少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌 少年が広げてくれる就労支援の輪(27・6月号)

1 雇用主からの連絡

「先生、お久しぶりです。覚えておられますか?」それは、少年院入所中の少年の元雇用主からの電話だった。

「いや、そろそろ出てくるころかなぁ、と思って、準備しようと思って、お電話しました。」雇用主の側から、少年のことを気にしてくれるのは、嬉しいことだ。さっそく少年の親に連絡を入れて、受け入れ態勢を整えることになった。

雇用先は、県内に数店舗を抱えるラーメン店。事件を起こした後、少年はこの店で働きだした。少年にはこの仕事が性に合っていたらしく、いつか自分でラーメン屋として独立したいと思うようになり、非常に真面目に働いていた。

事件前の素行があまり宜しくなかったこともあり、残念ながら少年院送致となってしまったが、わざわざ雇用主の側から連絡があるということは、それだけ少年が評価されていたということだろうと思うと嬉しくなった。

実は、このラーメン屋さんには、この事件をきっかけとして、福岡県就労支援事業者機構に協力雇用事業所として登録してもらい、まだまだ就労先を見つけることが難しい少女など数名をすでに受け入れてもらっている。

僕が、事件を担当した少年がきっかけになって、他の少年・少女が新しい働き場所に巡りあうことができているのである。

2 他県からの少年の受け入れ

市内で建築業を営むY社長も、僕が担当した少年の雇用主だった。元暴走族で、グループをまとめて100台で暴走した経験を持つというY社長は、非行少年のときの面影を若干残した、若く元気にあふれる雇用主である。雇用先の決まりにくい、年少少年の雇用にも積極的である。

この人の凄いところは、ほとんど迷わないところだ。ある少年の就労をお願いしたときのこと。
私)「いつもすみません、実はまた雇ってほしい子がいるんですが・・」
Y社長「いいっすよ。」
私)「それが実は、また16歳で経験もないし、使いにくいとは思うんですが・・」
Y社長「いいっすよ!」
私)「それが実は・・住むところもなくて、寮とか空きはありますかねぇ・・」
Y社長「大丈夫っすよ!」

こうして、たった三語で、少年の雇用先が決まった。

直接会ったとき、改めて聞いてみた。「なんであんなにすぐに受け入れを決めちゃえるんですか。」
Y社長「いやぁ、YESって答えとけば、あとは何とかなるんですよ(笑)悩んでもしかたないっすから」

こんなY社長から、少年たちが学ぶことは、決して仕事だけはないだろう。

あるとき、福岡県就労支援事業者機構に九州の他の県の弁護士から連絡があった。どうしても地元から引き離し、仕事に就かせたいという。このときにも図々しくY社長に雇用をお願いした。

Y社長は、鑑別所に面会に行ったうえ、審判にも立ち会ってくれ、無事、保護観察となり、現在、その少年はY社長のもとで元気に働いている。

3 雇用事業所の拡大へご協力を!

非行少年等の就労による更生を目指すNPO福岡県就労支援事業者機構は今年で5周年を迎えました。その間、120社しかなかった協力雇用事業所は500社に迫る勢いであり、全国的に見ても福岡は突出した増加数を見せていますが、まだまだ十分足りているとは言い難い状況です。

この付添人日誌を呼んでいただいている会員のみなさまも、事件を通じて、更生支援に熱心な雇用主の方々と接する機会があると思います。その際は、ぜひ福岡県就労支援事業者機構の協力雇用事業所に登録いただけるようご協力いただけると助かります。

もちろん、福岡県就労支援事業者機構は、少年事件、成人事件等において、更生のため、就労支援が必要な場合に、雇用主を紹介するなどの活動を積極的に行っていますので、必要な際は、私までご連絡いただければと思います。

知名 健太郎定信

目次