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2026年4月 の投稿

空き家を生まないためのシンポジウムの開催

カテゴリー:月報記事

会員 平尾 真吾(66期)

1 はじめに

令和8年2月14日、北九州市立男女共同参画センター・ムーブにて九州弁護士会連合会拡大協議会が開催されましたので、報告します。この拡大協議会は、九州弁護士会連合会高齢者・障害者の支援に関する連絡協議会が、各県弁護士会(福岡は福岡部会と北九州部会)にて年1回持ち回りで行っている市民向けのシンポジウムです。今回は、北九州が担当となり、「空き家を生まないためのシンポジウム~次の世代へのバトンの渡し方」と題してシンポジウムを開催しました。

2 基調講演

岡山県で空き家の対策をされている岡山大学学術研究院准教授の氏原岳人さん、中電技術コンサルタント株式会社織田恭平さん及び岡山住まいと暮らしの相談センター代表理事の石田信治さんの3名にご登壇いただき、基調講演を行っていただきました。氏原さん、織田さん及び石田さんは「岡山・空き家を生まないプロジェクト」のメンバーとして、岡山県内で空き家の発生を抑制するための取り組みをされています。

お三方には、空き家が発生してしまう原因やそれに対する対応の方法として、空き家の所有者の方に対する行動変容を促す仕組みづくりが重要であるとのご指摘をいただきました。特に空き家の所有者の心理として、後で起こる問題を想像できていないため、その結果、行動に至っていないというお話がありました。さらに、空き家になってから3年までは、空き家所有者の管理があるものの、それを超えると管理頻度が大幅に下がるとの指摘がありました。このような空き家所有者の心理を分析したうえで、岡山では、空き家所有者に対する情報提供と機会提供を行い、空き家所有者の行動変容を促す取り組みを行っているとの説明がありました。特に岡山では、この数年で空き家がこれから増えそうな地域を抽出し、その地域の世帯にアンケートを送付して、その世帯が空き家の問題に気付いてもらうという、珍しい情報提供の取り組みをしていることが説明されました。そして、リアクションのあった世帯に対して案内を行うという方法で、情報提供をしていることがわかりました。岡山では、さらに進んで、リアクションのあった世帯をホームページに誘導し、ウェブ上で質問に答えてもらった後に、「カルテ」を提供するという方法をとっています。これは、質問に回答した直後に、質問に答えてもらった世帯の置かれている状況をウェブ上で示すともに、どのような対応をすればよいか、相談する専門家がだれであるのかを案内するというものです。さらに、行動経済学で取り上げられる「ナッジ」という理論を使って、送付する文書をできる限りわかりやすく工夫したり、広報に力を入れているとの説明もありました。

このような手法を利用して、岡山では、空き家所有者の方に対して行動変容を促していることがわかりました。

3 パネルディスカッション

その後、基調講演をしていただいた3名に加えて、北九州市都市戦略局都市再生推進部空き家推進課で空き家対策係長を務めている森迫英夫さん及び当部会の小野純司さんを交えて、パネルディスカッションを行いました。

森迫さんからは、北九州市の空き家の現状をお話いただくとともに、「面的対策推進事業」という北九州での特色のある政策をお話しいただきました。これは、空き家が複数みられる地域について、北九州市が空き家の所有者の割り出しを行うなど支援をし、不動産業者が空き家を買い取るなどして開発を推進するという政策です。また、小野さんからは、弁護士として空き家問題にかかわる中で、信託や任意後見、成年後見という方法を紹介していただくともに、遺言を利用した方法が効果的であるとのお話がありました。

空き家の解消という命題は重要である一方、空き家所有者の方の意向に沿って空き家を未然に防ぐには、行動変容のアプローチが重要であることが改めてわかりました。また、継続的に空き家所有者に関与するとともに、遺言書を活用した方法がよいという認識を共有しました。

空き家については、現在様々な団体が活動をしていますが、弁護士会が遺言書の作成など、組織的かつ継続的に支援をしていくことの必要性を感じました。

【開催報告】シンポジウム「密室の扉をこじあけろ!~取調べの可視化と弁護人立会いの意義~」

カテゴリー:月報記事

刑事弁護等委員会 委員 池本 稔洋(77期)

1 はじめに

令和8年2月7日、福岡県弁護士会館において、シンポジウム「密室の扉をこじあけろ!~取調べの可視化と弁護人立会いの意義~」が開催されました。当日は現地およびZOOMでのオンライン参加を合わせ、計100名を超える方々にご参加いただき、極めて盛況な会となりました。

本シンポジウムは、専門家による講演や不正な取調べが行われた事件の事例報告、パネルディスカッションを通じ、取調べの可視化および弁護人立会いの必要性を社会に広く浸透させることを目的として企画されました。以下、そのような熱いシンポジウムの一端をご報告します。

2 基調講演:小坂井久氏による刑事司法の歴史と展望

基調講演では、「ミスター可視化」として長年この問題の第一線で尽力されてきた大阪弁護士会所属の小坂井久先生にご登壇いただきました。

小坂井先生のお話は、拷問が公然と行われていた約150年前、1875年にボアソナードが「拷問廃止建白」を提出した時代まで遡ります。戦後の日本国憲法下での黙秘権の確立、当番弁護士制度の創設、そして現在の取調べ録音・録画制度に至るまで、被疑者・被告人の権利保護に向けた歩みを俯瞰されました。こうした制度の進展は、志布志事件をはじめとする多くの裁判例と、各地の弁護人による懸命な運動の賜物であるという点が、丁寧な解説とともに強調されました。

しかし、プレサンス事件などの近時の事例が示す通り、現在の録音・録画制度下においても、依然として密室での不正な取調べは根絶されていません。小坂井先生は、取調室という「密室」を真に解体し、不正を抑制するためには、取調べの全面可視化と弁護人立会権の確立が不可欠であると力説されました。

3 志布志事件に関する事例報告

本シンポジウムのメインイベントが、志布志事件の冤罪被害者である川畑幸夫さんと、その弁護人を務めた野平康博先生による事例報告です。

(1) 志布志事件の概略

志布志事件は、2003年の鹿児島県議会議員選挙を巡り、多数の住民が公職選挙法違反の嫌疑をかけられた、極めて凄惨な冤罪事件です。特に、川畑さんが被害に遭われた「ビール口・焼酎口事件」における取調べは筆舌に尽くしがたいものでした。2003年4月、任意同行された川畑さんに対し、取調官の警部補は、川畑さんの実父、義父、孫が本人を諭す体裁の文言(「お前をこんな人間に育てた覚えはない」等)を記した3枚の用紙を用意しました。そして、川畑さんの両足首を掴んで無理やりその上に乗せるという「踏み字」を強要しました。

(2) 川畑さんと野平先生による志布志事件の報告

シンポジウムでは、野田幸言会員による志布志事件の概要説明の後、川畑さんと野平先生に対し、志布志事件における取調べの状況や当時の心境について、インタビュー形式でお聞きしました。川畑さんの口から語られた3日間におよぶ執拗な取調べの実態は、ご本人の言葉だからこその重みに溢れており、当時の精神的な苦しさがどれほど深いものであったかが痛切に伝わってきました。

続いて、高谷英生会員が当時の川畑さん役を、川畑さんご本人が取調官役を演じる形で「踏み字」の実演が行われました。ご本人の手によって、力強く何度も足を踏み鳴らされる様子が再現され、その場にいた全員が、密室で行われた非人道的な取調べの恐怖を追体験することとなりました。

野平先生からは、密室という特殊な環境がいかに捜査官と被疑者双方の心理を歪め、横暴を招くのかについて、詳しく述べていただきました。弁護人は、このような過酷な状況にある被疑者の立場に立ち、その心に寄り添うことが何より重要であると説かれました。

「踏み字」実演の様子

4 出口聡一郎先生による国家賠償請求訴訟の報告

続いて、佐賀県弁護士会の出口聡一郎先生より、直近の事例に基づく取調べの実態報告がなされました。

出口先生が国選弁護人を務めた令和3年の刑事事件では、被疑者が一貫して黙秘権を行使していたにもかかわらず、警察官が、自らの影響力を誇示しつつ「自白すれば罪が軽くなる」といった不適切な利益誘導を行い、被疑者が黙秘権を行使し続けると、白紙の調書に勝手に犯行を認める内容を記載して署名押印を迫るという、言語道断の行為が行われました。出口先生はこの黙秘権侵害を理由に国家賠償請求訴訟を提起し、裁判所は捜査の違法性を認め、国に損害賠償を命じる判決を下しました。

この報告は、録音録画制度が導入された現代においてもなお、前時代的な違法捜査が行われている実態を浮き彫りにしました。

5 パネルディスカッション

最後に、古賀祥多会員の進行で、全パネリストによるディスカッションが行われました。共通の見解として強調されたのは、「取調べの全面可視化」と「弁護人立会制度」の早急な実現です。特に、諸外国では弁護人の立会いが当然の権利として確立されている一方で、日本がいかに国際的な潮流から取り残されているかという指摘は、個人的にとても印象に残りました。

パネルディスカッションの様子

6 おわりに

本シンポジウムを通じ、150年にわたる違法な取調べとの闘いの歴史を再認識するとともに、刑事弁護人のたゆまぬ努力が司法を動かしてきたことを改めて学ぶことができました。質疑応答では、若手弁護士の権利侵害に対する感度の鈍さを指摘する厳しい声もありました。私自身、若手弁護士の一員として、日々の刑事弁護において違法な取調べを許さぬよう、より頻繁な接見を行い、被疑者の権利を守るために最善を尽くす決意を新たにしました。

会員の皆様におかれましても、取調べの弁護人立会いが「特別なこと」ではなく「当たり前の風景」となる社会を目指し、今後も積極的な取調べ立会いの申入れにご協力をお願いいたします。

7 取調べ立会い援助制度のご紹介

最後に、当会での取調べ立会い申入れ、立会い・準立会い実践に関する援助制度について、ご紹介いたします。

(1) 対象となる事件
  1. 被疑者国選事件
  2. 刑事被疑者弁護援助事件
  3. 元々は①・②事件であったが、被疑者の釈放後も引き続き無償で弁護人として弁護活動を行う事件
  4. 被告人国選弁護事件

※純粋の私選弁護事件は非対象です。

(2) 対象となる活動と金額(消費税別)
  1. 書面による立会いの申入れ 3000円(1事件で1回分のみ)
  2. 取調べへの立会い 1日3万円(他部会での立会いは4万円)
  3. 取調べへの準立会い 1日2万円(他部会での準立会いは3万円)

なお、②と③の合計額は、1事件につき15万円を限度とします。

(3) 遠距離交通費援助

立会い又は準立会いのために遠隔地移動を要した場合には、移動距離に応じて、片道4000円から1万6000円の範囲で支給されます。なお、国選弁護報酬との重複受給はできません。

(4) 申請手続

援助金・費用を請求する会員は、当会会員専用ホームページに記載の所定の書式を用いて申請します。請求できる期間は、弁護人としての活動が終了した日から6か月以内です。

詳細は、同ホームページに本制度のマニュアル・申請書等をご参照ください。

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