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カテゴリー: 月報記事

紛争解決センターだより

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紛争解決センター運営委員会副委員長 渡邊 洋祐(52期)

今回は、当職が申立代理人として関与した事案についてご紹介させていただきます。

事案の内容は、一戸建ての家屋の建物明渡し請求ですが、当職は、賃貸人の代理人として、あっせん・仲裁申立てを行いました。

賃貸借契約は10数年前に2年契約で締結され、その後、自動更新を繰り返しておりましたが、賃貸人は、県外で家族と離れて働いている80代の男性で、高齢である上、食道がんを患っている状況であったため、本件建物で家族と一緒に暮らしたいとして、当職が委任を受ける前の段階で、自ら賃借人に対して解約通知を送付し、明渡し交渉を行っておりました。

しかしながら、当事者同士の交渉では解決の糸口が見出せなかったため、当職が建物明渡しの依頼を受けることとなりました。

本件においては、賃貸人に建物の自己使用の必要性が認められ得ると考えられたことや、受任前のやりとりにおいては、賃借人は賃貸人の提示する条件での明渡しに抵抗を示してはいるものの、明渡しそのものを頑なに拒絶している様子でもなさそうであったことから、当初から訴訟ではなく、あっせん・仲裁手続きに持ち込む方針で委任を受けることにしました。

当職受任後の手続きは以下のように進んでいきました。

(1) 平成31年1月

受任通知兼明渡し請求書の発送

(2) 平成31年2月

相手方代理人弁護士からの回答書受領

~相手方代理人と交渉し、あっせん・仲裁手続きで紛争解決を図る旨の了解を得る。~

(3) 平成31年3月

あっせん・仲裁申立て

(4) 令和元年5月

第1回あっせん仲裁期日

※申立て当初、高齢・病気の正当事由を主張するのみで、立退料の提示を行っていなかったため、正当事由の詳細について相手方から具体的な主張・立証を求められ、次回期日までに可能な限りの具体的な主張・立証を行うこととなりました。

(5) 令和元年7月

第2回あっせん仲裁期日

※相手方から正当事由に関するより詳細な主張・立証を求められ、これについて準備することとなったほか、双方において立退料の提示についても可能か否か検討することとなりました。

(6) 令和元年8月

第3回あっせん仲裁期日

※双方から期日間において立退料の提示を行っておりましたが、差異が大きかったため、次回期日までに双方にて譲歩案の提示について検討することとなりました。

(7) 令和元年10月

第4回あっせん仲裁期日

※期日間に双方から譲歩案の提示を行い、立退料の差異は相応に縮小されましたが、まだ金額に隔たりがあったため、あっせん人から和解案の提示がなされ、これを双方にて検討することとなりました。

(8) 令和元年11月

第5回あっせん仲裁期日

※期日間にあっせん人からの和解案について双方受け入れるとの合意が調ったため、和解成立となりました。

なお、明渡し日を和解成立の約7ヶ月後とすることとなったため、不履行の際の執行力を確保するため、和解については、仲裁判断の形式で成立させることとなりました。

本件については、あっせん・仲裁申立てから和解成立に至るまで7ヶ月以上の期間を要しました。

しかしながら、同種の事案について、訴訟を提起する場合、より長期の時間を要するのが一般的であり、また、立退料の鑑定、尋問等の重い負担が発生します。

これらの負担を考慮すると、あっせん・仲裁手続きによって、本件を解決することで当事者双方の負担は相当程度軽減されたものと考えられます。

また、あっせん・仲裁手続きは3回程度の手続きにて終了するのが通常ですが、あっせん・仲裁人の先生には、5回にわたる期日に丁寧に対応していただき、また、双方が納得する適切な和解案を提示していただき、このようなあっせん・仲裁人の先生の尽力により本件紛争について合意が成立するに至ったと思います。

建物明け渡し事案については、過去にもあっせん・仲裁手続きにて、仲裁判断の形式で和解を成立させることによって解決した例が存在しており、同種事案の簡易迅速な解決に当たっては、あっせん・仲裁手続きが極めて有効であると思います。

「日弁連第11回貧困問題に関する全国協議会」の報告

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会員 平尾 真吾(66期)

1 はじめに

令和元年9月21日(土)、東京霞が関の弁護士会館17階会議室にて行われた「第11回貧困問題に関する全国協議会」に参加してきましたので、その様子を報告致します。

本協議会は、各単位会の代表者が集まり、貧困問題に関する日弁連・各単位会の取組みの状況等を報告することを目的とする会です。

2 貧困問題に関する日弁連の取り組み

まず、日弁連貧困問題対策本部事務局長吉田雄大先生(京都会)より、貧困問題に関する日弁連の取り組みについての報告がありました。

日弁連として重点的に取り組む課題として、労働相談事業の強化や奨学金問題などを含む15点があり、とりわけ生活困窮者自立支援法の相談事業の拡大、ブラック企業対策を目的とした労働相談事業の充実等が挙げられるとのことでした。これらの問題は、法テラスの司法ソーシャルワーク、行政や他の関連委員会との連携を図り対応する必要があることが強調されました。

3 滞納処分に対する対応策

次に、佐藤靖祥先生(仙台会)より、「あるべき滞納処分とは」と題して講義がありました。

近年、自治体が国民健康保険税などの公金の債権回収業務を強化しており、一部自治体で本来的には差押禁止債権である給与等が送金される口座(預金口座自体は差押禁止ではない)に滞納処分を行ったり、無理な分納誓約をさせるケースが見られるとのことでした。

佐藤先生は、このような過酷な滞納処分がなされている背景として、自治体が広汎な調査権(国税通則法141条)と裁判所を介さずに自ら差押えをすることが出来る権限を有していることがあると指摘されていました。

佐藤先生からは、滞納自体には問題があるとの前措きがありました。しかしながら、自治体が対象者の生活困窮状況を鑑みずに一方的滞納処分を行っていることが問題であるとの説明がありました。そのような過酷な滞納処分を行った結果、滞納処分を受けている人が、生活保護よりも厳しい資産状況となり、生活困窮者を増加させているとの指摘がありました。

対処法として、(1)納税の猶予(国税通則法46条2項・3項、地方税法15条1項・2項)、(2)換価の猶予、(3)滞納処分の停止(国税徴収法153条1項、地方税法15条の7)という方法があります。佐藤先生は、この問題に対応するには、まずは、職権による換価の猶予(国税徴収法151条、地方税法15条の5)と滞納処分の停止を念頭に入れればよいのではないかとのことでした。特に、滞納処分の停止とは、滞納処分を回避するものであり、停止が3年間継続すると納税の義務自体が消滅する制度です。

また、一部自治体で先進的な取り組みを行っていることも報告されました。例えば、滋賀県野洲市では、税金滞納を生活困窮の徴表と捉え、徴税部署と生活困窮者支援部署が連携し、生活支援を行っているとのことでした。税務情報を生活困窮者対策に活用するためには、税法等に規定される公務員(特に徴税吏員)の守秘義務との関係が問題となります。ただし、先進的な対応をしている自治体では、対象者に税務情報の取扱に関する同意書の作成を求め、税務情報を徴税部署と生活困窮者支援部署で共有するという運用を行っているようです。

4 労働相談・生活困窮者自立支援法の各会の取り組み

その後、労働相談や生活困窮者自立支援法に関する取り組みについて、特に顕著な実績のある単位会より報告がありました。

当会は、平成30年度の労働相談件数が1235件と、東京会に次いで多く、件数が多い理由について報告を求められました。労働相談が多い単位会は、法律相談センターの振り分けが機能していること、労働相談が無料化されていること、ターミナル駅の駅前に相談箇所を設置したり、夜間の相談を行っていること、会員向けの労働相談連続研修会の開催といった共通の特徴があるのではないかとの分析もなされました。

また、生活困窮者自立支援法の取り組みについては、各単位会が、自治体の生活困窮者自立支援部局と連携し相談業務を行っている様子が紹介されました。特に、大阪会では、困窮者相談担当弁護士経験交流会(年2回)、困窮者支援相談担当弁護士向けの連続研修会(基礎編・応用編)、滋賀県野洲市や大阪府豊中市といった先進自治体の事例を学ぶシンポジウムを開催するなど、積極的な活動を行っているとの報告がありました。

生活困窮者自立支援法の取り組みについては、当会のリーガルエイドプログラムのような先進的な取り組みもありますが、多くの単位会で、社会福祉協議会や自治体などと連携を行い、弁護士が電話相談を行ったり、生活困窮担当の職員向けの研修や協議会を立ち上げるといった取り組みが定着しているように感じました。しかしながら、相談件数などをどうやってあげていくかといった課題に直面している単位会もあり、各単位会として生活困窮者に対する相談の掘りおこしをどうしていくかが課題であるように思いました。

5 法テラスの準生活保護者免除申請制度について

法テラスの準生活保護者免除申請制度についての各単位会での周知状況についての報告がありました(具体的な制度紹介については、当報569号41頁の東会員の報告をご確認下さい。本協議会にも参考資料として配布されていました)。

ただ、どの単位会も当該制度についての十分な広報がなされておらず、結果的に当該制度に関しての十分な周知がなされていないという指摘がなされていました。参加会員からは、その理由として、事例の蓄積が少ないとの意見がありました。本協議会では、今後の事例の蓄積を弁護士会側でどのように行っているのかという課題が議論されていました。また、当該制度が、高齢者や障害年金・障害者手帳を受けている身体・精神障害者に限定して、その対象としていることも指摘されました。特に、当該制度が、経済的に困窮している母親の養育費請求などといった母子家庭問題に対応できておらず、制度として不十分ではないかといった意見もありました。

6 生活保護法にかわる「生活保障法」の制定の提言

日弁連では、平成31年2月に、生活保護法改正要綱案(改定版)を作成・公表しており、本協議会では、その要綱案の説明がありました。

具体的には、生活保護法にかわる「生活保障法」を制定すべきとし、5つの改正案の柱があるとの説明がありました。すなわち、(1)権利性の明確化、(2)水際作戦(保護申請をさせずに窓口で突き返すこと)を不可能にする制度的保障、(3)保護基準決定に関する民主的コントロール、(4)生活困窮層に対する積極的支援、(5)ケースワーカーの増員と専門性の確保の5つです。

特に、(4)生活困窮層に対する積極的な支援の制度設計が印象的でした。これは、生活保護利用世帯とその一歩手前の困窮世帯の「逆転現象」(困窮世帯が医療費などの自己負担金を支出したことによって、結果的に困窮世帯の可処分所得が保護利用世帯よりも少なくなること)を防ぐことを目的とするものです。手段としては、困窮世帯の収入が最低生活費の130%未満の場合には、当該困窮世帯が教育・医療・住宅・生業扶助の生活保護法上の給付を単独で利用できるとするものです。

7 終わりに

本協議会に参加し、特に、各単位会が、生活困窮者に対する支援をどのようにしていくのかという課題に直面していることが良く分かりました。その中で、当会が運用しているリーガルエイドプログラムは画期的なものであると感じました。

一方で、大阪会のように、生活困窮者の支援を積極的に行い、各種研修会やシンポジウムを行っている単位会もあるなど、今後の会務に参考になる(かつ刺激にもなる)情報を得ることができ、極めて有意義な協議会でした。

人質司法からの脱却~その勾留、本当に必要ですか?~

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会員 川上 誠治(68期)

1 はじめに

令和元年9月14日(土)午後1時より、福岡県弁護士会館2階大ホールにおいて、第62回日弁連人権擁護大会プレシンポジウム「人質司法からの脱却~その勾留、本当に必要ですか?~」が開催されました。

2 基調報告「未決勾留制度の現状と課題」

愛知学院大の石田倫識教授から、「未決勾留制度の現状と課題」と題した基調報告がありました。

石田教授からは、勾留制度は、「罪証隠滅」及び「逃走」を阻止するための制度であるが、実務の現状は、主に被疑者を取調べることが目的となっている。これは未決勾留の目的外使用にあたるのではないか、という疑問が投げかけられました。

このような現状を踏まえ、人質司法の脱却を図るべく、具体的な改善策として、(1)具体的な資料に基づく高度の蓋然性(現実的可能性)が認められる場合にしか勾留を認めない、(2)少なくとも、勾留を基礎づける疎明資料については、弁護側にも証拠開示を認めるべき、(3)勾留質問や取調べに弁護人の立会いを認めるべき、といった提言をいただきました。

石田教授の報告では、的確な現状分析を前提として、未来に向けてどう刑事手続を変えていくべきか、一定の方向性が示されました。非常に示唆に富む内容であったと思います。

3 特別報告
(1) 準抗告運動の内容及び現状の報告

準抗告運動とは、(1)会員に対して準抗告等の不服申立てを積極的に行うよう呼びかけるとともに、(2)会員から活動の報告を受け、(3)寄せられた活動の報告を分析し、定期的に周知を行うものです。

平成30年6月から8月に第一弾、令和元年6月から8月に第二弾が、九州で一斉に行われました。今年は、福岡県全体の通算報告件数が90件(うち積極事例40件)と、報告件数は昨年より大きく増加しました。

準抗告運動の成果として、会員には準抗告をすればこれだけ通るのだという意識を植え付けられただけでなく、実際に勾留請求却下率の引き上げに貢献したことなどが、野田幸言会員から、具体的な数字を挙げて分かりやすく解説がなされました。

今ある制度を使いこなして不当な身柄拘束を防止するという意味で、準抗告は弁護士が持っている大きな武器であるということを私自身再認識しました。

(2) 韓国視察の報告

このプレシンポジウムにさきがけ、本年7月23日~24日に、刑事弁護等委員会委員10名がソウルの裁判所や検察庁・警察署等を訪問しました。

日本と韓国は歴史的な経緯から、刑事手続、特に逮捕・勾留といった身体拘束手続は、非常に似通っています。しかし近年、韓国では、勾留却下率や却下数が大幅に上昇しています。

これは、2007年に、韓国において、「被疑者に対する捜査は、身柄不拘束状態で行うことを原則とする」という法改正がなされたことがきっかけになったとされています。さらに、時を同じくして、「身体拘束は慎重に行われるべき」(大法院裁判長のことば)というパラダイム転換がなされ、裁判所がこぞって積極的に勾留を却下するようになったことも原因となっているようです。

具体的には、(1)裁判官が勾留質問の際に、勾留要件に対する具体的な質問をする、(2)各裁判所に令状専門裁判官を設置する、(3)各裁判所ごとに令状発布の具体的な内部基準を策定する、といった運用がなされているようです。

その他、浅上紗登美会員からは、韓国では、日本と異なり、起訴前保釈制度があるといった報告等もありました。

わが国においても、このような韓国の制度を積極的に取り入れることが必要なのではないか、という思いを強く抱きました。

(3) 爪ケア事件における身体拘束の実情報告

東敦子会員と上田里美さんによる北九州爪ケア事件の報告がありました。

会場では、スライドで、実際の患者の写真を見ることができました。一般の方が見ると、血豆がひどく、これは「虐待なのでは?」と思われてもやむを得ない、やっぱり「爪剥ぎ」だとなりそうです。しかし、専門家の間では、これは「きれい」、本当に「爪ケア」なんですね、という感想になるということが、東会員からご説明いただきました。

上田さんは、事件当時、警察やマスコミ等から犯人扱いされたことや苛酷な取調べなどあまりにも非日常な場面に出くわしたことから、頭が真っ白になった。東会員が当番で接見に来た時の状況もあまり記憶がなく、女性か男性かといったこともはっきり覚えていない、ということを述べられました。

この事件は、一審では有罪、このままでは上田さんの看護師人生が失われる危機的状況でしたが、控訴審では無罪となりました。しかし、上田さんの身柄拘束期間は102日、起訴から無罪判決まで3年以上を費やしていることを決して忘れてはならないと思います。

4 パネルディスカッション

10分間の休憩を挟んで、パネルディスカッションが行われました。

パネリストは、石田教授、宮崎昌治氏(テレビ西日本取締役報道担当兼報道局長)、東敦子会員、德永響会員、コーディネーターは、甲木真哉会員という顔ぶれでした。

現在、ゴーン事件がきかっけで、日本の刑事手続に対して世界の目が向けられています。しかし、宮崎氏からは、近時、保釈中の被告人が逃走する事件等が数多く発生し、国民の目は逆に厳しくなっているのではないか、とう鋭い指摘がありました。

逃走の危険性があるにもかかわらず、積極的に保釈や準抗告が認められるべきであるというならば、それを国民に説明するのが裁判官や弁護士の責務である。弁護士はそうした説明責任を果たしていないのではないか、という疑問があるということです。

たいへん耳の痛い意見です。しかし、こうした叱咤激励は、われわれに対する熱いエールと受け止めるべきかもしれません。

德永会員からは、日本の刑事手続における弁護権の拡充の歴史(当番弁護士制度、取調べの可視化等)を分かりやすくご説明していただきました。加えて、德永会員は今回の韓国視察の団長を務めたことから、韓国の刑事手続の現状についても、ユーモアあふれる語り口で言及されました。

東会員からは、上田さんが逮捕されたのは平成19年7月で、韓国のパラダイム転換の時期と同じである、第一審では執行猶予が付されており、韓国の基準に照らせば、もしかしたら当時長期間拘束されることはなかったかもしれない、という話しを上田さんとされたことなどが伝えられました。

石田教授からも、韓国視察報告の感想等をいただきました。

総じて、4人のパネリストの方から、刑事手続の過去から現在さらに未来を語っていただき、非常に興味深いパネルディスカッションになりました。

5 終わりに

このシンポジウムは、第62回日弁連人権擁護大会第1分科会シンポジウムとして、令和元年10月3日(木)12時30分からJRホテルクレメント徳島「クレメントホール」において開催される「取調べ立会いが刑事司法を変える」のプレシンポジウムとして開催されたものですが、準抗告運動や韓国視察など福岡県弁護士会独自の取組みも踏まえたとてもユニークな内容になったのではないかと思います。実際、当日の参加人数は一般の方を含んで80名を超えており、たいへん盛り上がったシンポジウムになったことは間違いありません。

最後に、このプレシンポジウムでは、次の2つの提言が、拍手喝采という形で採択されました。

(1) 勾留質問の実質化

容疑についての弁解内容を聞くだけの現在の運用から、それにとどまらず、証拠隠滅や逃亡の可能性が現実にあるか具体的に質問して確認する運用とする。

(2) 勾留質問への弁護人の立会い

弁護人が勾留質問に立ち会ってはいけないという規定はない。

勾留質問の実質化を担保し、勾留要件に関する適切な情報を提供するために、勾留質問への弁護人の立会いを認める運用とする。

現状改革するにはまだまだ克服すべき課題が山積されていることを改めて痛感しました。しかし、このプレシンポジウム開催により、人質司法脱却に向けて大きな一歩を踏み出した、とは言えそうです。今後、弁護士会を挙げて、この流れを止めずに、むしろ推進ないし前進させることが、我々の役割ではないか、と考える次第であります。

人質司法からの脱却~その勾留、本当に必要ですか?~

福岡国税不服審判官による研修のご報告

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会員 牟田 遼介(68期)

1 はじめに

令和元年9月18日、福岡県弁護士会館にて福岡国税不服審判官による研修会が行われました。当研修では、福岡国税不服審判所から現役の国税審判官をお招きし、不服申立制度の概要や実務に役立つ事例紹介等について御講義頂いています。当研修は、ここ数年、毎年1回開催されており、痒い所に手が届く研修として好評を博しています。

2 研修の概要

研修前半は、福岡国税不服審判所の金沢孝志所長より、まず国税に係る不服申立制度について御講義頂きました。国税不服審判所の事務運営の特色として、争点主義的運営であること(昭45.3.24 参議院大蔵委員会附帯決議)、国税庁長官通達に拘束されないこと(国税通則法99条)、基本は書面審理であること、原則1年以内に事件が終結するように処理していること(同法77条の2)など説明頂きました。また、審査請求書を提出する場合、必要事項の記載漏れがあると、補正の対象となるため、提出前に「審査請求書作成・提出時のセルフチェックシート」(国税不服審判所HPから入手可能)等を活用して、必要事項の記載漏れの有無につき、しっかりと見直して頂きたいとのことでした。

次に、最近の裁決事例の紹介として、”通帳の提示もれと仮想隠ぺい行為”が問題となった事案(平成29年8月23日裁決)につき、当事者の主張を踏まえて解説頂きました。当該事案の結論は、当初から所得を過少に申告する意図を有していたと認めることはできないとされました。紙面の都合上、事案の詳細な解説は割愛致しますので、ご興味がある方は、国税不服審判所HPの裁決事例集からご覧下さい。

研修後半では、福岡国税不服審判所の佐久間玄任国税審判官より、「実務に役立つ税務事例(裁決例等の紹介)」として、次の2つの事例を基に御講義頂きました。

事例①は弁護士が弁護士会等の役員としての活動に伴い支出した懇親会費等が、その事業所得の計算上必要経費に算入することができるかが問題となった事例(東京高裁平成24年9月19日判決)です。事例(1)では、(ア)弁護士会等の役員等として出席した懇親会等の費用のうち、弁護士会等の公式行事後に催される懇親会、業務に関係する他の団体との協議会後の懇親会、会務の執行に必要な事務処理をすることを目的とする委員会を構成する委員に参加を呼び掛けて催される懇親会等は必要経費に該当する(但し、二次会の費用は除く)としました。しかしながら、(イ)弁護士会会長又は日弁連副会長に立候補した際の活動等に要した費用、(ウ)日弁連事務次長の親族の逝去に伴う香典、弁護士会の事務員会の活動費に対する寄付金等については、必要経費に該当しない旨判示しました。

事例(2)は司法書士が支出したロータリークラブの会費等が、その事業所得の計算上必要経費に算入することができるかが問題なった事例(平成26年3月6日裁決)です。事例(2)では、司法書士が支出したロータリークラブ等の会費について、「クラブの会員として行った活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動は、登記又は供託に関する手続について代理することなど司法書士法第3条«業務»第1項各号に規定する業務と直接関係するものということはできず、また、その活動が司法書士としての業務の遂行上必要なものということはできない」として、必要経費への算入はできない旨判示しました。

事例(1)、(2)ともに、紙面の都合上、要旨のみしか記載できませんでしたので、事案の詳細について知りたい方は、判決文等をご覧ください。

なお、現在、国税不服審判所では、国税不服審判官の特定任期付職員の採用を行っています。審判官の仕事に興味・関心がある方は、是非ご応募ください。

3 終わりに

税務分野は、専門性が高く、敬遠しがちですが、知っておくと実務で大変役立つことが多いと痛感しました。税務分野に苦手意識を持つことなく、これから見識を深めて行きたいと思った次第です。

最後になりましたが、今回講師を務めて頂きました福岡国税不服審判所の金沢孝志所長、佐久間玄任国税審判官に深く御礼申し上げるとともに、簡単ではありますが、ご報告させて頂きます。

研修会「災害からの復興支援とLGBT」

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LGBT委員会委員 浜田 輝彦(71期)

1 はじめに

令和元年9月17日(火)、福岡県弁護士会2階中会議室201にて開催された「災害からの復興支援とLGBT」の研修会について報告いたします。

今回は外部講師として、山下梓さん、川口弘蔵さんの2名の講師をお招きしました。山下梓さんは、弘前大学の男女共同参画推進室専任担当教員で、東日本大震災の際、LGBT  被災者支援のために「岩手レインボー・ネットワーク」(セクシャルマイノリティの当事者及び支援者のためのネットワーク団体)の立ち上げ、これをきっかけにLGBTなど多様な性を生きる人たちの災害時支援対応策などを広める活動を行っている方です。川口弘蔵さんは、「レインボーパレードくまもと2016」の共同代表で、ご本人もLGBT当事者としてLGBT支援活動を続けるなかで熊本地震に被災し、災害時の支援活動を間近で経験された方です。

2 本研修の意義

昨今、全国的にも地震や台風などによる災害が度々生じており、九州でも熊本地震・九州北部豪雨をはじめ、様々な災害が生じています。当会の弁護士も被災者の相談を受けたり、災害時の対応へのアドバイスを求められたりする機会が増えています。

もっとも、社会的にLGBTの方々への理解は広まりつつありますが、災害という緊急事態にあっては、未だにおざなりにされているというのが現状です。しかし、支援を必要とする被災者の中にも、少なからずLGBTの方々は存在しており、被災者LGBTの方々への災害時の支援活動に関する知識は必須のものとなっています。

そこで、災害時におけるLGBTの復興支援に関する理解を深めてもらうため、LGBT委員会と災害対策委員会が共催で研修する機会を設けました。

3 災害があってもだれもが尊厳をもって生きのびられるように(山下さん)
(1) 東日本大震災での経験

まず、山下さんには、東日本大震災の復興の取り組みの一環として「岩手レインボーネットワーク」を立ち上げ、岩手県内に住むLGBTの被災者の方々からの相談窓口として活動された経験についてお話しいただきました。同団体が活動するなかで聞き取った相談の中には、生理用品、下着、ヒゲソリなど、男女別に支給される物資を受け取りにくい。周囲から不審な目で見られるため男女別に設置されたトイレ・更衣室・入浴施設を使うことができない。ホルモン剤治療を継続していたトランスジェンダーの方が、ホルモン剤治療を中断せざるを得ず生理が再開し、生理用品をもらいにいくと不審がられた。性自認や性表現に沿った物資をもらいにいったりすると予期せぬカミングアウトに繋がるため、避難所に避難することができなかったなど様々な相談が寄せられたそうです。

しかし、一方で被災者の中には、避難所という狭いコミュニティのなかでは、緊急時にLGBTであることを伝えても配慮してもらえるはずがない、予期しないタイミングでのカミングアウトに繋がる、そもそもLGBTのことを理解してもらえるか不安であることなどを理由に相談することさえできない当事者の方も多数いたそうです。

1 LGBTとは、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシャク(B)、トランスジェンダー(T)の略称で、性的少数者(セクシャルマイノリティ)の総称としてよく用いられる言葉です。実際には、LGBTに該当しない性的少数者もたくさんいます。

(2) 多様性に配慮した被災者支援

山下さんは、災害などの緊急時には、見えにくいものはさらに見えにくく、普段から忘れられがちなことはさらに忘れられるようになり、LGBTの方や外国人などの少数者に配慮ある支援はおざなりになる傾向があると言います。しかし、被災者にも尊厳ある生活を営む権利はあり、可能な限り尊厳ある生活を営むための援助を受ける権利があります。このような多様な個性に合わせた被災者支援をするためには、普段から当事者の方々と繋がり、その理解を深めることが重要であり、被災地の相談所などにLGBTに関する理解者がいることがその改善への第一歩とのことでした。

実際に、山下さんは東日本大震災の経験から、高知県のLGBT支援団体(高知ヘルプデスク)と協力して、支援者や自治体向けに災害時の対応策をまとめた「にじいろ防災ガイド」を作成し、災害時に誰もが尊厳をもって生きのびられる災害支援対策を広める活動を行っています。山下さんらが作成した「にじいろ防災ガイド」には、誰もが使えるユニバーサルトイレの設置、多様性に配慮してボランティアや専門家などを通じて個別に支援物資を届けられるような仕組みの検討など自治体向けの対応策や支援の際の注意点など、災害時であってもだれもが尊厳をもって生きのびられるようにするためのアイディアがまとめられています。「にじいろ防災ガイド」は災害時の対応へのアドバイスや被災者からの相談の際にも非常に有意義なものであるため、皆様も是非一度ご覧いただければと思います。

4 熊本地震とLGBT支援(川口さん)

川口さんからは、当時の熊本の被災状況を紹介していただき、被災地での支援活動についてお話しいただきました。川口さんが避難された場所は、熊本市国際交流会館でした。国際交流会館は、避難対象場所とはなっていませんでしたが、普段同会館を利用する外国人の方など多くの人が避難していたため、炊き出しの際には、できる限り各国・各人の信仰に配慮した食事の提供などもおこなっていたそうです。

また、自らSNSなどで自分がLGBTであることを公言した上で、様々な理由により避難場所に避難できないLGBTの人たちのために、国際交流会館が理解者のいる避難所であることを発信し続けるなどしてLGBTに向けた被災者支援活動もおこなっていたとのことでした。

川口さんは、LGBTの方々は、他者の態度や反応に敏感であり、LGBTであっても気軽に相談できる相談場所を作ることが求められると今後のLGBTに対する被災者支援についても語ってくれました。

5 終わりに

災害時におけてLGBTの方々が直面する問題は、この他にも、パートナーの死を知らせてもらえない、災害公営住宅に同性カップルで住むことができない、ホルモン剤治療を辞めると体調が不安定になるため治療継続の必要があるが理解されないなど多岐にわたります。また、山下さん・川口さんのお話でもあったとおり、災害時にこのような要望を誰にも相談できない当事者の方々が数多く存在します。

このような方々を本当の意味で支援するためには、普段からLGBTの方々の理解に努め、多様性に配慮した災害支援対策を議論することが肝要です。

先日、熊本県で、九州で初めて性的少数者への配慮を盛り込む形で災害時の避難所運営マニュアルを改訂する方針が発表されましたが、全国的にはまだ議論がはじまった段階です。災害対策・災害支援は今や身近なものであり、支援を必要とするLGBTの方々は必ず存在します。誰もが尊厳をもって災害支援を受けることができるようLGBTをはじめとするセクシャルマイノリティの方々を理解することから始めていきませんか。

研修会「災害からの復興支援とLGBT」
研修会「災害からの復興支援とLGBT」
研修会「災害からの復興支援とLGBT」にじいろ防災ガイド

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