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2026年5月 の投稿

3月15日「イスラモフォビアと戦う国際デー」講演会 開催報告

カテゴリー:月報記事

ヘイトスピーチ問題対策WG メンバー 仲家 淳彦(60期)

  • みなさま こんにちは。「イスラモフォビアと戦う国際デー」の3月15日(日曜日)に開催した「共に生きる社会を諦めないために イスラム嫌悪とヘイトスピーチの構造を紐解く」講演会について報告します。
  • イスラモフォビアとはイスラム恐怖症(ムスリム嫌悪)のことです。2019年3月15日にニュージーランドでムスリムヘイトの白人至上主義者が銃乱射テロ事件を起こし51名を殺害したことから、犠牲者を追悼するとともに、宗教差別・ムスリムヘイトに抗議する記念日として国連が定めたものです。
  • 当ワーキンググループ(WG)は2022年福岡県弁護士会定期総会宣言に基づいて設置されたWGであり、その名のとおり、ヘイトスピーチ被害の予防・救済といったヘイトスピーチ問題への対策を検討しています。近年、排外主義言動が蔓延する中でムスリムを対象としたヘイトスピーチが増えていることから、当WGは、ヘイトスピーチ規制と多文化共生を考える機会を国際デーに合わせて講演会を設けることにしました。
  • 第一部では私がヘイトスピーチ規制の現状と今後について話しました。現時点で特定個人の権利を侵害しない限りヘイトスピーチを規制する法律はありません。特定の民族を指して「出て行け」「犯罪者集団」などと排斥・誹謗する行為は法律上、規制対象でないのです。ヘイトスピーチを理由に刑事上または民事上の責任を追及できるのは、それが名誉毀損等、特定個人(法人含む)の権利を侵害したと認められる場合に限ります。2016年にヘイトスピーチ解消法が制定されましたが同法は「ヘイトスピーチは許されない」と宣言しているものの罰則などを設けておらず実効的な規制がなされているとは言えません。実効的な規制として参考になるのが川崎市の条例です。当該条例は禁止行為を明記し、勧告、命令、を経た上で命令違反行為に罰金を科す内容となっています。川崎では当該条例施行後、ヘイト街宣が減少しておりその実効性が認められます。
  • 第二部ではイスラム研究者である九州大学の沖祐太郎・特任准教授に登壇いただきました。沖先生からはイスラモフォビアは、宗教的・文化的知識の欠如、ステレオタイプなムスリム観が基礎となっており近年はSNSにより偏見と憎悪が先鋭化しているとの指摘がなされました。沖先生によりますとイスラムと一口に言っても法や食、服装などのあらゆる分野で伝統的に多様性を有しており、現代では更に多様化が進んでいるということです。イスラモフォビアを広げないためにイスラムの多様性を知り、一般化せず、生活や仕事などの場面で直につながりを持つ、その際は「健全な無関心」を意識することなどが提案されました。考えてみますと「福岡県民」や「弁護士」と言っても千差万別なのですから「イスラム」の方々も、信条や性格は多様であることは当然のことと言えましょう。これら提案は、ムスリムのみならずあらゆる方々と接するときの参考になると思います。
  • 続けてインドネシア出身で佐賀在住のムスリム、ガリ・ブディアルトさんや、市民団体umbresのメンバーの方々が登壇しました。ガリさんからは教義はムスリムでも分からないことがある、など率直なお話を、umbresのみなさまからは、社会をよくする活動の在り方などのお話をいただきました。
  • 開催直前の告知であったにも関わらず、講演会では100名を超える市民のご参加をいただきました。参加された市民のみなさま、準備や開催にご協力くださった委員や関係者のみなさま、弁護士会事務局のみなさま、告知にご協力くださった広報委員の先生方にこの場を借りて改めて御礼を申し上げます。
  • 会場には長年、差別問題に取り組んでいるジャーナリストの安田浩一さんも取材に来られたので、急遽登壇いただきました。安田さんのお話で最も印象に残ったのは、関東在住のクルド人女性のエピソードです。駅前でのクルド人へのヘイト街宣を、耳を塞ぐように通り過ぎようとした時、通行人の会話が耳に跳び込んできました。「あれなに?」「クルド人は出て行け、だって」「へ~・・・。実際クルド人なんていらないもんね」
    ヘイトスピーチと同等か、あるいはそれ以上に当事者を傷つけるのは、周囲の「普通の人々」の無自覚な悪意であることを改めて知らされました。
  • ヘイトスピーチはこれまでも排外団体によって、あるいはインターネット上で繰り返されてきましたが、近年は公開の場で堂々とヘイトスピーチがなされる事態が生じています。ヘイトスピーチは当事者の心情を傷つけるのみならず、社会そのものを破壊するものです。川崎市条例は上記のとおり対策として有効と考えられますが、ヘイト団体は条例のない別の地域でヘイト街宣を行うようになったといいます。ヘイトスピーチを規制するために福岡など他県でも条例を制定すること、そして法律で全国的に規制することも必要だと考えます。但し、法規制がなされたらそれで足りるというものではありません。社会の構成員各自が、差別言動が人の心を傷つけ、社会を壊すものであるから許されないという共通の意識を持ち、各人の違いを認めあい相互に理解することこそ、大事なことであると考えます。
  • 記事を読んでいただきありがとうございます。この記事をきっかけにヘイトスピーチ対策に関心を持っていただければと思います。また当WGでは福岡での条例制定に向けた取り組み等を行っています。関心を寄せられた当会会員の先生方の当WGへのご参加を歓迎します。何卒宜しくお願い致します。

シンガポール法律協会との友好協定締結

カテゴリー:月報記事

国際委員会 事務局長 坂本 龍彦(69期)

当会は、2026年3月11日、シンガポール法律協会(The Law Society of Singapore)との間で当会として3番目となる友好協定を締結しました。1990年の釜山地方弁護士会、2010年の大連市律師協会との締結以降、新たな協定締結は約16年ぶりのことです。

新たな友好関係の構築

これまでの協定は、歴史的・人的な繋がりを背景としたものでしたが、今回は「これから新たな友好関係を構築すること」を目的とした初めての挑戦でした。
実務担当者として締結式まで走り抜けてまいりましたが、準備はすべて手探りの状態でした。本稿では、今後の他国弁護士会との交流の足がかりとなるよう、締結に至る詳細な経緯をご報告いたします。

友好協定締結に至る足跡 ― LAWASIAから「新たな一歩」へ

本プロジェクトの起点となったのは、2023年9月に本会が日本弁護士連合会と協力の上、福岡で開催した「LAWASIA人権大会」です。当時、実行委員長を務められた上田英友会員のもと、私も実務を担当したことが、本会のLAWASIA関連業務に深く携わる契機となりました。
翌2024年、徳永響会長(当時、以下、役職名はいずれも当時)の下で、本会はLAWASIAの団体会員となり、マレーシア・クアラルンプールでの年次大会に徳永会長、担当であった中原昌孝副会長と私が参加しました。この際、第二東京弁護士会のご厚意で、各国弁護士会との二者会合(通称「バイ会合」)にオブザーバーとして参加する貴重な機会を得ました。
続く2025年のベトナム・ハノイ大会において、上田会長と私が参加し、その際第二東京弁護士会のバイ会合に臨席しましたが、そこで、シンガポール法律協会のリサ・サム会長と2年連続で面会できたことが、後の大きな転換点となります。(第二東京弁護士会には感謝の念が絶えません。)
ハノイ大会最終日、私は上田会長へ「シンガポールと友好協定を締結できれば素晴らしいですね。」とメッセージを送りました。これに対し、上田会長から即座に「今年度中に締結しましょう!」との力強い回答をいただいたことで、プロジェクトは一気に現実味を帯びて動き出しました。
もっとも、会内での合意形成には慎重な議論を要しました。国際委員会に諮った際、概ね賛同を得た一方で、「釜山や大連の際は長年の交流の積み重ねがあった。今回は唐突感があり、会員から消極的な意見が出るのではないか。」との真摯な指摘をいただきました。これを受け、私は本協定を「交流のゴールとしてではなく、未来に向けた新たな友好関係を構築するための第一歩」と位置づける提案書を起案しました。
この方針について、委員会、執行部、そして常議員会において重ねて協議を行い、最終的には「本会の国際化に向けた新たな挑戦」として、全会一致で深いご理解をいただくことができました。

ゼロからの協定書案起案

リサ・サム先生が会長を退任された後にシンガポール法律協会の会長に就任されたタン・チェンハン先生へ、2026年1月、これまでの経緯と締結の意向を伝えるメールを送付しました。即座に前向きな回答をいただくことができ、いよいよ具体的な協定書案の作成と調整に入りました。
協定書案作成にあたり、過去の釜山地方弁護士会や大連市律師協会との協定書を確認しましたが、これらはいずれも既存の友好関係に基づいたシンプルな内容でした。今回は、当会にとって初となる「英米法(コモン・ロー)体系の国」との英語による協定締結であるため、雛形のない状態から条文を起案する必要がありました。
私自身、業務で英文契約書に触れる機会はあるものの、一からこのような協定書を起案した経験はなく、試行錯誤の連続でした。委員会や執行部と密にコミュニケーションを図りながら案文を練り上げ、先方との軽微な修正を経て、最終的な合意に至りました。
なお、この迅速な起案と交渉を支えたのは、最新のAIツールの活用です。AIの補助を得ることで、前例のない複雑な事務作業を短期間で完遂することが可能となりました。これは、現代の国際実務における一つの有効な手法であると実感しています。

友好協定締結式

本プロジェクトは、シンガポールとの繋がりを得た上田会長の任期中に締結したいという強い思いから、先方には1月のアプローチから3月の締結式まで、極めて短期間での検討と調整をお願いすることとなりましたが、快く受け入れてくださったシンガポール法律協会の皆様には感謝の念に堪えません。
迎えた2026年3月11日、上田会長、松井仁国際委員会委員長、そして私の3名で同協会を訪問し、締結式を執り行いました。式典において、上田会長からはアジアの重要な法的拠点であるシンガポールと、アジアの玄関口である福岡が、本日の締結を起点に相互訪問やセミナー等を通じて永続的な友情を育んでいきたいとの意向が示され、タン・チェンハン会長からも深い共感と同意の言葉をいただきました。
また、当会からは3月という季節に合わせ、両会の末永い発展を祈念して記念品の「博多人形(ひな人形)」を贈呈し、先方からは、協会会館が描かれた美しい絵画と、立派な協定書フォルダーを頂戴しました。

今後の展望 ― 実務に直結する交流を目指して

締結式後には、ランチ会を開催していただき、そこでは、両国の弁護士事情のみならず、不動産、相続、離婚(親権問題)など、共通する実務的課題についても活発な意見交換が行われ、今後の具体的な交流に向けた確かな手応えを得ることができました。先方からは「英語で対応可能な福岡の弁護士を紹介してほしい」との要望があり、具体的な相互協力の第一歩として、双方の弁護士紹介制度の構築について合意しました。
シンガポール法律協会では日本語対応が可能な現地の弁護士を紹介いただける体制を整えていただけることとなり、当会としては、早速2026年4月より「英語対応可能弁護士名簿」の登録募集を開始しております。(募集は5月末までとなりますが、毎年同時期に募集いたします。)
また、今回の訪問ではシンガポール国際仲裁センター(SIAC)に精通した弁護士との知己を得ることもでき、今後SIACに関する講演会等の実施も計画しています。
さらに、意見交換を通じて、不動産、相続、そして昨今関心の高い「共同親権」を含む離婚問題など、実務的な分野において相互に最新の知見を求めていることがわかりました。会員の皆様におかれましては、シンガポールの実務に関して協議を希望する事項がございましたら、ぜひ国際委員会までお寄せください。本協定を活かし、皆様の業務の一助となるよう尽力します。

アジアのリーガルハブ:シンガポール

最後に、本協定のパートナーであるシンガポールとシンガポール法律協会について紹介します。
シンガポールは、東京23区ほどの面積に多様なルーツが共存する「多文化共生」の先進国です。英語を公用語としつつ、中華系、マレー系、インド系、そして世界各国の駐在員が互いの文化を尊重し合う土壌が根付いています。
ビジネス面では「アジアのリーガルハブ」としての地位を不動のものとしており、コモン・ローを基礎とした透明性の高い司法制度は、世界中の企業から高い信頼を得ています。近年ではSIACをはじめとする紛争解決機能の拡充に注力しており、アジアにおける「法の支配」を牽引する知的な中心地としての存在感を強めています。
シンガポール法律協会は1967年に設立された、同国の全弁護士が加入する法定団体です。同協会の入るビルの一層上にはSIACの本部が置かれており、物理的にもまさに国際法務の最前線に位置しています。
アジアの玄関口たる福岡の弁護士会として、国際ビジネスを支えるリーガルサービスの提供、そして多文化共生のロールモデルたる同協会との協力体制が末永く続くことを心より祈念し、報告に代えさせていただきます。

ここが知りたい家事事件における行政関連手続き~北九州市との協議会についての報告~

カテゴリー:月報記事

北九州部会のすべての性の平等に関する委員会 副委員長 仲地 彩子(71期)

1 北九州市との協議会

北九州部会のすべての性の平等に関する委員会では、毎年、北九州市との協議会を持ち、行政と弁護士会のそれぞれの視点から、家庭に関する問題全般における意見交換を行っています。これまでも、主として子ども家庭局との意見交換を行いたいへん有意義な機会となっていましたが、令和7年は、市民課など複数の担当部署からご出席いただき、特に充実した協議が行えました。弁護士として、家事事件を取り扱う上での学びが非常に多い協議会となりましたので、以下、報告いたします。

2 議題1:住民票および戸籍の取得手続きについて

(1) 住民票や戸籍等(以下、「住民票等」)の閲覧制限等をかけている事例において、住民票等の開示請求がなされた場合、どのような審査のもと対応しているか。

(2) 【回答】
DV等支援措置を受けている事案においては、総務省から住民基本台帳事務処理要領が示されており、これに基づく運用を行っている1。
第三者が行う請求の場合は、もともと慎重に審査を行っているが、DV等支援措置を受けている場合は、請求者の中に、相手方が含まれていないかについて、特に慎重に判断を行っている(契約書など、請求権を根拠づける資料の提示を求めている。請求者が法人の場合は、相手方が法人内にいる可能性もあるので、法人の実在性も含めた確認をしている。)。相手方が第三者になりすましている場合なども念頭においている。
相手方からの請求は、代理人からの職務上請求であっても交付しない。

3 議題2:認知後の親権者の届出について(現行運用、改正後運用)

(1) 現行法下では、婚姻関係にない父母の子で、認知を得ない子は、母親が親権者となる。ただ、父の認知後、父母の協議で父を親権者と定めたときは、父が親権者となることができる(民法819条4項)。認知後に期間がたった後に届出をする場合は、実態としては親権者変更のようにも思えるが、家庭裁判所の許可なく、届出のみで親権者を定めることができるのか(戸籍法78条)。また、4月の改正法施行後も運用はかわらないか。

(2) 【回答】
戸籍法78条の届出をするのに、届出期間の制限はない。認知からどれだけ時間がたっても、父は、届出のみで親権者となることができる。
改正法施行後の戸籍運用については、現行から大きな変更はなさそうではあるが、まだ通達が示されていない(※令和7年10月時点)。

4 議題3:世帯分離について

(1) どのようなときに世帯分離ができるか。離婚後に元配偶者が住民票を異動させない場合はどうか。

(2) 【回答】
婚姻中の夫婦で同一住所であれば世帯分離はできないが、離婚をしていたら世帯分離は可能である。
一方配偶者が事実上は家を出ているが、離婚をしていない場合は、原則として世帯分離は難しい。不現住が確認できる場合には、例外的に、職権消除の対象になる可能性がある(とはいえ、荷物などがあり、客観的に不現住を確認できない場合は、職権消除は難しい)。

5 議題4:各種手当の受給方法について

(1) 【回答】児童手当について
受給者が消滅届を提出し、子を養育している者から申請をするのが原則である。しかし、離婚後の夫婦については、職権で消滅手続をして、子の養育者に支給している。離婚調停中の夫婦については、調停係属証明書があれば、手続き可能である。また、弁護士をつけて離婚協議中の夫婦については、弁護士の書面で足りる(形式は任意であり、書面の内容で離婚協議中であることを確認している)。

(2) 【回答】児童扶養手当について
原則として、離婚が受給の要件となっている。しかし、父又は母から1年以上「遺棄」されている場合も受給の対象となる2。
遺棄の認定については、厚生労働省から基準が示されている3。もともとは、遺棄とは、相手が行方不明など探しても見つからない事態を想定していたが、現在は、父から監護を受けられていない場合には、実態に応じて、遺棄を認定している。たとえば、父が、婚姻費用を支払わず、離婚調停を起こしても、離婚にも応じずに1年以上たっている場合などは、例え面会交流が行われているとしても「遺棄」を認定できるケースがある。

6 終わりに

今回の協議会は、市民課を含む複数部署のご出席により、例年以上に多角的な視点から議論を深めることができ、実務に直結する知見を得る極めて貴重な機会となりました。
当委員会では、今後も本協議会を継続し、北九州市との緊密な連携を図りながら、より良い実務の構築に努めてまいりたいと思います。

1 総行住第20号「住民基本台帳事務処理要領の一部改正について(通知)」https://www.soumu.go.jp/main_content/000929822.pdf

2 北九州市「児童扶養手当の支給」https://www.city.kitakyushu.lg.jp/contents/924_10105.html

3 厚生労働省「児童扶養手当遺棄の認定基準について」https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/teianbosyu/doc/r03/tb_r3fu_12mhlw_116.pdf

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