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期待高まる「弁護士と学校教育の連携・協働」(法教育・いじめ予防授業研修報告)

カテゴリー:月報記事

法教育委員会 委員 田村 和希(74期)

1 はじめに

去る7月21日、法教育・いじめ予防授業研修が開催された。本研修は法教育センター講師の登録研修を兼ねており、私は、同講師名簿登録のため参加させていただいた。本稿では、当該研修の概要をお伝えするとともに、私自身が学んだことなどについて述べたい。

2 研修の内容
(1) 委員長挨拶

まず、法教育委員会委員長の日浅裕介先生がご挨拶され、法教育センターの設立経緯と趣旨について説明があった。

そもそも法教育とは、法律専門家ではない一般の人々が、法や司法制度、これらの基礎になっている価値を理解し、法的なものの見方・考え方を身につけるための教育を特に意味する。平成28年6月の選挙権年齢の引下げや今年4月の成年年齢の18歳への引下げ等に伴い、法教育の必要性は近年ますます高まっている。

当会では、学校等の教育機関から要請を受け、名簿に登録された弁護士がゲストティーチャー(以下「GT」)として教育機関を訪問し、主権者教育、ルール作り、いじめ予防などの法教育をはじめ、弁護士の仕事といったキャリア教育にいたるまで、さまざまなテーマについての出前授業を行っている。

研修開催日時点において、当会会員のGT登録者数は4部会合計で199名(福岡133、北九州25、筑後31、筑豊10)であるが、学校からの出前授業実施の申込数は年々増加傾向にあり、さらに多くの会員に登録いただきたいとのことであった。

(2) DVDの視聴と授業内容の説明

続いて、鍋島典子先生が中学校で実施された出前授業の様子がDVD上映された。「救急車を有料化すべきか」というテーマで、今後この国で救急車を利用するためのルールを自分たちが決める、という設定のもと、中学生たちが真剣に議論を戦わせていた。

この授業において、生徒たちは、いわゆる”正解”がない課題に向き合い、自分たちの意見をその根拠とともにまとめ上げることを試みていた。他方で、反対の意見にも配慮しつつ議論を尽くすことを通して、最後は多数決で決めるとしても「なぜそのルールになったのか」を皆が納得できるにはどうすべきか、という民主主義の過程の大切さを学んでいた。

(3) 授業実施の留意点

さらに、日弁連・市民のための法教育委員会委員でもある春田久美子先生が、授業実施の留意点等について説明された。

先生の数多くの出前授業のご経験を踏まえられ、授業づくりのポイントとして、(1)伝えたいメッセージをシンプルかつ明確にしつつ、生徒にとって身近でリアルな素材を選ぶこと、(2)ワークシートや模造紙等を使って言語活動を盛り込むこと、(3)いわゆるアクティブ・ラーニング型の授業(一方的な講義だけではなく、参加型・体験型・双方向型の授業)を目指すこと、を示された。

説明を通じて、何より春田先生ご自身が、学校での出前授業を非常に楽しんでおられる様子が伝わってきたのが印象的であった。

(4) いじめ予防授業の説明

また、森俊輔先生から、いじめ予防授業についての紹介があった。

当会におけるいじめ予防授業のこれまでの歴史的経緯をご教示いただくとともに、授業実施の目的は、「いじめがダメなことは分かっている子どもたちに、『ダメな理由』を腹落ちしてもらうこと」「被害者が嫌な思いをしたらいじめに当たると知ってもらうこと」「誰もがいじめを止めることができると知ってもらうこと」である点を示していただいた。

(5) 手続の流れ

最後に、田上雅之先生から、GT選任後の出前授業実施の流れについてご説明いただいた。

依頼を受けてGTに選任された場合、授業の実施については法教育センターの担当運営委員である弁護士からアドバイスをいただけること、使用教材についても既存の教材(法教育センター管理のドロップボックスに、テーマごとにストック)を活用できることなど、バックアップ体制が整っていることをご教示いただいた。名簿登録してすぐにGTに選任されても、不安なく対応できることが分かった。

3 研修を通じての学び

私自身、2人の子どもを育てる中で、未来を担う子どもたちが、複雑・多様化していくこの社会をいかに生きていくのか、そのために必要な能力をどうやって身につけるべきか、日々考えさせられるところである。そうした中、他者の意見・考えを尊重しつつ適切に合意を形成したり、ルールにのっとり公平・公正で妥当な結論を導いたりする力を、学校教育の場で養っていくことは、1人の人間として成長し生きる上で、また、これからの社会を支える一員となっていく上で、とても意義のあることだと感じた。

こうした法教育に、法律の専門家である弁護士として参画し、子どもたちの学びの一助となれるなら、「弁護士としての活動を通じて、世の中を少しでも良くしたい」という、自分がこの道を志した信念に沿うものだと思い、さっそくGT登録の申込みをさせていただいた。

4 おわりに

令和2年度から順次実施されている新学習指導要領においては、「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った能動的な学習とともに、「社会に開かれた教育課程」がポイントとされている。このうち、今年度から始まった高等学校の新たな必履修科目「公共」では、積極的に専門家との連携・協働を図ることで学習活動を充実させることが明記されるなど、法律専門家たる弁護士の関与が期待されているところである。

ますます教育の現場と我々弁護士との連携・協働の重要性が高まる中、私も微力ながら法教育センターの一員として、子どもたちの「社会を生きる力」の養成に貢献したいと考えている。

難民問題研修レポート「激震の世界・難民条約締約国日本の責任と弁護士の役割」

カテゴリー:月報記事

国際委員会 委員 辻 陽加里(64期)

1 はじめに

令和4年6月29日、国際委員会主催の難民問題に関する研修会が開催されました。本研修会は、開催の趣旨の一つに、難民問題に取り組む弁護士の裾野を広げるという目的がありましたので、イントロダクションとして、当会会員の稲森幸一弁護士から入門編として、難民・入管事件の特色と難民認定制度の概要についてご講演頂きました。

その後に本研修会のメイン講演として、40年近く難民事件に最前線で取り組んでこられた愛知県弁護士会名嶋聰郎弁護士より「激震の世界・難民条約締約国日本の責任・弁護士の役割」と題し、日本の難民支援・難民事件の実情及び難民認定制度の問題点についてご講演を賜りました。

最後に非常に急ぎ足ではありましたが、弊職から国際委員会内活動である福岡難民弁護団の活動についてご報告致しました。

本研修会は会員向けに行われ会場参加が10名程度、オンラインでも10名弱ご参加いただきました。

2 イントロダクション(稲森弁護士ご講演)
(1) 難民・入管事件の特色

難民・入管事件に熱心に取り組む稲森弁護士からは、難民・入管事件に特有の苦労が語られました。

まずは、日本の難民認定が非常に厳格であること、難民認定は難民条約という国際法に則ってされるべきであるのに、日本独自の解釈で難民を非常に狭く解釈し、認定していること、裁判においても日本独自の解釈に則って判断されること、国際法をどんなに主張しても特に地裁段階では判決で一切触れられず一顧だにされないことが報告されました。

その他にも実務的な問題として、依頼者が必ずしも日本語や英語に堪能ではないので、通訳の確保をしなければならないこと、難民申請者たる依頼者が入管収容施設に収容されている場合は、福岡から一番近い入管収容施設でも長崎県大村市にあるため、面会するのに片道約2時間かかり、打合せするにも一苦労であることなどが語られました。

そんな苦労の多い難民事件ですが、事件を通じて世界情勢や異文化に触れることができる上に、難民の方々が新しい人生をスタートする手助けができるという点で大きなやりがいがあるとのことでした。

(2) 難民認定制度の概要

そもそも条約上は難民と認定されなくても、条約に定める難民としての要件に該当すれば難民であるとの建て付けなのですが、日本から難民として庇護を受けるためには、まずは難民申請をすることになります。

難民申請者は、まず地方の出入国管理局に必要書類を揃えて難民申請をするのですが、その際に難民であることの立証を求められます(いわゆる一次審査)。難民事件の場合、一般的に、難民申請者は辛うじて自国を出国して迫害を逃れるケースが通常のため、自国での迫害を裏付ける証拠を周到に準備して出国するケースはほとんどありません。どの国に出国できるかも分からない方も多くおられます。難民申請者が日本の難民認定制度に詳しいはずもありません。一次審査では、難民調査官が難民該当性を調査することになっていますが、後述のとおり機能しているとはいいがたい状況です。しかも難民性を主張・立証する上で重要な難民調査官との面接に弁護士は代理人であっても同席することは許されません。なお、難民申請者の出身国の一般的な政治状況、迫害状況等の「出身国情報」は、国連機関や海外の難民関連団体等が調査公表しているものが参照されます。

一次審査で難民不認定となった場合、審査請求(いわゆる二次審査)を受けることができ、ようやく弁護士が代理することができます。審査請求では、「学識経験者」から選任された難民審査参与員という非常勤の公務員が3人一組で意見を述べることになっていますが、参与員の意見には法的拘束力はありません。

一次審査も審査請求も法務大臣が難民かどうか判断することになっており、同じ機関が2回判断を行うことも問題視されています。

3 メイン講演(名嶋弁護士のご講演)

名嶋弁護士は、冒頭でご案内したとおり、30年以上にわたって難民事件に取り組んでこられた後に、6年間参与員も勤められたとのことで、40年近く難民事件の最前線におられた方です。NPO法人名古屋難民支援協会の代表理事や全国難民弁護団連絡会議の中部地方の世話人もされています。

講演の前半は難民事件の裁判(難民不認定処分取消訴訟)に関するお話、後半は難民審査参与員のご経験に基づくお話がされました。

(1) 難民事件(裁判)
  • パキスタン宗教難民
    名嶋弁護士が平成元年に弁護士登録をされて間もなく取り組まれたのが、パキスタンのスンニ派の中でも少数派のアハマディアという宗派の方々の難民事件だったそうです。名古屋にアハマディアのモスクがあり、難民申請の相談が多数あったそうです。
    名嶋弁護士曰く「ビギナーズ・ラック」で勝訴判決を得、難民事件へ深くかかわるきっかけになったとのことでした。ちなみに、名嶋弁護士の勝訴判決がでるまで、類似の事件49件が全件敗訴したそうです。
    勝訴判決の後、同宗派の信仰によって迫害を受けている方々が一定の救済が得られるようになったそうです。
  • クルド政治難民の難民不認定処分取消訴訟
    名嶋弁護士は、クルド難民の難民認定処分取消訴訟でも勝訴判決を勝ち取られました。つい最近までクルド人難民に関する唯一の勝訴事件でした。(なお、名嶋弁護士の判決から15年以上経って、令和4年5月20日に札幌高裁でようやく2件目の勝訴事案が出たところです。)
    クルド人は、イラン、イラク、トルコなどの複数の国にまたがる山岳地帯で生活していた民族で、いずれの国家においても少数民族として扱われ、迫害を受けながらも、自治を求めてきたという歴史があります。名嶋弁護士がご担当された事件の依頼者は、トルコ政府から政治的迫害を受けて日本に庇護を求めて来た方々です。
    裁判ではトルコ国内での迫害の状況についての立証が大きな争点となりました。同様の時期に集団訴訟を行っていた他の弁護団の協力を得て、非常に充実した「出身国情報」を提出した上で、前述のとおり、難民申請者が迫害の証拠をもって自国を出国することはほとんどありませんので、この事件でも、供述証拠が重要な証拠となりました。
    名嶋弁護士は、供述証拠を作成する際、原告のそれまでの人生を掘り起こし、原告がなぜ迫害の危険がある政治活動へ参加するに至ったのか、なぜ迫害を受けるに至ったのか、その動機や経緯を出来る限り詳細にまとめ、供述の信ぴょう性が高いものと裁判所に評価されるよう尽力されたそうです。一人の方の人生をつぶさに聞き取り、書面化するという作業は日本人に対して行うのにもかなりの労力を要するものです。これを言葉も文化も異なる原告に、通訳を挟んだ状態で行うとなると、どれほど多くの時間と労力を要したかは想像に難くありません。訴訟記録は膨大になり、紙も一定以上集まれば尋常でない重さの塊になるものだとの名嶋弁護士のお話が印象的でした。
    名嶋弁護士の供述証拠と東京クルド弁護団の出身国情報がかみ合った結果、地裁で勝訴判決を得、高裁でもそれが維持されたそうです。
    高裁では、原告がトルコ政府からの迫害を主張して難民申請しているにもかかわらず、国がトルコ政府に原告の個人情報を開示した上で調査をしたという異例の事態も発生し、ひと悶着もふた悶着もあったようでした。
    他にも、この事件では、裁判係属中に原告が収容されてしまい、原告が収容前の労災事故で重い後遺症に悩まされており、入管収容中に症状が悪化し、十分な医療も受けられず、過酷な状況に置かれたり、原告や原告と同じ境遇に置かれた難民申請者らが働いて収入を得なければ食べていけないことを理解し、仕事を提供して給料を支払っていた支援者が、国から再三の注意を受けても支援を続けていたところ、ついには不法労働助長罪で実刑になったり、難民事件を取りまく困難な状況についても言及されました。
(2) 難民審査参与員の経験

名嶋弁護士は難民審査参与員の経験を通して、現行の難民認定制度の問題点について具体的に指摘されました。

その中でも、私が構造的に根深い問題であると感じたのは、やはり難民認定のいわゆる一次手続を難民調査官という入管庁の職員が担っていることです。入管庁は通常は国が入国させるにふさわしくないと考える外国人を入国させないことを役割としています。一方、難民認定は、自国から迫害を受けているため庇護を求める外国人を後見的な視点で保護する制度です。この全く相いれない二つの役割を同じ公務員が担うことは不可能であるとの指摘です。実際に名嶋弁護士が、難民調査官が作成した一次審査の調書を確認すると、調査官が申請者の主張を真摯に聞こうとしない姿勢が見て取れるそうです。

また、難民審査参与員の資質について問題提起がされました。難民認定は、本来、難民条約に定められた難民たる要件の該当性判断の問題であり、法的判断行為であるはずであるのに、難民審査参与員に、適用すべき法の探求、事実認定、要件へのあてはめと言う法曹であれば当たりまえの技能がない場合が多いことが指摘されました。弁護士が難民審査参与員に選任されることは稀であり、法曹的な訓練がされた経験のある参与員はほぼいないはずであるのに、それに対して専門的な研修等がなされることもないとのことでした。そのため、法務省や参与員自身がその点に疑問すら抱けない現状があるとのことでした。

これらの指摘は、現行の難民認定制度に致命的な欠陥があることを表しています。

4 名嶋弁護士からの最後のお言葉

名嶋弁護士はこれまで、次の2点について、繰り返し訴えてこられたそうです。

まず一つは、難民認定行為は、難民条約上の義務の履行としての法的行為であり、条約加盟国の政策的判断によって難民の認定要件が異なる性質のものでないこと、もう一つは、難民条約前文に確認されるように、難民の受け入れの負担が一部の国に偏らないように、等しく難民受け入れの義務を負うことだそうです。

弁護士の役割として、難民条約を正しく解釈し、事実認定し、難民の要件該当性を判断するという当たり前のことがされるよう、個別事件の法的支援と制度改革の両面で積極的に活動することが求められるとのことでした。

日本の難民認定の現在地は、そもそも難民条約について国際的に一般的な解釈に基づいていないという非常に残念な地点にあります。司法試験で通説を理解しないで独自の理論を展開すれば絶対に不合格でしょう。日本の難民認定制度はそれほど悲惨な状況にあると言っていいのではないでしょうか?そのような状況に裁判所が追随してお墨付きを与える現状も、私は個人的に非常に悲しく感じています。

このような過酷な分野で、希望をもって40年近くも最前線で取り組んで来られた名嶋弁護士にはただただ脱帽する思いです。

5 福岡難民弁護団へのお誘い

私も福岡難民弁護団の事務局長として微力ながら難民・入管問題に取り組んでおりますところ、研修会の締めくくりに、非常に急ぎ足ではありましたが、福岡難民弁護団の活動について案内いたしました。福岡難民弁護団では、主に長崎県・大村市に収容された外国人の方の支援を行い、支援者等を通じて九州の他県の相談も受けています。

難民・入管問題は、このレポートでも垣間見られたとおり、大きな問題がどっさり山積みの分野です。司法審査なしに無期限で収容施設に収容されたり、無期限収容によるストレスやハンガーストライキ、医療放置によって死亡者が出たり、本当に日本で起こっているとは信じがたい現実がそこにはあります。

少しでも興味を持たれた方は、是非とも一度、弁護団会議(月1回開催。ZOOM参加あり。)にご参加ください!私までご連絡ください!(天神ベリタス法律事務所 TEL092-753-7155/FAX092-753-7154/E-mail:h.tsuji@t-veritas.com)

ツイッター投稿削除請求を認めた最高裁判決を受けて

カテゴリー:月報記事

情報問題対策委員会 委員 古賀 健矢(70期)

1 はじめに

令和4年6月24日、最高裁第二小法廷において、Twitter(ツイッター)上の犯罪記事の投稿の削除請求を認める判決(以下「本判決」)が出されました。

本記事では、本判決の概要や、今後の実務への影響として考えられることについて、僭越ながら、ご紹介させていただきます。

2 本判決の概要

本判決の事案は、平成24年に建造物(旅館の女湯脱衣場)侵入により逮捕された上告人が、逮捕当日にツイッター上で報道機関のウェブサイトに掲載された上告人の逮捕報道記事を転載する各投稿がなされたことについて、当該各投稿により上告人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益等が侵害されているとして、平成30年に、ツイッター運営会社に対し、人格権ないし人格的利益に基づき、投稿の削除を求めたというものです。

判決においては、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して、前者の利益が優越するものと認め、投稿の削除が認められました。

本判決は、脱衣場侵入という社会的に非難の対象となりやすい類型の事案に関する逮捕歴について削除を認めた点で、名誉権やプライバシーの保護の側面から正当な判断をしたものとして、画期的な判決であると評価できます。

もともと、本判決においては、ウェブ検索結果に表示された犯罪事実に関する記事の削除基準を示した最高裁平成29年1月31日決定(民集 71巻1号63頁)(以下「平成29年決定」)と同じ基準を用いられるのか否かが注目されていました。

3 平成29年決定の要旨等

平成29年決定の事案は、ネット上の逮捕報道記事やネット掲示板に書き込まれた逮捕事実が、Google検索結果に表示されたことについて、検索結果の削除が求められたというものです。

決定においては、検索事業者による検索結果の提供が、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていることを指摘した上で、「当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には」検索結果の削除が認められるとされ、結論として同事案における削除請求は否定されました。

平成29年決定は、事実を公表されない法的利益が優越することが”明らか”な場合という偏った比較衡量の基準を定立し、ウェブ検索結果を削除されない利益を保護する立場をとりました。

平成29年決定の基準を用いると、犯罪事実といった一定程度の公益性を有する事実については、事実を公表されない法的利益が優越することが”明らか”と評価できる場合は極めて限定され、実質的に犯罪事実の削除請求は不可能となるといった批判がなされていました。

また、裁判実務上も、ウェブ検索結果以外のネット上のメディアの削除が求められた事案についても、平成29年決定と同様の基準を用いて削除請求を否定するという傾向があり、あらゆるネット上のメディアに関する削除請求一般について平成29年決定の厳格な基準により削除の可否を判断しなければならない状況が続いていました。

4 本判決の判示内容

実際に、本判決の原審である東京高判令和2年6月29日(判タ1477号44頁)においても、平成29年決定の基準が用いられ、ツイッターの投稿記事を一般の閲覧に供する諸事情よりも本件逮捕の事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえないとして、削除請求が否定されました。

上告審である本判決においては、まず「本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である」との基準を定立しました。

原審が平成29年決定の基準を用いたことについては、「原審は、上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとするが、被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、そのように解することはできない」として、ツイッターのサービス内容、利用実態等から、本件には平成29年決定の射程が及ばないことを指摘しています。

このように、本判決は、ツイッターの投稿については、平成29年決定の偏った比較衡量ではなく、事実を公表されない利益と、投稿を一般閲覧に供し続ける理由との純粋な比較衡量によって削除の可否を判断すべきとしました。

本判決のあてはめにおいては、投稿の対象となった逮捕事実が、投稿がされた時点においては、公共の利害に関する事実であったと指摘した上で、他方で既に逮捕から約8年が経過し、刑の言渡しはその効力を失っていること、ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、公共の利害との関わりの程度は小さくなってきていると評価されています。

その上で、各投稿は逮捕当日にされたもので、140文字という字数制限の下で、報道記事の一部を転載して逮捕事実を指摘したもので、ツイッター利用者への速報が目的となっており、長期間にわたって閲覧されつづけることを想定してされたものでないこと、上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると逮捕事実を知らない上告人と面識のある者には逮捕事実が伝達される可能性が小さいとはいえないこと、上告人が公的立場にあるものではないことを指摘し、「上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越するものと認めるのが相当」と判断して、各投稿の削除を認めました。

5 本判決の意義

以上のように、本判決は、ツイッターの特性等を考慮して、ツイッターの投稿については、平成29年決定の射程が及ばないとし、純粋な比較衡量により削除の可否を判断すべきとしたもので、よりプライバシーを保護する立場を示したものと評価できます。本判決が平成29年決定と異なる基準を示したのは、ツイッターの投稿が、ウェブ検索結果と異なり、長期間にわたる閲覧の継続を想定されていないこと等に注目したものと考えられます。

本判決により、少なくともツイッターの投稿については、削除請求が従来よりも容易に認められることとなると考えられます。

また、本判決により、最高裁は、平成29年決定の基準がネット上のあらゆるコンテンツに対する削除請求について適用されるものではないことを示したこととなります。これを受けて、他のSNS、掲示板といったメディア、ウェブサイトにおける記事等のコンテンツの削除請求事例に関し、本判決の基準が適用される可能性もあると考えられます。これにより、これまで裁判実務上削除が否定される傾向にあったネット上のコンテンツの削除請求が認められやすくなり、従来よりも削除請求のハードルが下がることも予想されます。

6 おわりに

当情報問題対策委員会は、令和4年9月10日(土)に、シンポジウム「デジタル社会と人権を考える―デジタル化、AIの活用で社会はどう変わる?―」の開催を予定しております。

本判決ではSNSの利用におけるプライバシー保護が問題となりましたが、デジタル化の進展に伴うプライバシー保護をテーマにしており、この問題の第一人者である慶応大学の山本龍彦教授や、読売新聞編集委員若江雅子氏などを講師としてお招きしておりますので、ご興味をもたれましたら皆様是非ご参加ください。

あさかぜ基金だより 入所ご挨拶

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会員 藤田 大輝(74期)

きみは誰?

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所に入所しました、弁護士の藤田大輝(ふじただいき)です。

私は、山口県下関市豊北町に生まれ、大学進学(福岡大学)を機に、福岡に来ました。福岡大学では、体育部会応援指導部応援団に所属し、第57代団長を務めました。私が、長く休部状態だった応援団を復活させたときのニュース映像があります。YouTubeで「福岡大学応援団 藤田大輝」と検索してみてください。当時は、そこそこモテたのです(今は…?)。

その後、福岡大学法科大学院に進学・修了し、令和2年の司法試験(会場は南近代ビル)に合格しました。修習地も福岡でした。振り返ると、18歳で福岡に来てから、ちょうど10年が経過しました。

あさかぜ”基金”ってなに?

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所は、司法過疎地域(人口あたりの弁護士の数が少ない地域)に赴任する弁護士を養成するため、九州弁護士会連合会が創設した”基金”から拠出された資金で設立されました。所員弁護士は、最長3年間の養成期間を経て、原則として九州の司法過疎地域に赴任します。

「過疎地域に行きたい」なんて、変わり者かな…?

私の出身地は、電車が2時間に1本、小学校の同級生は12人という、とんでもなく過疎の地域です。猿も雉もフツーにそのへんを歩いています(犬は飼っています)。もちろん、車で45分以内の場所に法律事務所なんてありません。そのため、出身地域の人々はリーガルサービスと疎遠だと常日頃感じていました。助けを求めたいのに、その声を押し殺している人がいる。その人に、声を上げる勇気を与えるためには、身近な弁護士が必要だと考えました。

私は将来、弁護士過疎地で独立開業したいと考えています。これを実現するには、多種多様な事案に対応でき、かつ過疎地域の実情を肌で感じる経験が必要です。そんな私にとって、早いうちから多種多様な事案に触れることができ、かつ過疎地域事務所への赴任が予定されているあさかぜ基金法律事務所は、理想的環境です。

弁護士やっていけそう?

私は、本年4月21日(一斉登録日)から、弁護士の仕事をはじめました。私には社会人経験もありませんから、分からないことばかりの毎日です。しかし、一方で、新しい知識・経験を得ることに喜びを感じる毎日でもあります。

これから、諸先輩弁護士の先生方、対面する依頼者の方々から多くのことを学び、研鑽を積んでいくつもりです。やる気一杯の私です。なにとぞよろしくご指導いただきますようお願いします。

福岡県弁護士会 あさかぜ基金だより 入所ご挨拶

福岡大学 体育部会 応援指導部応援団 現役時

福岡県弁護士会 あさかぜ基金だより 入所ご挨拶

私の地元 下関市豊北町某所 実家周辺の風景

子どもの権利について考えるシンポジウム「地方から広げよう!子どもにやさしいまちづくり」のご報告

カテゴリー:月報記事

子どもの権利委員会(人権小委員会)委員 鶴崎 陽三(69期)

1 はじめに

去る令和4年5月14日(土)、福岡県弁護士会館及びzoomにて、福岡県弁護士会主催・日弁連及び九弁連共催で、子どもの権利委員会企画のシンポジウム「地方から広げよう!子どもにやさしいまちづくり」が開催されました。

私も子どもの権利委員会の委員として研修に参加いたしましたので、代表してご報告いたします。

2 シンポジウム開催の背景

日本が子どもの権利条約(以下、単に「条約」といいます。)に批准してからはや27年が経ちますが、依然として子どもの権利条約が国内に浸透しているとは言い難く、子どもの権利に関する基本法も制定されないままの状況が続いていました(なお、本シンポジウム後の6月15日にこども家庭庁設置法とこども基本法が成立しています。)。

昨年9月に日弁連が「子どもの権利基本法の制定を求める提言」を公表し、その中で基本法の制定、子ども施策の総合調整機関の設置、子どもの権利を保障する独立した監視機関(以下、「権利救済機関」といいます。)の設置を求めましたが、それを受けて作成された法案は、権利救済機関の設置を定めていないなど提言内容と比較すると十分なものとは言えませんでした(6月に実際に成立した基本法にも権利救済機関の設置は定められていません。)。

他方で、地方自治体の中には、子どもの権利に関する条例を制定し、日弁連が提言の中で求めているような監視機関を設置している自治体もあり、福岡では、志免町が平成19年に県内で初めて子どもの権利条例を制定しており、権利救済機関の活動実績も積み重ねられています。

子どもの権利を守るためのこのような地方の活動を、国全体の施策レベルまで広めていかなければならないとの思いから、本シンポジウム「地方から広げよう!子どもにやさしいまちづくり」を開催する運びとなりました。

3 シンポジウムの内容
(1) 基調講演

本シンポジウムの基調講演として、子どもの権利条約総合研究所運営委員の平野裕二氏から、子ども基本法や子どもの権利救済機関をめぐる国際的な動向を中心にご講演いただきました。

条約では、子どもの「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」を4つの柱として、「保護の客体」という子ども観から「権利行使の主体」という子ども観へと転換されており、一般原則として、差別の禁止、子どもの最善の利益、生命・生存・発達に対する権利、子どもの意見の尊重が定められています。

すでに子どもの権利に関する基本法が制定されているウェールズ、スコットランドなどの立法例や、それらの国の子どもの権利救済機関の取り組みなどが平野氏から紹介されましたが、その一方で、日本は2004年、2010年、2019年の3回にわたり国連から条約の遵守を確保すべく国内法の整備等をすることが勧告されています。

ようやく基本法が成立したばかりの日本を子どもの権利が十分に保障された社会にするためには、今後の積み重ねが不可欠であると痛感します。

(2) 弁護士会からの報告

弁護士会からの報告として、日弁連子どもの権利委員会人権救済小委員会委員長の栁優香弁護士より、日弁連が求める子どもの権利基本法と子どもの権利救済機関についてご報告いただきました。

子どもの権利条約や子どもの権利保障が社会に浸透しているとは言い難い現状を変えるためには、基本法を制定して子どもの権利を国民に広く浸透させる必要があります。

また、条約や憲法が裁判規範として直接適用されることがほとんどない実情を踏まえると、より身近な「法律」という形にすることが重要です。

そして、原則や理念等を規定した基本法が制定されることで、個別法の指針となります。

この点、6月にこども基本法が成立したこと自体は素晴らしいことですが、日弁連が提言で求めていた内容とはまだまだ乖離があります。

今後、よりよい法律にしていくためには、私たち弁護士の率先した取り組みが重要になるであろうと感じました。

(3) 子どもたちからの報告

今回のシンポジウムに先立ち、小学生から高校生までの子どもたち向けに、子どもの権利について学習してもらう機会を設けました。

そして、本シンポジウムでは、その参加者の中から、現在高校に通っている女子生徒2名に子どもの権利について発表してもらいました。

子どもたちにとって、成長の過程で子どもの権利を教わる機会はあまりないようで、今回の学習は、自分たちを取り巻くルールなどについて改めて考えるいいきっかけになったようです。

発表者の1人は、校則に定められた厳しい髪型のルールにとくに疑問を抱いたようで、校則の作成にも生徒たち自身の考えを反映させるようにしていくべきだとの思いを発表してくれました。

その生徒のその日の髪型は誰が見ても至って健全と思えるような髪形で、学校生活になんらかの支障が生じるようにはとても思えませんでしたが、その髪型には、結び目が高い、前髪が眉にかかっている、サイドが長くなっているという3つの校則違反があるそうです。

このような子どもたちの現状を踏まえた発表は参加者の心にも響いたようで、シンポジウム後のアンケート結果を見ると、子どもたちの発表に対する参加者の満足度の高さが窺えました。

私にとっても、子どもを取り巻く現状と子どもたちの率直な考えを知るいい機会になりました。

(4) パネルディスカッション
  • 臨床心理士で志免町子どもの権利救済委員を務められている調優子氏、特別支援学校の講師をされている吉川貴子氏、福岡子どもにやさしいまち・子どもの権利研究会の小坂昌司弁護士(福岡県弁護士会)によるリレートークのあと、平野氏を加えてパネルディスカッションを行いました。
  • 先ほどご紹介したとおり、調氏が救済委員を務められている志免町は福岡県で最初に子どもの権利条例を制定した自治体です。
    志免町の権利救済機関では、知らない人には相談したくないであろう子どもの心理を踏まえ、相談とは関係なく普段から子どもと話をすることで信頼関係を構築しているそうです。
    また、学校との関係でも、問題が起こったときに初めて学校と対峙すると敵対視されることから、普段から関係性を持つようにしているとのことでした。
    そして、自治体内の機関と異なり権利救済機関は第三者機関として自治体からの権利侵害に対する救済活動もできることなど、子どもたちの権利を守る機関としての役割を具体的な経験を交えながらご説明いただき、権利救済機関の設置が重要であることをより明確に認識することができました。
  • 吉川氏は、昨年12月に糸島市議会に子どもの権利条例をつくるように請願する取り組みに携われており、その後、請願が通って糸島市では子どもの権利条例の制定に向けた動きが進んでいます。
    吉川氏が請願を行うに至ったのは、制服を着たくないという中学生を応援する取り組みに関わっていたことがきっかけとのことでしたが、吉川氏の経験談を聞くことで、市民からの働きかけによっても条例が制定され得るということを具体的にイメージすることができました。
  • 小坂弁護士からは、ユニセフ(国連児童基金)が提唱する「子どもにやさしいまちづくり」活動を福岡で広めるために設立された「福岡子どもにやさしいまち・子どもの権利研究会」の活動などをご紹介いただきました。
    また、小坂弁護士は宗像市で8年間権利救済機関の委員をされた経験があることから、子どもがいつでも相談できる独立の機関があることの意義や、権利救済機関が子どもの権利を守るための方策を実現していくためには国にも意見を言える独立の機関であることが必要であることなどをお話しいただきました。
    弁護士として働きながら弁護士業務以外でも様々な場で子どもの権利救済に携わられている小坂弁護士のお話は、今後より深く子どもの権利に関わる仕事をしていきたいと考えている私にとっては非常に興味深く、参考になる内容でした。
  • パネルディカッションでは、各パネリストから子どもの権利を取り巻く国の現状や、具体的な経験をもとにしたご意見を伺うことができ、今後、国レベルで子どもにやさしいまちを創っていくための道筋を示していただけたと感じますし、今後の課題を検討していくための材料にもなりました。
4 最後に

私が中学生だった頃、男子生徒は坊主頭でなければならないという校則が廃止されたり、教師から生徒への体罰に対して世間の目が明らかに厳しくなったり、子どもへの制約が少しずつ緩和されていくのを感じていました。

それから30年足らずが経過する中で自分自身も弁護士になり、子どもも大人と同様に権利行使の主体であるという子ども観は自分の中では当たり前になっています。

しかし、今回のシンポジウムを通じて、実際には子どもの権利が社会にはまだまだ浸透していないことを痛感し、そのことに私は少なからず驚きを感じました。

今後、子どもの権利を守るための条例や個別法が制定されたり、それに基づく施策が講じられたりする中で、社会の子ども観が変わり、子どもにやさしいまちが日本中に広がっていくことを祈念しつつ、私からの報告を終了いたします。

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