少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

不処分事件から見えてくる少年事件の問題(その1)(14・5月号)

一 はじめに

昨年の二月より当番付添人制度が始まり、その第一号として大谷弁護士と出動してから一年になるが、最近、当番付添人から私選事件として受任した二つの事件で不処分の決定を勝ち取ることができた。いずれも共同受任で少年は女の子の恐喝事件という事案であったが、これらの事件から少年事件の捜査の杜撰さ、非行事実を争う場合の手続上の問題のみならず、事件をめぐって数々の壁にぶつかりながら、審判にたどりついた。とても印象的な事件であるので、この場を借りて報告させていただく。

二 テレクラ美人局事件

1 事件の内容

この事件は、昨年5月に同期の高松弁護士が当番付添人で面会にいったところ、否認事件であるということで私と共同受任した。

内容は、夜の博多駅前で少年(Aという)が誕生日だということで友達(この子も共犯とされており後に受任する。Bという)と待ち合わせして、プレゼントを渡すなどしていたところ、Bの顔見知りの男らがやってきて、Bに対しテレクラに電話して男を呼び出して欲しいと言ってきた。Bは最初は断っていたが男が脅してきたのでやむなく男の言うことを聞いて男を呼び出し、AB共に男らと天神に車で向かい、待ち合せ場所に行きホテルの方に歩いて行った。そして、ホテルに入ろうとしたときに男らが駆けつけ、脅してお金を脅し取った(ここではA、Bは恐喝に加担している。しかし、この件は挙げられていない。)。

その後、再び博多駅に戻ったが、いきなり他の男や女が車に乗り込んでいっぱいになり、ABは降りることができず、そのまま親富考通りに連れて行かれた。そこで車を降りると、男らはどこかに消えて、女の子3人(ABと主犯格の女C)になった。すると、カラオケボックスの前でCの友人らしき男2人(実際はCがテレクラで誘い出していた。)が声をかけてきたので、そのままカラオケに行こうということになり、ボックスに入った。

そしてしばらくして、ABは男らの行方が気になりCにどこに行ったか尋ねたところ「後から来るの知らないの」と知らされ、この時点やっと気づいたが、時既に遅く男らが入ってきて恐喝行為に及んだのである。

2 ひどすぎる少年事件の捜査

Aは、最初の恐喝には加担したが、後のは何の話しも聞いていなかったし、何も考えずにカラオケについて行っただけだと被疑者段階から否認した。しかし、否認することが分かるや捜査官は共犯者の男ら(先に起訴されて拘置所にいる。)に以前からABと同じように美人局をやっていたとする調書を作った。男らの最初の調書では前に一緒にやったことなど全然なかったのに、いきなり何回もしていたとの内容の調書が取られており、さらにその内容も具体性が全くなく、時間帯(夜なのか昼間なのか)さえも特定されておらず、否認した途端「作り上げた」のは明らかであった(担当検事に電話した翌日にあわてて調書をとりにいっている。まったくおそまつである。)。

そればかりか、A自身の取調べでも、「弁護士などつけない方がいい。」などと弁護人選任権の侵害をしたり、「お前のいうことをそのまま書いても裁判官に伝わらんから、ところどころ書いてやる。」といって誤導誘導を繰り返し、最後には「現場にいたのなら共犯になる。」などと少年が分かりようもない法的評価の部分についての自白調書を強引にとっているのである(ちなみにこの警官は中央署の少年課の刑事である。)。

我々は、この取調べの翌日にこの事を聞き、Aの言い分と取調べの内容をまとめたものを供述録取書として取り、公証役場で確定日付をとって、裁判官に報告した。

3 なぜ少年は逮捕されるのか

そもそもこの事件で女の子は3人いたが、主犯格の女の子は逮捕されていない。ABは少女苑に入った事があるということから、事件の関与としては軽微であるにもかかわらず、身柄をとったのである。特にAについては、かつてはレディースの総長であったが、少女苑を出た後は更生して真面目に仕事をしており、母と飲食店の開店準備をしている最中であった。前歴があるだけで簡単に身柄を取る警察・検察、それを追認する裁判所の姿勢に憤りを感じた。

この種の事件に力を注げる根源は、捜査機関、裁判所に対する「怒り」にほかならない。

4 審 理

裁判官との面会において、共犯者の調書や自白調書の問題点を主張していった。特に、付添人がついた後に共犯者からとった常習性の部分の調書について信用性がないことは、納得してくれたようであった。そして、その他にも共犯者調書の問題点(内容についてあいまいであること、他の共犯者の調書と内容がずれていること、捜査の基本である裏付け捜査が全くなされていないことなどから信用性がないこと。)から事前の共謀も認められないことや現場共謀も認められないことについて詳細に検討した。

審判においても、はきはきと自分の言い分を主張していく少年に対し、裁判官は判断しきれず、一応期日続行となり、Aは家に帰ることができた。

5 共犯者Bの受任

Bは姿を隠していたが(彼氏と同棲していた。)、その後10月に出頭した。そして、Bについても共同で受任することになった。Bについても、逮捕勾留されたので、観護措置取消を求めたが認められなかった。裁判官(Aの担当裁判官とは違う。)と面談したが、本件の前に美人局に参加しているのであるから、少なくともカラオケに入るときに未必の故意があるとの心証であった。

そこで、我々は前の事件と本件の事件との間には断絶があるということについて訴えた。前の事件と本件では美人局のやり方が全く違うこと、男を誘い出す場所が違うこと、前の事件の後は特に何の説明や謀議がないこと、男女の人数構成が違う(一対一、二対三)こと、カラオケに行った後、男らが入ってくる直前に気づいた言動をしていること等々である。

そして、11月27日の審判をむかえたのだが、その後信じられない出来事があった。詳細は次号で。

(つづく)

弁護士 田中裕司

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