少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

被害者に少年の気持ちが通じた!の巻(14・1月号)

久しぶりの私選付添人活動

北九州部会では,当番付添人制度が始まったばかりの頃,子どもの権利委員会の委員で,当番を回していた時期があり,その頃の私は,月に何度となく鑑別所に面会に行き,調査官室を尋ねるという日々でした。そのせいか,鑑別所の職員の方や調査官の方々にとって「おなじみの弁護士」になってしまったようです。制度が本格的になってからは,少しゆとりが出たのですが,そんな矢先に久々に私選の付添人の依頼が来ました。

示談交渉難航

今回の事件は,少年が財布を盗み,逃げようとして被害者に怪我を負わせたというものでした。被害者との交渉に神経を注いでいるうちに,審判期日は刻々と迫ってきます。少年に面会する時間はなんとか確保するものの調査官に面会する時間がなかなかとれず,焦った私は,少しでも時間があけば,調査官室に駆け込むことにし,細切れ時間で面談してもらいました。他の少年の時にお世話になった調査官の方だったので,「先生,示談交渉がうまくいかんのでしょう?なかなか(面談に)来ないなあと思っていたんですよ。」と笑いながら応じて下さいました。

被害者が求めていたもの

当初,私は,被害者は提示した金額に納得がいかず応じてくれないのだとばかり思っていました。しかし,理由はそれだけではなかったのです。被害者の中の少年は被害当時の「恐ろしい,何をするかわからない少年」なのです。被害者は「少年の今の気持ちを知りたい。様子を知りたい。」と言いました。

私は少年に「下手でいいから手紙を書いて」と言いました。すると少年は「自分の手紙など読みたくないだろう。もらっても(被害者は)嫌な気持ちになるかもしれないし。」ともじもじしています。私は「やってみなくちゃ,わからんでしょう。勇気を出そうね。」と話しかけ,後日,少年から手紙が届きました。わずか数行の短い手紙でしたが,気持ちはこもっていました。

示談成立

審判期日の前日午後9時,父親と二人で被害者に会い,少年の手紙を渡すとともに,少年と私との鑑別所でのやりとりや様子を説明しました。被害者は,「少年の気持ちがわかりました。彼に『がんばってね』と伝えて下さい。」と言ってくれました。私は,とても嬉しかったのですが,気持ちは複雑でした。「審判期日は明日なのに,『付添人として』十分な活動は出来ただろうか・・。」

審判期日

いつものように審判官からの質問が始まり,少年は今回の事件を振り返ります。付添人の順番になり,私は,少年に被害者の言葉を伝えました。私が唯一少年にプレゼントできたのは,この被害者の励ましの言葉だったのです。少年は,泣きました。「勇気を出して手紙を書いて良かった。」と喜んでいました。父親も「示談が済んだから,これからは子どものことだけを考えていける。示談できてよかった。」と言いました。

欲張らなくていいんだ

私は,少年事件が来ると,気合いが入り,あれもこれも頑張ろうと思ってしまいます。 今回は,正直言って,「示談を成立させる」だけで精一杯でした。しかし,結果としては,保護観察処分にもなり,被害者のことで悩んでいた少年や少年の家族の心の負担を少し軽くしてあげることができました。欲張らずに弁護士に期待されていることを一生懸命やると結果はついて来るんだと感じました。

弁護士 東 敦子

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