少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌(26・9月号)

1 初めての経験

休暇中の旅先に電話が入った。当番付添人出動の要請である。思わず緊張が走る。

私にも少年審判の経験はある。相当の情熱を傾けたものだ。ただそれは、三十数年前の判事補のときだった。

2 少年の印象

弁護士になって初めて担当した少年の非行事実は、共同危険行為、バイクの無免許運転及び無免許運転同乗であった。鑑別所の面会室に現れた16歳の少年は、礼儀正しく明るく素直で、笑顔の素晴らしい子どもであった。非行事実については争いがなく、傷害等により保護観察の経験がある少年について社会内処遇に持ち込めるかどうかが最大の関心事となった。

3 付添人の行動

裁判官として少年事件を担当していたころ、付添人とやりとりをした記憶はない。統計によれば、一般保護事件(全事件から道交法違反事件を除いたもの)についた弁護士付添人は、昭和52年当時、終局総人員の0.34%という(ジュリスト1087号13頁)から、付添人のついていた事件そのものがほとんどなかったのであろう。

今回付添人として少年、両親、調査官及び裁判官と面会した回数は延べ10回で、かなりハードに思われたが、これは普通のことだと後で知った。それはそれとして、この事件、とくに悪質なものとは思えない上、反省もしている。更にどのような面を引き出し、裁判官らにアピールしていくのか、バックアップの大谷先生の指導を仰ぐことになる。

4 家族関係

両親は、少年が周りの友達を毅然としてはねつける強さを持っていないことや仕事に就いても我慢できずに短期間でやめることを繰り返すことから、監護に自信を失いかけているが、それでも、少年を深く愛し、更生を強く願っている。両親の仲はよく、きょうだいも少年にエールを送っている。ところで、本件は、その家族を襲った度重なる不幸が、少年の心の安定を奪い、現実逃避に向かわせたということが強く推認される事件であって、その原因に思いを致すとき、やりきれない気持ちになる。

5 社会資源の乏しさ

調査官から少年院送致を強く示唆される。もう一度機会を与えてくれるよう要請しようにも、たとえ就職しても長続きする保障はなく、友達から離れた場所で面倒を見てくれる親戚や知己もない。せめて短期処遇に持って行けないかと考え、付添人意見書を起案してみたところ、大谷先生は、量を倍以上に膨らませ、私の読む限りその結論しかないと思われる書面に仕上げてくださった。裁判官との面会の際の会話も、率直かつ説得的なものであった。

6 審判

若い裁判官による審判は、すこぶる丁寧であった。少年に対する質問は1時間を超えた。両親に対する話しかけも的確で、よく記録を読み、真摯に考えてくれていることが分かる。ただ、いかんせん、自宅に戻しても何とかやれるだろうと自信を持っている者がいないのだ。結果は、中等少年院送致であった。

7 感想

初めての付添人の経験とはいえ、子どもに関する勉強、知識が足りないことを思い知らされた。少年は、通常の知能を有している。家族にも愛されている。非行の原因も見当がついている。しかし、現実問題として、どうすることが彼を救うことになるのだろうか。家族の不幸は少年の処遇とどう結びつくのだろうか。社会資源の確保、維持、拡大のノウハウいかん。付添人は、少年のために何をどこまですべきなのか。学ぶべきことが山ほどある。

石 井 宏 治

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