少年付添人日誌 | 福岡県弁護士会

少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌 法テラス「子どもに対する法律援助」制度の活用−触法・否認事件−(27・7月号)

小学校6年生のO君。

地元の公園で遊んでいると、同じ小学校に通うA君がやってきて一緒に遊ぶことに。A君は、いつも小学校1年生の妹Bを連れている。この日もそうだった。Bはちょっと悪ふざけが過ぎる子。O君とA君が遊んでいると、O君を叩いたり、O君の自転車を倒したりしてちょっかいを出してくる。O君は無視できず、ついむきになってBに仕返しをする。この日もBをくすぐって反撃。しかし、Bは逃げ出し、100m位離れたところでO君を挑発。近くにあった子ども用の“ドーム”の中に逃げ込む。“ドーム”の中にはC君を含む数人がトランプして遊んでいた。O君はBを追って“ドーム”の中に入る。そして、Bの背後から羽交い絞めし脇をくすぐった。Bはくすぐったくて堪らない。体をよじらせ暴れまわっていたが、しばらく経って、突然「お尻、触った!」と叫んだ。

O君、驚いて手を離す。Bは直ちに“ドーム”から出て行った。

その後、O君はA君がいた公園に戻り、鬼ごっこして遊んだ。Bも一緒だった。

それから何事も無く1カ月程経ったある日曜日の夜、O君の自宅に警察から電話がかかってきた。電話に出たO君のお母さんに、刑事が「息子さんがわいせつ行為をしました。事情を聞きたいので明日、警察署に連れてきてください」と告げる。お母さん、びっくり仰天。O君に尋ねるも、何のことか分からない。“1カ月前”“公園”“被害者はB”という話を聞いて、O君もおぼろげに「Bをくすぐったことかな?」と考えてみるが、わいせつ行為をした認識がなく不安で一杯になる。

ところで、O君には悲しい体験が。小学校低学年次に両親が離婚。父親が親権者となるが、身体的・心理的虐待が続き引きこもりがちに。勉強にもついていけず、他人に自分の考えや気持ちをきちんと伝えることができない。児相も関わる中、小学校6年生になる直前に、母親に親権者が変更になり、ようやく落ち着いた生活ができるようになったが理解力や他人とのコミュニケーション能力には問題があった。

月曜日、O君のお母さんは、O君に学校を休ませて警察署に連れて行く。少年警察活動規則によれば、触法調査は、「低年齢少年が精神的に未熟であり」「迎合する傾向にあること」に配慮のうえ調査を行うべきであり(15条2項)、かつ、「当該少年に無用の緊張又は不安を与えることを避け」るとともに、「少年の保護者その他・・・適切と認められる者の立会いについて配慮するものとする」とされている(20条4項)。まして、O君には被虐待体験があった。

ところが、警察官は、さも当たり前のように、お母さんを別室に待たせ、取調室にO君だけを入れて取調べを開始。午前11時に始めて昼食も取らせず3時間余りに渡って取調べを行った。O君は、“事件(?)”当日の流れを順番に説明したあと、核心部分について「くすぐった、Bが暴れた。でも、お尻は触っていない」と説明した。しかし、警察官は頭からO君のことを疑ってかかっていた、というか、早く認めさせて、終わりにしたいというのが本音ではなかったろうか。強い口調で「尻を触っただろう。」「女の子に興味があったんだろう。」と繰り返し追及した。O君が「触っていない」と答えると、刑事は「ウソをつけ」と言う。O君が答えに窮して黙ると、刑事は「黙っていたら分からん」という。O君は、頭が混乱し泣きながら「お母さんを呼んでください」と懇願した。すると、刑事は、「お前はお母さんがいないと何も解決できんとか。マザコンか」と怒鳴られた。O君は絶望の淵に追いやられたのである。

O君は言葉を失った。刑事の質問に対して、黙って頷くだけの状態が続いた。そして、「女の子に興味があった。1回だけお尻を触った」という調書が出来上がった。その後、お母さんが呼ばれる。その時、O君は泣いていた。お母さん同席の下で、刑事が調書を読み上げ、O君に署名を求めた。お母さんは、O君に「本当なの?」と尋ねたが、O君は沈黙したまま。お母さんは、刑事に「誘導尋問じゃないのか」と抗議するも、刑事は平然と「していません」と答える。結局、その場を収めるためにO君は調書に署名した。

この事件は、その後、児童相談所に送致されることになる。

私は、児相送致前の段階でO君から相談をうけ、「子どもに対する法律援助制度」を使ってO君の付添人となった。直ちにO君から時間をゆっくりかけて話を聞くと共に、“事件(?)”があったとされる時“ドーム”の中で遊んでいたC君にも話を聞いた。1カ月以上前のありきたりの日常生活の出来事であり記憶がしっかりしておらず、また、O君の理解力の問題もあって、その説明にはいくつかの矛盾や食い違いがあったものの、私は、核心部分は、O君の言っていることが事実であるとの確信をもった。

そこで、警察署長に対して、威迫、食事抜きの長時間、母親の無立会等の点で取調べに問題があることを指摘し、今後行われる取調べの際には付添人の立会いを求める内容証明郵便を送付するとともに、目撃者であるC君から事情を聞くことを求めた。

ところが、警察は、それ以上の取調べ、捜査をすることなく児相に送致。

であるなら、児相できちんとO君の話を聞いて貰い疑いを晴らして、事件を終わらせてもらおうと、児相に事案の概要、取調べの問題点等を報告し事実を丁寧に確認してくれと頼んだ。しかし、残念なことに、児相は、事実関係を争っているなら家裁送致を行って事実認定を行って貰うという方針だと言う。家庭裁判所で自分の主張を明確に述べ、事実を明らかにすることが少年にとっても良い、というのがその理由。

しかし、家裁での審理は、伝聞法則が働かず、全ての刑事記録、すなわち、O君が警察において事実を認めた調書、被害者側の被害申告を記した書面等が予め裁判官の目に触れ、裁判官は一定の心証を得たうえで審判が進む。O君は、その内容が違うことを積極的に立証していかなければならない。しかし、O君が矛盾なく、理路整然と事実を証言し、かつ、他の証言との食い違いについても説明し無罪を立証することは極めて困難であることが予測された。既に、O君は刑事から信用して貰えず、児相からも自分たちでは判断できないから家裁で自分で説明してきなさいと言われて、二重の打撃を受けているうえ、元々、記憶としてはっきりしていないことを説明することの苦痛に苛まれていた。

父親からの虐待の中で数年間を過ごし、学校にも行けなくなっていたO君が漸く登校の兆しを見せ、大人との関係を修復しつつある時に、またも襲われた不幸な出来事で、O君はさらに大きく傷つけられていたのである。

私は、事件を児相限りで終わらせるよう、意見書を提出したうえ児相と交渉し、児相の英断を迫った。児相は事実認定を避けたが、O君を家裁送致せず、これまでと同様、引き続き児相で関わっていくことになった。事実認定を避けた(したがって、疑いは残ったまま)点は不満が残った。ただ、O君がこれ以上、弁解をしないといけない場を重ねずに、中学校に入学し登校を始めたことは良かったと思う。

子どもの意見に真摯に耳を傾けること、そうした受入体験を子どもが重ねていくことは、子どもの成長発達にとってとても大切なことである。軽微な事件であればあるほど、警察が簡単に事実を認めさせて処理しているケースはきっとあるのではないか。そう思うと、もっと「子どもに対する法律援助」制度を活用して触法事件の調査や児相とのやり取りに私たちが関与することが大切だと感じた事件であった。

橋 山 吉 統

目次