国際委員会 事務局長 坂本 龍彦(69期)
当会は、2026年3月11日、シンガポール法律協会(The Law Society of Singapore)との間で当会として3番目となる友好協定を締結しました。1990年の釜山地方弁護士会、2010年の大連市律師協会との締結以降、新たな協定締結は約16年ぶりのことです。
新たな友好関係の構築
これまでの協定は、歴史的・人的な繋がりを背景としたものでしたが、今回は「これから新たな友好関係を構築すること」を目的とした初めての挑戦でした。
実務担当者として締結式まで走り抜けてまいりましたが、準備はすべて手探りの状態でした。本稿では、今後の他国弁護士会との交流の足がかりとなるよう、締結に至る詳細な経緯をご報告いたします。
友好協定締結に至る足跡 ― LAWASIAから「新たな一歩」へ
本プロジェクトの起点となったのは、2023年9月に本会が日本弁護士連合会と協力の上、福岡で開催した「LAWASIA人権大会」です。当時、実行委員長を務められた上田英友会員のもと、私も実務を担当したことが、本会のLAWASIA関連業務に深く携わる契機となりました。
翌2024年、徳永響会長(当時、以下、役職名はいずれも当時)の下で、本会はLAWASIAの団体会員となり、マレーシア・クアラルンプールでの年次大会に徳永会長、担当であった中原昌孝副会長と私が参加しました。この際、第二東京弁護士会のご厚意で、各国弁護士会との二者会合(通称「バイ会合」)にオブザーバーとして参加する貴重な機会を得ました。
続く2025年のベトナム・ハノイ大会において、上田会長と私が参加し、その際第二東京弁護士会のバイ会合に臨席しましたが、そこで、シンガポール法律協会のリサ・サム会長と2年連続で面会できたことが、後の大きな転換点となります。(第二東京弁護士会には感謝の念が絶えません。)
ハノイ大会最終日、私は上田会長へ「シンガポールと友好協定を締結できれば素晴らしいですね。」とメッセージを送りました。これに対し、上田会長から即座に「今年度中に締結しましょう!」との力強い回答をいただいたことで、プロジェクトは一気に現実味を帯びて動き出しました。
もっとも、会内での合意形成には慎重な議論を要しました。国際委員会に諮った際、概ね賛同を得た一方で、「釜山や大連の際は長年の交流の積み重ねがあった。今回は唐突感があり、会員から消極的な意見が出るのではないか。」との真摯な指摘をいただきました。これを受け、私は本協定を「交流のゴールとしてではなく、未来に向けた新たな友好関係を構築するための第一歩」と位置づける提案書を起案しました。
この方針について、委員会、執行部、そして常議員会において重ねて協議を行い、最終的には「本会の国際化に向けた新たな挑戦」として、全会一致で深いご理解をいただくことができました。
ゼロからの協定書案起案
リサ・サム先生が会長を退任された後にシンガポール法律協会の会長に就任されたタン・チェンハン先生へ、2026年1月、これまでの経緯と締結の意向を伝えるメールを送付しました。即座に前向きな回答をいただくことができ、いよいよ具体的な協定書案の作成と調整に入りました。
協定書案作成にあたり、過去の釜山地方弁護士会や大連市律師協会との協定書を確認しましたが、これらはいずれも既存の友好関係に基づいたシンプルな内容でした。今回は、当会にとって初となる「英米法(コモン・ロー)体系の国」との英語による協定締結であるため、雛形のない状態から条文を起案する必要がありました。
私自身、業務で英文契約書に触れる機会はあるものの、一からこのような協定書を起案した経験はなく、試行錯誤の連続でした。委員会や執行部と密にコミュニケーションを図りながら案文を練り上げ、先方との軽微な修正を経て、最終的な合意に至りました。
なお、この迅速な起案と交渉を支えたのは、最新のAIツールの活用です。AIの補助を得ることで、前例のない複雑な事務作業を短期間で完遂することが可能となりました。これは、現代の国際実務における一つの有効な手法であると実感しています。


友好協定締結式
本プロジェクトは、シンガポールとの繋がりを得た上田会長の任期中に締結したいという強い思いから、先方には1月のアプローチから3月の締結式まで、極めて短期間での検討と調整をお願いすることとなりましたが、快く受け入れてくださったシンガポール法律協会の皆様には感謝の念に堪えません。
迎えた2026年3月11日、上田会長、松井仁国際委員会委員長、そして私の3名で同協会を訪問し、締結式を執り行いました。式典において、上田会長からはアジアの重要な法的拠点であるシンガポールと、アジアの玄関口である福岡が、本日の締結を起点に相互訪問やセミナー等を通じて永続的な友情を育んでいきたいとの意向が示され、タン・チェンハン会長からも深い共感と同意の言葉をいただきました。
また、当会からは3月という季節に合わせ、両会の末永い発展を祈念して記念品の「博多人形(ひな人形)」を贈呈し、先方からは、協会会館が描かれた美しい絵画と、立派な協定書フォルダーを頂戴しました。
今後の展望 ― 実務に直結する交流を目指して
締結式後には、ランチ会を開催していただき、そこでは、両国の弁護士事情のみならず、不動産、相続、離婚(親権問題)など、共通する実務的課題についても活発な意見交換が行われ、今後の具体的な交流に向けた確かな手応えを得ることができました。先方からは「英語で対応可能な福岡の弁護士を紹介してほしい」との要望があり、具体的な相互協力の第一歩として、双方の弁護士紹介制度の構築について合意しました。
シンガポール法律協会では日本語対応が可能な現地の弁護士を紹介いただける体制を整えていただけることとなり、当会としては、早速2026年4月より「英語対応可能弁護士名簿」の登録募集を開始しております。(募集は5月末までとなりますが、毎年同時期に募集いたします。)
また、今回の訪問ではシンガポール国際仲裁センター(SIAC)に精通した弁護士との知己を得ることもでき、今後SIACに関する講演会等の実施も計画しています。
さらに、意見交換を通じて、不動産、相続、そして昨今関心の高い「共同親権」を含む離婚問題など、実務的な分野において相互に最新の知見を求めていることがわかりました。会員の皆様におかれましては、シンガポールの実務に関して協議を希望する事項がございましたら、ぜひ国際委員会までお寄せください。本協定を活かし、皆様の業務の一助となるよう尽力します。
アジアのリーガルハブ:シンガポール
最後に、本協定のパートナーであるシンガポールとシンガポール法律協会について紹介します。
シンガポールは、東京23区ほどの面積に多様なルーツが共存する「多文化共生」の先進国です。英語を公用語としつつ、中華系、マレー系、インド系、そして世界各国の駐在員が互いの文化を尊重し合う土壌が根付いています。
ビジネス面では「アジアのリーガルハブ」としての地位を不動のものとしており、コモン・ローを基礎とした透明性の高い司法制度は、世界中の企業から高い信頼を得ています。近年ではSIACをはじめとする紛争解決機能の拡充に注力しており、アジアにおける「法の支配」を牽引する知的な中心地としての存在感を強めています。
シンガポール法律協会は1967年に設立された、同国の全弁護士が加入する法定団体です。同協会の入るビルの一層上にはSIACの本部が置かれており、物理的にもまさに国際法務の最前線に位置しています。
アジアの玄関口たる福岡の弁護士会として、国際ビジネスを支えるリーガルサービスの提供、そして多文化共生のロールモデルたる同協会との協力体制が末永く続くことを心より祈念し、報告に代えさせていただきます。




