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ジュニアロースクール2018春in福岡(3/27)

カテゴリー:月報記事

法教育委員会 会員 畑田 将大(70期)

1 はじめに

平成30年3月27日午後1時より、西南学院大学法科大学院棟にて、毎年恒例の法教育委員会主催の「ジュニアロースクール」(以下「JLS」といいます。)が開催されました。今年は、「救急車の有料化って、どう思う?」と、身近であり、かつ、難しいテーマを中学生・高校生と共に弁護士も頭を悩ませつつ議論をしてまいりました。以下、今年のJLSについて具体的にご報告いたします。

2 当日の状況
(1) 参加人数

今年も中学生6名、高校生23名、合計29名と、例年通り多数の参加者が集いました。

(2) 弁護士による寸劇

議論に入る前に、「救急車の有料化って、どう思う?」というテーマをイメージしやすいように、我々弁護士で寸劇をさせていただきました。寸劇の役者は、八木先生、横山先生、芳賀先生、末廣先生、高橋先生、吉村先生、山室先生、そして私の8名です。みなさん本物の役者ではないかと見間違えるほど迫真の演技をされていたため、臨場感のある寸劇となり、笑いあり、涙ありの会場となりました。私も救急車無料制度維持を推奨する政治家役を担当したため、スティーブ・ジョブズ並のボディランゲージを駆使し、中学生・高校生相手に演説をさせていただきました。

(3) 議論の様子

まずは、あらかじめ立場を決めた6つのグループ(無料化3グループ、有料化3グループ)に中学生・高校生を配分し、それぞれの立場からメリット・デメリットを出し合っていただきました。適宜各グループに配属された弁護士が疑問をぶつけ、グループの論拠の弱い部分をどう克服できるのか、克服できずともそれを上回るメリットはあるのか、意見を出し合い、最後に代表者による発表を通して各グループの意見を共有します。私は、特定のグループに所属せず会場全体の様子を見守っていたのですが、どこのグループもレベルの高い議論をされており、大人である我々にとって勉強になった部分も多々ありました。

次に、他のグループの発表及び無料化・有料化を推奨するそれぞれの政治家役の演説を聞いた上で、各自が妥当だと思う立場で改めて議論をしていただきました。ここでも熱い議論が繰り広げられ、「無料化してしまっては、軽傷患者が気軽に救急車を呼んでしまい、重傷患者へすぐに救急車を派遣することができなくなるのではないか」「有料化してしまうと、お金のある人のみが救急車を呼べるようになってしまい、不公平である」といった意見が飛び交う中、「所得制限を設けて、一定の所得のある人のみが有料化という案もよいのでは?」という折衷案も飛び出しておりました。そして、議論の結果、各々のグループはどの立場を推奨するのか結論を出していただき、発表してもらいました。結果は有料化2グループ、無料化4グループと無料化が多数となりましたが、結果以上に、今回の議論を通して、子ども達はもちろんのこと、大人である私も相手を説得することの難しさ、論拠をしっかりと組み立てて説明することの大切さを改めて学べたことに、大きな収穫があったものと思われます。

3 最後に

JLS後に取ったアンケート結果によりますと、9割近くの中学生・高校生が「面白かった」と回答してくれたものの、それと同数程度の生徒が今回のテーマの難易度について「難しい」と回答しておりました。たしかに、子ども達にとっては難しいテーマであったかもしれません。しかし、「面白い」にも関わらず、「難しい」と感じたということは、それだけ子ども達が頭を使い、悩み、議論を尽くしたという何よりの証拠ではないでしょうか。福岡県弁護士会副会長柴藤先生が仰っていたように、今回のJLSの目的は、子ども達に議論の場を与え、自分の考えに一定の筋道を立てて話し合い、相手を説得することの難しさ・大切さを学んで欲しいという点にあります。この目的についてはアンケート結果に出てきた「面白かった」けど「難しかった」という両回答の多さから見るに、達成できたのではないかと思います。

シンポジウム「依存症と自殺予防~私たちにできることは?~」のご報告

カテゴリー:月報記事

自死問題対策委員会 日髙こむぎ(70期)

2018年3月24日(土)午後2時から、TKPガーデンシティにおいて、福岡県弁護士会主催「依存症と自殺予防~私たちにできることは?」が開催されましたので、その内容をご報告します。

当日は、晴天に恵まれた花見日和の土曜日の午後にもかかわらず、依存当事者、支援者、医療関係者、行政職員、法曹関係者、一般市民の方など、約50名の参加があり、依存症と自殺予防についての関心が高いことがうかがえました。

基調講演では、独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター院長の杠(ゆずりは)岳文氏に、「アルコール依存症と自殺予防」というタイトルで、わが国における自殺の実態、アルコール問題の現状、多量飲酒と急死・うつ・自殺の関連性、アルコール依存症患者・多量飲酒者対策等についてお話しいただきました。

杠氏によると、約109万人のアルコール依存症患者のうち、約4万人しかアルコール依存症として治療を受けておらず、また、アルコール依存症まで至らない問題群への対策(2次予防)が全くなされていないという実態があるそうです。

飲酒関連死は、アルコール健康障害の最たるものですが、アルコール使用障害の様々な段階に見られ、依存症でなくとも、3分の1程度がアルコール依存症の前の段階で亡くなっています。さらに、急死者全体の12%が飲酒関連死であることが判明しています。

多量飲酒とうつ・自殺との関係では、アルコール依存症は精神疾患と相互に合併しやすく、アルコール依存症患者の精神疾患合併率は、男性5倍・女性20倍になるとの報告があります。また、国民1人あたりの飲酒量が多い国は、自殺率も高く、日本国内の研究でも、アルコール消費量の多い都道府県は自殺率も高くなることが分かっています。

このように、アルコール問題の現状として、アルコール依存症でなくても、飲酒期間が長期に亘り、飲酒量が増化する程、自殺リスクは高くなります。また、杠氏は、自殺例における血中アルコール検出率が約50%と、死亡時に飲酒率が高いことを紹介され、飲酒により恐怖感や、思考の健康的な展開がなくなることが原因で、自殺に繋がるのではないかと考察されていました。

そこで、現状を踏まえ、杠氏は、依存症と多量飲酒者対策として、減酒支援を提言されています。これは、(1)断酒ではなく、飲酒量の減量を目標とし、(2)依存症の専門家ではなく、ヘルスケアの従事者(看護師、管理栄養士等)によってカウンセリングを行い、(3)依存症ではない患者を対象とするものです。減酒支援により、飲酒量を約3分の2程度に減少させることができ、早期介入を行うことで、飲酒関連死の減少に繋がると紹介されました。

基調講演の後は、当会自死問題対策委員会の星野会員から、当会が運営している自死遺族法律相談制度、自死問題支援者法律相談の概要とこれまでの実績、いくつかの相談事例の紹介を行いました。

休憩を挟み、パネルディスカッションを行いました。当会自死問題対策委員会委員長の松井仁会員の進行のもとで、杠氏に加え、3名の有識者の参加を得て、依存症と自殺予防について議論しました。

まず、福岡市精神保健福祉センター所長の本田洋子氏から、センターにおける依存症支援についてプレゼンをしていただきました。

薬物依存当事者は、依存症が病気であるという問題に気づくことができないか、認めることができない人が多く、これは、依存症の「否認」という症状であるとの説明がありました。否認から脱し回復するためには、(1)医療機関等でのプログラムの受講、(2)自助グループやリハビリ施設への入所という手段があることを教えていただきました。センターでは、薬物依存当事者を対象に、SMARPP(認知行動療法プログラム)などを参考に作成した、センター独自のプログラムを提供されています。また、本人に回復を促すためには周囲の協力が必要であるところ、家族や支援者も限界な状態にあることが多いことから、CRAFT(コミュニティ強化法と家族トレーニング)などを参考に「福岡Drawプログラム」という独自のプログラムを提供し、家族に対する専門支援も行われているそうです。

次に、ジャパンマック福岡施設長の岡田昌之氏からは、ご自身のアルコール依存症からの回復の経験を中心に、施設における支援を紹介していただきました。マックでは、12ステッププログラムというプログラムを用い、アルコール依存症、薬物依存症だけでなく、ギャンブル依存症、買物依存症、ゲーム・ネット依存症、性依存症、クレプトマニア(窃盗症)等の様々な依存症支援に取り組まれています。

さらに、NPO法人九州DARC代表の大江昌夫氏からは、ダルクにおける支援について具体的にお話いただきました。

ダルクでは、共同生活を送る中で、既に回復過程にある仲間が、新加入の仲間の回復を援助しているそうです。依存症が病気であることの理解を促し、否認から脱するため、本人にとって最良の支援は何かを考え支援されています。

また、最初にダルクに繋がるのは、困っている家族が多いため、家族支援も行っており、本人との関わり方をアドバイスしているとのことでした。

その後の議論では、まず、目前に依存当事者がいるとして、どの機関に繋げればよいか?という点につき、杠氏及び本田氏から、離脱症状が激しい人や併存している精神疾患がある人は治療のために医療機関、そのような症状が出ていない人は自助グループにつなぐのが良いとの回答を頂きました。

また、依存症の否認の症状について、家族が治療プログラムに参加させたいと考えても、本人が参加を拒否している場合に、家族や支援者はどのように治療を受けさせたらよいか?という会場からの質問がありました。

杠氏からは、CRAFT等により、家族や支援者が、本人の自尊心を傷つけること無く本人とコミュニケーションを行う技術を会得することが重要との指摘がありました。また、岡田氏からは、否認している人はまず本人のやり方でやってもらい、止められなかったら治療に向き合いましょうと誘導するという工夫を紹介していただきました。

この質問に関連し、否認はどのように解消できるのか?という会場からの質問については、大江氏にご自身の経験を踏まえ、依存当事者の心理について詳しく話していただきました。また、自助グループで行われているミーティングは、否認を脱するために重要な手段であり、継続していくことに意義があるため、良くなりたいとの思いがあれば、是非継続して参加してほしいとのことでした。

自助グループに参加しつつも、途中でスリップ(薬物の再使用)してしまった場合のフォローについて、岡田氏・大江氏ともに、本人が希望すれば支援は継続して行っているそうです。

また、杠氏から、本人の依存症からの回復に伴い、それまでは見えていなかった現実に直面し、ストレスからうつ病になってしまう人もいるため、本人の素振りに注意する必要があるとの指摘がありました。さらに、「死にたい」と述べた人に対しての対応の注意点としては、本田氏から、まずは本人のいつもとは異なる様子に気づくこと、本人の話を否定せずに傾聴すること、家族や支援だけで抱え込まず、医療機関や自助グループに繋げること、繋げた後は見守ることが重要であると教えていただきました。

会場からもこの他に多くの質問が寄せられましたが、残念ながら時間切れとなり、全てを議論することはできませんでした。

弁護士として活動する上で、依存症当事者に出会うことは少なくなく、依存当事者は身体的・精神的にどのような状態にあるのか、どうすれば回復に繋がるのか、悩まれる会員の先生も多いと思います。今回のシンポジウムでは、支援者、当事者経験者の双方の話を聞くことにより、依存症についての理解が深まるとても良い機会となりました。

シンポジウムに参加された聴衆の皆さんも、依存当事者、家族、支援者の方に関わる上での様々なヒントを得られたようで、出口で回収したアンケートでも、参加して良かったとの声が多数寄せられました。

あさかぜ基金だより

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あさかぜ基金法律事務 弁護士 古賀 祥多(69期)

若林弁護士の退所

あさかぜ所員・69期の古賀です。去る2月28日、若林毅弁護士があさかぜ基金法律事務所を退所し、3月より対馬ひまわり基金法律事務所に赴任しました。若林弁護士は、私があさかぜ事務所に所属してから1年以上のあいだ、隣の席で一緒に仕事をしていて、共同で事件を担当することも多く、とてもお世話になった先輩弁護士でした。そのため、3月に入って、隣の席が空いていると、なんだか無性に寂しい限りです。

あさかぜ事務所は、九州沖縄の各県の弁護士会で構成される九州弁護士会連合会(九弁連)が、その管内の弁護士過疎地(簡単にいえば、人口あたりの弁護士の数が少ない地域のことです)に派遣する弁護士を養成するために設立した事務所で、所属する弁護士は、原則として2年間の養成期間を経て、九弁連管内の司法過疎地域に赴くことになっています。このような設立理念等からすれば、所属弁護士が事務所を離れ、各弁護士過疎地に旅立つことは当然のことです。しかし、長年お世話になった先輩弁護士が事務所を去るのは、やはり寂しいものです。

ただ、あさかぜ事務所に所属する弁護士は、弁護士過疎地における司法サービスの充実、法の支配をあまねく行き届かせるという志をもって、あさかぜ事務所に入所し、研鑽に励んでいます。そのため、過疎地への赴任は、自分の目標をかなえるための第一歩です。若林弁護士の今後ますますの活躍を期待しています。

残る所員弁護士の今後

若林弁護士が退所した現在、あさかぜ事務所には、服部晴彦弁護士、田中秀憲弁護士、小林洋介弁護士と私の計4名の弁護士が在籍しています。いずれも、ゆくゆくはあさかぜ事務所を出て、九弁連管内の弁護士過疎地に赴くことになります。

所属弁護士は、あさかぜ事務所に在籍する間、様々な事件を担当するだけでなく、あさかぜ委員会を通じて、キャッシュフローデータを意識した事務所経営、事件処理(相談の受け方、受任率の向上、依頼者とのトラブル防止など)、ホームページなどの広報、事務職員の労務管理などについても学んでいくこととなっていますが、若林弁護士も、法律事務にとどまらず、事務所経営、事件処理など多くの研鑽を積んできました(若林弁護士のあさかぜでの活動については、前月号の「あさかぜ基金だより」をご参照ください)。私も、残りの養成期間、来たるべき旅立ちの日に備えて、広く深くできる限り多くの経験を積んでいきたいと思います。

私は、あさかぜ事務所に所属して、1年4ケ月ほど経過していますので、もう1年と経たないうちに赴任する可能性が高いものと考えられます。こうして自分を振り返ると、折り返し地点を既に超えてしまっていることに、我ながら驚いてしまいます。あさかぜ事務所のOBで現在赴任している先輩弁護士を見ていると、いかにも頼もしく、私はまだまだとても及ばず心配してしまいます。あと半年少しで、本当に一人前の弁護士になれるのかどうか、いささか不安に駆られるところではありますが、あさかぜ事務所での日々の業務を通じ、事務所経営・事件処理を学び、一つ一つ積み重ねていきたいと思います。

未熟な点も多い私ですが、これからも引き続き、より一層のご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

対外広報委員会だより

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対外広報委員会委員 溝江 香菜子(70期)

1 当会の無料法律相談会

当会では、2014年、2015年、2017年に天神地下街において無料法律相談会を実施しております。また、2016年は、日弁連作成の武井咲さんのポスタージャックと連動して、福岡県下のイオンモール2店舗においても無料法律相談会を行いました。

2 無料法律相談会の開催

今年も、3月11日に天神地下街の1番街イベントブースにおいて、福岡県弁護士会無料法律相談会を開催しました。

今年は12時から16時(15時半まで受付)で相談会を実施する予定でしたが、11時半前から相談者の方がいらっしゃったため、30分ほど前倒しして、11時半頃より相談会を開始しました。相談会は大変盛況で、13時から14時頃までは常に5~10人待ちの状態でした。このため、本来の5つのブースに加え、臨時ブースを2つ追加し対応させていただきました。

また、相談会と並行して、「福岡県弁護士会」という当会のロゴマークの入ったジャンパー・ベストを着用したメンバーが、法律相談センターの案内、無料相談の案内、ライジングゼファー福岡(プロバスケットボールクラブ)とのコラボカレンダーなどが入ったチラシ一式や、法律相談センターのナビダイヤル入りのティッシュなどを配布する広報活動を行いました。

また、今年も昨年に引き続き、日弁連から、武井咲さんのメモ帳、ジャフバくん(日弁連のキャラクター)の風船など、配布グッズが多数支給されました。特に、風船については、お子さん連れの通行人の方々とお話をさせていただくきっかけにもなり、大変有益なグッズでした。

3 実施結果

最終的には、72件の相談を受け付けました。

相談者の方がどのようにして今回の法律相談会を知ったかについては、アンケートに回答してくださった71名のうち、「偶然通りかかった」が38名(約54%)、「市政だよりを見て」が19名(約27%)、「インターネットor県弁HP」が4名、「新聞」が2名、「SNS」が1名という結果でした。

偶然通りかかったという方が半数以上を占めており、弁護士による法律相談に対する潜在的なニーズが大きいことを示すものだと思います。

また、市政だよりをご覧になっていらっしゃった相談者の方が予想以上に多い結果となりました。市政だよりは今後も有効な宣伝ツールとして活用していくことが望ましいと思われます。

今回、相談会に立ち会う中で、「弁護士に相談となると敷居が高く、相談できずにいたが、思い切って立ち寄ってみてよかった。」、「ずっと気にかかっていたことが、今回の相談会を通じて解決し、とてもほっとした。」といった市民の方の生の声を聞くことができました。

今後も、無料法律相談会を継続し、市民の方に当会を身近に感じていただくとともに、より多くの先生方にも参加していただき、市民の方と直接お話ししていただく機会を持っていただければと思います。

憲法学習会「自民党の『加憲』案を考える」

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憲法委員会委員 山崎 あづさ(54期)

去る3月2日、憲法学習会「自民党の『加憲』案を考える」が行われました。会員の他に市民の参加も50名ほどあり、なかなか盛況な会となりました。

今回は、日弁連憲法問題対策本部事務局の井上正信弁護士(広島弁護士会所属)を講師にお迎えしました。井上弁護士は、これまで法律雑誌等で、憲法問題(特に憲法9条、安全保障、防衛政策)に関する論文を多数執筆されているとあって、豊富な知識に基づき、わかりやすく、明快な解説をしてくださいました。以下、その内容をご紹介します。

1 こんなにある、9条加憲論の論点

○ 現在の9条加憲論の特徴は、「イメージ先行型」、「感情論」である。条文案が示されない段階なのに「9条加憲で何も変わらない」と宣伝し、「自衛隊をきちんと憲法に位置づけないと、命をかける隊員に失礼だ」と情緒的に訴えかける。

○ 9条の最大の特徴は2項にあるが、「加憲」により2項との矛盾が生じ、2項の効力が変わることになるのではないか?

○ 「何も変わらない」と言うなら、わざわざ何のために改憲するのか?

○ 政府は60年間、自衛隊合憲論を積み重ねてきているのに、自衛隊違憲論を払拭するためだけに改憲する必要があるのか?現憲法の下では自衛隊員は誇りを持てていないというのか?

2 「何も変わらない」論への徹底批判

○ 現在の自衛隊は9条2項の下で作られた自衛隊法により規定されているが、加憲により9条の2に書き込まれる「自衛隊」は、それとは別物となり、9条の2の解釈に全て委ねられてしまう。そうして結局、9条2項はほとんど死文化してしまう。「何も変わらない」という主張は、憲法に書き込む意味を過小評価しているか、全く理解していないか、あるいは、ごまかしている、と理解するしかない。

○ 9条の2に自衛隊を書き込めば、次は、これを実行するための法律が必要となる。軍事秘密保護法、軍事法廷、安保法制のバージョンアップなど、フルスペックの軍隊を持つことが可能になる。

○ 自衛隊が憲法上の国家機関となれば、自衛隊の活動や任務と基本的人権が衝突する場面では、基本的人権が制約されることになる。

○ 9条が築いた平和な社会がどんな社会であったかを再確認しよう。9条は、自由な社会を下支えしている。なぜなら、「戦争は最大の人権侵害」である。

3 安保法制下の自衛隊の実態

○ 「専守防衛政策」が、安保法制制定後の防衛白書でも全く同じ文言で書き込まれているが、実際は、「再定義」という形で意味を変えられ、それまでの「専守防衛」とは似て非なるものとなっている。

○ 専守防衛政策の意義は、我が国が他国に対する脅威とならないことを宣言し、安心を供与することで我が国の平和と安全を図るところにある。しかし、これが揺らがされ、葬り去られる恐れがある。

4 9条改正と北朝鮮脅威論

○ 現在のマスコミ等の報道の仕方には問題がある。一度リセットしてみよう。世の「常識」に囚われず、現実・事実を踏まえて考えてみよう。

○ 抑止力を強化して平和と安全が守られるのか?「抑止」とは、互いに相手国の市民を人質に取る政策である。抑止が破れたときに犠牲になるのは、私たち国民・市民である。

○ そもそも北朝鮮の弾道ミサイルと核兵器だけが脅威なのか?挑発しているのは北朝鮮だけなのか?約束を破ったのは北朝鮮だけなのか?アメリカはどうなのか?「万一日本が攻撃されたら」というが、どの国がなぜ攻撃してくるのか?その想定は現実的か?

○ 北朝鮮の脅威というのは、9条の問題ではなく、対北朝鮮政策の問題である。場当たり的に、派生した問題だけを解決しようとしても本当の解決にならない。

○ 私たちが北朝鮮の脅威に向き合うときに大前提に置くべき条件は、絶対に武力紛争にしてはならないとの強い意思である。

井上弁護士のお話は、時に細かい情勢分析や実態報告を交え、事実を踏まえて理論的な指摘を展開するものでありながら、とても熱く、パワフルなものでした。特に印象的だったのは、「絶対に武力紛争にしてはならないという強い意思」が大前提だとの言葉です。何が大切なのかという点を見失うことなく、冷静に考えていきたいと改めて思いました。

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