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◆憲法リレーエッセイ◆ 震災が残したもの

カテゴリー:憲法リレーエッセイ

会 員 原 田 美 紀(59期)

遊ぼうっていうと遊ぼうという

ばかっていうとばかっていう

震災後に繰り返し流れたACの広告。一時期はこどもたちまでもが口ずさめるほどだった。

この詩の作者金子みすゞは、明治36年の生まれである。西條八十にその才能を認められ、詩人としての道を歩むも、結婚した夫からは作詞活動を禁じられ、自身不治の病に罹ったなかで離婚。彼女から娘を引き離そうとする夫に抗い、26歳という短い生涯を終えた。

山口県仙崎市にある金子みすゞ記念館には、CMの影響もあってか休日ともなれば訪問客が絶えないという。

震災後、「絆」ということばをよく耳にし、人と人とのつながりの大切さが再認識されている。

あまりにも悲惨な状態を考えれば、簡単に副産物と言ってしまうにはためらいもあるが、こうした風潮が生まれたことの価値は大きい。知人である市の職員のひとりは、「震災直後、何とか力になろうと多くの職員が現地に赴いた。仕事を抜きにして、何かに突き動かされるような思いだった。わが市もまだまだ捨てたものじゃないと本当に思った」と語る。

その一方で、震災を機に突飛な理論も持ち出されている。そのひとつが憲法への国家緊急権条項導入理論である。

災害時において、適切な対応ができなかった。だから、今後このような災害が起こったときに政府の危機対処能力を高め、適切な対応を可能にするために、国家緊急権条項を憲法に盛り込むべきというのである。

「ええーっ! なんでそうなるの」

国家緊急権というのは、憲法を学んだ者であれば、誰もが知っている「超」憲法的概念である。国家緊急権の発動はそのまま憲法秩序の停止を意味する。

今回の災害時に政府による適切な対応がなされなかったのは、国家緊急権がなかったからではない。

災害対策基本法等により盛り込まれ、定められるべき組織や制度が機能しなかったにすぎない。

本当に危ぶまれる不備があるというのが理由であれば、それぞれの法律にこうした制度を入れ込めば済むだけの話ではないか。

災害の影響で苦しむ国民の救済という現実の問題を後回しにして、これを好機とばかりに、何ら議論もせずに情緒的にあおり、国民の人権保障のために最も大切である憲法の抜け穴を作ろうとする動きは信じがたい。

これからの日本のあり方を国民の一人ひとりが真剣に考えるときにきている。

「議論をしましょう」

憲法委員会がいつも市民に呼びかけていることばである。

今、現実の問題を直視し、議論を重ねるという努力をしなければ、手痛いしっぺ返しを受けるのは間違いない。それはそのまま我々に跳ね返ってくる。

こだまでしょうか いいえ誰でも

そう、立ち返ってみたい。

「東日本大震災復興支援対策本部・災害対策委員会報告」

カテゴリー:月報記事

会 員 福 元 温 子(64期)

1 最近の活動について

当委員会では、継続的に、東日本大震災の被災者を対象とする無料説明・相談会を開催するほか、震災関連の出張相談、勉強会等を実施するなど、被災者支援の活動を行っています。なお、無料説明・相談会には当委員会に委嘱されていない先生方も参加されており、福岡県弁護士会全体で被災者支援を行っています。

復興庁が公表している資料によれば、平成24年5月16日現在、福岡県所在の避難者の数は763人で、4月5日現在の数から19人増加しています。当然ながら、自治体や国が把握していない避難者の方もいるとみられます。

福岡県は、被災地から距離があるため、被災者の避難先となり得る一方で、県民が震災を他人事と感じるようになってしまう危険もあると、自戒を込めて思います。今後も、避難者の方の声に耳を傾け、弁護士としてできる支援を実行していきたいと思います。

2 無料説明・相談会の開催について

平成24年5月27日(日)午後1時から、天神弁護士センターにおいて、被災者のための無料説明・相談会が開催されました。

相談に来られた方の中には、政府指定の避難対象区域外からの避難者は損害賠償請求ができないと思っていた、と言われる方もいました。たしかに、対象区域内からの避難者と対象区域外からの避難者とでは、損害賠償請求の内容が異なることが多いかもしれません。しかし、対象区域外からの避難者の方も、損害賠償請求ができる可能性があります。当委員会では、対象区域外からの避難者の方にも、まずは弁護士へ相談してもらうように、広報活動を行っていきたいと考えています。

また、今回の説明・相談会は参加者が少なかったため、県内の避難者全体に対する広報活動も課題となりました。自治体が把握している避難者の方には自治体を通じてお知らせをしていますが、自治体が把握していない避難者の方に対する働きかけも強化していきたいと考えています。

なお、次回の無料説明・相談会は7月29日(日)午後1時からの開催を予定しています。

3 損害賠償請求手続について

被災者向け説明・相談会では、原則として、全体説明を行った上で個別相談を受け付けています。全体説明では、原子力損害賠償請求の手続や、これまでに発表された中間指針等の判断基準、関連する法律や制度運用の変化等について、説明しています。私自身がそうだったように、新入会員の中には、原子力損害賠償請求の手続についてよく知らないという方もいると思いますので、基本のみ簡単にご紹介したいと思います。

原子力損害賠償請求の手続は、主に、(1)東電に対する直接請求、(2)ADR利用、(3)訴訟の3つがあります。(1)は、簡易迅速ですが、金額が一律に設定されているなどの問題があります。(2)は、原子力紛争処理センターに申立てる手続で、3か月程度を目途に迅速に、また、仲介委員によって中立・公正に運用されるという利点があります。(3)は、事例の蓄積がないため、どの程度時間がかかるかなど、予測が難しい部分が多くあります。

当委員会では、このような基本的知識のみならず、放射線の影響などの専門的知識についても、勉強会・研修を実施していく予定です。興味のある方はぜひご参加ください。

◆憲法リレーエッセイ◆「ひまわり一座の憲法劇に参加して」

カテゴリー:憲法リレーエッセイ

会 員 髙 木 士 郎(64期)

1 ひまわり一座とは

憲法記念日を前にした4月30日、中央市民センター大ホールにおいて、ひまわり一座による憲法劇「ぽったと原発の黒魔術」の公演が今年も行われました。

このひまわり一座、とは、弁護士が中心となって、日本国憲法を守る意義を多くの人達にわかりやすくかつ面白く伝える活動を行っている団体で、1989年の設立以来20年以上にわたって活動を続けてきました。ひまわり一座、という名前はご存じなくても一昨年の県弁主催の給費制維持市民集会で寸劇を行っていたメンバー、といえばおわかりになる方もあるかもしれません。

これまで、米軍基地問題や諫早湾干拓問題などを題材として取り上げ、身近な憲法問題についてみんなで考える劇を行ってきました。この様な長期にわたる活動の甲斐あって、現在、ひまわり一座には、演劇の専門家をはじめ会社員、学生など弁護士以外の多くの方々が、一座の活動に賛同し協力してくださっています。今年の公演でも、裏方さんまで含めると50余名の方が直接関わってくださり、そのうち4分の3は弁護士以外の方々です。

2 今年の憲法劇

今年の憲法劇は、「ぽったと原発の黒魔術」。この題名からおわかりの通り、福島第一原発の事故を題材としたお芝居です。魔法を使える魔法族と人間族が共存する社会で、魔法族の少年「ぽった」が、親友の「ろん」、「まい」とともにボランティアに向かった被災地でその被害の深刻さを知り、自分に何ができるかを模索し成長していく、というストーリーです。ですが、決して堅苦しいだけのものではなく、笑いあり涙あり、さらにはダンスもありの、楽しみながら原発にまつわる憲法問題を考えることができる内容でした。原発問題、というホットな話題が題材であったこともあってか、大ホールの客席はほぼ埋まり、立ち見が出るほどの観客の方にご来場いただくことができました。

私は、今年、ひまわり一座の公演初舞台でした。これまでお芝居などやったこともないのですが、地元に被害を与えた企業の会社員として苦悩する地元出身の青年という、演技も難しく、またストーリー上も重要な役をいきなり仰せつかりました。しかも、一つ一つの台詞が長い!ただ、役柄に難しいながらもやりがいを感じましたので、私が福島に行ったときに聞いた地元の方の話や原発で作業員として働いておられた方から聞いた話などを元に、原発の事故がもたらす被害の深刻さと置き去りにされた被災者の苦悩について考え、それが伝わってほしい、という想いで演技をしていくことにしました。

最初は、台詞も棒読みで、演技をしようとするとかえって不自然になってしまうなど全く上手くいかず、ほとんどパニック状態でしたが、共演者や演出家の方々から一緒に何度も稽古をつけてもらったおかげで、何とか本番では役を演じきることができました。客席で見ていた友人から、苦悩が伝わってくるような演技だったよ、というメールをもらったときはとてもうれしかったです。

また、公演が近づくにつれて、演技指導にも熱が入り同じ場面の共演者同士で自主練習をするなど、同じ劇を一緒に作り上げていっているのだ!という気持ちがどんどん強まっていきました。この様に、出会って間もない人達と一緒に、公演の成功という目標に向かって連帯感・一体感を持て、それを高めていくことができたことはとても有意義な経験だったと思います。

また、演技を実際にしてみて、自分の思っていること、伝えたいことを、言葉で人に伝えるには、声の大きさ、高さ、抑揚、視線、顔の向き、表情、身体の動きなど様々な点で工夫をしなければならないことを痛感しました。今後、尋問や相談など弁護士としての仕事の分野で、今回劇を通して学んだことを役立てていきたいと思います。

3 憲法講座

原発事故を題材にお芝居をするにあたり、被災地、特に福島に暮らしておられる方々がどのような状態にあるのか、どのようなことを考えておられるのか、また、原発で実際に働いておられた方々はどのような作業実態であったのか、その危険性はどのようなものだと教えられていたのか、などを学ぶための学習会を、劇の練習の合間に何度も行いました。

学習会に講師としてお招きした、福島に何度も足を運ばれ、ボランティアとして避難を希望される方と避難先との橋渡しを行っておられる方が語られたエピソードなどが脚本に盛り込まれるなど、劇を通して原発の生み出す憲法問題をより明らかで身近なものにするために学習会はとても有意義なものでした。

4 憲法劇団ひまわりサポートについて

昨年、憲法審査会が審議を始めたことに加え、今年に入ってからは主要政党が憲法改正原案を発表しました。この様な状況であるからこそ、私どもひまわり一座は、市民の方々と一緒に、芝居を通じて日本国憲法について理解を広げ、その素晴らしさを伝える活動を、よりいっそう行っていこうと考えております。

その活動の一環として、より幅広い層の市民の方々にひまわり一座に参加していただくために憲法講座をより充実させる、憲法劇を通じて憲法の意義を広く多くの市民の方々に知っていただくためにチケット販促活動にさらに力を入れるなどの点にさらなる尽力を行いたいと思っています。

これらの活動を支援するため、憲法劇を支える弁護士の会「憲法劇団ひまわりサポート」を立ち上げることになりました。福岡県弁護士会会員の皆様には、どうかこの趣旨にご賛同いただき、ご参加くださいますようお願い申し上げます。

5 終わりに

舞台をみんなで作り上げていくその高揚感、舞台を終えたときの達成感、その後の懇親会でのビールの美味さ、どれをとっても素晴らしいものです。憲法を大事にしたいと思っておられる方、演劇が大好きな方、舞台に立ってみたい方、ぜひ、ひまわり一座にご参加ください。また、裏方でのご参加も歓迎いたします。

来年も、憲法記念日の前後に公演を予定しておりますので、ぜひ観客としてもいらっしゃってください。よろしくお願いいたします。

精神保健当番弁護士活動報告

カテゴリー:月報記事

会 員 中 野 敬 一(49期)

1 平成23年10月20日、甲病院に入院中の乙さんから精神保健相談の申込みがあったとの連絡を受けました。甲病院は遠方(1回行くと往復も含めて半日はかかります)にあり、担当丙医師もお忙しく、日程調整がつかず、1週間後の病院訪問となりました。

  乙さんは、当時52歳でしたが、24歳のときから精神疾患(病名は伏せます)を発症し、入退院を繰り返しており、今回は約1年半前からの入院(医療保護入院)で、ご本人は退院を希望していました。

  ご親族(兄)は退院には否定的であり、乙さんは退院すれば一人で生活しなければならない状況でした。

  第1回面談では、乙さんは、病識はありましたが、服薬については、その必要を感じないので薬は飲まないという態度でした。丙医師も、このような態度を問題にし、入院患者とのトラブル等もあるということで、医療保護入院の必要性はいまだ存在するとの見解でした。

  そこで、退院には服薬の継続が必要である旨、乙さんと話し合ったところ、乙さんも「症状は完全回復までには至っていないかもしれない。薬を飲みながら、12月頃にもう一度相談したい。」と話すようになりました。

2 約束どおり、平成23年12月7日に乙さんと2回目の面談をしました。

  丙医師の話では、第1回面談以降、乙さんは真面目に服薬を継続しており、精神状態も安定してきたので、半年程度このまま推移すれば任意入院への切替も可能ではないかとの話でした。この旨、乙さん本人にも話し、次のステップとして、金銭管理を自分でやってみることを助言しました。

3 年が明けると乙さんから、やはり早く退院したいので、退院請求の申立てをしてほしいとの連絡があり、平成24年1月13日、3回目の面談に行きました。丙医師からは服薬も継続しており、トラブルを起こすこともなく、平穏な入院生活を送っているとの話を聞き、金銭管理にはまだ改善すべき点がありましたが、退院できる状況は、ほぼ整ったのではないかと考え、同月20日県に対し退院請求を申し立てました。

4 平成24年2月28日退院等の請求の結果通知があり、「3ケ月を目処に、他の入院形態(任意入院)への移行が適当であると認められます。」という内容でした。乙さんも、近いところに確実な目標ができ、毎日に張りができた様子でした。

5 活動全体を通じて、やはり相談者と面談を重ねて、退院に向けて階段を登っていくことが大切だと思いました。

  また、今回、比較的早期の任意入院への切替が認められたのも、私の前に精神保健相談を担当された弁護士の支援で、乙さんが生活保護を受給できており、任意入院になっても最低の経済的基盤があったことが重要であったと思います。

  その意味では、弁護士のリレーによる活動でした。

◆憲法リレーエッセイ◆さよなら原発 3.11福岡集会に参加して

カテゴリー:憲法リレーエッセイ

会 員 國 嶋 洋 伸(63期)

3月11日・・・。日本国民の価値観すら変えてしまうような昨年の大震災と原発事故から1年が経ちました。慰霊、検証、追憶・・・人によってその日が持つ意味は様々でしょうが、「原発なくそう!九州玄海訴訟」の弁護団の一員でもある私は、天神の須崎公園で開催された「さよなら原発3.11福岡集会」に参加しました。

厳しく冷たい北風が吹く中、3千人を超える市民が集会に参加しました。沖縄のラッパーや平和を唱うミュージシャンがオープニングアクトを務めた後、地震発生の時間には黙祷を捧げて、福島から福岡へ避難してきた若いお母さんたち(「避難ママ」)や元原発労働者らが次々とトークライブを行いました。

避難ママたちは、幼い子供の手を引いてステージに上がり、「不安に怯えずに暮らせる平凡な日常を返して欲しい。」「子供たちが外で元気に走り回れるふるさとに帰りたい。」と涙とともに訴えました。

その後、思い思いの手作りのプラカードや旗を持って、九電本社前まで渡辺通りをデモ行進しました。

「原発なくそう!九州玄海訴訟」は憲法上の人格権を根拠にしているのですが、「人格権」なんて司法試験の受験生時代にはよく分からず敬遠していました。

しかし、避難ママたちの話を聞いて、「人格権」は「フツーの人がフツーに暮らす権利」だったり、「今日と同じ平凡な明日を迎える権利」だったり、当たり前だけど庶民にとってはかけがえのない大切な権利なんだなぁと感じました。

また、原発労働者の方たちは、今も昔も過酷な環境の中、命を削って働いています。そのことに対して避難ママたちは「誰かの犠牲の上に成り立つ幸せなんて、ホンモノの幸せじゃない。」と言っていました。このことは、原発問題に限らず、沖縄米軍基地の問題や貧困と格差の問題などすべてに共通する、まさに憲法上の個人の尊重の原則の問題でしょうか。

もう一つ、私は「よみがえれ有明海訴訟」の弁護団にも参加していますが、島原の漁師さんから聞いた「普賢岳の噴火で海が変わっても魚は戻ってきたが、人が造った堤防で壊れた海は戻らん。自然災害は自然が戻すけど、人がやったことは自然には戻らん。宮城や岩手の漁師もすぐに戻るけど、福島は大変だろう。」と言う言葉が忘れられません。
私の祖父は宮城在住で家が多少壊れたものの、すでに元の生活を取り戻しています。福島の人たちも早くふるさとに帰れる日が来るといいのですが、果たしていつになることでしょうか・・・。

3月11日は、福岡だけでなく、北九州でも5000人、久留米と大牟田でも、それぞれ300人規模の脱原発集会が開催されました。

万が一、玄海原発で福島レベルの過酷事故が発生したら・・・福岡でも今日と同じ明日を迎えることは困難でしょう。

自然がもたらす恵みの中で、今日と同じ平凡な明日を迎えることができることに感謝しつつ、その権利を守るためにはみんなが知恵を出し合ってエネルギー問題を真剣に考えなければならないし、その陰に誰かの犠牲があってはいけないと、あらためて感じさせられた1日でした。

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