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カテゴリー: 意見

少年法の成人年齢引下げ問題に関する意見(法務省の意見募集に関して)

カテゴリー:意見

第1 意見の趣旨
 1 少年法第2条1項の定める「成人」の年齢を現行の20歳から引き下げるべきではない。
 2 若年者に対する刑事法制の在り方について検討を行うときも,少年法の成人年齢の引下げ問題とは切り離し,別途議論すべきである。
第2 意見の理由
1 公職選挙法の改正に伴い,少年法第2条1項が定める「成人」年齢について,これを引き下げるべきか否かの議論がある。
しかし,当会の本年6月25日付「少年法適用対象年齢引下げに反対する会長声明」で詳しく指摘したとおり,法律の適用対象年齢は,各法律の立法趣旨に照らして個別具体的に検討すべきであり,少年法の適用対象年齢についても,18歳・19歳の少年は未成熟であり,再犯防止策としては刑罰を科すよりも保護処分に付する方が適切であるとの立法趣旨に照らし,そして,子ども・若者の成長発達ないし最善の利益と犯罪予防などの社会全体の利益を実現する観点から,個別具体的に検討すべきである。そして,現行少年法の手続と教育的な処遇や環境調整等は再犯防止に効果を挙げるなど,有効に機能しているため,現行少年法が適用対象年齢を旧少年法(大正14年制定)の18歳未満から20歳未満へと引き上げた趣旨について,現時点においてこれを変更すべき合理的な理由は存在しない。適用対象年齢の引下げは,18歳・19歳の少年がこれまで受けることができた教育的な働きかけや環境の調整という機会を奪うこととなり,その結果,少年の立ち直り・更生の機会を奪い,再犯の可能性を高める結果を引き起こしかねず,少年にとっても社会にとっても不利益な結果となりかねない。
よって,少年法の「成人」年齢は引き下げるべきでない。
2 この点,自由民主党の政務調査会が本年9月17日に取りまとめた「成人年齢に関する提言」は,少年法の「成人」年齢について,「国法上の統一性や分かりやすさといった観点から,少年法の適用対象年齢についても,満18歳未満に引き下げるのが適当である」とする。
しかし,上記提言も,国民年金の支払義務や児童福祉法に定める児童自立生活援助事業における対象年齢などの諸法令については適用年齢引下げの対象外とし,飲酒・喫煙や公営ギャンブルについては適用年齢引下げの是非を引き続き検討するとしているように,やはり,法律の適用年齢は,各法律の立法趣旨に照らして個別具体的に検討すべきものである。上記提言の「国法上の統一性や分かりやすさ」との観点は,少年法の適用年齢を変更する根拠としては極めて薄弱であり,不十分であるといわざるを得ない。
そして,上記提言も認めるとおり,罪を犯した者の社会復帰や再犯防止という点で,現行少年法の保護処分が果たしている機能には大きなものがある以上,少年法の適用対象年齢を引き下げる必要はない。
3 法務省は,上記提言を受け,「若年者に対する刑事法制の在り方全般に関する意見募集」を行っているが,当会としては,以上の理由から,少年法の「成人」年齢の引下げについて,改めて強く反対する意見を表明するものである。
また,若年者に対する刑事法制の在り方については,本来,少年法の「成人」年齢引下げ問題とは別の,20歳以上の若年成人に関する検討課題である。従って,若年者に対する刑事法制の在り方について検討する場合であっても,それと少年法の「成人」年齢の引下げの是非とを関連付けて議論すべきではなく,両者は切り離して議論されるべきである。
                                   以 上
                    2015年(平成27年)12月17日
                    福岡県弁護士会  
                    会 長  斉  藤  芳  朗 

消費者庁・国民生活センターの地方移転に反対する意見書

カテゴリー:意見

2015年(平成27年)12月15日
福岡県弁護士会 会長  斉 藤 芳 朗

第1 意見の趣旨

1 消費者庁が,特命担当大臣の下で政府全体の消費者保護政策を推進する司令塔機能を果たすとともに,消費者被害事故などの緊急事態に対処し,所管する法制度について迅速な企画・立案・実施を行う機能を果たすためには,担当大臣,各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠であり,これに反するような地方移転には反対である。

2 国民生活センターが,全国の消費生活相談情報の分析を踏まえて消費者保護関連法制度・政策の改善に向けた問題提起や情報提供を効果的に行うためには,消費者庁及び消費者委員会と密接に連携して分析及び情報交換を行うことが必須であり,また,消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての機能を果たすためにも地方移転には反対である。

第2 意見の理由

1 はじめに

政府は,政府関係機関の地方移転に係る道府県の提案を受け,目下「まち・ひと・しごと創生本部」に「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)を設置し,本年12月に考え方を取りまとめ,来年3月には基本方針を決定することとしている。その中で,徳島県から消費者庁と国民生活センターを同県に移転することが提案され,有識者会議で審議されている。

東京圏への一極集中は,地価の高騰,若年者の東京圏への大量流入,人口や各機関の集中による被害の大規模化と災害時の行政機能・産業の空洞化のリスクを増大させるだけでなく,地方の人口減少と人手不足,地域経済の縮小を増幅させるなど,我が国全体の活力の低下をもたらす事態となる。これを是正する方策として政府関係機関の地方移転を促進することは,その機関に関連する民間事業者の地方展開を促す効果も期待できる点で,地方の活性化に資する政策として評価できる。

ただし,地方移転に伴い当該政府関係機関が果たすべき本来の機能が大きく低下することとなっては本末転倒であるから,地方移転の対象機関を選定するに当たっては,この点の検証が不可欠である。そして,有識者会議の考え方として,道府県からの提案のうち「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関」や「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関」に係る提案,「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案」などについては,移転をさせない方向性が示されている。

消費者庁・国民生活センターは,以下に述べるとおり,担当大臣の下で消費者委員会とも連携しながら,多数の省庁に分散している消費者行政を総合的に推進する司令塔として,「他の省庁と日常的に一体」となって業務を行っている。また,大規模な食品被害など国民の安心安全を脅かす事態が生じたときには,「官邸と一体となり緊急対応を行う」政府の危機管理業務を担っている。このため,現在地から移転した場合に本来の機能の維持が極めて困難となり,我が国の消費者行政全体の機能の後退につながるものとして重大な危惧を指摘せざるを得ない。これらの機能を果たすためには,担当大臣,各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠である。有識者会議の考え方に照らしても,これに反するような地方移転には反対である。

当会は,消費者庁が創設されたことについて,当会管内で生活をする市民はもちろんのこと,国民全体の視点に立って見ても,その権利を守るうえで大変喜ばしいことであると捉えている。徳島県は,消費生活サポーターの養成と地域連携の推進など消費者行政の推進を先駆的に取り組んでいる地方公共団体として高く評価できるものの,消費者庁,国民生活センターの機能確保の観点から,これを他の省庁と切り離して地方移転することには反対せざるを得ない。また,消費者庁,国民生活センターと連携して消費者行政を担っている消費者委員会においても移転が検討される事態となれば,これについても反対せざるを得ない。

なお,移転の可否を審議している有識者会議には,利害関係を有する消費者代表も入っておらず,これを対象とする公聴会やヒアリングも予定されていない。消費者にとって重大な影響を及ぼすものであり,消費者代表などからの意見聴取をすべきである。

2 消費者庁の地方移転について
(1) 各省庁と連携し消費者政策推進の司令塔として機能する消費者庁

消費者問題は,食品や製品の生産・流通・販売・安全管理,金融,教育,行政規制・刑事規制など多くの領域に関わり,経済産業省・金融庁・農林水産省・厚生労働省・国土交通省・文部科学省・警察庁等をはじめとするほとんどの省庁と関連している。しかし,これらの各省庁による取組だけでは統一的な消費者行政の施策を適切に推進し実行していくことはできない。消費者庁は,様々な省庁と密接に連携し,政府全体の消費者行政の司令塔として,消費者保護施策を統括的に推進する役割を果たすために設置された(平成20年6月27日閣議決定「消費者行政推進基本計画~消費者・生活者の視点に立つ行政への転換~」。現行の消費者基本計画は,平成27年3月24日閣議決定「消費者基本計画」であり,同日付の消費者政策会議決定の「消費者基本計画工程表」も参照。)。

大多数の消費者関連法は依然として消費者庁でなく各省庁が所管しているが,その中で,消費者庁は,消費者保護のために立法や法改正を企画し実現しなければならない。設置されてわずか6年の,規模も小さい消費者庁が,大きな権限や機能を持つ関係省庁と協議し,様々な利害を調整して法改正を実現することは,決して容易なことではないが,消費者庁には関係省庁との日常的で密接な協議や調整を通じて,かかる統括的な役割を果たすことを期待されている。さらに,消費者庁は,各省庁の所管する法律を消費者保護の視点から統括的にチェックし,必要な修正も求めていかなければならない。このように,消費者庁には,消費者保護の政策を各省庁と一体となって,時に対立する利害を調整しつつ行っていくことが求められている。

また,消費者庁は,消費者被害事故の緊急時には情報収集をし,官邸と一体となって各省庁と連携しながら消費者安全のための施策を実施し,マスコミにも必要な発信をし,様々な緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担っている。

このような機能を担う消費者庁は,担当大臣や中央省庁と日常的に一体として業務を行う必要があり,現在地から地方移転した場合に機能の維持が極めて困難になると考えられる機関である。

(2) 緊急時における危機管理業務の担い手として

消費者庁は,消費者安全に関する重大事故発生時には,官邸と連絡を取りながら,関係大臣等を本部員とする緊急対策本部を速やかに開催し,関係省庁と連携して事態に対処しなければならない。即時に各方面から被害情報の収集をし,マスコミ等にも対応し,消費者の安全のための施策を適切に行う必要がある。

例えば,2013年(平成25年)12月29日,冷凍食品から農薬(マラチオン)が検出されたため,事業者から自主回収するとの発表がなされた事件では,消費者安全法を踏まえ,消費者庁は直ちに消費者向けに注意喚起した。事件発覚直後である年明け早々には内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)が直接事業者と面談の上,情報提供等の要請を行い,さらに関係府省庁の局長級で構成する消費者安全情報総括官会議を開催するなどの施策が実施された。消費者庁は,食品衛生法を所管する厚生労働省をはじめ,食品安全委員会,農林水産省,警察庁等と連携し,情報の共有と被害の拡大防止等の対応にあたった(平成26年度版消費者白書19~24頁)。

なお,この消費者安全情報総括官制度は,消費者安全法を踏まえて消費者被害の発生・拡大を防止して安全を確保するため,緊急事態への即応体制を強化するために設けられた制度であり,消費者庁をはじめとして,食品安全委員会,警察庁,総務省,消防庁,文部科学省,厚生労働省,農林水産省,経済産業省,国土交通省,環境省の所定部署から構成されている(平成24年9月28日関係府省局長申合せ「消費者安全情報総括官制度について」)。消費者庁はこの会議の事務局を務めなければならず,消費者庁が直接に準備や出席をしなければ会議は成り立たない。

さらに,ホテル・レストランが提供する料理等のメニュー表示に関する偽装表示の問題では,消費者庁は内閣官房長官の下で「食品表示等問題関係府省庁等会議」を開催し,食品表示の適正化策を早期に策定した。

東日本大震災発生時には,消費者庁長官主宰で物価担当官会議を開催して,関係省庁と連携して震災後の生活物資確保を図っている。

また,防災や鳥インフルエンザ対策の政府の緊急会議がある場合には,消費者庁も直ちに参集する必要があるとされている。

このような多数省庁が関係する緊急事態は,消費者問題では頻繁に起こることであり,何ら珍しいものではない。こうした緊急事態においては,インターネットや電話などの遠方からの情報交換や情報発信では到底足りず,数時間以内に対面での会議を開き,官邸や省庁を回って情報収集と情報共有を行い,記者会見などを行う必要がある。場合によっては問題になった製品・食品そのものを関係省庁やマスコミに示すなどして迅速・確実な情報伝達をすることも必要になる。消費者庁が地方に移転した場合,これらの点について中央にいるのと同様の機能を果たすことは極めて困難である。特に上記のとおり,消費者庁が緊急時に事務局を担当する消費者安全情報統括官会議の現場に消費者庁の職員が不在ということは考えられず,会場設営,資料配付等の事務局作業を地方にいながら行うのは不可能である。

以上のように,消費者庁は,こうした緊急事態に司令塔としての機能を有し,短期間に官邸と連絡を取り調整し,会議を招集し,関係省庁との協議を行い,国民に周知させ,製品等の回収を実施していく責務を負っている。仮にかかる緊急対応を地方において行おうとすれば機能低下が避けられず,対応の遅れによっては消費者の安全に関わる深刻な事態を引き起こしかねない。

(3) 官邸・関係省庁・国会との直接協議による消費者行政の司令塔機能の発揮
消費者庁は,日常的に官邸と密接に連絡をとり,各府省庁と調整して政府全体の消費者行政の司令塔機能を果たしている。消費者庁が多数省庁との関係において消費者行政の司令塔機能を持つことは,消費者庁構想を決定した消費者行政推進基本計画の段階から明らかにされているところであり,政府全体の消費者行政の5カ年計画である消費者基本計画においても確認されている(平成22年3月30日閣議決定の消費者基本計画1頁,平成27年3月24日閣議決定の消費者基本計画1頁等)。

① 総合調整権限の発揮

消費者問題を担当する内閣府特命担当大臣は,消費者の権利尊重,自立の支援を実現し,消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現のため,基本的な政策を実施する。このため関係行政機関の長に対して資料提供,説明要求,勧告,勧告に基づく措置の報告要求,勧告した事項に関する内閣総理大臣への意見具申などの権限を持つ。この権限は,消費者庁創設に際して,消費者行政における総合調整権限の重要性から明確化されたものであり,この総合調整権限行使のための事務局は,当然ながら消費者庁が担っている。

そして,消費者庁は,政府全体の消費者行政の5カ年計画である消費者基本計画を策定し,そのフォローアップをすることで,関係省庁への司令塔機能を果たしている。

上記の事例でも明らかなとおり,緊急事態などにおいては,官邸及び特命担当大臣と密接な関係の下に,消費者庁が業務を担って関係省庁と総合調整の機能を果たしているのである。こうした機能を果たすためには消費者担当大臣の理解・協力が不可欠であるが,担当大臣が中央に残る場合,担当大臣との緊密な連携が阻害されることも懸念され,担当大臣が霞が関にいて,消費者庁が地方にあるという状態は,この点からしてもおよそ無理と言う他はない。

かかる調整機能の具体的な発動場面においては,対応に消極的な省庁を説得して協力を促すことが何よりも必要であるところ,電話やテレビ会議等では説得力に欠けることも想定され,「直談判」によるねばり強い対応が求められる。また,事案によっては問題になった製品そのものを示して説明することでより正確で深い理解が可能となることもあるのであり,面談による調整権限の行使は極めて重要である。

② 措置要求の権限の行使

消費者庁は,消費者被害の発生又は拡大の防止を図るため,他の省庁が所管する法律の権限を当該省庁が実施する必要があると認めるときは,当該措置の速やかな実施を求めることができる(消費者安全法第39条)。

すなわち,消費者庁は,他省庁が担っている消費者問題についても,常に適切に業務が遂行されているか注意を払い,必要があれば関係省庁に働きかけていく必要がある。

③ 隙間事案への対応の必要

所管法・所管大臣がない場合の,いわゆる隙間事案については,消費者安全法第40条(事業者に対する勧告・命令),第41条(譲渡等の禁止又は制限),第42条(回収等の命令)などの規定を活用し,消費者庁が直接対応することとしている。

しかし,隙間事案であるかどうかは,各省庁間で必ずしも認識が共通でない場合も多いと考えられるので,緊急事態への対応のためにはこの場合においても他省庁と迅速な協議を経ることが必要である。

例えば,こうした隙間事案の典型例として挙げられるミニカップ入りこんにゃくゼリーの安全性の問題では,まさにカップの形状やゼリーの固さ,テクスチャ(表面の手触り・触感)の在り方が議論の対象となる。仮にこの問題が緊急的に検討されることとなれば,当然関係省庁や関連事業者等と面談で説明・協議することが不可欠となる。

④ 関係省庁との日常的な会議等の実施

消費者庁が,上記のような消費者行政を司令塔として推進する上では,産業育成や教育研修を担う省庁(経済産業省,厚生労働省,農林水産省,国土交通省,文部科学省,総務省,金融庁など)との会議と議論が日常的に行われている。

特に今日の社会では,高齢者の消費者被害,インターネット取引被害,不当表示被害など,次々と深刻な消費者被害が発生している。そのため,関係する政策の実施や法改正作業を迅速かつ頻繁に行うことが今後も必要となってくる。

このため,消費者庁では,消費者関連法の改正作業が頻繁に行われている。最近では,消費者安全法,景品表示法の改正,消費者裁判手続特例法の創設などが行われ,現在でも,特定商取引法,割賦販売法,消費者契約法,公益通報者保護法の改正のための検討作業が行われている。これらの法改正においては,関係省庁との密接な直接参加の会議などの協議が不可欠である。

1つの消費者政策を実現するためには,産業育成担当省庁などから反対されることがしばしばあり,これらの関係省庁を粘り強く説得していく必要がある。そのためには,日常的に会議を開き,各省庁の職員同士が直接会って議論することによってようやく施策が前進している実情がある。

これらの省庁と消費者庁だけが離れることになれば,産業育成担当省庁への説得機能が減退し,消費者庁の司令塔機能が後退する懸念が大きい。

⑤ 国会対応について

消費者政策においては,上記のとおり関係する法改正作業を迅速かつ頻繁に行うことが重要である。

これらの法改正においては,関係省庁との調整はもとより,法案立案作業の過程で内閣法制局と頻繁に協議を行い,更に国会への対応が必要となる。

衆議院,参議院ともに「消費者問題に関する特別委員会」が設置されるのが通例であり,消費者庁はここに出席し,検討される消費者問題や法改正について長時間にわたる説明等の対応が求められる。また,各政党の消費者問題に関する調査会,勉強会が頻繁に開催されており,これへの出席や説明も求められている。

さらに,実際の法改正の審議においては,審議に当たる国会議員に個別に趣旨や内容を直接説明する必要も多い。個々の議員への個別説明をテレビ会議等で行うことは,インフラ整備や議員との信頼関係維持という点で限界があり,地方移転を行った場合に著しい支障を来すこととなる。

以上のとおり,毎年法改正の課題を抱えている消費者庁の国会対応が地方移転によって十分に行えなくなるとの危惧がある。

(4) 福岡県からのアクセスという視点から見たときの問題点

また,福岡県からのアクセスという視点から見ても,たとえば,消費者庁が徳島県に移転された場合,消費者庁へのアクセスの円滑性を損なうことになる。

すなわち,福岡県下には,「消費者支援機構福岡」という適格消費者団体としての認定を受けている消費者団体が存在しており,同団体の理事長や理事には当会の会員が名を連ね,その他にも同団体の活動には当会からも多数の会員が協力をしている。そして,適格消費者団体は,消費者契約法の定める差止関係業務などに関して,消費者庁と緊密に連携をとる関係にあり,ヒアリング等が行われる際には消費者庁に出頭するということも行われている。

そうした実態に則って考えると,福岡から徳島に移動することを考えた場合,航空機で移動するとすると,現在,福岡空港と徳島阿波おどり空港を結ぶ便は,1日に往復各1便しかない。しかも,その便は,福岡(11:30発)→徳島(12:30着),徳島(13:00発)→福岡(14:10着)であるため,消費者庁が東京にある現状と比較すると,移動の利便性は著しく損なわれることになり,出頭が現実的には不可能となることも考えられる。さらに,鉄道を用いる場合でも,JRを利用した場合,博多駅から徳島駅までは新幹線と特急を乗り継いで片道4時間を要することになり,やはり福岡・東京間の移動よりも利便性に劣ることになる(福岡・東京(羽田)間は,航空機で2時間強で移動可能である。)

このことは,延いては消費者行政に対する福岡県からの意見が,消費者庁に適切に届けられなくなるという重要な問題につながりうる。福岡市,北九州市の2つの政令指定都市を持つ福岡県は,2014年11月1日時点で推計509万3885人の市民が生活する大都市であり,これまでも,そしてこれからも,消費者行政を策定する際に,重要な位置を占める都市であると考えられる。

そうすると,福岡県から消費者庁へのアクセスが阻害されてしまうことは,全国的視点から見ても,消費者行政にとって決して望ましいことではない。

(5) 小 括

以上のように,消費者庁は,自ら所管する法の執行を担うほか,担当大臣の下で消費者行政の司令塔として,緊急の事態には関係省庁と対応の協議を行い,所管省庁がない場合には隙間事案として自ら対応し,所管省庁が所管法に基づく措置を取らない場合には措置要求を行うなどの責務を担っている。そして,関連省庁が行う法改正に対しても意見を述べ,消費者政策全般に関する消費者基本計画の作成・見直しを行い,その作業過程において各省庁の関連部局と情報交換や施策実施の要請を行う役割がある。こうした司令塔機能を果たすためには,霞が関の各省庁に近接して消費者庁が所在し,いつでも関係部局の担当者と面談協議や資料提出要請を行うことが不可欠である。取り上げる課題によっては,産業育成省庁の施策に対し消費者庁が必要に応じて修正を求める働きかけを行うことも必要である。

要は,消費者庁の業務は消費者庁だけで完結するものではなく,司令塔機能を発揮するためには関連各省庁との密な連携が必須なのである。

消費者庁は創設されて6年しか経過しておらず,他省庁と比較して圧倒的に弱小な消費者庁が仮に地方に移転すると,他省庁に対する働きかけの力が大幅に低下し,司令塔機能を果たすことができなくなる。つまり,消費者庁に期待されている機能の性格は,縦割りでかつ極めて大きな機能権限を持つ省庁が所管する行政行為に対して,サイレントマジョリティである消費者の視点からチェックを行い,修正を求め,時にはブレーキをかけるものであって,各省庁の所管業務にとっては,制約を課す性格を持っている。他省庁との厳しい軋轢を生じ得る機能であり,それ故他省庁とのより密接な連携が一層必要とされるのである。よって,消費者庁が各省庁の所在地から隔絶されることは,我が国の消費者政策の推進が停滞することとなる。

したがって,消費者庁を地方移転の対象とするのは不適当である。

3 国民生活センターの地方移転について
(1) 国民生活センターの政策形成への役割と消費者庁との連携

国民生活センターは,全国の消費生活相談情報を集約・分析し,一般消費者や地方自治体に情報を発信することにより消費者や地方消費者行政を支援する機能を担い,さらに,相談情報を分析した結果に基づいて,消費者庁や各省庁の消費者関係法制度の不備や見直しの問題提起を行う機能を担っている。この機能は消費者行政の推進や法の新設・改正に極めて重要な役割を果たしている。

2010年12月から2013年12月にかけて,国民生活センターを消費者庁と統合することにより機能強化することが検討された。この議論は,数年にわたり続けられ,最終的には当時の森まさこ大臣の下に設けられた「消費者行政の体制整備のための意見交換会」で検討され,2013年7月に中間整理が公表された。そこでは,消費者行政の在り方の基本認識として,「(1)消費者庁,消費者委員会,国民生活センターの三者の緊密な連携の必要,(2)これまでの国民生活センターの見直しにより,本来充実強化されるべき国民生活センターの機能が低下しており,早急な回復の必要,(3)国民生活センターの在り方については,各機能の一体性確保と機能の維持・充実を,消費者行政推進の視点で検討の必要」との結論が示された。また,当面の対応として,「(1)国民生活センターで,新しく消費者を対象とした『お昼の消費生活相談』を実施,(2)3つの機関の情報提供・政策的対応への連携の中で,とくに国民生活センターが提起した意見・要望の政策形成への活用・反映への取組」を取り上げた。そして,2013年12月には,森大臣から,国民生活センターの在り方について,「消費者行政の推進にとって,国民生活センターは,消費者行政における中核的な実施機関として,(1)消費者行政の司令塔機能の発揮,(2)地方消費者行政の推進,(3)消費者への注意喚起のいずれにとっても不可欠な存在である。」との位置づけが示された。

このように,国民生活センターは消費者庁・消費者委員会と緊密な連携を図ることにより,政府全体の消費者行政を推進する役割があることが確認され,国民生活センターが提起した意見・要望の政策形成への活用・反映への取組が重視されているのである。消費者庁,消費者委員会及び国民生活センターは,相互に連携しつつ一体的に消費者政策の司令塔機能を発揮することが求められる組織である。

国民生活センターはこれらの機能を果たすために,全国の消費生活相談センター・消費生活相談窓口から収集された相談情報であるPIO-NET情報を分析し,各省庁が行う消費者関連法の制定・改正における立法事実を明らかにする資料を作成し情報提供している。消費者庁のほか警察庁,経済産業省をはじめ各省庁が消費者関連法を執行したり,改正を審議するに当たり,国民生活センターに相談情報の分析を依頼したりしており,その場合には各省庁の担当者の問題意識を国民生活センターの担当職員と直接面談して密に意見交換することが重要である。

例えば,取引においては,具体的な事業者の勧誘資料を基に被害現場の声を直接反映させるため,国民生活センターと消費者庁など各省庁の担当部局や当該事業者との議論が必要であり,消費者庁との協議は毎週のように実施されている。製品の安全については,当該製品を目の前にした消費者庁など各省庁の担当部局や当該事業者との検討が不可欠である。しかし,国民生活センターの商品テスト部門は,徳島県への移転の対象から除かれているので,このような作業が困難になる。

国民生活センターが地方に移転することによって,これらの消費者庁やその他の省庁との緊密な連携が損なわれ,消費者庁の司令塔機能を具体化する情報分析や政策提言機能が低下していくことが強く懸念される。

(2) 国民生活センターの消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割

国民生活センターは,全国各地の消費生活センター・消費生活相談窓口の相談処理の支援機能として,相談支援,情報提供,商品テスト,ADRなどを実施して,消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割を果たしている。例えば,問題のある取引をしている事業者との協議を行ってその情報を各地に発信し,商品テストを実施して,その結果に基づき注意喚起・情報提供・事業者指導をするとともに,紛争解決委員会(ADR実施機関)において事業者と消費者の出席を求め和解の仲介手続を行っている。これらの機能を果たすためには,多数の専門家の確保,協議のための事業者の来訪・訪問などが必要となるが,地方でこのような専門家が確保できるか,事業者が来訪するか等が懸念されるし,各地から集まってもらうとしても多くの費用がかかることになる。

さらに,このたびの地方移転の提案は,国民生活センターのテスト・研修部門は現状のまま神奈川県に残し,東京事務所の部署だけを移転するものであり,同センターの各機能の有機的結合が遮断されかねない。国民生活センターの機能として既に確認されている,各機能の一体性確保と機能の維持・充実に反するものとなる。

このように,国民生活センターの地方移転は国民生活センターの消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割を阻害する懸念が強くある。

(3) 小 括

以上のように,国民生活センターは,消費者基本法第25条に定められた消費者行政の中核的実施機関として,消費者庁,消費者委員会と連携して,諸問題を検討して関連省庁に意見を述べ,地方消費者行政を支援し,消費者・事業者・地方自治体・各省庁に情報提供を行っている。国民生活センターの役割は国民生活センターのみで自己完結しているわけではない。その役割を果たすためには,各省庁に近接し日常的に連携でき,消費者庁,消費者委員会が所在している場所に近いところで,多くの専門家が確保できるところにある必要がある。したがって,国民生活センターを地方移転の対象とするのは不適当である。

4 消費者委員会の地方移転について

現時点で消費者委員会の地方移転について公表された資料は見当たらないが,前述のとおり国の消費者行政は消費者庁・消費者委員会・国民生活センターが相互に連携しつつそれぞれの役割を果たしていることから,念のためこの点についても触れておく。

消費者委員会は現在非常勤の委員10名から構成されており,月に1回程度の本委員会のほか,新開発食品調査部会,消費者契約法専門調査会,特定商取引法専門調査会,ワーキング・グループなどの部会・専門調査会等が随時開催されている。本委員会については,その準備のために委員間打合せを複数回行い,事務局と個別の委員との打合せも頻繁に行われている。そのために,必要な専門家の参画もなされている。

消費者委員会は消費者庁等からの諮問事項を審議するほか,任意のテーマを自ら調査して他省庁への建議等を行うという監視機能を有している。他省庁からの諮問の場合に諮問した省庁等との連絡を密にすることはもちろんであるが,建議等の監視機能の行使においても,他省庁や関連事業者,事業者団体からの事情聴取・協議も頻繁に行うことになる。この場合,消費者委員会の会議の場にこれら関係省庁,事業者等を招へいするほか,委員会側から直接赴いて事情を聴取し,あるいは改善の必要性について説得することも行われている。

とりわけ建議の対象となる省庁や関連事業者等を相手とする場合,こうした直接の面談,交渉抜きでは十分に実情を踏まえた建議等の取りまとめは困難であるし,最低限の説得を行わないまま提案を行っても,建議等発出後の実現可能性が大きく低下することとなりかねない。ちなみに,この間,消費者委員会は18本の建議,12本の提言,50本の意見を他省庁に提出しているが,こうしたねばり強い説得・説明作業の結果,ほとんどの建議について対象省庁となった省庁により何らかの対応が行われているという現状にあり,高い成果を上げている。地方移転でこのような説得・説明が困難となることが懸念される。

以上のような実情に鑑みても,消費者委員会の地方移転はその大幅な機能低下をもたらすおそれが大きいと言わざるを得ないのであり,やはり反対せざるを得ない。

5 結 論

以上のとおり,消費者庁及び国民生活センターの地方への移転は,消費者庁,国民生活センターの機能を低下させ,我が国の消費者行政の機能の推進を阻害しかねないので,反対する。

以 上

特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書

カテゴリー:意見

2015年(平成27年)9月18日
福岡県弁護士会 会長  斉 藤 芳 朗

第1 意見の趣旨

1 特定商取引法に,電話勧誘販売に関して,いわゆる「Do-Not-Call制度」(電話による勧誘を受けたくない人に,事前に登録をしてもらい,登録された電話番号への電話勧誘を禁止する制度。以下「電話勧誘拒否制度」という。)を直ちに導入することを求める。

2 同法に,訪問販売に関して,いわゆる「Do-Not-Knock制度」(訪問販売を受けたくない人が,お断りステッカーなどを家先に貼った場合や,住所等を事前に登録した場合に,訪問販売を禁止する制度(以下「訪問販売拒否制度」という。)を直ちに導入することを求める。

3 上記1,2の各制度については,現行特定商取引法第26条第1項第8号の適用除外業種をそのまま容認すべきではなく,適用除外業種を狭めるあるいは撤廃する方向で,特定商取引法第26条の見直し又は各特別法の見直しを行うべきである。

第2 意見の理由

1 電話勧誘拒否制度導入について
(1) 導入の必要性

全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)の登録情報によれば,電話勧誘販売についての相談件数は2010年(平成22年)から2014年(平成26年)までの5年間で合計40万7526件(1年あたりの平均で,約8万1505件)に達しており,相談件数としても増加傾向にある(独立行政法人国民生活センターウェブサイト「販売購入形態別の年度別推移及び相談全体に占める割合」参照。http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/mutenpo.html)。

電話勧誘販売においては,消費者からすれば,突然かかってきた電話によって勧誘を受けるため,当該販売方法は,強引な言動等に困惑して契約をしてしまったり,あるいは何度も執拗に電話がかかってくるために断り切れずに契約をしてしまったりすることが類型的に生じやすいものであると言える。

ここで,特定商取引法においては,消費者保護のため,電話勧誘については事業者の名称や勧誘の目的を明示する義務が定められ,8日間のクーリングオフ期間も設けられており,また,具体的な拒否の意思表示があった場合の再勧誘も禁止されている。しかし,上記のとおり,未だに多数の相談が寄せられており,さらには増加傾向にあることからすれば,望まない契約をさせられてしまった消費者の保護としては,十分とは言えない状況にある。

そこで,電話勧誘拒否制度を導入することによって,断る力が十分でない消費者に自衛の手段を認めるべきであると思料する。

この点,事業者においては,予め電話勧誘を拒絶した消費者への勧誘を禁止されることで,消費者の商品選択の幅が狭められてしまうことになるとか,販売方法が限定されることで経済が停滞することに繋がる等といった点から,電話勧誘拒否制度の導入に反対をされることが予想される。

しかしながら,前者の点についていえば,当該制度は,電話勧誘を受けたくないという消費者を保護するものに止まっており,電話勧誘を受けたいと考えている消費者に対して電話勧誘を行うことは何ら否定されておらず,情報を得たいと欲している消費者からその機会を奪うことにはならない。また,後者の点についても,上記のとおり電話勧誘販売についての相談件数の多さに鑑みれば,消費者被害の生じやすい類型の販売方法については適切な規制を加えることが国民経済の健全な発展に寄与すると考えるべきである。むしろ,事業者においても,当初より電話勧誘を拒否する消費者が明確になった方が,より購入意欲の強い消費者に対して集中的かつ効率的に勧誘を行うことができるようになるのであり,合理的であると解する。

なお,電話勧誘拒否制度は,諸外国においても広く導入されている制度であり,購入者等の利益保護と,商品等の流通及び役務の提供の適正化・円滑化の調和を図るうえで,一般的にその有効性が認知された,必要な制度であるというべきである。

(2) 制度設計について

制度設計,主に,どのようにして事前拒否の登録をし,その登録情報を誰がどのように管理し,また事業者がその情報をどのようにして確認できるようにするのかについては,情報の目的外利用等,不正な利用がされないように留意する必要があり,国を始めとして,しかるべき機関において,慎重に管理されなければならない。

2 訪問販売拒否制度導入の必要性
(1) 導入の必要性

電話勧誘拒否制度の項で確認したのと同じく,全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)の登録情報によれば,訪問販売についての相談件数は2010年(平成22年)から2014年(平成26年)までの5年間で合計46万8622件(1年あたりの平均で,約9万3724件)に達しており,相談件数としてはやや減少傾向を見せつつも,依然として高い値を維持している(上記独立行政法人国民生活センターウェブサイト「販売購入形態別の年度別推移及び相談全体に占める割合」参照)。

訪問販売も電話勧誘と同じく,消費者からすると,望まない契約を締結させられてしまいやすい性質を有している。すなわち,訪問販売においては,消費者からすれば,自宅等を突然訪れた販売員から勧誘を受けるのであり,やはり強引な言動等に困惑して契約をしてしまったり,あるいは対面式であるために執拗な勧誘を断ることに疲弊してしまい,断り切れずに契約をしてしまうということが類型的に生じやすいものであると言える。

そのため,特定商取引法においては,消費者保護のため,訪問勧誘についても,過量販売規制や8日間のクーリングオフ期間も設けられているほか,具体的な拒否の意思表示があった場合の再勧誘も禁止されている。しかし,上記のとおり,未だに多数の相談が寄せられていることからすれば,望まない契約をさせられてしまった消費者の保護としては,十分とまでは言えない状況にある。

つまり,訪問販売においても,電話勧誘販売と同じく,断る力の十分でない消費者に自らの利益を守る術を認める必要があるのであり,訪問販売拒否制度を導入することによって,断る力が十分でない消費者に自衛の手段を認めるべきであると思料する。

この点,事業者においては,電話勧誘拒否制度の項において指摘したのと同じように,訪問販売を拒絶した消費者への勧誘を禁止されることで,消費者の商品選択の幅が狭められてしまうことになるとか,販売方法が限定されることで経済が停滞することに繋がる等といった点から,電話勧誘拒否制度の導入に反対をされることが予想される。

しかし,既に述べたとおり,当該制度の下においても,訪問勧誘を受けたいと考えている消費者の自宅を訪れる等して勧誘を行うことは何ら否定されておらず,情報を得たいと欲している消費者からその機会を奪うことにはならない。また,後者の点についても,上記のとおり訪問販売についての相談件数が依然として高止まりしていることに鑑みれば,消費者被害の生じやすい類型の販売方法については適切な規制を加えることが国民経済の健全な発展に寄与すると考えるべきである。むしろ,事業者においても,当初より訪問販売を拒否するものが明確になった方が,より購入意欲の強い消費者に対して集中的かつ効率的に勧誘を行うことができるようになる点も,電話勧誘販売の項において指摘したのと同様である。

なお,訪問販売拒否制度も,諸外国においても広く導入されている制度であり,購入者等の利益保護と,商品等の流通及び役務の提供の適正化・円滑化の調和を図るうえで,一般的にその有効性が認知された,必要な制度であるというべきである。

(2) 制度設計について

訪問販売拒否制度は,ステッカーを家先に貼ることや,住所等を予め登録することで拒否の意思を事業者に対して示すものであり,その制度設計,主に,どのようにして事前拒否の登録をし,その登録情報を誰がどのように管理し,また事業者がその情報をどのようにして確認できるようにするのかについては,電話勧誘拒否制度と同じく,情報の目的外利用等,不正な利用がされないように留意する必要があり,国を始めとして,しかるべき機関において,慎重に管理されなければならない。

3 適用除外業種の見直しについて

さらに,上記の事前拒否者への勧誘禁止制度は,事前に電話勧誘,訪問販売勧誘を受けることを望まない消費者の意思を守ることを目的とするものであり,事業内容(業種)に関わらず,電話勧誘,訪問販売勧誘を行う事業者について広く認められるべきである。

したがって,同制度を導入するにあたっては,現行特定商取引法第26条第1項第8号の適用除外業種をそのまま容認するのではなく,特定商取引法第26条の見直し又は各特別法の見直しによって,適用対象を広げる方向で対応すべきである。

4 結語

電話勧誘販売や訪問販売により消費者被害が生じており,かかる被害を防止し,ないしはかかる被害から消費者を救済すべきことは,全国的にも重要な課題となっているものと思料する。そしてこのことは,当会においても同様であり,その被害防止・救済の必要性は何ら変わるところはなく,当会においても,極めて重要な問題となっている。

他方で,電話勧誘や訪問販売について,これを事前に拒否する意思を示した者への勧誘を禁止する制度は,消費者から承諾を得た勧誘や,勧誘を拒絶していない者に対して勧誘することまでを否定するものではなく,事業者の経済活動を不当に抑制することにはならない。

予め勧誘をしないように求めている消費者に対する勧誘を禁止することは,一般に浸透している社会通念からしても,また商道徳上も極めて当然のことであり,国民経済の健全な発展のために,何ら躊躇される必要のないものである。

以上の理由から,意見の趣旨記載の対応を強く求める次第である。

以上

「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の施行に伴う政令(案)、内閣府令(案)、ガイドライン(案)等に関する意見募集」に対する意見

カテゴリー:意見

消費者庁消費者制度課 御中

福岡県弁護士会 会長  斉 藤 芳 朗

福岡県弁護士会は、標記に関して、消費者委員会での協議を経て、以下のような意見をまとめました。

よって、福岡県弁護士会として、本意見書を提出いたします。

【はじめに】

1 現在、貴庁におかれては、平成25年12月の「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(平成25年法律第96号)の公布に伴い、同法の施行に向けた準備を進めておられるところ、集団的消費者被害回復に係る訴訟制度においては、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力に格差があることで消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があることを前提に、特定適格消費者団体が被害回復裁判手続を追行せしめ、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することが目的とされている(消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(以下「消費者裁判特例法」という。)1条参照)。

すなわち、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景として、日々、消費者被害は生じているのであり、消費者被害を可及的速やかに回復されるために、本訴訟制度においては、消費者の財産的被害が円滑に回復されることが求められているというべきである。

2 そしてそのためには、本訴訟制度に関する手続きの担い手である特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動が担保される仕組みになっており、かつ、本訴訟制度自体も、違法収益の返還のために効率的なものとなっていなければならない。制度設計にあっては、本訴訟制度が上記の目的のために定められたものであることを常に念頭に置き、釈根灌枝になることのないよう、慎重に考える必要がある。

(1) 現在の適格消費者団体の多くは、わずかな財政基盤の中で、有志の無償の協力の下にその活動を維持していると聞いているところ、特定適格消費者団体においても、その状況に変わるところはないと思料する。

特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動を担保する仕組みを構築するという視点が疎かになれば、それは、特定適格消費者団体の活動を阻害し、眼前の消費者被害を放置して、悪徳業者の違法収益を助長するという結果をもたらすのであり、そのような制度は改められなければならない。

(2) また、本訴訟制度は、本来であれば個別の民事訴訟に馴染みにくい少額案件について、同様の被害を受けた消費者が多数参加することを促すことで、その回復を図る制度である。

そのためには、本訴訟制度が、消費者から見て参加しやすい制度であることはもちろん、特定適格消費者団体から見ても取り組みやすいものとなっていなければならない。

この点についての視点が疎かになれば、上記(1)と同じく、それは、特定適格消費者団体の活動を阻害し、眼前の消費者被害を放置して、悪徳業者の違法収益を助長するという結果をもたらすのであり、そのような制度は改められなければならない。

3 以上の視点から見るに、「特定適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)には、以下の問題点があり、速やかに見直されるべきである。

【本ガイドライン 2(2)イ「情報提供義務の実施の方法」について】

[意見]

被害回復裁判手続に関する業務に付随する対象消費者に対する情報の提供に係る業務を適正に遂行するための体制の整備について、消費者裁判特例法82条の規定に基づく情報の提供に当たり、考慮すべき事柄から、「被害を受けたと考えられる消費者の範囲」、「被害金額の多寡」、「今後の被害拡大のおそれ」、「当該事業者の対応状況」、「公表されることにより事業者に与える影響」は、削除されるべきである。

[理由]

特定適格消費者団体は、被害回復裁判手続に関する業務に付随して対象消費者に対する情報の提供に係る業務を担うものとされており(消費者裁判特例法65条)、また、対象消費者の財産的被害の回復に資するため、対象消費者に対し、共通義務確認の訴えを提起したこと、共通義務確認訴訟の確定判決の内容その他必要な情報を提供するよう努めなければならないとされている(消費者裁判特例法82条)。

ここで、消費者裁判特例法の目的規定(同法1条)からも、情報の質及び量の格差をできる限り解消することが求められているというべきであり、情報提供に当たっては、できる限り広く、消費者において、消費者被害が生じている事実に触れる機会が得られることが肝要であるというべきである。

したがって、消費者被害が生じていることは、原則として消費者に知らしめられるべきである。しかるに、「被害を受けたと考えられる消費者の範囲」、「被害金額の多寡」、「今後の被害拡大のおそれ」、「当該事業者の対応状況」、「公表されることにより事業者に与える影響」等を考慮して、情報提供について抑制的であらしめることは、上記目的に悖るものであり、許容されない。少なくとも、特定適格消費者団体の組織作りにあたって敢えて考慮すべき事柄であるとは考えられないものである。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 2(2)エ「金銭その他の財産の管理の方法」について】

[意見]

1 被害回復裁判手続に関する業務を適正に遂行するための体制の整備について、対象消費者宛ての金銭を受領した場合の対象消費者への通知については、対象消費者と特定適格消費者団体との合意に任されるべきことであり、同(エ)の定めについては削除されるべきである。

2 被害回復裁判手続に関する業務を適正に遂行するための体制の整備について、同(カ)金銭管理責任者の設置については、第二文の定めは削除されるべきである。

[理由]

1 【はじめに】の項でも触れたとおり、本訴訟制度を適切に運営するためには、特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動が担保される仕組みになっていなければならない。

そして、対象消費者宛ての金銭については、少額の金銭が回収される場合や、複数回に分けて回収される場合がありうるのであり、これは、事件ごとに種々ありうる。

少額の金銭が回収される場合や、複数回に分けて回収されるような場合にまで、すべて対象消費者への遅滞ない通知を予め義務付けてしまえば、通知のために過分の費用を費消する結果となってしまいかねず、特定適格消費者団体の活動の継続性を損なうことにもなりかねないと危惧する。

したがって、対象消費者宛ての金銭を受領した場合の対象消費者への通知については、個別に、事件の規模等を考慮しながら、対象消費者と特定適格消費者団体との間における合意に任せるのが合理的であり、本ガイドライン等により、拘束すべき事柄ではないというべきである。

2 また、金銭管理責任者についても同様の問題がある。

すなわち、本ガイドラインにおいては、「公認会計士、税理士、破産管財人等の実務に精通した弁護士、企業会計に従事した経歴がある者など金銭管理を適切にすることができる者が任命される必要がある」と規定されているが、金銭管理を適切にすることができる者は、必ずしも、「公認会計士、税理士、破産管財人等の実務に精通した弁護士」に限られるものではない。

本ガイドラインが、「企業会計に従事した経歴がある者など」をその後に併記しているのもその趣旨であると考えられる。

しかし、上記の有資格者を例示として挙げることにより、「企業会計に従事した経歴がある者など」についても、上記の有資格者と同等の知識経験を有する者を任命する必要があると理解される可能性がある。

そうすると、特定適格団体において、これらの者を任命するために過分の費用を費消する結果となってしまいかねず、特定適格消費者団体の活動の継続性を損なうことにもなりかねないと危惧する。

3 よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 2(6)イ「簡易確定手続きに関する報酬及び費用の基準の考え方」について】

[意見]

同(イ)の少なくとも回収額の50%超を消費者の取戻分とする必要があるとの部分については、削除されるべきである。

[理由]

本ガイドラインにおいては、「特定適格消費者団体が少額事件に対して積極的に取り組む必要がある」(本ガイドライン 2(6)ア)とされている。本ガイドラインにおいては、これは特定適格団体が「業務を効率化させる」(同)ことで実現できると考えられているようであるが、本来的には、特定適格消費者団体が、少額事件に対しても積極的に、安心して取り組めるような制度設計がなされることが前提となっていなければならない。

しかしながら、本ガイドラインにおいては、本意見で述べてきた点を見ても明らかなとおり、むしろ特定適格消費者団体においては、その体制を維持し、本訴訟制度を担うために過分の費用を支出しなければならない制度となっており、その活動を継続的に行い、また、本訴訟制度の追行に要する費用を削減する余地は限りなく狭められてしまっている。

そのうえ、本ガイドラインの上記の定めは、回収額の50%超を消費者の取戻分とする必要があるとしている。しかも、債権届出より後の手続きに要する費用については、実費であっても、消費者に負担を求めることはできないと読める。そうすると、たとえば、本ガイドラインによれば、30人の被害者が見込まれる事件について一人当たり5000円の回収を目指すような場合において、首尾よく回収されれば各消費者に2500円以上を交付することになる。

この場合、各消費者に2500円以上を返金するためには、共通義務確認訴訟を追行する中での費用(弁護士費用を含む。)を7万5000円以下に抑えられなければ、特定適格消費者団体の資産を取り崩すことになる。少額事件に積極的に取り組む特定適格消費者団体ほど、業務を効率化できない中で、乏しい財政基盤をさらに危うくしていくことになりかねず、延いては本訴訟制度が機能不全に陥ってしまうことが強く危惧されるのである。

これまで、多数の消費者被害が救済されてきた背景には、多数の弁護士等が無償で尽力をしてきたという経過がある。しかしこれは、消費者被害の救済に努める弁護士においては、一方で多数の日常業務をこなしているからこそ、特定の事件に限って無償(あるいは限りなく無償に近い僅少な対価)で行うことができたに過ぎない。特定適格消費者団体は、専ら消費者被害の救済を目的とする団体であり、継続性が求められるのであって、そもそも弁護士が個別に消費者被害に関わるのとは大きく様相を異にするのであるから、特定適格消費者団体の無償活動をもって制度を運用しようとするのは、前提を誤っていると言わざるを得ない。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 4(5)「授権契約の拒絶及び解除」について】

[意見]

授権をする者あるいは授権をした者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合、及び、授権をする者あるいは授権をした者の判断能力が十分でない場合も、消費者裁判特例法33条1項、2項の「やむを得ない理由」に含めるべきである。

[理由]

1 消費者裁判特例法33条1項、2項においては、「やむを得ない理由」がある場合に限って、簡易確定手続授権契約の締結を拒絶でき、又は解除できるとしているところ、授権をする者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合においても、特定適格消費者団体としては、手続きの追行に支障を来すのであるから、上記の授権契約の締結を拒絶できる「やむを得ない理由」に含まれるとするべきである。

また、授権をした者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合においても、特定適格消費者団体において、手続きの追行に支障を来すのであるから、上記の授権契約を解除できる「やむを得ない理由」に含まれるとするべきである。

2 加えて、授権をする者、あるいは授権をした者の判断能力が危ぶまれる場合には、特定適格消費者団体において、手続きの追行に支障を来すことが考えられるのであるから、上記1と同様に考えるべきである。

3 よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 5(4)「報酬及び費用等についての監督」について】

[意見]

事件の選定状況については監督対象から除外されるべきである。仮に,事件の選定状況について監督をするのであれば,事後的な監督ではなく,事前に特定消費者団体からの問い合わせに対して,貴庁が,事件の選定が適切か否かを回答することとされるべきである。

[理由]

そもそも、本訴訟制度において、特定適格消費者団体は、まず、被害者からの相談等を契機に、消費者被害が生じていることを把握し、次に、その事件について必要な資料を収集し、当該事業者の用いる約款等にどのような法的問題があるのかを検討し、そして、その事業者が、違法収益の任意の返還等に応じなかった場合に、訴訟を提起して解決を図るというのが一般的な手続きの進行になると考えられる。しかも、特定適格消費者団体が消費者から報酬を得ることができるのは、共通義務確認訴訟で勝訴した(あるいは勝訴的な解決を得た)場合のみである。

このような一連の手続きを前提として、特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をする余地は、限りなく少ないというべきである。

すなわち、仮に特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をしようと試みたとしても、事件の把握から訴訟の提起に至るまで、そもそも勝訴に至るだけの資料を集められるかも不確定であり、また、事業者が任意に被害回復措置を講じる可能性もある。この場合には、特定適格消費者団体が報酬を得る機会はない。事件の把握から共通義務確認訴訟の終結までに、事業者が支払い能力を失う可能性もある。この場合にも特定適格消費者団体が報酬を得る術はない。

このように、仮に特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をしようと試みたとしても、それが奏功する保証はないのである。

他方で、事件の選定状況について消費者庁から監督されるとした場合、特定適格消費者団体において、過度に萎縮的な効果をもたらし、結果として、被害回復をためらうことになってしまうおそれがある。

たとえば、偶さか、当該特定適格消費者団体において、良好な解決を得た事件が続いた場合に、新たに把握した事件についても回収の見込みがありそうだと判断したときに、当該事業者に対して被害の回復を求めることが、「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」を行っているとの誹りを受けることになると危惧して、その消費者被害を見過ごすことは、本訴訟制度の目的との関係で背理以外の何物でもない。

【はじめに】の項においても指摘したとおり、本訴訟制度は、特定適格消費者団体が、積極的に、かつ、安心して取り組めるような制度になっていなければならないところ、事件の選定状況について消費者庁が監督をすることは、特定適格消費者団体において、過度に萎縮的な効果をもたらすものであるから、見直されなければならない。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【最後に】

繰り返し述べてきたとおり、特定適格消費者団体が、積極的に、かつ、安心して取り組めるような制度が策定されることが求められるところ、特定適格消費者団体が被害回復業務に専念できるよう、その団体を維持し、その活動を充実したものにすることについては、財政支援をすることが必要不可欠である。

したがって、これまで述べてきたことに加えて、特定適格消費者団体の必要性を踏まえ、具体的な財政支援が行われることを求める。

「消費者安全法改正に伴う関係内閣府令(案)及びガイドライン(案)」に関する意見書

カテゴリー:意見

2015年(平成27年)2月10日
福岡県弁護士会 会長 三浦邦俊

第1 意見の趣旨

1 消費者安全法改正に伴う関係内閣府令案について

(1) 消費者安全法施行規則(以下「施行規則」という。)第7条第1項第1号後段及び同第2項第1号後段において,それぞれ「特定非営利活動促進法第2条第2項に規定する特定非営利活動法人若しくは一般財団法人その他都道府県知事が適当と認める者であること(但し営利団体は除く)」,「特定非営利活動促進法第2条第2項に規定する特定非営利活動法人若しくは一般財団法人その他市町村長が適当と認める者であること(但し営利団体は除く)」とする内閣府令にすべきである。

(2) 施行規則第7条第1項第1号前段及び第2項前段は,「委託を受ける事務を消費者の権利の尊重及びその自立の支援の観点からみて公正かつ中立に実施できるものであって」とする内閣府令にするべきである。

 地方公共団体が消費生活相談事務を委託する場合,内閣府令において,地方公共団体内に受託者に関する苦情窓口を設置することを義務付けるべきである。

 地方公共団体が消費生活相談事務を委託する場合,内閣府令において,都道府県及び市町村に対し,消費者が相談するに先立ち,受託者が相談を受けること及び受託者に関する苦情窓口を委託者である地方自治体が受け付けていることを周知する義務を負わせるべきである。

 地方公共団体による受託者への適切な監督・監視について,消費生活相談事務を委託する場合,内閣府令において,都道府県及び市町村は,消費生活審議会等を設置し,事務の委託について,審議を経ることを義務付けるべきである。

 改正消費者安全法の実施に係る地方消費者行政ガイドライン(案)(以下「ガイドライン案」という。)Ⅱ1.(1)エ「消費者生活相談等の事務の委託」について

(1) 以下の趣旨の記載を加えるべきである。

施行規則第7条第1項第1号及び第2項第1号の基準に適合するか否かの地方自治体の判断に際しては,以下の点に留意し,実施すべきである。

  • ・法人の目的ないし活動方針に鑑み,消費者トラブルに直接的な利害関係を有する者又は有する可能性がある者であるかどうか。
  • ・過去の活動実績が消費者の権利の尊重及びその自立支援に資する者であったかどうか。
  • ・積極的にあっせんの処理を行う意思があり,かつ態勢が整っているかどうか。
  • ・委託先の選定理由を明示すること

(2) 本文中「効果的かつ効率的に事務を実施できるといった効果が期待される一方で」を削除すべきである。

(3) 消費生活相談等の事務の委託により期待される効果と問題点(13ページ)につき「(1)事務の民間委託により期待される効果」を削除すべきである。

(4) 消費生活相談等の事務の民間への委託の際の留意点(14ページ以下)につき,「(1)事務の実施に関して」において,受託団体の責任者を通じた連絡調整しか許されないとの誤解が生じない記述とするべきである。また,受託者の監視につき,利益相反の有無及び自治体との連携等,具体的な監視項目を明示すべきである。

(5) 消費生活相談等の事務の民間への委託の際の留意点につき,「(4)消費生活相談等により得られた情報の活用に関して」において,受託者が,消費生活相談事務により得られた情報を自らの業務のために利用することは,地方公共団体の了解があったとしても認めるべきではない。

第2 意見の理由

1 意見の趣旨1(1)について

施行規則第7条第1項第1号後段及び同第2項第1号後段では,団体の属性に関し,「特定非営利活動促進法第2条第2項に規定する特定非営利活動法人若しくは一般財団法人」という例示をしておきながら,「その他」として,特段何らの制限もなく,地方公共団体の首長が適当と認める者を含めており,このままでは,団体の属性に着目した基準が骨抜きにされるおそれがある。そうならないためには,地方公共団体の首長が適当と認める者の範囲について,例示の趣旨に沿うように制限を設け,これを明記しておくべきである。

そして,その範囲に関してであるが,営利団体を除外すべきと考える。

当弁護士会は,福岡市に対し,2014年(平成26年)3月12日付「消費生活相談業務についての意見書」において,消費生活相談業務の委託先については,消費生活相談業務の趣旨を理解するとともに,十分な専門知識を有し,公正かつ信頼性のある立場において業務を執行することのできる団体に限定すべきであって,少なくとも営利団体への業務委託は不適切であり,改善すべきである旨の意見を述べているところであり,施行規則第7条第1項及び第2項の基準においても,上記意見書の趣旨と同様,営利団体を委託対象から除外すべきと考える。

上記意見書でも述べているが,除外すべき理由は,次のとおりである。

消費生活相談等の事務は,本来的に収益事業として成り立つ性質のものではない。にもかかわらず,営利団体がこれを受託しようとする場合には,営利を目的とする以上,何らかの利益が得られることを前提としているはずであるが,業務の性質上,消費者からの利益は想定できない。そうすると,その利益は事業者に由来するものといわざるをえない。消費者の立場からすれば,このように事業者に由来する利益が背景に存在すると受け止めるだけで,公平性・中立性に疑念を抱かざるをえない。これは,現に業務委託を受けた営利団体がその公平性・中立性の確保にいかに努めようとも避けることができないものである。したがって,その性質上必然的に公平性・中立性の確保が不可能な営利団体は,委託する際の基準において,あらかじめ除外しておくべきである。

また,このような制限を設けることにより,特定非営利活動法人や一般財団法人といった非営利団体を例示列挙した趣旨をより一層明確にし,徹底することにもつながり,その意味でも妥当である。

2 意見の趣旨1(2)について

営利団体を除外した上でなお,施行規則第7条第1項第1号前段及び第2項前段の「公正かつ中立」という要件は,非常に重要であり,これを要件とすること自体には賛成である。ただし,このままでは抽象的すぎるので,より具体的に示すため,「委託を受ける事務を消費者の権利の尊重及びその自立の支援の観点からみて」との文言を加えるべきである。

3 意見の趣旨2について

地方公共団体が安易に消費生活相談事務を外部委託することを防止する必要があり,また委託した場合には,受託者に対する適正な監視が求められるところ,適正な監視を行うには,監視・監督する側が,受託者に関する十分な情報を入手できる仕組みが必要である。そこで,受託者に関する苦情を委託者である地方公共団体が受け付けることとし,地方公共団体自身が必要な監督を行えるようにすべきである。また,地方公共団体が,受託者に関する情報を入手・保管すれば,議会や情報公開,審議会等を通じて,後日の検証が可能になる。

4 意見の趣旨3について

消費生活相談は,類型的にプライバシーに関わる内容が含まれる。そのような通常第三者へ知られたくない情報を消費者が申告する背景には,消費生活相談事務が,中立的・公益的な地方公共団体によって運用されていること,公務員が守秘義務を負うことに対する強い信頼感が前提として存在する。

ところが,消費生活相談事務が委託された場合,一次的に消費生活相談事務を取り扱う者は,地方公共団体及び公務員であるという前提を欠くことになる。そこでこの点を消費者へ予め知らせた上で,どのような個人情報を申告するのか,決定権を与えるべきである。

5 意見の趣旨4について

消費生活相談事務の受託者の監視は,適正な事務の執行に欠かせないものとして必要性が認められるところ,委託者による受託者の監視は,慣れ合いの危険が高い。そこで,客観性を担保するために第三者によるチェックを地方公共団体に義務付けるべきである。この点,新たに第三者機関を設置することは,地方公共団体の負担が大きいことから,既に多くの自治体で設置・運用実績がある消費生活審議会の審議事項にすることで,負担の軽減を図ると同時に,委託者と受託者の慣れ合いを一定程度防止することが可能である。

6 意見の趣旨5について

(1) 施行規則第7条第1項第1号及び同第2項における委託の基準をより具体的に示すため,ガイドライン案により詳細な判断基準を記載する必要がある。

例えば,その目的や活動方針に照らし,消費生活相談の当事者となる可能性があるような法人等については,受託開始時は利益相反のおそれがなかったとしても,受託期間中に利益相反が発生するおそれがある。そして,そのような事態が発生した場合,当該案件の処理が混乱するほか,消費生活相談の中立性・公正性に疑義が生じ,消費者行政全般に大きなマイナス要因となる。したがって,このような法人等が受託することがないよう,消費生活相談業務の受託者の基準を明確に記載する必要がある。

また,業務を受託した者が,真に消費者の権利の尊重及びその自立の支援の観点から業務を行うかどうかは,過去の活動実績も含めて判断することがより適切と考えられるため,当該要素をガイドライン案に加えることが望ましい。

さらに,効率性を重視し,相談業務を形式的に行い,あっせん処理を行わない委託先もありうる。しかし,消費者の権利実現の観点からはむしろあっせん処理を原則として考えるべきであり,あっせん処理を行わない委託先が相談業務に不適当であることは明らかであるため,「積極的にあっせん処理を行う意思があり,かつその態勢が整っているかどうか」という基準をガイドライン案に加えるべきである。

(2) ガイドライン案Ⅱ1.(1)エでは,「(1)事務の民間委託により期待される効果」として「地方公共団体の公務員以外の多様な人材が事務に従事することにより,人材及びサービス内容の多様性が確保される」,「委託期間は原則として1年単位であり,業務の実施状況により受託者が変わる可能性があることから,競争性が確保され,結果として効率的な事務の実施が可能となる」と指摘している(13ページ)。しかし,前者は,消費生活相談員という専門的な資格を有する者を配置すること自体が,一般職公務員以外の専門的かつ多様な人材を確保する目的で導入された人的体制であり,民間委託によって期待される効果ではない。また,後者は,消費生活相談業務は消費者問題に関する専門的な知識と実務経験の積み重ねによって得られる技能が必要であることから,再任回数の一律の制限(いわゆる「雇い止め」)を設けることがないよう,担当大臣及び長官による通知を繰り返し発してきたことと矛盾する。

このように,民間委託については,様々な問題が懸念されているほか,委託期間の限界から消費生活相談員の地位の安定が図られないという本質的な問題も存在する。このため,国は民間委託を推奨しているかの誤解を与えるような記載を控え,地方自治体は住民に説明できる委託先の選定理由を明示するべきである。

(3) ガイドライン案Ⅱ1.(1)エにおいて,「受託者において,地方公共団体の消費者行政担当部局との連絡調整を担当する(中略)責任者から偽装請負の疑いを排除すること」との記述は,消費者行政職員と受託団体の消費生活相談員・職員との連携が受託団体の責任者を通じてのみ行うことが許されるかのように受け止められるおそれがある,したがって,このような誤解が生じないよう表記を工夫する必要がある。

また,民間への事務の委託に関して,「地方自治体による受託者への監視を適切に実施するとともに,適切な監視(モニタリング)を定期的に行うこと。」とされているが,利害相反のおそれや自治体各部署との連携等具体的な監視項目を明示すべきである。

(4) 消費生活相談等により得られた情報の活用に関しては,受託者が,PIO-NETに接続することで,全国で発生するあらゆる消費者取引に関する情報を瞬時に何らの対価を必要とせずに入手できることを十分に考慮すべきである。営利団体の場合,自らの業務とは,営利追求を意味するが,地方公共団体が行う消費生活相談事務で得られた情報を特定の団体が営利目的で利用することについて,国民的なコンセンサスが得られているとは考えられない。税金で運用される消費生活相談事務が特定の受託者の営利に用いられる可能性については,慎重に検討されるべきである。

なお,本意見は,営利団体が自己の営利事業に消費生活相談事務の受託で得られた情報を利用することを制限する趣旨であるから,内閣府令7条に定める受託先の範囲から営利団体が除外された場合には,設ける必要はない。

以 上

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