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ITコラム 〜私がマックを愛する理由〜

カテゴリー:月報記事

辻本 育子

月報の担当者からこの原稿を書くようにいわれて、つい「何も書くことないけど」と言ってしまいました。「私がマックを愛する理由」でもいいからと言われて、書き始めましたが、これを見られる会員のなかに一体何人のマックユーザーがいるんでしょうか。

私がパソコンを初めて買ったのは、一九八九年販売されたDynaBook386SXだったと思います。あのころの東芝は偉かった。MS DOSの時代ですが、全くの素人が買って来て、誰の助けもなしに説明書だけでパソコンが使え、MS DOSのお勉強ができたのですから。

その後3.1、95、98、XPとウィンドウズ機もずっと使って来ましたが、一九九二年にアップルからPowerbook170が出て以降は、主マシンはマックです。洗練されたインターフェイスと、どんどん安くなったことでデスクトップもマックになりました。

うちの事務所のパソコンも、「マックでなければメンテナンスできない」(実はしたくない) という私の我が儘から、ほぼ全部マックです。しかし、弁護士個人の携帯用にはやむなくウィンノートを使っています。なにしろ、一番軽いノートでもマックは二キロですから、携帯を考えると、ウィンノートで我慢せざるをえません。

パソコンを使う人は二種類いるんじゃないでしょうか。ソ\フトを使って目的が達せられればいい人と、パソコンという道具自体が好きで、それを自分好みに変えて使いたい人です。私にとってパソ\コンは電子レンジと同じく無くてはならないものですが、レンジをいじってみようとは思わないのに、パソコンは、いじってみたくなります。といっても、物理的にパソ\コンを組み立てること (自作) は、いまやそれこそサルでもできるレベルになっているので、一回で飽きました。実は私はいわば「環境設定オタク」です。だから、config.sysなどでいじれなくなったウィン98の途中からおもしろくなくなりました。

その点マックは、OS9までは、インターフェイスが洗練されているだけでなく、ユーザーがシステムをいじれる自由度も高くて、楽しいマシンでした。そのマックも、最新のOS X (テン) になってからは、システムが変わってしまい、適応できません。適応したくないというのが本音かもしれませんが。昨年は、あと数年OS9をつかっていくために、OS9も使えるパソコンを数台購入して将来に備えたところです。

私にはなじめないMacOS Xですが、新しく始める人には、今のマックは、安くてパワフルで安定していて、すぐれたアップル製ソフトもついていて、とてもお勧めです。アップル製品は、デザイン的にも優れていて、使わなくなったマックはインテリアにもなります。OS Xしか入っていないから私は買っていないけど、PowerMac G5はケースの中も外も美しい。

データーのやりとりが心配ですか。マイクロソフトオフィスを使うかぎり心配無用です。それに昨今のようにウイルスがはびこってくると、ウィルスの少ないマックの世界は別世界のように安全で平和ですよ。どうも弁護上のメーリングリストでウイルスメールが飛び交っているようなので、最近ウィンドウズ機でのメールチェックは止めました。

当番弁護士日誌

カテゴリー:月報記事

中野 俊徳

1 刑事弁護の覚悟

私は、修習生の前期・後期に、月に一、二度、クラスメイトらと、第二東京弁護士会の神山啓史先生の刑事弁護ゼミに通っていました。このゼミは、公設事務所赴任希望の新人弁護士が現に受任している刑事事件を題材に、どのような弁護活動をすべきかを一緒に検討しあう内容のものでした。このゼミで印象深いことは、私が「勾留取消請求します」等と答えた際、神山先生から「本当にやるのか」と再度問われたことです。

この再度の問いは、勾留取消請求等は弁護人が期待しているような結果を得られる可能性は少なく、周囲の目も「どうして、そのような無駄な活動をするのか」と冷たくなりがちであり、そういう状況下でも自分が本当に必要だと判断した弁護活動を貫く覚悟があるのかという問いだと、私は理解しています。

2 当番弁護出動と前半戦

そして、弁護士になった私は、昨年12月、当番弁護研修のため、指導担当弁護士の田中裕司先生と博多署の前で待ち合わせして、被疑者と接見しました。罪名は、公務執行妨害です。

深夜の中洲で、酔っていた被疑者のグループと別の酔っ払いグループが揉め事になり、中洲交番の警察官らが止めに入ったのですが、被疑者の相手方と警察官が一緒に転倒し、相手方に襟首を掴まれていた被疑者も警察官の上に転倒しかけて、被疑者の足が倒れた警察官の後頭部あたりに当たりました。

被疑者は、それを見ていた別の警察官らから、故意に警察官を蹴ったと判断され、公務執行妨害で現行犯逮捕されたのです。接見した日は勾留初日でした。

被疑者の話を聞いて、これは弁護人を受任して争う必要があると判断した田中先生と私は、被疑者にも被疑者の親にも資力がないことから、法律扶助で被疑者弁護を共同受任することにしました。

そして、とりあえず、交代で毎日接見することと、被疑者の家族には田中先生から連絡を取ることが決まりました。

こうして、被疑者弁護が始まりましたが、私は具体的に何をすればいいのかわからず、勾留3日目にたまたま時間ができたので、検察庁に行き、担当検事に面会して、在宅捜査への切替えを求めて、すげなく断られた以外は、最初の数日間は、接見と勾留状謄本の取寄せくらいしか弁護活動をしませんでした。

今振り返れば、共同受任ということで、自分から積極的に動く気持ちを持たず、指示待ちの状態になってしまっていたと思います。修習生の頃に思っていた覚悟を忘れた状態でした。

3 後半戦での巻き返し?

勾留5日目、私は、刑事弁護の勉強会に参加するため、静岡に行っていました。

前述の神山ゼミに一緒に通った、刑事弁護オタクとも言うべき、元クラスメイトが静岡県沼津支部で弁護士となり、東京の高山俊吉先生や静岡の小川英世先生を巻き込んで、刑事弁護の勉強会を事実上主催しており、なぜか私も強制参加させられていたのです。

この日は、オウムの麻原の弁護団長を務められた渡辺脩先生をお招きし、講演会が開かれました。

渡辺先生のお話を聞き、また、その後の懇親会で元クラスメイトから叱咤され、私はようやく自分から行動する気持ちを持てるようになりました。

勾留6日目、福岡に戻った私は、早速、被疑者と接見しましたが、被疑者は長引く身柄拘束に疲れと焦りを持ち始めていました。被疑者に対する取調べは、2、3日に一回度、一回あたり1時間程度しか行われておらず、被疑者は逮捕直後から一貫した供述を維持し続けていましたが、身柄拘束されている時間の中で、つい悲観的な考えをしてしまっているようでした。

私も、落ち込み気味の被疑者を前にして、安易に慰めることもできず、できる限りの弁護活動を約束することしかできませんでした。

勾留7日目、私は、被疑者の妻に事務所に来てもらい、「被疑者の身柄拘束がこのまま続くと被疑者の妻と幼い子の生活が脅かされる」という内容の陳述書と身元引受書を作成したうえで、田中先生の承諾を得て、勾留取消請求しました。そして、請求書を提出する際、裁判官面接を申し入れておいて、勾留8日目、田中先生と共に担当裁判官に面会し、被疑者の家庭の窮乏と事案の内容から見て、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれがなく、勾留の必要性もなくなっていることを訴えましたが、取消請求はあえなく却下されました。

事務所で却下の知らせを聞いた私はかっとなって、その場で準抗告の申立書を起案して、慌てて裁判所に行きましたが、慌てすぎて、何とも恥ずかしいことに抗告の申\立書を書いてしまっていたのです。それを受付で指摘された私は恥ずかしさに顔を真っ赤にして受付にお詫びしつつも、翌日の受付開始時間に準抗告の申立てをすることを予\告しました。

そして、勾留9日目、予告どおり裁判所で勾留取消却下に対する準抗告の申\立をした私は、その足で検察庁に行き、担当検事に「仮に準抗告が棄却されても勾留延長請求しないように」と求めました。

しかし、私の願いもむなしく、この日の午後六時頃、裁判所から準抗告棄却の知らせが届き、勾留10日目、10日間の勾留延長請求がなされました。そして、担当裁判官と面会して、延長しないことをお願いしましたが、これまた願いは届かず、10日間の勾留延長決定の知らせが届いたのでした。

4 釈 放

勾留11日目、私は、勾留延長決定に対する準抗告書を準備し、田中先生に資料をお借りして、勾留理由開示の申立書の起案にも着手していましたが、次に何をすべきか、悩んでいました。2日前に出た準抗告棄却決定によれば、関係者複数(被疑者の仲間と喧嘩相手のグループ)の検察官調べが終わっていないことが主な理由になっていて、今、準抗告しても、同じ理由で棄却されるのではないかと少し弱気になっていたのです。

別件の打ち合わせ中の私のところに、突然、被疑者から電話がかかってきました。釈放されたというのです。私は、わけもわからず、ただ、嬉しそうな被疑者の声を聞いて、涙ぐみそうになってしまいました。後日、検察庁に確認したところでは、起訴猶予処分ということでした。

5 最後に

こうして、私の弁護士になって最初の被疑者弁護は終わりました。今回の被疑者弁護は、私にとって多くの反省材料を与えてくれたものになりました。

この事件で弁護活動が果たして起訴猶予処分という結果に結びついたのかどうかすら、私にはわかりませんが、私にとっては良い経験になったと思います。最後に、ご指導いただいた田中裕司先生に感謝します。

取調べ可視化全国一斉集会・福岡会場

カテゴリー:月報記事

徳永 響

第一 裁判員制度に関する法案などが国会へ提出されたことによって刑事司法改革の全容が明らかになりつつありますが、弁護士会が求めていた「取調べ可視化」は法案に盛り込まれていません。

しかしながら、取調べ可視化は、弁護士会が冤罪防止の観点から長年求め続けてきたものであり、現時点に至ってもその重要性はいささかも色あせるものではありませんし、むしろ、裁判員制度が導入され裁判員に分かりやすい裁判とするためには、取調べを可視化しておくことが必要不可欠とさえいえます。

近時はマスコミでも取り上げられることが多くなって世間の注目も低くなく、裁判員制度の開始までにはなんとしても実現しておかなければならない緊急の課題です。

かかる事態を受け、様々な人々に取調べ可視化の重要性を認識してもらい、ぜひとも「取調べ可視化」を実現させるべく、全国一斉集会が開催される運びとなりました。

福岡では、可視化の面で日本は諸外国に遅れをとっているとの前田豊会長の挨拶を皮切りに、全国に先駆けて平成一六年三月二五日に福岡県弁護士会館三階ホールにて集会が開催されました。

第二 集会では、まず、取調べ状況を録音したテープが証拠として提出された松山事件・仁保事件を取り上げた「ザ・スクープ」(テレビ朝日)のビデオ上映が行われました。

録音テープの中には、被疑者に対して「南無阿弥陀仏で話せ、○○君」「南無阿弥陀仏で話せ、○○君」「南無阿弥陀仏で話せ、○○君」と何度も繰り返したり、「悪いようにはとりはからん」「君だけの罪ではない、社会の罪だ。」というように強要・甘言・偽計を尽くして自白を迫る取調べの実態が録音されており、自白を獲得せんがために被疑者を篭絡する取調べを知ることができました。

また、被疑者はやっていないことも自白しなければならないため、取調官から様々な誘導をうけることになります。

その結果、被疑者自身が最後に捜査官に対して、自分が間違ったことを供述しているかどうかを聞くかのようなシーンも録音されており、様々な客観的事実が自然に供述(録取)されているからといって、供述調書の任意性を裏付ける事情にならない場面がありうることを目の当たりにすることができました。

第三 ビデオ上映に引き続いて、日弁連取調べ可視化ワーキンググループの小坂井久弁護士(大阪弁護士会)から、取調べ可視化実現に向けての展望についてご講演いただきました。

講演では、現在の刑事司法が抱える大きな病理現象としての調書裁判の問題点は、調書の内容が正しいか否かについて事後的な検証ができないところにあると指摘され、調書内容を事後的に検証するためには、書面による取調べの記録化や「読み聞け」だけの録音・録画では足らず、取調べの全過程をビデオ録画・録音しなければならないことを明らかにされました。

また、取調べを可視化すると、取調官と被疑者の間に信頼関係が保てず、真相解明を妨げるといった根強い反対論に対しては、密室でしか真実が語られないという実証や経験則は存在しないと断じ、可視化によって調書が歪められなくなる結果、捜査官にとっても証拠保全の意味あいを持つことになり、むしろ真相解明に資することや違法取調べが減少する側面を有用性として掲げられました。

イギリス、台湾、韓国といった諸外国での導入事例を見れば、既に取調べ可視化はグローバルスタンダードになっているとのことです。

その他多岐にわたる論点を、パソコンを使った画面をスクリーンに映し出して的確迅速にご講演いただきました。

第四 自白強要や暴行による取調べと聞くと、「昔の取調べ」であるとか、「重大な強行犯だけだ」などと考えがちですが、船木誠一郎弁護士(福岡県弁護士会)から、担当された贈賄や公職選挙法違反事件でも、机をガンガン叩きながらの取調べや、被疑者が灰皿を投げつけられボールペンで胸を突かれたりする取調べ実態が報告され、いつ何時、自分が受任した被疑者がそのような取調べを受けるかもしれないとの現状認識を新たにすることができました。

第五 船木弁護士の報告に引き続いて質疑応答が行なわれ、市民の方から可視化を導入することによって組織犯罪を立件できなくなってしまうのではないかとの質問、会員からは捜査側の取調べの書面による記録化に対抗するための被疑者ノート(その日にどのような取調べがあったかを記録するために弁護士が被疑者に差入れるノート)の導入事例への質問などが相次ぎ、予定の時間を超過しながら盛況のもとに閉会しました。

第六 本集会は急遽日程が決定したこともあり、全国に先駆けて開催される集会であるにもかかわらず、一〇数人しか参加者がいない事態を危惧しておりましたが、興味深いテーマであったためか、五〇名にものぼる参加者を得て開催できましたことについて関係各位に深くお礼申し上げる次第です。また、懇親会の席では、可視化に向けより具体的に活動をすべきだとの頼もしい意見表\明があったこともあわせてご報告させていただきます。

紛争解決センターってどんなところですか?

カテゴリー:ウォーク

紛争解決センター運営委員会 事務局長 大神 昌憲

1 福岡県弁護士会紛争解決センターついにスタート!

思い余って弁護士に相談したところ自分で裁判するように言われたが、裁判沙汰などとんでもない。弁護士に依頼して紛争を解決したいが弁護士費用が払えない。

裁判を利用したいが一般に公開されるし時間がかかりすぎて嫌だ。

このような場合、多くの市民は泣き寝入りを強いられていたと思います。

こうした市民の不満を解消するために、平成十四年十\二月二十日、福岡県弁護士会紛争解決センターがスタートしました。

2 紛争解決センターではどのような紛争を扱っていますか?

紛争解決センターでは、お金の貸し借りや各種事故の損害賠償請求、家庭内のもめごとや近所とのいざこざ、相続問題、従業員の解雇をめぐるトラブル、不動産の明渡請求、欠陥住宅問題や医療事故問題等、あらゆる紛争を迅速に解決することを目標にしています。

3 まずは法律相談から

このような紛争に巻き込まれた場合、是非とも紛争解決センターをご利用いただきたいのですが、まずは福岡県弁護士会所属の弁護士による法律相談を受けていただく必要があります。福岡県弁護士会が実施する有料法律相談(三十分五千円・消費税別途)でも、自治体等が実施する弁護士による無料法律相談でも結構\です。

といいますのも、紛争解決センターにおける手続きは紛争の相手方も参加してはじめて成り立つ民間の手続きですから、当該紛争が紛争解決センターの手続きに適しているかどうかについて、予め弁護士に相談していただくのが適切であるからです。

相談の結果、紛争解決センターによる解決を勧められた場合、その法律相談担当弁護士から必ず紹介状を書いてもらってください。紛争解決センターに紛争解決(仲裁)の申し立てをするに当たっては、紹介状が必要になっています。勿論、弁護士に依頼して、弁護士を代理人としたうえでの申\立も可能です。

4 申立

申立書は、福岡県弁護士会が各地に設置している法律相談センターなどに備え付けてあり、誰でも簡単に記入することができます。

申立書の受付など事務取扱は当面、天神弁護士センター(福岡市中央区渡辺通五-二三-八サンライトビル三階/○九二-七四一-三二○八番)と北九州法律相談センター(北九州市小倉北区金田一-四-二裁判所構内北九州弁護士会館内/○九三-五六一-○三六○番)の二ヶ所で行いますが(受付日時・月曜日から金曜日までの午前九時三十分から午後四時まで)、徐々に事務取扱センターを増やしていく予\定です。

申立に当たっては、申\立手数料が一件につき一万円(消費税別途)必要です(生活保護受給者は免除します)。相手方がどうしても手続きに参加してくれないまま手続きが終了した場合は、申立手数料の半額が返還されることになっています。

5 仲介人・専門委員

申立が受理されると、当該紛争を解決するに適した仲介人が選任され、第一回の仲裁期日が決められていて、相手方にも手続きに参加するよう通知されます。

仲裁人はすべて弁護士で、福岡県弁護士会に所属するベテラン弁護士を中心に構成されています。

建築紛争や境界紛争、医事紛争等、弁護士以外の専門家の助言を要する場合は、そのような専門家の協力を得ることもできます。

6 仲裁期日

仲裁期日においては、仲裁人が、申立人および相手方双方から、じっくりと話を聞いたり証拠書類の提出を受け、問題点を整理しながら一緒に解決策を考えていきます。もちろん、非公開で秘密が外に漏れることはありません。

仲裁期日一期日の時間は約二時間ほどを見込んでいます。

仲裁期日は、原則として、前途の天神弁護士センター又は北九州法律相談センターにおいて、平日の午前十時から午後五時までの間に実施されますが、場合によっては、紛争の現地や仲裁人の弁護士事務所などで実施されることもありますし、夜間や土曜日、日曜日に実施されることもあります。

なお、仲裁期日において、通訳・出張などを要した場合は、申立人及び相手方双方に、実費の負担をお願いしています。

7 和解の成立、不成立

このような仲裁期日を数度重ね(三期日を目途としています)、話し合いが成立すれば、担当の仲裁人(弁護士)が和解契約書を作成します。この場合、申立人及び相手方双方は、紛争の規模に応じて決められる成立手数料を紛争解決センターにお支払いいただく必要があります(例・百万円の紛争の場合、申\立人・相手方の成立手数料は各自四万円になります)。

残念ながら話し合いが成立しなかった場合は、手続きは和解不成立で終わることになりますが、すべてが無駄に終わるわけではなく、問題点が整理されたことによって、訴訟提起など次なる行動への大きなステップとなるはずです。この場合には、当然のことながら、成立手数料をお支払いいただく必要はありません。

8 最後に

紛争解決センターは、早くそして適正に紛争を解決したいという市民の皆様のご希望に沿いたいと心から考えています。

スタッフ一同お待ちいたしておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

当番弁護士日誌 〜平成16年3月9日〜

カテゴリー:月報記事

花田 茂治

私は、去年の10月に弁護士登録をした五六期の花田です。今回は、私が当番弁護士研修で去年の12月に出動し、その後、扶助申請をして受任した刑事事件について書かせていただきます。

当番弁護士研修とは、指導担当弁護士の方と共に当番弁護士として出動し、指導担当弁護士の方の接見を隣で傍聴するという研修です。研修の日の昼、私の事務所に出動要請のファックスが入りました。被疑者の罪名は恐喝未遂。

私は、指導担当弁護士の方と連絡をとり接見室で待ち合わせて、その後被疑者と接見しました。事件の内容は、共犯者がいる、共犯者が主導的に行ったものである、被害者に数十万円支払う旨の誓約書を書かせたが結局連絡が取れなくなり誓約書は捨てた、被害者にも共犯者の名を騙り女性に手を出していたという落ち度があるというものでした。私の受けた感じとしては、今回の事件は後輩同士のいざこざに被疑者が巻き込まれたという感じでした。また、被疑者は少年時代に前歴があり、少年院に行った経験もありましたが、その後、真面目に仕事をしており、その最中に事件に巻き込まれたものでした。ただ、被疑者は事件に巻き込まれた自分の甘さを後悔しており、今後は気を付けたいと言っていました。

最大のポイントは、最後の検察官調べの時に、被疑者が検察官から、弁護士を付けて被害者との間に示談を成立させるよう勧められたという点でした。おそらく示談が成立すれば起訴猶予になる可能\性が大でした。しかし、問題が一つありまして、それは検察官が何かしらの処分をする勾留満期まで4日しかないという点でした。4日といっても、当番当日と検察官が処分を決め上司の決裁を受ける最後の1日を除くと実質的には2日しかないという状態でした。

そこで、事件をいっぱい抱え事務所を経営していかなければならない指導担当弁護士の方から、新人で抱えている事件も少ない私にお鉢が回ってきたのです。初めての個人事件となるこの被疑者の弁護活動に私はやる気満々でした。また、更生途中であった被疑者の今後を考えると起訴されるか否かは大きな違いだと思いました。そこで、指導担当弁護士の方の「君、単独でやってみる?」との言葉に、「はい」と二つ返事をしたのでした。

接見を終え事務所に戻り、すぐに被疑者の母親に電話をしました。母親は、子供のためには何でもやる、また、被疑者の雇い主も被疑者のことを気にかけてくれていると話しました。そこで、明日の朝一番に、事務所に来てもらう約束をして電話を切り、それから、指導監督を誓う旨の検察官宛の上申書を母親の分と雇い主との分、起案しました。

そして、翌朝、母親と面会をし、示談の成否で被疑者の処分が決まってしまう可能性があることを伝え、今日か明日、被害者のところに謝罪及び示談交渉に行くかもしれないので示談金を用意するよう伝えました。そして、母親に被疑者の指導監督を責任持ってやる旨約束してもらった上で上申\書に署名押印してもらい、雇い主の上申書を言付けました。

その後、被害者と連絡を取り、その日の晩に、自宅に伺い謝罪したい旨を伝えたところ、被害者の承諾が得られたので、母親と連絡を取り、その日の晩、共に被害者の自宅に行くことにしました。

被害者の自宅に向かう途中に被疑者と接見し、今から示談に行く旨伝え、二度と被害者に近づかないとの誓約書を書かせ、それを持って被害者宅に行きました。

さて、示談の相手方ですが、被害者が未成年でしたので、寛大な処分を求める旨の上申書は被害者の名義で問題はないとしても、示談は被害者の両親も交えて成立させる必要がありました。このため、被害者の自宅では、私と被疑者の母親、そして被害者とその両親の五人で話をしました。時間は夜九時ころでした。まず、被疑者の母親が泣きながら土下座をして謝罪をしました。これに対して、被害者の両親は「いつ立場が変わるかは分かりませんので、どうぞ頭を上げてください」と言ってくれ、示談は順調に進むものかと思われました。しかし、謝罪が一段落し、示談金の数万円を提示したところ、被害者の父親がすごい剣幕で怒り始めたのでした。この数万円という額は、被疑者の母親が集めることのできる精一杯の額でありました。しかし、被害者の父親は、こんな端金では納得できないと額の増額を請求しました。被害者の父親としては当然の反応だったのかもしれません。しかし、その父親の反応を見た被害者が、「俺は金なんて要らん」と自分の父親に対して怒鳴り、怒って家から飛び出してしまいました。結局、金額の点で示談は不成立となり、また、上申\書を書いてもらう予定であった肝心の被害者もいなくなったことから、その日はそのまま帰りました。

残された日は、後2日、検察官の決裁も考えると、実質は明日1日だけという状態でした。そして、家を飛び出した被害者は携帯電話を持っておらず、連絡を取る手段が全くなく、また、一度家を飛び出したらいつ戻るか分からない状態でした。これで、勾留満期までの示談成立は絶望的になりました。

その次の日、私は、示談成立が無理だった場合のために、検察官宛の報告書を作成し、母親の上申書と雇い主の上申\書と共に、それらを持って検察官との面会に行きました。そこで、検察官に被害者とその母親は被疑者に対する宥怒の念を持っているが、今のところ示談は成立していない旨事情を話しました。

このような状態でいたところ、昼過ぎに被害者の母親から私に電話があり、被害者が家に戻ってきたこと、被害者及びその母親としては、今後被疑者が接触することのないよう弁護士に間に入ってもらって示談書を交わす方がよいと思っていること、そして被疑者を許す気持ちであることを伝えられました。

そこで、再び、その日の夜、今度は私一人で被害者の自宅を尋ね、被疑者と被害者及び被害者の母親との間に示談を成立させ、被害者には、寛大な処分を求める旨の上申書を書いてもらいました。なお、父親については、どのように思っているのか、聞くのも怖かったため、この時は父親のことは全く触れずに話を進めました。

このようにして、被害者との示談書、被害者の上申書を何とか揃え、勾留満期の当日朝一番で検察官と面会をして、これらを提出しました。

その後、午後には無事起訴猶予となり、釈放されたとの連絡がありました。

このように今回は、まさに、時間との勝負という一面がある起訴前の弁護活動を経験できました。ただ、新人で時間のある今だけしかこのような事件に十分対応できないのではという感想も正直なところです。

その後、被疑者が母親孝行している等の話を母親から聞き、今回の事件に接することができて良かったと思っています。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

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