少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌 国選付添人としての活動報告(26・10月号)

本年平成26年4月11日に少年法が改正され同月18日に公布されましたが、検察官関与事件の拡大や有期刑の上限の引き上げなどとの均衡を図る趣旨から、国選付添人の対象事件の範囲も被疑者国選対象と同一の長期3年を超える懲役・禁錮に当たる罪に係る場合にまで拡げられました。ただし、事案の内容、保護者の有無その他の事情を考慮してその必要があるときとされていて、選任が家庭裁判所の裁量によるものであることは従前と変わりありません。

この国選付添人の改正規定は公布の日から起算して2か月が経過した平成26年6月18日から施行されました。

私が法テラスから平成26年6月19日に国選付添人の候補指名通知をもらいお引き受けした事件が福岡家裁本庁でこの改正規定を適用して選任した第1号事件とのことで、子どもの権利委員会から原稿を頼まれましたので、ご参考になるかどうかはわかりませんが、簡単にどんな事件かご報告します。

この事件はO少年の保護事件で、O少年はまだ満13歳なので刑事未成年であり、触法少年として児童相談所長から家裁に送致されたものです。保護事件は2件あり、1つ目の内容は今年1月にO少年が中学校1年のクラスで給食時間中にドアを蹴ったりうろうろ歩き回っていたので、副担任の女性教師が席に戻るよう注意し、手をつかんで座らせようとしたところ、O少年が女性教師の肩を5発くらい拳で殴って7日間の安静加療を要する打撲傷を与えた傷害事件であり、2つ目は今年5月にコンビニからおにぎり等10点(1,442円相当)を万引きしたというものです。

しかし、送致書を見ますと、他にも万引きの回数を重ねており、同じ学校の男子生徒に付きまとって自転車ごと転倒させたり、自転車を盗むなどのいじめや女子生徒に対してふざけて服の上から胸や尻を触るなどの不良行為がかなりあり、学校からの指導を何度も受けながらそれが止まらないという問題行動を抱えていることが窺えます。

また、万引きしたたばこやビールも嗜むなど非行傾向はかなり進んでいるようでした。

少年本人に聞いてみると、「警察に逮捕されたことはない。警察から児童相談所には連れて行かれたことはこれまでにもある。」とのことで、本人いわく「付き合っている先輩が事件を起こしているが、満14歳にならなければ逮捕されることもないし少年院に送られることもないと思っていた。」ということで、罪の意識があまり感じられません。女性教師を殴ったことについても、「肩を軽く押しただけだ。」と言います。

このような問題行動はO少年のコミュニケーション能力に問題があるようで、相手の言うことを十分理解したり相手の気持ちを思いやったりする社会性の発達が立ち遅れているようでした。

現に少年鑑別所で1回目、2回目の面会ではこちらが話しかけても1言2言しか答えず、なかなか会話が成立せず、2回目の面会ではこちらのちょっとした言葉を悪く取って、「おじさんとは話すことはない。話は終わった。」と勝手に席を立ち、それで面会を終了せざるを得ませんでした。

ただ、この少年は珍しく家庭では両親や妹など家族との関係は良好で、父親も自営業で働いており経済的には問題ありませんでした。

児童相談所長の処分意見は120日程度の強制的措置を含む児童自立支援施設への長期入所でありました。

O少年の今までの行動から見て、そのような処分結論は容易に予想されましたので、それを回避するには本人の真剣な反省が不可欠と思いました。それで、少年には「あなたが今までの行動をどのように感じどのように考えるかが、大事になってくる。」と最初に会った時からそのような言葉を続けました。

O少年は初めは家に帰してもらえるものと高を括っていたふしが窺えましたが、次第に「少年院などには行きたくない。今度同じようなことをしたらそのような所に送られるのはわかったので、もう絶対しない。保護観察ならいい。」と言うようになりました。

それで、私も少年の意向を汲んで、「無理に児童自立支援施設に送っても逆効果になるだけなので、保護観察にしてもらいたい。」との意見書を提出しました。

審判結果は児童相談所長の意見のとおりでしたが、救いはM裁判官が実に丁寧に少年の言うことを聞いてくれたことで、この点はO少年も不満はなかったのではないかと思います。
なお、国選付添人事件として今までの付添援助事件と異なる点は、付添援助事件では保護者が通常、援助申請をしているため、付添人に選任されると保護者の方から連絡を取ってくることが多いですが、国選事件は裁判所が選任しますので、必ずしも保護者からすぐに連絡をしてくるとは限らず、付添人としても、少年と保護者との関係をある程度見極めてでないと連絡しづらく、そのタイミングに気を使わなければならない点だと思います。

林  和 正

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