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第3回 社外役員研修

カテゴリー:月報記事

会員 宮脇 知伸(73期)

第1 はじめに

1 本講演会について
去る令和5年5月29日、福岡県弁護士会館(ZOOM併用)にて、平田えり弁護士(福岡県弁護士会所属)を講師としてお招きし「社外役員に関する連続講演会」の第3回講演会を開催しましたので、ご報告いたします。当講演会は、弁護士業務委員会におけるPTの一つである「WODIC」勉強会の一環として行われました。
「WODIC」とは「Whistleblower Protection Act(公益通報者保護法)」、「Outside Director(社外取締役)」、「Independent Committee(第三者委員会)」の頭文字をとった造語であり、これらの企業法務分野において法の支配を貫徹させるため、各分野の理解を深めるべく、令和4年1月25日に発足したPTです。
WODICでは、これまでに企業の法務担当者や社労士の先生等の外部の方もご参加いただき、改正公益通報者保護法(W)に関する勉強会を継続して行ってきました。
今年から、新たに「社外役員」(OD)をテーマとする連続講演会を開始することになり、これまで2回の講演会が開催され、今回が3回目の講演となります。
講演会には弁護士会館だけでなく、ZOOM配信も併用する形で開催し、会場参加・オンラインで多数の先生にご参加いただきました。
私もWODICメンバーの一人として現地にて参加し、拝聴して参りましたので、以下ご報告させていただきます。

2 講師の紹介
講師の平田えり弁護士は、65期であり、西村あさひ法律事務所福岡事務所に所属されております。現事務所では東京オフィスで執務したのちに、令和元年からは福岡にて執務されております。そして令和3年9月から福岡の上場企業の社外取締役に就任されました。

第2 研修の内容

1 社外役員就任のきっかけ
弁護士登録後まもなく顧問先として担当しており、約10年にわたり、社長やCFOと公私ともに親しくしていたことがきっかけとなった。
そのような信頼関係の上で、平田弁護士が東京勤務時代に、M&A案件を中心に経験を積んでいたこともあり、今後、専門的な経験知見も活かして成長戦略に力を貸してほしいという打診を受けた。

2 社外役員の職務内容
社外取締の役割は、マネジメントモデルと、モニタリングモデルの2種類がある。
マネジメントモデルとは、いわゆる経営のご意見番として事業に対して助言をすることをいい、これに対してモニタリングモデルとは、経営の監督機能を果たすことをいう。
日本における社外取締役の役割としては、マネジメントモデル型の経営のご意見番としての役割を果たす先輩経営者等を社外取締役に採用するというケースが多い。これに対して、アメリカを始めとしたグローバルスタンダードにおける社外取締役の役割は、モニタリングモデルであるとされている。
平田弁護士自身も当初、社外取締役を打診された際、社外取締役の役割として、マネジメントモデルの役割を考えており、必ずしも事業開発や経営に関する専門的な知見経験があるわけではないため、自分では力不足ではないかと考えていた。ただ、前述のとおりグローバルスタンダードにおける社外取締役の役割はモニタリングモデルであるところ、実際に社外取締役を経験してみると、モニタリングモデルを社外取締役の基本的な役割と捉えることで良く、弁護士に備わっている能力(リーガルマインド)が企業の役に立てるものと実感するに至っている。

3 社外役員候補者として準備できること
弁護士が社外取締役として指名された場面において、モニタリングモデル型の監督機能を発揮することが求められており、そのために必要な知見は、基本的に日常の弁護士業務の中で培われているものであり、特別な準備を要するものではない。
敢えて準備するとすれば、経営陣の判断が著しく不合理でないか否かを判断する際に、法令違反だけでなく社会常識等一般株主の目線から見て、著しく不合理でないか否かを判断できるように、自分の感覚を時代の感覚に合わせてアップデートしておくこと、その会社を良くしたいとか、その会社を通じて何か世の中に貢献したいという熱量をもって、会社の事業内容に興味関心を抱くことが必要になる。

4 社外取締役としての重要性、期待されるもの
月1回の経営会議とその後の取締役会に必ず参加している。社外取締役として経営会議に出席することは必須ではないが、各部の部長クラスが毎月の実績や課題・対応方針を報告し、全員でフラットに知恵を出し合い、協議しており、事業内容やリスクを把握する上で非常に有用である。
そして、社外取締役として経営会議にも参加して発言した内容について、各部長が朝礼等で従業員に伝えてくれており、従業員ともコミュニケーションを図ることで、従業員も、社外取締役が事業を支えてくれているという安心感を抱いている。
そうした活動により、自身も一緒に事業に参画しているというやりがいに繋がっている。

5 まとめ
社外取締役は、完全に中でもなく、アドバイザーというような外でもない中間地点で少し俯瞰した立場で意見を述べることができ、それと同時に、会社の経営陣と一緒に走って、事業価値を生み出すことができるやりがいのある業務だと感じている。

6 質疑応答
Q 法律家の視点から意見を述べることで壁は厚いなと思わされたりすることはあるか?
A 経営陣の人柄や、今までの信頼関係もあり、客観的な意見として聞いていただけている。特に壁を感じたことはない。
Q 月1回の経営会議・取締役会以外には、どれぐらいの頻度で、経営者の方たちとコミュニケーションをとっているのか?普段は弁護士業務との兼ね合いはどうしているか?
A 社外取締役としての報酬を考えたとき、月1回の経営会議や取締役会で何かちょっと意見を述べるぐらいでは、会社側の負担に見合わないというふうに思っているため、自身が役に立てそうなところがあれば、積極的に提案して、関わらせてもらうようにしている。
Q 経営陣との信頼関係について、平田弁護士の場合は、就任するまでの期間が長く約10年ほどあったということで、就任した段階である程度経営陣との間で信頼関係が築けていたと考えられるが、社外取締役として活動するにあたってどの程度やりやすさに繋がっているか?。
A 頭にふと浮かんだことをお互い電話1本でやり取りできて、これってこうした方がいいんじゃないとすぐにやり取りできる関係にあった。月1回の取締役会の外でも柔軟に意思疎通を図ることができたという意味で、すでに信頼関係があったことのアドバンテージを感じた。
Q 社外取締役として善管注意義務違反を犯さないようにどのような点に注意しているか?
A 経営判断の基礎となる情報収集を怠らないよう留意している。経営会議や取締役会でも、役員陣や従業員にとっては所与の前提のような事実であっても、用語を含め、積極的に質問し、情報収集している。また、外部のアドバイザー(弁護士を含む。)の見解を聞く。経営判断の原則も適切な情報収集を行ったか、著しく不合理な判断ではなかったかという2段階になっている。一段階目の情報収集をきめ細やかにしていれば、自ずから著しく不合理な判断にはならない。そのため、密に経営陣とコミュニケーションをとって、適時に情報を共有してもらうことが重要であると思う。
Q 社外監査役と社外取締役での役割分担があるか?
A いずれも取締役の職務執行を監視する役割であり重なる部分は多く、また、社外監査役や社外取締役のバックグラウンド(専門性)やパーソナリティによる部分も大きいと思われるが、一般的には、監査役は適法性監査で、社外取締役は妥当性監査も含むので、監視の視点が異なる。
Q 経営者と色々話をしたり、壁打ち相手になったりするのに、リアルタイムに情報を得る必要があるが、話し合いのツールとして、メールや電話以外に取り入れていたツールがあったか?
A 結局、タイムリーな情報共有や協議のために、携帯電話での電話を一番利用していた。

第3 おわりに

第1回の古賀弁護士、第2回の中村弁護士、そして、第3回の平田弁護士の講演会を拝聴し、社外役員としてお声がけいただくための重要な点としては、日頃の顧問先との信頼関係の構築、及び丁寧な対応、企業における活動の意味合いを理解した上でのニーズに沿ったアドバイスが共通していたように思われます。
もっとも、丁寧な対応や企業のニーズに沿った回答を意識している弁護士は多数いるはずであり、社外役員としてお声がけいただくためには、それに加えて他の要素が必要になると考えられるため、今後の講演会を通して、それが何かを模索しなければならないと感じました。
「社外役員に関する連続講演会」は、今後も継続的に実施する予定ですので、今回参加された方も参加が難しかった方も、ぜひ次回以降のご参加をお待ちしております。

あさかぜ基金だより

カテゴリー:月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 藤田 大輝(74期)

もうすぐ折り返し!!

令和4年4月にあさかぜに入所(弁護士登録)して、約1年5か月がたちました。私が入所したときは5人いた弁護士も、過疎地へ赴任していって、今や2人きりで、寂しいものです。あさかぜの養成期間は、上限が一応3年と決まっていますので、折り返し地点が迫ってきていることに、我ながら驚いてしまいます。過疎地への赴任には、赴任先の過疎地を見学したうえで、応募するかどうかを決め、書類を提出すると、現地選定委員会による面接のうえでの選考と手続がすすんでいきますので、私もそろそろ赴任先を具体的に検討しないといけない頃合いです。
いい機会ですので、あさかぜでの1年5ヶ月を振り返ってみます。

この事件も初めてだな……

あさかぜは、司法過疎地域で弁護士業務を行う弁護士の養成を目的とした養成事務所ですから、養成期間に幅広い事件を経験できるような体制が用意されています。具体的には、有志であさかぜに協力している弁護士から事件の紹介を受けて共同受任をしたり、県外あるいはあさかぜ出身の先輩弁護士から事件の紹介を受けたりしています。
私も、これまでに、一般民事だけでなく、民事介入暴力への対応、交通事故、労働、遺産分割、離婚、成年後見申立、法人破産を含む各種の債務整理など、バラエティに富んだ事件を受任することができました。初めて取り扱う類型の事件も多いです。取り扱った経験のない類型の相談を受けるときは、相談者から「こういう事件の取扱い経験は何件ですか?」と訊かれないことを祈っています(もちろん、訊かれたら正直に答えるようにしています。でも、ときには話をはぐらかしたほうが良かったかと思うこともあります)。
このようにして、わたしたち所員は、養成期間中に数多くの類型の事件を受任し、きたるべき司法過疎地域で十分に要請にこたえられるよう研鑽を積んでいます。

事務所経営の勉強という名の庶務

あさかぜでは、事務所経営に必要な庶務もいろいろ経験します。まずあたったのは、弁護士法人の変更登記手続です。弁護士法人は、弁護士法上、社員の変更があったときには必ず変更登記をしなければいけません。あさかぜは弁護士法人なので、所員の交代があると変更登記手続が必要となります。そのため、私は、私が入所したとき、そして先輩所員が退所したときに、過去の申請書類を参照したり、法務局へ問い合わせたりしながら、登記申請しました。
また、事務所ホームページの更新も業者を利用せず、所員が担当します。今は、私が担当者ですから、インターネットで方法を模索しながら四苦八苦してホームページを更新しています。
さらに、必要に応じて事務員の採用もおこないます。私も、パート事務員を採用するため、ハローワークに求人申し込みをしました。また、他の所員弁護士に協力してもらいながら、応募書類を選考し、そのうえで採用面接しました。良き人材を得るというのは大変なことだと実感させられました。さらに、必要に応じて、就業規則の改訂等の労務管理もおこなっています。健康診断を受けるよう促すのは、私自身にしても、ついつい忘れてしまうので注意が必要ですよね。
事務所の税務関係でお世話になっている公認会計士・税理士とも連絡を取りあっています。決算時期には直接面談して、作成された決算資料について質疑応答して勉強になりました。
このほか、所員弁護士の採用に関する庶務、保存期間を経過した先輩弁護士の事件記録の処分、社員総会の実施・議事録の作成、書籍の購入・管理、業務関連システムの管理・導入検討、リース備品の管理など、庶務は多岐にわたります。
こうした事務所の庶務も、きたるべき司法過疎地域の赴任先における事務所運営に関わる事務を学ぶ重要な業務の1つです。なかなか大変ですが、新人弁護士には通常だったら経験できないことではないかなと思いますので、大変ありがたく感じています。

娘と親バカが生まれました

弁護士登録日に婚姻届を提出した私ですが、今年2月に娘が生まれました。子どもって可愛いんですね。この月報の依頼を受けたとき、娘のことだけで原稿を書こうかな、と本気で考えました。
子どもは成長が早く、とても驚かされます。ちょっと前まで首が座らず、台所のシンクで沐浴させていたのが、あっという間に一緒に湯船につかるようになり、首が座り、離乳食がはじまりました。この原稿が掲載されるころには「ずりばい」ができるようになっているのかな、と考えるとつい頬がゆるんでニヤニヤしてしまいます。私のデスクには、某スタジオで撮影・作成した娘の写真マグネットが貼り付けてあり、ちょっと疲れた気分のときに眺めて、気分をとり直したりしています。
子どもが生まれてから初めて知ったこと、経験したことは多く、毎日が勉強です。出生届の提出から、児童手当受給申請といった行政手続はもちろん、「お宮参り」や「お食い初め」といった行事にも無知でした。哺乳瓶の消毒、離乳食の作り方や進め方も、妻と一緒に福岡市主催の育児教室に参加して勉強しました。
娘の存在が業務にいい影響を与えていると感じることもあります。たとえば、子どもの話が依頼者と打ち解けるきっかけになるのです。小さなお子さんを抱える相談者の話は、具体的なイメージを持ちやすくなりました。
私が業務に集中できるように支えてくれる妻と妻の両親には、いつも感謝しています。また、娘の誕生に際して、複数の先輩弁護士からお祝いをいただきました。この場を借りて、お礼を申し上げるのをお許しください。

某大先輩からいただいた出産祝い

これからも頑張ります

あさかぜには、現在、72期の石井智裕弁護士と私の2名の弁護士が在籍しています。石井弁護士は、過疎地赴任に向けて各地の事務所見学等をしていますので、赴任が決まれば、私があさかぜの最年長弁護士になります。とはいえ、あまり気負い過ぎず、先輩を頼って頑張っていくつもりです。
あさかぜから過疎地に赴任している先輩弁護士を見ていると、いかにも頼もしく、私はまだまだだなと心配してしまいます。過疎地赴任までに一人前の弁護士になれるのかどうか、不安に駆られるところではありますが、あさかぜでの日々の業務を通じ、事務所経営・事件処理を学び、経験を積み重ねていきたいと思います。
未熟な点も多い私ですが、これからも引き続き、より一層のご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

弁護士法人あさか ぜ基金 法律事務所エントラ ンス

弁護士会と調停協会の懇談会 ~アフターコロナの調停実務と面会交流

カテゴリー:月報記事

会員 辻 陽加里(64期)

1 はじめに~3年半ぶりの開催!~

令和5年6月29日、弁護士会と調停協会の懇談会が約3年半ぶりに開催されました。本懇談会は、調停委員と弁護士が、家事調停の実情について認識を共有し、それぞれの立場での思いや悩みについて語り合い、相互に信頼関係を深めるための機会として開催されました。
議題は、①新型コロナウィルス流行後に急速に普及したウェブ調停と②面会交流の調整を行う調停事件の運営の2点です。
本懇談会に先だって、調停委員と弁護士双方に議題に関するアンケート調査が実施されました。

弁護士会と調停協会の懇談会

2 ウェブ調停について

⑴ ウェブ調停の普及
ウェブ会議方式による調停は今や一般的となりました。福岡家庭裁判所でも、これまで850件以上のウェブ調停が実施されたとのことです。アンケート結果によれば、回答した調停委員41名中38名がウェブ調停の経験があると回答しました。

⑵ 利用の感想
ウェブ調停を利用した感想として、登壇した調停委員と弁護士双方から、電話調停に比してコミュニケーションが格段に取りやすく、利用者(調停の当事者)と信頼関係を築きやすいという共通の意見が出されました。
調停委員からは、「画面で利用者の表情が見えるように画面の設定を工夫している。」、「身振り・手振りや相槌を大切にしている。」との発言があり、利用者が納得して調停を進められるよう試行錯誤しているとのことでした。

⑶ ウェブ調停のメリット
調停委員と弁護士の双方から、事件の種類を問わずウェブ調停を利用するメリットがあるとの認識が示され、具体的なメリットについては、感染症の感染が防止できること、利用者の利便性が高く、特に遠隔地の方や育児介護中の方は大幅な負担軽減となること、仕事がある方は半休の取得で済むことが挙げられました。また、登壇した調停委員から、DV事案については、出頭の場合が完全に防ぐことが難しい利用者同士の接触を防止できるとの大きなメリットが指摘されました。登壇した弁護士からは、当事者の意向を尊重すること、事案をより正確に伝えたい場合などに出頭するとの発言がされました。
アンケート結果によれば、弁護士の立場から出頭に積極的な意見もあり、これについて登壇した調停委員からは、「出頭してもらえば、より当事者を身近に感じ、当事者の置かれた状況や熱意が伝わる。」、「来ていただけるとありがたいという気持ちになる。」との発言がありました。

⑷ ウェブ調停の課題
ウェブ調停の課題については、調停委員から、裁判所にウェブ会議の体制が3台分しかなく、期日の間隔が空いてしまうことが、弁護士からは、事務所のレイアウト等の問題で、調停の秘匿性の確保の問題が生じうることが指摘されました。

弁護士会と調停協会の懇談会

3 面会交流の調整を要する事案について

⑴ 「新たな運営モデル」の導入
まず調停委員から、福岡家庭裁判所における面会交流の調整を要する調停は、東京家庭裁判所で策定された運用モデル(「東京家庭裁判所における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」家庭の法と裁判2020年6月号)を基本に運営されていること、この「新たな運営モデル」が弁護士に浸透していないこと(アンケート結果によれば回答した弁護士の45名/66名が「知らない」と回答)。が述べられました。
この「新たな運用モデル」は、従来の原則実施論的な調停運営から転換を図るもので、①当事者の主張・背景事情の把握、②課題の把握と当事者との共有、③課題解決のための働きかけ、調整、④働きかけ・調整の結果の分析評価などのサイクルを繰り返し検討し、種々の利益を調整しながら子の福祉を実現するモデルであることが説明されました。従来の進行では、面会交流が監護親に与える負担やストレスについての理解が乏しかったとの反省が率直に述べられました。
このモデルの導入に当たっても、調停委員からは、「モデルを理解しても、実際にその理念を実現することは簡単でない。」「面会交流の実施を禁止し制限する事情が無ければ、面会交流の実施が子の福祉に適うとの前提で、面会交流を実施する方向で話し合いを進めることになり、利用者からすれば原則実施論で進行しているように受け止められることがある。」などの苦労が語られました。

⑵ 高葛藤な事案への対応
特に未成年者が幼い場合、調整事項が多くなりますが、両親間の葛藤が高い場合、話し合いで円滑に進めるのは至難の業です。
調停委員からは、話し合いの視点を夫婦間の紛争から「子の福祉」に向けさせ、子の視点から建設的な話し合いができるように促しているとのことでした。
弁護士からは、監護親の視点から、面会交流の実施が困難になっている事情を詳しく聞取り、実施条件を工夫していること、また、非監護親の視点からは、面会交流を実施することを前提に、面会交流の実施によって子どもにメリットがある方法を提案して監護親に受け入れやすくするという工夫が紹介されました。

⑶ オンラインによる面会交流
新型コロナウィルスの流行後に、オンラインでの面会交流を実施する例が増えているようです。
弁護士からは、非監護親の視点から、非監護親が希望するのは対面での面会交流であって、対面の面会交流へのステップとして利用するイメージを持っていること、特に子どもが小さい場合には、オンラインであっても子の著しい成長を確認できるというメリットがあるとの発言がされました。また、非監護親が離島に住んでいた事案での利用例が紹介されました。その他に、子が非監護親と連絡先を交換することで、非監護親から居場所を把握されたり、頻繁に連絡が来たりするのではないかと不安に思うなどオンライン特有の悩みが生じた事案が紹介され、子の意向を丁寧に組む必要性も指摘されました。
調停委員からは、オンライン面会を条項化するに当たっては、子どもの年齢や、子と別居親の生活リズムなどを考慮しているとの発言がありました。

⑷ その他
パネルディスカッションでのその他の発言を簡単に紹介します。

・調査官調査の活用について
(調停委員から)「非監護親から、子の成長の様子や現在の監護状況、子の心情を確認して欲しいという要望があり、監護親に尋ねても、非監護親に対する誹謗中傷に終始し実態が分かりにくい場合は、早期に調査官調査を行っている。代理人からも調査官調査を希望する意見を貰うことはありがたい。」

・主張書面の活用について
(調停委員から)「弁護士がついている場合、主張を明確するに目的で、主張書面や資料の提出をお願いしている。弁護士の場合は求めた意図を汲んだ書面が提出されるため、調停の効率化に繋がっている。夫婦喧嘩の内容など細かい事実を書面化し、それに反論するなど、葛藤を助長するような議論を書面で行うことは求めていない。利用者のみで調停を行う場合は、必ずしも求めた内容の書面が提出されないことが多く、主張書面の提出は求めていない。」

・将来的な子どもへの影響
(調停委員から)「子どもに関する追跡調査などはないのか。」
(弁護士から)「経験談ではあるが、非監護親の代理人として活動した事案で、当時未成年者だった男性と彼が成人した後に話す機会があった。男性は、『両親が言い争うのを見るのがすごく辛かった。一時は自分が父に会わない方が良いとすら思っていた。しかし、両親がお互いに男性の為に頑張って面会交流に協力してくれたことがとても嬉しかった。今ではとても感謝している。』と話してくれた。反対のケースもあると思う。」

4 最後に

本懇談会を通じて、調停委員の方々が、利用者双方の話を公平に聞こうしていること、利用者の納得を一番に考えていることが伝わり、調停委員への信頼感が増しました。
また、「新たな運用モデル」は調停委員と監護親、非監護親、それぞれの代理人弁護士が協働して初めてその理念が実現できるモデルであると私は理解しました。ただ、対立する当事者が協働することは経験上簡単ではありません。その難題を弁護士と調停委員でどうにか紐解いていくためにも、本懇談会は今後も継続されて欲しいと思います。

弁護士会と調停協会の懇談会

中小企業法律支援センターだより 九州北部税理士会との事業承継研究会

カテゴリー:月報記事

中小企業法律支援センター 鬼塚 達也(71期)

1 研究会開催までの経緯

当会は、九州北部税理士会との間で、令和3年3月16日付で事業承継支援の連携に関する協定を締結いたしました。会員相互の交流と研鑽の場を提供することを目的として、事業承継に関する研究会を継続的に開催することを計画していたところ、新型コロナウイルス感染症のため開催延期を数度経て、ようやく令和5年6月1日に第1回事業承継研究会(以下「第1回研究会」といいます。)を開催することができました。

2 第1回研究会の内容

第1回研究会は、テーマを「事業承継(M&A)はこう考える!~弁護士の視点・税理士の視点~」として、弁護士池田耕一郎先生(当センター)及び税理士山田陽介先生(九州北部税理士会 中小企業対策部部長)から、事業承継(M&A)の心構え、他方士業に求めるものや他方士業が介入すべきタイミング等をご報告いただきました。
池田先生からご報告いただいた内容の一部を以下記載いたします。
・事業承継は特殊な分野ではない。話をとことん聞くことが重要である。
・弁護士が事業承継支援に携わる意義として、①事業承継のあらゆる場面に法律が関係すること、②対策をしなかったことによるリスクを知っているからこそアドバイスができること、③他方当事者との交渉を行うことが常に生じるところ、法律上交渉に関する代理業務ができるのは弁護士のみであることが挙げられる。
・事業承継に資する法的手段として、分散している株式等の集約方法(相続人等に対する売渡請求など)、先代経営者の保証債務の処理方法(経営者保証ガイドラインの適用)、遺留分の民法特例(除外合意・固定合意)などがある。
・事業承継支援は信頼できる士業との連携が必要不可欠である。

山田先生からご報告いただいた内容の一部を以下記載いたします。
・事業承継においては税務だけでなく財務支援を行う必要があり、税理士がかかわる意義がある。
・税理士は税額を抑えることを第一に考えがちであるが、無理な節税をしたことにより、株式の分散、過大な借入金、利益の圧縮がされ、事業承継のハードルが上がってしまうこともある。
・決算書を見て、(税引後利益+減価償却)と(長期借入金÷5年)を比較して後者が大きければ、その会社の資金繰りは苦しいはずである。
・事業承継は自力で解決できなとも周りの力を借りて解決できる協力体制が必要である。

中小企業法律支援センターだより(池田先生の写真)

3 第1回研究会後の懇親会

第1回研究会の後に懇親会を行いました。当センターから15名、九州北部税理士会から13名が参加し、大変賑やかな会になりました。私事ですが、偶然にも、懇親会に参加された税理士の方で、私の出身中学校の先輩が複数おり、地元の話で盛り上がりました。

4 今後の予定

第1回研究会及び懇親会が盛況であり、第2回研究会を開催予定です。ご興味のある方がいらっしゃいましたら、当センターの会員までお知らせください。

中小企業法律支援センターだより(山田先生)

中小企業法律支援センターだより スタートアップ企業におけるストックオプションの活用

カテゴリー:月報記事

中小企業法律支援センター 委員 白田 晴夏(75期)

1 はじめに

令和5年6月26日18時より、福岡県弁護士会館の大会議室301にて、司法書士の小牟田毅先生を講師にお迎えし、スタートアップ企業におけるストックオプションの活用についてご講演いただきました。会場でのリアル参加とWeb方式の併用で実施しましたところ、あわせて34名もの会員にご参加いただき、創業支援に関する関心の高まりを感じました。
以下、簡単ではございますが、小牟田先生のご講演の内容を報告いたします。

2 ストックオプションの活用

⑴ ストックオプションのメリット
ストックオプションとは、株式会社の従業員や取締役が、権利行使価格で自社株式を取得できる権利のことです。
では、なぜストックオプションがスタートアップで活用されるのかというと、それには大きく分けて三つのメリットがあるためです。
まずは付与対象者のモチベーションを向上させるというメリットがあります。自社の業績が向上することで株価も上昇するため、付与対象者の働きがリターンに繋がるという仕組みが生まれ、付与対象者は自社の業績を上げるという目標を持つようになります。
二つ目に、外部協力者との関係性を維持するというメリットがあります。スタートアップ企業では、従業員を雇用するのではなく、外部協力者に業務委託をすることも多いため、外部協力者との関係性維持のためにストックオプションを活用することが可能です。
三つ目に、優秀な人材の確保を容易にするというメリットがあります。ストックオプション制度があることで会社の将来性をアピールすることができ、優秀な人材を確保できます。また、付与対象者としては、ストックオプションを行使する前に退職すれば損をする可能性があることから、結果として従業員の退職を防止するという効果もあります。

⑵ ストックオプションの留意点
上記のように様々なメリットがあるストックオプションですが、ストックオプションを付与する際の留意点も三つ挙げられます。
一つ目に、付与対象者と付与数の基準を設けることです。付与対象者と付与数の決定方法が不明確であったり、付与数に明らかな差があったりすれば、不公平感から社内全体のモチベーションの低下に繋がるおそれがあります。
二つ目に、付与対象者が権利行使をした直後に退職する可能性があることです。会社の将来性をアピールして採用した人材の場合、付与対象者はストックオプションを行使することによる経済的利益を重視していることがあります。そのような付与対象者は、権利行使をして株式の売却益を得れば、すぐに退職するおそれがあります。
三つ目に、株価がモチベーションに連動していることです。ストックオプションの付与が付与対象者のモチベーションの向上に繋がるという点は上述したとおりですが、逆をいうと、会社の業績が低迷すると、付与対象者のモチベーションの低下に繋がるおそれもあります。

⑶ まとめ
ストックオプションのメリットを最大限に活用できれば、会社としては優秀な人材を確保し、業績を向上させることができる一方で、ストックオプションの留意点をおさえておかなければ、優秀な人材の流出や付与対象者のモチベーションの低下などの問題を引き起こすことになります。
弁護士は創業支援をするにあたり、これらの点を念頭に置いたうえで、適切なアドバイスをすることが求められるといえます。

3 おわりに

今回の講演会では、ストックオプションの基礎的な内容から発展的な内容に至るまで、幅広くご説明いただきました。ストックオプションについてより深い知見を得ることができ、大変実りのある講演会となりました。
日本弁護士連合会が発行した「ゼロから始める創業支援ハンドブック」にも、ストックオプションをはじめ、弁護士が取り組む支援内容について記載があります。日弁連のホームページを検索していただくとハンドブックのデータを取得することができます。創業支援に取り組まれる先生方は是非、同ハンドブックもご参照ください。

講演の様子(中小企業支援センターだより)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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