少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌(22・9月号)

1 性犯罪を行った少年の被疑者弁護士に選任され、警察署に出向くと、がっくりと肩を落とし、不安気な様子で少年が接見室に入ってきた。私は手続きの流れを説明し、事件の内容を少年に聞いたが、少年は終始下を向いたままで、目を合わせようともしない。

「何か心配なことがあるの」と問いかけると、少年は「仕事は続けられるのでしょうか」と小さな声で言った。

聞けば、少年は3月に工業高校を卒業し、化学工場に勤め始めてひと月余りだという。会社の名前を聞いて、「なんとか仕事を続けられるように交渉してみるから」と言って接見室を出た。

2 事務所に戻って、早速両親と連絡を取った。勤め先への対応を聞くと、病欠扱いにしているという。私は少年の立直りのために、雇用の継続がぜひとも必要だと考え、両親には、身柄拘束が長期間に及ぶ可能性もあるが、少年の社会内処遇に向けて勤め先と交渉していく、と伝えた。

3 再びの接見で少年は「仕事を続けていく自信がない」と私に言った。

慣れない化学工場での仕事で体力的に不安があること、身柄拘束が長期にわたり職場復帰が遅れると、職場の他の社員との関係で、職場復帰が事実上難しくなるのではないかと不安な心境を語ってくれた。同時に、高校を卒業してきちんとした会社に入社出来たことを誇らしく思っていることや、職場の人からは良くしてもらっていることも聞くことができた。

私は、「良いことも悪いことも含めて、社会人一年生なのだから、もう少し頑張ってみてはどうか」と少年を励まし、その日は接見室を後にした。

翌日接見すると、少年はすっきりとした表情で「是非、仕事を続けられるよう、お願いします」と言ってくれた。

4 少年の勤め先会社と連絡を取ると「両親とともに一度会社に来て、説明をして欲しい」と言われ、両親とともに、指定された日時に少年の勤め先会社を訪問することにした。

私は、大まかな事件の内容、これからの手続きの流れなどを説明し、少年が職場復帰を希望していることを告げて、雇用の継続を訴えた。

これに対し会社側は、就業規則上懲戒解雇事由にあたることではあるが、少年の能力を評価しており、社員としての将来に期待していることや、事件が重大な犯罪とまでは言えないことなどを理由に、処分を留保している旨を話された。

会社の方針としては、少年審判の結果などを踏まえて、最終的な結論を出したいとのことであった。

会社がこのように少年を評価していたことが印象に残ったので、私は、少年を励ます意味で「会社は君に社員として期待している」と伝えた。少年は驚いた表情を浮かべ、少し涙ぐんでいた。

5 少年審判では、少年自身が事件のことを良く反省していたことや、被害者との間で示談が成立したこともあって、保護観察処分となった。

すると、本来は就業規則上懲戒解雇事由にあたること、長期間休んだために少年自身が職場で嫌な思いをする可能性があることなどから、退職はやむを得ないが、少年の将来を考えて懲戒解雇ではなく、「依願退職」扱いとする会社の方針を告げられた。

私は、再検討を訴えたが、会社の方針が変わることはなかった。

後日、会社の担当者が少年に依願退職の事実を伝える場に同席した。その場を後にするとき、少年の上司が「まだ若いのだから、別の職場でやり直して、これからの人生を頑張って欲しい」と言い、少年が小さな声で「はい」と頷いていたのが忘れられない。

6 今回の事件で、会社を十分に説得することができなかったことが残念でならない。何が足りなかったのか反省を重ね、今後も付添人活動を続けて、少年事件への理解と協力を得られるよう努力していきたい。

田上 普一

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