少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌 ~やってはいないけど・・・~(17・8月号)

一 はじめに

これは、私が最初に担当した少年事件です。当時は(正確には現在もですが・・・)何をしてよいのかわからず、少年事件付添人マニュアルが頼りの綱でした。今思えば、もっとうまい活動ができたのではないかと思うのですが、ここにご報告させていただきます。

二 事案の概要

送致事実は、深夜、友人A君とともに煙草の自動販売機を開け、そこから現金及び煙草を窃取したという窃盗保護事件でした。

具体的には、昼間、友人とともに歩いていたところ、自動販売機に鍵が付けっぱなしになっていたことから、それを盗り、人通りの少ない夜間に同所を再び訪れ、自動販売機から現金および煙草を窃取し、それを山分けしたというものです。

三 やってはいない?

少年に送致事実の確認をすると、「自分はやっとらんですよ。」との答え。「これは完全否認か?」と思ったら、「やっとらんけど、その日はA君と一緒に行動し、現場にも行った。」と言い出し、どうも完全否認ではない様子。

再度、確認したところ、「A君が自販機から煙草とか盗りようのは見よったけど、自分は盗っとらんですよ。」「自販機が開くかどうか確かめに行っただけ。」とのこと。

「わざわざ深夜人通りの少ない時間に現場まで行って、自販機が開くかどうかを確認したかっただけって、そんな言い訳誰が信じるん?」と喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込み、「盗っとらん」というのだから盗ってないんだろう、自分が信じてやらんで誰が信じてやるんだと思って、腹をくくりました。

四 少年の調書

少年はやっていないと心に決めたものの、周囲は当然のように少年の言い分を信じてくれません。特にKSは如実にその様子が表れていました。

共犯少年とされるA君は、当初から二人で煙草や金銭を盗ったと主張しており、警察もそれにのって、事件から数ヶ月は経っているにもかかわらず、非常に緻密なA君の調書を作成してきました。

それに対し、少年の調書は全部で一〇数ページしか作られませんでした。

それぞれを比べてみると分量に一〇倍以上の差があるのです。このままでは、質はともかく量で負けてしまう・・・。

そんな時、普段は柔らかな雰囲気で定評のあるアネ弁が「手紙を書いて! とにかく毎日書いて!負けたくなければ、どんなことでもいいから!」とこっちが驚くほどの声で少年に声をかけたのです。少年事件は情熱が欠かせないとは聞いていましたが、なるほどこういうところに表れるのかと妙な感心をしたものです。

五 現場での聞きこみ

少年は、A君の調書に負けないくらいの手紙を書いてきてくれたのですが、被害者であるタバコ屋のお婆ちゃん(八〇歳超)の「二人の少年のどちらかが自販機の鍵を盗んだようだ」といった内容の調書が作られていました。写真で見る限りは、そんなにはっきり見えてはいないのでは?と思っていたのですが、現場を訪れそんな希望はもろくも崩れ去りました。

お婆ちゃんは年齢を感じさせないほどしゃきしゃきとした感じで、「二人の少年のうち黒い上下を着ていた少年が自販機にへばりついて、腕立て伏せをするような感じでにじり寄ってきていた」と警察の調書にも書かれていない具体的な供述をしてくれたのです。ちなみに、当日、黒い上下服を着ていたのはA君ではなく少年の方でした・・・。

六 証人尋問

中間審判期日を設け、共犯とされているA少年の証人尋問をおこなうことになったのですが、驚いたのは、裁判官の質問内容。「調書には、これこれという記載があるけど間違いない?」「これでいいんだよね?」などと調書をなぞるだけの質問しかしないのです。

こんな質問では何の意味もないのではないか?そう感じた私は、少年事件であることを忘れ、調書の矛盾点につきA少年を詰問するような尋問をしてしまいました。ただ、そのおかげというかA少年の発言内容が実際の記憶に基づくものではなく捜査機関がねつ造したものであることが判明し、A少年の供述内容の信用性を減殺することができました。

七 社会環境の調整

勤務先との調整は、スムーズに行えたのですが、保護者である母親との関係がなかなかうまくいきませんでした。この母親は、少年が逮捕されたことを知ると、勤務先に出向いて虚偽の事実を告げ、少年の給料を代わりに受け取り、そのまま遊びに出かけてしまうような人だったのです。当然、こちらから連絡をとろうとしても、なかなかつかまりません。なんとか会えたのは上記の中間審判期日当日になってからでした。このような母親の下に再び戻すことが少年のためになるのか否か、調査官とも何度か話し合いをしたのですが、調査官の前では、「いい母親」だったらしく、会社の寮には入れず、母親と同居させることになりました。

八 審判結果

当初は、中等少年院相当の意見が漂っていた本件でしたが、A少年の証人尋問を終えたころから俄に保護観察相当のムードに切り替わり、結局、共同正犯ではなく、幇助犯と認定され、保護観察処分となりました。

九 おわりに

最初の少年事件ということもあって、何をどのタイミングでしたら良いのか、全くの手探り状態でしたが、本件を通じて学んだことは、少年の言い分を信じることがいかに大切かということでした。たしかに、少年が本当のことを言うとは限りません。しかし、付添人として活動する以上は、騙されてなんぼという気持ちで臨む必要もあるのだと感じました。

もっとも、この少年とは後日再び警察署で再会したのですが、それはまた別のおはなし・・・。

和田 資篤

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