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ヘイトスピーチ勉強会(神原元弁護士をお招きして)のご報告

カテゴリー:月報記事

ヘイトスピーチ問題対策WG 迫田 登紀子(53期)

【ヘイトスピーチ問題対策WGをご存じですか】

当会は、2022年の総会において「ヘイトスピーチのない社会の実現のために行動する宣言」を採択しました。この宣言に基づき、福岡県内におけるヘイトスピーチ根絶のための諸活動や、予防・救済のための法的支援の活動を進めるなどするために設置されたのが、当WGです。

これまでにも、九州朝鮮中高級学校(折尾)や福岡朝鮮初級学校(福岡市東区)の見学・意見交換会、大韓民国領事館との意見交換会、県内の全自治体へのヘイトスピーチ対策に関する調査等を行ってきました。

本年6月、数多くのヘイトスピーチ訴訟に取り組んでこられた神奈川県弁護士会の神原元(かんばら はじめ)弁護士をお招きして、会内勉強会を行いましたので、そのご報告をします。

なお、憲法委員会から派遣された私の興味関心を中心とするご報告になることはお許しください。

【法律家たちの戸惑い ~表現の自由 VS ヘイトスピーチ規制】

講演の冒頭、神原弁護士は、表現の自由とヘイトスピーチ問題をどう捉えるかという難問を提起しました。

ヘイトスピーチが不法行為に該るとして損害賠償請求をする。あるいは法や条例に基づく規制をしたい。この場合、表現の自由との関係を、あなたは法律家として、どのように考えますか。

講演では触れられていませんが、憲法学者・樋口陽一先生の「いま、憲法は「時代遅れ」か」を引用させてください。

「思想の自由は、そのときどきの世の中の常識を超えるような考え、多くの人々に忌み嫌われるような考えにこそ、認められなければならないはずです。」「意見の違いは自由な競争を通じて決着される、という無限のプロセスこそが大事だ、ということが基本のはずです。」

「しかし、何でもありの自由が自由を否定する主張となって世の中の体勢を制してしまったら、自由な競争そのものが成り立たなくなるのではないか。」(ドイツとフランスの仕組みを紹介した上で)どちらの国も、「典型的な例を出せば、「アウシュビッツはなかったのだ」というたぐいの言説が言論の自由市場に登場するのを認めない。」

「自由な社会として原則的には言論の自由競争にゆだねるべきであるけれども、なおかつ一定の言論についてはなんでもありというわけにはいかない、それを規制する、という選択に当面してどう対処するか。これは難問中の難問で、内外の憲法学者の間でも、意見が分かれているのです。」

(上記の問題は、国家という公共社会規模での選択だが)「同じ問題が、個人の次元で問題とになります。」

「一方で自己決定、これこそが人権の基本にあるということは、だれも否定しない。しかし他方で、自己決定によっても侵してはならない価値があるはずです。「人間の尊厳」がそれです。」すなわち、「自己決定」と「人間の尊厳」という緊張関係をどうとらえるかという難問があるのです。

【ヘイトスピーチの具体例】

神原弁護士によれば、ヘイトスピーチは、3類型に分類できるそうです。

  1. 殺せなどと連呼(害悪の告知)
  2. 虫などに例える(侮辱)
  3. 「祖国に帰れ」、「(日本から)出ていけ」「叩き出せ」(排除)

このうち、(3)が、古くからある、最も典型的なヘイトスピーチとのこと。例えば、40年前の出版物「指紋押捺拒否者への「脅迫状」を読む」(1985年出版)では、脅迫状61通中42通が③の類型だそうです。

このうち(1)や(2)については、個人に向けられるならば不法行為が成立すると考えることはたやすいと思います。

他方、(3)の類型のヘイトスピーチが行われた場合、不法行為による損害賠償請求ができるか、すなわち、この場合の「権利または法律上の権利」とは何かが問題となります。

【神原弁護士の活動】

神原弁護士は、20数年の弁護士人生を神奈川県川崎市で活動してきました。

10年ほど前に、そこに暮らす少なくない在日の方々に対するヘイトスピーチの醜悪な実態を目の当たりにしたそうです。同時に、それに抗して、ルイアームストロングの「この素晴らしき世界」の音楽があふれる中、多くの市民の方々が、「仲よくしようぜ」と書かれた赤い風船を手に持ち、ヘイトスピーチ側を退場に追い込んだ現場に立ち会ったそうです。

その経験を勇気に、これまでに何十件ものヘイトスピーチ関連訴訟にとりくんできたそうです。

「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」の2条には、「不当な差別的言動」の定義がされていますが、その中でも、「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」という部分が重要だと強調します。

この法律を武器に、神原弁護士は実に多彩な判決を勝ち取ってこられています。

例えば、ヘイト行為を差し止めさせる仮処分決定(横浜地裁川崎支部2016年6月2日決定)では、「本邦外出身者を地域社会から排除することを扇動する、差別的言動解消法2条に該当する差別的言動は、上記の住居において平穏に生活する人格権に対する違法な侵害行為に当たるものとして不法行為を構成すると解される」といわしめています。そして、行われようとする行為は、「もはや憲法の定める集会や表現の自由の保障の範囲外であることは明らかであり」「この人格権の侵害に対する事後的な権利の回復は著しく困難であることを考慮すると、その事前の差し止めは許与されると解するのが相当である。」として差し止めの決定を勝ち取られています。

横浜地裁川崎支部2020年5月26日判決では、被侵害権利としては、「本邦外出身者が、専ら本邦の域外にある国または地方の出身であることを理由として差別され、本邦の地域社会から排除されることのない権利」「自らの出身国等の属性に関して有する名誉感情」「住居において平穏に生活する権利」こうした権利を包摂する憲法13条に基づく人格権があると言わしめています。

さらに、横浜地裁川崎支部2023年10月12日判決では、人種差別は単なる侮辱とは異なり、人間の尊厳そのものに対する攻撃であると判断され、「帰れ」という発言そのものに対して100万円の慰謝料を勝ち取ったそうです。被害者の方は金銭請求そのものには重きは置かれていないのですが、慰謝料が高額となることはヘイトスピーチの抑制効果があるとして、神原弁護士は評価しています。

福岡県弁護士会 ヘイトスピーチ勉強会(神原元弁護士をお招きして)のご報告

神原元「ヘイトスピーチに抗する人々」より

【個人の尊厳~社会の基盤にある「安心」という公共財】

神原弁護士は、講演の終わりに、ヘイトスピーチ規制法は、細かく見れば、ア)ヘイトスピーチ規制法、イ)ヘイトクライム規制法、ウ)差別禁止法があり、イギリスとフランスは全部が、アメリカ、カナダ、ドイツもうち2つが存在することを紹介してくれました。

そして、ジェイミー・ウオルドロン著「ヘイトスピーチという害悪」からの一節を引用して講演を締めくくりました。

ヘイトスピーチは、標的とする人々の社会的地位を普通の市民以下に引きずり下ろし、尊厳を危うくすることを意図する。ヘイトスピーチは尊厳を攻撃することで、社会の基盤にある「安心」という公共財を掘り崩してしまう。
ヘイトスピーチ規制は、不快感から守るためにあるのではなく、個人の尊厳を守るためになされなければならない。

私は、子どもたちのいじめ問題に多く携わっています。従来の犯罪型のいじめとは異なり、からかいやいじり、無視、はぶりという行為は、それ自体の違法性は低いと考えられがちですが、受け手の「個人の尊厳」を喪失させることに大きな問題があると考えてきました。ヘイトスピーチは問題が別ではありますが、通ずるものが多いと感じた次第です。

あさかぜ基金だより

カテゴリー:月報記事

会員 滝本 祥平(75期)

こんにちは

あさかぜに入所して、9か月が過ぎました。この間、公私ともに色々なことがありました。仕事面では、あさかぜで経験できると思っていなかった会社の支配をめぐる事案の控訴審で想定外の理由で控訴棄却されてしまい、厳しい現実を知りました。また、刑事事件で身元引受人になってもらうため、通常在宅していると思われる時間帯にご自宅を訪問したところ会えず、被疑者本人にその方の生活パターンを聞いたところ、深夜1時に帰宅し、翌昼には出掛けてしまうと聞いたので、事務所へ行く前に再度訪問したところ、お会いでき、身元引受人になっていただきました。世の中にはいろんな人がいるという現実を改めて思い知った次第です。私事としてあった色々なことは懇親会などでお話できたらと思います。

さて、あさかぜは養成事務所ですから、研修が充実しています。日弁連の公設事務所研修のほか、不定期であさかぜ研修というあさかぜ独自の研修もあります。あさかぜ研修は、あさかぜの所員が内容を企画し、外部講師の元へ赴いて知識やスキルを習得するものです。直近の実施例としては、7月11日(木)、壱岐ひまわり法律事務所へ出かけ、赴任中の宇佐美竜介弁護士に講義いただきました。このことを報告します。

壱岐ひまわり法律事務所が所在する壱岐ってこんなところ

壱岐島は九州本土の福岡市から北西に約80km、佐賀県北端部の東松浦半島から北北西に約20kmの玄界灘上に位置する長崎県の離島であり、行政区域としては壱岐市のみです。

壱岐市の人口は令和6年5月末時点で、2万4012人です。郷ノ浦町(人口8938人)、勝本町(人口4363人)、芦辺町(人口6628人)、石田町(3787人)となっています。やはり、博多とジェットフォイルで行き来できる郷ノ浦町、芦辺町に人口の大半が集中しており、郷ノ浦町が壱岐の中心部といえ、壱岐ひまわり法律事務所もここに所在しています。

なお、4名泊まれる施設を探すことに苦労したことや郷ノ浦港の駐車場はレンタカーでほぼ満車であったことを踏まえると、壱岐の観光業はある程度回復していると考えられます。他方で、HPなどで予約必須とうたわれる遊覧船の乗客数は少なかった印象ですから、回復の程度は十分でないのでしょう。

あさかぜ研修@壱岐

講義に先立って宇佐美竜介弁護士に壱岐の名所をご案内いただきました。あいにくの天気だったため、写真を撮っていない名所もあります。

まず、宇佐美弁護士イチオシの聖母宮(しょうもぐう)をご案内いただきました。写真1は、同宮の手水舎です。パラオから寄進された巨大なシャコガイが手水鉢として利用されています。また、同宮を訪れた際、たまたま宮司さんと出会いました。そのご厚意で本殿を見学することができました。その際に撮影許可をいただいたのが、同宮の収蔵品である掛け軸です(写真2)。

あさかぜ基金だより

(写真1)聖母宮 手水舎

あさかぜ基金だより

(写真2)聖母宮 掛け軸

そのほか、鬼の岩屋(宇佐美弁護士としては、古墳の入口がそのまま観光地として残されている点がおすすめポイントとのことでした)や、はらほげ地蔵(写真3)など島内を万遍なくご案内いただきました。

あさかぜ基金だより

(写真3)はらほげ地蔵さん

講義では、赴任における引継ぎはどのように行ったか、赴任後の受任状況はどうか、どのような分野の事件を受任しているのか、また、事務所の経営状況はどうかなどについて、宇佐美弁護士が実際に受任している事件の内容など詳細にご教示いただきました。

事件の内容に関して、離婚事件が多く、先立ってご案内いただいた名所のいくつかが不倫の現場ということがありました。また、刑事事件について、福岡などの都市部では身体拘束からの解放のため、ご両親が子である被疑者のために示談金を用意すること、身元引受人となることがありうるところ、壱岐では悪いことをしたのだから牢屋の中で反省しろという価値観の人が多く、協力いただけないことが多々あるとのことでした。

ついでに壱岐観光

任期を延長したくなる壱岐の魅力はなにかを探求するため、帰りの船を待つ間、壱岐を一周してきました。

壱岐の最高峰は丘の辻(標高213メートル)です。同所に設けられた展望台からは壱岐を一望できます(写真4)。海に囲まれ風を遮るものが無いため、壱岐の気候は福岡より冷涼です。全国的な猛暑日だと、私の地元である北海道札幌市より涼しいかもしれません。

あさかぜ基金だより

(写真4)壱岐最高峰 丘の辻

最後の写真として、宿泊した宿の方イチオシの観光スポット辰の島周遊時に撮影したもの(写真5辰の島、写真6マンモス岩)を添えます。辰の島周遊の後、お昼を勝本港にある海神というお店で頂きました。たまたま海神での食事をしたため、当該レシートと辰の島周遊の半券をもって前述の聖母宮を再び訪れると、特別な御朱印を購入することができました(今年限定のキャンペーンです)。

あさかぜ基金だより

(写真5)辰の島

あさかぜ基金だより

(写真6)マンモス岩

77期司法修習生へ

あさかぜの研修は充実しています。赴任まえから、過疎地域へ研修として訪れることができ、ついでに観光もできます。

日弁の定期研修会などで他の公設事務所の所員弁護士と交流することがあるのですが、このような充実した研修を実施しているのは、あさかぜだけと思われます。

本年度においてはすでに人吉へも行きました。人吉はいろいろな日帰り温泉が充実し、おしゃれな古民家カフェもありました。進路の一つとしてあさかぜを検討してみませんか。
地域の人々の生活と福祉を支えつつ豊かな自然にも触れる機会がある。この2つを両立できるのが過疎地で弁護士業を営む魅力と言えます。

より詳しい話を聞きたい、応募したい等お問い合わせは滝本(メールs.takimoto@asakaze-law.jp)までお願いします。

森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

カテゴリー:月報記事

生存権擁護・支援対策本部 塩澤 裕樹(70期)

1 はじめに

令和6年7月28日、生存権擁護・支援対策本部の夏合宿において、愛知県弁護士会所属、日弁連貧困問題対策本部事務局次長の森弘典弁護士を講師にお招きし、「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」との題で講演をしていただきましたので、ご報告いたします。

2 講演依頼の背景

令和6年10月に開催される日本弁護士連合会人権擁護大会では、「今こそ、『生活保障法』の制定を!」~地域から創る、すべての人の”生存権”が保障される社会~というテーマでシンポジウムが開かれます。

生存権擁護・支援対策本部としては、日本弁護士連合会の公表した平成20年の「生活保護法改正要綱案」、平成31年のその改訂版について再度学び、さらには権利性を明確にした「生活保障法」制定に向けての運動を今後行っていくために、本講演では生活保護法改正要綱案(改訂版)の内容について取り上げていただきました。

また、当本部が編集し発行している「生活保護の実務最前線Q&A」の改訂作業に向け、生活保護に関する論点についても併せてご講義いただきました。

3 生活保護法改正要綱案(改訂版)について

平成31年2月、日本弁護士連合会が生活保護法改正要綱案(改訂版)を作成・公表しました。

その改正案には、(1)権利性の明確化、(2)水際作戦を不可能にする制度的保障、(3)生活保護基準の決定に対する民主的コントロール、(4)一歩手前の生活困窮層に対する積極的支援、(5)ケースワーカーの増員と専門性の確保という5本の柱があります。

森弁護士の説明で特に印象的であったのは、(2)水際作戦を不可能にする制度的保障についてです。具体的には、簡単に書ける申請書の窓口備置きを義務付けることや、捕捉率の調査・向上義務を規定するといった内容になります。捕捉率とは、生活保護を利用できる人のうち、実際に利用している人の割合をいいますが、厚生労働省が2018年11月に公表したデータでは、所得基準で22.6%、資産を考慮して43.3%となっています。もっとも、相対的貧困率と生活保護利用率からの計算では10.4%となるなど、非常に低い捕捉率であるとのことでした。多くの人が生存権を侵害されているこの現状を打破するためにも、水際作戦を不可能とし、より積極的に必要とする人が利用できる制度を構築していく必要があることがわかりました。

森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

講演の様子

4 生活保護に関する論点

森弁護士からは、生活保護に関する論点につき広く解説していただきました。その中でも、生活保護受給中の自動車保有について、令和3年10月に生活保護問題対策全国会議が作成した「自動車を持ちながら生活保護を利用するために!」というパンフレットを基に説明していただきました。

旧来の「車はゼイタク品」との考えから、福祉事務所等が現行の厚生労働省通知を正しく運用せずに不正確な説明をしたことによって、自動車に乗れなくなるからと生活保護を断念した方の事例を聞き、私たちが生活保護の運用主体に対して正しい知識を伝え適切な運用を広めていく必要性を再確認しました。

森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

研修会場の大丸別荘

5 おわりに

講演でもお話がありましたが、現在、日本中で展開されている生活保護基準引下げに基づく保護変更決定処分の取消等を求める訴訟で、これまでに28の地裁で判決が言い渡され、6割を超える17の地裁で原告である生活保護受給者側の勝訴判決となっています。本講演で学んだことを、本年10月の人権擁護大会でさらに議論を深め、勝訴判決が続く全国の勢いにも乗って、私たちも福岡県から声を上げていきたいと思いました。

森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

研修会場の大丸別荘

「子どもの権利条約批准30周年記念イベント」開催!

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子どもの権利委員会 委員 長本 祐佳(67期)

第1 はじめに

今年は日本が「子どもの人権条約」を批准して30周年!という節目の年ということで、令和6年7月27日(土)、福岡県弁護士会館にて子どもの権利条約批准30周年記念イベントを開催いたしました。

第2 今回のテーマ

今回のテーマは「インクルーシブ教育」。

皆様、インクルーシブ教育をご存知ですか?インクルーシブは和訳すると「すべてを包み込む」という意味になります。インクルーシブ教育は、多様な特性や個性を持ったすべての子どもたちが、同じ学校に通い、同じ環境で一緒に学ぶ、という新しい教育の考え方です。このような教育を通して、子どもたち一人ひとりが、自分とは違った個性や価値観を受け入れる心を育み、それぞれの長所を最大限に生かして、より自由に社会で活躍できる共生社会の実現に繋がると考えられています。

第3 当日の様子
(1) 映画「みんなの学校」上映

今回のイベントの目玉は映画「みんなの学校」の上映会。

映画「みんなの学校」は、「すべての子どもの学習権を保障する」という理念のもと、インクルーシブ教育を実践している大阪市住吉区にある大空小学校の日常を描いたドキュメンタリー映画です。”THE・エンターテインメント”という感じの映画ではないので、一体どれくらいの方がいらしてくださるのだろうかと内心ドキドキしていましたが、大人64名、子ども16名、合計80名もの方々がお越しくださいました。その中にはなんと鹿児島からお越しくださった方もいらっしゃったとか!(ありがとうございます!!)この映画に対する、そしてインクルーシブ教育対する社会的な関心の高まりを感じました。

「子どもの権利条約批准30周年記念イベント」開催!

会場

この映画の舞台である大空小学校では、通常学級の対象となる子どもも、特別支援学級の対象となる子どもも、すべての子どもたちが同じ教室で学んでいます。言葉を持たない子、学校にいるのが苦手な子、感情のコントロールが苦手な子、暴力をふるってしまうこともある子、様々な特性のある子どもたちがいるということもあり、ときにトラブルが発生してしまうこともあります。この映画で描かれている大空小学校での日常は、ある場面では強く共感し、ある場面では深く考えさせられ、嬉しくなったり悲しくなったりと強く感情を揺さぶられるものばかりでした。そのため、心に残った出来事も、ある出来事に対する見方も、考えさせられるポイントも、この映画を観る人それぞれにあるように思います。個人的には、これまで学校に安心できる場所がなく不登校気味で、登校しても校内に2時間いるのが限界で学校から逃げ出そうとしてしまうこともあったお子さんが、何が苦手でどうすれば大丈夫になるのか、何ができて何ができないのかといったことを先生やクラスメイトに伝え、どうするかを一緒に考えていく中で、人間関係を築いていき、最終的に生き生きと学校生活を送ることができるようになっていく過程に強く心を打たれました。これまで逃げ出すほど学校が苦手だったのに、生き生きと学校に通えるようになった我が子を見て涙を浮かべる親御さんの姿に、思わず私も涙してしまいました。「学校で分離されて生活していたのに、社会に出てからいきなり共生なんて難しいに決まっている。

「子どもの権利条約批准30周年記念イベント」開催!

パネル

学校の中で、ともに学び、ともに遊ぶ中でこそ、関わり合い方を学んでいけるものでしょ。」というある先輩の言葉が思い出されました。この映画の上映時間は106分とそれなりに長いものでしたが、あっという間に感じました。

「子どもの権利条約批准30周年記念イベント」開催!

クイズラリー

(2) クイズラリー

映画上映後は、福岡県弁護士会館内にて子どもの権利に関するクイズラリーを行いました。福岡県弁護士会館内にあるパネルに隠されているヒントをもとにクロスワードパズルを埋めるとあるキーワードが浮かび上がってくるというもので、皆さん、ユニセフの子どもの権利条約に関する解説パネルをしっかりと読みながら解いてくださっていました。パネルがよくまとまっていて分かりやすいと写真を撮ってくださっている方もいらっしゃいました。

クイズラリーの景品では、やはり手作り缶バッチが子どもたちに大人気で、皆さん楽しそうに作っていました(一時、長蛇の列ができるという盛況ぶりでした!)。個人的には、福岡県弁護士会の弁護士あるあるファイルをゲットできて嬉しかったです。

第4 最後に

今回のイベントでは、子どもたちひとりひとりが自分らしく生きるとは何なのかということや、「インクルーシブ教育」とは一体どのようなものなのかについて、改めて考えることができるよい機会となりました。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。

「子どもの権利条約批准30周年記念イベント」開催!

缶バッチ

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

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中小企業法律支援センター 委員 藤家 寛之(76期)

1 はじめに

令和6年7月18日、株式会社悪の秘密結社の代表取締役である笹井浩生氏を講師としてお招きし、第1部には「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」との題でご講演をいただき、第2部では、悪の秘密結社の顧問弁護士である松村達紀弁護士を加え、弁護士による中小企業への伴走支援に関わるトークセッションが行われました。本講演会は、「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」の一環として行われたものになります。

本年は、中小事業者やその他他業種の方々をはじめ多数のご参加を賜り、会場参加が52名、オンラインでの参加が56名の合計108名にご参加いただきました。

本稿では、本講演会の内容と本講演会に関連する中小企業法律支援センタ―の取り組みについて報告いたします。

2 「一斉シンポ」について

中小企業法律支援センターでは、例年、日弁連の要請により、全国の弁護士会と共に「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」を開催してきました。

中小企業庁は、令和元年より、中小企業基本法の公布・施行日である7月20日を「中小企業の日」としました。本年は7月18日に「一斉シンポジウム」が開催されています。

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

栁副会長のご挨拶

3 講演会の内容
(1) 第1部(笹井氏によるご講演)

シャベリーマンこと笹井氏は、平成28年に株式会社悪の秘密結社を、福岡県福岡市博多区に本社を置くヒーローショーに特化したイベント会社として創業されました。その後、令和2年にテレビ番組「ドゲンジャーズ」がスタートし、「悪意を持つプロフェッショナル集団」というキャッチコピーにして、他の企業が行わないようなイベント、プロモーション、映像制作を手掛けております。笹井氏の行う事業はエンターテインメントという特殊なビジネスモデルなため、エンターテインメントを如何にしてビジネスとして成立させるかについて以下のように語られております。

エンターテインメントがなぜ世の中に必要なのか、たとえば、キャナルシティ博多に訪れた人々がショーの催し物を見ることにより楽しい気持ちになったり、普段の嫌なことを忘れたりなど、人の感情に入り込んで考え方や人生に意義を生み出すものがエンターテインメントであり、世の中にとって必要な存在である。

もっとも、エンターテインメントを行うにはビジネスとして成立することが重要であり、それには以下のような過程を経ることになる。

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

講演する笹井氏(1)

まずは、コンセプトがあり、そのブランディングをし、それを宣伝して、マーケティングするという過程を経てビジネスとして成立することになる。ここでいう、ブランディングとは共感させたい思いのことであり、宣伝とは人と人をつなぐこと、そして、マーケティングとは売り上げが成立する仕組みを作ることである。

これをドゲンジャーズに置き換えて説明すると、ドゲンジャーズの共感してもらいたい思いとは、たくさんの人々に愛されたい、世代を超えた価値になりたい、この町の当たり前になりたいという思い、すなわち「この町の文化になりたい」というものである。一般の市民の方が手の届かない社会貢献活動を任せてほしい。誰でも誰かのヒーローになれる。この活動こそがこの町の未来になると確信している。

そんな思いを実態の伴う思いにすべく、フードドライブ、小児病棟訪問、親不孝通りでのマナーアップ活動、横断旗の寄贈活動を行っており、人々には手の届かない社会貢献活動をドゲンジャーズが代わって支えていく。

しかし、ドゲンジャーズだけではどうしてもできないこと、それは活動資金や運営・映像制作資金の確保であり、ドゲンジャーズの前に立ちはだかる大きな壁である。それではドゲンジャーズはこの壁をどのように乗り越えてきたか。

制作会社に映像を作ってもらう際に一般的に制作委員会方式を取っており、東京では制作委員会のみで権利をビジネス化することができる。他方で、地方都市である福岡では、東京と異なり、制作委員会のみでは権利をビジネス化できず出資者への利益の還元が難しい。そこでドゲンジャーズはIPパートナー委員会やオフィシャルパートナー委員会を設立し、そこから出資を受けてから、制作委員会によって映像を制作しているという仕組みを作り、出資者へはIP保護・ビジュアル利用権という形で利益を還元している。このように三つの委員会を運用することによって、はじめて地方都市でも映像制作をすることができるようになった。三つの委員会を運用することは途轍もない労力ではあるが、だからこそ、立ちはだかる大きな壁を乗り越えられて、ドゲンジャーズを続けていくことができ、「この町の文化になりたい」という思いを人々に伝え続けることができている。

最後に、ドゲンジャーズは等身大で馬鹿馬鹿しい作風ではあるが、等身大だからこそ一緒に共感できる大切な時間と空間を作ることができると思うし、これからも作っていきたいと語られて、笹井氏は講演を締めくくられました。

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

講演する笹井氏(2)

(2) 第2部(笹井氏と松村弁護士のトークセッション)

ここからは悪の秘密結社の創業時から顧問弁護士として関わられている松村弁護士と笹井氏による事業者と弁護士の伴走支援について、トークセッションが行われました。

トークセッションの内容としては、ドゲンジャーズという名前が商標登録できるかなどの知的財産関係、制作委員会やパートナー等との間で交わされる契約書作成の過程、視聴者やお客さんとの関係やドゲンジャーズの権利関係への法的対応やルール作り、カスタマーハラスメントやトラブルに対する法的対応、会社内の従業員の労働環境等への助言、脚本作りにおいての法的トラブルを未然に防止する助言、弁護士以外の士業との関係性、事業者と顧問弁護士の理想的な関係性など、様々な場面での伴走支援の過程について具体例を用いて紹介していただきました。

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

トークセッションの様子(1)

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

トークセッションの様子(2)

4 講演会後の無料法律相談会

今年も無料法律相談会を開催いたしました。今後も委員会活動等を通して一般市民の方々や事業者の方々が気軽に法律相談ができる環境づくりに貢献できるよう、これからも会務に励みたいと思いました。

5 おわりに

笹井氏はドゲンジャーズのキャラクターであるシャベリーマンの仮面を被って登壇され講演をされておりました。仮面を被ったまま講演をされる方を見るのは初めての経験であり、のっけから度肝を抜かれたまま、いつの間にか笹井氏のトークに引きずり込まれました。シャベリーマンという名前からも分かるように軽妙な語り口で、会場の方々に終始笑いを提供しつつ、ドゲンジャーズの事業サービス展開のポイント・組織作りの肝について分かりやすく説明する様は、弁護士活動においても大変参考になる部分が多く、興味深く勉強させていただきました。

また、笹井氏と松村弁護士の事業者と顧問弁護士の関わり方についてですが、お二方のトークセッションの絡みから、笹井氏と松村弁護士は長年の戦友のような関係に思えました。弁護士成りたてほやほやの私にとっては羨ましく理想の関係性だなと思い、これからの弁護士人生において、事業者の方とこのような関係性を作れるように歩んでいきたいと思う所存です。

最後となりますが、笹井氏は、講演が終わってもシャベリーマンの仮面を外さず、そのまま会場を去っていきました。キャラクターイメージを壊さないためなのか、はたまたヒーローらに顔バレしないためかは分かりませんが、さすがは「悪意を持つプロフェッショナル集団」だなと感心するとともに、私も自身のプロフェッショナルを貫いていこうと強く思った次第です。

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

会場の様子

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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