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◆憲法リレーエッセイ◆  「ポピュリズムと司法の役割」

カテゴリー:憲法リレーエッセイ

会 員 武 藤 糾 明(49期)

大学で資本論を読むサークルに入った。社会学科で、ポピュリズムを研究している人がいた。ポピュリズムとは、自己の意図を実現するために、一種の催眠状態を作りだして圧倒的な世論を掌握するという、扇動的な民衆動員の手法である(2005年の「郵政改革なくして改革なし」「自民党をぶっ壊す」による衆議院選圧勝の小泉劇場も該当する)。扇動的民衆動員という方法論だけに着目して、ナポレオンも、ヒットラーも一緒に論じるので、「左も右もごっちゃにして乱暴だ。本質的な分析ではない。」と、当時思っていた。
弁護士になった後、地下鉄サリン事件や和歌山毒カレー事件の弁護人が、社会から厳しく断罪されていた。「弁護士は、何であんな極悪人の味方をするんだ!」ワイドショーだけとはいえない雰囲気が社会に広まった。帰省したときに親戚からも同じ質問を受けた。説明すると、そのときは一応矛を収めてもらえるが、次の盆・正月に帰ると、また同じ質問が繰り返される。4回目くらいから、説明をあきらめて受け流すようになった。
2004年に、監視カメラ問題に取り組み始めた。当初は、賛否両論であり、好意的な報道も行われた。神奈川で、マンションからのつきおとし(未遂)事件が検挙されると、世論は一気に傾いた。「反対している奴は、犯罪者の味方か。」非常識だとされた。
2006年に、福岡市職員が飲酒運転で3人の子どもを死亡させる事件が起こった。被害者と遺族のことを考えれば、最大限の処罰を与えるのが正義だと社会は一色になった。危険運転致死傷罪の適用を争う弁護人の活動は叩かれた。家でとっている新聞も、記者のコラム記事で、弁護人の活動を非難した。暗澹たる思いだった。
しかし、2008年、1審判決は、危険運転致死傷罪の適用を否定した。99%の世論が、「加害者をつるし上げよ」という中、「刑法の謙抑性」「刑罰法規の厳格解釈」という大原則に沿った判断であり、平時なら当然のことながら、ポピュリズム状況下で、良心にのみ従って判断された勇気に深い感銘を受けた。

弁護人が、刑事訴訟法に沿った原則的な活動を行うことに勇気がいる時代になった。裁判官であれば、それとは全く比較にならないほど大変だろう。
私は、極論を言えば、世界中の人が理解しなくても、正しいことは正しいと主張するのが司法の役割だと思う。弁護士も、準司法的役割として、それに貢献する役割を担うべきだと思う。憲法では、「多数決民主主義にゆだねると、少数者の人権が侵害されることがあるので、そういう法律を無効として人権を保障するのが司法の役割だ」とされる。私が言い渡しに立ち会ったハンセン病国賠訴訟違憲判決と住基ネット差止訴訟金沢地裁違憲判決は、まさに司法の正義が示された裁判だった。
「世論の動向」はうつろいやすいし、もともと理性的かどうかもあやふやだ。小泉劇場に熱狂した家族は、「そんなこと(自分が熱狂したこと)あったかな」とのたまわった。
そのときどきの世論が支持することだけに弁護士会の活動を限定するのは疑問だ。
しつこく活動している監視カメラ問題について、2010年の日弁連人権擁護大会シンポジウムで2回目の報告を行った。今回は、NHKのクローズアップ現代にも取り上げてもらった。デジタル時代の監視カメラは、顔認識システムと結合すると、インターネット上で特定の人の行動履歴を正確に追うことも可能となる。
少数意見を世論に広げていく活動を、これからもあきらめずに淡々と行っていきたい。

月報2月号福岡県弁護士会会長日記

カテゴリー:月報記事

会 長 市 丸 信 敏(35期)

◆ランナー1月12日、平成23年度の当会役員選挙の立候補受付が閉め切られ、会長・副会長や常議員の候補者が出そろいました。現執行部のメンバーにとっては、スムーズに後任者が決まってくれるのか、実は昨年の晩秋の頃からの大きな関心事となっており(およそ11ヶ月前、「後任者が決まらなければ留任だ」とか、「それぞれの後任者探しが副会長の最大の仕事だ」などと、冗談ともつかないような引き継ぎを受けた記憶が消えません!)、それだけに、年が明けて次年度の役員候補者が無事に出そろったこと、これによって、いよいよ自分たちの任期明けも間近に迫ってきたのだとの実感が湧いてきたことに、現執行部の各人それぞれが、ジワッと喜びを噛み締めておるところです。その次年度会長予定者からは、「地域司法計画の実現と、さらなる人権擁護活動を!」という立派な所信も配布されました。多くの会員がご存知のとおり高い理念・見識と若々しい行動力を兼ね備えておられる会員であるだけに、この困難な時代の船長を託するにまさに打って付けの方が名乗りをあげて頂いたと、心から敬意を表するとともに、大変頼もしく思っております。現執行部としても、残る力を振り絞って、今年度内に片づけるべきことに精力を傾注し、また、遺漏なき引継に向けての準備作業に努めたいと思います。ついでながら、福岡ほどの大規模会でありながら、そして、現に多士済々の会員が数多おられながら、昨今のように会執行部の担い手の確保に毎年難儀するというのは、いささか口惜しくも思われます。もっとも、年々歳々増大する一方の会務、他方で厳しさを増す業務環境といった事情を反映してか、役員のなり手の確保に困難を伴っているのは全国的に共通のようです。東京3会や大阪などのように、会内にいくつもの会派(派閥)を抱えているところにあってさえも、役員のなり手を確保するため、そして多大な犠牲に対するいくらかの補償として、正副会長に多少の給与を支払っている会がこのところさらに増加傾向にあるようです。当会でも今後の課題として検討してみる価値はありそうです。

◆歴史から学ぶ弁護士魂今年度の研修委員会の研修改革に向けての取り組みには誠にめざましいものがあります。大量入会者時代に対応すべく、昨年度の池永執行部が取り組んで布石し、今年度から実施された新人会員に対する主任指導弁護士制度や、とりわけ「新人ゼミ」(昨年5月から12月まで毎月実施(試行))は大変好評なようです。但し、講師を務めて頂いた会員の皆さんには、毎月の創意工夫に満ちた事前準備や、熱のこもった指導、そしてゼミ後の懇親会までを含めてのお世話を頂き、そのご負担は大変なものであったと察します。毎月各班から上がってくるゼミ実施報告書やレジュメなどを拝見していますと、この内容、この講師であれば、自分も是非話しを聞きたい、勉強させて貰いたいとの衝動に駆られることも度々でした。講師陣の会員、そして班の世話役の研修委員の皆さまに、この場を借りて厚く感謝申し上げます。この新人ゼミは、バージョンアップを図りながら次年度以降も継続することが期待されます。実は、新人研修に関するもう一つの大きな改革に、入会(登録)後の集合研修(今年は1/27・28予定)があります。新人を対象に、弁護士会のことや、弁護士倫理のこと等について丸2日間をかけて講義を行うもので、永年にわたって行われてきたものです。今年度は、新任の橋本千尋研修委員長の陣頭指揮のもと、文字通り研修委員会の総力を傾けてその刷新が図られました。委員の精魂を込めた共同執筆でできあがった「新規登録弁護士等研修 集合研修テキスト」は、わが国弁護士制度の歴史や当会の歴史を俯瞰し、弁護士自治の意義・根拠、司法改革の歴史などを、コンパクトながらもコラムを織り交ぜることによって具体的、そして如実に描き出したものです。このテキスト、そして、豪華講師陣によって、じっくりと、熱く、弁護士会、弁護士自治、司法改革の意義や歴史が伝えられる予定です。これによって新人の皆さんが、福岡県弁護士会の会員としての誇りと精神に触れ、これをそれぞれの心に刻み込む契機になることを願います。また、このテキストは、新人のみならず、既存の会員にとっても貴重で、面白い読み物です。全会員に配布を致したいと思いますので、司法改革に際して「陽は西から昇る」と形容された当会の奮闘の歴史を再確認するためのバイブルとして、是非、ご一読を乞う次第です。

◆専門性3題・ 専門研修21世紀のあるべき法化社会を実現するため、社会の潜在的な法的ニーズの掘り起こしを含めて「社会生活上の医師」としての弁護士の使命を果たすため、ひいて、弁護士として生き残っていくために、専門性を高めることは不可欠と思料します。研修はその中心手段として重要です。当会(研修委員会や各委員会)や日弁連、法務研究財団などが企画・開催する各種の実務研修・専門研修は、ご承知のとおり、近年めざましく充実してきておりますが、会館が古くて手狭なために、研修会に定員を設けるなど、会員の皆さまにご迷惑をお掛けしておりますことをお詫び致します。他面、もったいないことに、折角の貴重な研修が案外閑散としており残念なことも少なくありません。研修案内にアンテナを張って頂ければ幸いです。・ 専門認定・登録積年の課題ですが、日弁連や当会(業務委員会)では、専門認定・登録制度の研究・検討が続けられております。いろいろと困難な点、解決すべき課題は少なくないように見受けられますが、ニーズに的確に応えるべく、ユーザーからみた専門家集団としての在り方という見地に鑑みると、やはり断固たる決意でその方向を目指して前進してゆくべきものと思料します。ちなみに、1月18日には、この問題の第一人者である武士俣敦教授(福岡大学)を招いての勉強会が当会で開かれ、諸外国の歴史と実情を教えて頂くなどしました。専門性の認定・登録制度は、例えばイギリスでは、1983年の精神衛生法制定に伴って最初のスペシャリストパネルができたとの事実(但し、法律扶助制度と一体として)や、教授の見解では、世界的には、専門認定制度は経済的魅力に乏しい分野(換言すると、ごく一般の市民が直面するがあまり経済的ではない法的分野。刑事法、家族法、移民法など)で法律扶助と密接に関連して成立している傾向にあるとの指摘や、完全なものを作ろうとせず、できるところから始めようとの問題提起は、刑事被疑者(当番弁護士)、少年保護付添、精神保健、生活保護、高齢者・障害者、精神保健など、権利擁護活動の場面において全国をリードしてきた当会に身を置く私にとっては示唆的でした。わが国においても、法律扶助制度が飛躍的に充実されてゆくには、これら権利擁護活動の全国的拡充、それを下支えするための精通化(専門化)のための努力が一体として必要・有益なのだろうと感じた次第です。・ 相談の減少・無料化傾向目下、法テラスが問題提起した「初期相談」構想(無資力であるか否かを問わず、初回の法テラス相談を無料とする制度の創設)を巡って論議がされています。その多方面への影響は大きく、いち早く反対の意見を表明した会もあります。もっとも、その制度構想の内容自体が必ずしも煮詰まってはおらず、また多額の国家予算を要することであって、容易に実現することではなく、日弁連では冷静かつ慎重に対応をしておるところです。他方、全国の弁護士会の法律相談センターは、この数年来、相談件数の減少に悩み続けて、相談センター存続の危機に瀕した会もあります。当会でも昨年度よりも今年度と、さらに減少傾向が顕著になっております。その打開策として、一部では、相談センターの相談を全面的に無料化して沢山の相談を呼び込むようにしてはどうか、という議論もあるようです。その是非については色々な指摘があり得ることかと思いますが、私見では、相談センターが無料化に踏み切るということは(上記の初期相談も同様ですが)、個々の会員の相談業務に対する大きな圧力(相談料を貰いにくくなる、相談がセンターに流れる等)になる事象であり、もしそれを実施するとすれば、それを是とする会員のコンセンサスと客観情勢が備わることが前提となるのではないか(従って、無料化に踏み切るには相応の時間を要する)との視点も忘れてはならないのではないかと考えます。むしろ、個々の会員の業務における対策と同様に、相談センターとしても、専門性をより高め、顧客満足度をさらに高める工夫を重ねながら、潜在的なニーズを深く掘り起こし、また、新たな分野を切り開いて行く、そうしてリピーター(ないしファン=紹介者)を増やしていく等、地道な努力の積み重ねをもってこの難局を乗り切るよう進むべきではないのだろうかと愚考する次第です。

◆「必要とされるときの弁護士」昨年末、福岡市で一般社団法人・福岡成年後見センター「あさひ」が発足しました。代表理事は宇治野みさゑ会員(福岡部会)で、医師、精神保健福祉士などの多分野の専門家を糾合した組織として、認知症となった高齢者や知的障害者などを施設での相談会や成年後見事務で支援しようというものです。この団体で特筆すべきは、宇治野会員の、当会の精神保健相談活動を中核メンバーとして支えて来て頂いたという経歴や経験に由来すると思われますが、精神障害者の支援も明確に意識されている点にあります。弁護士会として、人権擁護ないし権利擁護活動や業務開拓の一環として別団体を組織して活動を広げることの有益性は感じても、現実問題としては弁護士会が団体を設立してまで活動することには困難を伴います。従って、上記のように、会員個人が率先して組織を作り、多方面で活躍されることは今後益々増えて来ることが期待されます。県内では、成年後見事務を担う団体として、つとに北九州市の一般社団法人北九州成年後見センター「みると」(代表理事・中野昌治会員(北九州部会)が広く活躍中ですし、また、消費者問題の分野では、NPO法人「消費者支援機構福岡」が存し、すでに当会の沢山の会員もメンバーとして関わっています。さらに、子どもの虐待問題については、当会の子どもの権利委員会のメンバーが参画してNPO法人を設立して「子どものシェルター」(虐待を受けた子どもの緊急避難施設)を設置・運営する取り組みの準備が目下進行中です。まさに、「社会生活上の医師」、「必要とされるときの弁護士」たらんとして、これら困難な分野に果敢に挑戦される会員・団体の活動に、ご理解とご支援・ご協力をお寄せ頂きたく、よろしくお願いします。

月報1月号福岡県弁護士会会長日記

カテゴリー:月報記事

会 長 市 丸 信 敏(35期)

会員の皆さま、明けましておめでとうございます。輝かしい新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。今月は、次年度の当会役員選挙が実施されます。早いもので、当執行部の任期も残り3ヶ月を切りました。執行部一同、バトンタッチへの備えを致しつつ、最後まで力一杯に頑張る決意です。どうぞ、よろしくお願い致します。

◆会員一丸となって現行63期生6名のみなさん(8月26日付入会)、新63期生54名のみなさん(12月16日付入会)、ようこそ福岡県弁護士会にご入会頂きました。心から歓迎を申し上げます。当会は、みなさんのご入会により、会員数は928名となりました。また、この度、全国の弁護士数は3万人を突破しました。昨今の急速な勢いでの会員の増大は、当会においても、裁判員裁判や当番弁護士・被疑者弁護人、少年保護付添人、精神保健当番弁護士、生活保護当番弁護士、福祉の当番弁護士ほか高齢者・障害者支援活動等々の各種法律援助事業活動の充実や法律扶助受任数の伸張、50有余に及ぶ当会の委員会活動の活性化など、弁護士の社会公共的な存在感をより大きくすることに貢献しています。もちろん、弁護士急増にともなって、新人弁護士の就職難の問題、会員各層の業務基盤の維持・拡充の課題、研修充実・専門性強化の課題、裁判所・検察庁の増員の必要、そして適正な法曹人口の在り方如何等々、重要課題は山積しています。しかし、市民の司法へのアクセス拡充のためにと25年前に法律相談センターの開設に踏み出し、また20年前に刑事司法の改革のため当番弁護士制度を全国に先駆けて開始するなど、「市民の司法」との理念のもと、地道に草の根の司法改革運動に努めてきた当会としては、司法改革の完遂のためには法曹人口の増大の方向性自体はなお維持すべきものと考えます(問題は、その適正なペースの在り方ではないでしょうか)。弁護士・弁護士会としての使命を果たすべく、会員がその一点で心を一つにしながら、それぞれの持ち場、それぞれの役割でベストを尽くすこと、それによってこそ、国民からの信頼を維持してゆくことができると信じます。自由闊達な議論を尽くしつつも、目指すものを共有することによって、内部対立や内部分裂は絶対に避けなくてはなりません。私たちは、弁護士数の増大と二極化による求心力の喪失の結果、弁護士自治が崩壊した英国弁護士協会の衝撃(2007年。ご関心のある方は「自由と正義」2009年10月号をご覧ください)を、対岸の火事として笑って済ませることはできません。わが弁護士自治権も、決して永遠不朽のものでは全くなく、万が一にも国民からの信を失った場合には、たった一本の法改正で剥奪されかねないものなのです。

◆最高裁裁判官を当会から最高裁裁判官のうちの、那須弘平裁判官(第二東京弁護士会出身)と宮川光治裁判官(東京弁護士会出身)が、平成24年2月に相次いで定年退官を迎える予定であることから、日弁連(最高裁判所裁判官推薦諮問委員会)は、各弁護士会に後任候補者の推薦を依頼してきております。昨春の日弁連会長選挙で無派閥ながら多くの地方会の支持を集め激戦を制して劇的勝利を収めた宇都宮会長は、今次の最高裁裁判官推薦について、「東京や大阪の“株”は無くす。是非とも地方会から最高裁判事を出して欲しい」と、本気で檄を飛ばしています。とりわけ、当番弁護士はじめ刑事司法改革の分野で多大な実績を積んできた当会は然るべき人材を推挙するにふさわしい、との声がすでに随所から出はじめておりますが、皆さんのお考えはいかがでしょうか。推薦の期限は今年4月28日です。

◆部会の底力12月には、筑後部会(4日)と北九州部会(10日)の忘年会にも出席させていただきました。楽しいひとときをありがとうございました。筑後部会の忘年会は、永年の吉例通りに、その日にゴルフ大会、テニス大会を開催されたうえでの忘年会でした。嵐の中、ひとつの船に乗り合わせた仲間同志として船を沈没させないために結束をと呼びかける、樋口部会長の格調高い挨拶で始まった会は、40数名もの参加者でにぎわい、昔からいささかも衰えない筑後部会の親密さ、暖かさを体感しました。北九州部会では、忘年会に先立ち、定例の部会集会も開催されましたが、その出席者は、なんと60名超。県弁総会をも凌駕する数です。議題も、会館建設資金の繰り上げ返済、北九州会館の全館禁煙化、豊前相談センターにおけるチケット制導入、本庁昇格期成会運動、小倉拘置所の現地建替え(アンケート実施)など盛りだくさんで、服部部会長の議長のもと、熱心な討議が繰り広げられました。忘年会では、50年、40年の永年勤続表彰を受けられた会員を囲んで、老若を問わず沢山の会員(90名超)で最後まで大にぎわいでした。4年遅れで50年勤続表彰のお祝いを受けられた三代英昭会員は「人の寿命は127歳である」として、本当にご自身もその歳まで長生きされそうなお元気ぶりでした。県弁組織の中に、飯塚部会を含め、各部会として、しっかりとした執行部・評議議決機関・部会集会そして部会独自の委員会が存するという形態は、一種の連邦制であり、全国的にも異色です。これに部会員の結束が相まって、これこそが、当会が地域に根ざした弁護士会活動を県内隈無く果たし得てきている最大の秘訣ではないでしょうか。今後とも、部会の力を更に蓄えて頂き、大いなる力を発揮して頂きたいと願います。私たち県弁執行部も各部会とがっちりとスクラムを組ませて頂いておる積もりですが、それでも、県弁執行部がついつい福岡中心に偏った発想に陥りがちなときなど、遠慮無く指弾して頂きたいものです。

◆給費制に込めた信念すでにご報告致しましたが、司法修習生の給費制問題は、さる11月26日、暫定的に1年間延長するとの議員立法が成立し、ひとまずの決着を見ました(延長戦突入です!)。昨年中の会員の皆さまの絶大なるご理解とご支援に、重ねて厚く御礼申し上げます。11月29日には、新64期生の修習開始式が執り行われましたが、その日の朝一番で、修習生の沢山のみなさんが当会会館に来館して、心を込めた当会あてのお礼状を届けてくれました。書面を見て思わず目頭が熱くなり、また、全国のここかしこで喜びに満ちた光景が繰り広げられているのだろうと思うと、まことに感慨深いものがありました。一部新聞報道では、給費制問題があたかも政党間の取引材料とされた結果として難しい国会情勢のもとでも法案が通ったのだ、との書きぶりでしたが、決してそんなことはありません。半年余に及ぶ必死の運動、各党議員への説明・要請行動等々の積み重ねがあって、そして各政党に万遍なく給費制の重要性について理解・賛同する国会議員が沢山出てきた状況があったからこそ、奇跡的とも思える立法措置が叶ったのです。「混迷の時代であるからこそ、信念を持った者の志が通るのだ。」と、宇都宮日弁連会長の言葉です(12月の日弁連理事会)。給費制の延長期限は本年10月末です。これから設置される政府内での検討会議を主戦場として、法曹養成制度全体の在り方についての検討や、修習生に対する経済的支援の在り方についての検討が急ピッチでなされてゆきます。もちろん、日弁連も当会も、これからも給費制の維持を目標として戦い抜く決意です。どうか、本年も、引き続きご理解とご支援を頂きますようお願い致します。

「精神科医療を動かすもの‥『社会的入院』の解消に何が必要か」~精神保健当番弁護士制度発足17周年記念シンポジウム~

カテゴリー:月報記事

精神保健委員会 委員 野 中 貞 祐(57期)

1 10月18日、午後1時より、天神ビル11階会議室において、 精神保健当番弁護士制度発足17周年記念シンポジウム「精神科医療を動かすもの‥『社会的入院』の解消に何が必要か」が開催されました。  当日は、法曹関係者、医療関係者、福祉関係者、当事者等約130人の方に参加頂き、事前に用意していた席数が足りなくなるほどの盛況ぶりでした。

2 司会を務めた当会の吉武みゆき会員の進行に従い、まず、当会の市丸会長の開会の辞、続いて九州弁護士会連合会の当山理事長の来賓挨拶がありました。
いずれも当会が全国に先駆けて実施してきた精神保健当番弁護士制度につき、その意義、重要性及び今後の全国への発展等を祈念するすばらしい内容のものでした。

3 その後、九州大学大学院法学研究院助教の内山真由美さん、大阪精神障害者連絡会の塚本正治さん、医療法人卯の会新垣病院院長の新垣元さん、厚生労働省精神障害保健課課長補佐の川島邦裕さん、福岡県精神保健福祉センター所長下野正健さんから、それぞれ講演を頂きました。諸外国との比較による我が国の精神医療の立ち後れのシンボル的数値である「精神病床数33万床余り、平均在院期間約350日」という数字を中心にして、それぞれの講演者が自己の見解を示して、社会的入院につき特色のある講演をして頂きました。特に塚本さんと新垣さん、川島さんとでは見解が分かれ、非常に興味深い内容となりました。

4 講演に続いて、コーディネイターとして当会の八尋光秀会員を迎え、上記5名の講演者をパネラーとしてパネルディスカッションが行われました。パネルディスカッションは、まず、各パネラーが講演で言い足りなかったことなどを5分程度で補足する発言を行ったうえで、事前に会場から集めた質問をコーディネイターが集約して、各パネラーに発言を求めるという形をとって進行しました。ここでも塚本さんと、新垣さん、川島さんとでは見解が鋭く対立し、非常に盛り上がりをみせました。精神障害者が退院をしたくても家を借りられないから結局退院できないという極めて現実的な問題につき、なぜ、行政がもっと力を貸してくれないのかという塚本さんの訴えに対しては、会場からも大きな共感がわき、それに関連して活発な発言が会場から起こりました。それらを巧みに集約しつつ進行する八尋会員のコーディネイトにより、家主はなぜ精神障害者に対して賃貸するのをいやがるのか、保証人に対してはどの範囲につき保証をして欲しいと考えているのかなどについて、しだいに議論が深まっていきました。また、県営住宅における精神障害者の受入れが進まないことについては、この問題について、当会が弁護士会としてどのような活動をしているのかという質問が会場から出され、当会の森豊会員(現精神保健委員会委員長)や宇治野みさゑ会員(前精神保健委員会委員長)が回答するなどして、議論は大いに盛り上がりました。もっとも、議論が際限なく発展する様相を見せると、八尋会員が巧みに集約し、パネルディスカッションは、当初の予定どおり4時45分ころ終了しました。パネルディスカッションは、コーディネイターが議論を集約するという形で終了する予定でしたが、それに加え、パネラーの塚本さんが「檻の庵」という歌を歌うというサプライズ演出がありました。私は、少しもの悲しい「檻の庵」という歌の歌詞の中で、30年間精神科病院に閉じこめられた人の時代認識の象徴として用いられていた「100円札でおつりをくれる駄菓子屋」というフレーズがとても耳に残りました。

5 シンポジウムは、当会の森会員の閉会の辞で終了し、その後は、懇親会に席を移しました。懇親会では、シンポジウムで鋭く見解が対立した方々もうち解けた雰囲気となり、とても楽しい時間を過ごすことができました。

6 本シンポジウムは、前回の平成21年2月28日のシンポジウム以来、約2年ぶりのものであり、開始前には、参加者がどれくらい集まるか心配していました。しかし、当日は、約130名もの方に参加を頂き、大成功に終わりました。これは、森豊委員長をはじめ、シンポ実行に携わった精神保健委員会委員の努力と、コーディネイターをつとめて頂いた八尋会員及び各講演者(パネラー)が、そもそも社会的入院という言葉を使うかどうかという基本的なところから打ち合わせを重ね、問題意識を共有したうえでシンポジウムに臨んだという各位の尽力の賜物といえるでしょう。

◆憲法リレーエッセイ◆ 「労働」にもっと敬意を

カテゴリー:憲法リレーエッセイ

会 員 木 佳世子(54期)

8月末、日弁連貧困問題対策本部デンマーク調査団に参加してきました。目的はフレキシブルな労働市場・手厚い失業保険制度・積極的労働市場政策によるフレキシキュリティの実情などの視察でした。日程の都合上、前半だけしか参加できませんでしたが、感じたことを書きます。人間にとって働くことは他者から必要とされることによる自己の価値の確認をもたらす、人間の尊厳に直結する非常に重要な営みだと思います。その働くことがデンマークでは非常に大切にされています。よく解雇自由が強調されますが、労働組合の組織率は7割で、労使が社会的パートナーとして国を作ってきた歴史の重みから存在感が大きく、不当解雇には組合が黙っておらず実際には好きなように解雇がなされているということは全くないようです(ただし経営上の理由による解雇は緩やかな印象は受けましたが。)。解雇されても失業保険が2年間あり、安心感につながっています。印象に残っているのは「生産学校」です。デンマークでは職業につくには受けてきた職業教育と資格が重視されるので、教育が非常に重要ですが、やりたいことが分からないとか、非現実的な夢を見たりして教育から離れてしまう若者もいます。そのような若者(16~25歳)にやりたいこと、やれることを見つけ再度教育ルートに乗ることを促すのが生産学校です。日本のフリースクールのような感じで金属加工、木工、調理、ウェブデザイン、被服、保育、軽音楽などの実習が行われていましたが、生産物は製品として販売され、生徒にはそれなりに生活費として役立つ程度の賃金が支払われます。ただし、あくまでも教育なので成果ではなく人格的発達に重きをおいているということでした。生徒たちには正規のルートから外れたコンプレックスなど全く感じられない笑顔がみられました。なお、正規の職業学校でも座学と実習を繰り返すのですが生徒たちには「働いているので」賃金が支払われます。子どもであっても訓練中でも「働けば賃金が支払われる」、それだけ労働に対する敬意が払われていること、使用者側も良質な労働力を使うコストとしての職業訓練・社会保障の負担をきちんと負っていることが印象に残りました。「もう来んでいいけ。」と即日解雇された人や、暮らしていけない賃金しかもらっていない相談者・依頼者の姿が浮かびました。勤労の権利と義務がわざわざ憲法に定められている日本。労働に対してもっと敬意が払われてもいいのでは、と思った視察でした。

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