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福岡県事業承継・引継ぎ支援センターと連携協定締結~安心・安全なM&A実現のために~

カテゴリー:月報記事

中小企業法律支援センター 委員長 牧 智浩(61期)

1 福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとの連携協定締結

2023(令和5)年5月30日、当会は、福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとの間で「事業承継に関する連携協定」を締結しました。
同協定は、中小M&Aにおける取引の安全を確保することを1つの目的として締結されたものであり、具体的な連携の内容として、①弁護士紹介制度、②中小企業等に向けたセミナー等の開催、③研修等の実施、④地域の事業承継等に係る情報収集・情報交換等を謳っています。

2 福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとの具体的な連携について

⑴ 合同勉強会の開催
本年5月22日、協定締結前ではありましたが合同勉強会を開催しました。福岡県事業承継・引継ぎ支援センター側から15名、当会中小企業法律支援センターから16名が参加し会場は満席となりました。
講師として、日弁連中小企業法律支援センター事務局次長でもあり同センター内に設置されている創業・事業承継PTの座長を務める大宅達郎弁護士(東京弁護士会所属)をお招きし、奈良・福井・仙台・高知県の各弁護士会と事業承継・引継ぎ支援センターとの連携状況をご紹介いただくとともに、具体的事案をもとにM&Aにおける弁護士の主な役割についてご説明をいただきました。
大宅弁護士によれば、弁護士の主な役割としては、
①当事者の意向の把握や意思決定の支援を行う「伴走支援」者としての役割
②課題の把握や論点整理などの「リスク分析」を担う役割
③適切な専門家の手配やコミュニケーション支援などの「調整役」としての役割
④依頼者の意向を相手方に伝達し、あるいは相手方主張の合理性に関する助言や対案の検討をするなどの「交渉人」としての役割
⑤依頼者の意向を反映した条項提示や会社の実態に合致した契約書の作成及び着実な実行支援といった「契約書作成」に関する役割
があるとのことでした。
セミナー後、参加された福岡県事業承継・引継ぎ支援センターの統括責任者補佐(サブマネージャー)の方から、弁護士の役割やその有用性をより具体的にイメージすることができたとのお声をいただくなど、大宅弁護士のご講演は非常に好評で、今後の連携に繋がる合同勉強会になりました。

⑵ セミナーの共催
本年7月20日(7月20日は中小企業の日です。)、福岡県事業承継・引継ぎ支援センターと共催して「老舗を救った学生の熱意~大廃業時代における事業承継の新たな形~」と題して、事業承継をテーマとする中小企業事業者向けのセミナーを開催します。セミナー後には会場での名刺交換会や弁護士による無料相談会も実施します。
セミナーの概要は以下の通りです。会員の皆様のご参加をお待ちしております。
日時:本年7月20日午後5時開始
メイン会場:
エルガーラホール7階中ホール(Zoom配信あり)
配信会場:
筑後弁護士会館、飯塚法律相談センター
講師:
株式会社吉開のかまぼこ 代表取締役 林田 茉優 氏
詳細はこちらをご覧ください。

5月30日調印式。左:当会大神昌憲会長、右:福岡県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者松岡守昭氏

3 協定締結の背景事情

中小企業庁は、2021年4月に、高齢化による事業承継の一手段としてのみではなく、①廃業に伴う経営資源の散逸の回避、②事業再構築を含めた生産性向上等の実現、③リスクやコストを抑えた創業を推進するため、今後5年間に実施すべき官民の取組を「中小M&A推進計画」として取りまとめました。
これによれば中小M&Aは年間3~4千件程度実施されるまでに拡大してきているものの、潜在的な対象事業者は約60万者(成長志向型8.4万者、事業承継型30.6万者、経営資源引継ぎ型18.7万者)あるとも言われており、中小M&Aはまだまだ発展途上にあると考えられます。
「中小M&A推進計画」は、これらの潜在的な対象事業者のM&Aを推進するための課題を規模別に検討していますが、小規模・超小規模M&Aの課題として、以下の点を指摘しています。

・課題①-ⅰ
 事業承継・引継ぎ支援センターとM&A支援機関の対応不足
・課題①-ⅱ
 潜在的な譲受人(創業希望者等)の掘り起こし不足
・課題②  
 安心できる取引を確保するための取組の不足

このうち課題②に対する解決策として、最低限の安心の取組を確保するため士業等専門家の育成・活用を強化が求められています。そのため、現在、中小企業事業承継・引継ぎ支援全国本部において各地の事業承継・引継ぎ支援センターと弁護士会との連携を進める動きが起こっています。
福岡では、こうした全国の動きに先立ち、2021年4月に福岡県事業承継・引継ぎ支援センターが設立された当初から、当会の紹介する弁護士が同センターの統括責任者補佐に就任する等、当会と福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとは一定の連携関係にありました(より正確には、2019年に福岡県事業承継・引継ぎ支援センターの前身である福岡県事業引継ぎセンターの統括責任者補佐に当会の紹介した弁護士が就任していました。)。
2021年9月以降、数回にわたり具体的な連携についての意見交換を重ねる中で、上記の全国的な流れも相まって、当会と福岡県事業承継・引継ぎ支援センターとの連携をより強化し、中小M&Aにおける取引の安全を実現するため連携協定の締結に至った次第です。

4 さいごに

近年、M&Aの支援機関等に対して、「中小M&Aガイドライン」(2020年3月策定)の遵守が求められております。またこれ以外にも、「事業承継ガイドライン」(2022年3月改訂)や「PMIガイドライン」(2022年3月策定)などが公表されています。
これらはいずれも事業承継の支援を行ううえで必読のものですので、ご存知の会員も多いとは思いますが、最後にご紹介だけさせていただきました。

5月22日合同勉強会。大宅弁護士による講演風景

あさかぜ基金だより

カテゴリー:月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 代表社員弁護士 石井 智裕(72期)

壱岐の引継式
あさかぜ所員も、西原弁護士・宇佐美弁護士の引継式に参加し、その後に開催されたひまわり基金法律事務所の支援委員会にオブザーバー参加し、事務所見学にも参加しました。

西原弁護士の活躍

西原弁護士は、令和3年1月より壱岐ひまわり基金法律事務所の6代目所長に就任し、2年間業務をしていました。西原弁護士は、任期中に255件の相談を受け、うち、新規案件を121件を受任したということです。
西原弁護士は、退任の挨拶の中で、任期中を振り返り、弁護士のハードルを下げたい思いだったが、多くの相談があり、ハードルは下がったのではないかと思う、後任の宇佐美弁護士にも引き続きハードルを下げていってもらいたい、と述べていました。

宇佐美弁護士の着任挨拶

続いて、宇佐美弁護士が、着任の挨拶をしました。
壱岐ひまわりの引継式は、新型コロナウイルスの流行もあり、飲食を伴わない形式で実施されたため、引継記者会見が主たる内容となっていました。この引継式に西原・宇佐美という新旧所長のほか、前田憲德九弁連理事長、柏木慎太郎九弁連事務局長、濵口純吾長崎県弁護士会会長、山下俊夫壱岐ひまわり支援委員会委員長が出席しました。また、あさかぜ所員のほかには、地元新聞社から数名、長崎県内の公設事務所の所長、公設事務所支援委員会委員が参加していました。
宇佐美弁護士は、着任にあたって、弁護士を目指した経緯や、ひまわり所長になるにあたっての意気込みを語りました。
宇佐美弁護士は、弁護士になる以前、裁判所書記官として勤務していましたが、そのとき(今から10年ほど前とのことです)大分地裁に勤務していたとき、地元の弁護士から、「弁護士の人口がふえても、過疎地には誰も来てくれないんだよ」との嘆きを聴いて、「自分が求められる場所がある」と思い、弁護士を志したとのことでした。
また、宇佐美弁護士は、裁判所書記官として勤めていたときは、市民からの相談があっても、裁判所という中立公正の立場からは、あきらめるべき事案ではないのにもかかわらず、あきらめないでくださいといえなかったことから、相談に来た人のためにできることには限界があると感じたのも、弁護士を志すきっかけとなったそうです。
さらに、宇佐美弁護士は、「壱岐の地で、最後の人生に一華咲かせたい」と、公設事務所で働くことへの強い意気込みを感じました。

支援委員会

引継式のあと、長崎県内の公設事務所(島原中央・対馬・壱岐・飛鸞)の合同支援委員会が開催されました。あさかぜ所員も、オブザーバーとしての参加が許可されたので、傍聴しました。
委員会では、各所長から、各月の新規相談・新規受任件数、現在の手持ち事件数と進捗状況、収支状況、引継状況について報告があり、あわせていくつかの事件相談がありました。どの事務所も毎月の相談件数は平均して10件程度、手持ち事件数が多い所では60~70件ほどで、ひまわり事務所が地域の人々に頼りにされて忙しいことがうかがわれました。手持ち事件については、案件管理表を用いて、全件の進捗を担当の委員と共有する形になっていて、所長が一人で司法過疎地に放り出されるわけではなく、適切に、サポートを受けられる形になっていたので、これから赴任する私にとっては安心できるものです。
弁護士がいない場所に赴任して、ともすれば孤独を感じやすい環境ではありますから、これから赴任する立場として、年に数回、弁護士がこのように集まる機会があるのはありがたいものです。

事務所見学

引継式の翌日、壱岐ひまわり基金法律事務所を訪問し、宇佐美弁護士から事務所内を案内してもらい、そのうえで、赴任時の注意事項、引継方法について話しを聴きました。
壱岐ひまわり事務所は、あさかぜ事務所の執務室くらいのスペースに、執務室と相談室があり、弁護士1名・事務局1名体制で執務しています。執務スペースとしては、ゆとりがあるような感じです。
ひまわり事務所に赴任するに当たっての準備すべきこと、事務所経営に関することなど、いろいろ役に立つ話しを聴くことができました。

誰もいなくなって……いい!

私は令和2年正月6日にあさかぜ基金法律事務所に入所しましたが、令和5年2月末に佐古井啓太弁護士が対馬ひまわり基金法律事務所に赴任しましたので、令和2年正月にあさかぜ基金法律事務所にいた人間は私だけになってしまいました。

私が過疎地に赴任するときには、宇佐美弁護士を見習い、高い志をもって、赴任したい、そんな気持ちを新たにして帰福しました。

あさかぜ基金だより

「ジュニアロースクール2023春in福岡」リアル開催!

カテゴリー:月報記事

法教育委員会 委員 土田 礼二朗(74期)

1 はじめに

令和5年3月29日、「ジュニアロースクール2023春in福岡」が開催されました。
新型コロナウイルス感染症対策の規制緩和に伴い、今年のJLSは、4年ぶりに完全リアル(オフライン)で開催されました。
私自身は最近福岡県弁護士会に入会させていただいたばかりで、JLS当日のみの参加でしたので、以下、主に当日の様子についてご報告させていただきます。

2 今回のテーマ

2022年4月から、民法改正により成人年齢が18歳に引き下げられたのに伴い、18歳から裁判員になることができるようになりました。これにより、高校在学中や高校を卒業したばかりで、まだほとんど社会経験がない人でも、実際に裁判に参加し、重大な判断を迫られることになるかもしれません。
そこで、法教育委員会では、成人が身近に迫った中高生に対して、刑事裁判の仕組みを学ぶと同時に、他人の意見を聞くこと、他人を説得すること、そして人を裁くということについて考えてもらいたいと思い、今回のJLSでは、刑事模擬裁判を行い、中高生には裁判官として参加してもらうこととしました。
具体的には、傷害事件の模擬裁判を委員の先生方が実演し、参加者の皆さんには、証人や被告人への補充尋問(質問)を行ってもらったり、実際に被告人が有罪か無罪かの判決を下してもらいました。

野田部会長による開会の御挨拶

3 当日の様子

⑴ 今回は、4年ぶりのリアル開催ということに加え、人気の刑事模擬裁判ということもあり、定員100名が申込み締切の約10日前に埋まるという盛況ぶりでした。
当日は、残念ながら急遽不参加となってしまった生徒さんもいましたが、総勢98名(中学生23名、高校生75名)の生徒さんにご参加いただきました。
生徒さんには7~8名ずつの班に分かれてもらい、それぞれの班に1人もしくは2人のサポート弁護士が同席しました。

会場の様子

⑵ 今回の題材は、
「とある大学の学生が襲われた。被害者は犯人の顔を見ていなかったが、事件前に被害者と口論していた同じ和太鼓クラブの部員が犯人として起訴された。」
というものでした。
被告人が所持していた太鼓のばちから被害者の服の繊維が検出されたり、犯行状況を見ていた目撃者も存在していたのですが、それらの存在から本当に有罪と認定できるのか、という点が主な争点となり、私がいた班でもこれらについての意見がよく出てきました。
補充尋問は、各班で意見をまとめた上で、代表者が挙手して質問するという形式で行われましたが、時間の関係で質問を打ち切るまで、途切れることなく手が挙がっていました。

補充質問の様子

「目撃者と被告人の位置関係はどのようなものであったか」「被告人の太鼓のばちが被害者に接触する機会は他にもあったのか」などの質問は当然のように出てきており、被告人のアリバイや被告人の動機について触れた質問もありました。
回答の際は、被告人役の吉田幸祐先生、目撃者役の平嶋先生、被害者役の高尾先生が名演技を披露してくださりました。生徒さんにも受けが非常に良く、回答の度に会場が沸いておりました。あまりにも名演技だったためか、平嶋先生の発言が全面的に信用されなかったのが印象的でした。中高生の生徒さんたちの中にも、酔っ払いの発言は信用できないとの印象があったのでしょうか。
生徒さんたちは実にたくさんの質問をしてくださり、裁判長役の吉田俊介先生が補充で質問する必要がほとんどないほどでした。

評議の様子

⑶ 判決の評議も班ごとに決めてもらい、それを集計して判決を下すという形式で行いました。
議論の際は、付箋を用いて有罪方向の事実と無罪方向の事実とを整理して判断している班が多くありました。

論告と弁論の際に、判断方法について触れたおかげで、生徒さんたちも考え方は迷っていなかったように思えます。
有罪とするか無罪とするかの結論で迷っている班は多数ありましたが、目撃者の証言が信用できず、合理的疑いを差しはさむ余地がないというには証拠が足りないことから、全ての班で無罪の結論となりました。吉田幹生先生による講評の際に、班としては無罪判決としたが、個人的には有罪の意見だったという生徒さんに手を挙げてもらったところ、意外と多くの手が挙がったので、個人的には、どういう理由から有罪と思ったのか、なぜ班の意見として押し切れなかったのかなど、詳しく聞いてみたかったなと思います。

4 おわりに

約3時間半で模擬裁判を最初から最後までやり、かつ、間に議論の時間を2回設けるという非常にタイトなスケジュールでしたが、鎌田先生をはじめとして、キャップの稲吉佑紀先生をはじめとする実行委員の先生方(陰のキャップは鎌田祥太先生とうかがっています。)の入念な準備や、吉田俊介先生をはじめとする当日のキャストの先生方の名演技のおかげで、滞りなく盛況に終えることができました。私は当日の参加だけでしたが、今回のJLSも大成功であったと思っております。
今回のJLSは4年ぶりの完全リアル開催でしたが、委員の先生からは、やはりリアル開催のほうが議論などを円滑に進めやすいし、何より盛り上がって楽しいという意見が多数ありました。

オンラインにはオンラインの良さがありますが、対面でなければ伝わらないこともあると思いますので、今回リアル開催できたことは非常に喜ばしいことであったと思います。

「改正プロバイダ責任制限法弁護士実務の変更点」研修講演開催のご報告

カテゴリー:月報記事

会員 南正覚 優太(74期)

1 はじめに

令和5年3月7日(火)、福岡県弁護士会館及びZoomウェビナーにて、東京弁護士会の清水陽平先生による「改正プロバイダ責任制限法弁護士実務の変更点」研修講演が開催されました。
清水陽平先生は、ネット中傷の削除や発信者情報開示といったインターネットの分野で、多くの実績を有する方であり、具体的には、TwitterやFacebookへの発信者情報開示を日本で初めて成功させた先生です。最近では、ネット炎上に強みのある弁護士を主人公にした、累計135万部を突破した大人気コミックス「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修もされています。
その清水陽平先生を講師に招き、令和3年に改正された「プロバイダ責任制限法」について、講演をしていただきました。

2 プロバイダ責任制限法とは

まず、プロバイダ責任制限法(以下「プロ責法」といいます。)とは何かという基本的なところから説明が行われました。
SNSや掲示板で、特定個人に対して、誹謗中傷が行われた場合、弁護士としてできる対処法は、(1)誹謗中傷を削除すること(2)誹謗中傷を行った相手を特定して責任追及することになります。
具体的な流れとしては、当該誹謗中傷を保全した上で、SNS事業者等に対し、誹謗中傷の削除の請求ないしは仮処分を行い、発信者の通信記録(IPアドレスとタイムスタンプ)を取得し、その通信記録に基づいて発信者の氏名・住所を通信事業者等に開示させ、それで開示された発信者情報に基づいて発信者に対し損害賠償請求等を行うことになります(この発信者情報開示の流れの説明は簡易的なものです。)。
この流れのうち、SNS事業者等への通信記録の開示請求と通信事業者等への発信者情報の開示請求の際に用いられるのが、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律、いわゆるプロ責法となります。
なお、プロ責法の請求を行うことができる発信は、誰もが閲覧できるインターネット通信であり、メールやLINEといったクローズドなインターネット通信には、プロ責法は無力とのことでした。

3 従来のプロ責法に基づく手続きとその問題点

上記で述べた通り、インターネット上の権利侵害で、発信者を特定するためには、多くの場合、2段階の裁判をしなければなりません。具体的には、(1)SNS事業者等へのIPアドレス(インターネット機器に割り当てられた識別番号をいい、インターネット上の住所のようなものです。)の開示請求(2)通信事業者等へのIPアドレスを割り当てられている契約者の氏名・住所の開示請求です。というのも、多くの先生はご存知だとは思いますが、多くのSNS事業者等や通信事業者等は、任意に情報を開示してくれることは少ないからです(通信の秘密等との関係もあります。)。
このように、最終的な目標である発信者への賠償請求へ行きつくのに、多くの時間と費用を要することが社会問題となっていました。また、プロ責法自体が、2001年に成立した法律であり、TwitterやFacebookといった急速に進化を遂げているインターネットに対応できないという問題もありました。
これらの問題に対応するため、令和3年に改正プロ責法が施行されたとのことでした。

4 改正プロ責法の内容

改正プロ責法の主要な変更点は、(1)ログイン型に関する規定の整備、(2)新たな裁判手続きの創設があげられます。
まず、(1)のログイン型とは、TwitterやFacebookといったログインをして書き込むタイプの類型についてです。従来のプロ責法が成立した2001年頃には、このような類型は想定されていなかったため、このログインのための通信は、法律上開示の対象になっていませんでした。そのため、これまでは、「発信者情報」を拡大解釈することで、発信者の情報開示を認容してきました。しかし、このような解釈論のみで対応することには限界が来ていたことから、このログイン型に対応する「特定発信者情報」という規定を創設しました(法5条1項)。そして、総務省令で定める「侵害関連通信」として、アカウント作成時・ログイン時のSMS等の認証通信が、開示対象として明示されることになりました(施行規則5条)。これにより、権利侵害投稿に紐づく通信ではない、それ自体では適法な通信をたどって発信者を特定していくという流れになるとのことでした。
次に、(2)の新たな裁判手続きの創設としては、上記の2段階の裁判手続きを、一つの非訟手続で行うことができるようになりました。そして、それを行うために「開示命令(法8条)」「提供命令(法15条)」「消去禁止命令(法16条)」という3つの命令も創設されました。これまでは、SNS等事業者と通信事業者等に対して、請求者がそれぞれに請求をする必要がありました。しかし、上記で新設された命令により、SNS等事業者と通信事業者等の間の情報開示が行われるようになり、請求者としては、それぞれに別の裁判手続をする必要がなくなる見込みとのことでした。

5 清水先生の改正プロ責法に対する見解

清水先生は、これらを理論整然と説明してくださった後、ただし、改正プロ責法の運用は、まさに新しく始まったばかりであり、以前の手法も残存することから、どうなっていくかはいまだ不透明という話もされていました。また、プロバイダ側が異議の訴えをする等の抵抗をすれば、開示手続の迅速化という題目が絵に描いた餅になりかねないという話もされていました。

6 終わりに

発信者情報開示の分野で著名な清水先生の講演ということもあり、多くの先生方が会館又はZoomで講義を聞いており、質疑応答では、多くの質問が飛び交っていました。
私自身、プロ責法を使うような事件を扱ったことはないですが、清水先生の講義を聞いていて、新たな技術の出現とそれに対応する法律家の熱意に感動しました。また、SNSが発達した現代において、こういったインターネット上の誹謗中傷についての問題は増加していく一方であり、多くの弁護士も注目していることが分かりました(日弁連のeラーニングで同様の講義が人気講座としてランクインし続けているのも、その証左でしょう。)。

私自身、発信者情報開示の分野は、聞きなれない単語だったり迅速性が求められる手続だったりで、なんとなく苦手意識がありましたが、今回の講義で発信者情報開示の分野の魅力を知ることできたので、今後はしっかり勉強をしていこうと思いました。

アセクシュアルってなんなん?こまりごとの多様性を知る

カテゴリー:月報記事

LGBT委員会 久保井 摂(41期)

昨年NHKの「よるドラ」で放送された『恋せぬふたり』、ご覧になりました?そういえば、村上春樹原作の映画『ドライブ・マイ・カー』で一躍注目を浴びた三浦透子が主演した映画『そばかす』(今年公開)もまた、アセクシュアルをテーマにしたものでした。なにげにアセクシュアルは今や踏み込んで知るべき課題になっていると言ってもよいかもしれません。

1 LGBT電話相談にて

福岡県弁護士会は福岡市・福岡県との共催で、月2回LGBT電話相談を行っています。私が担当したある日、「アセクシュアルなんですが」と打ち明ける相談がありました。20代の方で、大学に進学したものの、いわゆる「恋バナ」につきあうのが苦痛でならず、話を合わせることに耐えられず退学してしまい、アルバイト先でもその苦しみに変わりはなく、人と関わること自体が怖くて何年も自宅に引きこもっているという困りごとでした。
もろもろお話はしましたし、その頃刊行されていた『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて―誰にも性的魅力を感じない私たちについて』(明石書店)もご紹介してみたのですが、書籍は既に購入して読んでいるとのことでした。社会のどこにも居場所のない、自身の存在が否定されているような苦しみは受話器越しでの会話でも切々と伝わり、しかして何ら適切な援助を示すことができずに終わったのでした。
その頃から、アセクシュアルについての研修会を持ちたい、という強い思いを持つようになりました。
しかし、委員会で企画を具体化しようとしていた頃コロナ禍が出来し、企画は頓挫、このほど3年越しの念願の開催となりました。

2 うれしい誤算・まさかの満員御礼(失礼)

研修会は2月5日(日)15時よりの開催となりました。日曜の午後やや遅い時間帯、しかもきわめてマイナーなテーマで、果たしてどれほどの方にお越しいただけるのか、企画側は不安を抱えつつ、委員会のメンバーはなるべく参加するようにとのお達しのもと、当日を迎えました。
ところがです。会館ホールがほぼ満員の大盛況。実は大いなる社会的関心がこのテーマに寄せられているのだと知らされることとなりました。

3 講師陣

今回、司会を務めていただいたのはLGBT委員会の設置を牽引していただいたアクティビストの五十嵐ゆりさん、多様な肩書を持ちLGBTQ+や社会に向けて情報を発信してこられています。講師には、Aro/Aceな方々をつなぐための活動を行っているAs Loopのメンバーで、アロマンティック・アセクシュアル、Xジェンダー当事者である中村健さんと、大阪大学大学院人間科学研究科の三宅大二郎さん。
既に耳慣れない単語がでてきましたね。まず、アセクシュアルの「ア」は否定を表す接頭辞で、アセクシュアルはセクシュアルでないことを意味します。英語圏では「性的に惹かれるという経験をしない人」のことを言うそうですが、日本では統一された定義はなく、個人や団体によりその内容は異なるそうです。
アロマンティックはロマンティックではない、つまり恋愛的に惹かれることがないことを意味します。また、他者と情緒的なつながりがある場合のみ性的に惹かれることがある人をデミセクシュアルと言い、恋愛的に惹かれるけれど、相手にその感情を返してほしいとは感じない人をリスロマンティックというなど、この辺になるともう頭が混乱してしまいます。
ともかくもこうした周辺領域を含み、広い意味(スペクトラム)で性的に惹かれないことをAce(エース)、恋愛的に惹かれないことをAro(エィロ、アロ)と呼び、包括した概念としてAro/Aceという言葉を用いているのです。

4 中村健(なかけん)さんのお話

基礎知識について解説いただいた後、なかけんさんが「アロマンティック・アセクシュアルを自認する私の体験」を語ってくださいました。中学生のとき、仲の良い「友達」から告白を受け、勘違いしたまま交際がスタートしたけれど、なにも(恋愛的・性的な)進展がないと不満を抱いた相手と徐々に疎遠になってしまい、大切な友達を失ったことにショックをうけたことなど、恋愛や性愛が分からないことによる疎外感についてお話しいただきました。その後、インターネットで「恋愛感情」、「わからない」、「おかしい」などの用語で検索しているうちに同じ思いの人たちの掲示板にたどりつき、アセクシュアル、アロマンティックという「言葉」に出会って、自分を説明する言葉ができた喜びを知り、今日の活動を開始するに至ったとのことです。
なかけんさんは、Aro/Aceの人たちは自分たち以外の方には理解されにくく、何気ないひと言で深く傷つけられるのだと教えてくださいました。満を持して打ち明けても、「本当の恋愛を体験したことがないからだよ」、「思い込みだよ」とスルーされたり、「運命の人に出会ってないだけじゃない」とかわされたり、そもそも恋愛感情や性的に惹かれることがないことを証明することは不可能なので、否定されても正面から反論できず、ないものとされる恐怖に常にさらされる状態にあり続けている実態を垣間見ることができました。

5 Aro/Ace調査

三宅さんからは、2022年6月にウェブ上のアンケートフォームを利用して行った調査結果についての紹介がありました。13歳以上のAro/Aceを自認する日本語の読み書きをする人が対象ですが、わずか1月の間に2331通もの回答が寄せられたということです。どれだけ多くのAro/Aceが私たちの周りにもいるのか、気づかせてくれる数字です。ちなみに、全人口の何パーセントかというと、2019年に行われたある調査では0.8%とされているそうです。
調査では、回答者のうち自分がAro/Aceであることを誰にも伝えていない人が最も多く(32.5%)、また、生きている中で不安を感じることについての回答では、周囲に自分のあり方が理解されていないことや、恋人/パートナーを持たない生き方をすること、病気やケガをしたときに助けてくれる人がいないこと、家族、親族との関係がうまくいかないことなど、常に生きづらさを抱えていることが明らかになりました。
また、恋愛感情というものが分からないまま人と接していると、性的な信号を読み取れず、相手の思い込みから性行為を強いられてしまう危険もあるとのこと。なるほど。

6 多様な関係性に思いを馳せる

休憩を挟んで、「親密な関係性とはなんだろう」とのテーマで、アンケートフォームにより来場者に募った「恋愛/性的関係の暗黙の了解」に関する意見を紹介しながら、「友達以上、恋人未満」というフレーズをどう考えるのか、恋人が上で友達はそれより下なの?恋愛や性的関係において「暗黙のルール」とされているものにどんなものがあるか、そのようなルールを押しつけていいのか(異性の部屋を訪ねたらそれは性的関係OKというサイン?など)、といった問いかけを受け、それぞれが自分ごととして考える時間を持ちました。
Aro/Aceの中には、恋愛関係ではないけれど、親密で感情的なつながりを持つパートナーのような関係の人がいる方もいて、そんな存在を表現する適切な言葉がないために、英語圏では「ズッキーニ」と呼んだりするそうです。クィアプラトニック関係とも言い、いわゆる恋愛関係ではないけれど、親密で感情的な絆が存在する関係、通常の友情よりも、もっと深くてもっと情熱的な関係、とハフポストの記事にはあります。
なんだか、平等対等ですてきな関係じゃありませんか。

7 多様な関係性を想像できる社会に

私たちはしらずしらず「異性愛規範」や「結婚出産規範」に絡め取られ、恋愛/性愛以外の関係のあり方があるなんてことを考えもしない、そういう状態にあるのかもしれません。
五十嵐さんが会場で発言された、LGBTQ+は、自ら自分の特性を明らかにしないかぎりその存在が気づかれない状況にあるという話は、いわゆる社会的マジョリティとマイノリティとの非対称性を明らかにするものです。
すべてのマイノリティが恐怖心を抱くことなく、背を伸ばしてゆったり歩き過ごすことのできる社会。それは誰にとっても住みよく、人権が尊重される社会です。そのための一歩として、ぜひAro/Aceのことを学んでみてください。

会の終了後、3人のゲストの前にはそれぞれ少しでも話を聞いてほしい方々が列をなし、熱心に講師陣と言葉を交わしていました。あぁ、切実な思いを持つAro/Aceが多数、この場に集ったのだ、この研修が開催できて本当によかったと、熱い思いがこみ上げてきました。

アセクシュアルってなんなん?こまりごとの多様性を知る

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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