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2026年度女性の権利ホットラインの実施

カテゴリー:月報記事

ジェンダー平等委員会 委員 西田 舞季(76期)

1 はじめに

6月22日から6月26日まで、福岡県内各所の男女共同参画センター等と共同で、女性の権利ホットラインを実施しました。
女性の権利ホットラインは、女性に対する暴力(ドメスティック・バイオレンス、ストーカー、セクシュアル・ハラスメント)、離婚に関する諸問題、職場における差別など、女性の権利一般に関する無料電話相談をするものです。また、性的マイノリティーに関する同様の問題の相談も受け付けております。
実施に関する報告をいたします。

2 相談体制・件数

相談は、下記の通り、福岡県内12箇所の相談場所で行いました。
5日間で合計71件の相談がありました。
開始早々、相談の電話が入り、予め質問事項を詳細にまとめている様子で相談される方もいました。

6月22日福岡県弁護士会館11
6月23日筑後弁護士会館3
6月23日直方市役所1
6月23日筑後市(サンコア第3講習室)2
6月23日田川市男女共同参画センター
(ゆめっせ)
1
6月24日福岡県男女共同参画センター
(あすばる)(春日市)
13
6月24日ハートピアぶぜん(豊前市)2
6月24日北九州市立男女共同参画センター(ムーブ)13
6月24日大牟田市男女共同参画センター5
6月25日飯塚法律相談センター6
6月26日福岡市男女共同参画センター
(アミカス)
8
6月26日大野城まどかぴあ男女平等推進センター(大野城市)6
合計17
3 相談内容

相談内容は以下の通りです。
夫婦関係に関する相談が最も多く、DVや職場でのセクシュアル・ハラスメントといった女性に対する暴力に関する相談や、解雇等の労働問題の相談も多く寄せられました。
中には、相談内容が複数にわたる場合もあり、悩み・問題に関連する支援団体や支援施設を知りたい、という相談もありました。
相談を聞いて面談相談が必要な場合は、面談相談へ繋げる等の対応しています。

  • 夫婦関係(離婚の可否・婚姻費用・財産分与等)60件
  • 内縁・男女関係 1件
  • 女性に対する暴力(DVや職場でのセクハラ)6件
  • 労働問題 8件
  • その他(親子関係・相続・借金問題等)10件
4 相談員の方々との交流

相談のきっかけとしては、各種相談機関から当該ホットラインの存在を教えてもらったという方が多かった印象を受けました。各種相談機関への周知の重要性を感じました。
また、共同参画センターの相談員の方々と、相談内容や新法のことで意見交換したり、法律相談への連携について共に考える機会もありました。相談員の方々と交流し、連携した体制を構築することで、充実した問題解決につながるのではないかと考えました。

5 当該ホットラインの意義

相談者の中には、様々な要因で外に出られない方や、対面での相談に行く時間を確保するのが困難な方、今悩んでいることが法律の問題なのかわからずに相談を躊躇している方、経済的な理由で相談や法的手続を行うことが困難だと感じている方がいました。
具体的には、女性に子育てや介護の負担が偏るために労働の機会が妨げられている方の相談や、ワークライフバランスに配慮した職場との謳い文句を信じて就職したのに、実際は子育てのために必要な配慮をしてもらえず労働条件が合わずに解雇され、経済的にも精神的にも困っている方の相談、養育費の金額が十分でないうえ、取り決めした金額の支払いがないために困窮しており法律相談費用等の負担が大きいという方の相談が目立ちました。中には、できるだけ早く面談相談をした方が良いと思わざるを得ない深刻な相談も多くありました。女性であること、女性として周囲から求められていることによって悩んでいる方々が、負担なく相談できる場所を作り出し確保する必要性を感じました。
当該ホットラインは、上記のような、弁護士による法律相談に繋がることが難しい方々と繋がることができるものです。当該ホットラインを実施することで、まずは電話で気軽に相談するということができ、問題解決に向けたアドバイス等を通じて役立つことができたと感じております。
来年度以降も引き続き実施していく必要性を強く感じました。

手錠腰縄問題の歴史と将来~福岡県弁護士会の取り組み

カテゴリー:月報記事

手錠腰縄問題PT 副座長 市場  輝(66期)

1 はじめに

刑事法廷内の手錠腰縄の問題は、法廷内で被疑者、被告人(以下「被告人等」といいます)に手錠腰縄が使用されたときから人権問題として生じているものです。そして、手錠腰縄姿をみだりに晒されないこともまた、そのときから人権問題として生じてきました。手錠腰縄の問題は歴史的にみて古くから存在していた人権問題であったにもかかわらず、近年まで、国(国会、検察庁、拘置所等)、裁判所、弁護士会から置き去りにされていた感が否めません。
ようやく令和8年1月26日最高裁通知により、傍聴人に手錠腰縄姿をみだりに晒されない問題が大きく改善することになりました。そこで、今回の最高裁通知を機に、手錠腰縄問題の歴史と将来について、福岡県弁護士会の取り組みをご紹介しながら申し述べたいと思います。

2 令和8年1月26日最高裁通知

令和8年1月26日、最高裁判所は手錠腰縄に関する通知を発しました。被告人等の手錠腰縄姿を傍聴人に見られないようにするため法廷内に衝立を設置する具体的イメージを共有するものです。これにより被告人等の手錠腰縄姿が傍聴人にみられないようにする具体的な方策が示され、手錠腰縄問題は大きく改善されることになりました。
しかし、この最高裁通知が発せられるまでに、平成5年7月19日の最高裁通知から実に30年以上もの月日が経過しています。

3 平成5年7月19日最高裁通知

平成5年7月19日、最高裁判所は手錠腰縄に関する通知を発しています。この通知は、最高裁判所事務総局刑事局と法務省矯正局が協議した結果として、今後、特に戒具を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせることは避けるべきであるという事情が認められる場合には、被告人を傍聴人より先に入廷させ、被告人を傍聴人より後に退廷させて、傍聴人のいない所で解錠・施錠することを原則とし、これによることができない特段の事情がある場合には、被告人の入廷直前又は退廷直後に法廷の出入口の所で解錠し又は施錠させるという方法その他適切な方法を執ることとされたというものです。これにより手錠腰縄問題は裁判所の積極的な訴訟指揮のもと個別具体的に解消されるかと思われました。
しかし、全体的にみて裁判所による積極的な訴訟指揮がなされてきたとはいえません。
平成18年6月の刑事被収容者処遇法成立時の付帯決議では「拘禁されている被告人が法廷に出廷する際には、逃走等の防止に配慮しつつ、…捕縄・手錠を使用しないことについて検討すること(参議院附帯決議第十一項)が明記されていましたので、これを契機として、裁判所による積極的な訴訟指揮も期待されましたが、依然として変化はみられませんでした。結局、刑事法廷内の手錠腰縄問題の全体的な改善は、前述のとおり、30年以上の月日を待たなければなりませんでした。
一方で、この間、福岡県弁護士会はどのような取り組みをしてきたのでしょうか。

4 福岡県弁護士会の取り組み

平成5年最高裁通知当初から福岡県弁護士会が手錠腰縄問題について積極的に取り組んできたのかというと、必ずしもそうではなかったようです。福岡県弁護士会においては、令和2年10月の勉強会を経て、手錠腰縄PTが発足したのが令和3年8月です。
しかし、PT発足してからの福岡県弁護士会は、手錠腰縄問題を改善するために、以下のとおり、積極的に取り組んでまいりました。

  • 令和3年11月の「第一審強化方策福岡地方協議会刑事部会」において手錠腰縄問題を議題として提案
  • 手錠腰縄不使用の申入れを促進するための申入書の書式作成、申入れ及び裁判所の措置等実態を把握するための申入れ結果報告書、被告人等アンケートの作成、周知
  • 令和3年10月以降、福岡県弁護士会会員である弁護人が裁判所に対し手錠・腰縄不使用の申入れを積極的に行うように働きかける呼びかけ
  • 令和5年8月5日にローエイシア福岡人権大会プレシンポジウム「刑事法廷内の手錠腰縄問題に関するシンポジウム」の開催
  • 令和7年5月28日に福岡県弁護士会総会にて、刑事法廷内の入退廷時に被疑者・被告人に対して手錠・腰縄を使用しないことを求める決議
  • 令和7年10月から令和8年3月までの間、手錠腰縄不使用申入れ等を行った弁護人に対する援助金の支給に関する制度の創設及び規則の作成
5 取り組みの成果

以上の福岡弁護士会の取り組みにより、弁護士会内外で手錠腰縄問題が人権問題として取り上げられ、反響を生みました。弁護人の手錠腰縄問題の意識も少しずつ高まり、弁護人が裁判所に対し、手錠腰縄不使用の申入れがなされるようになりました。また、申入れに伴う申入れ結果報告書や被告人等アンケートの提出も個々の弁護人から福岡県弁護士会にされるようになり、裁判所の刑事法廷内での手錠腰縄不使用に関する訴訟指揮の有無や被告人等の手錠腰縄に対する気持ちや考えが少しずつ明らかになってきました。
確かに、福岡県弁護士会に所属する弁護人の裁判所に対する手錠腰縄不使用の申入れ件数は、会全体の弁護人が担当する刑事事件の件数からすると少ないかもしれません。しかし、令和3年にPT発足して福岡県弁護士会が手錠腰縄問題に取り組まなければ、何ら変化はみられなかったでしょう。30年以上とはいわず何十年も現状は何ら変わらなかったかもしれません。福岡県弁護士会が積極的に取り組みを始めたからこそ、少しずつ変化の兆しが生まれたと思います。
このようは変化の兆しは福岡県弁護士会だけでなく、日弁連をはじめとする他の単位会でも同様にみられたものです。これらの変化の兆しが少しずつ積み重なり、最終的には令和8年1月26日の最高裁通知につながったものと思われます。

6 将来に向けた今後の課題
(1)令和8年7月1日の会長声明

前述のとおり、令和8年1月26日最高裁通知により手錠腰縄問題は大きく改善されることになりました。しかし、課題も残されています。
今回の最高裁通知によっても、裁判官には被告人等の手錠腰縄姿が見える位置に衝立が設置されることが予定されているため、裁判官はじめ訴訟関係人にも手錠腰縄姿を晒される状態は依然として残っており、被告人等が対等な当事者として扱われているとはいえず、いまだ被告人等の人権侵害状態が続いています。
そこで、令和8年7月1日、福岡県弁護士会は裁判官、裁判所及び国に対し、以下のとおり、会長声明を発しました。

  1. 裁判官は、刑事訴訟法287条1項但書が規定する事由があり、必要やむを得ない場合以外は、刑事法廷内で手錠・腰縄を使用しないこと。
  2. 国は、刑事訴訟法287条1項本文が規定する刑事法廷内における身体不拘束原則を入退廷時の被告人等に対しても確実に保障するため、同法に287条の2を新たに設ける等して、入退廷時の被告人等に対しても身体不拘束原則が及ぶことを明記すること。
  3. 国及び裁判所は、被告人等の入退廷時に手錠・腰縄を使用しないための施設整備(例えば、手錠・腰縄の着脱が可能な待機室あるいはスペース等の設置)を講じること。また、たとえ上記最高裁事務連絡・法務省通達を前提にする場合であっても、裁判官はじめ訴訟関係人が被告人等の手錠腰縄姿を見えないような位置に衝立を設置すること。
(2)いま一度光を当てるべき平成5年時当初の最高裁判所の考え

前述でご紹介しました平成5年7月19日の最高裁通知に表れている当初の最高裁判所の考えに、いま一度光を当てるべきです。
当初、最高裁事務総局刑事局は、法務省矯正局に対し、「傍聴人を退廷させずに戒具を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせないようにするための一つの方策として、被告人の入廷直前又は退廷直後に法廷の出入口の所で解錠し、又は施錠させるという運用を一般化すること」を打診していたのです。
この運用の一般化こそ、刑事法廷内の手錠腰縄問題を解決するカギとなるものであり、この度の会長声明に適うものと考えられます。確かに、逃走防止の観点もありますが、運用の一般化と逃走防止を両立させるための施設整備は十分に可能であり、このことは会長声明にも盛り込まれています。
歴史を振り返り、光を当て、将来に向けた問題解決のために知恵を出していくことが、先人たちによって築き上げてきたものを壊さないためのわれわれの使命なのかもしれません。

7 さいごに

手錠腰縄問題の歴史と将来について、福岡県弁護士会の取り組みをご紹介しながら振り返りました。将来に向けた今後の課題の改善がまた何十年も先にならないように、近年までの無関心さを改め、国(国会、検察庁、拘置所等)、裁判所、弁護士会がそれぞれ取り組んでいかなければならないと思います。

シンポジウム「職場のメンタルヘルス〜働く人の心を守るために」

カテゴリー:月報記事

自死問題対策委員会 委員 三好 有理(67期)

第1 はじめに

去る3月7日、福岡県弁護士会館2階大ホールとオンライン(ZOOM)を併用して開かれた自殺予防シンポジウム「職場のメンタルヘルス 働く人のこころを守るために」を紹介します。

第2 シンポジウムの紹介

基調講演では、産業医である江口尚さんに、「働く人のメンタルヘルスを守る社会へ―個人の問題から“職場の設計”へ―」との演題で、職場のメンタルヘルスについてお話いただきました。
基調講演後は、お子さんを過労自殺で亡くされた川浪晴美さんにご報告いただきました。
シンポジウム後半では、江口さんに加えて、社会保険労務士として企業の働きやすい職場づくりに携わっておられる岩下裕二さんと過労死弁護団にも加わり労働分野に力を入れて取り組んでおられる八木大和会員をお招きしてパネルディスカッションをしました。自死問題対策委員会副委員長の緒方枝里会員がコーディネーターを務めました。
それぞれ内容をご紹介します。

1 基調講演

(1)「保護された自律」の実現
「保護された自律」をどう実現するかという問題意識が冒頭で示されました。例えば、昨今の裁量労働制拡大の議論において「働きたい人がもっと働ける世の中にしていこう」と唱えられているところ、その「働きたい人」は本当に自由な意思で働きたいのかを常に考えなければいけないということが指摘されました。「保護された自律」が実現すれば、過労死や過労自殺は起きないと話されました。
この点について、シンポジウムの直前に厚生労働省から公表された「働き方改革関連法施行後5年の総点検」の調査結果(https://www.mhlw.go.jp/content/001666752.pdf)も紹介されました。労働時間の増減希望の調査によると、労働時間を増やしたいという人は全体の約10.5%でした。その労働時間を増やしたい理由を見ると、仕事の完成度や業績をより高めたいからとか、業務を通じて知識や経験・スキル・技術を高めたいからという理由もある一方で、たくさん稼ぎたいから、所定労働時間以外の労働分の収入がないと家計が厳しいから、労働時間が長い方が上司や周囲に評価されるからという理由が挙げられています。前半の理由についてはワークホリックになっている可能性もあるし、特に後半の経済的な事情が理由に挙げられているときは本当に自由な意思で働きたいと思っているのか丁寧な議論が必要であることが指摘されました。

江口尚氏

(2)「こころの健康」やメンタルヘルス不調とは
心の健康状態に対する考えは時代とともに変わっていくところ、現在は「こころの健康」の定義について「人生のストレスに対処しながら、自らの能力を発揮し、よく学び、よく働き、コミュニティにも貢献できるような、精神的に満たされた状態」とされており(令和6年版厚生労働白書)、ストレスがあることを前提とした上でその人の生き方に関わるところも心の健康として捉えられているところが特徴です。
また、メンタルヘルス不調とは「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含む」とされています(労働者の心の健康の保持増進のための指針 2015年)。この指針では、職場で悩みを抱えている人がいれば対処していくという方針が示されており、病気になる前段階での対処の必要性が明確になっています。

(3)職場環境の重要性
労働者の心の健康保持増進のための指針となる法律が、1972年に制定された労働安全衛生法です。この労働安全衛生法1条の目的規定において、「職場における労働者の安全と健康を確保する」ことに加えて「快適な職場環境の形成を促進する」として、職場環境にフォーカスをあてていることが重要なポイントです。
つまり、職場でメンタルヘルス不調者が生じた場合、個人に責任があるのではなく、メンタルヘルス不調者が生じるような職場環境になっていることを組織全体で考えるべきということです。
また、労働安全衛生法3条では、労働者の安全と健康の確保が事業者等の責務と定められており、その具体的な指針として、上記の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」((2)参照)があるということが解説されました。
加えて、平成29年に示された「働き方改革実行計画」では、長時間労働の是正の必要性やワーク・ライフ・バランスの改善の必要性が示されており、さらには長時間労働が構造的な問題であり、企業文化や取引慣行を見直すことも必要であることまで踏み込んで示されていました。この「働き方改革実行計画」が示されて10年弱が経過しますが、そこで示された問題点や状況は改善していないのではないか、状況が改善しない中で労働環境を戻すと元に戻るのではないか、という点を丁寧に議論しなければいけないということが指摘されました。

(4)産業構造の変化
この30年間における産業構造の変化についても指摘がされました。1995年頃は製造業や建設業が多かったところ、現在は少子高齢化で医療・福祉分野が増加しており、介護福祉に関わる事業者は中小・零細事業者が多く、組織形態が確立していないところも多い。さらに対人サービスであるがゆえのストレスを抱えやすいことが指摘されました。

(5)多様化する職場における「対話」の重要性
さらに、現在の職場は、以前に比べて多様化が進んでいることも指摘されました。
雇用形態として正規のみならず非正規が増えていること、65歳以上の高齢者も増えていること、仕事をしながら通院している人の割合が41%であること、外国人労働者数の増加、障害者雇用の推進などにより、以前に比べて様々な属性の人が職場で働いています。属性が異なれば、考え方も違い、それゆえにトラブルが起きやすくなります。
このような多様化が進んだ職場では、「この人はこの人の正しさで動いている」ということを理解することが重要で、そのためには互いに話をすることが大事です。
講演では「職場で無駄話をすることはできますか?」と会場に質問が投げかけられました。
メンバーが多様化した今の職場では、境遇の似通った者が集まっていた従来の職場以上に、コミュニケーションをとることが相互の理解のためには必要です。コミュニケーションのための時間がとれていないことがパワハラの相談件数が多くなっている要因の一つではないかとの指摘がなされました。

(6)組織全体で取り組むことの重要性
メンタルヘルス対策は個人の問題ではなく、組織全体で取り組む問題であることが講演で繰り返し指摘されました。そして、組織全体で取り組む際に重要なこととして、他職種連携・つながりの回復(not しがらみ)・対話の機会を増やすこと・孤独状態を職場で生まないことなどが挙げられました。
職場の孤立については、世の中が進むと集団ではなく個人でできることが増えますが、一人でやることをよしとすると相談がしづらくなります。一旦孤立状態に陥ると人は孤独を深めるため、関わろうとしても「構わないでくれ」という対応をされることもありますが、そのとき「わかったよ、もういいよ」と離れるのではなく、「いいじゃない!」と踏み込んでいくくらいが良いと指摘されました。

2 自死遺族の報告

基調講演の後は、自死遺族川浪晴美さんの報告がありました。川浪さんは、ご子息を長時間労働の末に過労自殺で亡くされました。川浪さんのお子さんは、大学卒業後新卒で勤めた食品の卸売会社で過酷なサービス残業を強いられ、懸命に働かれ、入社後3年経過した3月31日に「ゆっくり休みたい」などと書かれた遺書を遺して亡くなりました。川浪さんは会場で涙を流しながら報告をされました。その辛さ、無念さの大きさに会場全体が静まり返り、私も胸が痛くなりました。
川浪さんからは、従業員が長時間労働で精神を病み命を断つことがないように、過重労働にならない勤務体制を作ることの重要性が指摘され、一人でも多くの人に関心をもってほしいとの訴えがありました。

川浪晴美氏
3 パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、社会保険労務士の岩下裕二さんと弁護士の八木大和さんも加わり、働く人のメンタルヘルスを守るための視点についてそれぞれの立場からお話がありました。
一部割愛していくつかご紹介します。

(1)現場の痛みと法の間隙を埋めること
現場で「パワハラ」を受けた人の痛みが即、法的に損害賠償が認められる程度の違法性につながるものではない。
この痛みと法的な救済の間隙を埋めるためには、職場で救済されることが重要である。人が心を病まないためには「対話」と「連帯」が重要である。

(2)対話について

  • 意見を聞き合うこと。自分の考えと違うけど、何が言いたいのかなと理解しようとすること。(not 言い負かす)
  • こちらから歩み寄ること
    例えば、上下関係を前提にすると、目下から挨拶すべきと考えるかもしれないが、上司から歩み寄る。

(3)ハラッサーへのケア
忙しさや管理職の負担がハラッサーを生んでいる面もある。上司を支援する仕組みも必要である。

(4)裁量労働制の見直しについて

  • 労働時間の見直しは軽々になされるべきではない。所定労働時間が8時間とされているのは、人として回復するための8時間を確保するためであるが、裁量労働制がその枠組みを崩さないか。
  • 「保護された自律」がどう成り立つのか。学識経験者や国会という裁量労働制で成功している職種だけで決めるのは良くない。

(5)中小企業にも義務付けられたメンタルヘルスの取り組み
地域に産業保健総合支援センターがある。無料で産業保健サービスを提供している。
EAP(従業員支援プログラム)は、地元のEAPが顔の見える関係を作れるため良い。

(6)個人の尊厳の重要性
労災対策などの制度設計にあたっては、個人の尊厳が重要である。一人でも傷つく人がいないように。

パネルディスカッション
第3 おわりに

講演の中で江口さんからは、「では働きやすい職場環境って誰が作るのでしょうか」と会場に質問が投げかけられました。「あなたも含めて職場環境です」「不機嫌な態度をとるとあっという間に職場環境が悪くなってしまいます」とのことでした。組織として対応することの重要性に加えて、一人の人が周囲に与える影響の大きさも意識させられました。
今回のシンポジウムで、働く人のメンタルヘルスを守るために重要なこととして浮かび上がってきたものは職場における「対話」の重要性でした。多様性を尊重する社会において、自分とは異なる他者を理解するためには対話をすることが重要であることを学びました。
また、講演の中で熊谷晋一郎氏が提唱する「自立」の考え方、すなわち「自立」とは依存先を増やしていくこととの考え方も紹介されました。良い職場環境は、頼り頼られる関係づくりをすることかなと思います。一人で抱えずに協働できる関係を職場で作っていきたいと思います。

『五月の雨』上映会&感想交流会 開催報告

カテゴリー:月報記事

ジェンダー平等に関する委員会 副委員長 細永 貴子(62期)

令和8年5月21日(木)、福岡県弁護士会館にて、映画『五月の雨』の上映会および感想交流会が開催されました。本記事では、当日の開催状況やディスカッションの模様、そして実務家としての所感をご報告いたします。

■開催の状況

本上映会は午後1時から午後3時にかけて開催されました。当日は行政関係者から11名、弁護士12名の計23名にご参加いただきました。様々な立場で支援や実務に関わる方々が集い、上映後には活発な意見交換が行われました。

■映画『五月の雨』の概要

本作は、離婚後共同親権が施行された社会を舞台にしたドラマと、DV被害当事者や実務家への綿密な取材に基づくリアルな証言を交差させた作品です。新制度の運用が家族の将来にいかなる影響を及ぼし得るのかを多角的な視点から浮き彫りにしています。劇中では、身体的な暴力に限らず、日常的な支配・従属関係が外からは見えにくいモラルハラスメントの実態や、それが調停などの第三者には「誠実そうな親」と映ってしまう認識のギャップなどが生々しく描かれています。

■感想交流・ディスカッションでの主な意見

上映後のディスカッションでは、多様な視点による意見や問題意識が共有されました。

1 子どもの意見の反映について

作中で子の意見のくみ取り方が描かれず、「新制度下で実際に子の意見を適切に反映できるか」という疑問が呈されました。家裁での「親ガイダンス」等の取組みもありますが、親権は「子の利益のために」行使され「その年齢及び発達の程度に配慮」すべきと明記された今、子の意見形成・表明のあり方をさらに深める必要があります。

2 親子交流における「子の利益」判断と同居親への配慮

親子交流が子の利益となる一方、同居親に多大な負担を強いる可能性もあります。第三者が何をもって「子の利益」と判断するかの基準の難しさが議論されました。調停が説得しやすい側への働きかけに流れがちな傾向も指摘され、不安の内実を丁寧に聴き取り真意の表明を支えるなど、監護の質に直結する同居親の精神的安定へのサポートが不可欠です。

3 長期的影響への想像力と関わり方

共同親権の選択は離婚後も元パートナーとの関係が続くため、実務家や支援者は、当事者が将来の生活への具体的な想像力を持てるような関わり方をすることが重要であるとの認識が共有されました。

4 制度の正確な理解と相談実務での留意点

共同親権制度の導入は「選択肢の追加」を意味するに過ぎないにもかかわらず、一般に「原則として必ず共同親権になる」とミスリードされているのではないかとの懸念も示されました。法律相談等の実務においては、共同親権は選択肢の一つであるという制度の正しい建て付けを丁寧に伝える必要性が共有されました。

■実務家が本作を観ておく意味

本年4月の改正民法施行による「共同親権制度」の導入は、離婚実務の歴史的転換点です。弁護士や裁判所、行政機関などの実務家には、単に制度の枠組みを理解するだけでなく、当事者の主張の背後にある「力関係の不均衡」を的確に読み解き、適切な合意形成を導く深い洞察力が求められています。
本上映会は、モラルハラスメントが潜在する事案の協議のあり方や、共同親権の選択が及ぼす波及効果を検証する目的で開催されました。複雑な紛争の実相を知り、いかに当事者の権利を保護し、適切な解決を導くかを実務家全体で考えていく上で、極めて示唆に富む内容です。

■私個人の感想

本作を通じ、夫婦間の日常的なハラスメントの事象や当事者の恐怖を客観的に伝える難しさを改めて痛感しました。もちろん、互いに尊重し子のために協力できる関係性であれば共同親権に反対するものではありません。重要なのは、従前の関係性や今後の協力可能性を見極め、ケースバイケースで最も「子の利益」に叶う解決を目指すことです。特にハラスメントが潜在し、親が元パートナーに怯えて暮らす状況は決して真の「子の利益」になりません。実務家として、それぞれの家族にとって安心できる解決とは何かを柔軟な視点で問い続け、関係機関とも連携しながら寄り添った支援を続けていきたいと思います。

3月15日「イスラモフォビアと戦う国際デー」講演会 開催報告

カテゴリー:月報記事

ヘイトスピーチ問題対策WG メンバー 仲家 淳彦(60期)

  • みなさま こんにちは。「イスラモフォビアと戦う国際デー」の3月15日(日曜日)に開催した「共に生きる社会を諦めないために イスラム嫌悪とヘイトスピーチの構造を紐解く」講演会について報告します。
  • イスラモフォビアとはイスラム恐怖症(ムスリム嫌悪)のことです。2019年3月15日にニュージーランドでムスリムヘイトの白人至上主義者が銃乱射テロ事件を起こし51名を殺害したことから、犠牲者を追悼するとともに、宗教差別・ムスリムヘイトに抗議する記念日として国連が定めたものです。
  • 当ワーキンググループ(WG)は2022年福岡県弁護士会定期総会宣言に基づいて設置されたWGであり、その名のとおり、ヘイトスピーチ被害の予防・救済といったヘイトスピーチ問題への対策を検討しています。近年、排外主義言動が蔓延する中でムスリムを対象としたヘイトスピーチが増えていることから、当WGは、ヘイトスピーチ規制と多文化共生を考える機会を国際デーに合わせて講演会を設けることにしました。
  • 第一部では私がヘイトスピーチ規制の現状と今後について話しました。現時点で特定個人の権利を侵害しない限りヘイトスピーチを規制する法律はありません。特定の民族を指して「出て行け」「犯罪者集団」などと排斥・誹謗する行為は法律上、規制対象でないのです。ヘイトスピーチを理由に刑事上または民事上の責任を追及できるのは、それが名誉毀損等、特定個人(法人含む)の権利を侵害したと認められる場合に限ります。2016年にヘイトスピーチ解消法が制定されましたが同法は「ヘイトスピーチは許されない」と宣言しているものの罰則などを設けておらず実効的な規制がなされているとは言えません。実効的な規制として参考になるのが川崎市の条例です。当該条例は禁止行為を明記し、勧告、命令、を経た上で命令違反行為に罰金を科す内容となっています。川崎では当該条例施行後、ヘイト街宣が減少しておりその実効性が認められます。
  • 第二部ではイスラム研究者である九州大学の沖祐太郎・特任准教授に登壇いただきました。沖先生からはイスラモフォビアは、宗教的・文化的知識の欠如、ステレオタイプなムスリム観が基礎となっており近年はSNSにより偏見と憎悪が先鋭化しているとの指摘がなされました。沖先生によりますとイスラムと一口に言っても法や食、服装などのあらゆる分野で伝統的に多様性を有しており、現代では更に多様化が進んでいるということです。イスラモフォビアを広げないためにイスラムの多様性を知り、一般化せず、生活や仕事などの場面で直につながりを持つ、その際は「健全な無関心」を意識することなどが提案されました。考えてみますと「福岡県民」や「弁護士」と言っても千差万別なのですから「イスラム」の方々も、信条や性格は多様であることは当然のことと言えましょう。これら提案は、ムスリムのみならずあらゆる方々と接するときの参考になると思います。
  • 続けてインドネシア出身で佐賀在住のムスリム、ガリ・ブディアルトさんや、市民団体umbresのメンバーの方々が登壇しました。ガリさんからは教義はムスリムでも分からないことがある、など率直なお話を、umbresのみなさまからは、社会をよくする活動の在り方などのお話をいただきました。
  • 開催直前の告知であったにも関わらず、講演会では100名を超える市民のご参加をいただきました。参加された市民のみなさま、準備や開催にご協力くださった委員や関係者のみなさま、弁護士会事務局のみなさま、告知にご協力くださった広報委員の先生方にこの場を借りて改めて御礼を申し上げます。
  • 会場には長年、差別問題に取り組んでいるジャーナリストの安田浩一さんも取材に来られたので、急遽登壇いただきました。安田さんのお話で最も印象に残ったのは、関東在住のクルド人女性のエピソードです。駅前でのクルド人へのヘイト街宣を、耳を塞ぐように通り過ぎようとした時、通行人の会話が耳に跳び込んできました。「あれなに?」「クルド人は出て行け、だって」「へ~・・・。実際クルド人なんていらないもんね」
    ヘイトスピーチと同等か、あるいはそれ以上に当事者を傷つけるのは、周囲の「普通の人々」の無自覚な悪意であることを改めて知らされました。
  • ヘイトスピーチはこれまでも排外団体によって、あるいはインターネット上で繰り返されてきましたが、近年は公開の場で堂々とヘイトスピーチがなされる事態が生じています。ヘイトスピーチは当事者の心情を傷つけるのみならず、社会そのものを破壊するものです。川崎市条例は上記のとおり対策として有効と考えられますが、ヘイト団体は条例のない別の地域でヘイト街宣を行うようになったといいます。ヘイトスピーチを規制するために福岡など他県でも条例を制定すること、そして法律で全国的に規制することも必要だと考えます。但し、法規制がなされたらそれで足りるというものではありません。社会の構成員各自が、差別言動が人の心を傷つけ、社会を壊すものであるから許されないという共通の意識を持ち、各人の違いを認めあい相互に理解することこそ、大事なことであると考えます。
  • 記事を読んでいただきありがとうございます。この記事をきっかけにヘイトスピーチ対策に関心を持っていただければと思います。また当WGでは福岡での条例制定に向けた取り組み等を行っています。関心を寄せられた当会会員の先生方の当WGへのご参加を歓迎します。何卒宜しくお願い致します。

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