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刑事法廷内の手錠腰縄問題に関するシンポジウムが開催されました

カテゴリー:月報記事

会員 木上 貴裕(73期)

1 はじめに

令和5年8月5日(土)13時より、2023年ローエイシア福岡プレシンポジウム第3弾として、刑事法廷内の手錠腰縄に関するシンポジウムが開催されました。
手錠腰縄問題とは、勾留中の被告人について、裁判官の法廷警察権に基づく指揮の下、手錠・腰縄をされたままの状態で法廷内に連れて来られ、手錠・腰縄が外されるまで、被告人は訴訟関係人だけでなく傍聴人からも、手錠・腰縄が施された状態を見られることになり、被告人における手錠・腰縄姿をみだりに人に見られないという人格的利益が侵害されている、という問題です。
手錠・腰縄姿をみだりに人に見られない利益が、被告人の人格的利益であることは、これまでの判例・裁判例で指摘されていますが(例えば、東京地判平成5年10月4日・判時1491号121ページ、大阪地判平成7年1月30日・判時1535号113ページ、最一小判平成17年11月10日・民衆59巻9号2428ページ)、実際には、被告人の意思に関係なく、手錠・腰縄がされている状態を、訴訟関係人や傍聴人に見られる運用がされています。
そこで、日弁連や全国の弁護士会においてPTが設置され、被疑者・被告人の手錠・腰縄姿が訴訟関係人や傍聴人に見られない状態の実現に向けた取り組みが行われており、その活動の一環として、今回のシンポジウムが開催されました。

2 第1部 基調講演

⑴ 講演の概要について
第1部は、基調講演として、近畿大学法学部教授の辻本典央先生と大阪弁護士会所属の田中俊先生より、ご講演をいただきました。
辻本先生は、日弁連手錠腰縄問題PTや参議院院内学習会などに参画されており、本講演では、「法廷での手錠腰縄姿は当たり前のこと…なのか?法廷への入退出時における手錠腰縄措置の法的検討と制度改善に向けて」と題し、被告人が、手錠腰縄をされた上で刑務官に脇を固められて法廷に入廷する姿が当たり前のことなのかということに関し、被告人としての立場から見つめ直す、すなわち基本的人権の観点から被告人の法的利益に対する侵害の有無及び救済方法についてご講演をいただきました。
田中先生は、日弁連手錠腰縄PTの座長であり手錠腰縄措置により人格権等を侵害されたことを理由とする国家賠償訴訟を複数担当されており、本講演では、「これまで問題となった手錠・腰縄使用事例と弁護士会の活動について」と題し、過去に手錠腰縄の使用が問題となったケースや実際に田中弁護士が実際に担当された国家賠償訴訟、日弁連手錠腰縄問題PTの活動内容等についてご講演をいただきました。

⑵ 大阪地裁判決及び大阪高裁判決について
辻本先生及び田中先生からは、主に大阪地裁令和元年5月27日判決(以下「大阪地裁判決」といいます。)及び大阪高裁令和元年6月14日判決(以下「大阪高裁判決」といいます。)を中心に講演を頂きました。
大阪高裁判決は、「明らかに逃走等のおそれがない場合など手錠等を使用する具体的な必要性を欠く場合にはその使用が許されないというにとどまる。」として、手錠・腰縄等の使用について裁判所の広範な裁量を認めています。
他方、大阪地裁判決は、「個人の尊厳と人格価値の尊重を宣言し、個人の容貌等に関する人格的利益を保障している憲法13条の趣旨に照らし、身柄拘束を受けている被告人は、上記のとおりみだりに容ぼうや姿態を撮影されない権利を有しているというにとどまらず、手錠等を施された姿をみだりに公衆にさらされないとの正当な利益ないし期待を有しており、かかる利益ないし期待についても人格的利益として法的な保護に値する」との見解を示したうえで、「裁判長は、勾留中の被告人を公判期日に出廷させる際には、法廷において傍聴人に手錠等を施された姿を見られたくないとの被告人の利益ないし期待を尊重した法廷警察権の行使をすることが要請され、被告人の身柄確保の責任を負う刑事施設の意向も踏まえつつ、可能な限り傍聴人に被告人の手錠等の施された姿がさらされないような方法をとることが求められているというべきである。」と判示しました。そのうえで、入退廷に際して、手錠等を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせないようにするため、
①法廷の被告人出入口の扉のすぐ外で手錠等の着脱を行うこととし、手錠等を施さない状態で被告人を入退廷させる方法
②法廷内において被告人出入口の扉付近に衝立等による遮へい措置を行い、その中で手錠等の着脱を行う方法
③法廷内で手錠等を解いた後に傍聴人を入廷させ、傍聴人を退廷させた後に手錠等を施す方法
の3点の具体例を挙げるなど、裁判所に可能な限りの是正措置を要求しました。

⑶ 大阪地裁判決後の状況について
大阪地裁判決後は、画期的な裁判例が出たことに伴い、日弁連から関係省庁に対し、刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める意見書の提出が行われるなど、弁護士会における活動も活発化しました。また、手錠腰縄申し入れ活動に関する新聞記事が出されるなど、弁護士会外における活動も行われるようになりました。
しかしながら、大阪地裁判決が出されたばかりの頃は、裁判所の対応にも変化があったようですが、現在では、弁護士からの申し入れに対して、裁判所が何らかの措置を講じることに難色を示すこともあるようです。

⑷ まとめ
以上の状況を踏まえ、辻本先生及び田中先生から、何よりも刑事事件に携わる弁護士が、裁判所への申し入れを活発化させ、裁判所に働きかけてほしいとの要望がありました。
被告人への手錠及び腰縄の使用に関する申入書については、福岡県弁護士会の会員専用ページの「書式・資料」→「刑事事件」→「手錠・腰縄問題に関するPT」内に書式が用意されておりますので、被疑者・被告人事件を担当される際にぜひご活用ください。

手錠腰縄問題シンポ

3 第2部 ゲストスピーチ

⑴ 第2部では、ゲストスピーチとして、法廷内の身体拘束についての海外報告及や国会報告がされました。

⑵ 海外報告
海外報告では、韓国、マレーシア、バングラデシュ、オーストラリアの弁護士ないし裁判官から、各国における手錠腰縄の運用状況について報告がされました。特に韓国では、法律で公判廷での被告人の身体拘束が原則として禁止されているとの報告がされました。

⑶ 国会報告
国会報告では、福島みずほ議員から、手錠・腰縄問題を立法的に解決するための活動を国会から行うとの報告がされました。

4 第3部 パネルディスカッション・質疑応答

第3部では、パネルディスカッション及び質疑応答として、基調講演をいただいた辻本先生及び田中先生に加え、元福岡高裁総括で弁護士の陶山博生先生及び福岡県弁護士会手錠腰縄PT座長の黒木聖士先生をパネリストに迎えた上、パネルディスカッションのコーディネーターとして福岡県弁護士会手錠腰縄PT副座長の市場輝先生にご担当をいただきました。
ディスカッションでは、福岡における手錠・腰縄措についての現状として、手錠・腰縄の使用に関する申し入れに対して措置を講じる例が1割程度しかないことや、大阪地裁判決が出された当時に比べ裁判所の動きも下火になってきている状態にあるとの問題点が示されました。
そのうえで、根本的な解決として立法的な解決を図ることも必要ではあるが、個々の弁護士が裁判所に申し入れ活動を積極的に行い、成功事例を積み重ねていくことで、立法的解決にも資すると考えるとの意見が示されました。

5 最後に

刑事法廷において、被告人が手錠・腰縄を施された状態で入廷し、裁判関係者及び傍聴人が見ることができる状態で手錠・腰縄を外すという光景が当たり前だと思っている弁護士も一定数いるのではないかと思います。かくいう私も、手錠・腰縄PTに加入させていただくまでは、当たり前の光景だと思っていました。
裁判官が、手錠・腰縄使用に関する申し入れに対し措置を講じる例が少ないのも、措置を講じることが特別なことだと考えているからではないでしょうか。現在は、手錠・腰縄使用に関する申し入れを行う件数が少なく、裁判官も特異な例だと考えているのだと思います。そのため、刑事事件に携わる弁護士が積極的に申し入れを行うことで、裁判官にも手錠・腰縄を使用することが当たり前ではないと認識させていくことが、手錠・腰縄問題を解決する近道だと考えます。
皆様も、刑事事件に携わる際には、是非、手錠・腰縄の使用に関する申し入れを実践してみてください。

あさかぜ基金だより

カテゴリー:月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 石井 智裕(72期)

九州外の公設事務所に見学に行きました

日弁連は公設事務所の見学のための交通費と宿泊費を援助しています。この制度を使って、紀中ひまわり基金法律事務所と中村ひまわり基金法律事務所に見学にいきました。

紀中ひまわり基金法律事務所

まず、今年の2月に紀中ひまわり基金法律事務所へ見学に行きました。
紀中ひまわり基金法律事務所は和歌山県の御坊市にあります。御坊という名前は、もともと日高御坊と呼ばれたお寺があり、そこから付けられた地名だそうです。御坊駅のそばには田園地帯となっていて、市街地は駅からすこし離れた場所にありました。
御坊市には他のひまわり基金法律事務所の所在地にはない映画館があり、栄えている様子でした。
紀中ひまわり基金法律事務所には、毎週のように新規に相談が舞い込んでくるそうで、事件処理が停滞しないようにするのが難しいとのことでした。事件の種類についても、偏りがなく、市民からさまざまな事件の相談がくるそうです。
紀中ひまわり基金法律事務所はとても地域に根づいて信頼されている事務所だと感じました。

中村ひまわり基金法律事務所

次に、8月には中村ひまわり基金法律事務所へ見学に行きました。
中村ひまわり基金法律事務所は、高知県の四万十市にあります。四万十市は高知県の西の端にあるので、九州から近いと思っていましたが、調べてみると高知市を経由し、高知市から特急列車(電車はありません)で2時間かかると知り、かなり交通の便が悪い場所にあるのだなと感じました。
しかし、中村ひまわり基金法律事務所の周辺は生活や業務に必要な施設はすべてそろって居ました。裁判所・市役所・郵便局・法務局・銀行・警察署はすべて徒歩圏内にありますし、事務所の目の前にはスーパーとドラッグストアが並んでいます。四万十までいくのは大変だけれども、生活するには住みやすい場所のようです。
受任事件については、刑事事件と債務整理の事件がそれぞれ4分の1だというのが特徴的とのことでした。地域特有の事件としては、うなぎの稚魚の窃盗事件を受任したことがあるそうで驚きました。
壱岐や対馬の公設事務所に赴任した先輩弁護士から、島では利益相反が多発するから注意が必要であるとの話を聴いていましたので、中村ひまわり基金法律事務所の弁護士にも、利益相反の点について訊いてみました。すると、四万十でも利益相反はよく発生するとのことでした。島ではなく陸続きの場所でも利益相反が多いと聴いてビックリでした。
交通の便が悪いと、陸続きでも離島のような問題が発生してしまうことに思い至りました。

地域に根ざした事務所

紀中ひまわり基金法律事務所と中村ひまわり基金法律事務所のいづれも地域に根ざした事務所として市民から大いに頼りにされた存在なのだと実感できじました。
私も、過疎地に赴任するにあたっては、地域の人たちから頼りにされるよう、しっかり努力したいと決意を固めたのでした。

社外役員に関する連続講演会(杉原知佳先生)

カテゴリー:月報記事

弁護士業務委員会 委員 德永 淳(71期)

1 本講演会について

去る令和5年7月26日、福岡県弁護士会館(ZOOM併用)にて、杉原知佳先生(51期)をお招きし、「社外役員に関する連続講演会~コーポレートガバナンス・コードと社外役員~」と題して、講演会を開催しました。
講師の杉原知佳先生は、東証プライム上場企業を含めた複数の企業の社外取締役に就任されております。
本講演会は、弁護士業務委員会におけるPTの一つである「WODIC」勉強会の一環として行われました。
「WODIC」とは「Whistleblower Protection Act(公益通報者保護法)」、「Outside Director(社外取締役)」、「Independent Committee(第三者委員会)」の頭文字をとった造語であり、これらの企業法務分野において法の支配を貫徹させるため、各分野の理解を深めるべく、令和4年1月25日に発足したPTです。
WODICでは、これまでに企業の法務担当者や社労士の先生等の外部の方もご参加いただき、改正公益通報者保護法(W)に関する勉強会を継続して行ってきました。また、令和5年10月2日には、第三者委員会(IC)をテーマとした研修会も開催しました(同研修会については、来月以降の月報でご報告予定です。)
本講演会は、社外取締役(OD)をテーマにした連続講演会の第4回目であり、会場参加・オンラインで多数の先生にご参加いただきました。

2 本講演会の内容

⑴ コーポレートガバナンス・コード(CGコード)
CGコードとは、上場企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目的とし、実効的なコーポレートガバナンス(会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み)の実現に資する主要な原則を取りまとめたものです。
CGコードは、強い法的拘束力を有さないいわゆるソフト・ローの一種であり、上場会社は、CGコードの各原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明することが求められています(東証有価証券上場規定436条の3)。

⑵ 社外取締役に求められること
社外取締役は、CGコードにおいて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る観点からの助言を行い、経営の監督や会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督するとともに、経営陣・支配株主等から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させることが求められています。
近年、このような社外取締役の機能がより必要とされており、令和3年のCGコード改訂の際には、プライム市場上場会社においては、社外取締役を少なくとも3分の1以上(その他の市場の上場会社においては2名以上)選任することが求められるようになりました。

⑶ CGコードにおける多様性の要求
CGコードにおいて、取締役会は、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる人員で構成されることが求められ、監査役には、財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されることが求められています。
ジェンダーの観点については、令和3年のCGコード改訂の際、上場企業に、管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標を設定し、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表することが求められています。

⑷ 杉原先生が社外取締役として心掛けていること

・守秘義務
社外取締役は、企業の外部公表前の重要情報に触れる以上、守秘義務の遵守は最も大事です。

・枝葉を見ずに森を見る
社外取締役は、弁護士業務における契約書のリーガルチェックのような細かい作業を求められているわけではありません。
鳥の目(広く視野を持ち、俯瞰して大局を見る能力)、虫の目(細部にわたって色々な角度から情報を処理し、分析する能力)、魚の目(時代の変化を的確に捉える能力)、コウモリの目(物事を反対側から見て、発想を広げる能力)を持ち、上手く活かす必要があります。

・会社のことを知りたい姿勢を示す
前回の講演会で講師を務められた平田えり先生には、自身が会社への愛を持っていることを熱く語って頂きました。
杉原先生としても、平田えり先生のように、会社を愛し、会社のことを知りたいという姿勢を示すことが大事とお考えでした。

・法令違反の有無・リスクの検討
弁護士として社外取締役に選任されている以上、経営陣からは法的観点の指摘が求められており、これが社外取締役としての業務の重要部分となります。

・会社で当たり前になっていることを外部の目で指摘する
社外取締役は、通りすがりの旅人であり、旅の途中で村に寄った際、村人たちの同質性による過度な弊害に気付くことができます。
会社の常識は世間の非常識と言われるように、会社で当たり前になっている悪い部分を指摘することも、重要な業務の一つです。

・他社の例や新聞・ニュース等の情報の紹介
顧問先から聞いた話では、などとして、他社の例を紹介したり、日頃から日経新聞等を読み情報に接することで、その分野の様々な情報を紹介したりすることができます。

・男女共同参画の視点
自身が女性であるからこそ、このような目線は常に持って、業務に取り組んでいるとのことです。

・分からない言葉はその場で調べる
弁護士の業界では出てこない言葉が多数出てきます。最低限の共通理解は求められる以上、資料を読み込む段階で、その都度意味を調べる必要があります。

⑸ 社外取締役に関する研鑚の積み方

・日弁連eラーニング
「コーポレートガバナンスに関わる弁護士のための連続講座」等、日弁連eラーニングでは無料でかなり質の高い研修を受けることができます。

・コード、ガイドライン、指針
紹介したCGコードに加え、「社外取締役ガイドライン」(日弁連)、「社外取締役の在り方に関する実務指針」(経産省)、「社外取締役向け研修・トレーニング活用の8つのポイント」(経産省)、「社外取締役向けケーススタディ集」(経産省)等、様々なガイドラインや指針が作成され続けています。

3 むすび

本講演会においては、杉原先生にCGコードの概要についてご解説頂いた上で、社外取締役として普段から心掛けていることや、社外取締役に関する研鑚の積み方等をご講演頂きました。
社外取締役をはじめとした社外役員について、令和3年のCGコードの改訂等をきっかけに、今後も弁護士に対する需要の高まりが予測されます。
本講演会は連続講演会となっており、第6回は、令和5年12月5日(火)18時より、桝本美穂先生にご講演頂く予定です(第5回講演会は本稿執筆時点で開催済みです。)。
次回以降も、たくさんの皆様のご参加をお待ちしております。

「ウクライナ戦争と国際刑事法」フィリップ・オステン氏講演会

カテゴリー:月報記事

会員 芦塚 増美(44期)

ローエイシア・プレシンポとして、慶應義塾大学フィリップ・オステン教授をお招きして、講演会を開催しました。講演の概要です。

1 昨年の4月、ウクライナのブチャにおいて、ロシア軍が撤退した直後に、数百人の市民の遺体が発見されたとの報道がありました。残虐行為を、「戦争犯罪」や「人道に対する犯罪」という表現を用いていますが、国際刑事裁判所(ICC)の対象犯罪(中核犯罪)となります。主任検察官は、昨年2月28日に、捜査に向けた手続を開始すると発表し、多くの締約国からICCへ付託されました。今年3月17日に、ICCは、ロシアによる子どもの不法な追放と、ロシアへの不法な移送について、戦争犯罪に該当し得るとして、プーチン大統領らに対する逮捕状を発付しました。

2 対象犯罪の訴追は、ICCよりも、国家が主役となって、第一義的に訴追を担うことが原則となっています。国際法の刑事法的側面として、国際条約に基づいて、一定の行為を犯罪化して、訴追と処罰を締約国に委ねるといった法規則が、従来から見られます。

3 日本が国際刑事法と初めて向き合うこととなったのは、東京裁判でした。A級戦犯として起訴された、福岡の出身の広田弘毅は、文官として唯一死刑判決を受けましたけれども、その量刑判断に対して疑念が残りますが、東京裁判は、国際刑法体系の出発点となった裁判でもありました。

4 ジェノサイド、日本語でいう「集団殺害犯罪」です。ジェノサイドとは、特定の集団(国民的、民族的、人種的、または宗教的集団)の、全部または一部に対して、その集団自体を破壊する意図を持って行う殺害などをいいます。
人道に対する犯罪ですが、文民たる住民に対する攻撃であって広範又は組織的なものの一部として、攻撃であると認識しつつ行う殺人等です。「攻撃」とは、ICC規定の定義によれば、「国もしくは組織の政策に従って行われるもの」で、背後に政府や軍の方針が存在しなければなりません。
戦争犯罪とは、例えば捕虜の虐待といった、武力紛争で、ルールを定めた国際法、武力紛争法の重大な違反を犯罪とするものです。
侵略犯罪とは、国の指導者による国連憲章の明白な違反を構成する国家による侵略行為の計画、準備開始又は実行することです。

ウクライナ戦争ト国際刑事法-1

5 ICCは、国々が条約に基づいて設立した国際機関で、管轄権は、締約国の主権が及ぶ領域における中核犯罪、締約国の国民がそうした対象犯罪を行った場合にしか行使ができません。
中核犯罪の訴追・処罰は、第一次的には各締約国の国内刑事司法に委ねられ、ICCは、国家が訴追意思や能力を欠くときにのみ、これを補完する役割を負います。補完性の原則に基づいて、国内裁判所は、いわば国際社会における一つの司法機関として、刑事裁判権を行使するのです。
ICC規定は、締約国に対して、ICCに手続上の協力ができるよう、法整備を行う義務を課しています。ICCは、独自の法の執行機関などを持たないため、逮捕状の執行や、被疑者の引渡しについて、加盟国による協力に依存しています。「手足のない巨人」とも呼ばれています。実体法の面では、中核犯罪の処罰規定については、国内法化する義務を課していません。日本も2007年にICCに加盟した際に、中核犯罪の大部分が現行刑法で処罰可能であるとして、立法手当て、その国内法化を見送りました。

6 展望と課題-ウクライナ戦争が問うているもの
人権侵害に関与した外国当局者らに経済制裁を課すとともに、当該行為に加担した個人を、中核犯罪に基づいて刑事訴追するという方策があります。国際的な包囲網の構築に向けて、各国と足並みを揃えることが、日本でも重要な政策課題として、最近、議論されています。
刑事司法による対応の重要性をさらに浮き彫りにしたのは、今般のウクライナ侵攻とそれに伴う一連の重大な非人道的行為でした。しかし、中核犯罪に特化した処罰規定を欠いた日本の国内法の現状では、ICCや他国に対してなし得る協力は、間接的な「後方支援」が限界です。現行刑法では対処できない類いの犯罪もありますし、仮に対処できるとしても、実際には捜査や訴追が難しいと考えられます。日本が国際刑事司法においてより積極的な役割を担うためには、中核犯罪の国内法化が喫緊の課題といえます。国外犯処罰規定の不備という問題もあります。現状では、中核犯罪を海外で行った外国人が日本に入り込んできたとしても、ほとんど処罰ができないので、日本が「セーフヘイブン」(隠れ場所)になり、国際包囲網の「ループホール」(抜け穴)になるリスクがあります。
今後の中核犯罪の国内法化にあたっては、立法形式に関しては、特別法の制定のほか、刑法の改正というオプションも考えられます。刑法総則的規定に関しては、上官責任、上官命令の抗弁や公訴時効の不適用など、国際刑法固有の原理の適用を、中核犯罪に限定することで、従前の刑法体系への波及を回避することが特に重要です。
ウクライナ戦争は、中核犯罪に関する国内法整備を見送った日本に、再考を促しているといえます。国際刑事法の国内法化に当たっては、外国の立法例を参照しつつも、日本独自の規範化を通じて、ICC締約国が非常に少ないアジア諸国に対しても、新たな立法モデルを提示することが大切です。

7 会場参加者28名、オンライン参加者25名となり、会員、大学生、高校生などが参加しました。講義のレポートを作成して宿題として高校に提出すると話す高校生もいました。
今後とも、市民に最新の国際情勢を伝える講演会を開催します。

ウクライナ戦争ト国際刑事法-2

中小企業の日一斉シンポジウム 「老舗を救った学生の熱意 大廃業時代における事業承継の新たな形」聴講レポート

カテゴリー:月報記事

会員 松下 拓也(69期)

1 はじめに

7月20日、「中小企業の日」の記念イベントとして、福岡市天神のエルガーラホールにて無料セミナーおよび無料相談会が開催されました。
セミナーの今年のテーマは、「老舗を救った学生の熱意 大廃業時代における事業承継の新たな形」です。
今回、セミナーの講師を務めてくださった林田茉優さんは、福岡大学経済学部に在学中「ベンチャー企業論」というゼミで後継者問題に興味を持ち、休業状態であった創業130年超の老舗「吉開のかまぼこ」の再建活動に携わった方です。そして、卒業後、24歳にして、同社代表取締役に就任し、見事再建を成し遂げた、凄腕の経営者です。
テーマに「学生」とあるとおり、今回は現職の経営者にとどまらず、スタートアップを検討している大学生など若い芽もターゲットに見据え、地元の大学にも広報を広げさせていただきました。広報活動の成果か、当日は会場参加者50名、Zoom参加者31名と大盛況でした。

中小企業支援センター  講演風景(林田様〜全体の様子)

2 セミナー

林田さんがゼミで後継者問題に興味を持ったのは岡野工業の岡野社長との出会いからでした。同社は「痛くない注射針」を開発した高い技術力を持った企業でしたが、後継者不在を理由に、廃業せざるを得ませんでした。岡野社長に何度も手紙を送り、面談を実現し、粘り強く再建の道を提案したのですが、残念ながら再建には至らなかったそうです。
この悔しい経験を経て、林田さんは、本格的に後継者不足による廃業問題に取り組むこととし、日本M&A推進財団を通じて「吉開のかまぼこ」の紹介を受けます。
林田さんは、同社の事業承継実現のため、多数の会社への地道な電話がけ、メディアを使った発信、遠方のみやま市まで足を運んでの先代との打合せ、学生達自身でかまぼこを作り試食してその魅力を発信するなど尽力しました。しかし、承継会社が見つからない、漸く見つかっても双方のうまく条件が折り合わない、先代が事業承継を前にマリッジブルーに陥る、工場の移転先が見つからない、工場の騒音について周辺住民から反対の声が上がるなど様々な壁に何度もぶちあたります。その度、林田さんのゼミの学生達はその壁を乗り越えていきました。
こうして、林田さんは3年に渡り、吉開のかまぼこを支援し、その中で先代の熱意、吉開のかまぼこにしかない魅力、そして復活を願うたくさんの地元の人々の存在に触れてきました。そして、先代からの熱い信頼を受け、林田さんは自らが後継者となる道を選んだのです。
承継後、林田さんは、素人(消費者)目線でのリブランディングが自己の使命だと考え、原材料へのこだわりはもちろんのこと、ロゴやECサイトの再構築のほか、クラウドファンディングやオンラインショップ、メルマガやSNSの利用など様々なツールを用いて積極的な販売・広報活動を繰り広げました。そうした結果、事業の存続を果たすことが出来たのです。
林田さんが実際に様々な社長にお会いした感覚としては、後継者に引き継ぐことを考える方よりも、生涯現役という思いを持った方が多いようです。
私自身、会社の経営に関する相談を何度か受けたことはありますが、現社長が高齢であっても後継者のことや事業承継のことをあまり考えていないというケースは多々見受けられました。
確かに、いつまでも現役でありたいと思うことは大変すばらしいことなのですが、万が一の備えを全くしなかった場合、遺されたものに混乱が生じ、最悪の場合、黒字にもかかわらず、そして世に求められている事業であるにもかかわらず、会社を畳まざるをえないということになりかねません。そういった方に事業承継の重要性をどのように説いていくかという点が課題であると感じました。

中小企業法律支援センター  講演風景(林田様〜講師アップ)

3 パネルディスカッション

後半は、若狭先生、鬼塚先生、両角先生を交えたパネルディスカッションが行われました。負債を抱えた企業における事業承継のありかた、経営者保証ガイドラインの活用、NDAなど、事業承継のいかなる場面において弁護士が手助けできるかという点について活発な議論が交わされておりました。

4 終わりに

私自身、直接的な相談ではないにせよ、紛争の根底には事業の後継者問題も絡んでいると思われる事案に何度か遭遇したことがあります。今回のセミナーは、適切な事業承継を考える良い機会となりました。
また、事業承継の一つのパターンとして、大学生など若手起業家による創業支援と上手くマッチングさせることで相乗効果を産むことが出来るのではないか、今回のセミナーは事業承継の新たな可能性を示唆する非常に興味深い内容でした。

中小企業法律支援センター  パネルディスカッション

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