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裁判員ドラマ上映会

カテゴリー:月報記事

徳田宣子

5月24日、中央市民センターにおいて、日弁連作成のドラマ「裁判員〜決めるのはあなた」の福岡上映会が開催されました。その模様をお伝えしようと思います。

当日は、集客に多少の不安はあったものの、160名を越す方々の参加がありました。私は司会をしていたため、ステージの上から会場にいらした方を見ていましたが、大学生風の人から年輩の方まで、幅広い層の市民の方々に参加していただいたという印象を受けました(残念ながら会場を満員にすることはできなかったのですが)。

さて、当日のプログラムとしては、まず今回の目玉である日弁連作成ドラマ「裁判員〜決めるのはあなた」の上映が行われました。見ていない方というのために簡単に説明しますと、嫁が姑を殺したとされる殺人被告事件において、石坂浩二扮する裁判長とともに選挙人名簿から無作為に選ばれた個性あふれる7人の裁判員が審理をしていくという内容のものです。見どころは何と言っても審理の過程です。始めは、被告人が故意に被害者を突き落としたと考えていた裁判員が議論を深めていく中で次第に考えが変わり、最後には被害者は誤って転落したにすぎず被告人は無罪であると全員一致で判断するに至ります。和製「12人の怒れる男たち」といったところでしょうか。かなり本格的な作りです。参加者の方からも大変好評で、協力いただいたアンケートでは、「裁判員1人1人の描写が深く表現されていて感動的で説得力のあるドラマだった」「予\備知識なしでも十分楽しめるし、裁判員制度についても身近に感じられると思う」といった感想が寄せられました。

ドラマの上映に続いては、福岡上映会の独自の企画として、関西学院大学の丸田隆教授に「市民が参加しやすい裁判員制について」と題する特別講演を行っていただきました。丸田教授は、法的観点から市民が利用しやすい裁判員制度と言えるためには、人数・対象事件・評議方法・評決方法などの点でどのような制度が望ましいかということや、現実的に市民が使いやすい制度と言うためには、どのような補償が必要となってくるかということなどを、流暢な関西弁に乗せて、大変わかりやすく説明してくださいました。もちろん参加者の方からの評判も大変よく、会場のあちらこちらから「わかりやすかった」という声が聞こえてきました。

最後に、船木副会長から、閉会の挨拶に代えて、「より良い制度の実現に向けて」として、裁判員制度導入にあたって、捜査の可視化が不可欠だという提案がされ、裁判員ドラマ福岡上映会が幕を閉じました。あっという間の三時間。参加された方は、時間を忘れて裁判員制度の理解を深められたのではないかと思います。

平成13年6月、司法制度改革審議会から裁判員制度を取り入れた意見書が答申され、裁判員制度の導入がいよいよ現実化しようとしていますが、正直なところ、私自身は恥ずかしながらどのような制度が導入されるのか、よくわかっていませんでした。しかし、今回の上映会を通じて少しではありますが、イメージすることができました。もちろん、これまでとは全く違う制度が導入されるのですから問題がないということはあり得ないと思います。しかし、よりよい制度にするためにできることとして、まずは1人1人が関心を持つことが何より大事なのではないかと思います。私を含めて少なくとも上映会に参加された方は裁判員制度に関心を持ち、自分なりに「理想的な制度とは?」ということを考えた1日だったのではないかと思います。

さて、裁判員ドラマ上映会は、6月27日は久留米で、また本稿執筆段階では日程は未定ですが、北九州でも開催されます。また、ご希望の方がいらしたら再度の上映会の開催も考えています。まだ裁判員ドラマをご覧になっていない方はぜひご覧頂きたいと思います。

「すべての少年に付添人を!」 公的付添人制度実現に向けたシンポジウム報告

カテゴリー:月報記事

山之口 泉

平成一五年五月三〇日、弁護士会館2階クレオにて、「すべての少年に付添人を!」−幅広い公的付添人制度実現のために−と題して、日弁連、東京三会及び法律扶助協会の共同主催による公的付添人制度実現を目指すシンポジウムが開催されましたのでご報告いたします。

シンポジウムでは、前半に東京での現在の付添人制度の実情及びケース報告が行われ、後半に少年事件に異なる立場から関わる四人のパネリストによるパネルディスカッションが行われました。

一 付添人制度の現状及びケース報告

まず、日弁連副会長高階貞男氏による開会の辞に続き、第二東京弁護士会の樫尾わかな弁護士が現在の付添人選任状況について報告されました。

東京家庭裁判所管内における付添人の選任状況について、観護措置決定件数総数に対する付添人選任件数の割合は平成一〇年では二三パーセントであったのに対し平成一三年には三一パーセントであり上昇傾向にはあります。しかし、計算の対象となる付添人選任件数については観護措置がとられていない場合も含んでおり観護措置決定された少年に対する付添人選任割合としてはさらに低くなるとの報告でした。

次に、法律扶助協会の専務理事である藤井範弘弁護士から付添扶助の現状について報告がありました。

付添扶助は全国五〇支部によって格差があり付添扶助が全くないという支部もあるものの、全体としては平成一三年における援助決定は二四二九件で前年度比にして四〇.七パーセント増という驚異的な数字であるとのことです。

しかし、現在の段階でも財源が限界にきておりそのために援助要件の変更を余儀なくされつつあるという問題点が指摘され、早急に公的付添人制度を実現する必要性を訴えていました。

続いて、日弁連子どもの権利委員会副委員長である羽倉佐和子弁護士から現在の公的弁護制度検討会における法曹三者の意見について報告がされました。

平成一五年二月二八日の第七回公的弁護制度検討会における法曹三者の意見についてはメールマガジン等を通じてご存知の方も多いかと思われますが要約してご説明いたします。

日弁連:公的付添人制度を実現すべきである。

最高裁事務総局:要保護性が問題となる事件については調査官がいるので付添人制度の必要性はさらに検討すべきである。他方事実認定が問題となる事件は適正な事実認定という観点から検察官関与と併せて公的付添人制度を検討すべきである。

法務省刑事局:事実認定の適正化という観点からは検察官関与のない公的付添人制度は考えにくくかつ被害者の納得も得られない。要保護性の適切な認定のためには調査官が存在する。公的付添人制度の導入については真に必要性があるか十分に検討すべきである。

その後、東京弁護士会の川村百合弁護士の司会により四名の弁護士の付添人のケース報告がなされました。

ケース報告では、非行事実に争いがなくても付添人活動により認定落ちをさせた事案や身柄解放に向けて付添人が活動した事案が報告され、川村弁護士は成人の刑事事件の九〇パーセントが自白事件であることと比較しても事実認定に争いがない少年事件についても付添人の必要性があることは明らかであると話されていました。また、要保護性のみが問題となっていても親からの虐待について調査官には話せず付添人との信頼関係のなかでようやく打ち明けたという事案、付添人が被害者との交渉や審判後にも少年の環境調整を行ったという事案などが生き生きと報告されており、まさに東京版「非行少年と弁護士たちの挑戦」といった内容で非常に勉強になりました。

二 パネルディスカッション

ここで休憩をはさんだ後、日弁連子どもの権利委員会委員の坪井節子弁護士のコーディネートにより、4人のパネリストによるパネルディスカッションが行われました。

まず学者としての立場から九州大学大学院法学研究院助教授の武内謙治氏より、付添人選任率の現状は五パーセントであり成人とくらべると異常に低いこと、また少年審判に主体的に少年が参加できるようにするためにまた適正手続の観点から付添人制度は必要であり少年には経済力がないことから公的制度が必要であるとの理論付けをされていました。

次に、元家庭裁判所調査官である寺尾絢彦氏より要保護性が問題となる事案では調査官がいるから付添人は不要であるとの意見に対して調査官はあくまで少年の処分を決定する裁判所の立場であること、また成年後見制度や少年法の改正により調査官の職域が広がっているので従来の調査官としての仕事が十分にできにくくなっている状況にあるという指摘がありました。

また、少年の親の立場から「非行」と向き合う親たちの会世話人である菊池明氏より付添人弁護士が子どもとの架け橋になってくれた体験を紹介され法律的な専門的知識をもった付添人の必要性と親の経済的状況により付添人を依頼できない状況にある親も多くいることから公的制度による付添人の制度を実現していくことが必要性があることを訴えていました。

そして、元裁判官でもあり現役の弁護士としての立場から大谷辰雄弁護士が、坪井弁護士から「私たちの希望の星です!」と紹介され話をされました。大谷弁護士は裁判官と付添人の両方の経験をふまえて裁判官は少年の処分を決める側の人間であり付添人は少年の更生を考える立場にあり全く異なる立場にあること、そして福岡での全件付添人制度の取り組みを紹介されていました。福岡では成人には国選弁護人制度があるのになぜ少年事件にはないのかという素朴な疑問から制度の発足にいたったこと、現在の福岡での取組みは公的付添人制度発足に向けて弁護士の対応能力の基礎をつくっておくためという意味合いもあったこと、制度の発足にあたって会員に対し3年後には公的制度ができるはずであるのでそれまで負担をお願いしたので公的制度を実現しなければ「私は約束を破ったことになります!」と鬼気迫る勢いで訴えていました。

その後会場との質疑応答が行われ、最後に日弁連子どもの権利委員会委員長の山田由紀子氏より、少年が納得して処分を受け入れる体制を作るべきでありそのために付添人弁護士が果たす役割は非常に重要である、しかし費用的な限界があることから公的付添人制度を早急に実現すべきであり、公費投入することについて国民の理解が得られるようさらに活動を続けていきましょうとの総括がなされ満場一致の拍手の中で閉会しました。

当日は、約二〇〇人の参加者が集まり、全国各地から弁護士も集まっており、また会場では特に学生、少年の親や教育関係者などの一般の方の参加が目立ち、シンポジウム後は「非行少年と弁護士たちの挑戦」も四〇冊完売しました。

パネルディスカッションの中で特に印象的だったのは、調査官の寺尾氏と少年事件を親として経験した菊池氏のお話でした。元調査官の寺尾氏が調査官が存在するからという理由で付添人不要論に対して調査官の事情としても付添人は必要であり少年の更生のためには調査官と付添人が情報交換をして協力していくべきであるという話をされ、また少年の親の立場から菊池氏が非行に走った少年の親の苦悩する心情を非常に生々しく語っており親の立場からしても「専門知識をもった」付添人弁護士は必要であると話されていました。検討委員会の意見でも公的付添人制度に対する厳しい反対意見が出されていますが、このお二人のお話は非常に心強いものでした。この日と前後して東京でも全件付添人制度の導入の検討に入ったということで、全国にもこの日の熱気が伝えられたことと思います。

「止めよう住基ネット・住基カード」シンポジウム開催

カテゴリー:月報記事

永田一志

皆さん、「住基ネット」という言葉を覚えておられるでしょうか。昨年の8月頃、皆さんの家に葉書で「住民票コード」(11桁の番号)なるものが送られて来ましたよね。そのころ、横浜市が住基ネットから離脱するとか、どこそこの町がつながないと決めたとか言う話が新聞やテレビ等で流されていたことをご記憶の方が多いと思います。

ただ、その後新聞もほとんど取り上げなくなり、テレビでこの問題を見ることも皆無と言っていい状態になって、皆さんも「住民票コード?」、そう言えばそんなものが来たな、でも番号なんか覚えてもいないし、何も変わっていないみたいだし、という感覚になっておられるのではないでしょうか。

ところがどっこい、この問題はまだ終わっていなかったのです。昨年稼働した住基ネットは、本来の住基ネットの一部でしかなかったのです。それが、今年8月に全面的(本格的)稼働となるのです。どういうことかと言うと、昨年8月に稼働を始めたのは、住民票に付随する個人情報を、住民票を管理する市町村から県へ、県から地方自治情報センターへ、地方自治情報センターから国の機関へコンピュータ回線で流していくという、いわば縦のラインだけでした。それが、今年の8月に「住基カード」という個人情報を載せたカードを発行することにより、一つの市町村から他の市町村へという、いわば横のラインでもコンピュータ回線で個人情報が流されるようになるのです。昨年動き出した縦のラインと今年動き出す横のラインの両方がそろって、「ネット」が完成するわけです。

しかし、縦横で情報が流れるようになれば、個人情報が流出の危険がより高くなります。また住基カードには国が決めた情報の他、発行する市町村が決めた情報を載せることができるようになっていますが、たくさんの情報を載せれば載せるほど、利便性は高まりますが、(カードからの)個人情報流出の危険性も高くなります。また、個人情報の名寄せはできないことにはなっていますが、それが行われない保証もありません。これら個人情報の流出や名寄せに対する防止策はどうでしょうか。今年再提出された個人情報保護法案(この原稿を書いている時点では衆議院で審議中ですが)も民に厳しく官に甘いといわれる基本的な問題点は改善されていないようです。また、実際の現場でのセキュリティー管理もとても十分とは言えません。(人口何千人の村にもネットにつながった端末がありますが、それを村の予\算で管理するのが非常に難しいことは想像に難くないでしょう。)

そこで、この危険な「住基ネット」を何とか停止すべく、昨年から引き続き活動をしていますが、その一環として、去る3月28日に中央市民センターでシンポジウムを開催しました。マスコミの無関心さに比例するようにとまでは行きませんが、昨年のシンポよりも少ない参加者となってしまいました。しかし、パネリストを初め、熱い議論・意見が出され、参加者の情熱は失われていないことが分かりました。今後も、住基ネットの稼働停止に向けて、再度のシンポ等を企画していますので、皆さんも是非参加、ご協力下さい。

女性相談研修第3回

カテゴリー:月報記事

山崎あづさ

1 3月11日、3回連続講座として行ってきた「女性相談研修」の最終回である、「性暴力被害について」の研修が行われましたので、そのご報告をしたいと思います。

2 はじめに、原田弁護士から、性暴力の意義、問題となる点、対応において留意すべき点などについての説明が行われました。その内容をご紹介します。\n 性暴力には、強姦、強制わいせつ、痴漢、ストーカー、未成熟者との性行為、性的虐待等が含まれ、それぞれの事案によって、問題となるポイント、それを踏まえた被害者に対する対応が異なってきます。

まず、強姦のケースでは、被害直後に相談を受けた場合には、事後避妊の処置や性感染症の対策のために産婦人科で診察を受けてもらうとか、事件のショックによりPTSDやうつ状態といった精神的な症状が表れている場合は、精神科の受診を勧めるなど、被害者の安全の確保のためのアドバイスが必要となります。

相談後、事件として受任する際、注意すべきなのは、被害女性本人の意思を十分に確認することです。特に、家族や恋人が相談に同行して、積極的に進めようとしている場合は、被害者本人の意思は十\分固まっていないこともあるので、周囲のペースに引きずられないよう注意が必要です。また、本人が責任追及をしたいという意思を持っている場合でも、刑事告訴、民事損害賠償などの違いを十分説明し、理解してもらうことが必要です。

それから、なるべく早い段階で、構成要件該当性で問題となりそうなポイントについて十\分な聞き取りを行い、把握することが必要です。判例で犯罪の成否が争われている事案の中には、「誘われて車に乗った」「逃げ出さなかった」「すぐに被害届けを出していない」など、被害女性の行動を問題にしてその信用性を否定しているものがありますが、こういった形で被害者を無用な攻撃にさらさないため、事前の聞き取りで問題となりそうな点を十分把握し検討しておくことが重要ということです。最初の聞き取りはざっと行い、反論が出た段階でその部分について聞き取りをする、という方法をとると、被害者は自分の代理人から攻撃を受けていると感じてしまうので、相手が問題にしてくる前に詳しく聞き取っておき、できれば陳述書等を作成しておくのがよいということです。なお、その際、被害者を非難することがないように留意することが必要です。

ストーカーの事案の場合、ストーカーを行う人には何種類かの特性があり、動機が了解可能で法的措置や警察の介入が功を奏する場合と、精神障害が原因で治療の対象となる場合、これらでは説明できず対応が功を奏さず事件化しやすい場合があり、事案ごとに相手の特性を十\分見極めることが重要です。法的措置としては、ストーカー防止法に基づく警告を求める、告訴を行う、民事仮処分の申立てをする、などが考えられます。

痴漢については、最近、冤罪が問題となっており被害者の供述の信用性を否定する傾向が強まっていますが、犯人の同一性のところで争われることがほとんどなので、警察の捜査のずさんさと被害者の問題は区別して考えることが必要です。

3 次に、松原弁護士から、性暴力事件についての捜査側の取り組み方などを、検察官の経験を踏まえてお話していただきました。性暴\力の場合、男性と女性の間の力の差を十分理解したうえで事実を把握していくことが重要であること、しかし現実にはこういった感覚について男性の捜査官はなかなか理解できていないことなど、貴重なお話を聞くことができました。

4 それから、私が先日、刑事事件で遮へい措置の中に入って被害者の付き添いをする、という経験をしましたので、それについての報告をしました。参加者からは、遮へい措置自体が被害者にとって圧迫感を与えないように、配置などについて弁護士が積極的に意見を出していくべきだというご意見や、家庭裁判所の法廷を活用してはどうかというご意見が出されました。

5 最後の質疑応答の中では、犯罪被害者の方の事件を受ける場合に法律扶助を使えるのか、という質問があり、萬年先生から、4月から犯罪被害の事案でも扶助の利用ができるようになるとのお話がありました。

6 今回の研修は、難しい、扱いにくい、気を遣うといったことから精神的に気おくれしてしまいがちな性暴力事件について、基本的なところから実践的なところまで勉強することができ、大変有意義なものとなりました。

虐待と少年事件についての一考察

カテゴリー:月報記事

井下 顕

月報1月1日号の小坂昌司会員の付添人日記に感動して、小坂会員に「感動しました」のメールを送ったのが運の尽きで、じゃあ次は君が書いてくれという話になってしまった。

付添人、付添人…。そういえばここ半年近く付添人やってないなあ(こんなことを書いて当番弁護士担当の時にどっと来ないだろうなあ…)。何を書こうか。全件付添人制度を支える若手に付添人活動が集中して、若手が疲れてるんじゃないかということを書こうと思ったが、月報に載せるようなことでもない。

私も二児の父親なので、日頃の父親不在の状況についての反省文でも書こうか…。そういえば私は名前だけ「ふくおかこどもの虐待防止センター(F・CAP−C)」のメンバーでもあるので虐待と少年事件の関係について書こう。しかしながら、とてもそれだけの大それたテーマは書けない。自分自身が関与した少年事件の中で感じたこと、考えたことを素直に書こう…。

もう一年以上も前の事件だが、ひったくりをして在宅で審判待ちだった少年が仲間と三人でバイクに乗って、通行中の女性からひったくりをして被害者が軽傷を負ったという事案で、結果は短期の少年院送致になったという事件があった。

私は当番弁護士で宗像署に赴き、少年と接見した。少年は当初私を相当に警戒しているのか、付添人制度のことや、付添扶助を受ければ費用は要らないという話をしても、そんな都合のいい話があるわけない、何か企んでいるなという感じでなかなか信頼してくれずその日はとりあえず考えるということで別れた。その後、少年から再度連絡があり、私が付添人として活動することになった。少しずつ信頼関係ができるにつれ、少年はいろんな話をしてくれるようになっていった。

その中で少年が実の父親から、かなりひどい暴力を受け続けてきたことが分かった。少年は父親に対して、別に憎いとも思っていないと言い、ただあんな人間にはなりたくないと言っていた。少年は母親と妹と三人暮らしで、母は父親と離婚していた。少年と何度も接するうち、私は少年の「開き直り」がどうしても気になるようになっていった。事件そのものについて反省はしているし、将来の目標も具体的に持っている。実直に働く母親を尊敬していると言い、被害者にも申\し訳なかったという気持ちもちゃんと持っている。しかしながら、どこか人生に対し、開き直っているという感じがするのだ。語弊を恐れず言えば「潔すぎる」ともとれる態度を時に示すのである。そういえば、修習生のころ、九州ダルク(薬物治療のための自立支援団体)に遊びに行ったとき、ひどい虐待を受けて育った少年が自分の生い立ちを語る中で、彼も人を殴ることに何の躊躇も覚えないと言っていたが、その時の彼も人生に「開き直った」ような感じがあったことを思い出した。

最近私は、人生に「開き直る」ということは、自分はこういう人間になりたい、こうありたいんだという自分自身を放棄してしまうことではないかと思っている。本来無条件の愛情を注がれてしかるべき親からひどい虐待を受ける、そのために、だれもが持ちうる自分自身の理想像、目標を心の中に描けなくなる、そのためのモチベーションさえ沸かなくなってしまうのではないかと思うのだ。大変分かりにくい表現になってしまったが、つまるところ親から虐待を受けるということは、自分の中にある「自分自身を形作る力」を喪失させてしまうというように思う。

最近私はネグレクト(不保護)も虐待であるとの痛切な(!?)認識のもとに、どうしても出なければならない飲み会には出るが、それも一次会だけにして帰るようにしている。かかる認識にいたるには、かなりの「格闘」と葛藤があったが、少しずつ父親になっていっているかなと思う今日この頃である。

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