少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

少年付添人日誌 ―特定少年の裁判員裁判―(5・10月号)

1 はじめに

私が少年付添の研修として最初に担当した少年事件が特定少年であり、福岡県で最初の特定少年の原則逆送事案であったため、この事件について報告させていただきます。

2 特定少年とは

特定少年とは、令和4年4月施行の改正少年法により設けられた概念であり、18歳及び19歳の少年のことをいい、18歳未満の少年とは異なる取り扱いがなされます。特に、16歳以上の少年のとき犯した故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件に加え、18歳以上の少年のとき犯した死刑、無期又は短期(法定刑の下限)1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件についても、原則逆送されることになりました。

3 本件事案について

私が配点を受けた事案は、18歳の高校生の少年2人組が、酔っぱらって夜道を歩いていた男性に暴行を加え、金銭を奪い取ったという強盗致傷事件でした。被害者は、少年らの暴行により、肋骨や鼻の骨を折る怪我をしていました。また、私が担当した少年は18歳を2週間経過したところで、前科・前歴はなく、これまで非行に走ったこともない少年でした。

付添研修案件であったことから、経験豊富な小坂昌司先生(52期)がサポートでついてくださりました。原則逆送事案であり、裁判員裁判になる可能性が高いということで、複数選任を申入れ、初回接見から小坂先生と二人で活動しました。

4 少年審判について

少年が鑑別所に移動し、早期の段階で調査官と面会しました。まだ、少年と調査官が面会する前でしたが、前科前歴もなく、両親の監督を受けられること、示談交渉も進めている点を伝えました。しかし、調査官は、特定少年であり原則逆送事件のため、逆送になる可能性が高いということを述べられました。並行して、被害者の方と示談交渉を進め、色々と苦労はありましたが、被害者の方に許しをいただき、検察官送致及び刑事処分を望まない旨の宥恕文言付きの示談を成立させることができました。付添人としては、国民の理解や信頼という少年法改正の趣旨や、被害者の被害回復と処罰感情の緩和により、刑事処分の必要性が軽減し、逆送回避の可能性が高まると考え、早期の示談交渉に取り組みました。

その後、保護処分が適当とする意見書を提出し、審判前に裁判官とも面会しました。しかし、裁判官にはあまり響いていなかったようで、全く示談等のことにも関心を示していませんでした。

審判直前の、調査官の意見書では、矯正教育による個別の指導が効果的であると述べながらも、本件は原則逆送の事件であるため、犯情を考えれば保護処分を選択する理由とはならないというものでした。これを踏まえて、再度意見書を提出しましたが、審判でも同様の判断がされ、裁判官は審判において、少年にほとんど質問することもなく、逆送決定がなされました。

5 逆送後

特定少年は、逆送されて起訴された場合、実名報道ができるようになります(少年法68条)。特定少年が逆送されていた他の弁護士会では、これを防ぐために会長声明を発出していました。私たちも同様に会長声明を出して、実名での報道を避けようと動きました。この活動については、逆送後時間もあまりなかったため、小坂先生に尽力いただいて、こどもの権利委員会の先生をはじめ、執行部の先生にもご協力いただき、会長声明を発出しました。また、検察庁や記者クラブに実名報道しないように申し入れを行いました。活動のおかげかはわかりませんが、検察庁も実名を公表しなかったため、実名報道は免れました。

また、弁護人が少年と定期的に連絡等を取り合うことを条件として、起訴後早いタイミングで保釈が認められました。裁判員裁判という長期にわたる事件において、早期に保釈が認められ、身体拘束から解放されたことは、良かったことだと思っています。

6 裁判員裁判(55条移送の主張)

裁判所は公判前整理手続において、早い段階で量刑グラフを配布し、本件同種事案では、執行猶予も十分にあり得ると考えていることがわかりました。少年法では、60条2項により、執行猶予期間中も資格の制限を受けないことになっています。しかし、法改正により、特定少年は、この適用を受けません(法67条6項)。私の担当していた少年は、公務員になりたいという夢があり、執行猶予の場合、夢を諦めざるを得ないという事情があったため、少年法55条による家庭裁判所への移送の主張を行うことになりました。また、弁護人としては、少年が話しやすいように公判の分離を求め、裁判所もこれを受けて、共犯の少年とは分離して公判は行われました。もっとも、少年事件のため、裁判所は他の事件よりも早く期日が入るように調整していただけました。

55条移送の主張をするかについては、少年自体非行傾向が進んでいたわけでもなく、このまま審理すれば執行猶予の可能性が高いこと、55条移送が認められても少年院に行く可能性が高いこと、公務員試験を受験できても合格できるかは分からないこと等、色々な少年の今後について、期間を空けながら何度も弁護人と少年、両親と話し合いました。

結果として、最後まで少年と母親の強い希望もあり、55条移送の主張を行いました。

家庭裁判所への移送を認めるかについては、裁判員も判断を行います。そのため、裁判員に理解できるように説明する必要があり、公判前整理手続きでも、あまり難しい説明をしない方向で、法曹三者打合せを行いました。具体的には、法62条2項がどのような場合に適用されるかについて、専門的な法解釈の議論をできる限り容易な言葉に置き換えつつ、少年を刑事処分(具体的には執行猶予付きの懲役刑)とするのか、保護処分とするのかどちらが適当か、その場合、どのような要素から判断すべきなのか、などを裁判員に説明することとしました。そのうえで、弁護人としては、犯情面で保護処分が許されないとまではいえないこと、前科前歴がないこと、示談が成立し被害者が宥恕していること、調査官が保護処分が有効であると述べ、両親らの指導監督が期待できることなどを中心に保護処分が適当であると主張しました。

他には、少年であることから、遮蔽措置をとるよう裁判所に上申し、傍聴席から少年が見えないようにしたうえ、開廷表にも少年の氏名を記載しないようにしてもらいました。

また、社会記録を取り寄せ、調査官の意見書をメモし、少年に保護処分が期待できるという旨を要約し、検察官にも同意を得たうえで、要約箇所を法廷で読み上げる形で証拠調べを行いました。

しかし、結果としては、懲役3年の執行猶予4年に保護観察が付きました。弁護人が主張した事実は認められるものの、犯情の重さからして、保護処分に付することを許容できないという判断でした。共犯の少年には、保護観察はついていませんでしたが、その理由は裁判所の裁判員への説明の影響なのか、判決を聞いても特にわかりませんでした。

7 終わりに

初めての少年事件で、初めての裁判員裁判を経験し、学ぶことが多く、小坂先生には大変ご指導いただきました。また、共犯の弁護人にも、74期の八丁先生が担当していたため、示談等頻繁に連絡を取り合って行うことができました。

私は、少年と何度も面会して話をしてきましたが、最後まで事件のはっきりとした動機がわかりませんでした。接見や打合せ、被告人質問でも発言が微妙に変わっていたところも多く、真意がつかめませんでした。少年自身にとっても、なんとなくお金が欲しいといったもので、これといって具体的な理由はない、そんな様子でした。非行もしたことのない少年が、これほどの怪我をさせる事件を起こすものなのかとも思いましたが、少年故の未熟さかもしれません。少年審判の段階において、裁判官をもっと説得できたらと思うことはありましたが、本件を担当した裁判官、調査官は原則逆送事件における逆送判断において、いわゆる狭義の犯情を特段に重視する姿勢を堅持しており、説得するのが困難でした。

本件のような、特定少年でなければ、少年院送致の可能性が高い少年は、原則逆送によって執行猶予付きの判決となれば、一定の制限はありながらも社会に戻って生活できる可能性も出てきます。このように、法62条2項原則逆送事件の場合、想定される処分として、実刑、執行猶予付き懲役刑、少年院送致、保護観察のいずれもが考えられるため、いずれの処分を求めて主張していくことが少年にとって良いのか難しく思いました。また、裁判員裁判では、55条移送を求めるような法解釈の考慮要素が多い主張において、あまり詳細な主張をしても、これを法律家でない裁判員の方々に分かるよう説明することは難しく、悩ましい問題だと思いました。

法改正がなされたばかりで、特定少年の家庭裁判所の運用も落ち着いておらず、同様の事案でも、逆送決定になっていないこともあると聞きました。本件では、このような活動結果になりましたが、原則逆送事件であっても、要保護性の解消に努め、裁判所に対して、少年の属性や家族の支援状況、事件後の変化等を伝えて、少年の健全育成のためにどのような処分が適当であるか、諦めずに働きかけていかなければならないと思いました。

平田 堅大

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