顧客等の権利であって、本人確認手続を取引履歴開示を回避するための口実として利用してはならないことを「明確化」することである。そこで、顧客等からの取引履歴開示請求に応じる場合の本人確認の手続については、「顧客等に過重な負担を課することのないよう留意すべきこと」を明記すべきである。
2 顧客等の代理人が開示請求をする場合
(1)債務整理の実務においては、「債務者が債務の処理を弁護士に委託した旨の弁護士からの書面による通知」(貸金業規制法21条1項6号参照。以下、「受任通知書」という)が、債務者の代理人であることの十分かつ適切な確認資料である、とされてきた。実際、多くの貸金業者は、個人情報保護法が施行された現在においても、弁護士が作成名義人である「受任通知書」の送付をもって代理権確認の方法とすることを、従前通り異議なく認めている。\n 弁護士名の「受任通知書」を信頼したために貸金業者が不正な開示請求に応じてしまったというトラブルが発生しているとの事実はまったくない。したがって、あたかも弁護士と顧客等との委任関係の存在が疑われる状況が広く存在していることを前提とするかのように、厳格な手続を課するのは正当ではない。
また上記最高裁判所の判決の場合にも,弁護士が受任通知以上の,「本人確認手続」を行ったわけでもない。とすれば,本ガイドラインの改正は,最高裁判所判決に規定されていない,新たな除外事由を行政ガイドラインにより策定しようとするかのような意図を感じざるをえないものである。
(2)そもそも弁護士は、受任通知書で自らの氏名を明らかにした上で自ら不正な開示請求などを行ったりすれば、懲戒処分を受けるという重大なリスクを背負っているのである。
受任通知書に記名のある弁護士が本物の弁護士であるかどうかは、日本弁護士連合会のホームページの「弁護士情報検索」によって確認することができる。架空のニセ「弁護士」であれば、「該当情報が検索できない」として、直ちに明らかになる。実在の弁護士名を騙る第三者による不正請求の場合であっても、その者が表示する虚偽の事務所名や所在地を入力して検索すると、同様に「該当情報が検索できない」結果となる。\n(3)もしも顧客等が、代理人弁護士に対し、原本提示のため印鑑証明書・戸籍謄本・住民票の記載事項証明書等の原本を預けるか、または委任状に捺印する印鑑についての印鑑証明書を渡しておかなければならないとすれば、当然それらの申請費用が必要になる。債務整理を必要とする多重債務者はそもそも経済的に困窮している状態にあるから、それらの費用負担が履歴開示請求の意思を挫くことにもなりかねない。また債権者数に応じて何枚もの委任状に署名を求めるのは、迅速な事務処理が必要とされる債務整理の実情に合わない。また、開示請求のたびに業者に委任状を提出することは、業者のもとに、新たに大量の個人情報を蓄積させることになり、個人情報の保護に関して、新たな問題を発生させることにもなりかねない。\n しかも,業者は,本来当初の貸付の際に,顧客の本人確認に必要な書面を徴収して貸付業務を行っているのであり,更に取引履歴を開示する場合に再度かかる書面を要求する必要もない。
(4)以上により、弁護士が代理人として開示請求する場合については、「債務者が債務の処理を弁護士に委託した旨の弁護士からの書面による通知(FAXを含む)により十分かつ適切である」と例示すべきである。
以  上

覚せい剤後遺症(疑い)者の懲罰・処遇に関する警告及び勧告

カテゴリー:意見

福岡拘置所長 殿
2005年8月5日

福岡県弁護士会 会長 川副正敏
同人権擁護委員会 委員長 小宮和彦
1 警告について
申立人X氏は、貴所に勾留され、従前から覚せい剤後遺症の診断の下に投薬を受けていたところ、幻聴を自覚したために200・年・月・日午後・時・分ころ、貴所職員に投薬を申し出たが拒絶されました。その結果、申立人は、「薬を早よやらんかー。」等と房全体に響き渡る大声を発し、さらに職員の制止に従わず窓ガラスを殴打するなど、極度の興奮状態に至りました(以下「本件興奮状態」といいます)。
X氏の本件興奮状態に対し、貴所の懲罰審査会は200・年・月・日、それが同人の覚せい剤後遺症による自制困難な状態での行為でなかったかどうかについて十分に調査することなく軽屏禁7日の懲罰を科し、同日から執行しました。\n  しかし、覚せい剤後遺症による自制困難な行為に対して懲罰を科すことは、責任無能力者に刑事責任を問うことと同様に責任主義に対する重大な違反となります。ところが本件興奮状態は、X氏の幻聴という覚せい剤後遺症と時間的に接着して生じており、それ自体が覚せい剤後遺症であると疑うべき行為であったと認められます。そのような行為に対する懲罰の審査においては、それが覚せい剤後遺症による自制困難な行為ではなかったことが確認されなければ懲罰を科すことは許されません。
したがって、この点についての十分な調査、判断を経ないままX氏に懲罰を科したことは、適正手続に違反し、X氏の人権を侵犯したものといわざるを得ません。
つきましては、貴所におかれましては、懲罰審査においては、対象となる行為が精神病等による自制困難な状態での行為でないかどうかを十分に調査・判断され、精神病等による自制困難な状態での行為である場合には懲罰を科すことがないよう警告いたします。\n
2 勧告について
貴所は、200・年・月・日に貴所に移監された当初から勾留期間を通じて(一時的な保護房への収容期間を除く)、X氏を、第二種独居室に収容していました。貴所所長がX氏を第二種独居室に収容すると決定するに際しては、警察から覚せい剤後遺症による幻聴及び妄想等の精神症状があり精神病院通院歴もあるとの引継があったのみで、医師の診断はなされておらず、それ以上にX氏の具体的な自傷のおそれを認めるべき専門医の診断はなく、その他の具体的な自傷のおそれを認めるべき客観的な事情も認められていませんでした。
ところで、第二種独居室は、被収容者に突発的な異常行動による自傷のおそれが認められる場合において、綿密な動静観察によってこれを防止するために設置されているものです。しかるに、その設備・備品に照らし、同室はその居住性等において、一般の独居房に比して著しく劣っており、その被収容者にとっては、一般独居房に収容された者よりも著しい人権制約を受けることは否めません。
したがって、被収容者の第二種独居室への収容は実質上の不利益処分であって、かかる第二種独居室への収容の可否については、貴所所長の自由な裁量に委ねられるものではなく、収容時において被収容者について具体的な自傷のおそれが認められる場合に限るべきです。
ところが、X氏については、医師による具体的な自傷のおそれの診断はなく、その他に具体的な自傷のおそれを認めるべき特段の事情も確認されていません。にもかかわらずX氏を第二種独居室に収容したことは、適正手続に反し、貴所所長の裁量を逸脱した違法な収容であって、X氏に対する人権侵犯といわざるをえません。
つきましては、貴所におかれましては、第二種独居室への収容にあたっては、その対象となる被収容者について、単に病名等のみによるのではなく、精神科専門医の詳細な診断等を行った上で、現に具体的な自傷のおそれがあると判断された場合に限りなされるよう勧告いたします。
以 上

刑務所の医療行為に関する要望

カテゴリー:意見

福岡刑務所長 殿
2005年6月7日
福岡県弁護士会 会長 川副正敏
同人権擁護委員会 委員長 小宮和彦
貴所所属の法務技官医師Y氏は、申立人X氏からの胸のしこりの症状の主張について、X氏に対して、問診及び触診のみしか行わずに女性化乳房との診断をしただけで、超音波検査、乳房撮影あるいは生検(病理細胞検査)や血液検査など、その原因究明のために必要な検査をせず、さらに、その後X氏から受診希望があったにかかわらず、何ら医療行為を行っていません。\n このような診察態度は、国が被収容者に対して負う一般社会の医療水準と同程度の医療を提供する義務に反しており、X氏の人権を侵害するものと言わざるを得ません。
つきましては、貴所におかれては、今後、X氏はもちろんのこと、すべての被収容者に対し、必要な医療行為を尽くして、一般社会の医療水準と同程度の医療を提供されるよう、要望致します。
以 上

憲法週間に寄せて

カテゴリー:意見

kawazoe.jpg〜実行段階の司法改革と市民の役割〜
会長 川副正敏
 正義の女神ユスティチア像は、右手で剣を頭上高く上げ、左手には秤を持ち、目隠しをしている。これは証拠の重みで秤がどちらに傾くかを見極め、正義の剣を振り下ろすという裁判の公正さの象徴とされている。一方で、この目隠しは時に硬直化し市民感覚とかけ離れた裁判のたとえにも使われてきた。
 三権の一翼を担う司法の仕事は、憲法と法律に基づき、法的紛争の迅速で的確な解決と権利の実現、行政に対するチェック、刑罰権の適正な行使にある。そのことを通じて、一人ひとりが個人として尊重され、お互いに幸せを追い求めて暮らしていけるよう、社会の隅々まで法を公平・公正に適用し、基本的人権を擁護する使命を負っている。
 しかし、憲法施行から半世紀以上を経過した今日、司法はその役割を十分に果たしておらず、国民から遊離して信頼を失いつつあるのではないか。そんな深刻な危機感から始まったのが今回の司法制度改革だ。\n こうして、昨年末までに多数の法律が制定された。
 戦後始めて国民の司法参加を実現する裁判員制度は4年後までに実施される。
 市民があまねく身近に法的サービスを受けられるようにするための日本司法支援センターや容疑者段階の国選弁護も近く発足する。
 さまざまの社会的経験を持つ人材を集めた法科大学院からは、間もなく毎年三千人の法曹が生まれる。
 裁判官の指名や裁判所の運営に市民の声を反映させる制度も動き出している。
 しかし、これらの制度に本当に魂を入れる取り組みは今始まったばかりだ。
実行段階に入った司法改革、そこでは、主権者である国民一人ひとりが「受け手」ではなく「担い手」として、主体的に参加し発言することが不可欠だ。そうすることで始めて、正義の女神から目隠しをはずし、市民の目線に立った利用しやすく信頼される司法が実現する。
 それは、日本国憲法が求める人権擁護の砦としての司法復活への道だと思う。
(5月3日読売新聞朝刊より)

「司法ネットの整備」に関する意見

カテゴリー:意見

司法制度改革推進本部 御中
2004年8月19日   福岡県弁護士会 会長 松? 隆
・第1 司法ネット構想について\n
 1 司法ネット構想 
(1)「司法ネット構想」とは、「国民が、刑事民事を問わず、全国どこでも法的トラブルの解決のために必要な情報やサービスを受けられるようにするため、新たに設置される運営主体を中核として、現在ある様々な相談窓口のネットワーク化等を行う仕組み」とされている。\n 司法が、期待される役割を十分果たすためには、国民が法的サービスを受けることを容易にするような環境の整備が重要であり、その整備が国の責務であることを明らかにすべきである。\n
 (2)当会は、20年ほど前から市民に開かれた弁護士会を目ざして、
  1: 利用者の利便性に考慮した法律相談センター(弁護士センター)を県内全域に展開する(現在までに14カ所)こと
  2: 自治体や各種団体と連携して弁護士を派遣する法律相談活動(2002年は109カ所)をすること
  3: 弁護士過疎地克服のために弁護士が少ない地域に法律相談センターを設置し、また弁護士を派遣すること
  4: 各種の専門士業・隣接業種と連携しワンストップサービスを提供すること
  5: 当番弁護士制度による起訴前弁護を充実すること
  6: 監護措置を受けた少年への付添人派遣(全国に先駆けた全件付添人制度)をすること
  7: 精神病院に入院している患者に対する出張相談(精神保健当番弁護士)をすること
  8: 犯罪被害者支援(無料の電話・面接相談)をすること
  9: 障害者・高齢者のための相談センターを設置し、福祉担当者からの電話相談に応じる「福祉の当番弁護士」による無料電話相談活動をすること
 10: 上記諸活動について法律扶助制度の積極的活用をはかること
 などの諸活動を行い、市民のための司法サービスの提供(リーガルサービス活動)を行ってきた。このような活動をさらに充実・発展させるためには、弁護士会のみでは限界があり、地方公共団体、関連各業種、並びに民間のボランティア団体等が協力しあって、地域の実情に即したシステムを作っていくことが必要である。国は、そのような連携を進めるための積極的な方策の提起と、その活動を支える財政的支援を行う責務がある。
 司法ネット構想は、上記のような国の責務を果たすための仕組みとならなければならない。\n
 2 構想を進めるに当たって留意すべきこと
 (1)運営主体の事業費並びに管理運営費について、十分な財政的措置がなされること\n 財政措置について、資力の乏しい市民に対する法律扶助制度の充実が重要であるが、その範囲は従来の民事扶助、国選弁護等の範囲に限らず、広い範囲の扶助事業に対応できる抜本的な財政措置が必要である。
 また、その事業形態も、運営主体が直接行うものに限らず、既存の組織(弁護士・弁護士会や関連業種、NPO法人等)への委託等が考えられるべきであり、これに対応する予算措置が考えられなければならない。\n さらに、運営主体の重要な役割として、ネットワークの構築が期待されており、質の高いコーディネーターの確保や情報共 有のためのシステムや施設整備などが必要である。それを保障するための事業費の手当も重要である。\n そもそも、現在の我が国の扶助事業では、民事扶助と国選弁護の合計で、約100億円程度の国庫負担しか行われていない。扶助の先進国といわれるイギリスは、人口が日本の半分以下であるにも関わらず、94年度の実績で民事1610億円(うち国庫負担は1146億円)、刑事は486億円(うち国庫負担482億)となっている。 1996年に新しい法律扶助法を策定した韓国でも、人口は日本の4割程度であるにもかかわらず、444億円規模の扶助事業が行われている(2002年・釜山弁護士会からの当会に対する回答)。
 新しい運営主体がおこなう刑事を含めた扶助事業は、全国的な組織展開や相談窓口の設置(これに必要な賃料や人件費)及び起訴前の公的弁護などだけでも新たに20億円程度は優に必要であると考えられる。この上に、多様な司法サービスの提供、司法過疎地においては扶助事業に限らない司法サービスの提供などを行う必要があることを考えるならば、数百億円規模の予算措置が行われなければ、これまで以上の充実した司法サービス事業を実現することはできない。\n (2)一般の開業弁護士による(ジュディケア制)ことを原則とすること
  以下に述べるように、弁護活動の独立を確保し、地域の実情に応じた司法サービスの提供を実現するには、地域の実情に精通しかつ実質的に扶助事業と公的弁護を担う地域の弁護士・弁護士会の活用が不可欠である。したがって、運営主体の事業の担い手は、一般の開業弁護士によること(ジュデジケア制)を原則とすべきである。
 (3)弁護活動の独立司法の役割は、立法・行政に対するチェックと侵害された自由と権利の回復である。
 刑事弁護はもちろん、民事扶助事業においても、個々の弁護士の弁護活動・訴訟活動の自主性・独立性の確保が保障される制度が必要である。
 (4)各地の実情や市民の需要に応じた柔軟なネットワーク整備
 法律扶助制度の拡充(とくに財政措置)については国が第一義的な責任を負うことは当然であるが、アクセス障害の克服や司法過疎の解消については、あくまでも各地の実情を尊重しながら、その補充的な役割を果たすべきである。
 行政の法律相談事業の在り方、弁護士会の司法過疎克服計画、関連業種の取組、その他の民間組織の存在や組織形態などは、地域によって大きな差がある。地方の実情を無視した中央集権的・画一的な運営は、これまで各地の実情に即して司法サービスの提供に努めてきた民間の取り組みを台無しにする恐れが強く、かえって有害である。
 (5)日弁連・各地の弁護士会との連携と適切な役割分担
 (4)で指摘した地方の実情に応じた柔軟なネットワークの構築に当たっては、司法サービスを中心的に担う弁護士・弁護士会の役割が重要である。\n 各地の単位弁護士会と所属弁護士は、これまで行政や地域住民と連携しながら、その需要に応えるべく、法律相談センターや公設事務所を展開し、また、各団体の法律相談に弁護士を派遣してきた。また弁護士会は、人的・物的両面から法律扶助事業の大部分を担ってきた。法律扶助制度の中心は民事扶助と公的弁護であり、今後とも弁護士がそれを担うものである。
 したがって、司法ネット構想の実現には、弁護士・弁護士会の関与が不可欠であるとともに、従来弁護士・弁護士会が行ってきた事業との適切な役割分担が必要である。\n (5)法律扶助協会の事業の発展的な継承
 法律扶助協会は、現在でも全国レベル(刑事被疑者弁護支援、少年保護事件付添扶助、犯罪被害者支援等)で、あるいは支部独自(当会では子どもの虐待救済援助、精神障害者法律援助等)で自主事業を行っている。また、当会のリーガルサービス活動(刑事被疑者のための「当番弁護士」、福祉担当者のための「福祉の当番弁護士」、入院患者のための「精神保健当番弁護士」、高齢者・障害者相談、犯罪被害者電話相談、交通事故被害者電話相談、外国人相談等)は、法律扶助協会の法律相談事業と連携して広く展開してきた。新しい運営主体による法律扶助事業は、少なくとも、現在の扶助協会が行っている各種事業を発展的に承継するものとしなければならない。
 また、上記のような自主事業が生まれてきた背景には、社会の変化に伴う紛争の多様化や、地域的な特性等がある。司法サービスは固定的なものではなく、その時々の市民の需要に対応したものでなければならない。したがって、新しい運営主体の事業内容の決め方も、求められる新規事業に対応できるものでなければならない。
 (6)自治体の法律相談事業との併存
 司法サービスの提供の課題は、いつでも、どこでも、誰でも一定のレベルのサービスが提供されなければならない。したがって、全国的に最低水準を維持するという意味では均質性が求められる側面もある。この点から見れば、国の事業として国が責任をもって行う必要がある。
 一方、地方自治体は、住民の福祉の増進をはかり、地域における行政を自主的かつ総合的に行う役割を担っており、その地域での司法サービスの提供にも一定の責任を負うべきことはもちろん、地方分権の立場からは、司法における地方分権の視点も重要である。これまで地方自治体が行ってきた各種の相談などを引き続き行うとともに、その地域に必要な司法サービスの提供を、地方自治体が地元弁護士会や地域住民と連携し創意工夫して行うことも考えられるべきである。
 その際、国がその責任(とくに財政負担)を地方自治体に転嫁することがあってはならないことは当然であるが、運営主体は、地方自治体との連携と役割分担を適切に行い、自治体の実情に即した司法サービスの提供に努めなければならない。
 ・第2 相談窓口(アクセスポイント)について
 1 容易なアクセス及び質の高い相談担当者の確保
 相談窓口の設置について必要なことは、どこからでも容易にアクセスできること及び総合的な情報の提供やある程度の紛争解決機能をもつ質の高い相談担当者の確保である。\n
 2 弁護士の配置又は法律相談センターの併設
 各種の相談においては、法的判断や紛争解決の手段など実務的な法律知識が必要な場合が多く、相談担当者にはできる限り弁護士を確保することが望ましい。これによって、一定の問題についてはその場で解決することも期待できる。
 したがって、主要な相談窓口には弁護士を配置するか、弁護士会の法律相談センター等に併設することが望ましい。
 3 できるだけ多数の相談窓口と殻窓口間の連携の強化
同時に、相談窓口はなるべく数多く必要である。これを実現するためには、従来の自治体や各種団体の相談窓口を充実させ、情報の共有や各窓口の連携を強化する必要がある。また、すべての窓口に法的な専門知識を備えた相談員を配置することは困難であるから、各種の通信機器を使って、その場から専門知識を持つ相談員に相談できたり、窓口の相談員が助言を受けることができるようなシステムも必要である。
 4 法律扶助の拡充
さらに、資力の乏しい市民も気軽に相談できる機会を確保するため、法律扶助事業としての法律相談事業を拡充するとともに、扶助の基準もできるだけ緩やかにして、初期段階で適切なアドバイスを受け、また、紛争を予防することができるようにすべきである。\n
 ・第3 司法過疎対策
 1 当会の過疎対策
 日弁連と各地の弁護士会は、各地の地域司法計画を策定し、そのなかで司法過疎解消計画を立案している。そして、その実現のために、これまで鋭意努力してきた。
 当会も、裁判所支部の所在地に最低3人の弁護士を配置し、さらには交通の便や文化的地域性に配慮しつつ、人口7000人に一人程度の割合で弁護士を配置すべく計画を立案し、会内の協力体制を作りつつある。
 また、既に県内14カ所に法律相談センター(弁護士センターと称するところもある)を設置しているが、さらに本年4月までに4カ所の法律相談センターを設置する予定である。これによって、すべての裁判所支部、独立簡裁所在地に法律相談センターが設置されるほか、人口が集中している福岡市周辺では、副都心にも法律相談センターを広げることになる。夜間相談や休日相談も実施している。\n
 2 新たな運営主体の役割
 司法過疎の状況やこれに対する地域の取組は多様であり、何が必要かも地域によって大きく異なる。新たな運営主体の役割は、法律扶助事業と公的弁護を担うその地域の弁護士・弁護士会と連携し、その活動を尊重し補完していくことである。現在、日弁連は、会員から特別会費を徴収して「ひまわり基金」を設け、公設事務所の開設に資している。このような新設事務所を支える公的制度としては、無利子ないしは低金利の貸付制度、開設後一定期間の税の減免措置などが考えられる。このような制度を国や地方自治体が創設することによって、弁護士過疎地域への法律事務所の開設を促すことが可能であり、司法過疎の解消に確実につながる。\n
 ・第4民事扶助について
 1 格別の予算措置の必要性
 弁護士会が繰り返し主張してきたように、民事扶助については格段の予算措置を行い、対象事件と対象者の拡大を行うことが必要である。\n 経済的理由によって、裁判を受ける権利を行使できず、侵害された自由と権利を回復することができないということがあってはならないことはもちろんである。
 しかし、現在の対象者の資力要件では、全国民の2割程度しか対象とならない。イギリス、フランス、韓国などでは全世帯の下から50%、ドイツでも40%の世帯が対象となっている。経済的理由による司法アクセス障害をなくすためには、資力要件を緩和して扶助対象者を拡大することが必要である。
 また、現対象者の範囲を画する基準としては、資力要件に限らず、未成年者、障害者、外国人など、社会的ハンディキャップを負う市民、犯罪被害者、社会的少数者のグループに属して権利の実現に困難を来している市民、消費者・公害・労働事件など、社会的な力関係に格差のある紛争の解決を求めている市民など、その資力を問わず援助が必要な層への適用の拡大が検討されるべきである。
 さらに、自由と権利の回復手段は訴訟手続ばかりではない。このところ次々と設置されている裁判外の紛争解決機関(ADR)、裁判を前提としない和解交渉、行政に対する情報公開請求、各種の審査請求などへの適用など、対象事件を拡大させるべきである。また、紛争予防としての法律相談も拡充が求められる。\n
 2 償還
 現在の民事扶助は「費用立替制度」とされ、利用者からの償還が原則となっている。この原則は、限られた財源をより有効に活用するためには、資力に余裕がある市民からは、償還を求めるのは当然であるとの考えで、我が国において歴史的に形成されてきたものである。
 この償還制度については、受益者負担の原則を強調し、確固とした回収制度を確立すべきとの意見がある。しかし、そもそも民事扶助の利用者は一定の収入基準以下の市民であり(特に現在は、所得の低い方から2割程度でしかない)、このような市民に対しては、社会福祉の一環として、給付制を原則とすべきものであるから、すべてにわたって、過度に償還を追求することは、かえって利用者が困窮した状態になったり、民事扶助の利用をためらう事態を生じかねない。法律扶助の償還制度は、過度に回収をめざすというものより、利用者が無理なくできる程度とし、多くの市民が利用しやすい制度でなければならない。
 1に述べたように、資力要件を緩和して利用可能な市民の範囲を拡大し、資力に応じた無理のない負担を求める制度とすべきである。\n
 3 代理人活動の自主性・独立性の確保
行政事件や国家賠償請求など、国や自治体を相手方とする事件については、特に代理人活動の自主性・独立性の確保が重要である。
 ・第5 公的弁護について
 1 刑事扶助
 民事扶助はもちろん、起訴前弁護活動や少年付添人活動を含めた刑事扶助も、本来は国がやるべき事業であり、その拡大は焦眉の課題である。
 また、身柄を拘束された時点から弁護人依頼権を保障することが憲法上の要請である。現在検討されている公的弁護制度は勾留時からとすることが予定されているが、逮捕時から勾留まで最大72時間の身柄拘束が認められていること、逮捕直後の被疑者こそ弁護士の助言が必要なこと及び上記憲法上の要請に鑑みるならば、逮捕時から弁護人の援助が受けられる制度とするべきである。仮に、公的弁護制度が勾留時からとなる場合は、現在の当番弁護士制度を公的制度として、希望する被疑者には公的費用で弁護士の助言を受けられる制度とすべきである。\n さらに、司法ネットの運営主体が「公的刑事弁護に関する業務」を担当する場合には、以下の点に留意して行われるべきである。
 2 弁護活動の自主性・独立性
 刑事弁護の役割は、国家刑罰権発動の対象とされる者の防御にあることから、弁護活動の内容についても「国家からの独立」が強く求められる。司法制度改革審議会の意見書も「公的弁護制度の下でも、個々の弁護活動の自主性・独立性が損なわれてはならず、制度の整備・運営にあたってはこのことに十分配慮すべきである」と指摘している。したがって、弁護活動への不当な干渉は許されず、弁護活動の自主性・独立性が確保される制度設計が必要である。\n
 3 ジュディケア制の原則
 弁護人の確保については、一般の開業弁護士による(ジュディケア制)ことを基本とし、地域の実情に応じて地元の弁護士の登録を募り、また、その確保に努めるべきである。
 4 十分な報酬の確保
 充実した弁護活動を行うためには、弁護活動の労力に応じた十分な報酬が確保されるような予\算措置が講じられなければならない。
 5 弁護士会の関与
 「充実した弁護活動を提供する体制整備」及び「弁護活動の自主性・独立性の確保」の実現のためには、制度の運営について弁護士会が重要な役割を果たす必要がある。
 具体的には、運営主体の運営スタッフの人選の弁護士会推薦、国選弁護人推薦資格について弁護士会の措置の尊重、個別事件についての弁護人候補の弁護士会推薦制制度の維持などが制度設計に盛り込まれるべきである。
 6 公的付添人制度
 少年保護事件についての公的付添人制度の実現は重要な課題である。起訴前弁護を公的制度とすることにより、身柄拘束時から成年と同様に弁護人がつくことが予定されているが、家裁送致後は引き続き付添人となることによって、保護事実関係に争いがある場合のみならず、保護事実に争いがない事案においても、少年の立ち直りへの援助に力を発揮することができる。\n 当会においては、監護措置となった少年保護事件について、少年が希望すれば全件に付添人をつける制度(全件付添制度)を実施しており、2002年の扶助付添人の実績は712件に上っている。当会は、この制度を維持するため、当会独自で会員一人当たり月額5000円の特別会費を徴収し、年間約2100万円を拠出している。この全件付添制度については、家庭裁判所の裁判官も付添人の活動によって充実した少年審判が行われていると高く評価している(福岡家庭裁判所委員会における少年保護事件担当の裁判官たる家裁委員の発言)。少年保護事件についても、早期に公的付添人制度を実現するとともに、少年事件に無用な当事者主義構造を持ち込むことなく、少年法の理念に基づく少年審判の充実が図られるべきである。\n また、それが実現した場合は、2ないし5と同様の制度設計が必要である。
 ・第6 運営主体について
 1 運営主体については、新たな法人組織が考えられているようであるが、下記の点が重視されるべきである。すなわち、1:法人の独立性の確保、2:業務効率が過度に重視されないこと、3:弁護活動の独立性・自主性の確保である。

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