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手錠腰縄と決議と過去と将来~令和7年度定期総会決議報告

カテゴリー:月報記事

手錠腰縄問題PT 副座長 市場 輝(66期)

第1 手錠腰縄に関する総会決議

令和7年5月28日、弁護士会2階大ホールにて令和7年度定期総会が行われ、刑事法廷内の入退廷時に被疑者・被告人に対して手錠・腰縄を使用しないことを求める決議がなされました。

第2 決議内容

この総会決議は裁判官、裁判所及び国に対し、手錠腰縄に関する措置を求めるものです。
「詳細は弁護士会のホームページをご覧ください!!」とは言いません。広く会員等の皆様に知っていただきたく、多数の愛読者がいらっしゃる月報においても決議の趣旨1から2をそのままご紹介いたします。

  1. 裁判官は、被告人等の基本的人権を尊重し、刑事法廷内における入退廷時の被告人等に対して、漫然と一律に手錠・腰縄を使用することを今すぐにやめ、刑事訴訟法287条1項但書が規定する事由があり、必要やむを得ない場合以外は、手錠・腰縄を使用しないこと。
  2. 国は、刑事訴訟法287条1項本文が規定する刑事法廷内における身体不拘束原則を入退廷時の被告人等に対しても確実に保障するため、同法に287条の2を新たに設けて、入退廷時の被告人等に対しても、身体不拘束原則が及ぶことを明記すること。
  3. 国及び裁判所は、被告人等の入退廷時に手錠・腰縄を使用しないための施設整備(例えば、手錠・腰縄の着脱が可能な待機室あるいはスペース等の設置)を講じること。
    この総会決議は裁判官、裁判所及び国に宛てられたものですが、弁護士も過去への反省と将来への不断の努力が求められるところです。
第3 過去への反省

この総会決議に至るまでに、決議案に対して2人の会員から意見がなされました。弁護人としての実体験に基づく過去への反省を踏まえた意見です。

【意見1】

『決議案でも述べられている通り、手錠腰縄は人権に関する問題です。
手錠腰縄をされた被告人は、自尊心を深く傷つけられ、惨めな姿を家族や知人にさらすことになります。
私は、手錠腰縄問題に携わるようになって以降、身柄事件の被告人に何度もアンケートをとってきました。
「法廷内で、手錠・腰縄姿を見られた時の気持ちはどうでしたか。」という問いに対し、多くの被告人は「すごく嫌だった。」と回答します。
それ以前の私は、被告人に手錠腰縄姿を見られた気持ちなど聞いたことがありませんでしたし、被告人が自らそのことに言及することもありませんでした。
これは、私にとって手錠腰縄が当たり前の日常風景になっていたこと、そして、そんな私に対しては被告人がありのままの気持ちをさらけ出せなかったことを意味すると思います。
被告人の気持ちに気づかないままに弁護活動を続けていたことを今さらながら反省します。
裁判官に対しても、法廷内で被告人の手錠腰縄姿がさらされないような訴訟指揮を求める申し入れをしてきました。
ほとんどの裁判官は何ら対応することなく、場合によっては、法廷外でも法廷内でも申し入れについて何ら言及されないまま公判を終えることもあります。
他方で、とある裁判官は、被告人を入廷させる前に傍聴人を一旦退廷させ、被告人の手錠腰縄が解錠されてから傍聴人を再度入廷させるという措置をとりました。
当然、それによって公判の進行が妨げられたというようなことはありません。
私は、その裁判官の対応をありがたく思う反面、なぜ他の裁判官は同じことができないのかと憤りを感じます。
被告人の人権保障が裁判官の広範な裁量によって左右されてしまう、これは、日本の刑事司法におけるその他の問題点とも共通するものではないでしょうか。
裁判官は、手錠腰縄をする理由について、暴行や逃亡を防止するためなどと言います。しかし、身柄を拘束された被告人だけにそのようなおそれがあると、誰が、いつ判断したのでしょうか。
勾留に関する判断の中で、法廷で暴行を働いて逃亡するおそれがあるかどうかなど判断されません。にもかかわらず、身体拘束された被告人だけが一律に手錠腰縄という権利侵害を受ける一方で、どんなに屈強な被告人であっても、保釈中の被告人が入廷時に手錠腰縄で拘束される姿は見たことがありません。
身柄事件の被告人にだけ科されるこのような不公平な扱いを、被疑者・被告人を勾留から解放するための活動に並々ならぬ執念で取り組んできた我々弁護士が、見逃していいはずはありません。
手錠腰縄問題には、犯罪を犯した人間だからしょうがない、さらには身柄を拘束されている被告人だからしょうがない、という、およそ法律家の発想とは思われないような考え方が透けて見えます。』

【意見2】

『私は、この決議案に賛成する立場で意見を申し上げます。最近の体験をご紹介します。
無罪を主張している事件の被告人で、前科前歴のない方です。仮にAさんといいます。
起訴前勾留が約1か月、起訴後も第1回公判まで約2か月の間勾留され続けました。Aさんは最初のうち、取調べで潔白を主張して頑張っていましたが、日にちが経つうちに、接見する私に、「とにかく出してほしい。出られるのなら、嘘でも認めてかまわない。」と涙ながらに訴えました。何とか起訴まで否認で耐え続けましたが、身体拘束のまま第1回公判を終えた日の接見で、Aさんは次のように吐露しました。
「もう我慢できません。手錠に加えて腰縄まで付けられた状態で、たくさんの傍聴人がいる法廷に連れ出されたときは、これが市中引き回しなのかと思いました。次の裁判でもこんなみじめな姿で法廷に引っ張り出されるのはとても耐えられません。保釈がきくのなら、嘘でも何でも認めますから、とにかく出してください。」
Aさんは、かろうじて否認のまま保釈され、その後の裁判をたたかっています。しかし、虚偽自白による有罪判決と紙一重でした。
Aさんの弁護を通じて、「人質司法」というのは、単に身体拘束の期間が長期化するというだけではなく、公判廷での手錠・腰縄によって、被告人を文字どおり罪人の姿で法廷に引き出すという究極の屈辱を強いるものであり、両者が表裏一体となって、虚偽自白を生む「人質司法」の重要な要素なのだと、改めて認識しました。
私自身、口では「無罪推定だ、人質司法打破だ、被疑者・被告人の人権尊重だ。」と言いながら、このAさんの思いにどこまで共感できていたのかと問われると、率直に申して、「頭だけ、理屈だけで理解していた。」と告白せざるを得ません。
その意味で、この決議案は、裁判所、裁判官及び国会に向けたものではありますが、一面では、我々刑事弁護を担う弁護士一人ひとりの意識改革を迫るものだと受け止めます。
まさに「自分ごと」であり、現状を打開して、市中引き回しもどきの法廷、お白洲の法廷を改め、私たち自身が日常的な裁判所・裁判官に対する要求活動を含めて、真に憲法と国際人権法に基づく刑事法廷を創る実践をするため、明日からの行動を表明するものだと考えます。』

第4 将来への不断の努力
1 平成5年の最高裁事務総局刑事局の考え

総会決議の理由にもありますが、平成5年当時、最高裁事務総局刑事局は法務省矯正局に対し、傍聴人を退廷させずに戒具を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせないようにするための一つの方策として、被告人の入廷直前又は退廷直後に法廷の出入口の所で解錠し、又は施錠させるという運用を一般化することを打診しています。

残念ながら、現在、この運用が定着しているとはいえません。この運用を定着させるには弁護士、弁護人の血の通った活動を続けることが求められていると思います。

2 弁護士、弁護人に求められるもの

当会では令和3年8月に手錠腰縄問題PTを立ち上げ、刑事法廷内の入退廷時に手錠腰縄を使用しないように求める活動を行ってきました。

具体的には、裁判所に対して手錠腰縄を使用しないように求める申入れ及びその結果報告をいただくように会員の皆様に呼び掛けてきました。また、弁護人を通じて手錠腰縄をされた状態で入退廷を余儀なくされた被疑者、被告人の方々に任意にアンケートをお願いしてきました。

PT立ち上げから間もなく4年を迎えることとなります。裁判所への申入れ件数やアンケートの件数は少しずつではありますが、確実に積みあがってきています。

この総会決議がなされる際、会員から「この総会決議で裁判官、裁判所がすぐに対応するとは考えられないので、今後、PTはどのような活動をして行くのか」という質問がされました。

この総会決議がなされたから、手錠腰縄問題を裁判官、裁判所、国に丸投げしていいわけでは当然ありません。前述でご紹介した会員の【意見1】【意見2】のとおり、正に、手錠腰縄が当たり前の日常風景になっていたことを反省し、人質司法と根を同じくするこの問題を「自分ごと」として、手錠腰縄問題を広く周知し、弁護士、弁護人が将来への不断の努力を継続していく必要があります。

【北九州部会】中津干潟現地調査について

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北九州部会公害環境委員会 緒方 剛(57期)

皆さん、こんにちは。皆さんは、「30by30」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。これは2022年に生物多様性条約第15回締約国会議で採択された目標で、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標です。生物の多様性との観点からの目標ですが、良質な環境を保全することは自然の恵みを享受しながら生活をしている私たちにとっても非常に価値のあることであることはご理解いただけるかと思います。世界中の国々がこの目標を達成するために国立公園等の保護区として保全区域を広げたり、OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)の設定・管理を行う動きをしています。

日本では、陸域の20.5%が保護されているのですが、海域は僅かに13.3%のみが保護されている状況に止まっています。陸域については、政府の努力のみならず、私有地を含めたOECMの拡大によって目標達成の実現可能性はあります。ところが海域については、国内での保全は一向に進んでいない実情にあります。特に浅海域である干潟は、魚類の幼魚の生育場所となったり、藻場としてワカメやヒジキなど(これらはCO₂を吸収して成長します)の生育場所となったり、アサリやマテガイ、ゴカイ等の底生生物(海水を濾過したり魚や鳥類の餌になったりします)の生育環境として生物多様性維持の上で非常に重要な場所です。

北九州市内では重要湿地として、曽根干潟が有名です。もっとも、他の干潟と比較することで干潟の特性や課題などを理解しなければ、曽根干潟の重要性についても十分に適切な理解ができません。そこで、2025年4月28日に公害環境委員会にて中津干潟の現地調査に行ってきました。

中津干潟は、中津市の北部にある沿岸延長約10km、干潟面積1,347haの広大な干潟です。この中津干潟は、一級河川の山国川と二級河川の犬丸川が流れ込んでおり、これら二つの河川からの水と中津市の地下水系が流れ込むことで一つの完結した生態系を構成しているとのことでした。

福岡県弁護士会 【北九州部会】中津干潟現地調査について

ここでは、日本各地で絶滅してしまった貴重な生き物たちが数多く生息しており、中津干潟内で確認された814種のうち、約3割が希少種となっているとのことでした。代表的なものは、曽根干潟と同じくカブトガニですが、私たちが現地に行った際にも、案内いただいた方が小さなカブトガニを見つけてくれました。他にもアオギスやナメクジウオ、ミドリシャミセンガイ、オオシンデンカワダンショウ等多くの希少生物がここでは生息しているとのことです。

また、鳥類ではシギやチドリの仲間が春を中心に多い時で6,000羽、カモの仲間は8,000羽と多くの鳥が飛来しており、ズグロカモメ、クロツラヘラサギなどの希少な渡り鳥も飛来してくるとのことでした。

歴史的には埋め立ての危険があった場所ではあるのですが、かろうじて残すことができた貴重な干潟であることが確認できました。長期的に保全・管理を行っていくことが、将来の世代の人々の支えになるであろうことを期待して、現地調査を行わせていただきました。

皆さんも、人と海、自然のつながりを考えるきっかけとして、一度訪問してみてはいかがでしょうか。

福岡県弁護士会 【北九州部会】中津干潟現地調査について

出典:NPO法人水辺に遊ぶ会ホームページ
https://mizubeniasobukai.org/nakatsuhigata/

あさかぜ基金だより

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弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 小島 くみ(75期)

旅立ち

去る7年3月末、あさかぜ基金法律事務所の社員弁護士であった石井智裕弁護士が、同弁護士の地元である千葉県いすみ市で独立開業することを決意し、旅立ちました。

そこで、石井弁護士が語った福岡での思い出のこと、同弁護士がこれから活動を開始する千葉県いすみ市のことについて報告します。

福岡での思い出

石井弁護士は、あさかぜ基金法律事務所で4年あまり養成を受け、このたび新たなるスタートを切ることになりました。

石井弁護士によると、福岡での思い出として一番に思い浮かぶことは、「福岡は図書館が充実している」とのことです。読書家で、常に学ぶことを忘れず、事件に対して真摯に、そして丁寧に向き合う石井弁護士らしい回答です。

私は、あさかぜに入所して1年ほどになりますが、そのなかで、石井弁護士が事件に向き合う姿勢に触れることができたことは、いい経験となりました。私も、石井弁護士にならって学ぶ姿勢を持ち続けたい、そして弁護士として成長していきたいと思っています。

千葉県いすみ市とは

いすみ市は、房総半島南部に位置し、温暖な気候と肥沃な耕地に恵まれ四季折々の農作物が豊かに実る田園都市であり、また、近海では、親潮と黒潮が交わる全国有数の漁場が広がる漁師町でもあります。

そして、いすみ市は、令和7年12月に、市制施行20周年を迎える人口3万5千人、東側は太平洋に面し、北部は長生郡一宮町、睦沢町に、西部は大多喜町に、南部は勝浦市、御宿町に接している町です。また、近くの砂浜にはアカウミガメが産卵に訪れ、里山にはコウノトリ、コハクチョウも舞い降りるなど、自然が豊かな町でもあります。

このようないすみ市は、ほぼ45キロメートル圏内に千葉市、75キロメートル圏内に首都圏の主要都市があり、隣町である一宮町に千葉地方裁判所一宮支部がおかれているところですので、これまでの弁護士会の定義からは厳密には、司法過疎地にはあたらないのかもしれません。もっとも、いすみ市で稼働している弁護士は現在1人だけです。そこで、石井弁護士は、地元に貢献したいと考え、この度、自らの地元であるいすみ市において、2人目の弁護士として独立開業することにしたのです。

地域に根差した事務所を目指して

いすみ市で事務所を開設するにあたっての抱負を、福岡を旅立つ前の石井弁護士に尋ねたところ、「地域の人たちから頼りにされるよう、地道に、一件一件事件にあたりたい」とのことでした。事件に対して真摯に、そして丁寧に向き合う石井弁護士ですから、近い将来、いすみ市民から大いに頼りにされる存在となることは間違いありませんし、そうなることを私も大いに期待しています。

私も、今後、あさかぜを卒業し、司法過疎地に赴任したいと思っています。旅立ちの時を迎えた先輩弁護士をみるにつけ、地域の人たちから頼りにされる存在となれるよう研鑽を積んでいかねばならないと、決意を新たにしています。

会員の皆様には、今後とも私たちあさかぜ所員への温かいご支援とご指導をお願いいたします。

福岡県弁護士会 あさかぜ基金だより

法律相談を受ける石井弁護士

ローエイシア人権大会(ネパール)に参加して

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会員 稲森 幸一(56期)

2023年に福岡県弁護士会で行われたローエイシア人権大会が、今年は2月15日から17日の日程で、ネパールのカドマンズで開催され、私も参加してきました。

ローエイシア(LAWASIA)とは文字通りアジアの弁護士の任意団体です。毎年一度年次大会と人権大会が行われ、その他にも家族法の会議や環境法の会議なども随時行われています。

日本からは10名程度参加し、15日の午前中にみんなで観光をすることができました。ネパールは初めてでしたが、法整備支援でネパールに長期滞在していた経験のある日本人がいたので、車のレンタルから各地のガイドまでしていただき、一人では回ることができないほど多くの観光地や美味しい食事を堪能することができました。ただ、エベレストを見ようと、ロープウェイで上の方まで登って行ったのですが、曇っていてエベレストを見ることができなかったことだけはとても残念でした。

15日の夕方にレセプションが行われ、ネパール弁護士会の会長やローエイシアの代表などの挨拶のあと、ネパールの民族のダンスが披露されました。ネパールには200以上の民族が存在しているらしく、ダンスも次々とメンバーが変わり、それぞれ個性のあるダンスが披露されました。ダンスを見ることで、多様な民族が共存しているということが単なる知識としてではなく実感することができてよかったです。日本人弁護士が一人舞台に引っ張り上げられ一緒に踊らされていたのが一番盛り上がった場面でした笑。

16日の開会式にはなんとネパールの大統領が登壇し、ネパールの本大会への力の入れ方、またローエイシアの存在の大きさを実感しました。

その後まず全員が参加する全体会が行われ、最近の世界情勢、ローエイシアの存在意義など大きな問題について俯瞰的に議論され、個別の問題についての議論への橋渡しが行われました。

その後、2部屋に分かれて2つの分科会が同時進行し、私は気候変動やビジネスと人権などのセッションを傍聴しました。

日本人は全体会で1人、分科会で3人がスピーカーとして登壇しました。

ビジネスと人権のセッションでは、日本人スピーカーが登壇し、2020年のビジネスと人権に関する行動計画の内容や、今年予定されている5年後見直しの予測などについて報告がなされました。台湾も全く同じスケジュールで2020年に行動計画が発表され今年改訂が予定されているという報告があったので、個人的にそのスピーカーに接触し、将来的に情報交換する会議を開きましょうと約束することができました。

そして、17日の最初のセッションの「Global Concern of Migrants and Refugees」(移民と難民に関する世界的懸念)に登壇させていただきました。私からは2023年の難民法改正(改悪)についてその概要を報告した上で、日本において収容は減っているが、就労させない、健康保険も利用できない、生活保護も受けさせない中で審査を引き延ばすなどして、一見自発的に帰国させ、ノンルフールマン原則に違反しないように見える、Constructive Refoulment(構造的送還)が広がっていることについて問題提起しました。同セッションではインドやネパールなどから5人が報告し、終了後登壇者で意見交換をして親交を深めることができたことが何よりの思い出です。

ローエイシアの会議には2年に1度くらい参加しており、セッションそのものも勉強になりますが、その前後に各国の弁護士と交流を深めることができることが何よりも魅力です。人権活動が日本ほど自由にできない国の弁護士が勇気を持って人権活動をしていることを知ると、とても勇気づけられますし、自分はまだまだ努力が足りない、と教えられます。

他国に比べれば日本からの参加者はまだまだ少ないです。ぜひ多くの人に参加していただき、日本の実情を報告し、アジア中の弁護士と交流していただければと思います。

袴田事件弁護団事務局長小川秀世弁護士講演会「無実の家族が47年7か月勾留されたら…どうしますか?」

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死刑制度の廃止を求める決議推進室 室員 芦塚 増美(44期)

先の2025年3月20日、福岡に小川秀世さんが来訪され、冒頭のテーマで講演会が開催されました。福岡県弁護士会2階大ホールの会場には一般市民をはじめオンライン視聴者を含めると80名近い方々が、直接、貴重なお話を聴く機会を得ました。以下、私の感想を交え、講演のあらましをお伝えします。

小川さんは、袴田事件に40年係わっていますが、きっかけは、大学で刑事訴訟法のゼミで勉強したときに事件を知り、静岡で弁護士となって弁護団に加わることになったそうです。再審弁護人になった直後からみて、気づいた問題点のひとつに、弁護人に検証できないような方法で行われた捜査の密行性がありました。対策として、ITが進歩した今であれば、捜査員にウェアラブルカメラを装着させて捜査過程を記録して、後日、必要に応じて検証できるのではないか、冤罪の原因究明と防止策として検討してもよいのではないかというお話でした。

次に、捜査機関による証拠の捏造を認めた昨年9月26日の静岡地方裁判所の再審無罪判決にも問題点があるとお話になりました。

かつての最高裁で確定した再審請求審の理由によれば、5点の衣類が犯行着衣であり、かつ、それが袴田さんのものだから有罪とし、その他の証拠だけでは有罪にならないということでした。再審請求審では、5点の衣類が捜査機関による捏造だとされたことで「無罪」は当然の結論であり、再審請求審後の再審公判ではもっと早く無罪判決が言い渡されるべきでした。

福岡県弁護士会 袴田事件弁護団事務局長小川秀世弁護士講演会「無実の家族が47年7か月勾留されたら...どうしますか?」

ところが、静岡地方裁判所における再審公判では、他の証拠も合わせて総合評価をするという理由で検察官の立証活動を許しました。そのために、無駄な1年という期間を費やしたのです。しかも、5点の衣類以外の証拠についても間違った判断をしているのです。例えば、物が現存せず、証拠開示でようやく提出されたカラー写真で、その色について、緑か茶か、また、白かどうか、赤味噌に浸かっているとどうかなどの主張立証に多くの時間を割いたにもかかわらず、再審公判の裁判所は、カラー写真は経年変化もあり、元々の撮影技術が十分で無く、色についての証拠価値はないとしました。

このように裁判所が、思いもよらない理由づけで、弁護人の主張を退けることは、今回が初めてではありませんでした。弁護人は犯行着衣とされたズボンの血痕付着部分と下着のステテコの血痕付着部分が一致しないというのは不合理であり、ズボンとステテコに別々に血痕を付着させたということを物語っていると主張しました。しかし、前に再審請求を棄却した東京高裁決定では、犯行の途中でズボンを脱ぐこともありうると認定された事実は会場の参加者にとって極めて衝撃的なお話でした。

常識では考えられないような理由づけを持ち出さなければ維持できない有罪という結論の方が不合理だからだと何故考えないのかという驚きが会場に広がりました。その他にも、裁判所は、犯人の侵入逃走経路とされた裏木戸の留め金のこと、物盗りによる犯行を裏付けるとされた現金の入った金袋の発見場所やその個数の不自然さや、現金の一部の発見経緯と自白の不一致などの多くの点で、えん罪を生み出した捜査機関の捏造等の様々な問題に迫りきれませんでした。

福岡県弁護士会 袴田事件弁護団事務局長小川秀世弁護士講演会「無実の家族が47年7か月勾留されたら...どうしますか?」

以上を踏まえた教訓として、捜査機関による捏造等ができない制度にすることが必要だとのことでした。まず、再審制度の改革です。真相の解明には証拠開示が重要、また、捜査機関が、被告人に有利な証拠を提出せず、隠しても何も問題にされなかったことは改められるべきです。次に、後に捜査手続きを検証ができるようにします。具体的には、重大事件に限らず、全件において、参考人の取調べを含む検察官、警察官全ての取調べの録画や全ての捜査手続きへのボディカメラ、ウェアラブルカメラの導入をすべきです。

そして、再審弁護人と支援者が一体となった支援活動の重要性です。袴田弁護団では、弁護人と支援者が事件に関する情報をできる限り共有し合い、一緒になって活動し、事件がマスコミ等により広く知られるようになり、心ある専門家の協力もありました。記録謄写費用をはじめ調査日当旅費を弁護人が自己負担する手弁当での活動が、のちにクラウドファンディングによる寄付金で賄えるようになったことも印象的なお話でした。

福岡県弁護士会 袴田事件弁護団事務局長小川秀世弁護士講演会「無実の家族が47年7か月勾留されたら...どうしますか?」

最後に、私たちは「袴田事件」を知ったのだから、それを正しく広く知ってもらい、二度とこんな事件が起きないようにする責任があり、今後は、無罪判決確定後の検事総長談話に対する名誉棄損や国家賠償請求訴訟等をしていきますとのことでした。

これらの他にも示唆に富んだたくさんのお話がありましたが、紙幅の関係で特に印象に残った箇所だけ、私の感想とともに紹介するに留めました。

福岡県弁護士会 袴田事件弁護団事務局長小川秀世弁護士講演会「無実の家族が47年7か月勾留されたら...どうしますか?」

いつもは、テレビなどの画面を通して触れるだけの小川さんの生講演だったことで、会場に参加された会員や市民のみなさんが、刑事弁護の重要性を再認識できたようでした。
会場では福岡県弁護士会会長及び九州弁護士会連合会理事長が挨拶されています。

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