少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

少年のパートナーとして(13・12月号)

皆さんは年間何件くらい付添人活動をされていますか。

私は受任した少年事件の件数も少なければ、法的に困難な事件にも取り組んだ経験はありません。それでも、少年事件には大きな魅力を感じている一人です。

小倉少年鑑別所は、小倉北区高峰町の住宅街にあり、裁判所のある金田からもさほど離れていません。福岡の皆さんの面会でのご苦労ご拝察しますが、私は晴れた日は自転車で街の空気を楽しみながら少年に会いに出かけています。

バイク窃盗や恐喝を繰り返し、高校を退学になった少年。18歳とはいえ小柄でかわいらしい少年です。父の転勤で関西から引っ越してきたばかりの彼は、自分の居場所を非行仲間に求めてしまいました。退学にされたことで担任をうらみに思い、当初苛立ちを隠しきれなかった彼も、3回の面会の間に自省を深めていきました。少年に与えられた課題は、学校を諦め今すぐ就職するか、たとえ1年遅れても再度高校で勉強し卒業するかを決めること、転勤のためとはいえ自分に転校を強いた父親と心を開いて向き合うことにありました。

最初は安易にアルバイトでもしながら生活するなどと言っていた少年でしたが、進路の選択を自分の生き方の問題として位置付けるよう話し合った末、小倉支部の広い審判廷で「自分は学校で勉強したい。謝罪や被害弁償もしたい。再度高校に入り3月には卒業して就職し一生懸命働くことが僕の更生の途だ。」と、訥々と訴え、自省の深まりを示しました。

調査官も裁判官も少年院送致意見でしたが、休廷し協議の末少年は施設処遇を免れます。私は当然試験観察を主張しますが、裁判所は続行を言い渡し、少年を私に委ねます。続行期日まで約3ヶ月間、学校探しが最優先課題です。月に2回少年と会い、電話でも近況を聞きます。「中途でも受け入れてくれる学校が見つかりました。」と電話の声は弾んでいました。少年は自力で受け入れてくれる学校を見つけてきました(その後大切な社会資源としてこの学校を他のケースの少年にも勧め活用しています)。

時には一緒に昼食をとり、紫川の河畔に腰掛けて親に打ち明けられない悩みも聞きます(セルシオを買いたいから親を説得してくれ、というのは拒否します)。「今度の学校は面白い。家は少し窮屈だけど真面目にやっています。」と頑張っている様子。別に母親とも会って話を聞くと、両親は被害弁償に奔走し、父親も積極的に少年とコミュニケーションを持っているという。

そのうち「就職が内定したよ。」とうれしい電話がありました。少年が逞しく成長して行く様子を目の当たりにできることが少年事件の醍醐味のひとつです。続行期日には、保護観察処分が言い渡されました。

少年は非行をきっかけに見事に自立して行きました。非行は自立への試行錯誤の表れだったのでしょう。少年が、処分を含む他からの強制ではなく自己決定に基づいて非行から立ち直って行く過程で、自分を信頼して共感しともに考え援助してくれる大人の存在は不可欠であり、それが付添人が「少年のパートナー」といわれる所以だと思います。短期間に如何に信頼関係を気づくか。自分の共感能力が試される瞬間です。

皆さんも少年事件に取り組んでみませんか。

弁護士 迫田 学

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